説明

燃料電池からの触媒回収方法

【課題】特別な設備を用いることなく、燃料電池から簡便に触媒を回収する。
【解決手段】燃料電池から、電極を構成する触媒を回収する方法は、電極に反応ガスを供給するために燃料電池内に形成されたガス流路に対して、上記触媒を溶解可能な触媒溶解液を供給する第1の工程(ステップS110およびステップS120)を備える。さらに、ガス流路内を通過させた前記触媒溶解液を回収する第2の工程(ステップS130)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池からの触媒の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般に、電解質層の両側に、貴金属などの金属を含有する触媒層を備え、アノード側に水素が供給されると共に、カソード側に酸素が供給されて、電気化学反応を進行することにより起電力を得る。このような燃料電池は、燃料の有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換する高効率な発電装置であって、環境汚染物質を排出しない発電装置として、普及が期待されている。ここで、燃料電池の普及のためには、触媒などの燃料電池の構成要素の再利用を図ることが重要であると考えられている。再利用のために燃料電池から触媒を回収する方法としては、燃料電池を分解して得られる廃材であって、電極部分を含む電極廃材から、この電極廃材に含まれる貴金属を王水等を用いて溶解させる酸抽出法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−210246号公報
【特許文献2】特開2005−209624号公報
【特許文献3】特開平8−171922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極廃材等から王水等を用いて貴金属を溶解させる場合には、燃料電池を分解して得られる電極廃材等を王水に浸漬するための溶液槽などの特別な設備が必要になる。また、燃料電池を分解して電極廃材等を取り出す作業を人手に頼る場合には、分解作業の処理量に限界があるため、効率良く触媒を回収することが困難になる場合がある。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、特別な設備を用いることなく、燃料電池から簡便に触媒を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、燃料電池から、電極を構成する触媒を回収する方法であって、
前記電極に反応ガスを供給するために前記燃料電池内に形成されたガス流路に対して、前記触媒を溶解可能な触媒溶解液を供給する第1の工程と、
前記ガス流路内を通過させた前記触媒溶解液を回収する第2の工程と
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の燃料電池からの触媒回収方法によれば、燃料電池内に形成されたガス流路に触媒溶解液を供給することにより、電極内の触媒を触媒溶解液中に溶解させて回収することができる。そのため、燃料電池を構成する部材を浸漬させる等するための特別な設備を用意する必要がなく、触媒回収のための設備を簡素化できると共に、簡便な操作により触媒を回収できる。また、このようにして触媒を回収する際には、燃料電池を分解する操作も不要であり、触媒回収の工程を、より簡素化できる。
【0008】
本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタックから成り、
前記ガス流路は、各々の前記単セル内に形成されたガス流路である単セル内ガス流路と、各々の前記単セル内ガス流路に対して前記反応ガスを供給・排出するガス流路である給排ガス流路と、を備え、
前記第1の工程は、前記給排ガス流路に対して前記触媒溶解液を供給する工程であることとしても良い。
【0009】
このような構成とすれば、第1の工程において、積層された複数の単セルの各々へと反応ガスを供給・排出するための給排ガス流路に対して触媒溶解液を供給すればよいため、積層された複数の単セルからの触媒回収を、既存のガス流路を利用して効率良く行なうことができる。また、既存のガス流路を利用することによって触媒回収のための設備を簡素化できる効果を、より顕著に得ることができる。さらに、燃料電池を分解することなく触媒を回収可能になることによって触媒回収の動作を簡素化できる効果を、より顕著に得ることができる。
【0010】
