説明

燃料噴射弁

【課題】可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】インジェクタ1は、電磁コイル201を固定する固定子202と、可動子203と、可動子203を制御室13側に付勢するスプリング204と、固定子202側に設けられた凸部205と、可動子203に対向する側の固定子202に凹状に形成された収納部206と、収納部206に出没可能に設けられ、凸部205よりも大きく可動子203側に突出可能な出没部207と、出没部207を可動子203側に付勢するスプリング208と、出没部207に対向する部分の可動子203に形成された連通孔203cと、を備え、収納部206の内部の電磁コイル201側には、収納部206の他の部分よりも出没部207との間の間隙がより小さい絞り部206bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソレノイドの磁気的吸引力を利用してニードル弁を駆動する燃料噴射弁が用いられている。このようなソレノイド式の燃料噴射弁は、その内部に磁性体からなる固定子および可動子を有し、電磁コイルへの通電により可動子を固定子側に吸引し移動させることでニードル弁を開弁(または閉弁)させる構成が広く適用されている。
【0003】
これら燃料噴射弁は、内燃機関の燃費向上や排ガスエミッションの改善を図るために燃料噴射タイミングや燃料噴射時間の高精度化が求められている。そのため、燃料噴射弁の応答性、すなわちニードル弁の開弁および閉弁応答性の向上が求められており、可動子をより早く固定子側に移動させることが要求されている。しかしながら、可動子の移動速度が大きくなると固定子に衝突する際の衝撃力がより大きくなるために、可動子が固定子に衝突する際に発生する衝突音がより大きくなってしまう。また、ソレノイド式の燃料噴射弁では、衝突時の衝撃によって可動子が固定子から離反するバウンスが生じて燃料噴射量が変動することが知られているが、可動子の移動速度が大きくなるとバウンスもより大きくなるために燃料噴射量が大きく変動してしまう。
【0004】
このような可動子の衝突による衝撃を低減する技術としては、固定子と可動子が対面する端面の少なくともどちらか一方に内側円環状突起と外側円環状突起を有するソレノイド式の燃料噴射弁が特許文献1に開示されている。この技術は、固定子または可動子の端面、内側円環状突起、外側円環状突起で区画される領域の油圧ダンパ作用、および流体抵抗力(スクイーズ効果)によって可動子の衝突速度を抑えて開弁バウンスを抑制するものである。
【0005】
また、その他本発明と関連性があると考えられる技術が特許文献2および3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−106236号公報
【特許文献2】特開2009−150346号公報
【特許文献3】特開2002−250462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気的吸引力によって可動子と固定子の対向面が近接すると、二平面間に挟まれた流体(燃料)の粘性抵抗により流体圧力が発生し、流体負荷能力を発揮する効果(スクイーズ効果)が生じることが知られている。このスクイーズ効果による力は、可動子−固定子間のギャップが小さくなるほど大きくなる。可動子−固定子間のスクイーズ効果による力は、可動子が固定子に衝突する際の衝撃を低減する一方、可動子が固定子から離反する動作を妨げる力となる。そのため、可動子−固定子間のスクイーズ効果が大きいほど電磁コイルへの通電の停止時に可動子が固定子から離反する動作の応答性が低下する、すなわち、ニードル弁の閉弁(または開弁)応答性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の燃料噴射弁は、ノズルボディ内部の制御室と固定子との間を移動し、前記制御室に設けられた燃料排出流路を開閉する可動子を有する燃料噴射弁であって、前記可動子を前記制御室側に付勢する第1付勢手段と、前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記可動子を前記固定子側に移動させる移動手段と、前記移動手段によって前記固定子側に移動した前記可動子と前記固定子との間に所定の大きさの間隙を形成する間隙形成部と、前記可動子に対向する側の前記固定子に凹状に形成された収納部と、前記収納部に出没可能に設けられた出没部と、前記出没部を前記可動子側に突出するよう付勢する第2付勢手段と、前記出没部に対向する部分の前記可動子に形成され、前記制御室側と前記固定子側とを連通する連通孔と、を備え、前記収納部には、前記固定子側に移動した前記可動子によって押し込まれた前記出没部の一部分が進入する絞り部が形成され、前記絞り部と前記出没部との間に形成される間隙の大きさが、前記収納部の他の部分と前記出没部との間に形成される間隙の大きさよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、移動手段によって可動子が固定子側に移動するときは、可動子側に突出した出没部との間のスクイーズ効果、および第2付勢手段の付勢力によって可動子が固定子に衝突する際の衝撃力が低減される。