説明

燃料フィルタ装置

【課題】微細水粒子の凝集分離を可能にしつつ、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くする。
【解決手段】菊花状の凝集エレメント31の孔径を小さくして微細水粒子の凝集分離を可能にする。また、濾過エレメント34を、単位体積当たりの濾過面積が大きいハニカム構造にすることにより、菊花状の濾過エレメントよりも体格を小さくすることができ、その分、凝集エレメント31の体格を大きくして濾過面積を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料中に含まれる水分を凝集させて分離し且つ燃料中のダストを捕捉する燃料フィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料フィルタ装置は、燃料中に含まれる水分を分離する凝集エレメント、および、燃料中のダストを捕捉する濾過エレメントを備え、凝集エレメントよりも燃料流れ下流側に濾過エレメントが配置されている。
【0003】
また、凝集エレメントおよび濾過エレメントは何れも環状(または円筒状、菊花状)に形成され、凝集エレメントの内側に濾過エレメントが配置され、燃料が径方向外側から内側に流れるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−534260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境問題の取り組みとして、ディーゼルエンジン搭載車では、従来の石油由来の燃料から植物由来のバイオ燃料への転換が進みつつある。このバイオ燃料は従来燃料に対し水との相溶性が高いため、水が混入した際均一分散しやすく、また、水粒子が微細化する。そして、凝集エレメントの孔径はダストが通過可能な孔径に設定されているため、バイオ燃料のように水粒子が微細化する場合、その微細水粒子が凝集エレメントを通り抜けやすくなるため微細水粒子の凝集分離が困難になるという問題が発生する。
【0006】
その問題の対策として、凝集エレメントの孔径を小さくすることが有効であるが、その場合、凝集エレメントにてダストが捕捉されるため、凝集エレメントの寿命が濾過エレメントの寿命よりも著しく短くなり、燃料フィルタ装置全体としての寿命が短くなってしまうという新たな問題が発生する。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、微細水粒子の凝集分離を可能にしつつ、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、親水性の繊維を集合させた不織布からなり燃料中の水分を凝集させる凝集エレメント(31)と、凝集エレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されるとともに、撥水機能を有する撥水エレメント(32、33)と、撥水エレメント(32、33)よりも燃料流れ下流側に配置されるとともに、燃料中のダストを捕捉する濾過エレメント(34)と、凝集エレメント(31)および撥水エレメント(32、33)の下方に位置して水を貯留するセジメンタ室(25)とを備え、凝集エレメント(31)は、菊花状に形成され、撥水エレメント(32、33)は、凝集エレメント(31)の内側に配置され、濾過エレメント(34)は、ハニカム構造で円柱状に形成されるとともに、凝集エレメント(31)の内側で且つ撥水エレメント(32、33)の上方に配置され、燃料が、凝集エレメント(31)の外周側から内周側に流れ、続いて撥水エレメント(32、33)を通過した後に、濾過エレメント(34)の下方側から上方側に流れるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
これによると、濾過エレメント(34)は、単位体積当たりの濾過面積が大きいハニカム構造であるため、菊花状の濾過エレメント(34)よりも体格を小さくすることができ、その分、凝集エレメント(31)の体格を大きくして濾過面積を増加させ、凝集エレメント(31)の寿命を長くすることができる。したがって、凝集エレメント(31)の孔径を小さくして微細水粒子の凝集分離を可能にしつつ、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料フィルタ装置において、濾過エレメント(34)の下面側が、撥水エレメント(33)にて覆われていることを特徴とする。
【0011】
