説明

燃料フィルタ

【課題】燃料フィルタの圧力損失の増加を防止しつつ、フィルタエレメントの長寿命化を図る。
【解決手段】第1フィルタエレメント31よりも燃料流れ下流側に第2フィルタエレメント32を配置し、第1フィルタエレメント31をバイパスして第2フィルタエレメント32に燃料を導くバイパス通路を設ける。また、最初はバイパス通路を閉じており、第1フィルタエレメント31の前後差圧が設定値以上になるとバイパス通路を開き、バイパス通路を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路を開いた状態を維持するバイパス弁7を設ける。第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなって、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失が大きくなると、燃料は主にバイパス通路を介して第2フィルタエレメント32に流入し、燃料中の異物は第2フィルタエレメント32にて捕捉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料中の異物を除去する燃料フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、数μm程度の微小な隙間を有する摺動部を持つインジェクタ等の精密部品を有する。この摺動部に微小な異物が侵入すると、摺動不良を起こし動作不良を引き起こす。そのため、燃料供給系には燃料中の異物を除去するための燃料フィルタが設置されている。
【0003】
そして、フィルタエレメントの異物捕捉量が多くなると、燃料がフィルタエレメントを通過する際の圧力損失が大きくなり、その圧力損失(すなわち、フィルタエレメントの前後差圧)が設定値になるとフィルタエレメントを交換するようにしている。
【0004】
ここで、3つのフィルタエレメントを直列に配置し、フィルタエレメントと並列にバイパス通路を設け、バイパス通路にリリーフバルブを配置し、燃料流れ上流側のフィルタエレメントの異物捕捉量が多くなってその前後差圧が大きくなると、その前後差圧によりリリーフバルブが開弁してバイパス通路を開き、それにより、燃料流れ下流側に位置する異物捕捉量が少ないフィルタエレメントへ燃料が流れるように流路を切り替えて長寿命化を図るようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1の図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−285712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の燃料フィルタのようにリリーフバルブにより流路を切り替える場合は、一定の差圧が発生した状態を維持しなければ流路の切り替えが生じないため、流路切り替えのための圧力損失が発生する。したがって、リリーフバルブが開弁して燃料流れ下流側のフィルタエレメントへ燃料の流れを切り替えた状態では、流路切り替えのための圧力損失と、燃料流れ下流側のフィルタエレメントを燃料が通過する際の圧力損失との和が、燃料フィルタ全体としての圧力損失となり、燃料フィルタ全体としての圧力損失が大きくなってしまう。そのため、フィードポンプの負荷が増したり、或いは所定の燃料流量を確保できなくなるという問題があった。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、燃料フィルタの圧力損失の増加を防止しつつ、フィルタエレメントの長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、燃料中の異物を捕捉する第1フィルタエレメント(31)と、第1フィルタエレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されて、燃料中の異物を捕捉する第2フィルタエレメント(32)と、第1フィルタエレメント(31)に対して並列に配置され、第1フィルタエレメント(31)をバイパスして第2フィルタエレメント(32)に燃料を導くバイパス通路(8)と、最初はバイパス通路(8)を閉じており、第1フィルタエレメント(31)の前後差圧が設定値以上になるとバイパス通路(8)を開き、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持するバイパス弁(7)とを備えることを特徴とする。
【0009】
これによると、第1フィルタエレメント(31)の異物捕捉量が多くなって、燃料が第1フィルタエレメント(31)を通過する際の圧力損失が大きくなると、燃料は主にバイパス通路(8)を介して第2フィルタエレメント(32)に流入し、燃料中の異物は第2フィルタエレメント(32)にて捕捉される。したがって、長寿命化を図ることができる。
【0010】