また、可動子が固定子側に移動すると、可動子の連通孔を通じて供給される燃料圧力と絞り部における燃料圧力との差分によって出没部が絞り部に進入し、可動子−固定子間に所定の間隙が形成される。そのため、第1付勢手段の付勢力によって可動子が固定子から離反するときは可動子−固定子間のギャップがより大きい状態にあり、スクイーズ効果がより小さい状態にあるために、制御室側へ可動子が移動する際の応答性が向上する。よって、可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる。
【0011】
特に、本発明の燃料噴射弁は、前記出没部の前記可動子に対向する面の面積が、前記出没部の前記絞り部に対向する面の面積と、前記出没部の前記可動子側における燃料の圧力と、前記出没部の前記絞り部側における燃料の圧力と、前記第2付勢手段の付勢力と、に基づいて設定される構成とすることができる。
【0012】
上記の構成によれば、出没部の可動子に対向する面の面積を適切に設定することで、出没部の可動子側の面圧と絞り部側の面圧との差分を大きくすることができ、それによって出没部を絞り部に進入させて可動子−固定子間に所定の間隙を形成させることができる。よって、可動子が制御室側へ移動する際の可動子−固定子間のスクイーズ効果をより小さくすることができることから、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる。
【0013】
また、本発明の燃料噴射弁は、前記出没部が、前記可動子に対向する面が前記連通孔と相似する形状であって、前記可動子の移動軸を中心とする円周上の複数の位置に略均等に設けられている構成とすることができる。
【0014】
上記の構成によれば、出没部の前記可動子に対向する面を連通孔と相似する形状とすることで、連通孔を通じて供給される燃料圧力と絞り部における燃料圧力との差分を大きくすることができ、それによって出没部を絞り部に進入させて可動子−固定子間に所定の間隙を形成させることができる。また、出没部を可動子の移動軸を中心とする円周上の複数の位置に略均等に設けることで、可動子が固定子に衝突する際の衝撃力を適切に低減することができる。よって、可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる。
【0015】
更に、本発明の燃料噴射弁は、前記移動手段が、磁性体の部材からなる前記固定子に設けられた電磁コイルへの通電によって発生する磁気的吸引力によって磁性体の部材からなる前記可動子を前記固定子側に移動させるものであって、前記出没部が、非磁性体の部材からなる構成とすることができる。
【0016】
上記の構成によれば、非磁性体の部材からなる出没部が、電磁コイルの通電によって発生する磁気的吸引力に影響を受けずに第2付勢手段の付勢力によって可動子側へ突出することができる。よって、適切に可動子の衝突時の衝撃力を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可動子を固定子側に移動させる際は、可動子側に突出した出没部力によって可動子が固定子に衝突する際の衝撃力を低減することができる。また、可動子が固定子側に移動すると、燃料の圧力差によって出没部が絞り部に進入して可動子−固定子間のギャップがより大きい状態となるために、可動子−固定子間のスクイーズ効果がより小さい状態になる。そのため、可動子を制御室側に移動させる際の応答性を高めることができる。よって、可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル弁開閉の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例のインジェクタの一構成例を示した図である。
【図2】実施例の電磁弁の概略構成を示した図である。
【図3】電磁弁の動作の説明図である。
【図4】実施例の電磁弁における可動子の挙動を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のインジェクタ1(燃料噴射弁)の一構成例を示した図である。なお、図1にはインジェクタ1の一部の構成のみを示している。
インジェクタ1は、ノズルボディ11、ノズルボディ11の先端部に形成された燃料噴射孔12、燃料配管を通じて高圧の燃料が供給される制御室13、制御室13内に摺動自在に配置されるニードル14、ニードル14の先端部が着座する弁座15、および制御室13に設けられた燃料排出流路13bを開閉する電磁弁20を備えた構成となっている。
【0021】
