説明

燃料電池の水素循環装置

【課題】循環流体中の水分の凍結を防止して流路閉塞の問題を解消でき、消費電力の低減及び小型化を実現できる燃料電池の水素循環装置を提供することである。
【解決手段】水素循環装置12は、水素ガス供給部15から燃料電池スタック11の水素ガス入口16までを接続する主流路17と、燃料電池スタック11の水素ガス出口19から主流路17との合流点までを接続する循環流路20と、ポンプ部22を駆動するポンプ駆動部23を含む水素ポンプ13と、主流体を吐出する吐出口31及び循環流体を吸入する吸入口33を含むエゼクタ14と、を備え、エゼクタ14は、ポンプ駆動部23に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部23で発生した熱を享受する位置に設けられる。なお、エゼクタ14及び水素ポンプ13を一体化した一体型循環機21とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の水素循環装置に係り、特に水素ポンプ及びエゼクタを備える燃料電池の水素循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率が高く、環境負荷の低減にも寄与することから、ノートパソコンや携帯電話等のモバイル機器、自動車や鉄道等の車両、及び発電所など多様な用途をカバーするエネルギ源として研究開発されている。燃料電池のセルは、電解質膜をアノード側電極及びカソード側電極により狭持してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の両側にセパレータと、を備えた構成であり、車両等に搭載される燃料電池は、このセルが複数積層された燃料電池スタックを有している。なお、燃料電池は、燃料電池のアノード側電極に燃料ガスである水素ガス、カソード側電極に酸化ガスである空気が供給され、アノード側電極で触媒反応により発生した水素イオンを、電解質膜を介してカソード側電極まで移動させ、カソード側電極で酸素と結合させて水を生成すると共に、水素から放出された電子が、外部回路を通じてアノード側電極からカソード側電極へ電流として流れることにより電力を発生する。
【0003】
従って、燃料電池には、燃料ガスである水素ガスを燃料電池スタックに供給するための水素循環装置が設けられる。水素循環装置は、水素ポンプや高圧水素タンク等である水素ガス供給部を含み、水素ガスは、水素ガス供給部から流路を通って燃料電池スタックに供給される。燃料電池のアノード側電極において消費されなかった未反応水素を含む水素含有ガス(以下、循環流体或いはオフガスと称する)は、水素ポンプにより圧送されて、水素供給部から新たに供給される水素ガス(以下、主流体と称する)と共に燃料電池スタックに再供給される。
【0004】
上記の水素循環装置において、循環流体を循環させる水素ポンプの消費電力量を低減すること、また、水素ポンプ及び水素循環装置自体の小型化や軽量化も強く要求されている。このような状況に鑑みて、循環流体を流動させる機械式ポンプ、及び高圧水素ガス貯蔵器から排出される主流体を駆動流として利用し循環流体を流動させる運動量輸送式真空ポンプを備えた水素供給システムが提案されている(特許文献1)。即ち、特許文献1の水素供給システムは、機械式ポンプである水素ポンプに加えて、運動量輸送式真空ポンプであるエゼクタを備えることにより、水素ポンプの消費電力量を低減することが可能な水素循環装置である。
【0005】
特許文献1の装置では、主流体がエゼクタの吐出口から噴出されるときに減圧膨張してその温度が急激に低下するため、吐出口の近傍及び吐出口の下流域が冷却されることになる。循環流体は、水素ガスの噴出によって発生する負圧を利用して、エゼクタの吸入口から吸入されるが、循環流体には水分が含まれているため、循環流体が吐出口の近傍や吐出口の下流域を通過する際に冷却されて、循環流体中の水分が凍結し、流路を閉塞させる問題が発生するおそれがある。
【0006】
上記循環流体中の水分の凍結を防止して、流路閉塞の課題を解決することを目的としたエゼクタが特許文献2に開示されている。特許文献2に開示されたエゼクタは、循環流体の吸入口が、吐出口よりも主流体流れ下流側に開口していることを特徴とするものである。特許文献2には、循環流体は最も低温になる吐出部を通過しないため、循環流体中の水分の凍結を抑制できると述べられている。また、吐出口を加熱する加熱手段が設置された構成も開示されており、加熱手段としては、PTCヒータ及び温熱流体が流通する熱流体流路が使用されると述べられている。なお、特許文献2のエゼクタには、吐出口の上流側に近接して駆動ユニットが設けられるが、この駆動ユニットはニードルを軸方向に変位させるためのものであるため殆ど発熱せず、循環流体中の水分の凍結を抑制するためには、上記加熱手段を設置する等の対策が必要である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−338302号公報
