説明

燃料電池、燃料電池用触媒電極層、および、燃料電池の製造方法

【課題】燃料電池の触媒電極において、生成水による反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)の阻害を抑制すること。
【解決手段】燃料電池であって、電解質層と、前記電解質層上に形成される触媒電極層と、を備え、前記触媒電極層は、少なくとも、電解質と、表面に触媒金属が担持される導電性粒子と、多孔質な繊維であって、内部に三次元的に連通して広がる微細路を有し、該微細路が親水性を有する多孔質親水繊維とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜−電極接合体(MEA)を形成する触媒電極層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池、例えば固体高分子型燃料電池では、触媒電極層であるアノードおよびカソードに、それぞれ、水素を含有する燃料ガスおよび酸素を含有する酸化ガスが供給されることで電気化学反応が進行し、電気化学反応の進行に伴って、カソードで水が生じる。このようにカソードで生じた水がカソード近傍に留まると、カソードに対する反応ガスの給排が妨げられる可能性がある。そのため、燃料電池における発電を良好に継続させるためには、カソードからの排水を支障なく進行させて、カソードへのガス供給が確保されることが必要である。なお、カソードで生じた水が、電解質膜を介してアノード側へと移動する場合には、アノード側においても同様の問題が生じる。
【0003】
このような問題を解決する手段として、表面が親水性の親水繊維を触媒電極層に混入させ、触媒電極層中の生成水を、親水繊維を伝わせて移動させることにより触媒電極層からの排出を促進する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−247316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように、触媒電極層中に親水繊維を混入しても、発電量が増加して、生成水量が増える場合には、触媒電極層からの生成水の排出が間に合わず、触媒電極層において、生成水の滞留量が増加して、生成水によって反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)が妨げられるおそれがあった。このように、生成水によって反応ガスの流れが妨げられると、触媒電極層に反応ガスが十分に行き渡らず、その結果、電池性能を充分に向上させることは困難となる。そのため、生成水がより多く生じる場合にも、反応ガス流れを確保できる技術が望まれていた。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の触媒電極層において、生成水による反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)の阻害を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明の燃料電池では、
燃料電池であって、
電解質層と、
前記電解質層上に形成される触媒電極層と、
を備え、
前記触媒電極層は、少なくとも、
電解質と、
表面に触媒金属が担持される導電性粒子と、
多孔質な繊維であって、内部に三次元的に連通して広がる微細路を有し、該微細路が親水性を有する多孔質親水繊維と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
上記構成の燃料電池によれば、触媒電極層において、多孔質親水繊維の内部に形成される微細路が生成水のパス(受け渡し流路)として機能することができる。そのため、触媒電極層において、生成水を円滑に排出することができ、その結果、生成水による反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0009】
上記燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、導電性とすることが好ましい。
【0010】
このようにすれば、触媒電極層において、多孔質親水繊維が抵抗となることを抑制することができる。その結果、集電効率を上昇させることが可能となり、電池性能の低下を抑制することができる。
【0011】
上記燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、前記微細路に加えて、表面も親水性を有することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、触媒電極層において、多孔質親水繊維の表面が生成水のパス(受け渡し流路)として機能することができる。そのため、触媒電極層において、生成水を円滑に排出することができ、その結果、生成水による酸化ガスの拡散(酸化ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0013】
上記燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、カーボン繊維を、水蒸気雰囲気下、または、酸素雰囲気下で腑活することにより生成したものであることが好ましい。
このようにすれば、多孔質親水繊維を容易に生成することが可能である。
【0014】
上記燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、長手方向の長さが、繊維の太さの3倍以上であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、多孔質親水繊維の生成水パスとしての機能を向上させることができる。そのため、触媒電極層において、生成水を円滑に排出することができ、その結果、生成水による酸化ガスの拡散(酸化ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0016】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明の燃料電池用触媒電極層では、