また、バイパス弁(7)は、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持するものであるため、バイパス通路(8)を一端開いた後は、流路切り替えのための圧力損失が発生しない。したがって、流路切り替え後の燃料フィルタの圧力損失の増加を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、燃料中の異物を捕捉する第1〜第iフィルタエレメント(31〜33)が、燃料流れに沿って直列に配置された燃料フィルタであって、第1〜第iフィルタエレメント(31〜33)のうち燃料流れ最下流の第iフィルタエレメント(33)を除く第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)に対して並列に配置され、第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)をバイパスして燃料流れ下流側のフィルタエレメント(32、33)に燃料を導くバイパス通路(8)と、最初はバイパス通路(8)を閉じており、第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)の前後差圧が設定値以上になるとバイパス通路(8)を開くとともに、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持するバイパス弁(7a、7b)とを備えることを特徴とする。
【0012】
これによると、燃料流れ上流側のフィルタエレメントの異物捕捉量が多くなって、燃料がそのフィルタエレメントを通過する際の圧力損失が大きくなると、燃料は主にバイパス通路(8)を介して1つ下流側のフィルタエレメントに流入し、燃料中の異物は1つ下流側のフィルタエレメントにて捕捉される。したがって、長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、バイパス弁(7a、7b)は、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持するものであるため、バイパス通路(8)を一端開いた後は、流路切り替えのための圧力損失が発生しない。したがって、流路切り替え後の燃料フィルタの圧力損失の増加を防止することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の燃料フィルタにおいて、バイパス弁(7、7a、7b)は、バイパス通路(8)の一部をなす貫通穴(714)が形成されたシート部(713)と、前後差圧によってシート部(713)に押し付けられる弁体(73)とを備え、前後差圧が設定値以上になると弁体(73)が貫通穴(714)を押し拡げてシート部(713)よりも燃料流れ下流側に移動する構成であることを特徴とする。
【0015】
これによると、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1または2に記載の燃料フィルタにおいて、バイパス弁(7、7a、7b)は、中央部が椀形状の薄板円盤で且つ中央部が反転可能な弁体(73)を備え、前後差圧が設定値以上になると中央部が初期状態から反転する構成であることを特徴とする。
【0017】
これによると、バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路(8)を開いた状態を維持することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、フィルタエレメント(31〜33)は、円筒状に成形されて同心状に配置されていることを特徴とする。
【0019】
これによると、フィルタエレメント(31〜33)の設置スペースに対するフィルタエレメントのろ過面積の割合を、大きくすることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明のように、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、フィルタエレメント(31〜33)として、断面が菊花状に成形されたものを用いることができる。
【0021】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料フィルタの断面図である。
【図2】図1のバイパス弁を拡大して示す図である。
【図3】第1変形例を示す要部の断面図である。
【図4】第2変形例を示す要部の断面図である。
【図5】図4に示すフィルタエレメント、エンドプレート、およびバイパス弁のB矢視図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る燃料フィルタの断面図である。
【図10】図9のバイパス弁を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は第1実施形態に係る燃料フィルタの断面図、図2(a)は図1のバイパス弁を拡大して示す正面断面図、図2(b)は図2(a)の右側面図、図2(c)は図2(a)の平面図、図2(d)は図2(a)の底面図である。
