燃料電池、および燃料電池の製造方法
【課題】発電層部材の表面に沿った方向の排水性を高めて、発電層部材の表面積あたりの電流値を高く設定しても局所的な水没領域が発生しにくくした燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体4の上面側に燃料拡散層6、下面側に酸素流路材2を配置する。酸素流路材2は発電セルの対向する側面に形成した空気取り入れ口から取り込んだ大気中の酸素を膜電極接合体4に供給する。酸素流路材2の表面にはカーボン粒子の拡散層3が形成され、拡散層3の膜電極接合体4に接する面に並列な多数の排水溝3Mが形成されている。溝幅を30μmとすることで、膜電極接合体4の生成水が強力に収集され、膜電極接合体4の水没(フラッディング)を回避できる。
【解決手段】膜電極接合体4の上面側に燃料拡散層6、下面側に酸素流路材2を配置する。酸素流路材2は発電セルの対向する側面に形成した空気取り入れ口から取り込んだ大気中の酸素を膜電極接合体4に供給する。酸素流路材2の表面にはカーボン粒子の拡散層3が形成され、拡散層3の膜電極接合体4に接する面に並列な多数の排水溝3Mが形成されている。溝幅を30μmとすることで、膜電極接合体4の生成水が強力に収集され、膜電極接合体4の水没(フラッディング)を回避できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電層部材に酸素を供給するとともに発電層部材で生成された水分子を運び出す酸素供給層を備えた燃料電池、詳しくは、発電層部材の水分過剰な部分から効率的に液体水を排出する酸素供給層の表面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
発電層部材の一方の面側に密封された水素ガス供給空間を配置し、発電層部材の他方の面側に酸素供給層を備えた燃料電池が実用化されている。発電層部材は、水素ガス供給空間から水素イオンを取り込み、酸素供給層側の面で水素イオンを酸素と化合させて発電を行う。酸素供給層は、発電層部材の表面に必要な量の酸素を供給するとともに、発電層部材の酸素供給層側で生成された水分子を運び出す拡散経路、または排出経路として機能する。
【0003】
特許文献1には、発電層部材を有する発電セルを積み重ねて直列に接続した燃料電池が示される。そして、発電セルごとの側面の開口を通じて大気中の酸素を取り込み、同じ開口を通じて酸素供給層の水分を大気中に蒸発拡散させる。発電層部材には、高分子電解質膜の両面に多孔質導電性の触媒層を形成した膜電極接合体が採用され、板状で通気性を有する酸素供給層の開口に臨む側面側が大気に開放されている。酸素供給層の側面側から取り入れられた酸素は、酸素供給層の中を三次元的に拡散して、酸素供給層の片方の底面を通じて膜電極接合体の全面に供給される。膜電極接合体で生成された水分子は、水蒸気として酸素供給層へ取り込まれ、水蒸気の濃度勾配に従って側面側へ拡散し、開口を通じて大気中へ排出される。
【0004】
特許文献2には、酸素供給層の一方の側面側から他方の側面側へ強制的に大気を送り込んで貫流させる燃料電池が示される。そして、大気を貫流させる酸素供給層の下流側では上流側よりも組織密度を下げて流路抵抗を低くしている。
【0005】
特許文献3には、発電セルの対向する側面を貫通させた溝状の空気流路が形成されたセパレータを酸素供給層に重ねて配置した燃料電池が示される。そして、空気流路に接する酸素供給層の組織密度を厚さ方向に変化させ、膜電極接続体に接する拡散層の組織密度を中間層よりも高くして、中間層の保水性を高めている。
【0006】
特許文献4には、発電層部材に重ねて配置した酸素供給層の高分子電解質膜側の面に触媒層を形成した燃料電池が示される。そして、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを自然拡散に頼って受動的に行っている。酸素供給層を厚み方向に貫通させて口径100μm以下の貫通孔が400個/mm2の高密度で形成されて、厚み方向の拡散性能が高められている。高分子電解質膜側から反対側の面へ向かって断面積が増える貫通孔(円錐状)は、酸素や水蒸気の通過抵抗を下げつつ、高分子電解質膜側の接触面積と酸素供給層の強度とを高めている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6423437号明細書
【特許文献2】特開2004−273392号公報
【特許文献3】特開2005−174607号公報
【特許文献4】特開2002−110182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機器と一体に持ち運ばれる燃料電池は、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを自然拡散に頼って受動的に行うことが望ましい。そのような燃料電池は、起動に際して外部からの電力供給に頼らないことが望ましく、大気の循環機構やブロアーは部品点数を増やして、燃料電池の小型化軽量化に反するからである。特許文献2、3に示される燃料電池は、そのような大気の循環機構やブロアーを前提としたものである。
【0009】
しかし、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを全くの自然拡散に頼る場合、水蒸気の排出量は環境次第となり、低温高湿の環境では酸素供給層を通じた水蒸気の排出量が減る。そして、酸素供給層を通じた水蒸気の排出量以上に発電層部材で水分子が生成されると、発電層部材と酸素供給層との界面付近に液体水が停滞し、発電層部材の表面が部分的に水没(フラッディング)する。水没した領域では発電層部材への酸素供給が妨げられて発電性能が損なわれるので、水没していない部分での電流密度が高って発電セルの起電力が低下する。そして、そのまま運転を継続すると、電流密度の高まった領域に水没領域が広がって発電層部材の全面水没に至り、発電が停止する可能性もある。
【0010】
従って、酸素供給層に大気を強制循環させる能動型に比較して、自然拡散に頼る受動型では、低温高湿を想定して、発電層部材の表面積あたりの電流値(=水生成量)を極端に小さく設定する必要がある。発電層部材の表面積あたりの電流値を極端に小さく設定すると、発電層部材の面積が大きくなって発電部が大型化し、かえって能動型よりも燃料電池が大型化する。
【0011】
特許文献4に示される燃料電池は、そのような受動型を前提として、発電層部材と酸素供給層との界面付近の水蒸気の排出性能を高めている。しかし、酸素供給層は、その厚み方向にのみ水蒸気の拡散性能が高められているに過ぎず、発電層部材に沿った方向の水分移動は、酸素供給層の自然拡散に全面依存している。従って、酸素供給層内の通気状態の悪い領域(側面の開口から遠い位置等)で局所的に水蒸気分圧が高まって、液体水に水没した領域が形成されてしまう。水没した領域から発電層部材の面に沿った方向への液体水の排除能力が無いので、電流密度の高まった領域に水没領域が広がって、遅かれ早かれ発電層部材の全面水没に至る可能性がある。
【0012】
本発明は、発電層部材の表面に沿った方向の排水性を高めて、その表面積あたりの電流値を高く設定しても局所的な水没領域が発生しにくい燃料電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料電池は、一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する発電層部材と、前記一方の面側に配置されて、前記水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素供給層とを備える。そして、前記酸素供給層の前記発電層部材側の面に、周囲の前記酸素供給層よりも液体水の保持性を高めた排水溝が形成されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池は、発電層部材の部分的な水没を引き起す液体水を排水溝に集めて、排水溝に沿った方向に液体水の状態で移動させる。周囲よりも液体水の保持性が高い排水溝は、発電層部材の表面の液体水を吸い寄せて発電層部材の表面を覆うことを妨げ、排水溝幅を超える領域の水没が抑制される。
【0015】
そして、排水溝が液体水を集める力が排水溝に沿った液体水の流れを形成するので、発電層部材の表面における液体水の分布の偏りが排水溝を通じた液体水の移動によって平均化される。
【0016】
液体水の状態で過剰領域から不足領域へ水が移動するので、発電開始後速やかに発電層部材の湿潤度も均一化され、高分子電解質膜の場合であれば、発電層部材の全体から高い発電性能(起電力)を引き出せる。排水溝を通じた液体水の移動は、全量を水蒸気の状態で移動させる場合ほどには酸素供給層の水蒸気分圧を高めないので、酸素供給層を通じた水蒸気の外部への排出性能は高く維持される。酸素供給層を通じた逆方向の酸素の拡散も円滑になる。
【0017】
従って、発電層部材の表面積あたりの電流値を高く設定しても発電層部材の局所的な水没領域が発生しにくくなる。小面積の発電層部材を用いて、大気の循環機構やブロアーに頼らなくても大きな電流が出力可能となる。高信頼性、長寿命、高性能を実現しつつ、部品点数が少なく小型軽量で安価な燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の燃料電池の一実施形態である燃料電池について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の燃料電池は、以下に説明する燃料電池10等の限定的な構成には限定されない。発電層部材と酸素供給層とを備えて水分子が生成される限りにおいて、燃料電池10等の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実現可能である。
【0019】
本実施形態では、燃料タンク10Bに貯蔵した水素ガスを用いて発電を行うが、燃料タンク10Bに水素原子を含むメタノール等の液体燃料を貯蔵し、刻々必要なだけ水素ガスに改質反応させて発電セル10Sに供給してもよい。
【0020】
本実施形態の燃料電池は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、小型プロジェクタ、小型プリンタ、ノート型パソコン等の持ち運び可能な電子機器に着脱可能に装備される独立した燃料電池として実施できる。また、電子機器に燃料電池の発電部だけを一体に組み込んで、燃料タンクを着脱させる形式でも実施できる。
【0021】
なお、特許文献1〜4に示される燃料電池の構造、運転方法、触媒層とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体の構造、動作原理、製造方法等については、随時参照可能な技術常識として、一部図示を省略して詳細な説明も省略する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の燃料電池の全体構成の説明図、図2は空気取り入れ口側から見た発電セルの構成の説明図、図3は空気取り入れ口を横に置いた方向から見た発電セルの構成の説明図である。図4は酸素供給層の斜視図である。
【0023】
図1に示すように、燃料電池10は、発電セル10Sを積み重ねて直列に接続したセルスタック10Aを備える。セルスタック10Aの下方には、水素ガスを貯蔵して発電セル10Sに供給する燃料タンク10Bが接続されている。燃料タンク10Bから取り出された水素ガスは、大気圧よりわずかに高い圧力に調整されて、それぞれの発電セル10Sに供給される。
【0024】
発電セル10Sは、対向する一対の側面S1、S2に、大気中の酸素を自然拡散によって発電セル10Sに取り込む空気取り入れ口8を有する。発電セル10Sは、燃料タンク10Bから供給された水素ガスと空気取り入れ口8から取り込んだ酸素とを反応させて発電する。
【0025】
図2に示すように、発電セル10Sは、膜電極接合体4(MEA:Membrane Electrode Assembly)と酸素流路材2とを備える。発電を担う膜電極接合体4の下面に、空気取り入れ口8(図3)から取り込んだ酸素を膜電極接合体4の全面に供給する酸素流路材2が配置されている。
【0026】
セパレータ7、9は、膜電極接合体4の上面に、外部から密封された水素ガス供給空間を形成している。水素ガス供給空間に収納された燃料流路材6は、燃料タンク10B(図1)から取り出した水素ガスを膜電極接合体4の全面に供給する。発電セル10Sの厚み方向にセパレータ9を貫通して、水素ガスの主流路が形成されており、主流路から分岐してそれぞれの発電セルに水素ガスが供給される。
【0027】
膜電極接合体4は、高分子電解質膜の両面に白金等の触媒材料を塗布して触媒層を形成してある。高分子電解質膜には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体であるデュポン社のナフィオン(商標)を使用した。ただし、高分子電解質膜は、水素ガス供給面から酸素供給面へ水素イオンを伝導することを主な目的としており、この目的を満たすものであれば任意のものが使用可能である。
【0028】
高分子電解質膜の両面に触媒層が形成されている。触媒層は、触媒活性を持った物質と電子伝導体、プロトン伝導体からなる多孔質材料層である。ただし、膜電極接合体4は、触媒層が高分子電解質膜の表面に一体化しているが、触媒層が高分子電解質膜と接しており水素イオン等の化学種の受け渡しが可能であれば、膜電極接合体4として一つに形成する必要はない。
