説明

燃料循環装置

【課題】燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置の循環能力の向上を図ることを課題とする。
【解決手段】燃料電池システムSのアノード系において、燃料電池スタック10から排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置20であって、第1流体を間欠的に噴射する主供給インジェクタ3と、主供給インジェクタ3の下流に配置され、第1流体の噴射により発生する負圧によって第2流体を吸引し、第1流体に合流させて送出するディフューザ5aを有するエジェクタ5と、エジェクタ5の上流に配置され、ディフューザ5aのスロート部5cに吸引される第2流体の流れに沿って第1流体を噴射する1つあるいは複数の補助供給インジェクタ4と、を備えており、主供給インジェクタ3と補助供給インジェクタ4とは、時間的な位相差をもって略交互に第1流体を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素(燃料ガス、アノードガス)がアノードに、酸素を含む空気(酸化剤ガス、カソードガス)がカソードに、それぞれ供給されることで発電する固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池を備える燃料電池システムが知られている。
燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックのアノード側への水素(燃料ガス、アノードガス)供給は、一般的にはレギュレータやインジェクタを用いて圧力制御を行う。また、供給された水素のうち燃料電池スタックで消費されなかった未反応水素(燃料オフガス、アノードオフガス)を、ポンプやエジェクタなどの循環器により回収し、発電のために再利用される。
循環器としてエジェクタを用いる場合、水素供給流量の制御を高精度で行う手法として、インジェクタによる間欠的な水素供給流量制御を行う燃料電池システムが開示されている(特許文献1)。
上記手法によると、レギュレータなどによる圧力制御方式に対し、エジェクタの循環能力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池スタックの発電安定性を確保・向上するためには、発電に必要とされる水素流量に対して、過剰に供給する必要がある。従って、エジェクタなどの循環器には高い循環能力が要求される。
しかしながら、特許文献1に開示された間欠的に動作するインジェクタを備えた燃料電池システムは、インジェクタが噴射を停止するインターバル間において、循環流路に滞留する流体が存在してしまう。
【0005】
そこで本発明は、燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置の循環能力の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために、請求項1に係る燃料循環装置は、燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置であって、第1流体を間欠的に噴射する第1インジェクタと、前記第1インジェクタの下流に配置され、前記第1流体の噴射により発生する負圧によって第2流体を吸引し、前記第1流体に合流させて送出するディフューザを有するエジェクタと、前記エジェクタの上流に配置され、前記ディフューザのスロート部に吸引される前記第2流体の流れに沿って前記第1流体を噴射する1つあるいは複数の第2インジェクタと、を備えており、前記第1インジェクタと前記第2インジェクタとは、時間的な位相差をもって略交互に前記第1流体を噴射することを特徴とする。
【0007】
このような燃料循環装置によれば、第1インジェクタの間欠供給によるインターバル間では、滞留する流体が存在してしまうが、第2インジェクタを用いて滞留する流体を補助的にディフューザに送り込むことで、連続的に流体を送り込むことができ、循環能を向上することができる。また、ディフューザから燃料電池スタックに供給する流量を多くすることができる。
【0008】
また、請求項2に係る燃料循環装置は、前記第1インジェクタは、前記ディフューザと略同軸になるよう配置されることを特徴とする。
【0009】
このような燃料循環装置によれば、第1インジェクタとディフューザを有するエジェクタとの間に滞留する流体を少なくすることができ、いわゆるストイキを高くすることができる。
【0010】
また、請求項3に係る燃料循環装置は、前記第2インジェクタは、その軸線が、前記ディフューザのスロート部のうち、前記第2流体の流入口湾曲部における接線と略平行になるよう配置されることを特徴とする。
【0011】