【0025】
本実施形態の燃料フィルタは、図示しない内燃機関(具体的には、圧縮着火式内燃機関または火花点火式内燃機関)用の燃料供給システムに用いられる。
【0026】
図1、図2に示すように、燃料フィルタは、ハウジング1、カバー2、異物捕捉部3等から構成されている。
【0027】
ハウジング1は、金属または樹脂よりなり、上側に開口部を有する有底円筒状に形成されている。カバー2は、金属または樹脂よりなり、ハウジング1の開口部に嵌合固定されてハウジング1の開口部を塞いでいる。そして、カバー2とハウジング1とにより、異物捕捉部3を収容する収容空間4が形成されている。また、カバー2は、収容空間4に連通する燃料入口通路21、および後述する中心部通路69に連通する燃料出口通路22を備えている。
【0028】
異物捕捉部3は、燃料中の異物を捕捉する第1、第2フィルタエレメント31、32を備えている。2つのフィルタエレメント31、32は、全体形状が略円筒状となるように形成されており、また、ろ紙が交互にひだ折りされて、その軸線に直角な断面形状が菊花状になっている。
【0029】
2つのフィルタエレメント31、32は、同心状に配置されている。より詳細には、第1フィルタエレメント31の内側に第2フィルタエレメント32が配置されており、換言すると、第1フィルタエレメント31よりも燃料流れ下流側に、第2フィルタエレメント32が配置されている。
【0030】
2つのフィルタエレメント31、32の軸方向両端には、金属または樹脂よりなる円盤状の第1、第2エンドプレート51、52が、2つのフィルタエレメント31、32の各端面を覆うようにして配置されている。2つのフィルタエレメント31、32と2つのエンドプレート51、52は、接着剤にて接合されている。
【0031】
そして、2つのフィルタエレメント31、32間に中間通路61が形成され、第2フィルタエレメント32の内周側に中心部通路69が形成されている。この中心部通路69は、上側に位置する第1エンドプレート51に形成された出口側連絡通路511を介して燃料出口通路22に連通している。
【0032】
第1エンドプレート51には、バイパス弁7が装着されており、このバイパス弁7は、弁ハウジング71、弁カバー72、および球状の弁体73から構成され、内部にバイパス通路8を備えている。バイパス弁7は、第1エンドプレート51に圧入固定されている。
【0033】
弁ハウジング71は、樹脂よりなり、上側に開口部を有する有底円筒状に形成されている。弁ハウジング71は、弁体73が収容される弁収容空間711、弁収容空間711と弁ハウジング71の外部とを連通させる3つの連通穴712、弁体73が当接するシート部713、およびシート部713に形成された貫通穴714を備えている。
【0034】
弁カバー72は、金属または樹脂にて鍔付き円筒状に形成され、弁ハウジング71の開口部に螺合されている。弁カバー72は、弁収容空間711に連通するバイパス連絡通路721を備えている。
【0035】
弁収容空間711、連通穴712、貫通穴714、およびバイパス連絡通路721が、バイパス通路8を構成している。そして、バイパス通路8により、収容空間4と中間通路61との間が連通可能になっている。また、バイパス通路8は、燃料フィルタ内での燃料流れで見たときに第1フィルタエレメント31に対して並列な関係になっている。したがって、弁体73がシート部713に当接していない状態では、燃料入口通路21を介して収容空間4に流入した燃料は、バイパス通路8および中間通路61を通って(すなわち、第1フィルタエレメント31をバイパスして)、第2フィルタエレメント32に流入可能である。
【0036】
シート部713は、燃料流れに沿って縮径するテーパ状になっている。また、弁体73は、最初は弁収容空間711においてシート部713よりも燃料流れ上流側に配置されている。そして、弁体73がシート部713に押し付けられてバイパス通路8が閉じられるようになっている。また、弁体73をシート部713に押し付ける力が大きくなると、シート部713が変形して貫通穴714が押し拡げられ、弁体73が貫通穴714内を通ってシート部713よりも燃料流れ下流側に移動するようになっている。
【0037】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。弁体73には、収容空間4側の圧力が閉弁向きに作用し、中間通路61側の圧力が開弁向きに作用する。換言すると、弁体73には、第1フィルタエレメント31の燃料流れ上流側の圧力と第1フィルタエレメント31の燃料流れ下流側の圧力が作用する。
【0038】
そして、2つのフィルタエレメント31、32がともに新品のときには、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失が小さいため、すなわち、弁体73に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が小さいため、弁体73をシート部713に押し付ける力も小さい。したがって、弁体73が貫通穴714内を通過することはなく、弁体73はシート部713に当接してバイパス通路8を閉じている。
