説明

燃料タンク

【課題】鋼板の板厚を特別増加させなくとも,フランジ結合部周りに充分に強度を付与し得るようにした燃料タンクを提供する。
【解決手段】それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体7及び下部タンク半体8の各周縁部にフランジ7f,8fを一体に形成し,それらのフランジ7f,8fを重ねて液密に結合してなる燃料タンクにおいて,両フランジ7f,8fをロール状にかしめ結合して環状の厚肉結合部12を形成し,この結合部12の両側に連なる一対の環状の補強リブ7r,8rを上部及び下部タンク半体7,8に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体及び下部タンク半体の各周縁部にフランジを一体に形成し,それらのフランジを重ねて液密に結合してなる燃料タンク,特にエンジンに搭載される汎用エンジン用に好適な燃料タンクの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のかゝる燃料タンクでは,上部タンク半体及び下部タンク半体のフランジ相互の結合に,溶接(特許文献1)又はかしめが用いられている。
【特許文献1】実公昭57−22026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,汎用エンジンは,その厳しい使用環境により横転等の状態となることがあり,その際,燃料タンクも大なる衝撃力に耐えなけれならず,特に,上部及び下部タンク半体のフランジ結合部は,燃料漏れを生じないように高強度が要求される。そこで,従来では,タンク素材の鋼板の板厚を増して,その要求に対応しているが,鋼板の板厚増は燃料タンクの重量増を招くことになる。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,鋼板の板厚を特別増加させなくとも,フランジ結合部周りに充分に強度を付与し得るようにした前記燃料タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体及び下部タンク半体の各周縁部にフランジを一体に形成し,それらのフランジを重ねて液密に結合してなる燃料タンクにおいて,前記両フランジをロール状にかしめ結合して環状の厚肉結合部を形成し,この結合部に連なる環状の補強リブを,上部及び下部タンク半体の少なくとも一方に形成したことを第1の特徴とする。
【0006】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記結合部の両側に連なる一対の環状の補強リブを上部及び下部タンク半体に形成したことを第2の特徴とする。
【0007】
さらに本発明は,それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体及び下部タンク半体の各周縁部にフランジを一体に形成し,それらのフランジを重ねて液密に結合してなる燃料タンクにおいて,前記両フランジと,下部タンク半体の下面を覆うように配置される椀状の底部支持板の周縁部に形成されたフランジとをロール状にかしめ結合して環状の厚肉結合部を形成し,この結合部に連なる環状の補強リブを,上部タンク半体,下部タンク半体及び底部支持板に形成し,底部支持板には,これをエンジンに取り付けるための取り付け部を設けたことを第3の特徴とする。
【0008】
尚,前記取り付け部は,後述本発明の実施例中のボルト19及びナット21に対応する。
【0009】
さらにまた本発明は,第1〜4の何れかに加えて,少なくとも上部タンク半体を,鋼板の表面に塗料を予め焼き付けてなるカラー鋼板製としたことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば,上部及び下部タンク半体の両フランジをロール状にかしめ結合することにより,肉厚が素材より充分に厚く高剛性の厚肉結合部を形成することができ,しかもこの厚肉結合部と,その一側に連なる環状リブとの協働により燃料タンクを効果的に補強することができる。したがって,燃料タンクの素材の板厚を特別増加させなくとも,燃料タンクの横方向衝撃力に対する耐久性を高めることができ,即ち軽量化及び耐久性の両立を図ることができる。
【0011】
また本発明の第2の特徴によれば,燃料タンクを,環状の厚肉結合部と,その両側に連なる一対の環状の補強リブとの協働により,より効果的に補強することができる。
【0012】
さらに本発明の第3の特徴によれば,上部タンク半体,下部タンク半体及び底部支持板の三枚のフランジをロール状にかしめ結合することにより,肉厚が素材より充分に厚く高剛性の厚肉結合部を形成することができ,しかもこの厚肉結合部と,それに連なる三条の環状リブとの協働により燃料タンクを,より効果的に補強することができる。したがって,燃料タンクの素材の板厚を特別増加させなくとも,燃料タンクの横方向衝撃力に対する耐久性を高めることができ,即ち軽量化及び耐久性の両立を図ることができる。
【0013】
また底部支持板をエンジンに取り付けるようにしたので,エンジンの振動を底部支持板で吸収して,上部及び下部タンク半体への振動伝達を抑制することができる。
【0014】
さらにまた本発明の第4の特徴によれば,上部タンク半体をカラー鋼板製としたので,ロール状のかしめによる厚肉結合部の形成によるも,カラー鋼板製上部タンク半体の塗膜の剥離は起こらず,燃料タンクの美観の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0016】
図1は本発明の燃料タンクを搭載した汎用エンジンの正面図,図2は上記燃料タンクの底面図,図3は図2の3−3線拡大断面図,図4は図2の4−4線断面図,図5は図2の5−5線断面図,図6は図3の6部拡大図である。