【0029】
膜電極接合体4に接する燃料流路材6の表面には、燃料流路材6よりも微小な組織の開口を有する導電性の拡散層3が配置されている。拡散層3は、絞り抵抗として機能して、膜電極接合体4の表面全体に均等な圧力と均等な流量密度で水素ガスを供給する。
【0030】
酸素流路材2の膜電極接合体4側の面にも、酸素流路材2よりも微小な組織の開口により同様な効果を発揮させる導電性の拡散層3が配置されている。拡散層3が膜電極接合体4に接する面には、膜電極接合体4との界面に発生した液体水を集めて水不足領域へ押し出す排水溝3Mが形成されている。
【0031】
燃料流路材6は、燃料である水素ガスを拡散させ、水素のイオン化によって余剰となった電子を膜電極接合体4の触媒層から集電する。酸素流路材2は、空気取り入れ口8から取り入れた酸化剤である大気中の酸素を拡散させ、水分子を生成する際に必要な電子を膜電極接合体4の触媒層に供給する。酸素流路材2は、また、発電に伴って膜電極接合体4で生成された水蒸気を空気取り入れ口8へ導いて大気中へ排出する。そのため、酸素流路材2には、導電性の多孔質体が好まれる。具体的な材料として、発泡金属、ステンレスウール等が用いられる。拡散層3はカーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられ、後述するように、膜電極接合体4との接触面に導電性の微粒子層が形成される場合もある。
【0032】
図4に示すように、酸素流路材2の表面に形成された拡散層3には、空気取り入れ口8に臨む対向する一対の側面2A、2Bを接続して、並列な多数の排水溝3Mが形成されている。排水溝3Mは、実際には、幅30μm、深さ50μm、25mm当たり100本の高密度で、膜電極接合体4(図2)の触媒層に接する面に形成されている。拡散層3に例えばレーザー加工等によって排水溝3Mを図4のようなパターンで形成する。酸素流路材2は、導電性多孔質材料が用いられ、拡散層3の少なくとも排水溝3Mの深さまでの部分は疎水処理がされていることが望ましい。これは、撥水性の環境で押し潰されて表面張力により圧力を高めた水滴が排水溝3Mで厚みを増して圧力を低下させるからである。この表面張力による駆動力によって、膜電極接合体4の表面や拡散層3の液体水は排水溝3Mへ押し入り、排水溝3Mに沿って移動して水不足領域へ押し出される。そして、水不足領域では、流入して来た液体水の蒸発によって水蒸気圧力が高まり、膜電極接合体4の加湿が進み、酸素流路材2への水蒸気放出も盛んになる。
【0033】
排水溝3Mを加工するのは拡散層5よりも拡散層3が望ましく、排水溝3Mの方向は、発電セル10Sを組み立てた際に、少なくとも一方の端が空気取り入れ口8の方向に対して開口するよう形成されることが望ましい。これは、液体水が蒸発し易い空気取り入れ口8の付近へ液体水を誘導することによって発電セル10S排水性を高めるためである。
【0034】
第1実施形態の排水溝3Mは、高分子電解質膜を用いて発電を行う燃料電池10において、電極反応で生成された余分な液体水が空気取り入れ口8を通じて円滑に排出される。酸素流路材2や拡散層3と膜電極接合体4との隙間に液体水が滞留して酸素供給を閉塞させるフラッディングが発生し難い。拡散層3や膜電極接合体4の触媒層における三相界面の水没を回避して電極反応を直接的に阻害させない。
【0035】
<第2実施形態>
図5は第2実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。第2実施形態では拡散層3に形成される排水溝3Nの外観形状が異なるのみで、それ以外は第1実施形態と同様な部品を用いて同様に燃料電池を組み立てる。従って、図1〜図4を併せて参照して説明する。
【0036】
図5に示すように、第2実施形態では、酸素流路材2の拡散層3には、空気取り入れ口8に臨む側面2A、2Bに向かって次第に断面積が拡大する排水溝3Nが形成されている。この構造を用いることによって、次のような効果が得られる。
【0037】
まず、膜電極接合体4の触媒層付近で発電活動により発生した液滴水分は、酸素流路材2、拡散層3が疎水性であるためにエネルギー的に不安定になる。一方で前述のとおりに形成した排水溝3Nの部分は、空間が形成されているために、液滴水分に対してエネルギー的に安定な箇所となる。従って、液滴水分は、安定性を求めて排水溝3Nに吸い込まれるように移動して滞留する。すると、それまで液体水に水没していた箇所に関して酸素の供給が復活するために燃料電池10の特性が維持される。
【0038】
しかし、排水溝3Nに液滴水分を誘導しただけでは、排水溝3Nのその部分に滞留するのみで、続く発電活動と生成水の堆積により、再び水没して失活する領域が増加することが懸念される。
【0039】
そこで、排水溝3Nに滞留した水を駆動して排水溝3Nに沿って移動させる仕組みが必要となる。そのためには、先ず最低条件として、図4に示す排水溝3Mのように、排水溝3Mの少なくとも一端が空気取り入れ口8の方向に延びていることが望ましい。更には、排水溝3Mが空気取り入れ口8に連絡していることが望ましい。しかし、直接に排出溝3Mが露出していなくても液体水分の蒸発効果により、排水溝3Mの中の水分は排出されることが期待されるため、必ず露出しなくてはならないわけではない。
【0040】
そして、第2実施形態では、排水溝3Nに滞留した水を空気取り入れ口8へ向かって移動させる駆動力としてキャピラリー圧を追加する。半径rの細長い円管中においてキャピラリー圧Pcは次のように定義される。
Pc=−(2γ/r)cosθ (1)
ここで、γは表面張力定数、θは液滴水と酸素流路材2、拡散層3の接触角を示す。式(1)から、円管の半径rが大きくなれば、それに反比例してキャピラリー圧Pcは弱くなる。
【0041】
これは、次のことを意味する。疎水性の円管の半径rが変化しているところでは半径rが小さい箇所のキャピラリー圧Pcが半径rの大きい箇所よりも大きい。このため、圧力に不均衡が生じ、半径rが小さい箇所の液体水が半径の大きい方へ向かって円管内を移動する。
【0042】
つまり、図5に示すように、空気取り入れ口8に最も近い側面2A、2Bにおける断面半径を最も大きくするように排水溝3Nを形成する。これにより、側面2A、2Bの中間付近に滞留した液滴水分は、キャピラリー圧Pcによって外側に誘導される。側面2A、2Bは、空気取り入れ口8に近いため、液体水は容易に蒸発して大気中へ排出される。このように、排水溝3Nの形状を工夫することにより、液体水の排出はより容易となり、燃料電池10の安定性が向上する。
【0043】
排水溝3Nの幅は、水が誘導できる範囲内であれば良い。狭すぎると水の凝集が困難となり、広すぎると排水溝3Nに生成される液滴の体積が大きくなり過ぎて、キャピラリー圧Pcによる排出が困難となる。さらに、拡散層3と膜電極接合体4との非接触面積が増大して、酸素流路材2の目的の一つである集電効果に支障をきたしてしまう。そのため、排水溝3Nの直径は5μm以上が望ましく、1000μm以下が望ましい。
【0044】
<第3実施形態>
図6は第3実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。第3実施形態では、拡散層3に形成される排水溝3Pの外観形状が異なるのみで、それ以外は第1実施形態と同様な部品を用いて同様に燃料電池を組み立てる。従って、図1〜図4を併せて参照して説明する。
【0045】
図6に示すように、第3実施形態では、拡散層3に、空気取り入れ口8に臨む側面2A、2Bに向かって分岐して本数が増える排水溝3Pが形成されている。第1実施形態の場合、燃料電池10の触媒反応によって発生した液体水を発電セル10Sの外側に誘導するために排水溝3Mが存在する。この場合、発電セル10Sの空気取り入れ口8に近い部分では、発電反応による生成水と中央側から移動して来た流入水とが集積して排水溝3Mが飽和する可能性がある。そのため、それに応じて第2実施形態のように排水溝3Nの幅を広げることも考えられるが、図6に示すように排水溝3Pを途中で分岐させても良い。
【0046】
第3実施形態では、排水溝3Pを移動する液体は、途中で二股に分岐している。これによって液体が集中する外側領域での排水を効率よく行ない、同時に液体があまり集中しない中央部では、電極接合体との接触面積を大きく確保して、酸素流路材2の本来の目的である集電効果を十分に得ることができる。排水溝3Pの分岐点は、途中一つである必要はなく、必要に応じて複数有しても良いし、3本以上に分離していても良い。溝幅の拡大と分岐とを組み合わせても良い。
【0047】
<第4実施形態>
図7は第4実施形態の燃料電池の構成を説明する斜視図、図8は拡散層に形成した排水溝の断面形状の説明図、図9は排水溝の断面形状の変形例の説明図である。
【0048】
図7に示すように、第4実施形態の燃料電池装置20は、複数の発電セル29を積み重ねて直列に接続したセルスタック20Aを備える。発電セル29は、セパレータ24とセパレータ28とに挟み込んで積み重ねられ、圧板31、36を用いて全体を積み重ね方向に拘束して組み立てられている。
【0049】
発電セル29は、高分子電解質膜の両面に触媒層を形成した膜電極接合体26の下面に燃料供給層25、上面に拡散層27を接触させている。燃料供給層25に接する触媒層では、水素ガスが触媒反応によって水素原子に分解されてイオン化し、水素イオンが高分子電解質膜に供給される。拡散層27に接する触媒層では、触媒反応によって酸素が、発電セル29の起電力に打ち勝って高分子電解質膜から拾い上げた水素イオンに化合して水分子を生成する。高分子電解質膜は、燃料供給層25側から拡散層27側へ水素イオンを移動させる。
【0050】
燃料供給層25は、セパレータ24に形成された凹所23に配置されている。凹所23の外周は密封されて水素ガスが周囲へ漏れ出さない。拡散層27の側面と上面の一部は、酸素流路材を兼ねたセパレータ28の通気溝38を通じて大気に解放されている。
【0051】
各段のセパレータ28、発電セル29(膜電極接合体26)、セパレータ24と圧板31とには、平面位置を合わせて、水素ガス供給路21が形成されている。水素ガス供給路21には、燃料タンク37が減圧弁34を介して接続される。水素ガス供給路21には、燃料タンク37から取り出して、減圧弁34で大気圧より少し高い圧力に調圧された水素ガスが供給され、セパレータ24で凹所23へ分岐して、各段の燃料供給層25に流れ込む。
【0052】
圧板36と各段のセパレータ28、発電セル29(膜電極接合体26)、セパレータ24とには、平面位置を合わせて排出路22が形成されている。排出路22には、通常は閉止され、必要に応じて手動で開放されるパージ弁35が接続されている。
【0053】
図8に示すように、第4実施形態における膜電極接合体26は、水素イオン伝導性を有する高分子電解質膜26Aの表面に触媒層26B、26Cを一体に形成してある。膜電極接合体26の触媒層26B上には、拡散層27が接触している。そして、触媒層26Bとセパレータ27とに挟まれた拡散層27における触媒層26Bとの接触面に、触媒層26B側に開口した排水溝27Mを設けている。そして、排水溝27Mを拡散層27に設けることにより、膜電極接合体26の電極反応に直接関わる触媒層26Bを減らすことなく、触媒層26Bで生成される余分な水を効率良く排水できる。
【0054】
排水溝27Mは、炭素粒子を含む撥水性の触媒層26Bと炭素繊維を含む撥水性の拡散層27との界面に発生した液滴水を上述した表面張力の駆動力によって吸い上げる。この駆動力を有効に発揮させるために溝幅aは30μmとした。
【0055】
また、運転中に偶発的、局所的に発生した水分過剰な領域から周囲の水分不足の領域へと液体水が移動し易いように、排水溝27Mの平面配置パターンは等幅等間隔(250本/インチ)の碁盤目状とした。これにより、膜電極接合体26のどこで水分過剰となっても、吸い上げられた液体水の圧力が、排水溝27Mを通じて、周囲の水分不足な領域へと面状に液体水を押し出す。
【0056】
拡散層27には、高いガス透過性および高い電気伝導性を有する材料が望ましく、これらの性質を有する材料として、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属メッシュ等が用いられる。特に、加工性や入手のし易さ、コストの面から、カーボンクロスを用いることが好ましい。このような材料を用いた場合、排水溝27Mは、レーザー加工やイオンビーム加工により、断面形状や深さを制御した排水溝27Mを加工できる。
【0057】
排水溝27Mの断面形状は、図8に示される半円形には限定されず、図9に示す三角形の断面形状、正方形等の多角形の断面形状でも、これらの方法により容易に加工できる。触媒層26Bに接する平面における排出溝27Mの平面配置においても、網目状やある一定方向に規則的に並んだ配置も容易に加工できる。
【0058】
このような円形・半円形や多角形の断面形状を持つ排出溝27Mや平面配置のパターンを自由に加工できることは、燃料電池20全体の構成に対して、膜電極接合体26と拡散層27との関係を最適化する上で好ましい。
【0059】
<第5実施形態>
図10は第5実施形態における酸素供給層および排水溝の構成の説明図、図11は排水溝の構造の変形例の説明図である。第5実施形態の燃料電池40は、酸素供給層47が膜電極接合体26に接する面に微小な組織の開口を有する導電性の微粒子層(カーボン粒子層48)が形成される。そして、この微粒子層に排水溝48Mが形成されている。しかし、それ以外の構成は第4実施形態と同様であるので、図7を併せて参照し、図8、図9と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0060】
