説明

燃料電池、燃料電池システム及び加熱部

【課題】発熱体の配置位置の自由度を上げて、セル積層体の端部付近を十分になおかつ均一に温度調整する。
【解決手段】燃料電池10において、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電が行われる単セルが複数積層されたセル積層体50と、セル積層体50の端部に設けられ、セル積層体50を加熱する加熱部53とを有する。加熱部53は、給電によって発熱するPTC素子70を板面内に備えた発熱板62と、当該発熱板62を挟むように発熱板62の両側に設けられ、前記発熱板62のPTC素子70に接触して給電する一対の電極板61、63と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池と、その燃料電池を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムは、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池を有している。この燃料電池は、燃料ガスと酸化ガスの反応が行われる単セルが一方向に積層されて構成されたセル積層体(スタック)を有し、このセル積層体全体で所望の電圧の発電が行われている。
【0003】
ところで、セル積層体は、外側の端部付近の温度が放熱により低くなる。セル積層体の端部付近の温度が低くなると、例えばその端部付近の単セル内の飽和水蒸気量が減少して水分量が増加し、例えば単セル内の水素イオンの移動を妨げて、セル積層体の発電電圧が低下することがある。このため、例えばセル積層体の端部の外側にヒータを配置し、セル積層体の端部付近の温度を適正な温度に保つことが行われている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−174600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようにセル積層体の端部にヒータを設置する場合、例えばセル積層体とエンドプレートとの間に、一筆書き状の線状の発熱体を配線することが考えられる。この場合、発熱体は、セル積層体の端部面に沿って一続きに形成され、その両端部を所定位置の外部端子に接続する必要がある。このため、発熱体の配線のパターンは限定され、発熱体の配線設計の自由度は比較的低くなる。この結果、セル積層体やその周辺の構成によっては、セル積層体の端部面内に温度分布ができ、セル積層体の端部付近を十分になおかつ均一に加温することが難しくなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、発熱体の配置位置の自由度を上げて、セル積層体の端部付近を十分になおかつ均一に加温することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、燃料電池であって、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電が行われる単セルが複数積層されたセル積層体と、前記セル積層体の端部に設けられ、前記セル積層体を加熱する加熱部と、を有し、前記加熱部は、給電によって発熱する発熱体を板面内に備えた発熱板と、当該発熱板を挟むように発熱板の両側に設けられ、前記発熱板の発熱体に接触して給電する一対の電極板と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、発熱板の面内に発熱体を備え、当該発熱板を挟んだ一対の電極板から発熱板の発熱体に給電することができるので、例えば一筆書き状の発熱体を用いた場合に比べて、発熱体の配置位置の自由度を上げることができる。これにより、セル積層体の構造等に応じて発熱体を適正な位置に配置し、例えばセル積層体の端部付近を十分になおかつ均一に加温できる。
【0009】
前記燃料電池における前記発熱体は、前記発熱板面内に複数配置されていてもよい。かかる場合、発熱板面をより均一に加温し、例えばセル積層体の端部付近の加温をより均一に行うことができる。
【0010】
前記セル積層体の端部に近い内側の電極板は、前記発熱板の発熱体以外の部分よりも熱伝導性の高い材質により形成されていてもよい。かかる場合、内側の電極板が熱の拡散板としての機能を果たす。この結果、発熱板の熱が内側の電極板の面内に迅速に拡散し、内側の電極板面が均一に加温されるので、セル積層体の端部の加温をより均一に行うことができる。
【0011】
また、前記発熱板の発熱体は、発熱板の他の部分よりも薄く形成されていてもよい。かかる場合、電極板により発熱板を挟み込んで密着させた際の荷重が、発熱体に直接掛かり難くなるので、発熱体の破損を防止できる。
【0012】