ノズルボディ11は、インジェクタ1の先端部に設けられている。ノズルボディ11の内部には制御室13が設けられている。制御室13は、燃料導入流路13aおよび燃料排出流路13bを備えており、ノズルボディ11の先端側(燃料噴射孔12側)が開放されている。燃料導入流路13aは図示しない燃料配管と連結しており、燃料供給源より供給される高圧の燃料を制御室13内部に導入する。制御室13内部に導入された高圧の燃料は、ニードル14の開弁方向への移動に従い燃料噴射孔12より外部へ噴射される。燃料排出流路13bは、制御室13内部とノズルボディ11の基端側(電磁弁20側)とを連通させており、制御室13内部に導入された燃料を電磁弁20側に流出させる。
【0022】
ニードル14は、制御室13内部にニードル軸方向に摺動自在(移動可能)に設けられている。ニードル14は、その先端部が鋭角な針形状の内開弁であり、その基端部にはニードル14を開弁方向(電磁弁20側)に付勢するスプリング14aが連結している。ニードル14は、制御室13内部の燃料の圧力に連動して燃料噴射孔12の開弁方向または閉弁方向に移動する。すなわち、制御室13内部の燃料の圧力が上昇しスプリング14aの付勢力を上回ると、ニードル14は閉弁方向(燃料噴射孔12側)に移動する。一方、制御室13内部の燃料の圧力が下降しスプリング14aの付勢力を下回ると、ニードル14は開弁方向(電磁弁20側)に移動する。
【0023】
ノズルボディ11の先端側には、ニードル14の先端部(着座部)と嵌合する弁座15が設けられている。この弁座15にニードル14の着座部が着座することで制御室13と燃料噴射孔12との連通が遮断され、それにより燃料噴射孔12からの燃料の噴射が停止する。また、弁座15からニードル14の着座部が離座することで制御室13と燃料噴射孔12とが連通し、それにより燃料噴射孔12から燃料が噴射される。
【0024】
燃料噴射孔12は、ノズルボディ11先端部の円周方向に略均等の間隔で設けられた複数の連通孔であり、ノズルボディ11外部と制御室13とを連通させている。燃料噴射孔12は、燃料供給源から供給される燃料の圧力によってノズルボディ11内の燃料を外部へと噴射可能に構成されている。
【0025】
以下に、電磁弁20の構成について詳細に説明する。図2は、実施例の電磁弁20の概略構成を示した図である。図2(a)は可動子203の移動軸方向における電磁弁20の断面構成を示しており、図2(b)は可動子203の制御室13と対向する面の構成を示している。
電磁弁20は、円筒状に形成された電磁コイル201、電磁コイル201を固定する固定子202、固定子202と制御室13との間を移動する可動子203、両端がそれぞれ固定子202および可動子203と結合したスプリング204、可動子203側の固定子202に設けられた凸部205および収納部206、収納部206から出没する出没部207、出没部207を可動子203側に付勢するスプリング208を備えた構成となっている。
【0026】
電磁コイル201は、図示しない制御装置(ECU)に接続され、通電のタイミングが管理されている。電磁コイル201の外周には固定子202が設けられている。固定子202は磁性体の部材であって、電磁コイル201に通電すると励磁されて磁気的吸引力が発生し、それによって磁性体の部材からなる可動子203を吸引する。また、固定子202は、電磁コイル201への通電を停止すると磁束が抜けて磁気的吸引力が消失し、スプリング204の付勢力によって可動子203が離反する。
なお、電磁コイル201および固定子202は、本発明の移動手段の一構成例である。
【0027】
固定子202は、その内周側にスプリング204が設置される中空部202aを有している。スプリング204は、その両端部がそれぞれ固定子202および可動子203と結合している。スプリング204は、金属製のつる巻きバネであって、ノズルボディ11内で固定子202と可動子203とが最も離れた状態においても自然状態よりも圧縮されている。すなわち、スプリング204は、その一端部に結合した可動子203を制御室13側に向けて常に付勢している。この場合、スプリング204は、金属製のつる巻きバネに限られずに、両端部を互いに離れる方向に向けて付勢し得る任意の構成を採用することができる。
なお、スプリング204は、本発明の第1付勢手段の一構成例である。
【0028】
また、固定子202は、可動子203と対向する側の面に可動子203側に突出した凸部205を有している。凸部205は非磁性体の部材であって、電磁コイル201への通電によって固定子202側に吸引された可動子203の端面と接触し、それによって固定子202と可動子203との間に所定の間隙(クリアランス)を形成させる。この場合、凸部205の突出量は、固定子202−可動子203間のスクイーズ効果を効果的に低減できる任意のクリアランスを形成可能な突出量(例えば20μm〜30μm)を適用することができる。また、凸部205の設置箇所は固定子202側に限られず、可動子203の固定子202と対向する側の面に設けられてもよい。