【0039】
これにより、燃料は全て第1フィルタエレメント31に流入し、燃料中の異物は主に第1フィルタエレメント31にて捕捉される。そして、第1フィルタエレメント31を通過して中間通路61に流入した燃料は、第2フィルタエレメント32を通り、中心部通路69を介して燃料出口通路22に至る。
【0040】
次に、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなると、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失も大きくなり、弁体73をシート部713に押し付ける力も大きくなる。そして、弁体73に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が設定値以上になると、弁体73をシート部713に押し付ける力により貫通穴714が押し拡げられ、弁体73がシート部713よりも燃料流れ下流側に移動し、バイパス通路8が開かれる。
【0041】
また、このようにバイパス通路8が開かれた後は、第1フィルタエレメント31の前後差圧が小さくなるが、弁体73はシート部713よりも燃料流れ下流側に一端移動すると弁収容空間711においてシート部713よりも燃料流れ下流側の空間に留まり、バイパス通路8が開かれた状態が維持される。
【0042】
このように、バイパス通路8が開かれた状態では、第1フィルタエレメント31を通る燃料の割合が小さくなり、バイパス通路8を通る燃料の割合が大きくなる。したがって、燃料入口通路21を介して収容空間4に流入した燃料は、大部分がバイパス通路8および中間通路61を介して第2フィルタエレメント32に流入し、燃料中の異物は主に第2フィルタエレメント32にて捕捉される。
【0043】
以上述べたように、使用初期には燃料中の異物は主に第1フィルタエレメント31にて捕捉され、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなると燃料中の異物は主に第2フィルタエレメント32にて捕捉されるため、長寿命化を図ることができる。
【0044】
また、円筒状の2つのフィルタエレメント31、32を同心状に配置しているため、フィルタエレメントの設置スペースに対するフィルタエレメントのろ過面積の割合を、大きくすることができる。
【0045】
さらに、第2フィルタエレメント32をバイパスして燃料を流す通路は設けていないため、燃料は第2フィルタエレメント32を必ず通ることになり、ろ過効率を確保することができる。
【0046】
さらにまた、バイパス弁7は、バイパス通路8を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路8を開いた状態を維持するものであるため、バイパス通路8を一端開いた後は、流路切り替えのための圧力損失が発生しない。したがって、流路切り替え後の燃料フィルタの圧力損失の増加を防止することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、バイパス弁7を第1エンドプレート51に装着したが、第2エンドプレート52にバイパス弁7を装着してもよい。具体的には、図3に示す第1変形例のように、第2エンドプレート52の軸方向に延びるようにバイパス弁7を配置してもよいし、或いは、図4、図5に示す第2変形例のように、第2エンドプレート52の軸線に対して直交する方向に延びるようにバイパス弁7を配置してもよい。
【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図6は第2実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0049】
図6に示すように、第2エンドプレート52の外周部がハウジング1に当接しており、これにより、収容空間4は上側の第1収容空間41と下側の第2収容空間42とに分割されている。また、第2エンドプレート52の外周部にはOリング521が配置されており、これにより、第2エンドプレート52の外周部とハウジング1との間がシールされている。
【0050】
第2エンドプレート52には、中間通路61内に溜まった凝集水を第2収容空間42に排出させるために、中間通路61と第2収容空間42とを連通させる排出口522が形成されている。第1フィルタエレメント31は、燃料中の水分を凝集させる機能を有し、第2フィルタエレメント32は撥水機能を有する。
【0051】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。なお、図6中の丸や楕円は水分を示し、図6中の破線矢印は水の流れを示している。
【0052】