前記セル積層体の端部に近い内側の電極板と前記発熱板の発熱体との接触面積は、前記セル積層体の端部に遠い外側の電極板と前記発熱板の発熱体との接触面積よりも大きくなっていてもよい。かかる場合、発熱体の熱が、セル積層体の端部に遠い外側の電極板側よりも、セル積層体の端部に近い内側の電極板側に伝わりやすくなる。この結果、発熱体の熱が、外側に放出されず、内側のセル積層体側に効率的に伝わるので、セル積層体の端部付近を効率的に加温できる。
【0013】
前記加熱部は、前記セル積層体の端部に遠い外側の電極板のさらに外側に断熱板を有していてもよい。かかる場合、セル積層体の外側への熱伝導が妨げられるので、その分発熱体の熱がセル積層体側に流れやすくなる。この結果、セル積層体の端部付近をさらに効率的に加温できる。
【0014】
前記加熱部は、前記セル積層体の端部とその端部に近い内側の電極板との間に絶縁材を有していてもよい。かかる場合、セル積層体の電力が加熱部側に漏電することを防止できる。
【0015】
以上に記載の前記発熱体は、PTC素子であってもよい。かかる場合、無制御で発熱板を一定の温度に温度調整できる。
【0016】
前記発熱板は、異なるキュリー温度を備えた複数のPTC素子を有していてもよい。かかる場合、例えばセル積層体の複数の設定温度に対応できる。
【0017】
前記電極板は、前記発熱板のPTC素子のキュリー温度毎に、所定のキュリー温度のPTC素子に給電する複数の領域に分割されていてもよい。
【0018】
前記燃料電池は、前記セル積層体の温度を検出する温度センサをさらに有し、前記温度センサによる温度検出結果に基づいて、前記電極板の分割された複数の領域の中から、給電する領域が選択されるようにしてもよい。かかる場合、セル積層体の実際の温度に応じて、キュリー温度の異なるPTC素子を使い分けて、セル積層体の温度調整をより厳密に行うことができる。
【0019】
前記電極板に給電する給電線には、PTC素子が接続されていてもよい。かかる場合、例えば起動時に給電線を通じて発熱板の発熱体に過剰な電流が流れることを抑制できるので、起動時に起こりやすい発熱体によるセル積層体の過昇温を抑制できる。
【0020】
別の観点による本発明によれば、上記燃料電池を有する燃料電池システムが提供される。
【0021】
別の観点による本発明は、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電が行われる単セルが複数積層されたセル積層体の端部に配置される加熱部であって、給電によって発熱する発熱体を板面内に備えた発熱板と、当該発熱板を挟むように発熱板の両側に設けられ、前記発熱板の発熱体に接触して給電する一対の電極板と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、発熱体の配置位置の自由度を上げて、セル積層体の端部付近を十分になおかつ均一に温度調整することができるので、安定的で効率的な発電が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る燃料電池を備えた燃料電池システム1の構成の概略を示す説明図である。本実施の形態では、燃料電池システム1を燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した例について説明する。
【0024】
燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10と、燃料電池10に酸化ガス(例えば空気)を供給する酸化ガス配管系11と、燃料電池10に燃料ガスとしての水素ガスを供給する水素ガス配管系12と、システム全体を統合制御する制御装置13等を備えている。
【0025】
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単電池(単セル)を所要数積層して構成したスタック構造を有している。この燃料電池10の構成の詳細は後述する。燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ10aが取り付けられている。燃料電池10は、発電された電力が供給されるトラクションモータなどの負荷部14に接続されている。
【0026】
酸化ガス配管系11は、加湿器20と、加湿器20により加湿された酸化ガスを燃料電池10に供給する供給流路21と、燃料電池10から排出された酸化オフガスを加湿器20に送る排出流路22と、加湿器20の酸化オフガスを外部に排出する排気流路23を備えている。供給流路21には、大気中の酸化ガスを取り込んで加湿器20に圧送するコンプレッサ24が設けられている。
【0027】
水素ガス配管系12は、高圧(例えば70MPa)の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給するための供給流路31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを供給流路31に戻すための循環流路32を備えている。
【0028】
なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