本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、
前記第1の工程は、前記ガス流路に対して、所定量の前記触媒溶解液を供給した後に、該触媒溶解液を循環させる工程であり、
前記第2の工程は、前記ガス流路を循環させた前記触媒溶解液を回収する工程であることとしても良い。
【0011】
このような構成とすれば、一定量の触媒溶解液を用いて、より多くの触媒を燃料電池から回収することが可能になる。
【0012】
本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、
前記触媒溶解液は、前記燃料電池において前記ガス流路の周囲に配置される部材の内、実質的に前記触媒のみを溶解させる溶液であることとしても良い。
【0013】
このような構成とすれば、触媒以外の成分がより少ない状態で触媒を触媒溶解液に溶解させて回収することができる。
【0014】
本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、前記触媒は、貴金属を含有することとしても良い。希少な貴金属を簡便な方法により回収可能とすることで、触媒として貴金属を用いる燃料電池の普及を促進することができる。
【0015】
このような本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、
前記燃料電池は、さらに、前記燃料電池を構成する単セル内における前記反応ガスの流路の壁面を構成するカーボン製のガスセパレータと、前記電極と前記ガスセパレータとの間に配置されて、前記単セル内における前記反応ガスの流路を形成するカーボン製のガス流路形成部材と、を備えると共に、電解質層として固体高分子電解質膜を備え、
前記触媒溶解液は、酸溶液であることとしても良い。
【0016】
このような構成とすれば、酸溶液は、固体高分子電解質膜およびカーボンを溶解しないため、貴金属を含有する触媒を、効率良く回収することができる。
【0017】
本発明の燃料電池からの触媒回収方法において、さらに、
回収された前記触媒溶解液から、前記触媒を分離・精製する第3の工程を備えることとしても良い。
【0018】
このような構成とすれば、燃料電池から分離した触媒を、容易に再利用可能となる。
【0019】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池の構成部材の再利用方法などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.燃料電池の構成:
B.触媒回収の動作:
C.変形例:
【0021】
A.燃料電池の構成:
最初に、実施例としての燃料電池からの触媒回収方法を適用する燃料電池の構成について説明する。図1は、触媒回収の対象となる固体高分子型燃料電池の構成の概要を表わす断面模式図であり、図2は、分解斜視図である。この燃料電池は、単セルを複数積層したスタック構造を有しているが、図1および図2では、スタックの構成単位である単セル10を中心にして、燃料電池の構成を表わしている。なお、図2では、図1に示す断面の位置を、1−1断面として示している。
【0022】
燃料電池を構成する単セル10は、電解質膜20と、カソード21およびアノード22と、ガス拡散層23,24と、ガスセパレータ25,26と、を備えている。ここで、電極であるカソード21およびアノード22は、電解質膜20上に形成されており、表面に電極が形成された電解質膜20は、ガス拡散層23,24によって挟持されている。そして、このサンドイッチ構造は、さらに両側からガスセパレータ25,26によって挟持されている(ただし、ガス拡散層23は、電解質膜20の裏面に配設されるため、図2では図示せず)。
【0023】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0024】
カソード21およびアノード22は、触媒として、例えば白金、あるいは白金合金を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体上に担持させることによって形成されている。より具体的には、カソード21およびアノード22は、例えば、上記触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜20を構成する高分子電解質と同様の電解質と、を備えている。このような触媒を作製するには、例えば、上記触媒担持カーボンおよび高分子電解質を含有する電極ペーストを作製し、この電極ペーストを、電解質膜20上、あるいはガス拡散層23,24上に塗布し、乾燥・固着させればよい。なお、電極は、上記した高分子電解質を備えないなど、異なる構成とすることもできる。