これによると、セジメンタ室(25)に貯留された水が、振動や傾きで濾過エレメント(34)に流入するのを防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の燃料フィルタ装置において、撥水エレメント(33)は、濾過エレメント(34)の中心軸に対向する位置に、燃料を通過させるオリフィス(331)を備えることを特徴とする。
【0013】
これによると、撥水エレメント(33)が目詰まりした場合でも、オリフィス(331)を介して燃料を流すことができる。また、濾過エレメント(34)の中心軸に対向する位置にオリフィス(331)を設けているため、燃料フィルタ装置が傾いてもセジメンタ室(25)に貯留された水が濾過エレメント(34)に流入し難い。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタ装置において、凝集エレメント(31)における不織布の孔径は10μm以上であることを特徴とする。
【0015】
これによると、水粒子が微細化するバイオ燃料用の燃料フィルタ装置として用いる場合、微細水粒子の凝集分離を可能にしつつ、凝集エレメント(31)の寿命が短くなることを抑制することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料フィルタ装置において、凝集エレメント(31)にて90%以上捕捉可能なダストの粒子径をAとし、濾過エレメント(34)の濾過面積に対する凝集エレメント(31)の濾過面積の比率をPとし、補正係数をKとしたとき、P=0.0004×A2−0.04×A+Kであることを特徴とする。
【0017】
これによると、凝集エレメント(31)の寿命と濾過エレメント(34)の寿命が略等しくなり、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くすることができる。
【0018】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料フィルタ装置の模式的な断面図である。
【図2】図1の燃料フィルタ装置における要部の断面斜視図である。
【図3】最適な濾過面積比率Pの範囲を示す図である。
【図4】最適な濾過面積比率Pを数値で示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について説明する。本実施形態に係る燃料フィルタ装置は、ディーゼルエンジン等の内燃機関に燃料を供給するための燃料供給装置の部品であって、燃料供給経路に設けられている。内燃機関は、車両あるいは船舶等の動力源として搭載されたもの、あるいは発電用、空調用の動力源として定置されたものである。
【0021】
図1は一実施形態に係る燃料フィルタ装置の模式的な断面図、図2は図1の燃料フィルタ装置における要部の断面斜視図である。
【0022】
図1、図2に示すように、燃料フィルタ装置10は、容器20とフィルタアッセンブリ30とを備えている。
【0023】
容器20は、燃料通路を区画形成するものであって、少なくとも燃料の入口10aと、燃料の出口10bとを有している。容器20は、ベース部分21と、カップ部分22とを有する。カップ部分22は、リテーナ23によってベース部分21に固定されている。ベース部分21とカップ部分22との間には、フィルタアッセンブリ30が収容される円柱状のフィルタ収容空間24と、このフィルタ収容空間24の下方に位置して水を貯留する円柱状のセジメンタ室25とが形成されている。
【0024】
容器20の使用状態における重力方向の下端にはドレインポート26が形成され、このドレインポート26は、手動操作可能な図示しないドレインバルブにて開閉される。そして、そのドレインバルブを開弁させることにより、セジメンタ室25内に貯留された水および異物は、ドレインポート26を介して外部へ排出されるようになっている。
【0025】
フィルタアッセンブリ30は、容器20内に収容されている。フィルタアッセンブリ30は、リテーナ23を解放状態として、カップ部分22をベース部分21から分離することにより交換可能である。
【0026】
フィルタアッセンブリ30は、主として燃料中の水分を凝集させる凝集エレメント31と、撥水機能を有する第1撥水エレメント32と、撥水機能を有する第2撥水エレメント33と、主として燃料中の微小な固形物(ダスト)を捕捉するための濾過エレメント34と、それらを保持する略円筒状のホルダー35および円板状のエンドプレート36とを有する。
【0027】
