説明

燃料樹脂チューブ

【課題】ポリブチレンナフタレート系樹脂の優れた耐燃料透過性を維持しながら、耐衝撃性(特に靭性)に優れる樹脂からなる燃料樹脂チューブを提供する。
【解決手段】ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び相溶化剤(C)を含む熱可塑性樹脂材料からなる主層を有する燃料樹脂チューブであって、ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)は、IV値が0.6〜1.5dl/gの範囲にあり、且つ末端カルボキシル基濃度が12〜30当量/tonの範囲にあるものであり、ポリアミド系樹脂(B)は、主成分がポリアミド11である軟質系ポリアミド系樹脂であり、相溶化剤(C)は、グリシジル基又はカルボキシル基を少なくとも有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料(燃料油)が通る燃料樹脂チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン等の燃料油が中を通る燃料樹脂チューブに用いられる樹脂の一つとして、耐燃料透過性に優れる(燃料透過性が低い)ことから、ポリブチレンナフタレート系樹脂(PBN系樹脂)が提案されている。
【0003】
しかし、ポリブチレンナフタレート系樹脂は、結晶性樹脂であることから、耐衝撃性(特に靭性)が劣り、特許文献1記載のように、他の樹脂と積層して用いたり、特許文献2記載のように、成形時の温度を操作することで、結晶状態を制御して用いたりしなくてはならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−239429号公報
【特許文献2】特開2005−281342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、ポリブチレンナフタレート系樹脂の優れた耐燃料透過性を維持しながら、耐衝撃性(特に靭性)に優れた樹脂からなる燃料樹脂チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の燃料樹脂チューブは、ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び相溶化剤(C)を含む熱可塑性樹脂材料からなる主層を有する燃料樹脂チューブであって、前記ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)は、全体の80〜100モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分である酸成分と、テトラメチレングリコール成分が主であるグリコール成分とから構成され、IV値が0.6〜1.5dl/gの範囲にあり、且つ末端カルボキシル基濃度が12〜30当量/tonの範囲にあるものであり、前記ポリアミド系樹脂(B)は、主成分がポリアミド11又はポリアミド12である軟質系ポリアミド系樹脂であり、前記相溶化剤(C)は、グリシジル基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選択される一種以上の官能基を有するものであり、該相溶化剤(C)の含有量が前記ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量(A+B)100質量部に対し、0.1〜20質量部であることを特徴としている。
【0007】
ここで、主層とは、燃料樹脂チューブの、耐燃料透過性及び強度を発現するための層をいい、異なる層を接着するために層の間に設けられる接着層や、耐候性等を向上させるために燃料樹脂チューブの内側や外側に設けられる表層は含まないものであり、本発明において、主層は単層(一層)である。
【0008】
また、ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との質量比(A/B)としては、特に限定はされないが、20/80〜90/10であることが好ましく、20/80〜40/60であることがより好ましい。
【0009】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0010】
1.ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)
ポリブチレンナフタレート系樹脂(以下、PBN系樹脂と略称することがある。)は、酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分以外の他の酸成分を含んでいてもよく、グリコール成分としては、テトラメチレングリコール成分以外の他のグリコール成分を含んでいてもよい。
【0011】
1−1.酸成分
PBN系樹脂の酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が酸成分全体を100モル%としたとき80〜100モル%であり、より好ましくは、90〜100モル%である。
【0012】
また、PBN系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において他の酸成分を含有してもよく、その含有量は酸成分全体を100モル%としたとき0〜20モル%であり、より好ましくは、0〜10モル%である。
【0013】
1−1−1.ジカルボン酸成分