なお、凸部205は、本発明の間隙形成部の一構成例である。
【0029】
更に、固定子202は、可動子203と対向する側の面に収納部206を有している。収納部206は可動子203側が開口した凹状であって、後述する出没部207の全部を収納可能に構成されている。また、収納部206は非磁性体の部材にて構成されている。収納部206の内部には、出没部207の可動子203側への突出量を規制するストッパ206aが形成されている。
【0030】
そして、収納部206の内部の電磁コイル201側(奥側)には絞り部206bが形成されている。絞り部206bは、出没部207の可動子203側の端面が凸部205の位置にあるときに出没部207の他端面側の一部分が進入するよう構成されている。また、絞り部206bは、出没部207の端面が固定子の端面の位置になるまで出没部207の他端面側が進入できるよう構成されている。絞り部206bは、出没部207の移動軸と直交する断面方向の大きさが収納部206の他の部分よりも小さく設定されている。すなわち、出没部207と絞り部206bとの間に形成される間隙(クリアランス)の大きさが、出没部207と収納部206の他の部分との間に形成されるクリアランスの大きさよりも小さく設定されている。
【0031】
出没部207は、収納部206の内部に可動子203の移動軸方向に移動可能(出没自在)に収納されている。出没部207は非磁性体の部材であって、収納部206から可動子203側へ突出する部分の面形状が後述する可動子203の連通孔203cと相似する形状(円形)となっている。出没部207の電磁コイル201側(奥側)には段部207aが形成されており、この段部207aが収納部206のストッパ206aに当接することで、可動子203側への出没部207の突出量が規制される。出没部207の可動子203側の端面は、段部207aがストッパ206aに当接した状態で凸部205よりも可動子203側に突出する構成である。
【0032】
出没部207は、電磁コイル201側(奥側)の端面がスプリング208と結合している。スプリング208は、スプリング204と同様の金属製のつる巻きバネであって、その他端部が絞り部206bの電磁コイル201側(奥側)の壁面と結合している。スプリング208は、出没部207がストッパ206aに当接した状態においても自然状態よりも圧縮されている。すなわち、スプリング208は、その一端部に結合した出没部207を可動子203側に向けて常に付勢している。
なお、スプリング208は、本発明の第2付勢手段の一構成例である。
【0033】
出没部207は、固定子202の中空部202a(可動子203の移動軸)を中心とする円周上の4箇所の位置に略均等(90°毎)に設けられている。これによって、可動子203が固定子202側に移動したときに、出没部207が可動子203のコア部203aと円周上の略均等の4箇所にて接触する。そのため、可動子203が固定子202に衝突する際の衝撃力を適切に低減することができる。この場合、出没部207の設置数は4箇所に限られず、円周上の略均等の位置に複数(例えば3箇所以上)設けることができる。
【0034】
更に、出没部207の可動子203と対向する面の面積(S)は、出没部207の絞り部206bと対向する面の面積(S)、出没部207の可動子203側における燃料圧力(P)、出没部207の絞り部206b側における燃料圧力(P)、およびスプリング208の付勢力(F)に基づいて設定される。具体的には、例えば以下の(1)式を満たす面積が適用される。
(S×P)−(S×P)>F ・・・(1)
(S:出没部207の可動子203と対向する面の面積,S:出没部207の絞り部206bと対向する面の面積,P:出没部207の可動子203側における燃料圧力,P:出没部207の絞り部206b側における燃料圧力,F:スプリング208の付勢力)
上記(1)式を満たすように出没部207の可動子203と対向する面の面積(S)を設定することで、出没部207の可動子203側の面圧(S×P)と絞り部206b側の面圧(S×P)との差分がスプリング208の付勢力(F)よりも大きくなる。そのため、出没部207が絞り部206bに進入する。
【0035】
可動子203は制御室13と固定子202との間に移動自在に設けられている。可動子203は、固定子202側に円盤形状のコア部203aと、制御室13側に開閉弁203bとを備えている。コア部203aの固定子202側はスプリング204と結合しており、それによって可動子203が制御室13側に付勢されている。可動子203は磁性体の部材であって、電磁コイル201に通電すると励磁されて磁気的吸引力が発生し、それによって固定子202側に吸引される(固定子202側に移動する)。また、可動子203は、電磁コイル201への通電を停止すると磁束が抜けて磁気的吸引力が消失し、スプリング204の付勢力によって固定子202側から離反して制御室13側に移動する。開閉弁203bは、可動子203の移動に伴って制御室13の燃料排出流路13bを開閉する。すなわち、可動子203が固定子202側に移動すると開閉弁203bが燃料排出流路13bを開放する。また、可動子203が制御室13側に移動すると開閉弁203bが燃料排出流路13bを閉鎖する。