【0017】
先ず,図1において,符号Eは各種作業機の動力源となる汎用4サイクルエンジンを示す。このエンジンEは,水平方向に配置されるクランク軸1を支持するクランクケース2と,このクランクケース2から斜め上方に突出したシリンダ部3とを備えており,クランクケース2の直上には,それに支持される燃料タンクTが配置され,またシリンダ部3の一側には気化器4が取り付けられ,この気化器4に吸気ダクト5を介して接続されるエアクリーナ6が,燃料タンクTの側方に並ぶようにしてシリンダ部3の直上に配置される。
【0018】
図2,図3及び図6に示すように,上記燃料タンクTは,それぞれ椀状をなして燃料貯留室10を画成すべく対向する上部タンク半体7及び下部タンク半体8と,下部タンク半体8の下面を空隙を存して覆う椀状の底部支持板9の三者で構成される。これらのうち,外部に露出する上部タンク半体7及び底部支持板9は,鋼板に塗膜11を予め焼き付けてなるカラー鋼板製とされ,底部支持板9で覆われる下部タンク半体8は通常の鋼板製とされる。
【0019】
これら上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9の各周縁部にはフランジ7f,8f,9fが一体に形成されており,これら三枚のフランジ7f,8f,9fをロール状にかしめて環状で,肉厚が素材の数倍も厚い厚肉結合部12が形成され,この結合部12の燃料室10に対する液密性をより確実にすべく,かしめ結合前に少なくとも上部二枚のフランジ7f,8fの対向面に接着剤13が塗布される。
【0020】
上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9には,それぞれ厚肉結合部12に連なる環状の補強リブ7r,8r,9rが隆起形成され,各環状リブ7r,8r,9rの上下方向幅は,上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9の各外面から起立する環状段部7s,8s,9sによって規定される。
【0021】
上部タンク半体7の天井部には,それを貫通する給油口筒30がロール状のかしめにより結合され,それにタンクキャップ31が螺合により装着される。また下部タンク半体8の底部には,燃料フィルタ32を備えた出口管33が固着され,この出口管33には,底部支持板9を貫通して前記気化器4に燃料を誘導する燃料導管34が接続される。
【0022】
底部支持板9は,クランクケース2の上部に固着されるブラケット11に次のようにして弾性的に取り付けられる。即ち,図2〜図5に示すように,底部支持板9の底部は,前記エンジンEの前後方向に長い概ね長方形をなしており,この底部支持板9の底部には,その左右の長辺部に近接して隆起してエンジンEの前後方向に延びる一対の長手方向リブ15,15と,これら長手方向リブ15,15の中間部相互を連結するように隆起する横方向リブ16とが形成される。そして各長手方向リブ15,15の裏側において,それと同方向に延び周縁部17aをリブ状に起立させた補強板17,17が複数のプレスジョイント18,18により底部支持板9に接合される。
【0023】
各補強板17の両端部には,底部支持板9を貫通して下方に突出するボルト19と,補強板17及び底部支持板9に穿設されたボルト孔20に臨むナット21とが溶接等により固着される。
【0024】
燃料タンクTは,ボルト19からのオーバハング量がナット21からオーバハング量より大きくなるように形成される。その際,上記一対二組のボルト及びナット19,21;19,21に囲まれる領域に燃料タンクTの重心が来るように配置されるように,下部タンク半体8及び底部支持板9の底部が,これらのボルト19側がナット21側よりも高くなるよう段付きに形成される。
【0025】
而して,前記ブラケット14上に燃料タンクTを搭載したとき,各ボルト19には,ブラケット14を貫通,配置されるカラー22と,ブラケット14の下面に対向する平ワッシャ23とがナット21により固着される。またナット21には,ブラケット14を貫通,配置されるカラー22と,ブラケット14の下面に対向する平ワッシャ23とがボルト25により固着され,同時に各カラー22の周囲で,底部支持板9とブラケット14,ブラケット14と平ワッシャ23の各間に弾性支持部材26,26が介装される。
【0026】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0027】
燃料タンクTの製作に際しては,上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9の三枚のフランジ7f,8f,9fをロール状にかしめ結合することにより,肉厚が素材より数倍も厚い環状の厚肉結合部12を形成するので,この厚肉結合部12の剛性が極めて高いこと,また上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9には,上記厚肉結合部12に連なるリブ7r,8r,9rがそれぞれ形成され,これらによって厚肉結合部12の周辺部が強固に補強されることにより,燃料タンクTを効果的に補強することができる。したがって,この燃料タンクTは,エンジンEの転倒時等に特に横方向の大なる衝撃力を受けても,それに充分耐えることができ,しかも上部タンク半体7,下部タンク半体8及び底部支持板9の板厚を特別増加させずに済む。したがって軽量化及び耐久性の両立を図ることができる。
【0028】
また外部に露出する上部タンク半体7及び底部支持板9は,カラー鋼板製とされるので,ロール状のかしめによる厚肉結合部12の形成によるも,カラー鋼板の塗膜の剥離は起こらず,燃料タンクTの美観の向上を図ることができる。