他の酸成分としては、特に限定はされないが、ジカルボン酸成分が好ましく、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、tert−ブチルフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、フェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフィドジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、デカリンジカルボン酸、テレラリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸など、これらのジカルボン酸からなるエステル形成性誘導体などの成分が例示される。また、これらの成分は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもテレフタル酸成分、イソフタル酸成分が好ましい。従ってPBN系樹脂の酸成分は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分並びにテレフタル酸成分及び/又はイソフタル酸成分からなる、即ち、PBN系樹脂の酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分と、テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分の一方又は両方とからなることが好ましく、その比率は、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が80〜100モル%であり、テレフタル酸成分とイソフタル酸成分との合計で0〜20モル%であることが好ましい。
【0014】
1−1−2.オキシ酸成分
また、PBN系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲においてオキシ酸成分を含有してもよく、その含有量は酸成分全体を100モル%としたとき2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
オキシ酸成分としては、特に限定はされないが、オキシ安息香酸、ヒドロキシジフェニルカルボン酸などの成分が例示される。
【0015】
1−1−3.3官能以上の酸成分
また、PBN系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲において3官能以上の酸成分を含有してもよく、その含有量は酸成分全体を100モル%としたとき2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
3官能以上の酸成分としては、特に限定はされないが、トリメリット酸などの成分が例示される。
【0016】
1−2.グリコール成分(多価アルコール成分)
PBN系樹脂のグリコール成分は、テトラメチレングリコール成分が主成分であり、テトラメチレングリコール成分の含有量は、特に限定はされないが、グリコール成分全体を100モル%としたとき80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。
【0017】
1−2−1.他のグリコール成分
また、PBN系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において他のグリコール成分を含有してもよく、その含有量はグリコール成分全体を100モル%としたとき0〜20モル%が好ましく、0〜10モル%がより好ましい。
他のグリコール成分としては、特に限定はされないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールA、レゾルシン、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニルなどの二価フェノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ビスヒドロキシエトキシフェニルフルオレンなどのフルオレンなどの成分が例示される。また、これらの成分は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもエチレングリコールが好ましい。
【0018】
1−2−2.3官能以上のアルコール成分
また、PBN系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲において3官能以上のアルコール成分を含有していてもよく、その含有量は多価アルコール(含むグリコール)成分全体を100モル%としたとき2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
3官能以上のアルコール成分としては、特に限定はされないが、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが例示される。
【0019】
1−3.極限粘度(IV値)
熱可塑性樹脂組成物においては、ポリアミド系樹脂のマトリクス中にPBN系樹脂が分散しているほうが、ポリアミド系樹脂の持つ優れた機械的特性を維持したまま、耐燃料透過性を改善できる。そのため、PBN系樹脂は、樹脂0.6gをオルトクロロフェノール50ml中に、加熱溶解した後、一旦冷却させ、その溶液をオストワルド式粘度管を用いて25℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した極限粘度(IV値)の上限において、1.5dl/g以下であり、1.2dl/g以下が好ましい。この極限粘度が1.5dl/gを超えると、PBN系樹脂の溶融粘度が増加し、ポリアミド系樹脂との均質な溶融混合が困難となり、樹脂材料の溶融混合可能性が低下する。一方、かかる極限粘度の下限は0.6dl/g以上であり、0.8dl/g以上が好ましく、より好ましくは1.0dl/g以上である。極限粘度が0.6dl/g未満では機械的特性、特に耐衝撃性が著しく低下しPBN系樹脂がマトリクスを構成した場合、得られる樹脂材料の耐衝撃性が低下する。
【0020】
1−4.末端カルボキシル基濃度
末端カルボキシル基濃度が12当量/ton未満では、PBN系樹脂と相溶化剤との反応性が低く、PBN系樹脂がポリアミド系樹脂と完全に層分離を起こし、熱可塑性樹脂材料(燃料樹脂チューブ)の機械的特性が著しく低下する。一方、末端カルボキシル基濃度が30当量/tonを超えると、PBN系樹脂自体の熱安定性が低下し、溶融混合時及び成形時の熱履歴によりPBN系樹脂の分解が進み、樹脂材料としての機械的特性が低下する。
末端カルボキシル基濃度としては、15〜25当量/tonであることが好ましく、より好ましくは、20〜25当量/tonである。
【0021】
