説明

燃料電池の劣化判定システム

【課題】燃料電池の不具合部位を特定し、不具合の度合いを検知する。
【解決手段】本発明の触媒電極を有する燃料電池の劣化判定システムは、燃料電池の出力電圧を予め定められた降下パターンで降下制御することにより、出力電圧が降下している際に発生する電流を積算した電気量を測定する第1の測定処理を実行することが可能な測定部と、測定した電気量と、あらかじめ設定されている電気量の基準値とを比較して、触媒電極の触媒の劣化に応じた電気量の変化および触媒を担持する担体の劣化に応じた電気量の変化を求めることにより、触媒と担体のいずれが劣化しているかを判定する劣化判定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルの不具合内容およびその度合いを検知し、その検知結果に基づいて不具合状態からの回復を制御することが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に記載された燃料電池の劣化判定システムが提案されている。この劣化判定システムは、燃料電池を構成する各燃料電池セルの触媒の還元時(例えばリフレッシュ制御時)に、発生した電気量に基づき活性化過電圧を求め、求めた活性化過電圧から燃料電池の出力電圧を推定する。そして、推定した出力電圧と電圧センサによって検知される実際の出力電圧とを比較し、比較結果に基づき燃料電池の劣化を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−045645号公報
【特許文献2】特開2009−231225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、電気量から燃料電池の劣化を判定することは可能であるが、燃料電池の劣化部位を特定してはいないため、劣化の回復制御を行う際に、劣化部位に適応した制御を行うことができない。そして、劣化部位に適応した制御を行っていないため、劣化回復制御の効率が悪い場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、燃料電池の不具合部位を特定し、不具合の度合いを検知する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
触媒電極を有する燃料電池の劣化判定システムであって、
前記燃料電池の出力電圧を予め定められた降下パターンで降下制御することにより、前記出力電圧が降下している際に発生する電流を積算した電気量を測定する第1の測定処理を実行することが可能な測定部と、
測定した電気量と、あらかじめ設定されている電気量の基準値とを比較して、前記触媒電極の触媒の劣化に応じた電気量の変化および前記触媒を担持する担体の劣化に応じた電気量の変化を求めることにより、前記触媒と前記担体のいずれが劣化しているかを判定する劣化判定部と、
を備えることを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、燃料電池の不具合部位を特定して検知することができる。具体的には、触媒電極の劣化として、触媒が劣化しているのか担体が劣化しているのかを判定することができる。また、電気量の変化から劣化の度合い、すなわち、不具合の度合いを検知することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池のカソードに対してエアブローを実行した後で、前記第1の測定処理を実行し、
前記劣化判定部は、前記担体の劣化の判定のための前記電気量の基準値である担体用基準値と前記測定した電気量とを比較し、前記担体用基準値よりも前記測定した電気量が減少している場合には、前記担体に劣化があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、燃料電池のカソードに対してエアブローを実行することにより、触媒の劣化の有無に関わらず、担体の劣化に応じた電気量の変化のみを測定することができるので、担体の劣化およびその度合いを検知することが可能となる。
【0009】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記劣化判定部による前記担体の劣化の判定後において、
前記測定部は、前記第1の測定処理を実行し、
前記劣化判定部は、前記触媒のみの劣化の判定のための前記電気量の基準値である触媒用基準値と前記測定した電気量とを比較し、前記触媒用基準値よりも前記測定した電気量が減少している場合には、前記触媒に劣化があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、触媒のみの劣化およびその度合いを検知することが可能となる。
【0010】
[適用例4]
適用例3記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池へ供給するエアストイキを理論値よりも少ない所定値に低減した環境下で、前記第1の測定処理を実行する
ことを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、触媒の劣化に応じた電気量の変化をより容易に求めることができるので、触媒の劣化およびその度合いをより容易に検知することが可能となる。
【0011】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一つに記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記出力電圧の降下制御時における所定の電圧において発生する電流もしくは発生する電流値のピークにおける電圧の少なくとも1つを前記電気量に対応するパラメータとして測定する第2の測定処理を実行することが可能であり、
前記劣化判定部は、前記電気量の基準値に対応する前記パラメータの基準値として、あらかじめ設定されたパラメータ用基準値を用いる
