説明

燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受

【課題】燃料電池用の冷却水に不純物が混入しないようにし、特に滑り軸受が不純物の供給源にならないようにすることを課題としている。
【解決手段】燃料電池に付設される冷却水循環ポンプのインペラー4の回転軸3を回転自在に支持する滑り軸受2、6において、滑り軸受2、6の形成材料が金属イオン非含有のポリエーテルケトン系樹脂などの合成樹脂である燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の電動ウォーターポンプとしては、ハウジング1に滑り軸受2、6を介して回転軸3の両端を支持させ、その回転軸3の一端にインペラー4を固定して設け、ポンプを駆動する時には回転軸3と一体に設けた回転子5を電動モータで駆動してインペラー4を回転させ、ポンプ室内の水流(図中に矢印で示す。)を起こさせるものが知られている。
【0003】
ウォーターポンプの回転軸3には、滑り軸受2、6が設けられる他、必要があればメカニカルシール(図示せず。)を設けて、回転軸3と軸受6の間を密封し、電動モータなどの駆動装置内に水や蒸気を浸入させないようにしている。
【0004】
自動車のエンジンの冷却液を循環させる用途のウォーターポンプその他の自動車ウォーターポンプ用部品としては、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物などが知られている(特許文献1参照。)。
【0005】
また、樹脂製の滑り軸受で回転軸をハウジングに支持する自動車のウォーターポンプとしては、冷却液(不凍液)が樹脂製の滑り軸受が高・低温の不凍液との接触状態でも摺動性、耐摩耗性、機械的強度が長期間維持できるように、ポリエーテルケトン系樹脂を採用したものが知られている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−116494号公報
【特許文献2】特開2002−139045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来の自動車のウォーターポンプ用滑り軸受は、これを燃料電池用の冷却水循環ポンプ用滑り軸受として転用すると、燃料電池の効率が低下する場合がある。
【0008】
その原因としては、燃料電池用の冷却水として純水が使用されており、不純物が混入すると燃料電池の効率が悪くなり、電池寿命も低下することが判明していたが、不純物が増加する原因は特定されておらす、確実な防止策もなかったからである。
【0009】
また、何らかの要因で冷却水に不純物が混入することを完全に回避することは困難であっても、冷却水中から不純物を除去する純水器を設けるなどの手段が採られていたにすぎない。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、燃料電池用の冷却水に不純物が混入しないようにし、特に滑り軸受が冷却水への不純物の混入原因にならないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、燃料電池に付設される冷却水循環ポンプのインペラーの回転軸を回転自在に支持する滑り軸受において、この滑り軸受の形成材料が金属イオン非含有の合成樹脂であることを特徴とする燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受としたのである。
【0012】
上記したように構成されるこの発明の燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受は、形成材料が金属イオン非含有の合成樹脂であり、ベース樹脂のほか、強化剤、潤滑剤などの配合剤にもNaイオンなどの金属イオンは含まれておらず、そのため冷却水に触れても金属イオンを溶出させない。
【0013】
そのため、滑り軸受が汚染源にならず、燃料電池用の冷却水に不純物が混入せず、燃料電池の効率はそのような冷却水の原因で低下することは無く、電池寿命も長寿命化する。
【0014】
このような作用をより確実に奏させるためには、金属イオン非含有の合成樹脂が、ポリエーテルケトン系樹脂である上記の燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受であることが好ましい。
【0015】
また、滑り軸受の形成材料として、フッ素樹脂、炭素繊維、黒鉛およびアラミド繊維からなる群から選ばれる一種以上の充填剤が添加されている形成材料であることも好ましいことである。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、燃料電池に付設される冷却水循環ポンプのインペラーの回転軸を回転自在に支持する滑り軸受において、この滑り軸受の形成材料を金属イオン非含有の合成樹脂としたので、燃料電池用の冷却水に不純物が混入しないようになり、そのために特に滑り軸受が汚染源にならず、電池の効率はそのような冷却水の原因で低下することは無く、電池寿命も長寿命化するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施形態の燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受2、6は、ハウジング1に保持されて回転軸3の両端を回転自在に支持している。回転軸3は、その一端にインペラー4が固定されており、ポンプを駆動すると回転軸3と一体に設けた回転子5が電動モータで駆動されるので、インペラー4が回転し、ポンプ室内の水流(図中に矢印で示す。)が起こる。
【0018】
この発明に用いる金属イオン非含有の合成樹脂は、原料およびその製造工程中、または副産物として金属イオンを生成しない樹脂であり、どのような金属イオンも含まないが、特に好ましくない金属イオンの代表例としてNaイオンが挙げられる。
【0019】
因みに、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、製造工程上、複生成物として塩化ナトリウムが発生するものであり、これはどのように洗浄しても取り除くことは不可能であると考えられるので、この発明に使用できない樹脂の一例であると考えられる。
【0020】
一方、金属イオン非含有の合成樹脂として、この発明に用いることが好ましいものの例は、ポリエーテルケトン系樹脂である。この樹脂の例は、エーテル結合(−O−)とケトン結合(−CO−)の両者を併有して芳香族環を連結した芳香族ケトン系ポリマーとして多種類のものがあり、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
【0021】