このような燃料循環装置によれば、第2インジェクタの軸線を第2流体の流れに沿わせることで、第2流体をディフューザに送り込む補助的役割が大きくなり、全体の循環能をより高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る燃料循環装置によれば、燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置の循環能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る燃料循環装置を備える燃料電池システムの構成図である。
【図2】本実施形態に係る燃料循環装置の主要部を説明する模式断面図である。
【図3】比較例に係る燃料循環装置の流体の流れを説明する図であり、(a)はインジェクタが噴射している状態を示し、(b)はインジェクタが噴射を停止するインターバル間の状態を示す。
【図4】本実施形態に係る燃料循環装置の流体の流れを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタが噴射する状態を示し、(b)は補助供給インジェクタが噴射する状態を示す。
【図5】ECUがインジェクタのタイムインターバルを決定する流れを説明する図である。
【図6】本実施形態の燃料循環装置のインジェクタの作動タイミングを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタの作動タイミングを、(b)は、補助供給インジェクタの作動タイミングを、(c)は燃料循環装置のインジェクタ全体としての供給流量を示す図である。
【図7】本実施形態に係る燃料循環装置と比較例に係る燃料循環装置について、燃料電池スタックが要求するSTK要求電流とインジェクタが供給するアノードガスの流量との関係を示すグラフである。
【図8】比較例に係る燃料循環装置の作動タイミングを説明する図である。
【図9】本実施形態の燃料循環装置の作動タイミングを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタの作動タイミングであり、(b)は補助供給インジェクタの作動タイミングである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0015】
≪燃料電池システム≫
図1は、本実施形態に係る燃料循環装置20を備える燃料電池システムSの構成図である。
燃料電池システムSは、燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10に酸化剤ガスとしての酸素を含む空気(カソードガス)を供給するカソード系と、燃料電池スタック10に燃料ガスとしての水素(アノードガス)を供給するアノード系とを備えている。さらに、燃料電池システムSは、燃料電池スタック10からどれだけの電流を取り出すか(発電させるか)を決定する電子制御装置(以下「ECU」と称する)40や、燃料電池スタック10から取り出した電流を負荷に供給するパワーコントロールユニット(以下「PCU」と称する)30などを備えている。なお、ECU40は、例えば、スロットルペダルなどの開度を検出(出力要求を検出)して、検出した値に応じた燃料電池スタック要求電流(以下「STK要求電流」と称する)を生成(設定)し、この生成したSTK要求電流に基づいて、PDU30(図示しないVCU(Voltage Control Unit))を制御するものとする。つまり、PDU30が、STK要求電流に応じた電流を燃料電池スタック10から取り出し、図示しない走行用のモータなどの負荷に供給するものとする。
【0016】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック10は、複数(例えば200〜400枚)の固体高分子型の単セルが積層されることで構成されたスタックであり、複数の単セルは電気的に直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、これを挟む2枚の導電性を有するアノードセパレータ及びカソードセパレータと、を備えている。
MEAは、1価の陽イオン交換膜(例えばパーフルオロスルホン酸型)からなる電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟むアノード及びカソードとを備えている。アノード及びカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体から主に構成されると共に、アノード及びカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)を含んでいる。
【0017】