【特許文献2】特開2006−169977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されたエゼクタでは、循環流体は、最も低温になる吐出口を通過しないものの、吐出口の下流域を通過する。従って、循環流体中の水分の凍結を防止するためには、上記加熱手段が必要になり、消費電力の低減や小型化の観点から大いに改良の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、簡便な方法によって、循環流体中の水分の凍結を防止して流路閉塞の問題を解消でき、消費電力の低減及び小型化を実現できる燃料電池の水素循環装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る燃料電池の水素循環装置は、水素ガスを供給する水素ガス供給部から燃料電池本体の水素ガス入口までを接続する主流路と、燃料電池本体の水素ガス出口から主流路との合流点までを接続する循環流路と、水素ガスを圧縮するポンプ部、及びポンプ部を駆動するポンプ駆動部を含み、水素ガスを圧送する水素ポンプと、主流路中の水素ガスを吐出する吐出口、及び循環流路中の水素ガスを吸入する吸入口を含み、吐出口から水素ガスを吐出する際に発生する負圧を利用して、吸入口から水素ガスを吸入して主流路に合流させるエゼクタと、を備え、エゼクタは、ポンプ駆動部に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部で発生した熱を享受する位置に設けられることを特徴とする。
【0011】
また、水素ポンプのポンプ部は、循環流路の中途部に設けられることが好ましい。
【0012】
また、水素ポンプ及びエゼクタは、一体化されると共に、エゼクタが、ポンプ駆動部と隣接する部分に設置されることが好ましい。
【0013】
また、水素ポンプのポンプ部出口とエゼクタの吸入口とを接続する流路の少なくとも一部が、上方に突出して湾曲することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る燃料電池の水素循環装置によれば、水素ガスを圧縮するポンプ部及びポンプ部を駆動するポンプ駆動部を含み、水素ガスを圧送する水素ポンプと、吐出口から水素ガスを吐出する際に発生する負圧を利用して吸入口から水素ガスを吸入して主流路に合流させるエゼクタと、を備えるので、水素ポンプの負担を軽減して、水素ポンプの小型化や消費電力量の低減を実現できる。また、エゼクタは、ポンプ駆動部に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部で発生した熱を享受する位置に設けられるので、循環流体中の水分の凍結を防止して流路閉塞の問題を解消することが可能になる。即ち、モータ駆動部の駆動によって発生する熱を利用して循環流体の水分凍結を防止することができる。例えば、燃料電池の出力が上昇すると、水素ガス(主流体及び循環流体)の供給量が増加するので吐出口はより低温化し、一方、水素ポンプのポンプ駆動部はより高温化するため、さらに顕著な効果が現れる。なお、本発明の凍結防止手段は、エゼクタ及びポンプ駆動部が熱交換することにより、ポンプ駆動部を冷却する効果もあり、極めてエネルギ効率が高く、水分凍結防止の効果も高い手段である。
【0015】
また、水素ポンプのポンプ部が、循環流路の中途部に設けられる構成とすれば、流体としてオフガス分(循環流体)のみ循環させれば良いので、水素循環装置を小型化することがさらに容易になる。
【0016】
また、水素ポンプ及びエゼクタを一体化すると共に、エゼクタが、ポンプ駆動部と隣接する部分に設置される構成とすれば、水素循環装置の更なる小型化を実現できると共に、ポンク駆動部で発生する熱がエゼクタに伝わり易くなって凍結防止効果がさらに高まる。
【0017】
また、水素ポンプのポンプ部出口とエゼクタの吸入口とを接続する流路の少なくとも一部が、上方に突出して湾曲する構成とすれば、循環流体中の水分がエゼクタから逆流してポンプ部で凍結することを防止でき、水素ポンプの起動不能を回避することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を用いて本発明に係る実施の形態につき以下詳細に説明する。図1は、燃料電池の水素循環装置の概略構成を示すブロック図であり、図2は、2本の循環流路を有する燃料電池の水素循環装置の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