電解質と、
表面に触媒金属が担持される導電性粒子と、
多孔質な繊維であって、内部に三次元的に連通して広がる微細路を有し、該微細路が親水性を有する多孔質親水繊維と、
を備えることを要旨とする。
【0017】
上記構成の燃料電池用触媒電極層によれば、多孔質親水繊維の内部に形成される微細路が生成水のパス(受け渡し流路)として機能することができる。そのため、上記燃料電池用触媒電極層において、生成水を円滑に排出することができ、その結果、生成水による反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0018】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明の燃料電池の製造方法では、
燃料電池の製造方法であって、
(A)電解液、表面に触媒金属が担持された導電性粒子、および、多孔質な繊維状の物質であって、少なくとも、内部の孔が、親水性を有する多孔質親水繊維を用意する工程と、
(B)前記電解液、前記導電性粒子、および、前記多孔質親水繊維をミキシングして、スラリを形成する工程と、
(C)前記スラリから膜を形成し、それを乾燥することで触媒電極層を形成する工程と、
を備えることを要旨とする。
【0019】
上記構成の燃料電池の製造方法によれば、多孔質親水繊維を触媒電極層中に混入して形成することが可能である。このようにすれば、触媒電極層において、多孔質親水繊維の内部に形成される微細路が生成水のパス(受け渡し流路)として機能することができる。そのため、触媒電極層において、生成水を円滑に排出することができ、その結果、生成水による反応ガスの拡散(反応ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0020】
上記燃料電池の製造方法において、
(D)電解質膜を用意する工程と、
(E)前記工程(B)後、前記スラリの膜を前記電解質膜上に形成する工程と、
(F)前記工程(C)後、前記電解質膜上に形成された前記スラリの膜をホットプレスする工程と、
を備えるようにしてもよい。
【0021】
このようにすれば、電解質膜の表面に触媒電極層を形成することができる。
【0022】
なお、本発明は、上記した燃料電池や燃料電池用触媒電極層などの態様に限られることなく、例えば、燃料電池用膜電極接合体(MEA)などの態様として実現することも可能である。また、燃料電池の製造方法などの態様に限られることなく、例えば、燃料電池用触媒電極層の製造方法や燃料電池用膜電極接合体(MEA)などの態様として実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.燃料電池の構成:
B.触媒電極層の構成:
C.触媒電極層を有するMEAの製造方法:
D.実施例と比較例の実験結果:
E.変形例:
【0024】
A.燃料電池の構成:
図1は、本発明の実施例である燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。本実施例の燃料電池は、例えば固体高分子電解質型燃料電池とすることができ、単セル10を複数積層したスタック構造を有している。単セル10は、電解質膜21と、電解質膜21の両面に形成される触媒電極層(カソード22およびアノード23)とから成るMEA24を備える。また、単セル10は、MEA24の外側に第1ガス拡散層31,32を備え、さらに、その外側に第2ガス拡散層33,34を備えている。
【0025】
電解質膜21は、固体高分子材料、例えば、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。触媒電極層であるカソード22およびアノード23についての詳細は、後述する。
【0026】
第1ガス拡散層31,32は、導電性を有するカーボン製の多孔質部材であり、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパによって形成される。また、第2ガス拡散層33,34は、導電性を有し、第1ガス拡散層31,32よりも比較的大きな細孔からなる多孔質部材であり、例えば、カーボンペーパ等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属などの金属多孔質体によって形成することができる。
【0027】
ガスセパレータ35,36は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成形した金属板によって形成することができる。ガスセパレータ35,36の表面には、単セル10に供給された燃料ガスあるいは酸化ガスの流路を形成するための凹凸形状が形成されている。すなわち、カソード22側の第2ガス拡散層33とガスセパレータ35との間には、カソードでの電気化学反応に供される酸化ガスが通過する単セル内酸化ガス流路37が形成されている。また、アノード23側の第2ガス拡散層34とガスセパレータ36との間には、アノードでの電気化学反応に供される燃料ガスが通過する単セル内燃料ガス流路38が形成されている。なお、図1のガスセパレータ35,36は、平行な複数の溝からなる凹凸形状を有しているが、異なる形状としても良く、ガスセパレータ35,36とMEA24との間に、ガスの流路を形成するための空間を形成可能であればよい。
【0028】