アノードセパレータには、各MEAのアノードに対して水素を給排するため単セルの積層方向に延びる貫通孔(内部マニホールドと称される)や、単セルの面方向に延びる溝が形成されており、これら貫通孔及び溝がアノード流路10Aとして機能している。
カソードセパレータには、各MEAのカソードに対して空気を給排するため単セルの積層方向に延びる貫通孔(内部マニホールドと称される)や、単セルの面方向に延びる溝が形成されており、これら貫通孔及び溝がカソード流路10Cとして機能している。
【0018】
そして、アノード流路10Aを介して各アノードに水素が供給されると、式(1)の電極反応が起こり、カソード流路10Cを介して各カソードに空気が供給されると、式(2)の電極反応が起こり、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生する。次いで、燃料電池スタック10と走行モータ等の外部回路(図示せず)とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック10が発電する。
2H→4H++4e …(1)
+4H++4e→2HO …(2)
【0019】
<カソード系>
次に、燃料電池システムSのカソード系について説明する。カソード系は、コンプレッサ11と、背圧弁12とを備えている。
コンプレッサ11は、配管を介して燃料電池スタック10のカソード流路10Cの入口に接続されており、ECU40からの指令に従って作動すると、酸素を含む空気(カソードガス)を取り込み、これを燃料電池スタック10のカソード流路10Cに供給する。
【0020】
燃料電池スタック10のカソード流路10Cの出口は配管を介して背圧弁12と接続されている。背圧弁12の下流側は配管を介して希釈器13に接続されている。背圧弁12は、バタフライ弁等から構成された常開型の弁であり、その開度はECU40によって制御されている。
燃料電池スタック10のカソード流路10Cから排出されたカソードオフガスは、希釈器13に排出される。希釈器13では、後述するアノード系のパージ弁8から排出されたアノードオフガスをカソードオフガスで希釈した後、燃料電池システムSを装備した車両等から排出される。
【0021】
<アノード系>
次に、燃料電池システムSのアノード系について説明する。アノード系は、燃料タンク1と、レギュレータ2と、主供給インジェクタ3と、補助供給インジェクタ4と、エジェクタ5と、キャッチタンク6と、逆止弁7と、パージ弁8と、ドレイン弁9とを備えている。
【0022】
燃料タンク1は、燃料ガスとしての水素(アノードガス)が高圧で封入されたタンクであり、レギュレータ2、燃料循環装置20および配管21を介して燃料電池スタック10のアノード流路10Aに水素(アノードガス)を供給する。
レギュレータ2は、燃料タンク1の下流に設けられ、レギュレータ2の下流に設けられた燃料循環装置20(主供給インジェクタ3、補助供給インジェクタ4)に供給する水素(アノードガス)の圧力をECU40からの指令に従って調整する。なお、レギュレータ2は、ECU40からの電子的な指令により調圧するタイプではなく、カソード側の圧力を信号圧として配管により伝達されて調圧するタイプのものでもよい。また、燃料タンク1から主供給インジェクタ3や補助供給インジェクタ4の間には、図示しない1次減圧弁や2次減圧弁、図示しないレギュレータ2以外のレギュレータが備わっていてもよい。
【0023】
燃料循環装置20は、主供給インジェクタ3と、補助供給インジェクタ4と、エジェクタ5と、から構成されている。
燃料循環装置20は、主供給インジェクタ3または補助供給インジェクタ4から噴射される燃料タンク1からの水素(アノードガス)と共に、後述する水素を含むアノードオフガスをアノードガスの負圧により配管24から吸い込み、配管21を介して、燃料電池スタック10のアノード流路10Aに供給する。これにより、水素を含むアノードオフガスが循環するようになっている。
なお、配管21には、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスの圧力を検出する圧力センサPが設けられており、圧力センサPで検出したアノードガスの供給圧力は、ECU40に送信される。
【0024】
燃料電池スタック10のアノード流路10Aの出口は、配管22を介してキャッチタンク6と接続される。キャッチタンク6は配管23を介して逆止弁7と接続され、逆止弁7の下流側は配管24を介して燃料循環装置20(吸込部5b、図2参照)と接続される。
キャッチタンク6は、燃料電池スタック10のアノード流路10Aから排出された未反応の水素を含むアノードオフガスから、燃料電池スタック10において電気化学反応により生成した水(HO)(式(2)参照)を分離し、これをキャッチタンク6に貯める。
キャッチタンク6で脱水されたアノードオフガスは、配管23、逆止弁7および配管24を介して燃料循環装置20に供給される。