車両等に搭載される燃料電池10は、複数の燃料電池セルを積層した燃料電池スタック11を有している。各燃料電池セルは、電解質膜をアノード側電極及びカソード側電極により狭持してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の両側にセパレータと、を備えた構成である。燃料電池10は、燃料電池スタック11のアノード側電極に燃料ガスである水素ガスを、カソード側電極に酸化ガスである空気が供給されることにより、電気化学反応が起こり水と電力を発生する。
【0020】
図1に示すように、燃料電池10には、燃料ガスである水素ガスを燃料電池スタック11に供給するための燃料電池の水素循環装置12(以下、水素循環装置とする)が備えられる。水素循環装置12は、水素ポンプ13、エゼクタ14、水素ガス供給部15等を備え、それらと燃料電池スタック11を接続する流路等から構成される。水素ガスは、水素ガス供給部15から供給され、水素ガス供給部15から燃料電池スタック11の水素ガス入口16までを接続する主流路17を通って、燃料電池スタック11に供給される。
【0021】
主流路17において、水素ガス供給部15及びエゼクタ14の間には、燃料制御弁18が設置される。燃料制御弁18は、制御ユニット37からの制御信号に従って、開度を変更することが可能な電動弁や電磁弁であって、燃料電池スタック11に供給する水素ガス量を調整する機能を有する。即ち、燃料電池10の出力を上昇させる場合には、燃料制御弁18の開度を高めて、水素供給部15から供給する水素ガス量を増量する。なお、制御ユニット37は、水素循環装置12の作動状態を制御して水素ガスの循環量を調整するための装置であって、燃料電池10に対する要求出力αに応じて、燃料制御弁18や水素ポンプ13等に制御信号を送信し、それらの作動状態を制御する。
【0022】
水素ガスは、燃料電池スタック11の図示しないアノード側電極側の燃料ガス流路に供給されて電気化学反応に供され、未反応の水素ガスは、燃料電池スタック11の水素ガス出口19から排出される。水素ガス出口19から排出された水素ガス(以下、循環流体と称する)には、水分が含まれるため、水素循環装置12は、その水分を除去するための図示しない気液分離機やパージ弁38を設けることができる。気液分離機等によって水分を除去された循環流体は、水素ガス出口19から主流路17との合流点までを接続する循環流路20を通り、水素ガス供給部15から供給された水素ガス(以下、主流体と称する)と合流して、再び燃料電池スタック11に供給される。
【0023】
水素循環装置12は、水素ポンプ13及びエゼクタ14を備え、循環流体及び主流体は、水素ポンプ13で圧縮されることにより、また、エゼクタ14の作用によって、循環流路20及び主流路17を流れ燃料電池スタック11に供給される。図1に示す水素循環装置12では、循環流路20の中途部に水素ポンプ13が設けられ、水素ポンプ13の下流側であって、循環流路20と主流路17との合流点にエゼクタ14が設けられている。一方、図2に示す水素循環装置12には、水素ガス出口19から延びる循環流路20から分岐する2本の循環流路20(第1循環流路20A、及び第2循環流路20B)を有する。第1循環流路20Aは、その中途部に水素ポンプ13が設けられ、主流路17のエゼクタ14の上流側に接続されている。第2循環流路20Bは、エゼクタ14の吸入口33(図3等参照)に接続されている。以下では、図1に示す構成は、水素ポンプ13を途中に有する循環流路20がエゼクタ14(吸入口33)に接続された直列型、図2に示す構成は、水素ポンプ13を途中に有する循環流路20がエゼクタ14ではなく、その上流の主流路17に接続され、もう一本の循環流路20がエゼクタ14(吸入口33)に接続された並列型と称する。
【0024】
なお、水素供給部15は、例えば、高圧水素ボンベであって、エゼクタ14は、循環流体を吸入するための作動流体として高圧水素ボンベから供給される高圧水素ガス(高圧の主流体)を用いる。従って、主流体を後述する吐出口31から噴出する際に、主流体を改めて昇圧する必要がなく、水素循環装置12はエネルギ効率が高いシステムである。
【0025】