ポリエーテルケトン系樹脂の市販品としては、化1の式に示すビクトレックス社製:PEEK−HT22、化2の式に示すビクトレックス社製:PEEK150P、化3の式に示すヘキスト社製:HOSTATEC、化4の式に示すBASF社製:Ultrapek−A2000が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
なお、この発明に用いるポリエーテルケトン系樹脂の各種の特性を付与するために、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填剤を添加してもよい。具体例としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、チタン酸バリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ケイ素ウィスカなどの繊維状や針状の充填剤、または酸化チタン、酸化亜鉛、グラファイトなどの粉状、粒状または板状の充填剤が挙げられる。
【0027】
このようなポリエーテルケトン系樹脂の機械強度や摩擦摩耗特性を向上させるため、炭素繊維やアラミド繊維などの繊維状充填材やフッ素樹脂や黒鉛などの固体潤滑剤を配合することが好ましく、ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して3〜60重量部を配合できる。3重量部より少量であれば補強効果が期待できなくて好ましくなく、60重量部より多量あれば成形性が悪化するので好ましくない。
【0028】
特に好適に配合可能な繊維状充填材は、炭素繊維である。炭素繊維の添加量は、ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部である。
【0029】
また、好適に配合可能な固体潤滑剤としては、PTFE、PFA等のフッ素樹脂粉末、黒鉛などが例示できる。
【0030】
この発明の固体潤滑剤の添加量は、ポリエーテルケトン系樹脂100重量部に対して1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部である。
【0031】
以上述べた成形材料を混合するには、これらを個別に溶融混合機に供給してもよく、また、予めヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダーなどの汎用の混合機で乾式混合した後、溶融混合機に供給すればよい。
【0032】
そして、混合した成形材料は、400〜420℃の温度範囲に加熱し可塑化した後、金型中に充填し固化および離型することにより円筒状その他の目的の成形体からなるを滑り軸受を得ることができる。
【実施例】
【0033】
実施例または比較例で使用した樹脂材料、補強剤およびその他の添加剤を一括して挙げれば以下の通りである。
(1)ポリエーテルケトン系樹脂[PEEK](ビクトレックス社製:PEEK150P)
(2)ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS](トープレン社製:T−4)
(3)炭素繊維[CF](呉羽化学工業社製:クレカチョップM104T)
(4)ガラス繊維[GF](旭ファイバーグラス社製:MF06JB1−20A)
(5)アラミド繊維(AKZO社製:トワロン0.25mm)
(6)PTFE粉末[PTFE](喜多村社製:KT400H)
(7)黒鉛(日本黒鉛社製:ACP)
【0034】
[実施例1〜5、比較例1、2]
表1に示した配合処方により、各種ベース樹脂100重量部に、その他充填材をヘンシェルミキサーでドライブレンドした後、スクリュー式2軸押出機により溶融混練後、ペレタイズした。得られたペレットを乾燥後、射出成形機(ソディック社製)を用いて、各評価用試験片を射出成形により作製した。
【0035】
得られた試験片について、以下の試験方法により、(a)摩耗特性、(b)相手攻撃性、(c)イオン溶出量、について調べ、その結果を表1中に併記した。
(a) 摩耗特性:内径φ17×外径φ21×長さ10(mm)の筒型試験片を純水中でスラスト型摩耗試験(速度150m/min、荷重0.5MPa、運転時間50h、相手材SUS304)を行ない、試験前後の試験片の重量差から摩耗量(g)を測定した。
(b) 相手攻撃性:上述のスラスト型摩耗試験に用いた相手材の摺動面の損傷度を粗さ測定機で確認し、摩耗深さ0.005mm未満の実質損傷無しのものを表中に◎印、深さ0.005mm〜0.010mmの僅かな損傷があるものを△印、深さ0.01mmを超える損傷があるものを×印と表記した。
(c) イオン溶出性:ペレット10gを純水200mlに浸し、48時間煮沸し、冷却後、イオン量を原子吸光度法にて分析した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果からも明らかなように、実施例1〜5はいずれも摩耗による重量変化が小さく、相手材損傷度も小さかった。また金属イオン溶出もなく、燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受として好適なものであった。
【0038】
これに対して、比較例1、2のものは、PEEKの代わりに耐薬品性が高いPPSを用いたので、Naイオンが抽出され、燃料電池用の滑り軸受として好ましくないことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】冷却水循環ポンプ用滑り軸受の概略構成を示す模式図
【符号の説明】
【0040】
1 ハウジング
2、6 滑り軸受
3 回転軸
4 インペラー
5 回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に付設される冷却水循環ポンプのインペラーの回転軸を回転自在に支持する滑り軸受において、この滑り軸受の形成材料が金属イオン非含有の合成樹脂であることを特徴とする燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受。
【請求項2】
金属イオン非含有の合成樹脂が、ポリエーテルケトン系樹脂である請求項1に記載の燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受。
【請求項3】
滑り軸受の形成材料が、フッ素樹脂、炭素繊維、黒鉛およびアラミド繊維からなる群から選ばれる一種以上の充填剤が添加されている形成材料である請求項1または2に記載の燃料電池の冷却水循環ポンプ用滑り軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2006−9819(P2006−9819A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183478(P2004−183478)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】