図10に示すように、膜電極接合体26の触媒層26Bと酸素供給層47との密着性を改善して電気伝導性を高めるために、両層の間に10nm〜50nm程度の粒径のカーボン粒子からなる厚さ50μmのカーボン粒子層48を設けた。カーボン粒子層48には、触媒層26B側に開口する排水溝48Mを設けた。カーボン粒子層48は、カーボンクロスの酸素供給層47(第4実施形態の拡散層27と同じ材料を用いた)上に、カーボン粉末を揮発性液体に分散させた混合液をドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより塗布し、乾燥させることにより作製する。
【0061】
排水溝48Mは、雄型や針金を半乾燥状態の混合液の表面に押し付けて転写して形成する。混合液の表面を急速乾燥した後に、全体を徐々に乾燥収縮させて表面に収縮クラックを形成させることにより形成できる。すなわち、乾燥過程における乾燥雰囲気・乾燥時間の調整により形成できる。
【0062】
あるいは、凹面状に湾曲させた拡散層27上に混合液を塗布して乾燥させた後に、拡散層27を平らに戻して意図的なひび割れパターンを形成することでも排水溝48Mを形成できる。水分を運搬させたい方向と直角な方向に湾曲させて混合液を塗布/乾燥させることで、拡散層27を平らに戻した際に、水分を運搬させたい方向(図4参照)に伸びた排水溝48Mを形成できる。
【0063】
膜電極接合体26の触媒層26Bには、高い電子伝導性、高い水素イオン伝導性、高い酸素拡散性が求められる。従って、触媒金属の総使用量を節約しつつ、触媒層26Bにおける触媒微粒子の反応サイトとイオン伝動層とを接近させて高密度に配置することが望まれる。このため、触媒層26Bには、粒径が50nm程度のカーボン担体粒子の表面に、粒径1〜5nm程度の白金微粒子などの触媒金属超微粒子を分散/付着させた触媒担持カーボンと高分子電解質溶液とを混合して塗布/乾燥させたものを用いている。
【0064】
このようにして形成した触媒層26Bにおいては、カーボン担体粒子の乾燥時の2次凝集により、0.1μm程度の無数の空隙が生じている。そして、この空隙が、酸素の拡散経路および生成水の排出経路として機能している。
【0065】
このため、隣接するカーボン粒子層48に設けた排水溝48Mは、触媒層26B側の溝幅aが、0.1μm以上で1mm以下であることが望ましい。拡散層27に設けた排水溝27M(図8)も同様である。排水溝48M(27M)の溝幅aが触媒層26Bに存在する空隙の大きさよりも大きければ、毛管作用によって触媒層26Bの空隙に存在する液体水が自然に排水溝48M(27M)へ移動する。これにより、効率的に触媒層26Bから余剰水が除去される。溝幅aとは、円形や半円形の断面形状を有する排水溝であれば、断面形状の直径であり、多角形の場合は、排水溝が触媒層26Bに接する幅である。
【0066】
図11に示すように、膜電極接合体26の触媒層26Bと酸素供給層47との間に位置するカーボン粒子層48に排水溝48Nを設けるとき、排水溝48Nがカーボン粒子層48を貫通していてもよい。排水溝48Nは、触媒層26B側に開口するだけではなく、酸素供給層47にも開口している。
【0067】
このとき、酸素供給層47に用いられるカーボンクロス等の炭素繊維の空隙が1μm程度であるとすれば、酸素供給層47側の溝幅bが1μmないし1mmであることが好ましい。酸素供給層47の組織の空隙よりも排水溝48Nの溝幅bを大きくすれば、酸素供給層47の組織の空隙にたまっている水も、毛管作用によって、効率的に吸い上げることができるからである。
【0068】
触媒層26Bや酸素供給層47の組織の空隙の大きさと分布状態は、水銀ポロシメータやガス吸着法などの方法を用いて測定できる。これらの方法を用いて触媒層26Bや酸素供給層47の空隙分布を測定する。測定された触媒層26Bの主要な空隙径よりも、触媒層26B側の溝幅aが大きくなり、酸素供給層47の主要な空隙径よりも酸素供給層47側の溝幅bが大きくする。このような関係が満足される排水溝48Nをカーボン粒子層48に形成することが望ましい。ただし、溝幅a、bは1mmを越えない。1mmを越えると、表面張力や毛管作用による駆動力に比較して駆動される液体水の質量が大きくなり過ぎて、液体水が移動しなくなるからである。
【0069】
<第6実施形態>
図10に示すカーボン層34を形成する際の条件を制御して、意図的な乾燥クラックを形成することにより、排水溝48Mを形成した。そして、排水性能を確認した。図12は運転中の燃料電池の水分布を測定するためのX線撮影の説明図、図13はカーボン粒子層の平面内における液体水分布の撮影画像、図14は発電セルの断面内における液体水分布の撮影画像である。図13、14中、(a)は撮影画像、(b)は理解を助けるための二値化画像である。
【0070】
図10に示すように、膜電極接合体26の触媒層26B、26Cとして、白金担持カーボン触媒層を高分子電解質膜26Aの両面に作製した。高分子電解質膜26Aへの転写層として、フッ素樹脂(PTFE)シート上に、ドクターブレード法を用いて、白金担持カーボン触媒層を形成した。塗布した触媒スラリーは、白金担持カーボン(Johnson Matthey製)、Nafion(DuPont製)、PTFE、IPA、水の混錬物である。塗布後に半乾燥させたPTFEシート上の触媒層26B、26Cで固体高分子電解質膜(DuPont製)26Aを挟み、8MPa、150度C、1minのプレス条件でホットプレスする。その後、両表面のPTFEシートを剥離することにより、触媒層26B、26Cを高分子電解質膜26Aの両面に作製する。
【0071】
次に、酸素供給層47(カーボンクロス)の表面にカーボン粒子層48を作製する。カーボン粉末とPTFE粉末とを等重量比で混合し、十分に粉砕/攪拌を行った後、エタノールと純水とを加えて混合する。得られた混合液を、ドクターブレード法で酸素供給層47上に塗布し、その後、室温でゆっくりと乾燥させ、カーボン粒子層48および酸素供給層47とする。
【0072】
次に、触媒層26Bとカーボン粒子層48とを接触させて、膜電極接合体26に酸素供給層47、燃料供給層25(図7)を積み重ねて圧着して一体化させた。最後に、一体化させた全体を集電用の金属電極を兼ねたセパレータ24、28(図7)で挟み込んで複数段積み重ねることにより、セルスタック20A(図7)を形成した。セルスタック20Aに必要な部品を組み立てて固体高分子型の燃料電池20とした。
【0073】
次に、カーボン粒子層48に形成した排水溝48Mが排水路として機能していることを確認するため、図12に示すように、燃料電池20の膜電極接合体26の平面内および断面にX線51を照射して透過画像を撮影した。そして、透過画像を分析してX線51の吸収変化および屈折の効果を測定した。
【0074】
X線源から出たX線51は、測定領域のサイズに成形された後に固体高分子型の燃料電池20に入射する。燃料電池20を透過したX線52は、二次元検出器(X線CCDカメラ)53によって検出される。燃料電池20の各部材のX線51に対する吸収量は、燃料電池20の運転前と駆動中とで変化しない。しかし、運転中は、発電反応によって生成された水の凝集量によって燃料電池20を透過するX線の吸収率が変化する。そこで、吸収率の変化量を計測することによって、膜電極接合体26の内部や表面の水の分布および凝集量変化を図13、図14に示すように可視化して、排水経路を特定した。
【0075】
図13に示すように、触媒層26Bの平面内には、幅が30〜50μmの網目状の水路67が、燃料電池20の駆動時に再現性よく形成される。
【0076】
図14に示すように、燃料電池20の断面では、水路67として機能していたのがカーボン粒子層48に形成され、触媒層26B側に開口している排水溝(48M:図10)であることが判明した。水路67の一部は、図11に示す排水溝48Nのように酸素供給層47に達している。これにより、乾燥収縮クラックを利用したカーボン粒子層48の排水溝48Mが、触媒層26Bの表面の液体水の排出に有効であることが確認できた。
【0077】
なお、触媒層26Bの平面内における排水溝48Mの分布形状は、特に制限が無い。図13に示す網目状に広がっていても良く、また、図4に示す一定方向に規則的に並んでいても良い。図7に示す拡散層27側を第6実施形態のような構成にすることにより、大きな効果を発揮する。しかし、燃料供給層25側においても第6実施形態の構成を実施することにより、拡散層27側から逆拡散してきた余分な水を過剰領域から不足領域へ速やかに移動させることが可能であり、好ましい。
【0078】
従って、第4〜第6実施形態の構成は、拡散層27、47に形成する排水溝27M、48Mの形状を特定することにより、触媒層26Bあるいは拡散層27、47から余分な生成水を速やかに排出できる。これにより、安定した動作が可能となる固体高分子型の燃料電池28を提供できる。
【0079】
<比較例の燃料電池>
固体高分子型燃料電池は、エネルギーの変更率が高く、クリーンである事に加えて静かであることなどから将来のエネルギー源として期待されている。その用途は自動車や家庭用電源などの大型のものから、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラなどのデバイスに搭載されるような小型のものまである。このような小型の燃料電池の寿命は、従来の二次電池よりも長寿命になることが期待され、盛んに開発が行なわれている。
【0080】
図15は固体高分子型燃料電池の断面形状の典型例の説明図、図16は発電セルの構成の説明図である。図15、図16に示すように、固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜104を中央部に有する。多くの場合、その片側の面に燃料が供給されアノードとなる燃料極と、もう片側の面に酸化剤が供給されカソードとなる酸化極とを有している。それぞれの極は、その外側に燃料もしくは酸化剤を拡散し、かつ発電した電力を集電する拡散層103、105を有する。拡散層103、105の外側に燃料もしくは酸化剤を発電セル100S全体に供給する供給流路材102、106を有する。
【0081】
拡散層103、105の部材としては、導電性のある多孔質媒体として、例えばカーボンクロスが用いられる。供給流路材102、106には何も設置されないが、集電及び支持部材として空孔率の高い多孔質媒体を設置する場合がある。
【0082】
燃料もしくは酸化剤は、供給流路材102、106の中を、例えばポンプによる圧力や自然拡散・自然対流などの手法で供給される。燃料もしくは酸化剤は、供給流路材102、106から拡散層103、105を通して拡散し、それぞれ高分子電解質膜104に到達する。
【0083】
高分子電解質膜104のアノードでは、到達した燃料がアノードの触媒による酸化作用により酸化され、水素イオンとなって、高分子電解質膜104中をカソードに向けて移動する。この燃料としては、水素ガスなどの気体やメタノール・エタノールといった液体が使用される。
【0084】
高分子電解質膜104のカソードでは、供給流路材102より拡散層103を通じて到達した酸化剤、例えば酸素と、高分子電解質膜104を移動してきた水素イオンとが酸化剤と反応して水分子が生成される。そして、この一連の化学反応で発生するエネルギーの一部が電気エネルギーとして取り出される。
【0085】
前述の通り、高分子電解質膜104のカソードでは発電反応によって水が生成される。この水は、通常水蒸気もしくは液滴水分となって酸化剤の拡散層から流路に移動し、排出される。また、MEAを透過してアノード側から排出される場合もある。この際、燃料もしくは酸化剤の供給を、ポンプを用いて行う場合には、ポンプの圧力によってそのまま燃料もしくは酸化剤と一緒に水も移動し、排出口より排出される。
【0086】
一般に、燃料電池は、単体では十分な電力を得られないため、上記のような発電セルをいくつか直列に積層したセルスタックの構造を有する(図1参照)。このような形式の燃料電池は、主にガソリンに替わる自動車の動力源や業務用もしくは家庭用のコジェネレーション用途として注目を浴びている。
【0087】
近年ではノートパソコンや、PDAといった携帯用電子機器のバッテリーとしてもその用途が期待されているため、燃料電池のシステム全体を極端に小型化しなくてはならない。そのため、圧力勾配を利用した燃料もしくは酸化剤の供給装置などの制御機構が利用できないので、燃料及び酸化剤を拡散や自然対流によって供給せざるを得ない。
【0088】
特許文献1では、酸化剤である酸素を自然拡散によって供給するパッシブ型燃料電池の技術を開示している。特許文献1の図4は、その発電セルの構造を示しており、酸化剤である酸素は、拡散セルユニット39を拡散してMEA55に到達する。燃料である水素は流路58から供給されてMEA55に到達する。
【0089】
固体高分子型燃料電池は、水素などの燃料と空気などの酸化剤を、電解質として水素イオン伝導性の固体高分子膜を用いて電気化学的に反応させることで、電気と熱および水を発生させる。固体高分子型燃料電池は、常温から100℃程度の比較的低温で運転が可能で、高い出力密度が得られる。このため、他の燃料電池に比べて起動性に優れ、小型・軽量化が可能である。
【0090】