ことを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、発生する電流を積算した電気量の測定が困難な場合においても簡易的に劣化の判定を行うことができる。
【0012】
[適用例6]
適用例1記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池のインピーダンスもしくは前記燃料電池に供給された冷媒温度を測定することが可能であり、
前記劣化判定部は、測定したインピーダンスがあらかじめ設定されているインピーダンスダンス用基準値以上の場合もしくは測定した冷媒温度があらかじめ設定されている冷媒温度用基準値以上の場合において、前記触媒もしくは前記担体が劣化していると判定した場合には、前記触媒電極に乾燥部位があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。
上記構成によれば、触媒電極に乾燥部位があることを判定することができ、電気量の変化から乾燥の度合いを検知することが可能となる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池の劣化判定システムや、燃料電池の劣化判定方法、燃料電池システム、燃料電池の制御方法などの種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の燃料電池の劣化状態判定の基本概念について示す説明図である。
【図2】第1実施例としての燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】燃料電池の劣化状態判定制御の手順を示すフローチャートである。
【図4】触媒担体劣化判定制御の手順について示すフローチャートである。
【図5】触媒担体の劣化の有無と電気量との関係について示す説明図である。
【図6】触媒担体劣化対策制御について示す説明図である。
【図7】触媒劣化判定制御の手順について示すフローチャートである。
【図8】触媒劣化対策制御について示す説明図である。
【図9】第2実施例として触媒劣化判定制御の他の手順を示すフローチャートである。
【図10】第3実施例として触媒担体劣化判定制御の別の手順を示すフローチャートである。
【図11】第4実施例として触媒劣化判定制御の別の手順を示すフローチャートである。
【図12】第5実施例として乾燥状態判定制御の手順について示すフローチャートである。
【図13】乾燥抑制制御の一例について示す説明図である。
【図14】乾燥抑制制御の他の一例について示す説明図である。
【図15】第6実施例として過加湿状態判定制御の手順について示すフローチャートである。
【図16】排水制御の一例について示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.劣化状態判定の基本概念:
B.劣化状態判定を実行する燃料電池システムの構成例:
C.第1実施例:
D.第2実施例:
E.第3実施例:
F.第4実施例:
G.第5実施例:
H.第6実施例:
I.変形例:
【0016】
A.劣化状態判定の基本概念:
図1は、本発明の燃料電池の劣化状態判定の基本概念について示す説明図である。従来から、燃料電池の触媒電極において、触媒(例えばPt)を担持する触媒担体(例えばC)上には、電気二重層が形成されることが知られている。そして、この電気二重層は、図に示すように、燃料電池の出力電圧をあらかじめ定められた降下パターンで電圧降下させる走査制御(以下、「電圧降下走査制御」とも呼ぶ)を行ったときに発生した電流の積算値である電気量として検出されることがわかっている。
【0017】
さらに、今回、触媒電極中の触媒のうち、燃料電池の電気化学反応に寄与しない触媒上においても、電気二重層が形成されることがわかった。従って、触媒上に形成された電気二重層も、触媒担体上に形成された電気二重層と同様に、電圧降下走査制御において発生した電気量として検出可能であることがわかった。
【0018】
従って、図に示すように、電圧降下走査制御を行ったときに発生した電気量には、電気化学反応による電気量、触媒担体の電気二重層の電気量、および、反応に寄与しない触媒の電気二重層の電気量が含まれることになる。
【0019】
そして、例えば、燃料電池に供給されるカソードおよびアノードのガスや温度等の環境条件が同じ状態で電圧降下走査制御を実行して、電圧降下走査制御において発生した電気量の減少を検知すれば、これに応じて、触媒の劣化や触媒担体の劣化を推定し、減少量に応じて劣化の度合いを推定することが可能と考えられる。さらに、燃料電池に供給されるカソードガス(酸化ガス)の状態をコントロールして、反応に寄与あるいは寄与しない触媒部位をコントロールし、電気量を測定することにより、触媒電極のうちの触媒と触媒担体のいずれが劣化しているか及び劣化の度合いを、検知・推定することができると考えられる。
【0020】
以下の実施例では、説明した劣化判定の基本概念を適用した劣化判定について説明する。
【0021】
B.劣化状態判定を実行する燃料電池システムの構成例:
図2は、第1実施例としての燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。この燃料電池システム10は、車両に搭載される燃料電池システムを例に示している。
【0022】
燃料電池システム10は、燃料電池100と、アノードガス(燃料ガス)供給系200およびカソードガス(酸化ガス)供給系300と、冷却系400と、電力制御系500と、制御部600と、を備えている。
【0023】
燃料電池100は、アノードに供給されるアノードガスとしての燃料ガス(水素)と、カソードに供給されるカソードガスとしての酸化ガス(空気、厳密には空気に含まれる酸素)との電気化学反応により電力を発生する。燃料電池100には、燃料電池100の出力電圧を検出する電圧センサVと、燃料電池100の出力電流を検出する電流センサAが設けられている。