このホルダー35とエンドプレート36は、着脱自在に連結されている。また、エンドプレート36には、フィルタ収容空間24とセジメンタ室25とを連通させる第1連通孔361および第2連通孔362が形成されている。具体的には、第1連通孔361は、エンドプレート36の中心部に形成され、第2連通孔362は、第1連通孔361よりも径方向外側部位に複数個形成されている。
【0028】
凝集エレメント31は、親水性の繊維を集合させた不織布からなり、円筒状に形成され、より詳細には、襞折りされて菊花状に形成されている(図2参照)。また、凝集エレメント31は、フィルタアッセンブリ30において最外周部に配置され、ホルダー35のフランジ部351とエンドプレート36とに挟持されている。そして、入口10aから流入した燃料が凝集エレメント31の外周側から内周側に流れるようになっている。さらに、バイオ燃料における微細水粒子の凝集が可能なように、凝集エレメント31における不織布の孔径は、10〜40μmにしている。
【0029】
第1撥水エレメント32は、疎水性の材質にて網目状に形成された素材を円筒状にしたものである。また、第1撥水エレメント32は、凝集エレメント31の内側に配置され、より詳細にはホルダー35の円筒部352の下端面とエンドプレート36との間に配置されている。そして、第1撥水エレメント32は凝集エレメント31よりも燃料流れ下流側に配置されており、凝集エレメント31を通過した燃料が第1撥水エレメント32の外周側から内周側に流れるようになっている。
【0030】
第2撥水エレメント33は、疎水性の材質にて網目状に形成された素材を円板状にしたものである。この第2撥水エレメント33は、凝集エレメント31の内側に配置され、より詳細には濾過エレメント34の下面側を覆うようにしてホルダー35の円筒部352の下端開口部に配置されている。そして、第2撥水エレメント33は第1撥水エレメント32よりも燃料流れ下流側に配置されており、第1撥水エレメント32を通過した燃料が第2撥水エレメント33の下方側から上方側に流れるようになっている。また、第2撥水エレメント33には、その中心部、換言すると、濾過エレメント34の中心軸に対向する位置に、燃料を通過させるオリフィス331が形成されている。
【0031】
なお、第1撥水エレメント32および第2撥水エレメント33は、疎水性の繊維を集合させた不織布を用いてもよいし、或いは、非疎水性の材質よりなる素材に疎水性のコーティング材をコーティングした網目状の部材または不織布を用いてもよい。
【0032】
濾過エレメント34は、ハニカム構造で円柱状に形成されている。また、濾過エレメント34は、凝集エレメント31の内側で且つ第2撥水エレメント33の上方に配置され、より詳細にはその下端面が第2撥水エレメント33に対向するようにしてホルダー35の円筒部352内に配置されている。そして、濾過エレメント34は第2撥水エレメント33よりも燃料流れ下流側に配置されており、第2撥水エレメント33を通過した燃料が濾過エレメント34の下方側から上方側に流れるようになっている。濾過エレメント34を通過した燃料は、出口10bから流出し、図示しない内燃機関に供給される。
【0033】
上記構成になる燃料フィルタ装置10は、入口10aから燃料が流入すると、燃料は凝集エレメント31を通過する。このとき、燃料中に分散している水分は凝集エレメント31の不織布に捕捉され、徐々に凝集して水滴となる。また、燃料中のダストの一部が、凝集エレメント31に捕捉される。
【0034】
凝集エレメント31を通過後の水滴および燃料は、矢印Aで示すように、第1撥水エレメント32に向かって流れる。そして、水滴は、第1撥水エレメント32の表面で弾かれ、矢印Bで示すように、重力によって降下し、第2連通孔362を通ってセジメンタ室25内に流入し、セジメンタ室25内に貯留される。
【0035】
一方、燃料は、第1撥水エレメント32を通過して第2撥水エレメント33に向かって流れ、さらに第2撥水エレメント33を通過して濾過エレメント34に流入する。そして、燃料中のダストが濾過エレメント34にて捕捉された後、濾過エレメント34を通過した燃料は出口10bから流出する。
【0036】
なお、セジメンタ室25に貯留された水が、振動や傾きで濾過エレメント34に流入しようとした場合は、第2撥水エレメント33にて濾過エレメント34への水の流入が阻止される。
【0037】
また、第2撥水エレメント33が目詰まりした場合は、オリフィス331を介して燃料が流れる。そして、濾過エレメント34の中心軸に対向する位置にオリフィス331を設けているため、燃料フィルタ装置10が傾いてもセジメンタ室25に貯留された水が濾過エレメント34に流入し難い。