固体高分子型燃料電池の一般的な発電部は、高分子電解質膜の両面に触媒層があり、それを挟み込むようにガス拡散層が配置され、さらにそれらを挟み込むように燃料極(アノード)と空気極(カソード)の電極が配置されている。そして、アノード側から水素を含む燃料を、カソード側から空気を流すことにより、発電を行う。
【0091】
高分子電解質膜は、燃料と酸化剤が直接反応しないようにアノード側とカソード側を隔離し、かつアノード側で生成される水素イオンをカソード側まで運ぶ役割を担っている。一般的には、耐久性に優れたフッ素樹脂系のイオン交換膜が幅広く用いられている。高分子電解質膜は、水素イオンが水を伴って膜内を移動するため、高い水素イオン伝導性を得るためには、膜内に十分な水分を含んでいる必要がある。
【0092】
高分子電解質膜の表面に形成される触媒層には、高い触媒性能と大きな反応面積を実現するために、1〜5nm程度の粒径の白金微粒子を、数10nmの粒径のカーボン粒子に担持させた、白金担持カーボンが良く用いられる。このような触媒層は、カーボン粒子の2次凝集により、0.1μm程度の空隙が存在しており、この隙間が反応ガスの流入路および生成水の排水経路として働く。このような触媒層での電極反応は、白金などの触媒と高分子電解質、反応ガスの接する三相界面とよばれる部分で起こるとされており、この三相界面を多く確保することが高性能の電池を実現するために重要である。
【0093】
拡散層には、気体の透過性と導電性とに優れた、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの導電性多孔質材料が一般に用いられている。これらのカーボン繊維は1μm程度の空隙を形成しており、これが反応ガスの流入路および生成水の排水経路として働く。拡散層は、電解質膜および触媒層を挟み込むように配置されているため、触媒層のための排水性と、高分子電解質膜のための保湿性とをバランスよくもっている必要がある。
【0094】
また、一般に固体高分子型燃料電池では、発電部を反応ガスの流路をつけたセパレータで挟んで発電セルを構成する。さらに、発電セルを積み重ねて直列に接続したセルスタックとすることで燃料電池を構成する。
【0095】
<発明との対応>
第1実施形態の燃料電池10は、一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する膜電極接合体4と、前記一方の面側に配置されて、水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素流路材2、拡散層3とを備える。そして、拡散層3の膜電極接合体4側の面に、周囲の拡散層3よりも液体水の保持性を高めた排水溝3Mが形成されている。
【0096】
燃料電池10は、膜電極接合体4の部分的な水没を引き起す液体水を排水溝3Mに集めて、排水溝3Mに沿った方向に液体水の状態で移動させる。周囲よりも液体水の保持性が高い排水溝3Mは、膜電極接合体4の表面の液体水を吸い寄せて膜電極接合体4の表面を覆うことを妨げ、排水溝3Mの幅を超える領域の水没が抑制される。
【0097】
そして、排水溝3Mが液体水を集める力が排水溝3Mに沿った液体水の流れを形成するので、膜電極接合体4の表面における液体水の分布の偏りが排水溝3Mを通じた液体水の移動によって平均化される。
【0098】
液体水の状態で過剰領域から不足領域へ水が移動するので、発電開始後速やかに膜電極接合体4の湿潤度も均一化され、高分子電解質膜の場合であれば、膜電極接合体4の全体から高い発電性能(起電力)を引き出せる。排水溝3Mを通じた液体水の移動は、全量を水蒸気の状態で移動させる場合ほどには酸素流路材2、拡散層3の水蒸気分圧を高めないので、酸素流路材2、拡散層3を通じた水蒸気の外部への排出性能は高く維持される。酸素流路材2、拡散層3を通じた逆方向の酸素の拡散も円滑になる。
【0099】
従って、膜電極接合体4の表面積あたりの電流値を高く設定しても膜電極接合体4の局所的な水没領域が発生しにくくなる。小面積の膜電極接合体4を用いて、大気の循環機構やブロアーに頼らなくても大きな電流が出力可能となる。高信頼性、長寿命、高性能を実現しつつ、部品点数が少なく小型軽量で安価な燃料電池10を提供できる。
【0100】
燃料電池20の膜電極接合体26は、高分子電解質膜26Aの表面に導電性の触媒層26Bを一体に形成しており、拡散層27が膜電極接合体26に接する面に排水溝27Mが形成されている。
【0101】
触媒層26B側における排水溝27Mの幅は、触媒層26Bの組織の平均開口径よりも大きい。
【0102】
燃料電池10の排水溝3Mの幅は、5μm以上1000μm以下である。
【0103】
発電セル10Sは、通気性を持たせた酸素流路材2と、酸素流路材2の膜電極接合体4側の面に形成されて酸素流路材2よりも微小な開口を有する拡散層3とを酸素供給層が有する。そして、拡散層3が膜電極接合体4に接する面に排水溝3Mが形成されている。
【0104】
第5実施形態の拡散層47は、膜電極接合体26に接する面に、拡散層47よりも組織の平均開口径が小さい導電性のカーボン粒子層48を有する。排水溝48Nは、カーボン微粒層48を貫通して拡散層47に達する深さに形成され、酸素流路材を兼ねたセパレータ28側における排水溝48Nの幅は、拡散層47の平均開口径よりも大きい。
【0105】
燃料電池10は、膜電極接合体4と酸素流路材2、拡散層3とを備えた発電セル10Sが積み重ねて直列に接続される。大気に開放されて膜電極接合体4で生成された水分を大気中に排出する空気取り入れ口8が発電セル10Sの側面側に配置される。排水溝3Mは、空気取り入れ口8に向かう方向に形成されている。
【0106】
第2実施形態における排水溝3Nは、空気取り入れ口8に臨む側面側に連絡して並列に複数配置され、空気取り入れ口8に向かって次第に排水溝3Mの断面積が増大している。
【0107】
第3実施形態における排水溝3Pは、空気取り入れ口8に臨む側面側に連絡して並列に複数配置され、空気取り入れ口8に向かって分岐して本数が増している。
【0108】
燃料電池10は、酸素流路材2における少なくとも排水溝3Mを含む深さの領域がカーボン繊維なので撥水性である。
【0109】
第6実施形態では、三次元の通気性を持たせた酸素供給層47の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、前記表面に塗布した混合液を乾燥させて溶剤を蒸発させている。これにより、炭素粒子のカーボン粒子層48に微小な乾燥収縮クラックを形成して排水溝48Nとした。
【0110】
第5実施形態の排水溝48M以下の方法によって形成できる。三次元の通気性を持たせた酸素供給層47の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、塗布した混合液を乾燥させる。その後に、表面を拡大する方向に酸素供給層47を変形して、炭素粒子のカーボン粒子層48に微小な破断クラックを形成して排水溝48Mとした。
【0111】
第1実施形態における酸素流路材2は、燃料電池10の対向する一対の側面にそれぞれ形成された空気取り入れ口8を通じて、板状の外観の側面側から取り入れた酸素を一方の平面側に拡散供給する。そして、空気取り入れ口8に臨む一対の側面側を連絡する多数の排水溝3Mを前記平面側に有する。
【0112】
第2実施形態における酸素流路材2は、多数の排水溝3Nは、側面側に向かって排水溝3Nの断面積が次第に拡大している。
【0113】
第3実施形態における酸素核酸層2は、多数の排水溝3Pは、側面側に向かって分岐して本数が増えている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】第1実施形態の燃料電池の全体構成の説明図である。
【図2】空気取り入れ口側から見た発電セルの構成の説明図である。
【図3】空気取り入れ口を横に置いた方向から見た発電セルの構成の説明図である。
【図4】酸素供給層の斜視図である。
【図5】第2実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。
【図6】第3実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。
【図7】第4実施形態の燃料電池の構成を説明する斜視図である。
【図8】拡散層に形成した排水溝の断面形状の説明図である。
【図9】排水溝の断面形状の変形例の説明図である。
【図10】第5実施形態における酸素供給層および排水溝の構成の説明図である。
【図11】排水溝の構造の変形例の説明図である。
【図12】運転中の燃料電池の水分布を測定するためのX線撮影の説明図である。
【図13】カーボン粒子層の平面内における液体水分布の撮影画像を示す図である。
【図14】発電セルの断面内における液体水分布の撮影画像を示す図である。
【図15】固体高分子型燃料電池の断面形状の典型例の説明図である。
【図16】発電セルの構成の説明図である。
【符号の説明】
【0115】
2、3、27、47 酸素供給層(酸素流路材、拡散層)
3、47 拡散層
4、26 発電層部材(膜電極接合体)
5、25 燃料供給層(燃料流路材)
6 燃料流路材
8 開口(空気取り入れ口)
1、7、9、24、28 セパレータ
10、20 燃料電池
10A セルスタック
10B 燃料タンク
10S 発電セル
26A 高分子電解質膜
26B、26C 触媒層
48 微粒子層(カーボン粒子層)
3M、3N、3P、27M、48M、48N 排水溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電層部材に酸素を供給するとともに発電層部材で生成された水分子を運び出す酸素供給層を備えた燃料電池、詳しくは、発電層部材の水分過剰な部分から効率的に液体水を排出する酸素供給層の表面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
発電層部材の一方の面側に密封された水素ガス供給空間を配置し、発電層部材の他方の面側に酸素供給層を備えた燃料電池が実用化されている。発電層部材は、水素ガス供給空間から水素イオンを取り込み、酸素供給層側の面で水素イオンを酸素と化合させて発電を行う。酸素供給層は、発電層部材の表面に必要な量の酸素を供給するとともに、発電層部材の酸素供給層側で生成された水分子を運び出す拡散経路、または排出経路として機能する。
【0003】
特許文献1には、発電層部材を有する発電セルを積み重ねて直列に接続した燃料電池が示される。そして、発電セルごとの側面の開口を通じて大気中の酸素を取り込み、同じ開口を通じて酸素供給層の水分を大気中に蒸発拡散させる。発電層部材には、高分子電解質膜の両面に多孔質導電性の触媒層を形成した膜電極接合体が採用され、板状で通気性を有する酸素供給層の開口に臨む側面側が大気に開放されている。酸素供給層の側面側から取り入れられた酸素は、酸素供給層の中を三次元的に拡散して、酸素供給層の片方の底面を通じて膜電極接合体の全面に供給される。膜電極接合体で生成された水分子は、水蒸気として酸素供給層へ取り込まれ、水蒸気の濃度勾配に従って側面側へ拡散し、開口を通じて大気中へ排出される。
【0004】
特許文献2には、酸素供給層の一方の側面側から他方の側面側へ強制的に大気を送り込んで貫流させる燃料電池が示される。そして、大気を貫流させる酸素供給層の下流側では上流側よりも組織密度を下げて流路抵抗を低くしている。
【0005】
特許文献3には、発電セルの対向する側面を貫通させた溝状の空気流路が形成されたセパレータを酸素供給層に重ねて配置した燃料電池が示される。そして、空気流路に接する酸素供給層の組織密度を厚さ方向に変化させ、膜電極接続体に接する拡散層の組織密度を中間層よりも高くして、中間層の保水性を高めている。
【0006】
特許文献4には、発電層部材に重ねて配置した酸素供給層の高分子電解質膜側の面に触媒層を形成した燃料電池が示される。そして、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを自然拡散に頼って受動的に行っている。酸素供給層を厚み方向に貫通させて口径100μm以下の貫通孔が400個/mm2の高密度で形成されて、厚み方向の拡散性能が高められている。高分子電解質膜側から反対側の面へ向かって断面積が増える貫通孔(円錐状)は、酸素や水蒸気の通過抵抗を下げつつ、高分子電解質膜側の接触面積と酸素供給層の強度とを高めている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6423437号明細書
【特許文献2】特開2004−273392号公報
【特許文献3】特開2005−174607号公報
【特許文献4】特開2002−110182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機器と一体に持ち運ばれる燃料電池は、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを自然拡散に頼って受動的に行うことが望ましい。そのような燃料電池は、起動に際して外部からの電力供給に頼らないことが望ましく、大気の循環機構やブロアーは部品点数を増やして、燃料電池の小型化軽量化に反するからである。特許文献2、3に示される燃料電池は、そのような大気の循環機構やブロアーを前提としたものである。
【0009】