単セル10の外周部には、単セル内酸化ガス流路37および単セル内燃料ガス流路38におけるガスシール性を確保するための図示しないシール部材が配設されている。また、本実施例の燃料電池は、単セル10を複数積層したスタック構造を有しているが、このスタック構造の外周部には、単セル10の積層方向と平行であって燃料ガスあるいは酸化ガスが流通する複数のガスマニホールドが設けられている(図示せず)。これら複数のガスマニホールドのうちの酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各単セル10に分配され、第2ガス拡散層33および第1ガス拡散層31を拡散しMEAにて電気化学反応に供されつつ、各単セル内酸化ガス流路37内を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。同様に、燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各単セル10に分配され、第2ガス拡散層34および第1ガス拡散層32を拡散しMEAにて電気化学反応に供されつつ、各単セル内燃料ガス流路38内を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。
【0029】
燃料電池に供給される酸化ガスとしては、例えば空気を用いることができる。また、燃料電池に供給される燃料ガスとしては、炭化水素系燃料を改質して得られる水素リッチガスを用いても良いし、純度の高い水素ガスを用いても良い。
【0030】
なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、あるいは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。冷媒流路は、隣り合う単セル間において、一方の単セルが備えるガスセパレータ35と、これに隣接して設けられる他方の単セルのガスセパレータ36との間に設ければよい。
【0031】
B.触媒電極層の構成:
図2は、図1の点線領域Xの拡大図であり、触媒電極層(カソード22)の様子を模式的に表わす説明図である。触媒電極層であるカソード22は、図2に示すように、白金または白金と他の金属からなる合金などの触媒金属が担持された触媒担持カーボン(以下では、単に担持カーボンとも呼ぶ。)と、電解質とから成り、三層界面を形成し、電極として作用する混合電極材料を備える。そして、本実施例のカソード22は、さらに、その混合電極材料中に本発明の特徴部分である多孔質親水繊維40が混入されている。この多孔質親水繊維40は、多孔質な繊維であり、内部に三次元的に連通して広がる微細路を備え、繊維表面および微細路が親水性を有する。この場合において、「親水性」とは、多孔質親水繊維40の微細路内に多孔質親水繊維40の表面から水が浸透することが可能な程度であればよく、例えば、親水性か否かの対象となる部分(微細路内、および、表面)と、液水との接触角が90°未満となればよい。
【0032】
この多孔質親水繊維40は、シリカ繊維、金繊維、白金繊維、および、カーボン繊維などを所定条件下で腑活することにより生成することができる。例えば、多孔質親水繊維40は、カーボン繊維を、高温(例えば、350℃程度。)の水蒸気雰囲気下または酸素雰囲気下で腑活することにより生成することが可能である。なお、アノード23においても、カソード22と同様に、担持カーボン、電解質から成る混合電極材料中に多孔質親水繊維40が混入された構成となっている。また、上記混合電極材料を形成する電解質は、プロトン伝導性を有する材料、例えば、フッ素系樹脂などを用いることができる。
【0033】
多孔質親水繊維40は、長手方向(繊維方向)の長さが、担持カーボンよりも長ければよい。なお、多孔質親水繊維40は、長手方向(繊維方向)の長さが、繊維径の3倍以上であることが好ましく、長手方向(繊維方向)の長さが、繊維径の10倍以上4000倍以下であることがより好ましく、さらに、長手方向(繊維方向)の長さが、繊維径の30倍以上200倍以下であることが特に好ましい。
【0034】
ところで、カソード22では、水の生成熱が生じることによって、電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へかけて温度分布が生じ、また、カソード22内で水は生成されるので、電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へかけて湿度分布が生じる。一方、多孔質親水繊維40は、表面が親水性であるので、カソード22で電気化学反応により生成された水は、温度分布または湿度分布に起因して、多孔質親水繊維40の表面を伝って電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へ移動し、カソード22内、若しくは、第1ガス拡散層31へ排出される。また、多孔質親水繊維40は、内部に微細路を有し、その微細路が親水性であるので、生成水は、多孔質親水繊維40の微細路にも浸透する。そして、多孔質親水繊維40の微細路に浸透した水は、温度分布または湿度分布に起因して、電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へ移動し、カソード22内、若しくは、第1ガス拡散層31へ排出される。多孔質親水繊維40からカソード22内に排出された水は、再度、他の多孔質親水繊維40に浸透し、電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へ移動し、カソード22内、若しくは、第1ガス拡散層31へ排出されることとなる。このように多孔質親水繊維40は、カソード22中において、その表面の他、内部に形成される微細路が生成水のパス(受け渡し流路)として機能することができる。
【0035】
従って、カソード22において、多くの生成水を、電解質膜21側から第1ガス拡散層31側へ排出することができ、すなわち、生成水を円滑にカソード22から第1ガス拡散層31へ排出することができ、その結果、カソード22において、生成水による酸化ガスの拡散(酸化ガスの流れ)の阻害を抑制することが可能となる。