この末端カルボキシル基濃度は以下の方法により測定した。すなわち、A.Conixの方法に準じた測定法(Makromal.Chem.26,226(1958))、具体的には、樹脂2.0gにo−クレゾール/クロロホルム(3/2)溶液を50ml加え、90℃で1時間溶解した後、30分間放冷した。その後、クロロホルムを30ml加え、さらに13%塩化リチウムメタノール溶液を5ml加え、N/25エタノール性水酸化ナトリウム溶液で滴定する方法を用いた。
【0022】
1−5.PBN系樹脂の重合
PBN系樹脂を重合するには、従来公知の各種重合方法を適用することが可能である。その一例として、テトラメチレングリコール(1,4ブタンジオール)並びに2,6−ナフタレンジカルボン酸のジメチルエステルおよび共重合成分(テレフタル酸ジメチルエステルなど)をメチルアルコールを留去しながらエステル交換させ、その後減圧下で重縮合を行う方法が例示される。また、更に極限粘度を上げる為に固相重合を行うことが好ましい。
エステル交換触媒としては、酢酸カルシウムや酢酸マグネシウム等が好適に例示される。また、エステル交換触媒としてはその他にも、マグネシウム、マンガン、カルシウム又は亜鉛などの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、酸化物などが挙げられる。
また、かかるエステル交換触媒を失活するためにトリメチルホスフェートなどのリン化合物をエステル交換反応後に添加することが好ましい。
また、重合反応触媒としては、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、蓚酸チタンなどが例示される。
【0023】
2.ポリアミド系樹脂(B)
ポリアミド系樹脂としては、主成分がポリアミド11又はポリアミド12である軟質系ポリアミド系樹脂であれば、特に限定はされないが、具体的には、ウンデカンラクタム又はラウリルラクタムを開環重合して得られたポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂又はこれらの混合物若しくは共重合体などが例示される。
また、ポリアミド系樹脂の重合度としては、特に限定はされないが、1%の濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が、1.5〜5.0の範囲になるものが好ましく、2.0〜4.0の範囲になるものがより好ましい。
さらに、成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて他のポリアミド系樹脂との混合物として用いることも実用上好適である。
【0024】
3.相溶化剤(C)
PBN系樹脂とポリアミド系樹脂との分散状態を好適化させることを目的として添加される相溶化剤としては、特に限定はされないが、グリシジル基、カルボキシル基(無水カルボキシル基を含む)および水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するものである。
相溶化剤(C)の含有量は、ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量(A+B)100質量部に対し、0.2〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0025】
相溶化剤としては、例えば、エチレン−グリシジルメタアクリレート(EGMA)、変性EGMA、エチレン−グリシジルメタアクリレート−酢酸ビニル三元共重合体、エチレン−グリシジルメタアクリレート−アクリル酸メチル三元共重合体、エチレン−メチルアクリレート−アクリル酸三元共重合体、変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、変性エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、変性ポリプロピレン(変性PP)、変性ポリエチレン(変性PE)、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ化SBS)、エポキシ化スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(エポキシ化SEBS)、酸変性SBS、酸変性SEBS、グリシジルメタアクリレート−メチルメタアクリレート共重合体、グリシジルメタアクリレート−スチレン共重合体、熱可塑性ウレタンなどが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いられる。
上記変性EGMAとしては、例えば、EGMAに、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、PMMAとブチルアクリレートとの共重合体などをグラフトしたものなどが挙げられる。
また、変性EEAとしては、例えば、無水マレイン酸変性EEAなどが挙げられる。
また、変性エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体としては、例えば、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体に、PS、PMMA、AS、PMMAとブチルアクリレートとの共重合体などをグラフトしたものなどが挙げられる。
また、変性PPとしては、例えば、無水マレイン酸変性PPなどが挙げられる。
また、変性PEとしては、例えば、無水マレイン酸変性PEなどが挙げられる。
本発明に用いる相溶化剤としては、特にグリシジル基を低濃度含有したポリマータイプの相溶化剤が好ましく、エチレン−グリシジルメタアクリレート(EGMA)にて、GMA濃度が6〜12質量%であるものが好適である。GMA濃度が6質量%未満では相溶化の効果が低く特性改善とならず、GMA濃度が12質量%を超えると、反応性が高く溶融混練時にゲル状の架橋物が生成する恐れがある。
【0026】
4.熱可塑性樹脂材料
熱可塑性樹脂材料としては、特に限定はされないが、柔軟性があることが好ましいことから、曲げ弾性率が1500MPa以下であることが好ましい。
【0027】
5.充填剤