【0038】
ここで、本実施形態では、バイオ燃料における微細水粒子の凝集が可能なように、凝集エレメント31における不織布の孔径を10μm以上、よい詳細には10〜40μm程度に小さくしている。
【0039】
このように凝集エレメント31における不織布の孔径を小さくした場合、燃料中のダストの一部が凝集エレメント31に捕捉されてしまい、凝集エレメント31の寿命が短くなる虞がある。
【0040】
しかし、本実施形態の濾過エレメント34は、単位体積当たりの濾過面積が大きいハニカム構造であるため、菊花状の濾過エレメントよりも体格を小さくすることができ、その分、凝集エレメント31の体格を大きくして濾過面積を増加させ、凝集エレメント31の寿命を長くすることができる。したがって、凝集エレメント31の孔径を小さくして微細水粒子の凝集を可能にしつつ、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くすることができる。
【0041】
また、濾過エレメント34の濾過面積に対する凝集エレメント31の濾過面積の比率Pを、下記の式にて求めた範囲に設定することにより、凝集エレメント31の寿命と濾過エレメント34の寿命が略等しくなり、燃料フィルタ装置全体としての寿命を長くすることができる。すなわち、凝集エレメント31にて90%以上捕捉可能なダストの粒子径をAとし、補正係数をKとしたとき、P=0.0004×A2−0.04×A+K、とする。なお、図3は上記の式にて求めた濾過面積比率Pの範囲を示す図、図4は上記の式にて求めた濾過面積比率Pを数値で示す図表である。
【符号の説明】
【0042】
25 セジメンタ室
31 凝集エレメント
32 第1撥水エレメント
33 第2撥水エレメント
34 濾過エレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の繊維を集合させた不織布からなり燃料中の水分を凝集させる凝集エレメント(31)と、
前記凝集エレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されるとともに、撥水機能を有する撥水エレメント(32、33)と、
前記撥水エレメント(32、33)よりも燃料流れ下流側に配置されるとともに、燃料中のダストを捕捉する濾過エレメント(34)と、
前記凝集エレメント(31)および前記撥水エレメント(32、33)の下方に位置して水を貯留するセジメンタ室(25)とを備え、
前記凝集エレメント(31)は、菊花状に形成され、
前記撥水エレメント(32、33)は、前記凝集エレメント(31)の内側に配置され、
前記濾過エレメント(34)は、ハニカム構造で円柱状に形成されるとともに、前記凝集エレメント(31)の内側で且つ前記撥水エレメント(32、33)の上方に配置され、
燃料が、前記凝集エレメント(31)の外周側から内周側に流れ、続いて前記撥水エレメント(32、33)を通過した後に、前記濾過エレメント(34)の下方側から上方側に流れるように構成されていることを特徴とする燃料フィルタ装置。
【請求項2】
前記濾過エレメント(34)の下面側が、前記撥水エレメント(33)にて覆われていることを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタ装置。
【請求項3】
前記撥水エレメント(33)は、前記濾過エレメント(34)の中心軸に対向する位置に、燃料を通過させるオリフィス(331)を備えることを特徴とする請求項2に記載の燃料フィルタ装置。
【請求項4】
前記凝集エレメント(31)における不織布の孔径は10μm以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタ装置。
【請求項5】
前記凝集エレメント(31)にて90%以上捕捉可能なダストの粒子径をAとし、前記濾過エレメント(34)の濾過面積に対する前記凝集エレメント(31)の濾過面積の比率をPとし、補正係数をKとしたとき、
P=0.0004×A2−0.04×A+K
であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96368(P2013−96368A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242404(P2011−242404)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】