【0036】
なお、アノード23においても、生成水がカソード22から電解質膜21を透過してくる場合があり、多孔質親水繊維40を有することで、上記同様の効果を奏することができる。
【0037】
また、上記多孔質親水繊維40は、導電性であるので、触媒電極層において、多孔質親水繊維40が抵抗となることを抑制することができる。その結果、集電効率を上昇させることが可能となり、電池性能の低下を抑制することができる。
【0038】
C.触媒電極層を有するMEAの製造方法:
図3は、燃料電池の製造時に実行される触媒電極層(カソード22およびアノード23)を有するMEA24の製造工程を表わす説明図である。触媒電極層を作製するには、まず、担持カーボンと、電解質を溶媒(水・アルコール混合液)に溶解させた電解液と、多孔質親水繊維40とを用意する(ステップS100)。
【0039】
次に、ステップS100の工程で用意した部材を混ぜ合わせて(ミキシングして)、スラリを形成する(ステップS110)。
【0040】
続いて、PTFEシートを用意し、用意したPTFEシート上にスラリを塗布する(ステップS120)。この場合、スクリーン印刷やドクターブレイドによって塗布することが可能である。
【0041】
次に、PTFEシート上に塗布したスラリを乾燥させる(ステップS125)。この場合、例えば、80℃の空気雰囲気下に10分間置くことで乾燥させる。
【0042】
上記ステップS100〜ステップS125の工程を繰り返すことによって、スラリが塗布されたPTFEシート(以下では、塗布後PTFEシートとも呼ぶ。)を2つ用意する。そして、電解質膜21を用意して、用意した電解質膜21の両面に、塗布後PTFEシートを配置する(ステップS130)。この場合、塗布後PTFEシートは、スラリが塗布された面と電解質膜21とが対向するように配置される。
【0043】
そして、ステップS130の工程で生成された部材(電解質膜21の両面に塗布後PTFEシートが配置された部材)をホットプレスする(ステップS140)。
【0044】
その後、この生成体から、PTFEシートをはがすことによって(ステップS150)、電解質膜21の両面に触媒電極層が形成されたMEAが完成する。
【0045】
以上のように、本実施例の燃料電池におけるMEAの製造方法では、担持カーボンと、電解液と、多孔質親水繊維40とをミキシングすることにより、混合電極材料中に多孔質親水繊維40を備えた触媒電極層を作製するようにしている。このようにすれば、多孔質親水繊維40を触媒電極層中に容易に混入することが可能である。
【0046】
D.実施例と比較例の実験結果:
図4は、本実施例の燃料電池と、本実施例の燃料電池に対して触媒電極層の構成が異なる燃料電池とを比較した実験結果を示す図である。この実験結果は、本実施例の燃料電池の発電結果と、本実施例の燃料電池に対して触媒電極層の構成が異なる2つの燃料電池(それぞれ、比較例1の燃料電池、比較例2の燃料電池とも呼ぶ。)の発電結果(図4の比較例1,2に該当。)を示している。比較例1,2の燃料電池は、触媒電極層以外の構成(電解質膜21、第1ガス拡散層、第2ガス拡散層、および、ガスセパレータなど。)は、本実施例の燃料電池と同様である。
【0047】
実験に用いた本実施例の燃料電池は、カソード22にのみ多孔質親水繊維40が混入され、アノードは、担持カーボンと、電解質のみから構成されている。比較例1の燃料電池は、カソード、アノードともに、担持カーボンと、電解質のみから構成される。比較例2の燃料電池は、カソードが、担持カーボンと、電解質と、表面に親水処理が施された親水繊維(多孔質ではなく、内部に微細路無し。)とから構成され、アノードが、担持カーボンと、電解質のみから構成される。
【0048】
本実施例、および、比較例1,2の燃料電池の触媒電極層(カソード22)では、担持カーボンとして、45質量%の白金を担持した炭素粒子(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)1gを用い、電解質として、高分子電解質(デュポン社製、SE20092)2.2gを用いた。比較例2の燃料電池では、親水繊維として、繊維径が5μmのピッチ系カーボンファイバ(市販品)の表面に親水処理を施した親水カーボンファイバ0.07gを用いた。また、本実施例の燃料電池では、多孔質親水繊維40として、比較例2で用いたカーボンファイバ(繊維径が5μmのピッチ系カーボンファイバ)を、350℃の空気雰囲気下で5時間腑活処理を行うことで生成された多孔質親水カーボンファイバ0.07gを用いた。
【0049】
また、本実施例、および、比較例1,2の燃料電池の触媒電極層(アノード23)では、担持カーボンとして、30質量%の白金を担持した炭素粒子(日本キャボット社製、バルカンXC−72R)1gを用い、電解質として、高分子電解質(デュポン社製、SE20092)3.5gを用いた。なお、電解質膜としては、フッ素系固体高分子膜(デュポン社製、Nafion112)を用意した。
【0050】
本実施例、および、比較例1,2の燃料電池では、以上の材料を用いて、MEAを作製(図3参照)し、そのMEAを第1ガス拡散層、第2ガス拡散層の順に挟持し、最後に、その積層体をガスセパレータで挟持することで単セルを作製した。
【0051】
実際の燃料電池は、単セルを複数積層した構造を有しているが、図4に示す実験結果は、本実施例、および、比較例1,2の燃料電池について、単セルの状態で発電を行なわせた場合の結果である。発電の際には、燃料ガスとしては純度の高い水素ガスを大過剰量用い、酸化ガスとしては空気を大過剰量用いた。このとき、燃料ガスおよび酸化ガスは、それぞれ、燃料電池の運転温度と同じ温度のバブラを用いて、略飽和蒸気圧となるように加湿した(すなわち、フル加湿した)。各燃料電池における電極面積は25cm2 とした。発電は、80℃および30℃の温度条件で行なわせ、負荷が、それぞれ1.0A/cm2 および0.5A/cm2条件を維持している時の10分間の平均電圧を測定した。