熱可塑性樹脂材料は、強度及び寸法安定性などを向上させるため、必要に応じて充填材を用いてもよい。充填材の形状としては繊維状であってもよいし、非繊維状であってもよいし、繊維状の充填材と非繊維状の充填材とを組み合わせて用いてもよい。かかる充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状および/または非繊維状の充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。強度および寸法安定性などを向上させるため、かかる充填剤を用いる場合、その配合量は特に制限はないが、通常、ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量(A+B)100質量部に対して、30〜400質量部配合される。
【0028】
6.その他の添加剤
熱可塑性樹脂材料は、結晶核剤、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどの離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤などの添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、熱可塑性樹脂材料を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0029】
熱可塑性樹脂材料には、PBN系樹脂およびポリアミド系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ゴム質重合体、ポリアルキレンオキサイドあるいはカルボキシル基などを含有するオレフィン系共重合体などの樹脂などを本発明の効果を損なわない範囲で配合することを挙げることができる。ポリアミド系樹脂の耐湿性改良のためにはポリオレフィン系重合体を含むことなどが例示できる。これらの樹脂の含有量はポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量(A+B)100質量部に対し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0030】
7.熱可塑性樹脂材料の製造
PBN系樹脂、ポリアミド系樹脂および任意に相溶化剤を混合するプロセスについては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成などの方法により得られる溶媒キャスト法や、非相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。溶融混練により分散化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、非相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0031】
8.成形方法
成形方法としては、特に限定はされないが、通常のチューブの成形に用いられる押出成形などが例示できる。また、押出成形では、分散方向を容易に制御することが可能であることから、本発明の効果が得られやすい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ポリブチレンナフタレート系樹脂の優れた耐燃料透過性を維持しながら、耐衝撃性(特に靭性)に優れた樹脂からなる燃料樹脂チューブを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0033】
本発明の燃料樹脂チューブは、熱可塑性樹脂材料を押出成形機を用いて一層の管状に成形したものである。
そこで、本発明の実施例(4種類)又は比較例(9種類)に用いた熱可塑性樹脂材料の配合及び評価を表1に示す。
配合欄の単位は、質量%である。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例又は比較例に用いた原料成分を以下に示す。
A−1は、高分子量PBNであり、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテトラメチレングリコールとからなるポリブチレンナフタレート樹脂(PBN樹脂)であり、帝人化成社の商品名「TQB−OT」である。
この樹脂は、通常のポリエステル重合方法によって、液相重合を行ったのち、更に固相重合を行うことによって、分子量を上げた為、IV値1.1、末端カルボキシル基濃度17当量/tonであった。
【0036】
A−2は、低分子量PBNであり、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテトラメチレングリコールとを液相重合を行ったポリブチレンナフタレート樹脂(PBN樹脂)である。
この樹脂は、IV値0.5、末端カルボキシル基濃度35当量/tonであった。
【0037】
A−3は、酸成分(ジカルボン酸成分)として、2,6−ナフタレンジカルボン酸を90モル%とテレフタル酸を10モル%とを用い、グリコール成分として、テトラメチレングリコールを用いることによって得られた共重合ポリブチレンナフタレート樹脂であり、IV値0.8、末端カルボキシル基濃度25当量/tonであった。
【0038】
A−4は、酸成分(ジカルボン酸成分)として、2,6−ナフタレンジカルボン酸を70モル%とテレフタル酸を30モル%とを用い、グリコール成分として、テトラメチレングリコールを用いることによって得られた共重合ポリブチレンナフタレート樹脂であり、IV値0.7、末端カルボキシル基濃度29当量/tonであった。
【0039】
B−1は、ポリアミド6樹脂であり、宇部興産社の商品名「UBEナイロン1022B」 である。
この樹脂は、カプロラクタム開環重縮合によって重合され、曲げ弾性率2500MPaの硬質系ポリアミド樹脂である。
【0040】
B−2は、ポリアミド11樹脂であり、アルケマ社の商品名「Rilsan BESN P20」である。
この樹脂は、曲げ弾性率450MPaの軟質系ポリアミド樹脂である。
【0041】
C−1は、GMA(グリシジルメタアクリレート)変性オレフィンであり、エチレン−アクリル酸メチル共重合体にグリシジルメタアクリレート6質量%を付加させた、住友化学社の商品名「ボンドファースト7M」である。
【0042】
