説明

燃料噴射装置用の燃料分配器

【課題】噴射弁の制御時に発生するノイズが効果的に減少され得る燃料分配器を提供する。
【解決手段】カバー(15)がノイズを遮断するプラスチックから成っており、燃料分配器が少なくとも1つの固定孔(29)を有しており、この少なくとも1つの固定孔(29)と固定ねじ(27)との間に減衰部材(31)が配置されており、該減衰部材(31)が、燃料分配器と固定ねじ(27)と接合パートナー(33)との間の音響的分離を軸方向でも半径方向でも保証するようになっており、減衰部材(31)が円筒形のスリーブ(35)及び2つのディスク(39)を有しており、少なくとも1つのディスク(39)が、ディスク形の形状に圧縮されたスチールウールから成っているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置用の燃料分配器であって、燃料分配部材及び少なくとも2つの噴射弁が設けられており、これらの噴射弁が燃料分配部材と液密に結合されており、更に、燃料分配部材及び噴射弁のカバーが設けられている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
このような形式の燃料分配器は、例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第19546441号明細書から公知である。公知の燃料分配部材は、噴射弁に燃料を供給するという課題を有している。このためには、燃料分配部材は各噴射弁につき1つの接続管片を有しており、この接続管片に噴射弁が解離可能に又は解離不能に固定されている。例えば、噴射弁を溶接によって接続管片に固定することが公知である。択一的に、解離可能又は解離不能なスナップ結合によって噴射弁を接続管片に固定することも可能である。
【0003】
噴射弁をその位置に関して位置固定するためには、前掲のドイツ連邦共和国特許出願公開第19546441号明細書から公知の燃料分配器では、燃料分配部材も噴射弁も1つのカバーによって取り囲むことが公知である。この場合、グラスファイバ強化プラスチックが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19546441号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、公知の欠点を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために本発明では、カバーがノイズを遮断するプラスチックから成っており、燃料分配器が少なくとも1つの固定孔を有しており、この少なくとも1つの固定孔と固定ねじとの間に減衰部材が配置されており、該減衰部材が、燃料分配器と固定ねじと接合パートナーとの間の音響的分離を軸方向でも半径方向でも保証するようになっており、減衰部材が円筒形のスリーブ及び2つのディスクを有しており、少なくとも1つのディスクが、ディスク形の形状に圧縮されたスチールウールから成っているようにした。
【発明の効果】
【0007】
ノイズを遮断するプラスチックを選択することにより、噴射弁の制御時に発生するノイズが効果的に減少され得る。このことは、特に内燃機関のアイドリングにおいて重要である。それというのも、新型の内燃機関は今日、噴射弁の切替ノイズが静かな「クリック」音として聞こえる程静かであり、この「クリック」音が内燃機関の音響的な印象を損なうからである。
【0008】
結局のところ、ノイズを遮断するプラスチックの使用により、内燃機関の静かな運転が特に評価に関して重要なアイドリング運転において著しく向上される。発生ノイズの減少は4kHz〜16kHzの周波数範囲において特に有効であり、その結果、本発明のカバーによって得られるノイズ減少が人間に知覚される。
【0009】
本発明による燃料分配器の構成及び構造はほぼ不変であり続けるので、本発明は著しい超過出費無しで実現可能である。このことは特に、大量生産で製作される噴射装置において重要である。
【0010】
とりわけポリアミド、ポリブチレンテレフタレート又はポリフェニルスルフィドが有利なプラスチックであると判った。
【0011】
カバーが弾性的な発泡材からなっていると更に有利である。それというのも、このような発泡材は極めて良好なノイズ遮断性を有しているからである。特に、高い比重を有する充填材料の詰められた連続気泡型の発泡材を使用することが特別に有効であると判った。この場合、本発明は連続気泡型の発泡材に限定されるものではなく、有利には独立気泡型の発泡材によっても実現され得る。
【0012】
本発明に関連して更に、カバーに充填材、有利には高い比重を有する充填材を添加することが有利であると判った。この場合、充填材が有利には位置しているのが望ましい比重範囲は周辺条件に関連している。それというのも、最適な成果を得るためには、あらゆる振動現象において音源と遮断材料とを合わせねばならないからである。テストでは、1.0g/cmよりも大きな比重を有するプラスチックが十分な減衰作用を有しているということが判った。特に有利なのは、1.4g/cmの比重を有するプラスチックであるということも判った。但し、本発明はこれらの比重に限定されるものではない。