【0024】
この燃料電池100としては、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池セルで構成される燃料電池が対象となる。また、燃料電池100は、複数の燃料電池セルを積層したスタック構造を有するものとする。燃料電池セルは、図示は省略するが、基本的に、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)をセパレータで挟持した構成を有している。MEAは、イオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜のアノード側の面上に形成された触媒電極(「アノード側触媒電極」とも呼ぶ)と、電解質膜のカソード側の面上に形成された触媒電極(「カソード側触媒電極」とも呼ぶ)とで構成される。MEAとセパレータとの間には、アノード側およびカソード側に、それぞれガス拡散層(GDL)が設けられている。また、セパレータとガス拡散層に接する面には、アノードガスやカソードガスのガスを流す溝状のガス流路が形成されている。ただし、セパレータとガス拡散層との間に、ガス流路部が別途設けられる場合もある。
【0025】
カソードガス供給系300は、吸気口310を介してカソードガス(酸化ガス)としての空気を取り込んで圧縮送出するためのコンプレッサ320と、空気(エア)を燃料電池100に供給するためのカソードガス供給流路330と、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を排気口350から排出するためのカソードオフガス排出流路340と、を備える。カソードガス供給流路330のコンプレッサ320の出力側には、カソードガスの流量を検出する流量センサFcが設けられている。カソードオフガス排出流路340には、燃料電池100内のカソードガス(酸化ガス)の圧力を調整するための背圧調整バルブ342が設けられている。また、カソードオフガス排出流路340のうち、燃料電池100の出口側には、カソードガス(酸化ガス)の圧力を検出する圧力センサPcが設けられている。カソードガス供給流路330およびカソードオフガス排出流路340には、燃料電池100から排出されたカソードオフガス(酸化オフガス)を用いてコンプレッサ320から圧送されたカソードガス(酸化ガス)を加湿する加湿部360が設けられている。加湿部360で水分交換等されたカソードオフガスは、排ガスとして排気口350から大気中に排気される。なお、コンプレッサ320、背圧調整バルブ342、および、加湿部360は、制御部600からの指示に従って動作する。
【0026】
アノードガス供給系200は、アノードガス(燃料ガス)としての高圧の水素ガスを貯蔵した水素ガスタンク210と、水素ガスタンク210の水素ガスを燃料電池100に供給するためのアノードガス供給流路220と、燃料電池100から排出されたアノードオフガス(燃料オフガス)としての水素オフガスをアノードガス供給流路220に戻すためのアノードガス循環流路230と、を備える。アノードガス供給流路220には、水素ガスタンク210からの水素ガスの供給を遮断または許容する開閉バルブ222と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ224と、水素ガスの流量を調整する水素供給部226とが設けられている。また、アノードガス供給流路220の燃料電池100の入口側には、供給するアノードガスとしての水素ガスの圧力を検出する圧力センサPaが設けられている。アノードガス循環流路230には、アノードガス循環流路230内のアノードオフガスとしての水素オフガスをアノードガス供給流路220側へ送り出す水素ガスポンプ232が設けられている。また、アノードガス循環流路230には、気液分離部234および排気排水バルブ236を介して、排気口350につながる排出流路238が接続されている。また、アノードガス循環流路230の水素ガスポンプ232の出力側には、アノードガス供給流路220に戻すアノードガスとしての水素ガスの流量を流量センサFaが設けられている。気液分離部234は、水素オフガスに含まれる水分を回収する。排気排水バルブ236は、気液分離部234で回収された水分およびアノードガス循環流路230内の不純物を含む水素オフガスを排出する。排気排水バルブ236から排出された水素オフガスは、排気口350から排ガスとして大気中に排気される。なお、開閉バルブ222、レギュレータ224、水素供給部226、水素ガスポンプ232、気液分離部234、および、排気排水バルブ236は、制御部600からの指示に従って動作する。
【0027】
冷却系400は、冷却部410と、冷媒を燃料電池100に供給する冷媒供給流路420と、燃料電池から排出される冷媒を燃料電池100に戻す冷媒排出流路430と、を備える。冷却部410は、冷媒供給流路420を介して燃料電池100に冷媒を供給し、燃料電池100の冷却に供された後の冷媒を冷媒排出流路430を介して受け取ることにより、冷媒を循環させて、燃料電池100の冷却を実行する。冷媒としては、水、不凍液等を用いることができる。なお、冷媒供給流路420には冷却前冷媒温度を検出する温度センサTiが設けられ、冷媒排出流路430には冷却後冷媒温度を検出する温度センサToが設けられている。
【0028】
電力制御系500は、二次電池510や、二次電池制御部520、モータ530、出力制御部540、図示しない各種の補機制御部等を備える。二次電池制御部520は、二次電池510の充放電を制御する。モータ530は、燃料電池システム10が搭載される車両の主動力源を構成する。出力制御部540は、燃料電池100あるいは二次電池510からの電力のモータ530への電力の供給を制御する。この出力制御部540は、例えば、モータ530が三相交流モータの場合には、直流を三相交流に変換する三相インバータで構成される。補機制御部は、たとえば、水素ガスポンプ232や、コンプレッサ320等の各装置を駆動するための電力の供給を制御する。