まず、2つのフィルタエレメント31、32がともに新品のときには、弁体73(図2参照)はシート部713(図2参照)に当接してバイパス通路8(図2参照)を閉じているため、第1収容空間41に流入した水分を含んだ燃料は、凝集機能を有する第1フィルタエレメント31に全て流入し、第1フィルタエレメント31を通過する際に凝集される。第2フィルタエレメント32は撥水機能を有するため、水分の通過が阻害される。したがって、第1フィルタエレメント31を通過する際に凝集されて中間通路61に流入した凝集水は、第2フィルタエレメント32に流入せずに、その自重により鉛直方向下方に落下し、排出口522を介して第2収容空間42に流入し、第2収容空間42内に貯留される。
【0053】
また、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなり、弁体73がシート部713よりも燃料流れ下流側に移動してバイパス通路8が開かれると、第1収容空間41に流入した水分を含んだ燃料の大部分は、バイパス通路8を通って中間通路61に流入する。そして、バイパス通路8を通って中間通路61に流入した燃料中の水分が第2フィルタエレメント32の外周側で凝集し、その凝集水は自重により鉛直方向下方に落下し、排出口522を介して第2収容空間42に流入し、第2収容空間42内に貯留される。
【0054】
水分が分離除去された燃料は、第2フィルタエレメント32を通り、中心部通路69を介して燃料出口通路22(図1参照)に至る。
【0055】
本実施形態によると、燃料中の異物を捕捉するとともに燃料中の水分も分離除去するため、インジェクタ等の精密部品の動作不良等をより確実に防止することができる。
【0056】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図7は第3実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。以下、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
図7に示すように、第2エンドプレート52には、第1収容空間41内に溜まった凝集水を第2収容空間42に排出させるために、第1収容空間41と第2収容空間42とを連通させる第2排出口523が形成されている。また、第1フィルタエレメント31は、撥水機能を有する。
【0058】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。第1フィルタエレメント31は撥水機能を有するため、水分の通過が阻害される。したがって、第1収容空間41に流入した水分を含んだ燃料のうち、第1フィルタエレメント31に向かって流れる燃料は、水分が第1フィルタエレメント31の外周側で凝集し、その凝集水は第1フィルタエレメント31に流入せずに自重により鉛直方向下方に落下し、第2排出口523を介して第2収容空間42に流入し、第2収容空間42内に貯留される。
【0059】
また、第1収容空間41に流入した水分を含んだ燃料のうち、バイパス通路8(図2参照)を通って中間通路61に流入する燃料は、水分が第2フィルタエレメント32の外周側で凝集し、その凝集水は自重により鉛直方向下方に落下し、排出口522を介して第2収容空間42に流入し、第2収容空間42内に貯留される。
【0060】
ここで、第2排出口523の通路面積は、バイパス通路8の通路面積よりも小さく設定されている。これにより、第2排出口523から第2収容空間42を通って中間通路61に流入する燃料の流量が、バイパス通路8を通って中間通路61に流入する燃料の流量よりも少なくなるため、第2フィルタエレメント32の外周側で凝集した凝集水が下方に落下しやすくなる。
【0061】
本実施形態によると、燃料中の異物を捕捉するとともに燃料中の水分も分離除去するため、インジェクタ等の精密部品の動作不良等をより確実に防止することができる。
【0062】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。図8は第4実施形態に係る燃料フィルタの要部の断面図である。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0063】
図8に示すように、異物捕捉部3は、燃料中の異物を捕捉する第1〜第3フィルタエレメント31、32、33を備えている。3つのフィルタエレメント31〜33は、全体形状が略円筒状となるように形成されており、また、ろ紙が交互にひだ折りされて、その軸線に直角な断面形状が菊花状になっている。
【0064】
3つのフィルタエレメント31〜33は、同心状に配置されている。より詳細には、第1フィルタエレメント31の内側に第2フィルタエレメント32が配置され、第2フィルタエレメント32の内側に第3フィルタエレメント33が配置されており、換言すると、燃料流れの上流側から下流側に向かって、第1フィルタエレメント31、第2フィルタエレメント32、第3フィルタエレメント33の順に直列に配置されている。
【0065】
第1フィルタエレメント31と第2フィルタエレメント32間に第1中間通路61が形成され、第2フィルタエレメント32と第3フィルタエレメント33間に第2中間通路62が形成され、第3フィルタエレメント33の内周側に中心部通路69が形成されている。