【0025】
ガス拡散層23,24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。本実施例のガス拡散層23,24は、いずれも、全体として平坦な形状の板状部材である。このようなガス拡散層24は、電気化学反応に供されるガスの流路になると共に、集電を行なう。
【0026】
ガスセパレータ25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボンにより形成されている。ガスセパレータ25,26は、単セル10内に形成されて反応ガス(水素を含有する燃料ガスあるいは酸素を含有する酸化ガス)が流れるガス流路の壁面を成す部材であって、その表面には、単セル10内のガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。単セル10内では、表面に溝62が形成されたガスセパレータ25とカソード21との間には、酸化ガスの流路である単セル内酸化ガス流路27が形成される(図1参照)。また、表面に溝63が形成されたガスセパレータ26とアノード22との間には、燃料ガスの流路である単セル内燃料ガス流路28が形成される(図1参照)。ガスセパレータ26においては、単セル内燃料ガス流路28を形成するための溝63が形成された面の裏面には、単セル内酸化ガス流路27を形成するための溝62が形成されており、その両面で単セル10を形成する。
【0027】
また、燃料電池は、ガスセパレータ25,26以外に、さらにガスセパレータ29を備えている。ガスセパレータ29には、ガスセパレータ25と接する側の表面に、セル間冷媒流路を形成するための溝87が形成されている。このように、燃料電池内においては、所定数のセルを積層する毎に、隣り合う単セル間に、冷媒が流通するセル間冷媒流路が形成されている。セル間冷媒流路は、隣り合う単セル間の全てにおいて設けることとしても良い。なお、ガスセパレータ29においては、冷媒流路を形成するための溝87が形成された面の裏面には、単セル内酸化ガス流路28を形成するための溝63が形成されている。
【0028】
ガスセパレータ25,26,29は、その外周近くの互いに対応する位置に、複数の孔部を備えている。ガスセパレータ25,26,29を、電解質膜20およびガス拡散層23,24と共に積層して燃料電池を組み立てると、各セパレータの対応する位置に設けられた孔部は、互いに重なり合って、ガスセパレータの積層方向に燃料電池内部を貫通する流路を形成する。すなわち、孔部83〜86は、単セル内ガス流路に対して反応ガスを供給・排出する給排ガス流路であるガスマニホールドを形成し、孔部81,82は、冷媒マニホールドを形成する。
【0029】
具体的には、溝62と連通する孔部83および孔部84は、それぞれ、各単セル内酸化ガス流路27に酸化ガスを分配する燃料ガス供給マニホールドと、各単セル内酸化ガス流路27から排出されるカソード排ガスが集合する酸化ガス排出マニホールドを形成する。同様に、溝63と連通する孔部85および孔部86は、それぞれ、燃料ガス供給マニホールドと、燃料ガス排出マニホールドを形成する。また、溝87と連通する孔部81および孔部82は、それぞれ、各セル間冷媒流路に冷媒を分配する冷媒供給マニホールドと、各セル間冷媒流路から排出される冷媒が集合する冷媒排出マニホールドを形成する。
【0030】
図3は、上記各部材を積層して成るスタック15によって形成される燃料電池の外観の概略を表わす斜視図である。上記各部材を備える燃料電池を組み立てるときには、図2に示す順序で各部材を重ね合わせ、所定の数の単セル10を積層した後、その両端に、集電板30,31、絶縁板34,35、エンドプレート36,37を順次配置して、スタック15を完成する。なお、単セル10を積層する際には、電解質膜20の周辺部において、ガスセパレータとの間に、シール材(例えば、フッ素樹脂、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(パイパロン)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等を用いたシール材)が配置されて、単セル内ガス流路におけるシール性が確保される。
【0031】
集電板30,31は緻密質カーボンなどのガス不透過な導電性部材によって形成され、絶縁板34,35はゴムや樹脂等の絶縁性部材によって形成され、エンドプレート36,37は剛性を備えた鋼等の金属によって形成されている。また、集電板30,31にはそれぞれ出力端子32,33が設けられており、燃料電池で生じた起電力を出力可能となっている。