【0013】
硫酸バリウム及び酸化鉄が有利な充填材であると判った。
【0014】
本発明による燃料分配器のカバーは、有利にはプラスチック射出成形によって製作され得る。この場合択一的に、燃料分配部材と噴射弁とを直接に取り囲んでカバーを射出成形するか、又はカバーを2つのシェルから製作して、これらの2つのシェルを、燃料分配部材と少なくとも2つの噴射弁とを取り囲んで設け、この位置で固定することが可能である。個々のケースにおいて前記構成の内のいずれが優先されるのかはその他の周辺条件に関連しており、個々のケースにおいて決定される。
【0015】
ノイズ遮断を更に改良するためには、燃料分配器の固定孔に減衰部材が配置されており、この減衰部材はカバーと固定ねじと接合パートナー(例えば内燃機関のシリンダヘッド又は吸気管)との間の音響的な分離を、軸方向でも半径方向でも保証する。
【0016】
この場合、減衰部材が1つの円筒形のスリーブと2つのディスクとから成っていると有利であるということが判った。この場合、スリーブは有利には形状安定性の材料から成っているのに対して、ディスクは良好な減衰特性を有する材料から製作される。ディスクは、例えばゴムから一体に製作され得る。択一的にディスクは金属からも製作でき、この場合、両ディスクの内の少なくとも1つが、ディスク形の形状に圧縮されたスチールウールから成っていると非常に有利であるということが判った。所定の形状に圧縮されたスチールウールによって、燃料分配器と接合パートナーとの間の所望の音響的分離が得られるので、この位置でも噴射弁の切換ノイズの伝搬が効果的に阻止される。
【0017】
結局のところ、本発明による燃料分配器によって、噴射弁の切換ノイズを十分に抑制することが可能であり、しかも、ノイズ遮断用の別のカバー又は手段は最早不要である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による燃料分配器の第1実施例を断面して示した図である。
【図2】本発明による燃料分配器の第2実施例を断面して示した図である。
【図3】減衰部材を備えた固定孔の等尺図である。
【図4】本発明による減衰部材の1実施例の横断面図である。
【図5】本発明による減衰部材の、図4とは異なる実施例の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0020】
図1には本発明による燃料分配器の断面図が示されている。この燃料分配器は管状の燃料分配部材1から成っている。この燃料分配部材1からは、図1では1つしか見えていない複数の接続管片3が分岐している。各接続管片3にはそれぞれ噴射弁5が液密に固定されている。このことは、例えば溶接シーム7によって、或いは解離可能又は解離不能な結合部(図2参照)によって行われてよい。
【0021】
噴射弁5の燃料供給は、燃料分配部材1の流入部9と、燃料分配部材1と、接続管片3とを介して行われる。図1には電気的なコンタクト11が示されている。
【0022】
この電気的なコンタクト11は、ケーブル又は別の導電体を介して接続ブシュ13と電気的に接続されている。これにより、接続管片3における噴射弁5の固定と同時に、当該噴射弁5を電気的に接続し且つ燃料分配器の全ての噴射弁5を、接続ブシュ13にコネクタを差し込むことにより内燃機関の制御装置に接続することが可能である。燃料分配部材1も噴射弁5もカバー15によって取り囲まれており、このカバー15はノイズを遮断するプラスチックから製作される。
【0023】
図1に示したように、カバー15は燃料分配部材1と噴射弁5とを取り囲んで射出成形されてよい。この場合、燃料分配器は個別部材に分解不能である。これにより、例えば湿気等の環境による影響に対するシールに関して利点が得られ且つ構成部材若しくは構成群の数が減らされる。
【0024】
カバー15に適したプラスチックは、所望のアプリケーション及びカバー15において支配的な周辺条件に関連して選択される。明細書冒頭にはテストで適当であると証明された様々なプラスチックが記載されているので参照されたい。
【0025】
図2には、本発明による燃料分配器の択一的な実施例が示されており、この場合、第1実施例との著しい相違点は、噴射弁が接続管片3と解離可能に結合されているという点にある。この結合はU字形のクリップ17によって行われ、このクリップ17はC字形の輪郭を有している。このC字形の輪郭は接続管片3及び噴射弁5の対応する突出部19と協働し、これにより形状接続的な結合部が形成される。所要のシールを得るためには、付加的にシールリング、特にOリング19が設けられている。
【0026】
接続管片3と噴射弁5との間の結合は、クリップ17が図平面に対して垂直方向で取り出されることにより解離可能なので、引き続いて噴射弁5を図2で見て下方に引き出すことができる。カバー15が、クリップ17が導入及び導出可能な切欠き25を有していなければならないことは自明である。