このように、燃料電池システムSは、燃料循環装置20により、燃料タンク1のアノードガス(水素)が燃料電池スタック10のアノード流路10Aに供給されると共に、燃料アノード流路10Aから排出された未反応の水素を含むアノードオフガスが燃料電池スタック10のアノード流路10Aに循環供給される構成となっている。
【0025】
また、キャッチタンク6は、配管を介して常閉型のパージ弁8、ドレイン弁9が接続される。パージ弁8およびドレイン弁9は、ECU40によって開閉が制御される。
ECU40によりパージ弁8は定期的または非定期的に開放され、アノードオフガスは希釈器13に排出される。これにより、燃料電池スタック10に循環供給されるアノードガスの水素濃度の低下を抑制できる。
パージ弁8から排出されたアノードオフガスは、希釈器13でカソードオフガスにより希釈され、低水素濃度となった後に燃料電池システムSから排出される。
ドレイン弁9は、ECU40によって開閉が制御され、ドレイン弁9を開放することにより、キャッチタンク6に貯まった生成水は燃料電池システムSから排出される。なお、貯まった生成水の排出先は例えば希釈器13である。
【0026】
<燃料循環装置>
図1に示すように、本実施形態に係る燃料循環装置20は、主供給インジェクタ3と、補助供給インジェクタ4と、エジェクタ5とを有している。
燃料循環装置20について、適宜図1を参照しながら、図2を用いて更に説明する。
図2は、本実施形態に係る燃料循環装置20の主要部を説明する模式断面図である。
【0027】
主供給インジェクタ3は、ECU40に制御され、燃料タンク1から供給されたアノードガス(第1流体)を間欠的に噴射する。
主供給インジェクタ3の下流側には、エジェクタ5が配置される。エジェクタ5は、流路の断面積が次第に大きくなるディフューザ5aと、ディフューザ5aの上流に配置される吸込部5bとを有する。また、ディフューザ5aは、上流側に流路の断面積が次第に小さくなるスロート部5cを有する。吸込部5bは、配管24、逆止弁7、配管23、キャッチタンク6および配管22を介して、燃料電池スタック10のアノード流路10Aの出口と接続される。
【0028】
主供給インジェクタ3が燃料タンク1から供給されたアノードガス(第1流体)をディフューザ5aのスロート部5cに向けて噴射することにより、アノードオフガス(第2流体)を吸引するための負圧が発生し、吸込部5bを介してアノードオフガスがスロート部5cからディフューザ5aに吸い込まれる。
ディフューザ5aの下流側は、配管21を介して、燃料電池スタック10のアノード流路10Aの入口と接続されており、燃料タンク1からのアノードガスと吸込部5bから吸引されたアノードオフガスとがディフューザ5aで合流し、合流後の混合ガスはアノード流路10Aに供給される。
【0029】
ここで、主供給インジェクタ3とディフューザ5aは、略同軸(図2に示すa軸)となるように配置されることが好適である。このような配置とすることにより、主供給インジェクタ3とエジェクタ5(ディフューザ5aのスロート部5c)との間に滞留する流体を少なくすることができ、いわゆるストイキを高くすることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る燃料循環装置20は、補助供給インジェクタ4を有している。
補助供給インジェクタ4は、エジェクタ5の上流に配置(主供給インジェクタ3と並列に配置)され、かつ、吸込部5bからディフューザ5aのスロート部5bに吸引されるアノードオフガス(第2流体)の流れに沿うように、燃料タンク1から供給されるアノードガス(第1流体)を噴射するように配置される。
【0031】
ここで、補助供給インジェクタ4の軸線(図2に示すb軸)は、ディフューザ5aのスロート部5cのうち、アノードオフガス(第2流体)が流れる吸込部5bからディフューザ5aに接続するように形成された流入口湾曲面5dにおける接線(図2に示す接線C)と略平行になるよう配置されることが好適である。このような配置とすることにより、補助供給インジェクタ4の軸線(b軸)をアノードオフガス(第2流体)の流れに沿わせることで、アノードオフガスをディフューザ5aに送り込む補助的役割が大きくなり、燃料電池システムSのアノード系の循環能をより高めることができる。
【0032】
次に、図3および図4を用いて、比較例に係る燃料循環装置120と対比しつつ、本実施形態に係る燃料循環装置20のアノードオフガスの循環能について説明する。
図3は、比較例に係る燃料循環装置120の流体の流れを説明する図であり、(a)はインジェクタ103が噴射している状態を示し、(b)はインジェクタ103が噴射を停止するインターバル間の状態を示す。図4は、本実施形態に係る燃料循環装置20の流体の流れを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタ3が噴射する状態を示し、(b)は補助供給インジェクタ4が噴射する状態を示す。