【0032】
ここで、スタック15の一方の端部側に配設される集電板30、絶縁板34、およびエンドプレート36には、それぞれ、6つの孔部が設けられている。すなわち、各ガスセパレータに設けられた孔部81〜86の各々に対応する位置に、孔部が設けられている。そして、エンドプレート36には、流路を接続するための構造である流路接続部41〜46が、上記6つの孔部の各々に連続して設けられている(図3参照)。
【0033】
燃料電池による発電を行なうときには、孔部85に連続して設けられた流路接続部45と、図示しない燃料ガス供給装置とが接続され、水素リッチな燃料ガスが燃料電池内部に供給される。同様に、孔部83に連続して設けられた流路接続部43と、図示しない酸化ガス供給装置とが接続され、酸素を含有する酸化ガス(空気)が燃料電池内部に供給される。ここで、燃料ガス供給装置と酸化ガス供給装置は、それぞれのガスに対して所定量の加湿および/または加圧を行なって燃料電池に供給する装置である。また、燃料電池による発電を行なうときには、孔部86に連続して設けられた流路接続部46と、図示しない燃料ガス排出装置とが接続され、孔部84に連続して設けられた流路接続部44と、図示しない酸化ガス排出装置とが接続される。また、孔部81に連続して設けられた流路接続部41と、図示しない冷媒供給装置とが接続されると共に、孔部82に連続して設けられた流路接続部42と、図示しない冷媒排出装置とが接続される。
【0034】
なお、スタック15は、その積層方向に所定の押圧力がかかった状態で保持される。図3では、スタック15に対して押圧力を加える構成については図示を省略している。
【0035】
B.触媒回収の動作:
以上説明した燃料電池が廃棄処分される際には、燃料電池から触媒の回収が行なわれる。図4は、燃料電池からの触媒回収工程を表わす説明図である。燃料電池から触媒を回収する際には、まず、触媒回収の対象となるスタック15を用意する(ステップS100)。このステップS100で用意するスタック15は、既述した酸化ガス供給装置、酸化ガス排出装置、燃料ガス供給装置、燃料ガス排出装置、冷媒供給装置および冷媒排出装置が取り外されたものである。そして、積層方向には所定の押圧力がかかっており、内部の流路におけるシール性は保持されている。
【0036】
スタック15を用意した後は、触媒溶解液供給部50と燃料電池のガス流路とを接続する(ステップS110)。そして、ガス流路内で触媒溶解液を循環させる(ステップS120)。
【0037】
ここで、触媒溶解液とは、電極が備える触媒を溶解可能であって、少なくとも燃料電池内のガス流路の周囲に配置された触媒以外の他の構成要素を形成する材料を実質的に溶解しない溶液である。すなわち、触媒を構成する貴金属などの金属は溶解するが、電解質膜20を構成する固体高分子電解質や、ガス拡散層23,24あるいはガスセパレータ25,26を構成するカーボンは溶解しない溶液である。このような触媒溶解液としては、例えば、王水や混酸などの酸溶液を用いることができる。用いる触媒溶解液の組成は、溶解の対象となる触媒を構成する金属の種類によって適宜選択すればよいが、本実施例のように電極触媒が白金を含有する場合には、王水を用いることが望ましい。本実施例の触媒溶解液供給部50は、上記のような触媒溶解液を、燃料電池に対して所定量供給すると共に、供給した触媒溶解液を燃料電池内で循環させることができる装置である。このような触媒溶解液供給部50は、例えば所定の加圧手段を備えることとして、この加圧手段によって、触媒溶解液を循環させると共に触媒溶解液の加圧供給を可能にしても良い。加圧手段としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂によりコートしたポンプを用いることができる。
【0038】
図5は、触媒溶解液供給部50とスタック15内の酸化ガスの流路とを接続した様子を模式的に表わす説明図である。触媒溶解液供給部50は、触媒溶解液貯蔵タンク56と、触媒溶解液の吐出用配管52と、触媒溶解液の回収用配管54とを備えている。ステップS110において触媒溶解液供給部50と燃料電池のガス供給路とを接続する際には、スタック15のエンドプレート36に設けられた流路接続部43と吐出用配管52とを接続すると共に、エンドプレート36に設けられた流路接続部44と回収用配管54とを接続する。
【0039】