なお、可動子203は、本発明の移動手段の一構成例である。
【0036】
可動子203のコア部203aには連通孔203cが設けられている。連通孔203cは、コア部203aの制御室13側と固定子202(出没部207)側とを連通している円形の孔である。連通孔203cは、固定子202に設けられた4つの出没部207に対向する位置のコア部203aにそれぞれ設けられている(図2(b)参照)。
【0037】
また、連通孔203cの半径(r)は、例えば以下の(2)および(3)式を満たす半径が適用される。
>πr ・・・(2)
(πr×P)−(S×P)>F ・・・(3)
(r:連通孔203cの半径,S:出没部207の可動子203と対向する面の面積,S:出没部207の絞り部206bと対向する面の面積,P:出没部207の可動子203側における燃料圧力,P:出没部207の絞り部206b側における燃料圧力,F:スプリング208の付勢力)
上記(2)式を満たすように連通孔203cの半径(r)を設定することで、可動子203が固定子202側へ移動したときに連通孔203c周りのコア部203aと出没部207とが干渉し、それによって出没部207が収納部206に押し込まれる。また、上記(3)式を満たすように連通孔203cの半径(r)を設定することで、連通孔203cを通じて供給される燃料によって出没部207が受ける面圧(πr×P)と出没部207の絞り部206b側の面圧(S×P)との差分がスプリング208の付勢力(F)よりも大きくなる。そのため、出没部207が絞り部206bに進入する。
なお、本実施例の連通孔203cの半径rは制御室13側から固定子202(出没部207)側にかけて一定であるが、これに限られない。例えば、制御室13側から固定子202(出没部207)側にかけて孔径が縮小するテーパ形状であってもよい。この場合、連通孔203cの最も小径の部分の半径rが上記(2)および(3)式を満たすことが望ましい。
【0038】
以上のように構成されるインジェクタ1における電磁弁20の動作について、図3を参照しつつ説明する。図3は、電磁弁20の動作の説明図である。なお、図3には電磁弁20の一部の構成(出没部207の周囲)のみを示している。
図3(a)は電磁コイル201への通電が停止した状態を示している。電磁コイル201への通電が停止した状態では、可動子203がスプリング204の付勢力によって制御室13側に移動し、開閉弁203bが燃料排出流路13bを閉鎖する。そして、燃料導入流路13aを通じて導入される燃料によって制御室13内部の圧力が上昇しスプリング14aの付勢力を上回ると、ニードル14が閉弁方向(燃料噴射孔12側)へ移動して弁座15に着座する。これにより、燃料噴射孔12からの燃料噴射が停止する。この時点において、非磁性体の部材からなる出没部207は磁気的吸引力の影響を受けないために、スプリング208の付勢力によって凸部205よりも可動子203側に突出した状態となっている。
【0039】
図3(b)は電磁コイル201への通電を開始した状態を示している。ECUの指令によって電磁コイル201に電流が流れる(通電する)と、磁性体である固定子202および可動子203にそれぞれ磁束が発生する。磁束が発生すると、磁気的吸引力により可動子203がスプリング204の付勢力に抗して固定子202側に吸引されて移動し、それによって開閉弁203bが燃料排出流路13bを開放する。そして、開放された燃料排出流路13bを通じて電磁弁20側への燃料の排出が開始される。
【0040】
図4は、実施例の電磁弁20における可動子203の挙動を示している。可動子203が固定子202側に移動するにつれて出没部207との間の距離が小さくなり、両者の間にスクイーズ効果による力が生じる。それによって可動子203が固定子202に衝突する衝撃力が低減される(図4(a)参照)。可動子203がさらに固定子202側に移動すると、連通孔203c周りのコア部203aと出没部207とが干渉し((2)式参照)、それによって出没部207が収納部206に押し込まれる。そして、可動子203が出没部207を収納部206へ押し込むときに、スプリング208の付勢力によって可動子203が固定子202に衝突する衝撃力が従来技術よりも低減される(図4(b)参照)。このように、本実施例のインジェクタ1は、電磁弁20における可動子203が固定子202に衝突する際の衝撃力を効果的に低減することができるために、衝突時のバウンスによる燃料噴射量の変動を抑制することができる。
【0041】