このような燃料電池10は、発電効率が高く、環境負荷の低減にも寄与することから、車両等のエネルギ源として研究開発が盛んに行われ、更なる小型化等が求められている。従って、水素循環装置12についても小型化が要求されており、そのためには、水素ポンプ13の小型化を図ることが有効である。また、水素ポンプ13の消費電力量は、燃料電池10の発電量と比較して無視できるものではなく、消費電力量を低減する(エネルギ効率を高める)ことも強く要求されている。
【0026】
図1及び図2に示す水素循環装置12は、水素ポンプ13に加えて、エゼクタ14を併用することにより、水素ポンプ13の消費電力量を低減すると共に、小型化が可能な水素循環装置12である。なお、上記のように、従来のエゼクタを利用する装置では、循環流体中の水分が凍結して流路を閉塞させるおそれがあった。水素循環装置12は、簡便な手段によってこの流路閉塞の問題を解消できることを特徴とする装置である。
【0027】
以下、図3〜図5を加えて、水素循環装置12の主要構成要素である水素ポンプ13及びエゼクタ14について詳細に説明する。なお、図1に示す直列型では、主に後述するポンプ駆動部22を小型化でき、図2に示す並列型では、第2循環流路20Bによりポンプ部21を通過する循環流体量が減少するため、ポンプ部22及び後述するポンプ駆動部23の両方を小型化することができる。以下では、第2循環流路20Bを設ける必要がない図1に示す直列型を例に挙げて説明する。
【0028】
図3等に示すように、水素循環装置12は、水分凍結による流路閉塞の防止や小型化の促進等の観点から、水素ポンプ13及びエゼクタ14を一体化した一体型循環機21を備えることができる。図3は、水素ポンプ及びエゼクタを一体化した循環器を示す模式図であって、エゼクタ部分のみを断面図としており、図4は、図3のA−A線断面図である。図5は、他の実施形態に係る循環器の断面を示す模式図である。
【0029】
一体型循環機21を構成する水素ポンプ13は、水素ガスを圧縮するポンプ部22、及びポンプ部22を駆動するポンプ駆動部23から構成される。水素ガスポンプ13とは、機械的エネルギを水素ガスに与え、水素ガスを圧縮して圧送する装置を意味し、送風機(ファン、ブロワ)や圧縮機と称されるものを広く含む。また、水素ポンプ13の機構も特に限定されることなく、ターボ型(遠心式、軸流式、斜流式、横流式等)や容積型(回転式、往復式等)を含む。水素循環装置12において、水素ポンプ13は、エゼクタ14よりも下流側の主流路17に設けることもできるが、流体の循環効率の向上や小型化の観点から、図1等に示すように、循環流路20に設けることが好ましい。
【0030】
図5は、図3に示す構成とは別の実施形態に係る一体型循環機21の断面を示しており、水素ポンプ13のポンプ部22及びポンプ駆動部23の断面が示されている。ポンプ部22とは、圧縮手段24によって水素ガスを圧縮する部分である。水素ガスは、燃料電池スタック11に繋がった循環流路20を通って、ポンプ部入口25からポンプ部22の室内に導入され、室内で圧縮手段24によって圧縮されることによりエネルギ的ポテンシャルが増大して、ポンプ部出口26から導出される。ここで、圧縮手段24としては、例えば、遠心式や軸流式の羽根車等を使用することができる。
【0031】
上記のように、水素ポンプ13は、種々の機構のポンプを使用することができる。図3及び図5は、いずれも後述するシャフト28の回転によってポンプ部22の圧縮手段24である羽根車が連動回転する方式のポンプを示している。具体的に、図3は、ルーツ式と呼ばれる容積型ポンプを示しており、図5は、軸流式のターボ型ポンプを示している。図3に示すルーツ式の水素ポンプ13とは、2つのマユ型ロータが互いに反対方向に同期回転するものであり、例えば、ポンプ部22の側面から吸気して、側面から吐出する形態(側面吸気、側面吐出)とすることができる。一方、図5に示す軸流式の水素ポンプ13は、後述するシャフト28に沿った方向から吸気及び吐出を行う端面吸気、端面吐出形態とすることができる。
【0032】
図5等に示すように、ポンプ駆動部23とは、電動モータ27、及び電動モータ27の動力を圧縮手段24に伝達するシャフト28を有する部分である。電動モータ27としては、所望量の水素ガスを圧送するために必要なトルクを発生できるものであれば、特に限定されず、公知のモータを使用することができる。なお、電動モータ27は、水素ポンプ13の小型化及び電力消費量の低減の観点から、永久磁石を使用した永久磁石型のモータであることが好ましく、小型であっても大きなトルクを発生するサマリウム系磁石やネオジウム系磁石等の希土類磁石を使用したモータであることがさらに好ましい。なお、電動モータ27は、ステータ30、及びシャフト28に設置されたロータ29から構成され、いずれかに希土類磁石を有することが好ましい。また、ポンプ駆動部23等には、減速器39を備えることもできる。