【0033】
まず、図3を用いて、比較例に係る燃料循環装置120について説明する。
比較例に係る燃料循環装置120を備える燃料電池システムは、特許文献1に記載された燃料電池システムと同様の構成を備えるものである。また、比較例に係る燃料循環装置120を備える燃料電池システムと、本実施形態に係る燃料循環装置20を備える燃料電池システムSとは、燃料循環装置120と、燃料循環装置20の構成が異なる以外は、同一であり、説明を省略する。
【0034】
図3(a)に示すように、インジェクタ103からアノードガスGA を噴射させると、アノードオフガスを吸引するための負圧が発生し、アノードオフガスGoff1 は、エジェクタ105の吸込部105bから吸引され、ディフューザ105aを通過し、燃料電池スタックへと供給される。
しかし、図3(b)に示すように、インジェクタ103からのアノードガスGA の噴射を停止するインターバル間の状態においては、アノードオフガスは吸引されず、吸込部105bの内部でアノードオフガスGoff2 が滞留する。
【0035】
次に、図4を用いて、本実施形態に係る燃料循環装置20について説明する。
図4(a)に示すように、主供給インジェクタ3からアノードガスGA3 を噴射させると、アノードオフガスを吸引するための負圧が発生し、アノードオフガスGoff1 は、エジェクタ5の吸込部5bから吸引され、ディフューザ5aを通過して、燃料電池スタック10(図1参照)へと供給さえる点では比較例に係る燃料循環装置120と同じである。
さらに、図4(b)に示すように、本実施形態に係る燃料循環装置20は、主供給インジェクタ3からのアノードガスGA3 の噴射を停止するインターバル間の状態であっても、補助供給インジェクタ4からアノードガスGA4 を噴射することができる。
補助供給インジェクタ4は、アノードオフガスが循環する方向に沿う方向に、アノードガスGA4 を噴射することで、アノードオフガスGoff2 の循環をアシストし、燃料電池スタック10に供給する。
【0036】
ちなみに、図3の比較例と図4の実施形態例について、単位時間当たり同じ量(例えばXcc)のアノードガスGAを間欠的に噴射するとする。そうすると、比較例ではインジェクタ103がXccのアノードガスGAを全量噴射し、一方、実施形態例では、主供給インジェクタ3がXccのうちのX1ccのアノードガスGAを噴射し、補助供給インジェクタ4が残りのX2ccのアノードガスGAを噴射する(X=X1+X2)。なお、実施形態例では、主供給インジェクタ3の休止期間(OFF期間中)に、当該休止期間を埋めるように補助供給インジェクタ4がアノードガスGAを噴射する。
【0037】
このように、本実施形態に係る燃料循環装置20によれば、間欠的にアノードガスを噴射するインジェクタを用いても、主供給インジェクタ3からのアノードガスの噴射を停止するインターバル間の状態であっても、補助供給インジェクタ4がアノードオフガスの循環をアシストするようにアノードガスを噴射することができるので、アノードオフガスの循環能を向上させることができる。
【0038】
≪ECU≫
次に、ECU40が、主供給インジェクタ3および補助供給インジェクタ4を制御する制御方法について説明する。
図5は、ECU40がインジェクタのタイムインターバルを決定する流れを説明する図である。
【0039】
ECU40は、例えば、図示しないスロットルペダルの開度(出力要求)を検出し、STK要求電流生成器49が、検出した値に応じてSTK要求電流を生成(設定)する。次に、積算器41でSTK要求電流に定数Kを積算して、要求水素流量を算出する。
ここで、定数Kは、燃料電池スタック10が発電するのに必要となる要求水素量を算出するためのものであり、燃料電池スタック10の性能・構成により一意に定まる定数である。
次に、ECU40は、「要求水素流量−タイムインターバルマップ」42を用いて、求めた要求水素電流に対応する、水素流量Ti(タイムインターバル)値を求める。
【0040】
また、ECU40は、「STK要求電流−目標圧力マップ」43を用いて、燃料電池スタック10に供給するアノードガスの目標圧力を求め、減算器44へ送る。
ECU40の減産器44は、目標圧力から圧力センサP(図1参照)で検出した燃料電池スタック10のアノードガスの圧力(検出圧力)を減算する。
ECU40のPID制御部45は、目標圧力と検出圧力との差について、PID制御を行い、要求圧力値を算出する。
さらに、ECU40は、「要求圧力値−タイムインターバルマップ」46を用いて、圧力Ti(タイムインターバル)値を求める。
【0041】