【0029】
制御部600は、上述した各センサおよび各要素からの信号を受けとり、受け取った信号に基づいて、各要素の動作を制御することにより、燃料電池100または二次電池510からの電力の出力を制御する。また、本実施例においては、特に、以下で説明するように、燃料電池の劣化状態の判定動作を制御する。制御部600は、内部にCPU、ROM、および、RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。
【0030】
C.第1実施例:
図3は、燃料電池の劣化状態判定制御の手順を示すフローチャートである。この劣化状態判定制御は、燃料電池100の動作条件を同じとして、判定条件を同じとするために、燃料電池システム10の環境条件として同じ条件が設定される状態、例えば、燃料電池システム10の起動時等において、制御部600によって実行されるものとする。本例では、燃料電池システムの起動時において実行されるものとする。
【0031】
この劣化状態判定制御は、触媒担体劣化判定制御(ステップS10)、触媒劣化判定制御(ステップS20)の順に実行され、燃料電池の触媒電極についての劣化状態の判定、より具体的には、触媒電極の触媒担体と触媒のいずれが劣化しているかが判定される。
【0032】
図4は、触媒担体劣化判定制御の手順について示すフローチャートである。この制御を開始すると、まず、温度に応じた触媒担体の劣化判定のための基準値(以下、「担体用基準値」と呼ぶ)を取得しておく(ステップS102)。なお、この担体用基準値は、あらかじめ実験的に求めて、制御部600内の図示しない不揮発性のRAMに記憶されている。
【0033】
次に、エアブロー制御を行った後で、リフレッシュ運転を実行することにより、燃料電池100の電圧降下走査制御を実行する(ステップS104)。この電圧降下走査制御時において発生した電流を測定し、この電流を積算することにより発生した電気量を求め(ステップS106)、求めた電気量が担体用基準値以下であるか否か判断する(ステップS108)。
【0034】
図5は、触媒担体の劣化の有無と電気量との関係について示す説明図である。なお、図は、説明をわかりやすくするために、カソード側の触媒電極を、触媒(Pt)と触媒担体(C)とに区別し、さらに、空気(Air)供給の上流側と下流側とに区別して示している。図5(A)に示すように、エアブロー制御を行うと、反応を阻害している水分が除去され、触媒電極中の触媒のほとんど全ては電気化学反応に寄与されるので、触媒上には電気二重層は形成されず、触媒担体上にのみ電気二重層が形成される。そして、図5(B)に示すように、触媒担体が劣化して触媒担体の量が減少した場合には、これに応じて触媒担体上に形成される電気二重層が減少するので、電圧降下走査制御時に発生する電気量が減少することになる。
【0035】
そこで、触媒担体の劣化が発生していない触媒電極の触媒担体に形成された電気二重層により発生する電気量をあらかじめ実験的に求めておき、これを担体用基準値としておけば、この担体用基準値と電圧降下走査制御によって求めた電気量とを比較して、求めた電気量が担体用基準値よりも減少していれば、触媒担体の劣化が発生していると判定し(ステップS110)、劣化度合いに応じて触媒担体劣化対策制御を実行する(ステップS112)。
【0036】
触媒担体劣化対策制御後、あるいは、求めた電気量が担体用基準値よりも大きく触媒担体劣化がない場合には、通常運転制御を実行させ(ステップS114)、触媒担体劣化判定制御を終了する。
【0037】
図6は、触媒担体劣化対策制御について示す説明図である。図6に示すように、触媒担体が劣化していると判定された場合には、劣化の度合い、すなわち、Δ電気量(=基準値―測定値)に応じて、高負荷運転時における供給する空気(Air)のストイキ(エアストイキ:空気供給理論値に対する実際の空気供給値)を増加させる。これにより、高負荷運転でのフラッディングを防止して、電力出力を確保するとともにドライバビリティを確保することができる。
【0038】
図7は、触媒劣化判定制御の手順について示すフローチャートである。この制御を開始すると、まず、温度に応じた触媒の劣化判定のための基準値(以下、「触媒用基準値」と呼ぶ)を取得しておく(ステップS202)。触媒反応に寄与しない触媒の部位は、温度に応じて制御することが可能である。そして、温度に応じて発生する触媒反応に寄与しない触媒上に形成される電気二重層に対応する電気量が触媒用基準値としてわかっていれば、この触媒用基準値に対して測定した電気量が減少しているか否かを調べることにより、触媒の劣化を判定し、その度合いを推定することができる。なお、この触媒用基準値としては、あらかじめ実験的に求めた触媒用初期基準値から触媒担体の劣化による変動分を減算した値が用いられる。また、触媒用初期基準値は、制御部600内の図示しない不揮発性のRAMに記憶されている。このように、触媒担体の劣化分を減算しておけば、精度よく触媒の劣化のみを検出し、その度合いを推定することができる。
【0039】
次に、リフレッシュ運転を実行することにより、燃料電池100の電圧降下走査制御を実行する(ステップS204)。なお、リフレッシュ運転は、ガスの供給を停止させて、出力電流を変化させることにより電圧降下走査制御を実行するものである。この電圧降下走査制御時において発生した電流を測定し、この電流を積算することにより発生した電気量を求め(ステップS206)、求めた電気量が触媒用基準値以下であるか否か判断する(ステップS208)。
【0040】
なお、触媒の劣化有無と電気量との関係も、触媒担体の劣化の場合と同様に、触媒が劣化して触媒の量が減少した場合には、これに応じて触媒上に形成される電気二重層が減少するので、電圧降下走査制御時に発生する電気量が減少することになる。
【0041】