【0033】
電動モータ27の動力は、シャフト28によってポンプ部22の圧縮手段24に伝達される。ポンプ部22及びポンプ駆動部23を仕切る壁には、シャフト28が通る貫通孔が形成され、その貫通孔とシャフト28との隙間には、図示しない軸シールや軸受け部材が設置される。軸シール部材等は、シャフト28の回転運動を阻害することなく、ポンプ部22からポンプ駆動部23への水素ガスの浸入を防止する機能を有し、公知のシールリング等を使用することができる。
【0034】
一体型循環機21を構成するエゼクタ14は、上記のように、作動流体として水素供給部15から供給される高圧水素ガス(高圧の主流体)を用い、主流体の噴出によって発生する負圧を利用して循環流体を吸入する装置である。エゼクタ14は、主に、吐出口31を含むノズル部32と、吸入口33を含む吸入室34と、ディフューザ部35と、から構成される。ノズル部32の先端に形成された吐出口31から主流体が噴出され、噴出されるときに発生する負圧を利用して、吸入口33から循環流体が吸入室34に吸入される。そして、ディフューザ部35の上流部分で主流体と循環流体とが混合され、流路が狭まった部分及びテーパ状に広がった部分(図5)ではさらに混合が促進されると共に、混合された流体が圧縮されて昇圧される。従って、エゼクタ14を使用すれば、主流体の噴出エネルギを循環に利用できる、即ち、水素供給部15に水素ガスを圧縮充填する際に費やされたエネルギを利用できるため、水素ポンプ13の負荷を軽減して、水素ポンプ13の消費エネルギ低減や小型化を図ることができる。
【0035】
図3等に示すように、ノズル部32は、水素ガス供給部15に繋がる主流路17と接続され、下流側先端部には、主流体を噴出するための開口である吐出口31が形成されている。吐出口31の近傍には、ノズル部32の全外周方向に亘って形成された部屋(空間)である吸入室34を備え、吸入室34の一部に循環流体を吸入する吸入口33が形成され、吸入口33にはポンプ部出口26に繋がった循環流路20が接続されている。主流体及び循環流体の混合圧縮を行うディフューザ部35の下流側端部には、燃料電池スタック11の水素ガス入口16に繋がった主流路17が接続される。即ち、エゼクタ14は、主流路17と循環流路20との合流点に設置される。
【0036】
エゼクタ14において、水素供給部15から供給される主流体は、吐出口31から噴出されるときに減圧膨張して温度が急激に低下するため、吐出口31の近傍および吐出口31の下流域であるディフューザ部35が冷却されることになる。循環流体は、主流体の噴出によって発生する負圧を利用して、吸入口33より吸入されるが、循環流体には気液分離機により水分が除去されてもなお水分が含まれているため、循環流体が吐出口31の近傍やディフューザ部35を通過する際に冷却されて、循環流体中の水分が凍結し、流路を閉塞させるおそれがある。
【0037】
図3等に示すように、水素ポンプ13及びエゼクタ14を一体化した一体型循環機21は、エゼクタ14を、ポンプ駆動部23に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部23で発生する熱を享受できる位置に設置することを特徴とする。従って、循環流体中の水分の凍結を防止して流路閉塞の問題を解消することが可能になる。即ち、モータ駆動部23の駆動によって発生する熱を利用して、循環流体に含まれる水分の凍結を防止することができる。ここで、近接とは、エゼクタ14とポンプ駆動部23との距離が近いことを意味し、隣接とは、近接よりもさらに両者の距離が近く隣り合っていることを意味し互いに接触する場合を含む。即ち、一体型循環機21の場合、エゼクタ14及びポンプ駆動部23は、隣接した位置に設置されているといえる。
【0038】
ポンプ駆動部23には、上記のように、電動モータ27が設置され、電動モータ27はロータ29が回転することによって、シャフト28が回転し、それに接続された圧縮手段24が駆動する。電動モータ27は、銅損、鉄損、機械損により駆動時に発熱する。電動モータ27は、水素ガスを循環させる圧縮手段24を高速駆動させるモータであるため、その発熱量は大きく、電動モータ27を有するポンプ駆動部23の温度は上昇して、ポンプ駆動部23からは多量の熱が放出されることになる。従って、電動モータ27のケーシング(ポンプ駆動部23)は、放熱性を向上させるために熱伝導性の高い金属材料から構成されることが好ましい。
【0039】