しかし、酸素供給層における酸素の供給と水蒸気の排出とを全くの自然拡散に頼る場合、水蒸気の排出量は環境次第となり、低温高湿の環境では酸素供給層を通じた水蒸気の排出量が減る。そして、酸素供給層を通じた水蒸気の排出量以上に発電層部材で水分子が生成されると、発電層部材と酸素供給層との界面付近に液体水が停滞し、発電層部材の表面が部分的に水没(フラッディング)する。水没した領域では発電層部材への酸素供給が妨げられて発電性能が損なわれるので、水没していない部分での電流密度が高って発電セルの起電力が低下する。そして、そのまま運転を継続すると、電流密度の高まった領域に水没領域が広がって発電層部材の全面水没に至り、発電が停止する可能性もある。
【0010】
従って、酸素供給層に大気を強制循環させる能動型に比較して、自然拡散に頼る受動型では、低温高湿を想定して、発電層部材の表面積あたりの電流値(=水生成量)を極端に小さく設定する必要がある。発電層部材の表面積あたりの電流値を極端に小さく設定すると、発電層部材の面積が大きくなって発電部が大型化し、かえって能動型よりも燃料電池が大型化する。
【0011】
特許文献4に示される燃料電池は、そのような受動型を前提として、発電層部材と酸素供給層との界面付近の水蒸気の排出性能を高めている。しかし、酸素供給層は、その厚み方向にのみ水蒸気の拡散性能が高められているに過ぎず、発電層部材に沿った方向の水分移動は、酸素供給層の自然拡散に全面依存している。従って、酸素供給層内の通気状態の悪い領域(側面の開口から遠い位置等)で局所的に水蒸気分圧が高まって、液体水に水没した領域が形成されてしまう。水没した領域から発電層部材の面に沿った方向への液体水の排除能力が無いので、電流密度の高まった領域に水没領域が広がって、遅かれ早かれ発電層部材の全面水没に至る可能性がある。
【0012】
本発明は、発電層部材の表面に沿った方向の排水性を高めて、その表面積あたりの電流値を高く設定しても局所的な水没領域が発生しにくい燃料電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の燃料電池は、一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する発電層部材と、前記一方の面側に配置されて、前記水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素供給層とを備える。そして、前記酸素供給層の前記発電層部材側の面に、周囲の前記酸素供給層よりも液体水の保持性を高めた排水溝が形成されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池は、発電層部材の部分的な水没を引き起す液体水を排水溝に集めて、排水溝に沿った方向に液体水の状態で移動させる。周囲よりも液体水の保持性が高い排水溝は、発電層部材の表面の液体水を吸い寄せて発電層部材の表面を覆うことを妨げ、排水溝幅を超える領域の水没が抑制される。
【0015】
そして、排水溝が液体水を集める力が排水溝に沿った液体水の流れを形成するので、発電層部材の表面における液体水の分布の偏りが排水溝を通じた液体水の移動によって平均化される。
【0016】
液体水の状態で過剰領域から不足領域へ水が移動するので、発電開始後速やかに発電層部材の湿潤度も均一化され、高分子電解質膜の場合であれば、発電層部材の全体から高い発電性能(起電力)を引き出せる。排水溝を通じた液体水の移動は、全量を水蒸気の状態で移動させる場合ほどには酸素供給層の水蒸気分圧を高めないので、酸素供給層を通じた水蒸気の外部への排出性能は高く維持される。酸素供給層を通じた逆方向の酸素の拡散も円滑になる。
【0017】
従って、発電層部材の表面積あたりの電流値を高く設定しても発電層部材の局所的な水没領域が発生しにくくなる。小面積の発電層部材を用いて、大気の循環機構やブロアーに頼らなくても大きな電流が出力可能となる。高信頼性、長寿命、高性能を実現しつつ、部品点数が少なく小型軽量で安価な燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の燃料電池の一実施形態である燃料電池について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の燃料電池は、以下に説明する燃料電池10等の限定的な構成には限定されない。発電層部材と酸素供給層とを備えて水分子が生成される限りにおいて、燃料電池10等の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実現可能である。
【0019】
本実施形態では、燃料タンク10Bに貯蔵した水素ガスを用いて発電を行うが、燃料タンク10Bに水素原子を含むメタノール等の液体燃料を貯蔵し、刻々必要なだけ水素ガスに改質反応させて発電セル10Sに供給してもよい。
【0020】
本実施形態の燃料電池は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、小型プロジェクタ、小型プリンタ、ノート型パソコン等の持ち運び可能な電子機器に着脱可能に装備される独立した燃料電池として実施できる。また、電子機器に燃料電池の発電部だけを一体に組み込んで、燃料タンクを着脱させる形式でも実施できる。
【0021】
なお、特許文献1〜4に示される燃料電池の構造、運転方法、触媒層とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体の構造、動作原理、製造方法等については、随時参照可能な技術常識として、一部図示を省略して詳細な説明も省略する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の燃料電池の全体構成の説明図、図2は空気取り入れ口側から見た発電セルの構成の説明図、図3は空気取り入れ口を横に置いた方向から見た発電セルの構成の説明図である。図4は酸素供給層の斜視図である。
【0023】
図1に示すように、燃料電池10は、発電セル10Sを積み重ねて直列に接続したセルスタック10Aを備える。セルスタック10Aの下方には、水素ガスを貯蔵して発電セル10Sに供給する燃料タンク10Bが接続されている。燃料タンク10Bから取り出された水素ガスは、大気圧よりわずかに高い圧力に調整されて、それぞれの発電セル10Sに供給される。
【0024】
発電セル10Sは、対向する一対の側面S1、S2に、大気中の酸素を自然拡散によって発電セル10Sに取り込む空気取り入れ口8を有する。発電セル10Sは、燃料タンク10Bから供給された水素ガスと空気取り入れ口8から取り込んだ酸素とを反応させて発電する。
【0025】
図2に示すように、発電セル10Sは、膜電極接合体4(MEA:Membrane Electrode Assembly)と酸素流路材2とを備える。発電を担う膜電極接合体4の下面に、空気取り入れ口8(図3)から取り込んだ酸素を膜電極接合体4の全面に供給する酸素流路材2が配置されている。
【0026】
セパレータ7、9は、膜電極接合体4の上面に、外部から密封された水素ガス供給空間を形成している。水素ガス供給空間に収納された燃料流路材6は、燃料タンク10B(図1)から取り出した水素ガスを膜電極接合体4の全面に供給する。発電セル10Sの厚み方向にセパレータ9を貫通して、水素ガスの主流路が形成されており、主流路から分岐してそれぞれの発電セルに水素ガスが供給される。
【0027】
膜電極接合体4は、高分子電解質膜の両面に白金等の触媒材料を塗布して触媒層を形成してある。高分子電解質膜には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体であるデュポン社のナフィオン(商標)を使用した。ただし、高分子電解質膜は、水素ガス供給面から酸素供給面へ水素イオンを伝導することを主な目的としており、この目的を満たすものであれば任意のものが使用可能である。
【0028】
高分子電解質膜の両面に触媒層が形成されている。触媒層は、触媒活性を持った物質と電子伝導体、プロトン伝導体からなる多孔質材料層である。ただし、膜電極接合体4は、触媒層が高分子電解質膜の表面に一体化しているが、触媒層が高分子電解質膜と接しており水素イオン等の化学種の受け渡しが可能であれば、膜電極接合体4として一つに形成する必要はない。
【0029】
膜電極接合体4に接する燃料流路材6の表面には、燃料流路材6よりも微小な組織の開口を有する導電性の拡散層3が配置されている。拡散層3は、絞り抵抗として機能して、膜電極接合体4の表面全体に均等な圧力と均等な流量密度で水素ガスを供給する。
【0030】
酸素流路材2の膜電極接合体4側の面にも、酸素流路材2よりも微小な組織の開口により同様な効果を発揮させる導電性の拡散層3が配置されている。拡散層3が膜電極接合体4に接する面には、膜電極接合体4との界面に発生した液体水を集めて水不足領域へ押し出す排水溝3Mが形成されている。
【0031】
燃料流路材6は、燃料である水素ガスを拡散させ、水素のイオン化によって余剰となった電子を膜電極接合体4の触媒層から集電する。酸素流路材2は、空気取り入れ口8から取り入れた酸化剤である大気中の酸素を拡散させ、水分子を生成する際に必要な電子を膜電極接合体4の触媒層に供給する。酸素流路材2は、また、発電に伴って膜電極接合体4で生成された水蒸気を空気取り入れ口8へ導いて大気中へ排出する。そのため、酸素流路材2には、導電性の多孔質体が好まれる。具体的な材料として、発泡金属、ステンレスウール等が用いられる。拡散層3はカーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられ、後述するように、膜電極接合体4との接触面に導電性の微粒子層が形成される場合もある。
【0032】
図4に示すように、酸素流路材2の表面に形成された拡散層3には、空気取り入れ口8に臨む対向する一対の側面2A、2Bを接続して、並列な多数の排水溝3Mが形成されている。排水溝3Mは、実際には、幅30μm、深さ50μm、25mm当たり100本の高密度で、膜電極接合体4(図2)の触媒層に接する面に形成されている。拡散層3に例えばレーザー加工等によって排水溝3Mを図4のようなパターンで形成する。酸素流路材2は、導電性多孔質材料が用いられ、拡散層3の少なくとも排水溝3Mの深さまでの部分は疎水処理がされていることが望ましい。これは、撥水性の環境で押し潰されて表面張力により圧力を高めた水滴が排水溝3Mで厚みを増して圧力を低下させるからである。この表面張力による駆動力によって、膜電極接合体4の表面や拡散層3の液体水は排水溝3Mへ押し入り、排水溝3Mに沿って移動して水不足領域へ押し出される。そして、水不足領域では、流入して来た液体水の蒸発によって水蒸気圧力が高まり、膜電極接合体4の加湿が進み、酸素流路材2への水蒸気放出も盛んになる。
【0033】
排水溝3Mを加工するのは拡散層5よりも拡散層3が望ましく、排水溝3Mの方向は、発電セル10Sを組み立てた際に、少なくとも一方の端が空気取り入れ口8の方向に対して開口するよう形成されることが望ましい。これは、液体水が蒸発し易い空気取り入れ口8の付近へ液体水を誘導することによって発電セル10S排水性を高めるためである。
【0034】
第1実施形態の排水溝3Mは、高分子電解質膜を用いて発電を行う燃料電池10において、電極反応で生成された余分な液体水が空気取り入れ口8を通じて円滑に排出される。酸素流路材2や拡散層3と膜電極接合体4との隙間に液体水が滞留して酸素供給を閉塞させるフラッディングが発生し難い。拡散層3や膜電極接合体4の触媒層における三相界面の水没を回避して電極反応を直接的に阻害させない。
【0035】
<第2実施形態>
図5は第2実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。第2実施形態では拡散層3に形成される排水溝3Nの外観形状が異なるのみで、それ以外は第1実施形態と同様な部品を用いて同様に燃料電池を組み立てる。従って、図1〜図4を併せて参照して説明する。
【0036】
図5に示すように、第2実施形態では、酸素流路材2の拡散層3には、空気取り入れ口8に臨む側面2A、2Bに向かって次第に断面積が拡大する排水溝3Nが形成されている。この構造を用いることによって、次のような効果が得られる。
【0037】
まず、膜電極接合体4の触媒層付近で発電活動により発生した液滴水分は、酸素流路材2、拡散層3が疎水性であるためにエネルギー的に不安定になる。一方で前述のとおりに形成した排水溝3Nの部分は、空間が形成されているために、液滴水分に対してエネルギー的に安定な箇所となる。従って、液滴水分は、安定性を求めて排水溝3Nに吸い込まれるように移動して滞留する。すると、それまで液体水に水没していた箇所に関して酸素の供給が復活するために燃料電池10の特性が維持される。
【0038】
しかし、排水溝3Nに液滴水分を誘導しただけでは、排水溝3Nのその部分に滞留するのみで、続く発電活動と生成水の堆積により、再び水没して失活する領域が増加することが懸念される。
【0039】
そこで、排水溝3Nに滞留した水を駆動して排水溝3Nに沿って移動させる仕組みが必要となる。そのためには、先ず最低条件として、図4に示す排水溝3Mのように、排水溝3Mの少なくとも一端が空気取り入れ口8の方向に延びていることが望ましい。更には、排水溝3Mが空気取り入れ口8に連絡していることが望ましい。しかし、直接に排出溝3Mが露出していなくても液体水分の蒸発効果により、排水溝3Mの中の水分は排出されることが期待されるため、必ず露出しなくてはならないわけではない。
【0040】