そこで、触媒の劣化が発生していない触媒に形成された電気二重層により発生する電気量をあらかじめ実験的に求めておき、これを触媒用初期基準値としておけば、この触媒用初期基準値から触媒担体劣化に応じた電気量の変化分を減算することにより触媒用基準値とすることができる。そして、触媒用基準値と電圧降下走査制御によって求めた電気量とを比較して、求めた電気量が触媒用基準値よりも減少していれば、触媒の劣化が発生していると判定し(ステップS210)、劣化度合いに応じて触媒劣化対策制御を実行する(ステップS212)。
【0042】
触媒劣化対策制御後、あるいは、求めた電気量が触媒用基準値よりも大きく触媒劣化がない場合には、通常運転制御を実行させ(ステップS214)、触媒劣化判定制御を終了する。
【0043】
図8は、触媒劣化対策制御について示す説明図である。図8に示すように、触媒が劣化していると判定された場合には、劣化の度合い、すなわち、Δ電気量(=基準値―測定値)に応じて、エア背圧を増加させる。これにより、触媒反応の度合いを高めることができ、電力出力を確保するとともにドライバビリティを確保することができる。
【0044】
なお、触媒劣化対策としては、上記エア背圧制御だけでなく、IV推定制御における触媒表面積の変更や基準IV値の変更を行うようにしてもよい。
【0045】
以上説明したように、触媒担体劣化判定、触媒劣化判定を実行し、電圧降下走査制御により求めた電気量の変化から、触媒電極の劣化、特に、触媒電極を構成する触媒担体に劣化が発生しているのか、触媒に劣化が発生しているかを判定することができる。また、変化量に応じて劣化の度合いを推定することができ、推定した劣化の度合いに応じて劣化対策制御を実行することができる。
【0046】
D.第2実施例:
図9は、第2実施例として触媒劣化判定制御の他の手順を示すフローチャートである。この触媒劣化判定制御は、図7に示した触媒劣化判定制御のステップS202,S204が、ステップS201,S202b,S204bに置き換えられている点が異なっており、他のステップは同じである。
【0047】
この制御では、まず、ステップS201において、リフレッシュ運転のようにガスの供給をストップさせるのではなく、カソードに供給するカソードガス(空気)のストイキを通常運転時に比べて低下させた酸素欠状態となるような低ストイキ条件(例えば、通常ストイキ比1.5に対して、1.0)で燃料電池100が動作するように制御する。低ストイキ条件で酸素欠状態とすることにより、温度により触媒反応に寄与しない触媒部位を制御するよりも、より容易にかつ精度よく触媒反応に寄与しない触媒の部位を制御することが可能である。そして、低ストイキ条件および温度に応じて発生する触媒反応に寄与しない触媒上に形成される電気二重層に対応する電気量が触媒用基準値としてわかっていれば、この触媒用基準値に対して測定した電気量が減少しているか否かを調べることにより、触媒の劣化を判定し、その度合いを推定することができる。そこで、ステップS202bでは、低ストイキ条件および温度に応じて発生する触媒用基準値を取得する。なお、この触媒用基準値としては、あらかじめ実験的に求めた触媒用初期基準値から触媒担体の劣化による変動分を減算した値が用いられる。そして、出力電流を変化させることにより、燃料電池100の電圧降下走査制御を実行する(ステップS204b)。
【0048】
そして、電圧降下走査制御時において発生した電流を測定し、この電流を積算することにより発生した電気量を求め(ステップS206)、求めた電気量が触媒用基準値以下であるか否か判断する(ステップS208)ことにより、触媒判定劣化判定(ステップS210)、触媒劣化対策制御(ステップS212)、通常運転制御(ステップS214)が実行される。
【0049】
以上説明したように、本実施例の触媒劣化判定制御においても、触媒劣化判定および劣化の度合いに応じた対策制御を実行することができる。特に、本実施例では、供給するガスのストイキ条件を低ストイキ条件として酸素欠状態とすることにより、温度により触媒反応に寄与しない触媒部位を制御するよりも、より容易にかつ精度よく触媒反応に寄与しない触媒の部位を制御することが可能であるので、より精度よく触媒の劣化判定および劣化の度合いに応じた対策制御が可能となる。
【0050】
E.第3実施例:
図10は、第3実施例として触媒担体劣化判定制御の別の手順を示すフローチャートである。この触媒担体劣化判定制御は、図4に示した触媒担体劣化判定制御のステップS102,S106,S108が、ステップS102c,S106c,S108cに置き換えられている点が異なっており、他のステップは同じである。
【0051】
電気量は電流の積算値であり、ある電圧値における電流値も触媒担体の劣化を反映するものであると考えられる。そこで、本制御では、以下で説明するように、電圧降下走査制御において、電気量を測定するのではなく、ある電圧値における電流値を測定し、劣化判定のための基準値(以下、「担体用電流基準値」と呼ぶ)と比較することにより、劣化の判定をするものである。
【0052】
この制御では、まず、ステップS102cにおいて、温度に応じた電気量の担体用基準値ではなく、温度に応じた所定電圧の値における担体電流基準値を取得する。なお、所定電圧の値は、あらかじめ規定された値である。ステップS106cでは、エアブロー制御およびリフレッシュ運転における電圧降下走査制御を実行して(ステップS104)、所定電圧の値において発生した電流値を測定し、測定した電流値が担体用電流基準値以下であるか否か判断する(ステップS108c)。そして、触媒担体劣化判定(ステップS110)、触媒担体劣化対策制御(ステップS112)、通常運転制御(ステップS114)が実行される。
【0053】
以上説明したように、本実施例の触媒担体劣化判定制御においては、触媒担体の劣化を反映するものとして、電気量の代わりにある電圧値における電流値を用いることにより、触媒担体劣化判定およびその度合いに応じた対策制御を実行することができる。従って、本例の場合には、電圧降下走査制御において発生する電流値を全て測定することができない場合に、簡単に触媒担体劣化判定およびその度合いに応じた対策制御を実行することが可能である。