【0066】
第2エンドプレート52には、第1バイパス弁7aが装着され、第1エンドプレート51には、第2バイパス弁7bが装着されている。なお、第1バイパス弁7aおよび第2バイパス弁7bの構成は、第1実施形態のバイパス弁7と同一である。
【0067】
そして、第1バイパス弁7aのバイパス通路8(図2参照)は、燃料流れで見たときに第1フィルタエレメント31に対して並列な関係になっていて、収容空間4と第1中間通路61とを連通可能になっている。
【0068】
また、第2バイパス弁7bのバイパス通路8は、燃料流れで見たときに第2フィルタエレメント32に対して並列な関係になっていて、第1中間通路61と第2中間通路62とを連通可能になっている。
【0069】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。3つのフィルタエレメント31〜33がともに新品のときには、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失が小さいため、すなわち、第1バイパス弁7aの弁体73(図2参照)に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が小さいため、弁体73をシート部713(図2参照)に押し付ける力も小さい。したがって、弁体73が貫通穴714(図2参照)内を通過することはなく、弁体73はシート部713に当接してバイパス通路8を閉じている。
【0070】
これにより、燃料は全て第1フィルタエレメント31に流入し、燃料中の異物は主に第1フィルタエレメント31にて捕捉される。そして、第1フィルタエレメント31を通過した燃料は、第2フィルタエレメント32および第3フィルタエレメント33を通り、中心部通路69を介して燃料出口通路22に至る。
【0071】
次に、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなると、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失も大きくなり、第1バイパス弁7aの弁体73をシート部713に押し付ける力も大きくなる。そして、弁体73に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が設定値以上になると、弁体73をシート部713に押し付ける力により貫通穴714が押し拡げられ、弁体73がシート部713よりも燃料流れ下流側に移動し、バイパス通路8が開かれる。また、このようにバイパス通路8が開かれた後は、第1フィルタエレメント31の前後差圧が小さくなっても、バイパス通路8が開かれた状態が維持される。
【0072】
そして、第1バイパス弁7aのバイパス通路8が開かれた状態では、第1フィルタエレメント31を通る燃料の割合が小さくなり、バイパス通路8を通る燃料の割合が大きくなる。したがって、収容空間4に流入した燃料は、大部分がバイパス通路8および中間通路61を介して第2フィルタエレメント32に流入し、燃料中の異物は主に第2フィルタエレメント32にて捕捉される。
【0073】
さらに、第2フィルタエレメント32の異物捕捉量が多くなると、燃料が第2フィルタエレメント32を通過する際の圧力損失も大きくなり、第2バイパス弁7bの弁体73をシート部713に押し付ける力も大きくなる。そして、弁体73に作用する第2フィルタエレメント32の前後差圧が設定値以上になると、弁体73をシート部713に押し付ける力により貫通穴714が押し拡げられ、弁体73がシート部713よりも燃料流れ下流側に移動し、バイパス通路8が開かれる。また、このようにバイパス通路8が開かれた後は、第2フィルタエレメント32の前後差圧が小さくなっても、バイパス通路8が開かれた状態が維持される。
【0074】
そして、第2バイパス弁7bのバイパス通路8が開かれた状態では、第2フィルタエレメント32を通る燃料の割合が小さくなり、バイパス通路8を通る燃料の割合が大きくなる。したがって、第2中間通路62に流入した燃料は全て第3フィルタエレメント33に流入し、燃料中の異物は第3フィルタエレメント33にて捕捉される。
【0075】
以上述べたように、使用初期には燃料中の異物は主に最上流側の第1フィルタエレメント31にて捕捉され、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなると燃料中の異物は主に1つ下流側の第2フィルタエレメント32にて捕捉され、さらに、第2フィルタエレメント32の異物捕捉量が多くなると燃料中の異物は主に1つ下流側の第3フィルタエレメント33にて捕捉されるため、長寿命化を図ることができる。
【0076】
また、円筒状の3つのフィルタエレメント31〜33を同心状に配置しているため、フィルタエレメントの設置スペースに対するフィルタエレメントのろ過面積の割合を、大きくすることができる。
【0077】