一体型循環機21によれば、ポンプ駆動部23から放出される熱をエゼクタ14の温調(加熱)に利用することができる。なお、水素循環装置12は、エゼクタ14をポンプ駆動部23に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部23で発生する熱を享受できる位置に設置すれば、独立した水素ポンプ13及びエゼクタ14を備えることもできる。但し、ポンプ駆動部23により発生する熱をエゼクタ14に効率良く伝達して利用するためには、エゼクタ14及びポンプ駆動部23の距離は、できるだけ近いことが好ましく、両者が接触していることが特に好ましい。従って、熱伝導性の向上やコンパクト化の観点から、エゼクタ14及びポンプ駆動部23が接触配置された一体型循環機21とすることが好ましい。なお、エゼクタ14及びポンプ駆動部23が接触配置された一体型循環機21としては、別個に製造されたエゼクタ14及びポンプ駆動部23一体接合する形態、及びエゼクタ14及びポンプ駆動部23を一体成形する形態が挙げられる。
【0040】
一体型循環機21において、最も低温化する部分は、ノズル部32の吐出口31であり、循環流体中の水分が凍結するおそれが最も高い部分は、吸入室34の吐出口31近傍、及び冷却された主流体と循環流体とが混合されるディフューザ部35である。即ち、水分凍結により閉塞するおそれが最も高い流路は、吸入室34、ディフューザ部35、及びエゼクタ14の下流側の主流路17である。一方、一体型循環機21において、最も高温化する部分は、上記のように、電動モータ27を格納したポンプ駆動部23である。従って、エゼクタ14のうち、特に、吸入室34の吐出口31の近傍及びディフューザ部35と、ポンプ駆動部23と、が接触するように配置することが好ましい。
【0041】
図3に示す循環機21は、ポンプ駆動部23の上部にエゼクタ14が設置されている。図4に示すように、エゼクタ14及びポンプ駆動部23は、同一の金属材料によって一体成形されており、電動モータ27で発生した熱がエゼクタ14に効率良く伝達される。図5に示す循環機21においても、ポンプ駆動部23の電動モータ27が設置される部分の上部にエゼクタ14が設置されており、同一の金属材料によって一体成形されており、電動モータ27で発生した熱がエゼクタ14に効率良く伝達される。即ち、エゼクタ14の吸入室34やディフューザ部35を構成する部材と、ポンプ駆動部23を構成する部材と、が接触するように配置されることが好ましく、図4及び図5に示すように、熱伝導性の高い材料で一体成形することもより好ましい。
【0042】
なお、エゼクタ14よりも上流側の主流路17や循環流路20をポンプ駆動部23に接触するように配置して、冷却される前の主流体や循環流体を予め加熱することもできる。例えば、主流路17を数箇所折り返した形状とし、主流路17とポンプ駆動部23とが接触する部分を増加させることもできる。
【0043】
また、図3及び図5に示すように、水素ポンプ13のポンプ部出口26とエゼクタ14の吸入口33とを接続する循環流路20の少なくとも一部が、上方に突出して湾曲している上方湾曲部36を有することが好ましい。このような上方湾曲部36を設けることにより循環流体中の水分がエゼクタ14から逆流してポンプ部22で凍結することを防止でき、水素ポンプ13の起動不能を回避することが可能になる。即ち、水素ポンプ13の停止時等に、万一循環流体中の水分がエゼクタ14から逆流した場合であっても、発生した氷が上部湾曲部36にトラップされてポンプ部22に侵入することを防止できる。
【0044】
以上のように、水素循環装置12は、循環流体を圧縮するポンプ部22及びポンプ部22を駆動するポンプ駆動部23を含む水素ポンプ13と、吐出口31から主流体を吐出する際に発生する負圧を利用して吸入口33から循環流体を吸入して主流路17に合流させるエゼクタ14と、を備えるので、水素ポンプ13の負担を軽減して、水素ポンプ13の小型化や消費電力量の低減を実現できる。また、エゼクタ14は、ポンプ駆動部23に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部23で発生した熱を享受する位置に設けられるので、モータ駆動部23の駆動によって発生する熱を利用して循環流体に含まれる水分凍結を防止することができる。特に、熱伝導性の向上や更なる小型化等の観点から、エゼクタ14の吸入室34やディフューザ部35を構成する部材と、ポンプ駆動部23を構成する部材と、が接触した或いは両者が同一部材により一体成形された一体型循環機21とすることが好ましい。
【0045】