そして、第2実施形態では、排水溝3Nに滞留した水を空気取り入れ口8へ向かって移動させる駆動力としてキャピラリー圧を追加する。半径rの細長い円管中においてキャピラリー圧Pcは次のように定義される。
Pc=−(2γ/r)cosθ (1)
ここで、γは表面張力定数、θは液滴水と酸素流路材2、拡散層3の接触角を示す。式(1)から、円管の半径rが大きくなれば、それに反比例してキャピラリー圧Pcは弱くなる。
【0041】
これは、次のことを意味する。疎水性の円管の半径rが変化しているところでは半径rが小さい箇所のキャピラリー圧Pcが半径rの大きい箇所よりも大きい。このため、圧力に不均衡が生じ、半径rが小さい箇所の液体水が半径の大きい方へ向かって円管内を移動する。
【0042】
つまり、図5に示すように、空気取り入れ口8に最も近い側面2A、2Bにおける断面半径を最も大きくするように排水溝3Nを形成する。これにより、側面2A、2Bの中間付近に滞留した液滴水分は、キャピラリー圧Pcによって外側に誘導される。側面2A、2Bは、空気取り入れ口8に近いため、液体水は容易に蒸発して大気中へ排出される。このように、排水溝3Nの形状を工夫することにより、液体水の排出はより容易となり、燃料電池10の安定性が向上する。
【0043】
排水溝3Nの幅は、水が誘導できる範囲内であれば良い。狭すぎると水の凝集が困難となり、広すぎると排水溝3Nに生成される液滴の体積が大きくなり過ぎて、キャピラリー圧Pcによる排出が困難となる。さらに、拡散層3と膜電極接合体4との非接触面積が増大して、酸素流路材2の目的の一つである集電効果に支障をきたしてしまう。そのため、排水溝3Nの直径は5μm以上が望ましく、1000μm以下が望ましい。
【0044】
<第3実施形態>
図6は第3実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。第3実施形態では、拡散層3に形成される排水溝3Pの外観形状が異なるのみで、それ以外は第1実施形態と同様な部品を用いて同様に燃料電池を組み立てる。従って、図1〜図4を併せて参照して説明する。
【0045】
図6に示すように、第3実施形態では、拡散層3に、空気取り入れ口8に臨む側面2A、2Bに向かって分岐して本数が増える排水溝3Pが形成されている。第1実施形態の場合、燃料電池10の触媒反応によって発生した液体水を発電セル10Sの外側に誘導するために排水溝3Mが存在する。この場合、発電セル10Sの空気取り入れ口8に近い部分では、発電反応による生成水と中央側から移動して来た流入水とが集積して排水溝3Mが飽和する可能性がある。そのため、それに応じて第2実施形態のように排水溝3Nの幅を広げることも考えられるが、図6に示すように排水溝3Pを途中で分岐させても良い。
【0046】
第3実施形態では、排水溝3Pを移動する液体は、途中で二股に分岐している。これによって液体が集中する外側領域での排水を効率よく行ない、同時に液体があまり集中しない中央部では、電極接合体との接触面積を大きく確保して、酸素流路材2の本来の目的である集電効果を十分に得ることができる。排水溝3Pの分岐点は、途中一つである必要はなく、必要に応じて複数有しても良いし、3本以上に分離していても良い。溝幅の拡大と分岐とを組み合わせても良い。
【0047】
<第4実施形態>
図7は第4実施形態の燃料電池の構成を説明する斜視図、図8は拡散層に形成した排水溝の断面形状の説明図、図9は排水溝の断面形状の変形例の説明図である。
【0048】
図7に示すように、第4実施形態の燃料電池装置20は、複数の発電セル29を積み重ねて直列に接続したセルスタック20Aを備える。発電セル29は、セパレータ24とセパレータ28とに挟み込んで積み重ねられ、圧板31、36を用いて全体を積み重ね方向に拘束して組み立てられている。
【0049】
発電セル29は、高分子電解質膜の両面に触媒層を形成した膜電極接合体26の下面に燃料供給層25、上面に拡散層27を接触させている。燃料供給層25に接する触媒層では、水素ガスが触媒反応によって水素原子に分解されてイオン化し、水素イオンが高分子電解質膜に供給される。拡散層27に接する触媒層では、触媒反応によって酸素が、発電セル29の起電力に打ち勝って高分子電解質膜から拾い上げた水素イオンに化合して水分子を生成する。高分子電解質膜は、燃料供給層25側から拡散層27側へ水素イオンを移動させる。
【0050】
燃料供給層25は、セパレータ24に形成された凹所23に配置されている。凹所23の外周は密封されて水素ガスが周囲へ漏れ出さない。拡散層27の側面と上面の一部は、酸素流路材を兼ねたセパレータ28の通気溝38を通じて大気に解放されている。
【0051】
各段のセパレータ28、発電セル29(膜電極接合体26)、セパレータ24と圧板31とには、平面位置を合わせて、水素ガス供給路21が形成されている。水素ガス供給路21には、燃料タンク37が減圧弁34を介して接続される。水素ガス供給路21には、燃料タンク37から取り出して、減圧弁34で大気圧より少し高い圧力に調圧された水素ガスが供給され、セパレータ24で凹所23へ分岐して、各段の燃料供給層25に流れ込む。
【0052】
圧板36と各段のセパレータ28、発電セル29(膜電極接合体26)、セパレータ24とには、平面位置を合わせて排出路22が形成されている。排出路22には、通常は閉止され、必要に応じて手動で開放されるパージ弁35が接続されている。
【0053】
図8に示すように、第4実施形態における膜電極接合体26は、水素イオン伝導性を有する高分子電解質膜26Aの表面に触媒層26B、26Cを一体に形成してある。膜電極接合体26の触媒層26B上には、拡散層27が接触している。そして、触媒層26Bとセパレータ27とに挟まれた拡散層27における触媒層26Bとの接触面に、触媒層26B側に開口した排水溝27Mを設けている。そして、排水溝27Mを拡散層27に設けることにより、膜電極接合体26の電極反応に直接関わる触媒層26Bを減らすことなく、触媒層26Bで生成される余分な水を効率良く排水できる。
【0054】
排水溝27Mは、炭素粒子を含む撥水性の触媒層26Bと炭素繊維を含む撥水性の拡散層27との界面に発生した液滴水を上述した表面張力の駆動力によって吸い上げる。この駆動力を有効に発揮させるために溝幅aは30μmとした。
【0055】
また、運転中に偶発的、局所的に発生した水分過剰な領域から周囲の水分不足の領域へと液体水が移動し易いように、排水溝27Mの平面配置パターンは等幅等間隔(250本/インチ)の碁盤目状とした。これにより、膜電極接合体26のどこで水分過剰となっても、吸い上げられた液体水の圧力が、排水溝27Mを通じて、周囲の水分不足な領域へと面状に液体水を押し出す。
【0056】
拡散層27には、高いガス透過性および高い電気伝導性を有する材料が望ましく、これらの性質を有する材料として、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属メッシュ等が用いられる。特に、加工性や入手のし易さ、コストの面から、カーボンクロスを用いることが好ましい。このような材料を用いた場合、排水溝27Mは、レーザー加工やイオンビーム加工により、断面形状や深さを制御した排水溝27Mを加工できる。
【0057】
排水溝27Mの断面形状は、図8に示される半円形には限定されず、図9に示す三角形の断面形状、正方形等の多角形の断面形状でも、これらの方法により容易に加工できる。触媒層26Bに接する平面における排出溝27Mの平面配置においても、網目状やある一定方向に規則的に並んだ配置も容易に加工できる。
【0058】
このような円形・半円形や多角形の断面形状を持つ排出溝27Mや平面配置のパターンを自由に加工できることは、燃料電池20全体の構成に対して、膜電極接合体26と拡散層27との関係を最適化する上で好ましい。
【0059】
<第5実施形態>
図10は第5実施形態における酸素供給層および排水溝の構成の説明図、図11は排水溝の構造の変形例の説明図である。第5実施形態の燃料電池40は、酸素供給層47が膜電極接合体26に接する面に微小な組織の開口を有する導電性の微粒子層(カーボン粒子層48)が形成される。そして、この微粒子層に排水溝48Mが形成されている。しかし、それ以外の構成は第4実施形態と同様であるので、図7を併せて参照し、図8、図9と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0060】
図10に示すように、膜電極接合体26の触媒層26Bと酸素供給層47との密着性を改善して電気伝導性を高めるために、両層の間に10nm〜50nm程度の粒径のカーボン粒子からなる厚さ50μmのカーボン粒子層48を設けた。カーボン粒子層48には、触媒層26B側に開口する排水溝48Mを設けた。カーボン粒子層48は、カーボンクロスの酸素供給層47(第4実施形態の拡散層27と同じ材料を用いた)上に、カーボン粉末を揮発性液体に分散させた混合液をドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより塗布し、乾燥させることにより作製する。
【0061】
排水溝48Mは、雄型や針金を半乾燥状態の混合液の表面に押し付けて転写して形成する。混合液の表面を急速乾燥した後に、全体を徐々に乾燥収縮させて表面に収縮クラックを形成させることにより形成できる。すなわち、乾燥過程における乾燥雰囲気・乾燥時間の調整により形成できる。
【0062】
あるいは、凹面状に湾曲させた拡散層27上に混合液を塗布して乾燥させた後に、拡散層27を平らに戻して意図的なひび割れパターンを形成することでも排水溝48Mを形成できる。水分を運搬させたい方向と直角な方向に湾曲させて混合液を塗布/乾燥させることで、拡散層27を平らに戻した際に、水分を運搬させたい方向(図4参照)に伸びた排水溝48Mを形成できる。
【0063】
膜電極接合体26の触媒層26Bには、高い電子伝導性、高い水素イオン伝導性、高い酸素拡散性が求められる。従って、触媒金属の総使用量を節約しつつ、触媒層26Bにおける触媒微粒子の反応サイトとイオン伝動層とを接近させて高密度に配置することが望まれる。このため、触媒層26Bには、粒径が50nm程度のカーボン担体粒子の表面に、粒径1〜5nm程度の白金微粒子などの触媒金属超微粒子を分散/付着させた触媒担持カーボンと高分子電解質溶液とを混合して塗布/乾燥させたものを用いている。
【0064】
このようにして形成した触媒層26Bにおいては、カーボン担体粒子の乾燥時の2次凝集により、0.1μm程度の無数の空隙が生じている。そして、この空隙が、酸素の拡散経路および生成水の排出経路として機能している。
【0065】
このため、隣接するカーボン粒子層48に設けた排水溝48Mは、触媒層26B側の溝幅aが、0.1μm以上で1mm以下であることが望ましい。拡散層27に設けた排水溝27M(図8)も同様である。排水溝48M(27M)の溝幅aが触媒層26Bに存在する空隙の大きさよりも大きければ、毛管作用によって触媒層26Bの空隙に存在する液体水が自然に排水溝48M(27M)へ移動する。これにより、効率的に触媒層26Bから余剰水が除去される。溝幅aとは、円形や半円形の断面形状を有する排水溝であれば、断面形状の直径であり、多角形の場合は、排水溝が触媒層26Bに接する幅である。
【0066】
図11に示すように、膜電極接合体26の触媒層26Bと酸素供給層47との間に位置するカーボン粒子層48に排水溝48Nを設けるとき、排水溝48Nがカーボン粒子層48を貫通していてもよい。排水溝48Nは、触媒層26B側に開口するだけではなく、酸素供給層47にも開口している。
【0067】
このとき、酸素供給層47に用いられるカーボンクロス等の炭素繊維の空隙が1μm程度であるとすれば、酸素供給層47側の溝幅bが1μmないし1mmであることが好ましい。酸素供給層47の組織の空隙よりも排水溝48Nの溝幅bを大きくすれば、酸素供給層47の組織の空隙にたまっている水も、毛管作用によって、効率的に吸い上げることができるからである。
【0068】
触媒層26Bや酸素供給層47の組織の空隙の大きさと分布状態は、水銀ポロシメータやガス吸着法などの方法を用いて測定できる。これらの方法を用いて触媒層26Bや酸素供給層47の空隙分布を測定する。測定された触媒層26Bの主要な空隙径よりも、触媒層26B側の溝幅aが大きくなり、酸素供給層47の主要な空隙径よりも酸素供給層47側の溝幅bが大きくする。このような関係が満足される排水溝48Nをカーボン粒子層48に形成することが望ましい。ただし、溝幅a、bは1mmを越えない。1mmを越えると、表面張力や毛管作用による駆動力に比較して駆動される液体水の質量が大きくなり過ぎて、液体水が移動しなくなるからである。
【0069】
<第6実施形態>
図10に示すカーボン層34を形成する際の条件を制御して、意図的な乾燥クラックを形成することにより、排水溝48Mを形成した。そして、排水性能を確認した。図12は運転中の燃料電池の水分布を測定するためのX線撮影の説明図、図13はカーボン粒子層の平面内における液体水分布の撮影画像、図14は発電セルの断面内における液体水分布の撮影画像である。図13、14中、(a)は撮影画像、(b)は理解を助けるための二値化画像である。
【0070】