【0029】
供給流路31には、水素タンク30の元弁として機能し、水素タンク30から燃料電池10側への水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を予め設定した二次圧に減圧するレギュレータ34と、燃料電池10側に供給する水素ガスの流量やガス圧を高精度に調整するインジェクタなどの調圧装置35が設けられている。
【0030】
循環流路32には、水素オフガスから水や不純物を除去するイオン交換器36と、循環流路32内の水素オフガスを加圧して供給流路31側へ圧送する水素ポンプ37が設けられている。イオン交換器36には、イオン交換器36により分離された水や一部の水素オフガスを外部に排出する排出流路38が接続されている。当該排出流路38には、イオン交換器36からの水や一部の水素オフガスの排出を制御する排出制御弁39が設けられている。
【0031】
制御装置13は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、インジェクタ35の開閉制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0032】
制御装置13は、車両に設けられた加速操作装置等の操作量を検出し、例えばトランクションモータなどの負荷部14からの要求発電量等の制御情報を受けて、システム1内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷部14は、トラクションモータのほかに、燃料電池10を作動させるために必要なコンプレッサ24、水素ポンプ37、及び図示しない冷媒循環用のポンプ等の補機装置のモータ、並びに、車両の走行に関与する各種装置(車輪制御部、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、空調装置、照明及びオーディオ等を含む。負荷部14は、後述する燃料電池10の加熱部53の電源Aにもなっている。
【0033】
制御装置13には、燃料電池10の発電量を検出する電流センサ10aの検出情報が入力される。また、各配管系を流れる流体の圧力、温度、流量等を検出するセンサの検出情報や、外気温を検出するセンサの検出情報等が入力される。制御装置13は、要求発電量及び各センサの検出情報に基づき、コンプレッサ24、遮断弁33、及び調圧装置35等を駆動制御して、燃料電池10に要求発電量に応じた流量及び圧力の反応ガスを供給する。
【0034】
次に、燃料電池10について説明する。図2は、燃料電池10の構成の概略を示す説明図である。
【0035】
燃料電池10は、例えば図2に示すように全体が直方体状のセル積層体50を有する。セル積層体50は、一方向に積層された方形板状の単セル51と、それらの単セル51の両端に取り付けられた集電板52を有する。各単セル51は、アノードとカソードを有し、水素ガスと酸化ガスの供給を受けて、当該水素ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する。集電板52は、直列的に接続された単セル51で発電した電力を出力する出力端子になっている。集電板52は、負荷部14に接続されている。
【0036】
燃料電池10は、セル積層体50の両端部に加熱部53を有する。燃料電池10は、各加熱部53の外側にエンドプレート54を有し、セル積層体50と加熱部53が両側のエンドプレート54により挟み込まれている。両側のエンドプレート54同士は、締結棒55によって締結されている。
【0037】
加熱部53は、例えば図3に示すようにセル積層体50の端部側からエンドプレート54側に向けて、絶縁材としての絶縁フィルム60、内側電極板61、発熱板62、外側電極板63及び断熱板64がこの順で積層されている。
【0038】
これらの絶縁フィルム60、内側電極板61、発熱板62、外側電極板63及び断熱板64は、例えば図4に示すようにほぼ同じ大きさの略方形板状に形成され、これらが互いに密着して積層されている。
【0039】
発熱板62には、その板面内に複数の発熱体としてのPTC(Positive Temperature Coefficient)素子70が埋め込まれている。PTC素子70は、発熱板61の面内の全面に亘り、例えば縦方向と横方向に並べて配置されている。PTC素子70は、例えば図5に示すように発熱板62を厚み方向に貫通し、発熱板62の両面に露出するように設けられている。発熱板62のPTC素子70以外の部分は、例えば不導体の樹脂により構成されている。PTC素子70は、発熱板62の他の部分の樹脂部62aよりも薄く形成されている。なお、本実施の形態では、発熱温度が収束する温度であるキュリー温度の同じPTC素子70が用いられている。
【0040】