さらに、燃料流れ最下流に位置する第3フィルタエレメント33をバイパスして燃料を流す通路は設けていないため、燃料は第3フィルタエレメント33を必ず通ることになり、ろ過効率を確保することができる。
【0078】
さらにまた、第1バイパス弁7aおよび第2バイパス弁7bは、バイパス通路8を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になってもバイパス通路8を開いた状態を維持するものであるため、バイパス通路8を一端開いた後は、流路切り替えのための圧力損失が発生しない。したがって、流路切り替え後の燃料フィルタの圧力損失の増加を防止することができる。
【0079】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。図9は第5実施形態に係る燃料フィルタの断面図、図10(a)は図9のバイパス弁を拡大して示す正面断面図、図10(b)は図10(a)の右側面図、図10(c)は図10(a)の平面図、図10(d)は図10(a)の底面図である。
【0080】
本実施形態は、第1実施形態の燃料フィルタとはバイパス弁の構成が異なり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0081】
バイパス弁7は、弁ハウジング71、弁カバー72、および弁体73から構成され、内部にバイパス通路8を備えている。バイパス弁7は、第1エンドプレート51に圧入固定される。
【0082】
弁体73は、金属または樹脂よりなり、中央部が椀形状の薄板円盤で、且つ中央部に作用する差圧が設定値以上になると中央部が反転するようになっている。
【0083】
弁ハウジング71は、金属または樹脂にて円筒状に形成されている。弁ハウジング71は、その径方向中心に位置して軸線方向に延び、一端側が収容空間4に連通する上流側連絡通路715、弁ハウジング71の外周面に開口して中間通路61に連通する2つの下流側連絡通路716、弁カバー72が挿入される筒部717、および弁体73が当接するシート部718を備えている。
【0084】
そして、弁体73は、最初は弁体73の中央部がシート部718に当接する状態で組み付けられ、その状態では、上流側連絡通路715と下流側連絡通路716との間が遮断されている。また、弁体73の中央部が反転して、弁体73の中央部がシート部718から離れた状態では、上流側連絡通路715と下流側連絡通路716との間が連通する。なお、上流側連絡通路715および下流側連絡通路716は、バイパス通路8を構成している。
【0085】
弁カバー72は、金属または樹脂にて円柱状に形成され、弁ハウジング71の筒部717に螺合されている。そして、弁カバー72と弁ハウジング71とにより弁体73の外周部が挟持されている。また、弁カバー72には、凹部725が形成されており、弁体73が反転した際には弁体73が凹部725内に侵入する。弁体73には、凹部725と下流側連絡通路716とを連通させる穴(図示せず)が形成されている。
【0086】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。前述したように、弁体73は、最初は弁体73の中央部がシート部718に当接する状態で組み付けられており、その状態では、弁体73における上流側連絡通路715に対向する面に収容空間4側の圧力が作用し、弁体73における下流側連絡通路716および凹部725に対向する面に中間通路61側の圧力が作用する。換言すると、弁体73には、第1フィルタエレメント31の燃料流れ上流側の圧力と第1フィルタエレメント31の燃料流れ下流側の圧力が作用する。
【0087】
そして、2つのフィルタエレメント31、32がともに新品のときには、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失が小さいため、すなわち、弁体73に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が小さいため、弁体73を反転させようとする力も小さい。したがって、弁体73がシート部718に当接してバイパス通路8を閉じた状態が維持される。
【0088】
これにより、燃料は全て第1フィルタエレメント31に流入し、燃料中の異物は主に第1フィルタエレメント31にて捕捉される。そして、第1フィルタエレメント31を通過して中間通路61に流入した燃料は、第2フィルタエレメント32を通り、中心部通路69を介して燃料出口通路22に至る。
【0089】
次に、第1フィルタエレメント31の異物捕捉量が多くなると、燃料が第1フィルタエレメント31を通過する際の圧力損失も大きくなり、弁体73を反転させようとする力も大きくなる。そして、弁体73に作用する第1フィルタエレメント31の前後差圧が設定値以上になると、弁体73の中央部が反転して弁体73がシート部718から離れ、バイパス通路8が開かれる。
【0090】