図10に示すように、膜電極接合体26の触媒層26B、26Cとして、白金担持カーボン触媒層を高分子電解質膜26Aの両面に作製した。高分子電解質膜26Aへの転写層として、フッ素樹脂(PTFE)シート上に、ドクターブレード法を用いて、白金担持カーボン触媒層を形成した。塗布した触媒スラリーは、白金担持カーボン(Johnson Matthey製)、Nafion(DuPont製)、PTFE、IPA、水の混錬物である。塗布後に半乾燥させたPTFEシート上の触媒層26B、26Cで固体高分子電解質膜(DuPont製)26Aを挟み、8MPa、150度C、1minのプレス条件でホットプレスする。その後、両表面のPTFEシートを剥離することにより、触媒層26B、26Cを高分子電解質膜26Aの両面に作製する。
【0071】
次に、酸素供給層47(カーボンクロス)の表面にカーボン粒子層48を作製する。カーボン粉末とPTFE粉末とを等重量比で混合し、十分に粉砕/攪拌を行った後、エタノールと純水とを加えて混合する。得られた混合液を、ドクターブレード法で酸素供給層47上に塗布し、その後、室温でゆっくりと乾燥させ、カーボン粒子層48および酸素供給層47とする。
【0072】
次に、触媒層26Bとカーボン粒子層48とを接触させて、膜電極接合体26に酸素供給層47、燃料供給層25(図7)を積み重ねて圧着して一体化させた。最後に、一体化させた全体を集電用の金属電極を兼ねたセパレータ24、28(図7)で挟み込んで複数段積み重ねることにより、セルスタック20A(図7)を形成した。セルスタック20Aに必要な部品を組み立てて固体高分子型の燃料電池20とした。
【0073】
次に、カーボン粒子層48に形成した排水溝48Mが排水路として機能していることを確認するため、図12に示すように、燃料電池20の膜電極接合体26の平面内および断面にX線51を照射して透過画像を撮影した。そして、透過画像を分析してX線51の吸収変化および屈折の効果を測定した。
【0074】
X線源から出たX線51は、測定領域のサイズに成形された後に固体高分子型の燃料電池20に入射する。燃料電池20を透過したX線52は、二次元検出器(X線CCDカメラ)53によって検出される。燃料電池20の各部材のX線51に対する吸収量は、燃料電池20の運転前と駆動中とで変化しない。しかし、運転中は、発電反応によって生成された水の凝集量によって燃料電池20を透過するX線の吸収率が変化する。そこで、吸収率の変化量を計測することによって、膜電極接合体26の内部や表面の水の分布および凝集量変化を図13、図14に示すように可視化して、排水経路を特定した。
【0075】
図13に示すように、触媒層26Bの平面内には、幅が30〜50μmの網目状の水路67が、燃料電池20の駆動時に再現性よく形成される。
【0076】
図14に示すように、燃料電池20の断面では、水路67として機能していたのがカーボン粒子層48に形成され、触媒層26B側に開口している排水溝(48M:図10)であることが判明した。水路67の一部は、図11に示す排水溝48Nのように酸素供給層47に達している。これにより、乾燥収縮クラックを利用したカーボン粒子層48の排水溝48Mが、触媒層26Bの表面の液体水の排出に有効であることが確認できた。
【0077】
なお、触媒層26Bの平面内における排水溝48Mの分布形状は、特に制限が無い。図13に示す網目状に広がっていても良く、また、図4に示す一定方向に規則的に並んでいても良い。図7に示す拡散層27側を第6実施形態のような構成にすることにより、大きな効果を発揮する。しかし、燃料供給層25側においても第6実施形態の構成を実施することにより、拡散層27側から逆拡散してきた余分な水を過剰領域から不足領域へ速やかに移動させることが可能であり、好ましい。
【0078】
従って、第4〜第6実施形態の構成は、拡散層27、47に形成する排水溝27M、48Mの形状を特定することにより、触媒層26Bあるいは拡散層27、47から余分な生成水を速やかに排出できる。これにより、安定した動作が可能となる固体高分子型の燃料電池28を提供できる。
【0079】
<比較例の燃料電池>
固体高分子型燃料電池は、エネルギーの変更率が高く、クリーンである事に加えて静かであることなどから将来のエネルギー源として期待されている。その用途は自動車や家庭用電源などの大型のものから、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラなどのデバイスに搭載されるような小型のものまである。このような小型の燃料電池の寿命は、従来の二次電池よりも長寿命になることが期待され、盛んに開発が行なわれている。
【0080】
図15は固体高分子型燃料電池の断面形状の典型例の説明図、図16は発電セルの構成の説明図である。図15、図16に示すように、固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜104を中央部に有する。多くの場合、その片側の面に燃料が供給されアノードとなる燃料極と、もう片側の面に酸化剤が供給されカソードとなる酸化極とを有している。それぞれの極は、その外側に燃料もしくは酸化剤を拡散し、かつ発電した電力を集電する拡散層103、105を有する。拡散層103、105の外側に燃料もしくは酸化剤を発電セル100S全体に供給する供給流路材102、106を有する。
【0081】
拡散層103、105の部材としては、導電性のある多孔質媒体として、例えばカーボンクロスが用いられる。供給流路材102、106には何も設置されないが、集電及び支持部材として空孔率の高い多孔質媒体を設置する場合がある。
【0082】
燃料もしくは酸化剤は、供給流路材102、106の中を、例えばポンプによる圧力や自然拡散・自然対流などの手法で供給される。燃料もしくは酸化剤は、供給流路材102、106から拡散層103、105を通して拡散し、それぞれ高分子電解質膜104に到達する。
【0083】
高分子電解質膜104のアノードでは、到達した燃料がアノードの触媒による酸化作用により酸化され、水素イオンとなって、高分子電解質膜104中をカソードに向けて移動する。この燃料としては、水素ガスなどの気体やメタノール・エタノールといった液体が使用される。
【0084】
高分子電解質膜104のカソードでは、供給流路材102より拡散層103を通じて到達した酸化剤、例えば酸素と、高分子電解質膜104を移動してきた水素イオンとが酸化剤と反応して水分子が生成される。そして、この一連の化学反応で発生するエネルギーの一部が電気エネルギーとして取り出される。
【0085】
前述の通り、高分子電解質膜104のカソードでは発電反応によって水が生成される。この水は、通常水蒸気もしくは液滴水分となって酸化剤の拡散層から流路に移動し、排出される。また、MEAを透過してアノード側から排出される場合もある。この際、燃料もしくは酸化剤の供給を、ポンプを用いて行う場合には、ポンプの圧力によってそのまま燃料もしくは酸化剤と一緒に水も移動し、排出口より排出される。
【0086】
一般に、燃料電池は、単体では十分な電力を得られないため、上記のような発電セルをいくつか直列に積層したセルスタックの構造を有する(図1参照)。このような形式の燃料電池は、主にガソリンに替わる自動車の動力源や業務用もしくは家庭用のコジェネレーション用途として注目を浴びている。
【0087】
近年ではノートパソコンや、PDAといった携帯用電子機器のバッテリーとしてもその用途が期待されているため、燃料電池のシステム全体を極端に小型化しなくてはならない。そのため、圧力勾配を利用した燃料もしくは酸化剤の供給装置などの制御機構が利用できないので、燃料及び酸化剤を拡散や自然対流によって供給せざるを得ない。
【0088】
特許文献1では、酸化剤である酸素を自然拡散によって供給するパッシブ型燃料電池の技術を開示している。特許文献1の図4は、その発電セルの構造を示しており、酸化剤である酸素は、拡散セルユニット39を拡散してMEA55に到達する。燃料である水素は流路58から供給されてMEA55に到達する。
【0089】
固体高分子型燃料電池は、水素などの燃料と空気などの酸化剤を、電解質として水素イオン伝導性の固体高分子膜を用いて電気化学的に反応させることで、電気と熱および水を発生させる。固体高分子型燃料電池は、常温から100℃程度の比較的低温で運転が可能で、高い出力密度が得られる。このため、他の燃料電池に比べて起動性に優れ、小型・軽量化が可能である。
【0090】
固体高分子型燃料電池の一般的な発電部は、高分子電解質膜の両面に触媒層があり、それを挟み込むようにガス拡散層が配置され、さらにそれらを挟み込むように燃料極(アノード)と空気極(カソード)の電極が配置されている。そして、アノード側から水素を含む燃料を、カソード側から空気を流すことにより、発電を行う。
【0091】
高分子電解質膜は、燃料と酸化剤が直接反応しないようにアノード側とカソード側を隔離し、かつアノード側で生成される水素イオンをカソード側まで運ぶ役割を担っている。一般的には、耐久性に優れたフッ素樹脂系のイオン交換膜が幅広く用いられている。高分子電解質膜は、水素イオンが水を伴って膜内を移動するため、高い水素イオン伝導性を得るためには、膜内に十分な水分を含んでいる必要がある。
【0092】
高分子電解質膜の表面に形成される触媒層には、高い触媒性能と大きな反応面積を実現するために、1〜5nm程度の粒径の白金微粒子を、数10nmの粒径のカーボン粒子に担持させた、白金担持カーボンが良く用いられる。このような触媒層は、カーボン粒子の2次凝集により、0.1μm程度の空隙が存在しており、この隙間が反応ガスの流入路および生成水の排水経路として働く。このような触媒層での電極反応は、白金などの触媒と高分子電解質、反応ガスの接する三相界面とよばれる部分で起こるとされており、この三相界面を多く確保することが高性能の電池を実現するために重要である。
【0093】
拡散層には、気体の透過性と導電性とに優れた、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの導電性多孔質材料が一般に用いられている。これらのカーボン繊維は1μm程度の空隙を形成しており、これが反応ガスの流入路および生成水の排水経路として働く。拡散層は、電解質膜および触媒層を挟み込むように配置されているため、触媒層のための排水性と、高分子電解質膜のための保湿性とをバランスよくもっている必要がある。
【0094】
また、一般に固体高分子型燃料電池では、発電部を反応ガスの流路をつけたセパレータで挟んで発電セルを構成する。さらに、発電セルを積み重ねて直列に接続したセルスタックとすることで燃料電池を構成する。
【0095】
<発明との対応>
第1実施形態の燃料電池10は、一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する膜電極接合体4と、前記一方の面側に配置されて、水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素流路材2、拡散層3とを備える。そして、拡散層3の膜電極接合体4側の面に、周囲の拡散層3よりも液体水の保持性を高めた排水溝3Mが形成されている。
【0096】
燃料電池10は、膜電極接合体4の部分的な水没を引き起す液体水を排水溝3Mに集めて、排水溝3Mに沿った方向に液体水の状態で移動させる。周囲よりも液体水の保持性が高い排水溝3Mは、膜電極接合体4の表面の液体水を吸い寄せて膜電極接合体4の表面を覆うことを妨げ、排水溝3Mの幅を超える領域の水没が抑制される。
【0097】
そして、排水溝3Mが液体水を集める力が排水溝3Mに沿った液体水の流れを形成するので、膜電極接合体4の表面における液体水の分布の偏りが排水溝3Mを通じた液体水の移動によって平均化される。
【0098】
液体水の状態で過剰領域から不足領域へ水が移動するので、発電開始後速やかに膜電極接合体4の湿潤度も均一化され、高分子電解質膜の場合であれば、膜電極接合体4の全体から高い発電性能(起電力)を引き出せる。排水溝3Mを通じた液体水の移動は、全量を水蒸気の状態で移動させる場合ほどには酸素流路材2、拡散層3の水蒸気分圧を高めないので、酸素流路材2、拡散層3を通じた水蒸気の外部への排出性能は高く維持される。酸素流路材2、拡散層3を通じた逆方向の酸素の拡散も円滑になる。
【0099】
従って、膜電極接合体4の表面積あたりの電流値を高く設定しても膜電極接合体4の局所的な水没領域が発生しにくくなる。小面積の膜電極接合体4を用いて、大気の循環機構やブロアーに頼らなくても大きな電流が出力可能となる。高信頼性、長寿命、高性能を実現しつつ、部品点数が少なく小型軽量で安価な燃料電池10を提供できる。
【0100】
燃料電池20の膜電極接合体26は、高分子電解質膜26Aの表面に導電性の触媒層26Bを一体に形成しており、拡散層27が膜電極接合体26に接する面に排水溝27Mが形成されている。
【0101】
触媒層26B側における排水溝27Mの幅は、触媒層26Bの組織の平均開口径よりも大きい。
【0102】
燃料電池10の排水溝3Mの幅は、5μm以上1000μm以下である。
【0103】
発電セル10Sは、通気性を持たせた酸素流路材2と、酸素流路材2の膜電極接合体4側の面に形成されて酸素流路材2よりも微小な開口を有する拡散層3とを酸素供給層が有する。そして、拡散層3が膜電極接合体4に接する面に排水溝3Mが形成されている。
【0104】
第5実施形態の拡散層47は、膜電極接合体26に接する面に、拡散層47よりも組織の平均開口径が小さい導電性のカーボン粒子層48を有する。排水溝48Nは、カーボン微粒層48を貫通して拡散層47に達する深さに形成され、酸素流路材を兼ねたセパレータ28側における排水溝48Nの幅は、拡散層47の平均開口径よりも大きい。
【0105】