加算器47は、「要求水素流量−タイムインターバルマップ」42に基づく水素流量Ti値と、「要求圧力値−タイムインターバルマップ」46に基づく圧力Ti値を加算し、Ti(タイムインターバル)値を算出する。
インジェクタドライバ48は、加算器47で算出されたTi値に基づいて、主供給インジェクタ3および補助供給インジェクタ4へのタイムインターバルを決定し、主供給インジェクタ3および補助供給インジェクタ4を制御する。なお、インジェクタドライバ48によるタイムインターバルの決定は、主供給インジェクタ3の休止期間を埋めるように補助供給インジェクタ4を作動させるというものである。
【0042】
<高負荷時>
図6は、本実施形態の燃料循環装置20のインジェクタの作動タイミングを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタ3の作動タイミングを、(b)は、補助供給インジェクタ4の作動タイミングを、(c)は燃料循環装置20のインジェクタ全体としての供給流量を示す図である。
図6(a)に示すように、主供給インジェクタ3は、間欠的に燃料タンク1からの水素(アノードガス)を噴射するため、最大Dutyの状態でも、主供給インジェクタ3が水素の噴射を停止するインターバル間の状態が存在する。そこで、図6(b)に示すように、主供給インジェクタ3が水素の噴射を停止するインターバル間の状態において、補助供給インジェクタ4が燃料タンク1からの水素(アノードガス)を噴射する。
図6(c)に示すように、燃料循環装置20のインジェクタ全体(主供給インジェクタ3および補助供給インジェクタ4)の供給流量は、時間的に連続して供給される。これにより、アノードオフガスも連続的に循環するため、アノードオフガスの滞留を防ぐことができ、アノードオフガスの循環能を向上することができる。
【0043】
図7は、本実施形態に係る燃料循環装置20と比較例に係る燃料循環装置120について、燃料電池スタックが要求するSTK要求電流とインジェクタが供給するアノードガスの流量との関係を示すグラフである。
比較例に係る燃料循環装置120(図3参照)を備えた燃料電池システムは、インジェクタが1つであるため、STK要求電流がIの点において、インジェクタ103は最大流量値に達し、I以上のSTK要求電流に対して、これ以上流量を大きくすることはできない。
このため、STK要求電流がIを超えた状態が継続すると、燃料電池スタック10が劣化するおそれがある(いわゆるガス欠による劣化)。
これに対し、本実施形態に係る燃料循環装置20を備える燃料電池システムSは、複数のインジェクタ(主供給インジェクタ3、補助供給インジェクタ4)を有するため、燃料循環装置20が燃料電池スタック10に供給できる燃料タンク1からの水素(アノードガス)の供給流量の最大値も増加する。
これにより、燃料電池スタック20が必要とするSTK要求電流に対応する要求水素流量(図5参照)に対して、過剰に水素(アノードガス)を供給することが可能となり、燃料電池スタック20の発電の安定性を確保することが気できる。
【0044】
なお、単なる供給能力不足であれば、比較例のインジェクタ103を供給能力に見合う大容量のものにすればよい。しかし、インジェクタ103を大容量のものにしたとしても、インジェクタ103は間欠作動するものであるから、どうしてもインターバル(休止期間)が生じ、このインターバルが、エジェクタ105の効率を低下させる。これに対して、本実施形態では、2つのインジェクタを用い、つまり、主供給インジェクタ3の休止期間を埋めるように補助供給インジェクタ4を作動させるので、エジェクタ5の効率(循環能力)を高めることができる。
【0045】
<低・中負荷時>
次に、燃料電池スタック10の要求電流が1つのインジェクタで賄える要求水素流量の場合(低・中負荷時)について、比較例に係る燃料循環装置120と、本実施形態に係る燃料循環装置20とを比較する。即ち、燃料電池スタック10の要求電流がI(図7参照)以下の場合について説明する。
図8は、比較例に係る燃料循環装置120の作動タイミングを説明する図である。図9は、本実施形態の燃料循環装置20の作動タイミングを説明する図であり、(a)は主供給インジェクタ3の作動タイミングであり、(b)は補助供給インジェクタ4の作動タイミングである。
特に、低・中負荷帯においては、アノードオフガスの滞留を減らすために、短いタイムインターバル(主供給インターバル)が設定され、図8に示すように、1つのインジェクタの作動回数が多くなる。
【0046】
これに対し、図9に示すように、本実施形態に係る燃料循環装置20によれば、主供給インジェクタ3と補助供給インジェクタ4とを有することにより、比較例に係る燃料循環装置120と同等のアノードガス供給能・アノードオフガス循環能を有しつつ、各インジェクタの作動回数を大幅に少なくすることができる。