C−2は、GMA(グリシジルメタアクリレート)変性アクリルであり、アクリル−PMMA(ポリメチルメタアクリレート)グラフト共重合体にグリシジルメタアクリレート(GMA)を共重合させた、東亞合成社の商品名「レゼダGP−301」である。
【0043】
C−3は、カルボン酸変性オレフィンであり、エチレン−1−ブテン−マレイン酸変性共重合体であり、三井化学社の商品名「タフマーMH0710」である。
【0044】
C−4は、無変性オレフィンであり、エチレン−エチルアクリレートコポリマーであり、日本ユニカー社の商品名「NUC−6220」である。
【0045】
各熱可塑性樹脂材料は次のようにして作成した。
各試料の配合に従って各原料成分を混合した混合物を、同方向2軸押出機(日本製鋼社の「TEX30α」)に供給し、280℃の加工温度にてスクリュによる溶融混練を行い、吐出されたストランドを水冷冷却後カットし、ペレット状の熱可塑性樹脂材料を得た。
【0046】
(1)耐燃料透過性(ガソリン透過性)の評価
ガソリン透過性については、ペレット状の熱可塑性樹脂材料を、ダイ幅30cmのTダイに接続されたスクリュ径40mmの単軸押出機に供給し、Tダイから吐出された溶融樹脂膜を60℃に温度調整された金属ロールにて冷却固化させるTダイ製膜法にて100μmのシート状成形体に成形した。
そのシート状成形体をカップ法における気相法で減少重量測定による透過量の測定を実施した。
試験条件としては、試験温度:60±2℃、試験薬品:ENEOSレギュラーガソリン、測定時間:24、48、72時間の計3回測定し、平均値とした。カップ法における透過面積は1.133×10−3であった。
【0047】
(2)靭性(引張破断伸度)の評価
溶融樹脂を高圧高速で金型に射出し、金型内で冷却固化して成形品を成形する射出成形機にペレット状の熱可塑性樹脂材料を供給し、ISO527−1に準拠した引張ダンベル試験片を成形した。
得られた試験片を、ISO527−2記載の引張試験を試験速度100mm/minにて、引張破断伸度を測定した。この引張破断伸度をもって、樹脂材料の靱性を示す特性とした。
【0048】
(3)剛性(曲げ弾性率)の評価
ISO178に準じた測定方法で、試験速度2mm/minにて試験を行った。
【0049】
以上の熱可塑性樹脂材料の評価結果より以下のことが導かれた。
比較例1〜5より、ポリアミド11樹脂にPBN樹脂を配合することによってガソリン透過性は著しく低減された。しかし、引張破断伸度は低くとても脆い素材となった。
実施例1より、相溶化剤としてGMA変性オレフィンを配合すると、ガソリン透過性は、PBN樹脂単体である比較例1と同程度まで低減されると共に破断伸度は200%以上と、著しく靱性が改善された。
【0050】
実施例2、3より、相溶化剤の配合によって、靱性およびガソリン透過性が改善されることは、GMA変性オレフィンと同様にGMA変性アクリル、酸変性オレフィンでも認められた。
比較例6のように、変性していない軟質オレフィンを配合すると、靭性の改善はあるものの、実施例1〜3のような著しい改善は認められず、ガソリン透過性は悪化した。
【0051】
比較例9のように、ポリアミド系樹脂としてポリアミド6樹脂を用いると、剛性の向上及び靭性の改善はあるものの、ポリアミド11樹脂を用いた実施例1のような著しい靭性の改善はなかった。
【0052】
実施例1と違い、比較例7のように、PBN樹脂を低分子量タイプにすると、相溶化剤を併用しても靱性の改善がなく、また実施例1と比べ、燃料透過性も若干悪かった。
【0053】
実施例4、比較例8より、PBN樹脂を共重合ポリマーとした場合、共重合される第3成分量(テレフタル酸)が酸成分の20モル%を超えると、ポリブチレンナフタレートの結晶性が著しく低下し、その結果、燃料透過性が著しく悪化した。
【0054】
本発明の実施例によれば、次の(a)〜(c)の効果が得られる。
(a)ポリブチレンナフタレート系樹脂の優れた耐燃料透過性(0.03mg・mm/cm・day以下)を維持しながら、耐衝撃性(特に靭性)に優れたものが得られる。
(b)靭性が優れる(引張破断伸度:160%以上)ことから、取扱の利便性が図れる。
(c)主層一層のみからなることで、成形が容易である。
【0055】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び相溶化剤(C)を含む熱可塑性樹脂材料からなる主層を有する燃料樹脂チューブであって、
前記ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)は、全体の80〜100モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分である酸成分と、テトラメチレングリコール成分が主であるグリコール成分とから構成され、IV値が0.6〜1.5dl/gの範囲にあり、且つ末端カルボキシル基濃度が12〜30当量/tonの範囲にあるものであり、
前記ポリアミド系樹脂(B)は、主成分がポリアミド11又はポリアミド12である軟質系ポリアミド系樹脂であり、
前記相溶化剤(C)は、グリシジル基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選択される一種以上の官能基を有するものであり、該相溶化剤(C)の含有量が前記ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)との合計量(A+B)100質量部に対し、0.1〜20質量部であることを特徴とする燃料樹脂チューブ。
【請求項2】
前記ポリブチレンナフタレート系樹脂(A)の酸成分は、全体の0〜20モル%がテレフタル酸成分及び/又はイソフタル酸成分である請求項1記載の燃料樹脂チューブ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂材料の曲げ弾性率が1500MPa以下である請求項1又は2記載の燃料樹脂チューブ。

【公開番号】特開2010−236660(P2010−236660A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87117(P2009−87117)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】