同様に、ステップS110では、触媒溶解液供給部50と、スタック15内の燃料ガスの流路との接続も行なう。すなわち、触媒溶解液供給部50が備える図示しない他の吐出用配管と、エンドプレート36に設けられた流路接続部45とを接続すると共に、触媒溶解液供給部50が備える図示しない他の回収用配管と、エンドプレート36に設けられた流路接続部46とを接続する。
【0040】
そして、スタックS110では、触媒溶解液貯蔵タンク56から吐出用配管を介してスタック15内へと所定量の触媒溶解液を供給すると共に、触媒溶解液供給部50内の流路とスタック15内のガス流路との間で、この触媒溶解液を循環させる。このとき、スタック15内では、酸化ガス供給マニホールドおよび単セル内酸化ガス流路27を経由して、酸化ガス排出マニホールドへと触媒溶解液が流れる。また、同様に、燃料ガス供給マニホールドおよび単セル内燃料ガス流路28を経由して、燃料ガス排出マニホールドへと触媒溶解液が流れる。
【0041】
このように、スタック15内のガス流路内に触媒溶解液を流すことで、触媒溶解液内へと触媒が次第に溶解する。すなわち、カソード21を構成するカーボン粒子上に担持される触媒は、単セル内酸化ガス流路27を流れる触媒溶解液に溶解し、アノード22を構成するカーボン粒子上に担持される触媒は、単セル内燃料ガス流路28を流れる触媒溶解液に溶解する。このように単セル内ガス流路に触媒溶解液を流す際には、触媒溶解液を加圧することにより、触媒担持カーボン粒子によって構成される電極の内部にまで触媒溶解液を行き渡らせることが容易となり、触媒が溶解する効率を向上させることができる。
【0042】
燃料電池のガス流路において、触媒溶解液を、例えば所定時間循環させた後は、循環させた触媒溶解液の回収を行なう(ステップS130)。具体的には、触媒溶解液が循環する流路の所定の箇所において、循環する触媒溶解液を循環流路内から排出させればよい。図6は、スタック15内を循環させた触媒溶解液を回収する様子を模式的に表わす説明図であり、回収用配管54と触媒溶解液供給部50との接続部を外して、回収用配管54から触媒溶解液を回収する様子を示している。これにより、燃料電池からの触媒の回収を、触媒を触媒溶解液中に溶解させた状態で完了することができる。
【0043】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒回収方法によれば、燃料電池内に形成されるガス流路、すなわち燃料電池内の既存の流路に触媒溶解液を循環させることにより、電極内の触媒を触媒溶解液中に溶解させて回収するため、燃料電池を構成する部材を浸漬させる等するための特別な設備を用意する必要がなく、触媒回収のための設備を簡素化できると共に、簡便な操作により触媒を回収できる。また、このようにして触媒を回収する際には、燃料電池を分解する操作も不要であり、触媒回収の工程を簡素化できる。
【0044】
なお、本実施例のように、単セルを複数積層したスタックによって燃料電池を構成する場合には、各単セルへと反応ガスを供給・排出する流路(単セル内ガス流路に連通するガスマニホールド)に対して触媒溶解液を供給することによって、積層された単セルの各々から容易に触媒を回収することができる。したがって、触媒回収のための設備および触媒回収の操作を簡素化する効果を、特に顕著に得ることができる。ただし、単セルから成る燃料電池であっても良く、本実施例と同様に、既存のガス流路に対して触媒溶解液を供給して触媒を回収することで、同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、本実施例によれば、触媒溶解液には高分子電解質膜が実質的に溶解しないため、触媒と高分子電解質とを分離するために、焼成(熱分解の工程)を行なう必要がない。焼成は、触媒と他の材料との混合物を焼成することによって、他の材料を熱分解させ、触媒から触媒以外の他の材料を除去することができる工程であり、触媒を分離する際に広く行なわれる方法である。しかしながら、本実施例の電解質膜20のようなフッ素系樹脂が触媒と混合されている場合には、焼成を行なうとフッ素系樹脂の熱分解に伴って有害ガスが発生し、このガスの処理が必要となる。本実施例では、触媒溶解液に触媒を溶解させることによって触媒と高分子電解質とが分離されるため、焼成に伴い発生するガス処理の問題が生じることがない。
【0046】
また、本実施例によれば、触媒と固体高分子電解質とを分離するために焼成を行なわず、触媒を燃料電池から回収した後にも電解質膜20はスタック15内に残存しているため、この電解質膜20を別途再利用することも可能になる。
【0047】