これにより、インジェクタの耐久性の課題を解決することにより、燃料電池システムSの耐久性も向上する。
【0047】
<変形例>
なお、本実施形態に係る燃料循環装置20は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態の構成においては、一つのディフューザ5aに対して、1つの主供給インジェクタ3と補助供給インジェクタ4とを備える燃料循環装置20として説明したが、燃料循環装置20は補助供給インジェクタ4を複数備えるものとしてもよい。
【0048】
また、図5では、フィードフォワード制御により水素流量Ti値を算出するとともに、フィードバック制御により圧力Ti値を算出し、両者を足し合わせることでタイムインターバル(Ti値)を算出し、このTi値を用いてインジェクタドライバ48が両インジェクタ(主供給インジェクタ3と補助供給インジェクタ4)を作動させることとした。この両インジェクタの作動について、インジェクタドライバ48が、Ti値により定まる噴射量を両インジェクタに、例えば、主供給インジェクタ3が8割、補助供給インジェクタ4が2割というように割り振り、それぞれ割り振られた量を噴射するように両インジェクタをそれぞれPWM(Pulse Width Modulation)駆動させるようにしてもよい。つまり、インジェクタドライバ48が、主供給インジェクタ3を介してTi値により定まる8割分をPWM駆動により噴射させ、残りの2割分を、補助供給インジェクタ4を介して、主供給インジェクタ3の休止期間を埋めるように(時間的な位相差をもって略交互に)、PWM駆動により噴射させてもよい。このようにすれば、主供給インジェクタ3が100%デューティで作動しているときにも生じる休止期間でも、補助供給インジェクタ4により水素(アノードガス)を噴射でき、エジェクタ5の効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 燃料タンク
2 レギュレータ
3 主供給インジェクタ(第1インジェクタ)
4 補助供給インジェクタ(第2インジェクタ)
5 エジェクタ
5a ディフューザ
5b 吸込部
5c スロート部
5d 流入口湾曲部
6 キャッチタンク
7 逆止弁
8 パージ弁
9 ドレイン弁
10 燃料電池スタック
10A アノード流路
10C カソード流路
11 コンプレッサ
12 背圧弁
13 希釈器
20 燃料循環装置
21,22,23,24 配管
30 パワーコントロールユニット(PCU)
40 電子制御装置(ECU)
P 圧力センサ
S 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムのアノード系において、燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスを循環させる燃料循環装置であって、
第1流体を間欠的に噴射する第1インジェクタと、
前記第1インジェクタの下流に配置され、前記第1流体の噴射により発生する負圧によって第2流体を吸引し、前記第1流体に合流させて送出するディフューザを有するエジェクタと、
前記エジェクタの上流に配置され、前記ディフューザのスロート部に吸引される前記第2流体の流れに沿って前記第1流体を噴射する1つあるいは複数の第2インジェクタと、を備えており、
前記第1インジェクタと前記第2インジェクタとは、時間的な位相差をもって略交互に前記第1流体を噴射する
ことを特徴とする燃料循環装置。
【請求項2】
前記第1インジェクタは、
前記ディフューザと略同軸になるよう配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料循環装置。
【請求項3】
前記第2インジェクタは、
その軸線が、前記ディフューザのスロート部のうち、前記第2流体の流入口湾曲部における接線と略平行になるよう配置される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料循環装置。
【請求項4】
前記第1流体は、燃料タンクから供給されたアノードガスであり、
前記第2流体は、前記燃料電池スタックから排出されたアノードオフガスである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の燃料循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179333(P2011−179333A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41593(P2010−41593)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】