また、このように弁体73の中央部が反転して弁体73がシート部718から離れてしまうと、弁体73の両面に作用する圧力は略等しくなり、弁体73の中央部を再度反転させる力は発生しないため、弁体73の中央部が再度反転して最初の状態(すなわち、弁体73の中央部がシート部718に当接した状態)に戻ることはなく、バイパス通路8が開かれた状態が維持される。
【0091】
このように、バイパス通路8が開かれた状態では、第1フィルタエレメント31を通る燃料の割合が小さくなり、バイパス通路8を通る燃料の割合が大きくなる。したがって、燃料入口通路21を介して収容空間4に流入した燃料は、大部分がバイパス通路8および中間通路61を介して第2フィルタエレメント32に流入し、燃料中の異物は主に第2フィルタエレメント32にて捕捉される。
【0092】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によると、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0093】
なお、第2〜第4実施形態のバイパス弁7を、本実施形態のバイパス弁7に置き換えて用いることもできる。
【0094】
また、上記各実施形態は、実施可能な範囲で任意に組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0095】
7 バイパス弁
8 バイパス通路
31 第1フィルタエレメント
32 第2フィルタエレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料中の異物を捕捉する第1フィルタエレメント(31)と、
前記第1フィルタエレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されて、燃料中の異物を捕捉する第2フィルタエレメント(32)と、
前記第1フィルタエレメント(31)に対して並列に配置され、前記第1フィルタエレメント(31)をバイパスして前記第2フィルタエレメント(32)に燃料を導くバイパス通路(8)と、
最初は前記バイパス通路(8)を閉じており、前記第1フィルタエレメント(31)の前後差圧が設定値以上になると前記バイパス通路(8)を開き、前記バイパス通路(8)を一端開いた後は、前記前後差圧が設定値未満になっても前記バイパス通路(8)を開いた状態を維持するバイパス弁(7)とを備えることを特徴とする燃料フィルタ。
【請求項2】
燃料中の異物を捕捉する第1〜第iフィルタエレメント(31〜33)が、燃料流れに沿って直列に配置された燃料フィルタであって、
前記第1〜第iフィルタエレメント(31〜33)のうち燃料流れ最下流の第iフィルタエレメント(33)を除く第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)に対して並列に配置され、前記第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)をバイパスして燃料流れ下流側のフィルタエレメント(32、33)に燃料を導くバイパス通路(8)と、
最初は前記バイパス通路(8)を閉じており、前記第1〜第i−1フィルタエレメント(31、32)の前後差圧が設定値以上になると前記バイパス通路(8)を開くとともに、前記バイパス通路(8)を一端開いた後は、前後差圧が設定値未満になっても前記バイパス通路(8)を開いた状態を維持するバイパス弁(7a、7b)とを備えることを特徴とする燃料フィルタ。
【請求項3】
前記バイパス弁(7、7a、7b)は、前記バイパス通路(8)の一部をなす貫通穴(714)が形成されたシート部(713)と、前記前後差圧によって前記シート部(713)に押し付けられる弁体(73)とを備え、前記前後差圧が設定値以上になると前記弁体(73)が前記貫通穴(714)を押し拡げて前記シート部(713)よりも燃料流れ下流側に移動する構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料フィルタ。
【請求項4】
前記バイパス弁(7、7a、7b)は、中央部が椀形状の薄板円盤で且つ前記中央部が反転可能な弁体(73)を備え、前記前後差圧が設定値以上になると前記中央部が初期状態から反転する構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料フィルタ。
【請求項5】
前記フィルタエレメント(31〜33)は、円筒状に成形されて同心状に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。
【請求項6】
前記フィルタエレメント(31〜33)は、断面が菊花状に成形されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−61382(P2012−61382A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205286(P2010−205286)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】