例えば、燃料電池10の出力を上昇させる要求信号αが制御ユニット37に入力された場合、制御ユニット37は、水素ガス(主流体及び循環流体)の供給量が増加させるために、燃料制御弁18の開度を高め、水素ポンプ13の出力を増加させる制御を行うので、エゼクタ14の吐出口31はより低温化し、一方、水素ポンプ13のポンプ駆動部23はより高温化して多量の熱が放出されることになる。従って、ポンプ駆動部23から発生する熱を利用して循環流体に含まれる水分の凍結を防止する一体型循環機21の効果がより顕著に現れる。ポンプ駆動部23の電動モータ27から発生した熱は、図4及び図5に示すように、ポンプ駆動部23及びエゼクタ14の吸入室34やディフューザ部35を構成する金属材料を介して、エゼクタ14の内部を流れる循環流体或いは循環流体と主流体とが混合された混合流体に効率良く伝達される。
【0046】
なお、燃料電池10の要求出力が低いときは、要求出力が高い場合に比べて吐出口31の温度は低温化せず、ポンプ駆動部23の温度も高温化しない。従って、一体型循環機21によれば、エゼクタ14の冷却状態に応じた適切な温度管理を行うことができる。また、一体型循環機21は、エゼクタ14及びポンプ駆動部23が熱交換することにより、ポンプ駆動部23を冷却する効果もあり、極めてエネルギ効率が高く、水分凍結防止の効果も高い装置である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】燃料電池の水素循環装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】2本の循環流路を有する燃料電池の水素循環装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】水素ポンプ及びエゼクタを一体化した循環器を示す模式図であり、エゼクタ部分のみを断面図としている。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】他の実施形態に係る循環器の断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0048】
10 燃料電池、11 燃料電池スタック、12 燃料電池の水素循環装置、13 水素ポンプ、14 エゼクタ、15 水素供給部、16 水素ガス入口、17 主流路、18 燃料制御弁、19 水素ガス出口、20 循環流路、21 一体型循環機、22 ポンプ部、23 ポンプ駆動部、24 圧縮手段、25 ポンプ部入口、26 ポンプ部出口、27 電動モータ、28 シャフト、29 ロータ、30 ステータ、31 吐出口、32 ノズル部、33 吸入口、34 吸入室、35 ディフューザ部、36 上方湾曲部、37 制御ユニット、38 パージ弁、39 減速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを供給する水素ガス供給部から燃料電池本体の水素ガス入口までを接続する主流路と、
燃料電池本体の水素ガス出口から主流路との合流点までを接続する循環流路と、
水素ガスを圧縮するポンプ部、及びポンプ部を駆動するポンプ駆動部を含み、水素ガスを圧送する水素ポンプと、
主流路中の水素ガスを吐出する吐出口、及び循環流路中の水素ガスを吸入する吸入口を含み、吐出口から水素ガスを吐出する際に発生する負圧を利用して、吸入口から水素ガスを吸入して主流路に合流させるエゼクタと、
を備え、
エゼクタは、ポンプ駆動部に近接又は隣接した位置であって、ポンプ駆動部で発生した熱を享受する位置に設けられることを特徴とする燃料電池の水素循環装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の水素循環装置において、
水素ポンプのポンプ部は、
循環流路の中途部に設けられることを特徴とする燃料電池の水素循環装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池の水素循環装置において、
水素ポンプ及びエゼクタは、一体化されると共に、
エゼクタが、ポンプ駆動部と隣接する部分に設置されることを特徴とする燃料電池の水素循環装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の燃料電池の水素循環装置において、
水素ポンプのポンプ部出口とエゼクタの吸入口とを接続する流路の少なくとも一部が、上方に突出して湾曲することを特徴とする燃料電池の水素循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−49914(P2010−49914A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212687(P2008−212687)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】