さらに、本実施例では、燃料電池から触媒を回収する際に、スタック15内のガス流路において触媒溶解液を循環させているため、一定量の触媒溶解液を用いて、より多くの触媒を取り出すことが可能となっている。ここで、例えば触媒として白金を用いており、触媒溶解液として王水を用いている場合には、白金が王水に溶解することによって、橙色の塩化白金酸を生じる。このような、触媒が触媒溶解液に溶解する際の色変化を利用して、スタック15内を循環させる触媒溶解液の吸光度を測定することにより、触媒溶解液に溶解した触媒量、すなわち触媒の回収量を算出しても良い。このようにスタック15内に触媒溶解液を循環させて触媒を回収する際に、より多くの触媒を回収するには、上記のようにスタック15内に触媒溶解液を供給して循環させ、その後に触媒が溶解した触媒溶解液を回収する動作を、複数回繰り返して行なえば良い。
【0048】
なお、触媒溶解液に溶解させることによって燃料電池から触媒を回収する際には、触媒溶解液を循環させないこととしても良い。すなわち、スタック15内のガス流路へと触媒溶解液を供給すると共に、触媒を溶解してスタック15から排出された触媒溶解液を、そのまま回収しても良い。触媒溶解液の循環を行なわない場合には、例えば、スタック15への触媒溶解液の供給に先立って、ガス流路の出口部である流路接続部44,46を閉鎖してもよい。この場合には、流路接続部44,46の閉鎖の後にスタック15内へと触媒溶解液を供給し、スタック15内のガス流路内に触媒溶解液を保持した状態で所定時間経過後に、触媒を溶解した触媒溶解液を回収すればよい。あるいは、スタック15内のガス流路への触媒溶解液の供給を開始して、ガス流路から内部の空気を放出させた後に、流路接続部44,46の閉鎖を行ない、その後、ガス流路内に滞留する触媒溶解液への触媒の溶解を行なわせても良い。
【0049】
また、触媒溶解液が、金属以外のカーボンや固体高分子電解質を溶解させないものであっても、例えば触媒が溶解して消失することにより、電極におけるカーボン粒子の結着力が弱まり、カーボン粒子が剥がれ落ちて触媒溶解液中に混入する場合がある。このように、触媒溶解液に他の材料が混入する場合であっても、例えば濾過や遠心分離行なうことにより、回収した触媒溶解液から上記他の材料を容易に除去することができる。
【0050】
触媒溶解液に溶解する状態で触媒を回収した後には、触媒を溶解した触媒溶解液を、例えば、低温・低圧条件下で蒸留を行なう減圧蒸留によって濃縮すればよい。そして、触媒を溶解した触媒溶解液を、不溶性の塩にして回収するなどして、周知の貴金属の分離・精製工程に供すればよい。
【0051】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0052】
C1.変形例1:
スタック15内のガス流路に触媒溶解液を流して触媒溶解液中に触媒を溶解させる際に、さらに、スタック15内の冷媒流路に温水を流しても良い。具体的には、流路接続部41および42に温水循環装置を接続し、燃料電池内の冷媒供給マニホールドとセル間冷媒流路と冷媒排出マニホールドとの間に、温水を流すこととしても良い。これにより、スタック15の内部温度を上昇させることができる。このように温度を上昇させることにより、触媒溶解液への触媒の溶解を促進することができる。触媒溶解液の温度を上昇させるには、スタック15への触媒溶解液の供給に先立って予め触媒溶解液を加熱しても良いが、触媒溶解液の加熱に代えて、あるいは触媒溶解液の加熱に加えて、冷媒流路に温水を流すことにより、容易に触媒溶解液への触媒の溶解を促進することができる。
【0053】
C2.変形例2:
触媒回収の対象とする燃料電池は、実施例とは異なる形状であっても良い。例えば、ガスセパレータの形状を、単セル内ガス流路となる空間を形成するための凹凸が表面に形成された形状とする代わりに、単セル内ガス流路の壁面を形成する表面が平坦面である形状としても良い。この場合には、燃料電池の電極とガスセパレータとの間に、ガス拡散層23,24に代えて、あるいはガス拡散層23,24に加えて、カーボン製の多孔質体である流路形成部を配置して、この流路形成部の内部に形成される細孔によって、単セル内ガス流路を形成すればよい。このように、燃料電池において反応ガスの流路の周囲に配置される電解質膜および触媒以外の部材を、触媒溶解液によって実質的に溶解されない材料、例えばカーボンによって形成し、触媒溶解液として例えば王水などの酸溶液を用いれば、実施例と同様の効果が得られる。
【0054】
C3.変形例3:
実施例では、フッ素系の固体高分子電解質膜から成る電解質膜20を備える燃料電池から触媒の回収を行なったが、異なる種類の燃料電池からの触媒回収において、本発明を適用しても良い。例えば、炭化水素系の固体高分子電解質膜を備える燃料電池からの触媒回収方法とすることができる。あるいは、リン酸型燃料電池であっても本発明を適用可能できる。ガス流路の周囲に配置された触媒以外の他の構成要素を実質的に溶解しない触媒溶解液をガス流路に流し、金属から成る触媒を、触媒溶解液に溶解させることができれば良い。これにより、燃料電池を分解することなく、触媒を燃料電池から容易に分離回収可能となり、特に触媒が貴金属を含有する場合には、回収の意義が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】触媒回収の対象となる燃料電池の構成の概要を表わす断面模式図である。
【図2】燃料電池の概略構成を表わす分解斜視図である。
【図3】燃料電池の外観の概略を表わす斜視図である。
【図4】燃料電池からの触媒回収工程を表わす説明図である。
【図5】触媒溶解液供給部と酸化ガス流路との接続の様子を表わす説明図である。
【図6】スタックから触媒溶解液を回収する様子を模式的に表わす説明図である。
【符号の説明】
【0056】
10…単セル
15…スタック
20…電解質膜
21…カソード
22…アノード
23,24…ガス拡散層
25,26,29…ガスセパレータ
27…単セル内酸化ガス流路
28…単セル内酸化ガス流路
28…単セル内燃料ガス流路
30,31…集電板
32,33…出力端子
34,35…絶縁板
36,37…エンドプレート
41〜46…流路接続部
50…触媒溶解液供給部
52…吐出用配管
54…回収用配管
56…触媒溶解液貯蔵タンク
62,63…溝
81〜86…孔部
87…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池から、電極を構成する触媒を回収する方法であって、
前記電極に反応ガスを供給するために前記燃料電池内に形成されたガス流路に対して、前記触媒を溶解可能な触媒溶解液を供給する第1の工程と、
前記ガス流路内を通過させた前記触媒溶解液を回収する第2の工程と
を備える触媒回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の触媒回収方法であって、
前記燃料電池は、複数の単セルを積層したスタックから成り、
前記ガス流路は、各々の前記単セル内に形成されたガス流路である単セル内ガス流路と、各々の前記単セル内ガス流路に対して前記反応ガスを供給・排出するガス流路である給排ガス流路と、を備え、
前記第1の工程は、前記給排ガス流路に対して前記触媒溶解液を供給する工程である
触媒回収方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の触媒回収方法であって、
前記第1の工程は、前記ガス流路に対して、所定量の前記触媒溶解液を供給した後に、該触媒溶解液を循環させる工程であり、
前記第2の工程は、前記ガス流路を循環させた前記触媒溶解液を回収する工程である
触媒回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の触媒回収方法であって、
前記触媒溶解液は、前記燃料電池において前記ガス流路の周囲に配置される部材の内、実質的に前記触媒のみを溶解させる溶液である
触媒回収方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の触媒回収方法であって、
前記触媒は、貴金属を含有する
触媒回収方法。
【請求項6】
請求項5記載の触媒回収方法であって、
前記燃料電池は、さらに、前記燃料電池を構成する単セル内における前記反応ガスの流路の壁面を構成するカーボン製のガスセパレータと、前記電極と前記ガスセパレータとの間に配置されて、前記単セル内における前記反応ガスの流路を形成するカーボン製のガス流路形成部材と、を備えると共に、電解質層として固体高分子電解質膜を備え、
前記触媒溶解液は、酸溶液である
触媒回収方法。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の触媒回収方法であって、さらに、
回収された前記触媒溶解液から、前記触媒を分離・精製する第3の工程を備える
触媒回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−27700(P2008−27700A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198055(P2006−198055)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】