内側電極板61と外側電極板63は、例えば全体が導電性の金属で構成されている。特に内側電極板61は、少なくとも発熱板62の樹脂部62aよりも熱導電性、熱拡散性の高い銅などで構成されている。例えば内側電極板61は、例えば熱容量が大きくなるように外側電極板63よりも厚く形成されている。これにより、内側電極板61は、熱の拡散板としての機能を果たし、PTC素子70から内側電極板61に伝わった熱は、内側電極板61面内に均一に拡散し、内側電極板61からセル積層体50の端部面に斑なく熱が伝わる。
【0041】
また、内側電極板61と外側電極板63は、PTC素子70の端面に接触する電極61a、63aを有している。例えば内側電極板61の電極61aは、外側電極板63の電極63aより大きく形成されており、電極61aとPTC素子70との接触面積が、電極63aとPTC素子70との接触面積よりも大きくなっている。
【0042】
内側電極板61と外側電極板63は、例えば図4に示すように給電線71、72によって電源Aに接続されている。本実施の形態においては、内側電極板61が陰極になり、外側電極板63が陽極になっている。各給電線71、72は、各電極板61、63の外縁部に形成された端子61b、63bに接続されている。これらの構成により、内側電極板61と外側電極板63に電圧を印加し、図5に示すように電極61a、63aを通じて各PTC素子70に給電してPTC素子70をキュリー温度に近づくように発熱させることができる。
【0043】
絶縁フィルム60は、ポリイミドなどの絶縁体により形成され、内側電極板61とセル積層体50との間を絶縁している。また、絶縁フィルム60は、薄く形成され、高い熱透過性を有している。
【0044】
断熱板64は、例えばシリコン系の樹脂により形成され、外側電極板63とエンドプレート54との間を断熱している。
【0045】
次に、以上のように構成された燃料電池10の作用について説明する。例えば燃料電池システム1が作動し、燃料電池10において発電が行われる際には、電源Aから燃料電池10の加熱部53に電力が供給され、セル積層体50の端部付近の温度調整が行われる。この際、加熱部53の内側電極板61と外側電極板63との間に電圧が印加され、電極61a、63aを通じて発熱板62の各PTC素子70に電力が供給される。PTC素子70は、給電により所定のキュリー温度に安定するように発熱する。PTC素子70で発熱した熱は、内側電極板61及び絶縁フィルム60を通じてセル積層体50側に伝わり、セル積層体50の端部付近が所定の目標温度に調整される。
【0046】
以上の実施の形態によれば、発熱板62の面内にPTC素子70を備え、当該発熱板62を挟んだ一対の電極板61、63により、PTC素子70に給電することができるので、例えば一筆書き状の発熱体を用いた場合に比べて、PTC素子70の配置位置の自由度を上げることができる。これにより、PTC素子70を発熱板62面内の適正な位置に配置し、例えばセル積層体50の端部付近を十分になおかつ均一に温度調整できる。
【0047】
また、PTC素子70が発熱板62面内に複数配置されているので、発熱板62の面内温度をより厳格に調整し、セル積層体50の端部の面内温度をより均一に調整できる。
【0048】
さらに、内側電極板61は、発熱板62のPTC素子70以外の部分62aよりも熱伝導性の高い材質により形成されているので、内側電極板61は、熱の拡散板としての機能を果たす。この結果、発熱板62の熱が内側電極板61の面内に迅速に拡散し、内側電極板61の面内が均一に加温されるので、セル積層体50の端部の温度調整をより均一に行うことができる。
【0049】
また、発熱板62のPTC素子70は、発熱板62のその他の部分よりも薄く形成されているので、一対の電極板61、63により発熱板62を挟み込んで接着させた際の荷重が、PTC素子70に直接掛かり難くなり、荷重や衝撃に弱いPTC素子70の破損を防止できる。
【0050】
また、セル積層体50の端部に近い内側電極板61と発熱板62のPTC素子70との接触面積が、セル積層体50の端部に遠い外側電極板63とPTC素子70との接触面積よりも大きくなっているので、PTC素子70の熱が、外側電極板63側よりも、セル積層体50に近い内側電極板61側に伝わりやすくなる。この結果、PTC素子70の熱が、外側に放出されず、セル積層体50側に効率的に伝わるので、セル積層体50の端部付近を効率的に温度調整できる。
【0051】
加熱部53は、外側電極板63のさらに外側に断熱板64を有するので、セル積層体50の反対側の外側への熱伝導が妨げられ、その分PTC素子70の熱がセル積層体50側に流れる。この結果、セル積層体50の端部付近をさらに効率的に温度調整できる。
【0052】
また、加熱部53は、セル積層体50の端部と内側電極板61との間に絶縁フィルム60を有するので、セル積層体50の電力が加熱部53側に漏電することが防止される。
【0053】