【0054】
F.第4実施例:
図11は、第4実施例として触媒劣化判定制御の別の手順を示すフローチャートである。この触媒劣化判定制御は、図7に示した触媒劣化判定制御のステップS202,S206,S208が、ステップS202c,S206c,S208cに置き換えられている点が異なっており、他のステップは同じである。
【0055】
第3実施例で説明した触媒担体劣化判定制御(図10参照)と同様に、
電気量は電流の積算値であり、ある電圧値における電流値も触媒の劣化を反映するものであると考えられる。そこで、本制御においても、以下で説明するように、電圧降下走査制御において、電気量を測定するのではなく、ある電圧値における電流値を測定し、劣化判定のための基準値(以下、「触媒用電流基準値」と呼ぶ)と比較することにより、劣化の判定をするものである。
【0056】
この制御では、まず、ステップS202cにおいて、温度に応じた電気量の触媒用基準値ではなく、温度に応じた所定電圧の値における触媒用電流基準値を取得する。なお、所定電圧の値は、あらかじめ規定された値である。そして、ステップS204において、リフレッシュ運転における電圧降下走査制御を実行し、ステップS206cにおいて、所定電圧の値において発生した電流値を測定し、ステップS208cにおいて、測定した電流値が触媒用電流基準値以下であるか否か判断する。なお、触媒用電流基準値は、あらかじめ実験的に求めた触媒用電流初期基準値から触媒担体の劣化による変動分を減算した値が用いられる。そして、触媒劣化判定(ステップS210)、触媒劣化対策制御(ステップS212)、通常運転制御(ステップS214)が実行される。
【0057】
以上説明したように、本実施例の触媒劣化判定制御においても、触媒の劣化を反映するものとして、電気量の代わりにある電圧値における電流値を用いることにより、触媒劣化判定およびその度合いに応じた対策制御を実行することができる。従って、本例の場合にも、第3実施例の触媒担体劣化判定制御と同様に、電圧降下走査制御において発生する電流値を全て測定することができない場合に、簡単に触媒劣化判定およびその度合いに応じた対策制御を実行することが可能である。
【0058】
G.第5実施例:
燃料電池の乾燥状態が進むと、その乾燥度合いに応じて、電圧降下走査制御時において発生する電気量が減少する。これは、燃料電池の乾燥状態の度合いに応じて、触媒電極の触媒担体と触媒のいずれかにおける電気二重層の形成が減少して、これに対応する電気量が減少し、上記第1実施例〜第4実施例で説明した触媒電極の触媒担体あるいは触媒の劣化状態と同様の状態となると考えられる。そこで、以下で説明するように、電圧降下走査制御時において発生する電気量を利用して、燃料電池の乾燥状態判定およびその度合いに対応する対策制御を実行することができる。
【0059】
図12は、第5実施例として乾燥状態判定制御の手順について示すフローチャートである。この乾燥状態判定制御は、燃料電池100の動作条件を同じとして、判定条件を同じとするために、燃料電池システム10の環境条件として同じ条件が設定される状態、例えば、燃料電池システム10の起動時等において、制御部600によって実行されるものとする。本例では、燃料電池システムの起動時において実行されるものとする。
【0060】
この制御を開始すると、まず、燃料電池のインピーダンスの基準値(以下、「インピーダンス用基準値」と呼ぶ)および燃料電池の乾燥状態判定のための基準値(以下、「乾燥用基準値」と呼ぶ)を取得しておく(ステップS302)。インピーダンス用基準値は、初期状態における燃料電池のインピーダンスの値であり、あらかじめ実験的に求めて、制御部600内の図示しない不揮発性のRAMに記憶されている。また、乾燥用基準値は、燃料電池の基準となる乾湿状態において、触媒媒電極に形成される電気二重層に対応する電気量の値であり、あらかじめ実験的に求めて、制御部600内の図示しない不揮発性のRAMに記憶されている。
【0061】
次に燃料電池100のインピーダンスの測定を実行する(ステップS304)。このインピーダンスの測定は、燃料電池のインピーダンスの測定法として一般的な交流インピーダンス法により測定することができる。また、リフレッシュ運転を実行することにより、燃料電池100の電圧降下走査制御を実行する(ステップS306)。この電圧降下走査制御時において発生した電流を測定し、この電流を積算することにより発生した電気量を求める(ステップS308)。
【0062】
そして、測定したインピーダンスがインピーダンス用基準値以上で、燃料電池100が乾燥状態であるか否か判断し(ステップS310)、さらに乾燥状態である場合には、さらに、求めた電気量が乾燥用基準値以下で、触媒電極が劣化状態と同様の状態であるか否か判断する(ステップS312)。
【0063】
求めた電気量が乾燥用基準値以下であり、触媒電極が劣化状態であると判定された場合には、乾燥抑制制御要と判定し(ステップS314)、乾燥度合いに応じて乾燥抑制制御を実行させる(ステップS316)。そして、再び、インピーダンスの測定を行い(ステップS318)、測定したインピーダンスがインピーダンス用基準値未満と判断されるまで(ステップS320)、乾燥抑制制御(ステップS316)およびインピーダンス測定(ステップS318)を繰り返し実行する。
【0064】
測定インピーダンスがインピーダンス用基準値未満で燃料電池100が乾燥状態でないと判断された場合、あるいは、求めた電気量が乾燥用基準値未満で触媒電極の劣化がないと判断された場合には、通常運転制御を実行させ(ステップS322)、乾燥状態判定制御を終了する。
【0065】