図3(c)は可動子203が固定子202側に移動した状態を示している。可動子203は、固定子202の凸部205に接触することで固定子202側への移動が停止する。そして、開放された燃料排出流路13bを通じて制御室13内部から電磁弁20側へ燃料が排出されて制御室13内部の圧力が低下する。制御室13内部の圧力がスプリング14aの付勢力を下回ると、ニードル14が開弁方向(電磁弁20側)へ移動して弁座15から離座する。これにより、燃料噴射孔12から燃料が噴射される。
【0042】
図3(d)は出没部207が絞り部206bに進入した状態を示している。燃料排出流路13bを通じて電磁弁20側へ排出された燃料は、可動子203の連通孔203cを通じて出没部207の可動子203と対向する面に向かう。同様に、電磁弁20側へ排出された燃料は、固定子202と可動子203との間隙部分を通じて収納部206および絞り部206bに向かう。ここで、出没部207と絞り部206bとの間に形成されるクリアランスの大きさが、出没部207と収納部206の他の部分との間に形成されるクリアランスの大きさよりも小さいために、絞り部206bにおいて燃料の圧損が生じる。そのため、出没部207の可動子203側における燃料圧力(P)と、出没部207の絞り部206b側における燃料圧力(P)との間にP>Pの圧力差が生じる。それによって、出没部207における面圧の差分がスプリング208の付勢力を上回るために((1)および(3)式参照)、出没部207が絞り部206bに進入する。出没部207が絞り部206bに進入すると、出没部207の可動子203と対向する面の位置が固定子202の面の位置と同等になる。そのため、可動子203と固定子202との間に凸部205ぶんのクリアランスが形成される。
【0043】
可動子203−固定子202間に所定のクリアランスが形成されると、スプリング204の付勢力によって可動子203が固定子202から離反するときは可動子203−固定子202間のギャップがより大きい状態にある。そのため、可動子203−固定子202間のスクイーズ効果がより小さい状態にあるために、制御室13側へ可動子203が移動する際の応答性が従来技術よりも向上する(図4(c)参照)。よって、可動子203の応答性の向上に伴ってニードル14の閉弁応答性も向上する。このように、本実施例のインジェクタ1は、可動子203が固定子202から離反する際に可動子203−固定子202間のスクイーズ効果をより小さくすることでニードル14の閉弁応答性を高めることができる。
【0044】
図3(e)は電磁コイル201への通電を停止した後の状態を示している。ECUの指令によって電磁コイル201への通電が停止されると、電磁コイル201に流れる電流値がゼロに向かって小さくなってゆくために、電磁コイル201から発生する磁場もゼロに向かって弱まってゆく。そして、磁場による磁気的吸引力がスプリング204の付勢力を下回ると、可動子203が固定子202側から離反し制御室13側に移動することで、開閉弁203bが燃料排出流路13bを閉鎖する。そして、燃料導入流路13aを通じて導入される燃料によって制御室13内部の圧力が上昇しスプリング14aの付勢力を上回ると、ニードル14が閉弁方向(燃料噴射孔12側)へ移動して弁座15に着座する。これにより、燃料噴射孔12からの燃料噴射が停止する。
【0045】
可動子203が固定子202側から離反すると、可動子203が離反する際のスクイーズ効果およびスプリング208の付勢力によって、出没部207が収納部206から可動子203側に突出する。すなわち、図3(a)の状態に戻ることから、次回の通電時にも可動子203が固定子202に衝突する際の衝撃力を効果的に低減することができる。
【0046】
以上のように、本実施例のインジェクタは、電磁コイルを固定する固定子と、可動子と、可動子を制御室側に付勢するスプリングと、固定子側に設けられた凸部と、可動子に対向する側の固定子に凹状に形成された収納部と、収納部に出没可能に設けられ、凸部よりも大きく可動子側に突出可能な出没部と、出没部を可動子側に付勢するスプリングと、出没部に対向する部分の可動子に形成された連通孔と、を備え、収納部の内部の電磁コイル側には、収納部の他の部分よりも出没部との間の間隙がより小さい絞り部が形成されていることを特徴とする。これによって、磁気的吸引力によって可動子が固定子側に移動するときは、可動子側に突出した出没部との間のスクイーズ効果、およびスプリングの付勢力によって可動子が固定子に衝突する際の衝撃力が低減される。また、可動子が固定子側に移動すると、可動子の連通孔を通じて供給される燃料圧力と絞り部における燃料圧力との差分によって出没部が絞り部に進入し、可動子−固定子間に所定の間隙が形成される。そのため、スプリングの付勢力によって可動子が固定子から離反するときは可動子−固定子間のギャップがより大きい状態にあり、スクイーズ効果がより小さい状態にあるために、制御室側へ可動子が移動する際の応答性が向上する。よって、可動子の衝突時の衝撃力を低減しつつ、ニードル閉弁の応答性を高めることができる。