上記実施の形態では、発熱体としてPTC素子70を用いたので、無制御で発熱板62を所望の温度に温度調整できる。仮に、PTC素子を発熱板などの面方向に一筆書き状に配置した場合には、発熱板面内の一部の温度が高くなると、PTC素子全体の発熱が止まるので、面内温度の調整が十分に行われなくなる。本実施の形態では、PTC素子70を発熱板62の面内に埋め込み、両側の電極板61、63により給電するようにしたので、PTC素子70の動作が発熱板62の面内の温度分布の影響を受けなくなり、PTC素子70が所望の温度に発熱できる。特に、本実施の形態では、複数のPTC素子70を発熱板62面内に配置したので、各PTC素子70が独立して作動し、発熱板62面内の温度を所望の温度に均一に調整できる。これにより、セル積層体50の端部の面内温度の均一性を向上できる。
【0054】
以上の実施の形態では、複数のPTC素子70が、同じキュリー温度を有するものであったが、発熱板62に異なるキュリー温度を有するPTC素子を配置してもよい。
【0055】
例えば図6に示すように発熱板62面内には、第1のキュリー温度T1を有する複数のPTC素子70aと、第1のキュリー温度T1より高い第2のキュリー温度T2を有する複数のPTC素子70bが配置される。また、例えば外側電極板63は、発熱板62のPTC素子70aとPTC素子70bのそれぞれ対応する2つの領域R1、R2に分割される。領域R1、R2は、互いに絶縁され、各領域R1、R2は、個別の給電線72a、72bによって電源Aに接続されている。これにより、各領域R1、R2に個別に電力を供給し、各PTC素子70a、70bを選択的に発熱させることができる。この例によれば、例えばセル積層体50の端部付近の調整温度に応じて、発熱させるPTC素子を変えて、複数の温度設定に適正に対応できる。
【0056】
さらに、この例において、図7に示すようにセル積層体50の温度を検出する温度センサ80を設け、その温度センサ80による温度検出結果に基づいて、領域R1、R2の中から給電する領域を選択するようにしてもよい。
【0057】
かかる場合、温度センサ80の温度検出結果は、例えば給電する領域を選択する選択手段としての制御装置13に出力される。制御装置13は、温度センサ80によるセル積層体50の温度に応じて、セル積層体50が所望の温度になるように、PTC素子70a、70bのいずれかを選択し、電源Aの例えばスイッチ回路(図示せず)を制御して、領域R1又は領域R2に給電を行うようにしてもよい。こうすることにより、キュリー温度の異なるPTC素子70a、70bを用いて、より厳格にセル積層体50の温度を調整できる。
【0058】
さらに、このセル積層体50の温度制御において、例えばセル積層体50の端部の温度調整をキュリー温度の高いPTC素子70bで行う場合に、先ず、キュリー温度低いPTC素子70aを用いて、セル積層体50を温度調整し、その後、温度が安定してから、キュリー温度の高いPTC素子70bを用いて、セル積層体50を温度調整してもよい。かかる場合、2段階でセル積層体50を加温できるので、例えば1段階目でセル積層体50の面内温度を一定に安定させ、その後2段階目でセル積層体50の面内温度を均一に保ちながら、セル積層体50を目標温度に調整できる。この結果、セル積層体50の目標温度における面内温度の均一性を向上できる。
【0059】
なお、上記例では、キュリー温度の異なる2種類のPTC素子を用いたが、3種類以上のPTC素子を用いてもよい。
【0060】
図8に示すように以上の実施の形態で記載した電源Aと外側電極板63とを接続する給電線72には、PTC素子90を設けてもよい。例えば図9に示すように、給電線72にPTC素子90を配置しない場合、起動時に発熱板62の多数のPTC素子70に電力を供給しようとして、一時的に給電線72に過剰の電流が流れることがある。これにより、PTC素子70に過剰の電力が供給されセル積層体50が過昇温することがある。この例では、給電線72にPTC素子90を設けることにより、給電線72に過剰の電流が流れることを抑制できるので、起動時に起こりやすいPTC素子70によるセル積層体50の過昇温を抑制できる。また、電源Aから給電線72に不要な大電流が流れることが抑制されるので、燃費の向上が図られる。さらに、何らかの理由で加熱部53の絶縁抵抗が低下し、セル積層体50の発電電流が加熱部53側に漏れた場合にも、当該電流が給電線72を通じて電源A側に逆流することを防止できる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば以上の実施の形態では、発熱板62の発熱体がPTC素子であったが、他の発熱体の場合にも本発明は適用できる。また、発熱体の数が単数の場合も本発明は適用できる。また、発熱体の大きさや形状も適宜選択できる。さらに、以上の実施の形態では、水素ガスと空気により発電する燃料電池10であったが、他のガスにより発電する燃料電池にも本発明は適用できる。また、以上の実施の形態では、燃料電池車両に搭載する燃料電池システム1について説明したが、燃料電池システムは、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に搭載するものであってもよい。また、燃料電池システムは、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】燃料電池システムの構成の概略を示す説明図である。