燃料電池10は、膜電極接合体4と酸素流路材2、拡散層3とを備えた発電セル10Sが積み重ねて直列に接続される。大気に開放されて膜電極接合体4で生成された水分を大気中に排出する空気取り入れ口8が発電セル10Sの側面側に配置される。排水溝3Mは、空気取り入れ口8に向かう方向に形成されている。
【0106】
第2実施形態における排水溝3Nは、空気取り入れ口8に臨む側面側に連絡して並列に複数配置され、空気取り入れ口8に向かって次第に排水溝3Mの断面積が増大している。
【0107】
第3実施形態における排水溝3Pは、空気取り入れ口8に臨む側面側に連絡して並列に複数配置され、空気取り入れ口8に向かって分岐して本数が増している。
【0108】
燃料電池10は、酸素流路材2における少なくとも排水溝3Mを含む深さの領域がカーボン繊維なので撥水性である。
【0109】
第6実施形態では、三次元の通気性を持たせた酸素供給層47の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、前記表面に塗布した混合液を乾燥させて溶剤を蒸発させている。これにより、炭素粒子のカーボン粒子層48に微小な乾燥収縮クラックを形成して排水溝48Nとした。
【0110】
第5実施形態の排水溝48M以下の方法によって形成できる。三次元の通気性を持たせた酸素供給層47の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、塗布した混合液を乾燥させる。その後に、表面を拡大する方向に酸素供給層47を変形して、炭素粒子のカーボン粒子層48に微小な破断クラックを形成して排水溝48Mとした。
【0111】
第1実施形態における酸素流路材2は、燃料電池10の対向する一対の側面にそれぞれ形成された空気取り入れ口8を通じて、板状の外観の側面側から取り入れた酸素を一方の平面側に拡散供給する。そして、空気取り入れ口8に臨む一対の側面側を連絡する多数の排水溝3Mを前記平面側に有する。
【0112】
第2実施形態における酸素流路材2は、多数の排水溝3Nは、側面側に向かって排水溝3Nの断面積が次第に拡大している。
【0113】
第3実施形態における酸素核酸層2は、多数の排水溝3Pは、側面側に向かって分岐して本数が増えている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】第1実施形態の燃料電池の全体構成の説明図である。
【図2】空気取り入れ口側から見た発電セルの構成の説明図である。
【図3】空気取り入れ口を横に置いた方向から見た発電セルの構成の説明図である。
【図4】酸素供給層の斜視図である。
【図5】第2実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。
【図6】第3実施形態における酸素供給層の構成の説明図である。
【図7】第4実施形態の燃料電池の構成を説明する斜視図である。
【図8】拡散層に形成した排水溝の断面形状の説明図である。
【図9】排水溝の断面形状の変形例の説明図である。
【図10】第5実施形態における酸素供給層および排水溝の構成の説明図である。
【図11】排水溝の構造の変形例の説明図である。
【図12】運転中の燃料電池の水分布を測定するためのX線撮影の説明図である。
【図13】カーボン粒子層の平面内における液体水分布の撮影画像を示す図である。
【図14】発電セルの断面内における液体水分布の撮影画像を示す図である。
【図15】固体高分子型燃料電池の断面形状の典型例の説明図である。
【図16】発電セルの構成の説明図である。
【符号の説明】
【0115】
2、3、27、47 酸素供給層(酸素流路材、拡散層)
3、47 拡散層
4、26 発電層部材(膜電極接合体)
5、25 燃料供給層(燃料流路材)
6 燃料流路材
8 開口(空気取り入れ口)
1、7、9、24、28 セパレータ
10、20 燃料電池
10A セルスタック
10B 燃料タンク
10S 発電セル
26A 高分子電解質膜
26B、26C 触媒層
48 微粒子層(カーボン粒子層)
3M、3N、3P、27M、48M、48N 排水溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する発電層部材と、
前記一方の面側に配置されて、前記水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素供給層と、を備えた燃料電池において、
前記酸素供給層の前記発電層部材側の面に、周囲の前記酸素供給層よりも液体水の保持性を高めた排水溝が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記発電層部材は、高分子電解質膜の表面に導電性の触媒層を一体に形成した膜電極接合体であって、
前記酸素供給層が前記膜電極接合体に接する面に前記排水溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記触媒層側における前記排水溝の幅は、前記触媒層の組織の平均開口径よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記排水溝の幅は、5μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
通気性を持たせた酸素運搬層と、
前記酸素運搬層の前記発電層部材側の面に形成されて、前記酸素運搬層よりも微小な開口を有する導電性の拡散層と、を前記酸素供給層が有し、
前記拡散層が前記膜電極接合体に接する面に前記排水溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項6】
前記拡散層は、前記膜電極接合体に接する面に、前記拡散層よりも組織の平均開口径が小さい導電性の微粒子層を有し、
前記排水溝は、前記微粒子層を貫通して前記拡散層に達する深さに形成され、
前記酸素運搬層側における前記排水溝の幅は、前記拡散層の前記平均開口径よりも大きいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記発電層部材と前記酸素供給層とを備えた発電セルが積み重ねて直列に接続され、
大気に開放されて前記発電層部材で生成された水分を大気中に排出する開口が前記発電セルの側面側に配置され、
前記排水溝は、前記開口に向かう方向に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項8】
前記排水溝は、前記開口に臨む前記酸素供給層の側面側に連絡して並列に複数配置され、
前記開口に向かって次第に前記排水溝の断面積が増大していることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
前記排水溝は、前記開口に臨む前記酸素供給層の側面側に連絡して並列に複数配置され、
前記開口に向かって分岐して本数が増していることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項10】
前記酸素供給層における少なくとも前記排水溝を含む深さの領域が撥水性であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項11】
前記拡散層の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、
前記表面に塗布した前記混合液を乾燥させて前記溶剤を蒸発させることにより、前記炭素粒子の微粒子層に微小な乾燥収縮クラックを形成して前記排水溝としたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記拡散層の表面に炭素粒子と溶剤との混合液を塗布し、
前記表面に塗布した前記混合液を固体化させた後に、前記表面を拡大する方向に前記拡散層を変形して、前記炭素粒子の微粒子層に微小な破断クラックを形成して前記排水溝としたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項13】
発電セルの対向する一対の側面にそれぞれ形成された開口を通じて、板状の外観の側面側から取り入れた酸素を片方の底面側に拡散供給する酸素供給層において、
前記開口に臨む一対の前記側面側を連絡する多数の排水溝を前記片方の底面側に有することを特徴とする酸素供給層。
【請求項14】
前記多数の排水溝は、前記開口に向かって前記排水溝の断面積が次第に拡大していることを特徴とする請求項13記載の酸素供給層。
【請求項15】
前記多数の排水溝は、前記開口に向かって分岐して本数が増えていることを特徴とする請求項13または14記載の酸素供給層。
【請求項1】
一方の面から他方の面へ水素イオンを移動させて発電する発電層部材と、
前記一方の面側に配置されて、前記水素イオンに反応させる酸素を前記一方の面に拡散して供給する酸素供給層と、を備えた燃料電池において、
前記酸素供給層の前記発電層部材側の面に、周囲の前記酸素供給層よりも液体水の保持性を高めた排水溝が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記発電層部材は、高分子電解質膜の表面に導電性の触媒層を一体に形成した膜電極接合体であって、
前記酸素供給層が前記膜電極接合体に接する面に前記排水溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記触媒層側における前記排水溝の幅は、前記触媒層の組織の平均開口径よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記排水溝の幅は、5μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
通気性を持たせた酸素運搬層と、
前記酸素運搬層の前記発電層部材側の面に形成されて、前記酸素運搬層よりも微小な開口を有する導電性の拡散層と、を前記酸素供給層が有し、
前記拡散層が前記膜電極接合体に接する面に前記排水溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項6】
前記拡散層は、前記膜電極接合体に接する面に、前記拡散層よりも組織の平均開口径が小さい導電性の微粒子層を有し、
前記排水溝は、前記微粒子層を貫通して前記拡散層に達する深さに形成され、
前記酸素運搬層側における前記排水溝の幅は、前記拡散層の前記平均開口径よりも大きいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記発電層部材と前記酸素供給層とを備えた発電セルが積み重ねて直列に接続され、
大気に開放されて前記発電層部材で生成された水分を大気中に排出する開口が前記発電セルの側面側に配置され、
前記排水溝は、前記開口に向かう方向に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項8】
前記排水溝は、前記開口に臨む前記酸素供給層の側面側に連絡して並列に複数配置され、
前記開口に向かって次第に前記排水溝の断面積が増大していることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
前記排水溝は、前記開口に臨む前記酸素供給層の側面側に連絡して並列に複数配置され、
前記開口に向かって分岐して本数が増していることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項10】
前記酸素供給層における少なくとも前記排水溝を含む深さの領域が撥水性であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項記載の燃料電池。
【請求項11】
前記拡散層の表面に炭素粒子と揮発性の溶剤との混合液を塗布し、
前記表面に塗布した前記混合液を乾燥させて前記溶剤を蒸発させることにより、前記炭素粒子の微粒子層に微小な乾燥収縮クラックを形成して前記排水溝としたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記拡散層の表面に炭素粒子と溶剤との混合液を塗布し、
前記表面に塗布した前記混合液を固体化させた後に、前記表面を拡大する方向に前記拡散層を変形して、前記炭素粒子の微粒子層に微小な破断クラックを形成して前記排水溝としたことを特徴とする請求項6記載の燃料電池の製造方法。
【請求項13】
発電セルの対向する一対の側面にそれぞれ形成された開口を通じて、板状の外観の側面側から取り入れた酸素を片方の底面側に拡散供給する酸素供給層において、
前記開口に臨む一対の前記側面側を連絡する多数の排水溝を前記片方の底面側に有することを特徴とする酸素供給層。
【請求項14】
前記多数の排水溝は、前記開口に向かって前記排水溝の断面積が次第に拡大していることを特徴とする請求項13記載の酸素供給層。
【請求項15】
前記多数の排水溝は、前記開口に向かって分岐して本数が増えていることを特徴とする請求項13または14記載の酸素供給層。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−207685(P2007−207685A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27791(P2006−27791)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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