【0027】
この実施例では、電気的なコンタクトも信号線路21及びコネクタ23によって実現されている。このことは、図2に示した第2実施例では個々の噴射弁5が最早満足のゆくように作動しない場合は交換可能であるということを意味する。
【0028】
カバー15を製作する材料に関しては明細書冒頭の記載を参照されたい。
【0029】
図3には本発明による燃料分配器の詳細な構造が等尺で示されている。図3には、燃料分配器の固定孔29を通して差し込まれた固定ねじ27が示されている。
【0030】
固定ねじ27と固定孔29との間には本発明による減衰部材31が配置されており、この減衰部材31は、例えばシリンダヘッド又は吸気管(図示せず)等の、燃料分配器の接合パートナーに対する固体伝搬音の伝達を防止する。
【0031】
図4には、本発明による減衰部材31の第1実施例の横断面図が示されている。この場合、符号33で、燃料分配器が固定ねじ27によって固定される接合パートナー33の上縁部(これは例えば内燃機関のシリンダヘッド又は吸気管であってよい)が示されている。
【0032】
接合パートナー33と固定ねじ27のヘッドとの間にはスリーブ35及び座金37が配置されている。スリーブ35は例えば鋼管から製作されてよく、減衰部材31の許容不能な圧縮が防止されるような長さに設定されている。減衰部材は前記構成部材の他に2つのディスク39を有しており、これらのディスク39は例えば圧縮されたスチールウールから製作される。ディスク39は、燃料分配器の固定孔29を接合パートナー33に対して軸方向でも半径方向でも位置決めする。この場合、圧縮されたスチールウールから成るディスク39の良好な減衰特性に基づいて、固体伝搬音は燃料分配器から接合パートナー33へ伝達されない。これにより、燃料分配器から接合パートナー33への固体伝搬音の伝搬が効果的に阻止される。ディスク39は極めて耐熱性が高く、燃料の影響を受けにくく、更に老朽化もし難いので、内燃機関の耐用年数全体にわたって無限に有効である。
【0033】
図5には択一的な実施例が示されている。この実施例の場合も金属のスリーブ35が設けられており、このスリーブ35は固定ねじ27のヘッドと接合パートナー33との間の最小間隔を保証する。固定孔29とスリーブ35との間でゴム成形部材として形成された減衰部材31は2つのディスク39を有しており、これらのディスク39はホース状区分41によって互いに結合されている。ディスク39がホース状区分41によって互いに結合されていることにより、ゴム成形部材は一体に構成可能であり、このことは組込み及び保管を容易にする。
【符号の説明】
【0034】
1 燃料分配部材、 3 接続管片、 5 噴射弁、 7 溶接シーム、 9 流入部、 11 コンタクト、 13 接続ブシュ、 15 カバー、 17 クリップ、 19 突出部、 21 信号線路、 23 コネクタ、 27 固定ねじ、 29 固定孔、 31 減衰部材、 33 接合パートナー、 35 スリーブ、 37 座金、 39 ディスク、 41 ホース状区分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置用の燃料分配器であって、燃料分配部材(1)及び少なくとも2つの噴射弁(5)が設けられており、これらの噴射弁(5)が燃料分配部材(1)と液密に結合されており、更に、燃料分配部材(1)及び噴射弁(5)のカバー(15)が設けられている形式のものにおいて、
該カバー(15)がノイズを遮断するプラスチックから成っており、
燃料分配器が少なくとも1つの固定孔(29)を有しており、この少なくとも1つの固定孔(29)と固定ねじ(27)との間に減衰部材(31)が配置されており、該減衰部材(31)が、燃料分配器と固定ねじ(27)と接合パートナー(33)との間の音響的分離を軸方向でも半径方向でも保証するようになっており、
減衰部材(31)が円筒形のスリーブ(35)及び2つのディスク(39)を有しており、
少なくとも1つのディスク(39)が、ディスク形の形状に圧縮されたスチールウールから成っていることを特徴とする、燃料噴射装置用の燃料分配器。
【請求項2】
1つのディスク(39)だけが圧縮されたスチールウールから成っている場合、第2のディスク(39)はゴムから製作される、請求項1記載の燃料分配器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167681(P2012−167681A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135391(P2012−135391)
【出願日】平成24年6月15日(2012.6.15)
【分割の表示】特願2006−43765(P2006−43765)の分割
【原出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】