【図2】燃料電池の構成の概略を示す説明図である。
【図3】燃料電池の加熱部の構成を示す側面図である。
【図4】燃料電池の加熱部の構成を示す説明図である。
【図5】燃料電池の加熱部の構成を示す断面図である。
【図6】異なるキュリー温度のPTC素子を有する加熱部の説明図である。
【図7】温度センサを備えた燃料電池の構成を示す説明図である。
【図8】給電線にPTC素子を備えた燃料電池の構成を示す説明図である。
【図9】給電線にPTC素子を設けた場合と設けない場合の起動時の給電線における電流変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
13 制御装置
14 負荷部
50 セル積層体
53 加熱部
60 絶縁フィルム
61 内側電極板
62 発熱板
63 外側電極板
64 断熱板
70 PTC素子
A 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電が行われる単セルが複数積層されたセル積層体と、
前記セル積層体の端部に設けられ、前記セル積層体を加熱する加熱部と、を有し、
前記加熱部は、
給電によって発熱する発熱体を板面内に備えた発熱板と、
当該発熱板を挟むように発熱板の両側に設けられ、前記発熱板の発熱体に接触して給電する一対の電極板と、を有することを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
前記発熱体は、前記発熱板面内に複数配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記セル積層体の端部に近い内側の電極板は、前記発熱板の発熱体以外の部分よりも熱伝導性の高い材質により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記発熱板の発熱体は、発熱板の他の部分よりも薄く形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
前記セル積層体の端部に近い内側の電極板と前記発熱板の発熱体との接触面積は、前記セル積層体の端部に遠い外側の電極板と前記発熱板の発熱体との接触面積よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記加熱部は、前記セル積層体の端部に遠い外側の電極板のさらに外側に断熱板を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記加熱部は、前記セル積層体の端部とその端部に近い内側の電極板との間に絶縁材を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記発熱体は、PTC素子であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記発熱板は、異なるキュリー温度を備えた複数のPTC素子を有することを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記電極板は、前記発熱板のPTC素子のキュリー温度毎に、所定のキュリー温度のPTC素子に給電する複数の領域に分割されていることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記セル積層体の温度を検出する温度センサをさらに有し、
前記温度センサによる温度検出結果に基づいて、前記電極板の分割された複数の領域の中から、給電する領域が選択されることを特徴とする、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記電極板に給電する給電線には、PTC素子が接続されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池を有する燃料電池システム。
【請求項14】
燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電が行われる単セルが複数積層されたセル積層体の端部に配置される加熱部であって、
給電によって発熱する発熱体を板面内に備えた発熱板と、
当該発熱板を挟むように発熱板の両側に設けられ、前記発熱板の発熱体に接触して給電する一対の電極板と、を有することを特徴とする、加熱部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−193791(P2009−193791A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32322(P2008−32322)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】