図13は乾燥抑制制御の一例について示す説明図である。図13に示すように、乾燥抑制制御要と判定された場合には、触媒電極の劣化の度合いとして検出される乾燥の度合い、すなわち、Δ電気量(=基準値―測定値)に応じて、エア背圧を増加させる。これにより、カソードを流れる空気の流速を低減させて、水分の持ち去りを低減し、乾燥状態を抑制することが可能となる。また、触媒反応の度合いを高めて水の生成量を増加させて、乾燥状態を抑制することが可能となる。これにより、電力出力を確保するとともにドライバビリティを確保することができる。
【0066】
図14は乾燥抑制制御の他の一例について示す説明図である。図14に示すように、乾燥抑制制御要と判定された場合には、触媒電極の劣化の度合いとして検出される乾燥の度合い、すなわち、Δ電気量(=基準値―測定値)に応じて、アノードガス(燃料ガス:水素ガス)の流量を増加させる。これによっても、乾燥状態を抑制することが可能となる。これによっても、電力出力を確保するとともにドライバビリティを確保することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施例では、電圧降下走査制御時において発生する電気量を利用して、燃料電池の乾燥状態判定およびその度合いに対応する対策制御を実行することができる。
【0068】
H.第6実施例:
燃料電池の湿潤状態が進み過加湿状態となると、その過加湿の度合いに応じて、電圧降下走査制御時において発生する電気量が増加する。これは、燃料電池の過加湿の度合いに応じて、例えば、触媒電極の反応に寄与しない触媒が増加し、電気二重層の形成が増加して、これに対応する電気量が増加するためと考えられる。そこで、以下で説明するように、電圧降下走査制御時において発生する電気量を利用して、燃料電池の過加湿状態およびその度合いに対応する対策制御を実行することができる。
【0069】
図15は、第6実施例として過加湿状態判定制御の手順について示すフローチャートである。この過加湿状態判定制御も、燃料電池100の動作条件を同じとして、判定条件を同じとするために、燃料電池システム10の環境条件として同じ条件が設定される状態、例えば、燃料電池システム10の起動時等において、制御部600によって実行されるものとする。本例では、燃料電池システムの起動時において実行されるものとする。
【0070】
この制御を開始すると、まず、燃料電池のインピーダンス用基準値および燃料電池の過加湿状態判定のための基準値(以下、「過加湿用基準値」と呼ぶ)を取得しておく(ステップS402)。過加湿用基準値は、燃料電池の基準となる乾湿状態において、触媒媒電極に形成される電気二重層に対応する電気量の値であり、あらかじめ実験的に求めて、制御部600内の図示しない不揮発性のRAMに記憶されている。
【0071】
次に燃料電池100のインピーダンスの測定を実行する(ステップS404)。また、リフレッシュ運転を実行することにより、燃料電池100の電圧降下走査制御を実行して(ステップS406)、この電圧降下走査制御時において発生した電流を測定し、この電流を積算することにより発生した電気量を求める(ステップS408)。
【0072】
そして、測定したインピーダンスがインピーダンス用基準値以上で、燃料電池100が過加湿状態であるか否か判断し(ステップS410)、さらに過加湿状態である場合には、さらに、求めた電気量が過加湿用基準値以上であるか否か判断する(ステップS412)。
【0073】
求めた電気量が過加湿用基準値以上である場合には、過加湿状態を抑制するために排水制御要であると判定し(ステップS414)、過加湿度合いに応じて排水制御を実行させる(ステップS416)。そして、再び、インピーダンスの測定を行い(ステップS418)、測定したインピーダンスがインピーダンス用基準値より大きいと判断されるまで(ステップS420)、排水制御(ステップS416)およびインピーダンス測定(ステップS418)を繰り返し実行する。
【0074】
測定インピーダンスがインピーダンス用基準値未満で燃料電池100が乾燥状態でないと判断された場合、あるいは、求めた電気量が乾燥用基準値未満で触媒電極の劣化がないと判断された場合には、通常運転制御を実行させ(ステップS322)、乾燥状態判定制御を終了する。
【0075】
図16は排水制御の一例について示す説明図である。図16に示すように、排水制御要と判定された場合には、電気量の変化の度合いとして検出される過加湿の度合い、すなわち、Δ電気量(=測定値―基準値)に応じて、実行するエアブロー時間を変化させる。これにより、カソードを流れる空気の流量を変化させて、水分の持ち去りを変化させ、過加湿状態を抑制することが可能となる。また、これにより、電力出力を確保するとともにドライバビリティを確保することができる。また、過加湿の度合いに応じてエアブロー時間を調整することができるので、無駄を省き燃費を向上させることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施例では、電圧降下走査制御時において発生する電気量を利用して、燃料電池の過加湿状態およびその度合いに対応する対策制御を実行することができる。
【0077】
I.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0078】
I1.変形例1:
第1実施例における劣化判定制御は、図3に示したように、図4に示した触媒担体劣化判定制御と図7に示した触媒劣化制御を連続して順に実行する場合を例に説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池のある起動時に触媒担体劣化判定制御を行い、次の起動時に触媒劣化判定制御を行うようにしてもよい。すなわち、時間的には必ずしも連続して行う必要はなく、触媒担体劣化判定制御の後、触媒劣化判定制御を行うようにすればよい。
【0079】
I2.変形例2:
第3実施例では、触媒担体の劣化を反映するものとして、電気量の代わりにある電圧値における電流値を用いた場合を示しており、第4実施例では、触媒劣化を反映するものとして、電気量の代わりにある電圧値における電流値を用いた場合を示しているが、電気量の代わりに、発生する電流のピーク値における電圧の値を用いてもよい。この場合においても、同様に、簡単に触媒担体劣化判定およびその度合いに応じた対策制御や、触媒劣化判定およびその度合いに応じた対策制御を実行することが可能である。