【0052】
単セルの温度が30℃の場合には、カソードでは、生成水の多くが液水の状態で存在すると考えられ、このような場合において、図4に示すように、本実施例の燃料電池は、比較例1,2の燃料電池と比較して、平均電圧を1.4倍から2倍程度高く維持することができた。また、単セルの温度が80℃の場合には、カソードでは、比較的水が水蒸気の状態で存在し、少量の液水が存在する状態であると考えられるが、このような場合であっても、図4に示すように、本実施例の燃料電池は、比較例1,2の燃料電池と比較して、平均電圧を高く維持することができた。これらのことから、本実施例の燃料電池は、比較例1,2の燃料電池と比較して、カソードにおいて、生成水を円滑に排出し、酸化ガスの拡散の阻害を抑制することが可能と考えられる。
【0053】
E.変形例:
なお、本発明では、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【0054】
E1.変形例1:
上記実施例の燃料電池では、多孔質親水繊維40を腑活により生成するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、多孔質親水繊維40を、所定の材料粉末(例えば、カーボン、白金、パラジウムなどの粉末)を焼結することによって生成することが可能である。また、例えば、多孔質親水繊維40を、所定の金属多孔質繊維を用意し、その金属多孔質繊維の内部または表面を金または白金メッキすることにより生成することが可能である。
【0055】
E2.変形例2:
上記実施例の燃料電池では、白金などの触媒金属をカーボンに担持させるようにしていたが、本発明は、これに限られるものではなく、その他の導電性粒子(例えば、セラミックスなど)に担持させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例である燃料電池の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】図1の点線領域Xの拡大図である。
【図3】燃料電池の製造時に実行される触媒電極層(カソード22およびアノード23)を有するMEA24の製造工程を表わす説明図である。
【図4】本実施例の燃料電池と本実施例の燃料電池に対して触媒電極層の構成が異なる燃料電池とを比較した実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10…単セル
21…電解質膜
22…カソード
23…アノード
31…第1ガス拡散層
32…第1ガス拡散層
33…第2ガス拡散層
34…第2ガス拡散層
35…ガスセパレータ
36…ガスセパレータ
37…単セル内酸化ガス流路
38…単セル内燃料ガス流路
40…多孔質親水繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質層と、
前記電解質層上に形成される触媒電極層と、
を備え、
前記触媒電極層は、少なくとも、
電解質と、
表面に触媒金属が担持される導電性粒子と、
多孔質な繊維であって、内部に三次元的に連通して広がる微細路を有し、該微細路が親水性を有する多孔質親水繊維と、
を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、導電性であることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、前記微細路に加えて、表面も親水性を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、カーボン繊維を、水蒸気雰囲気下、または、酸素雰囲気下で腑活することにより生成したものであるを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料電池において、
前記多孔質親水繊維は、長手方向の長さが、繊維の太さの3倍以上であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
燃料電池が備える電解質膜上に形成される燃料電池用触媒電極層であって、
電解質と、
表面に触媒金属が担持される導電性粒子と、
多孔質な繊維であって、内部に三次元的に連通して広がる微細路を有し、該微細路が親水性を有する多孔質親水繊維と、
を備えることを特徴とする燃料電池用触媒電極層。
【請求項7】
燃料電池の製造方法であって、
(A)電解液、表面に触媒金属が担持された導電性粒子、および、多孔質な繊維状の物質であって、少なくとも、内部の孔が、親水性を有する多孔質親水繊維を用意する工程と、
(B)前記電解液、前記導電性粒子、および、前記多孔質親水繊維をミキシングして、スラリを形成する工程と、
(C)前記スラリから膜を形成し、それを乾燥することで触媒電極層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池の製造方法において、
(D)電解質膜を用意する工程と、
(E)前記工程(B)後、前記スラリの膜を前記電解質膜上に形成する工程と、
(F)前記工程(C)後、前記電解質膜上に形成された前記スラリの膜をホットプレスする工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−328936(P2007−328936A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157037(P2006−157037)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】