【0029】
また底部支持板9は弾性支持部材26,26を介して,エンジンEに固着されるブラケット14に弾性支持されるので,エンジンEの運転中の振動を弾性支持部材26,26により吸収することは勿論,底部支持板9によっても吸収することができ,したがって上部及び下部タンク半体7,8への振動伝達を抑制し,燃料タンクTの振動騒音の発生を防ぐと共に,その振動耐久性を高めることができる。
【0030】
しかも底部支持板9は,互いに離間して略平行に延びる一対の長手方向リブ15,15と,この両長手方向リブ15,15の少なくとも中間部間を連結する横方向リブ16とにより,広範囲に亙り剛性が効果的に強化される。そして各長手方向リブ15の両端部に,弾性支持部材26,26を介してブラケット14に連結するボルト19及びナット21固着されるので,エンジンの振動時,その振動荷重が弾性支持部材26からボルト19及びナット21に伝達しても,その荷重は長手方向リブ15,15及び横方向リブ16を介して底部支持板9の広範囲に分散させ,応力集中を防ぐことができる。したがって,底部支持板9の板厚を特別増加させなくとも,底部支持板9の振動耐久性を向上させることができる。
【0031】
その上,底部支持板9の内面に,一対の長手方向リブ15,15に対応して延びる一対の補強板17,17が接合されると共に,これら補強板17,17に上記ボルト19及びナット21が固着されるので,補強板17,17により長手方向リブ15,15の補強効果を高め,底部支持板9の剛性の更なる強化を図り,またボルト19及びナット21は各補強板17の底部支持板9との接合強度を増強することになりから,これも底部支持板9の剛性強化に寄与することになる。
【0032】
さらに上記一対二組のボルト及びナット19,21;19,21は,これらに囲まれる領域に燃料タンクTの重心が位置するように配置されるので,燃料タンクTの重量やその振動荷重を一対二組のボルト及びナット19,21;19,21を介してブラケット14に常に安定良く支持させることができる。
【0033】
さらにまたボルト19からの燃料タンクTのオーバハング量が,ナット21からの燃料タンクTのオーバハング量より大きく設定されると共に,下部タンク半体8及び底部支持板9の底部が,これらのボルト19側がナット21側よりも高くなるよう段付きに形成されるので,燃料タンクTの容量増やデザイン上の理由から,燃料タンクTを,特にボルト19から大きくオーバハングさせる場合でも,燃料タンクTの重心を,一対二組のボルト及びナット19,21;19,21に囲まれる領域に収めることができ,設計の自由度を高めることができる。
【0034】
尚,本発明は前記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の燃料タンクを搭載した汎用エンジンの正面図。
【図2】上記燃料タンクの底面図。
【図3】図2の3−3線拡大断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】図2の5−5線断面図。
【図6】図3の6部拡大図。
【符号の説明】
【0036】
T・・・・・燃料タンク
7・・・・・上部タンク半体
7f・・・・フランジ
7r・・・・補強リブ
8・・・・・下部タンク半体
8f・・・・フランジ
8r・・・・補強リブ
9・・・・・底部支持板
9f・・・・フランジ
9r・・・・補強リブ
19,21・・・取り付け部(ボルト,ナット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体(7)及び下部タンク半体(8)の各周縁部にフランジ(7f,8f)を一体に形成し,それらのフランジ(7f,8f)を重ねて液密に結合してなる燃料タンクにおいて,
前記両フランジ(7f,8f)をロール状にかしめ結合して環状の厚肉結合部(12)を形成し,この結合部(12)に連なる環状の補強リブ(7r,8r)を,上部及び下部タンク半体(7,8)の少なくとも一方に形成したことを特徴とする燃料タンク。
【請求項2】
請求項1記載の燃料タンクにおいて,
前記結合部(12)の両側に連なる一対の環状の補強リブ(7r,8r)を上部及び下部タンク半体(7,8)に形成したことを特徴とする燃料タンク。
【請求項3】
それぞれ椀状の鋼板製上部タンク半体(7)及び下部タンク半体(8)の各周縁部にフランジ(7f,8f)を一体に形成し,それらのフランジ(7f,8f)を重ねて液密に結合してなる燃料タンクにおいて,
前記両フランジ(7f,8f)と,下部タンク半体(8)の下面を覆うように配置される椀状の底部支持板(9)の周縁部に形成されたフランジ(7f,8f,9f)とをロール状にかしめ結合して環状の厚肉結合部(12)を形成し,この結合部(12)に連なる環状の補強リブ(7r,8r,9r)を,上部タンク半体(7),下部タンク半体(8)及び底部支持板(9)に形成し,底部支持板(9)には,これをエンジン(E)に取り付けるための取り付け部(19,21)を設けたことを特徴とする燃料タンク。
【請求項4】
請求項3記載の燃料タンクにおいて,
少なくとも上部タンク半体(7)を,鋼板の表面に塗膜(11)を予め焼き付けてなるカラー鋼板製としたことを特徴とする燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−1614(P2007−1614A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183592(P2005−183592)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】