【0080】
また、第2実施例の触媒劣化判定制御や、第5実施例の乾燥状態判定制御、第6実施例の過加湿状態判定制御においても、電気量の代わりに、電圧値における電流値や発生する電流のピーク値における電圧の値を用いてもよい。
【0081】
I3.変形例3:
なお、第5実施例では、インピーダンスを測定し、インピーダンス用基準値と比較することにより、乾燥状態にあるか否か判断しており、また、第6実施例では、インピーダンスを測定し、インピーダンス用基準値と比較することにより、過加湿状態にあるか否か判断しているが、冷媒温度を測定し、冷媒温度用基準値と測定冷媒温度とを比較して、冷媒温度用基準値以上である場合に乾燥状態にあると判断し、あるいは、過加湿状態にあると判断するようにしてもよい。この場合には、交流インピーダンス法によるインピーダンス測定を実行するための手段が不要となり、システムの簡素化に有利である。
【0082】
I4.変形例4:
上記実施例では、車両に搭載される燃料電池システムを例に示しているが、車両のみならず、二輪車や船舶、飛行機、ロボット等の種々の移動体に適用可能である。また、移動体に搭載された燃料電池システムに限らず、定置型の燃料電池システムや携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
10…燃料電池システム
100…燃料電池
200…アノードガス供給系
210…水素ガスタンク
220…アノードガス供給流路
222…開閉バルブ
224…レギュレータ
226…水素供給部
230…アノードガス循環流路
232…水素ガスポンプ
234…気液分離部
236…排気排水バルブ
238…排出流路
300…カソードガス供給系
310…吸気口
320…コンプレッサ
330…カソードガス供給流路
340…カソードオフガス排出流路
342…背圧調整バルブ
350…排気口
360…加湿部
400…冷却系
410…冷却部
420…冷媒供給流路
430…冷媒排出流路
500…電力制御系
510…二次電池
520…二次電池制御部
530…モータ
540…出力制御部
600…制御装置
600…制御部
V…電圧センサ
A…電流センサ
Pa…圧力センサ
Fa…流量センサ
Fc…流量センサ
Pc…圧力センサ
Ti…温度センサ
To…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒電極を有する燃料電池の劣化判定システムであって、
前記燃料電池の出力電圧を予め定められた降下パターンで降下制御することにより、前記出力電圧が降下している際に発生する電流を積算した電気量を測定する第1の測定処理を実行することが可能な測定部と、
測定した電気量と、あらかじめ設定されている電気量の基準値とを比較して、前記触媒電極の触媒の劣化に応じた電気量の変化および前記触媒を担持する担体の劣化に応じた電気量の変化を求めることにより、前記触媒と前記担体のいずれが劣化しているかを判定する劣化判定部と、
を備えることを特徴とする劣化判定システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池のカソードに対してエアブローを実行した後で、前記第1の測定処理を実行し、
前記劣化判定部は、前記担体の劣化の判定のための前記電気量の基準値である担体用基準値と前記測定した電気量とを比較し、前記担体用基準値よりも前記測定した電気量が減少している場合には、前記担体に劣化があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記劣化判定部による前記担体の劣化の判定後において、
前記測定部は、前記第1の測定処理を実行し、
前記劣化判定部は、前記触媒のみの劣化の判定のための前記電気量の基準値である触媒用基準値と前記測定した電気量とを比較し、前記触媒用基準値よりも前記測定した電気量が減少している場合には、前記触媒に劣化があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池へ供給するエアストイキを理論値よりも少ない所定値に低減した環境下で、前記第1の測定処理を実行する
ことを特徴とする劣化判定システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記出力電圧の降下制御時における所定の電圧において発生する電流もしくは発生する電流値のピークにおける電圧の少なくとも1つを前記電気量に対応するパラメータとして測定する第2の測定処理を実行することが可能であり、
前記劣化判定部は、前記電気量の基準値に対応する前記パラメータの基準値として、あらかじめ設定されたパラメータ用基準値を用いる
ことを特徴とする劣化判定システム。
【請求項6】
請求項1記載の燃料電池の劣化判定システムであって、
前記測定部は、前記燃料電池のインピーダンスもしくは前記燃料電池に供給された冷媒温度を測定することが可能であり、
前記劣化判定部は、測定したインピーダンスがあらかじめ設定されているインピーダンスダンス用基準値以上の場合もしくは測定した冷媒温度があらかじめ設定されている冷媒温度用基準値以上の場合において、前記触媒もしくは前記担体が劣化していると判定した場合には、前記触媒電極に乾燥部位があると判定する
ことを特徴とする劣化判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−89448(P2012−89448A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237711(P2010−237711)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】