【0047】
また、本実施例のインジェクタは、出没部の可動子に対向する面の面積が、出没部の絞り部に対向する面の面積と、出没部の可動子側における燃料の圧力と、出没部の絞り部側における燃料の圧力と、スプリングの付勢力と、に基づいて設定される。これによって、出没部の可動子側の面圧と絞り部側の面圧との差分を大きくすることができ、出没部を絞り部に進入させて可動子−固定子間に所定の間隙を形成させることができる。よって、可動子が制御室側へ移動する際の可動子−固定子間のスクイーズ効果をより小さくすることができることから、ニードル閉弁の応答性を高めることができる。
【0048】
そして、本実施例のインジェクタは、出没部の可動子に対向する面が連通孔と相似する形状であって、可動子の移動軸を中心とする円周上の複数の位置に略均等に出没部が設けられている。これによって、連通孔を通じて供給される燃料圧力と絞り部における燃料圧力との差分を大きくすることができ、出没部を絞り部に進入させるための差圧を適切に発生させることができる。また、出没部を可動子の移動軸を中心とする円周上の複数の位置に略均等に設けることで、可動子が固定子に衝突する際の衝撃力を適切に低減することができる。
【0049】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0050】
例えば、本実施例の電磁弁20では可動子203を固定子202側に移動させることで制御室13の燃料排出流路13bを開放する構成(外開き型)であるが、可動子203を固定子202側に移動させることで燃料排出流路13bを閉鎖する構成(内開き型)であってもよい。この構成によれば、可動子203が固定子202側から離反する際の応答性を向上させることで、ニードル14の開弁応答性を高めることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 インジェクタ
11 ノズルボディ
12 燃料噴射孔
13 制御室
13b 燃料排出流路
14 ニードル
20 電磁弁
201 電磁コイル(移動手段)
202 固定子(移動手段)
203 可動子(移動手段)
203c 連通孔
204 スプリング(第1付勢手段)
206 収納部
206b 絞り部
207 出没部
208 スプリング(第2付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルボディ内部の制御室と固定子との間を移動し、前記制御室に設けられた燃料排出流路を開閉する可動子を有する燃料噴射弁であって、
前記可動子を前記制御室側に付勢する第1付勢手段と、
前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記可動子を前記固定子側に移動させる移動手段と、
前記移動手段によって前記固定子側に移動した前記可動子と前記固定子との間に所定の大きさの間隙を形成する間隙形成部と、
前記可動子に対向する側の前記固定子に凹状に形成された収納部と、
前記収納部に出没可能に設けられた出没部と、
前記出没部を前記可動子側に突出するよう付勢する第2付勢手段と、
前記出没部に対向する部分の前記可動子に形成され、前記制御室側と前記固定子側とを連通する連通孔と、を備え、
前記収納部には、前記固定子側に移動した前記可動子によって押し込まれた前記出没部の一部分が進入する絞り部が形成され、
前記絞り部と前記出没部との間に形成される間隙の大きさが、前記収納部の他の部分と前記出没部との間に形成される間隙の大きさよりも小さいことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記出没部の前記可動子に対向する面の面積は、前記出没部の前記絞り部に対向する面の面積と、前記出没部の前記可動子側における燃料の圧力と、前記出没部の前記絞り部側における燃料の圧力と、前記第2付勢手段の付勢力と、に基づいて設定されることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記出没部は、前記可動子に対向する面が前記連通孔と相似する形状であって、前記可動子の移動軸を中心とする円周上の複数の位置に略均等に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記移動手段は、磁性体の部材からなる前記固定子に設けられた電磁コイルへの通電によって発生する磁気的吸引力によって磁性体の部材からなる前記可動子を前記固定子側に移動させるものであって、
前記出没部は、非磁性体の部材からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の燃料噴射弁。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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