説明

燃料電池の製造方法

【課題】各セルの排水性を向上させる拡散層を有する燃料電池を容易に製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜、一対の触媒、一対の拡散層及び一対のセパレータを有する燃料電池を製造する際、拡散層を、導電性多孔質材料からなる拡散層基材21に撥水ペースト23を添加して乾燥することにより作製する製造方法。拡散層基材21の一方の面21aから撥水ペースト23を供給して、拡散層基材21の両方の面21a、21bに撥水ペースト23を添加するとともに、各面21a、21bの添加量を調整することにより、乾燥後に各面21a、21bに形成される透過孔の開口の大きさを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造方法に関し、特に、拡散層基材に撥水ペーストを添加して拡散層を作製する工程を含む燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池等では、高分子電解膜とこの高分子電解質膜を挟む一対の触媒とが、多数の透過孔を備えた一対の拡散層により挟まれ、さらに、その両端側から一対のセパレータにより挟まれてセルが形成され、このセルが多数配列されることによりスタックが構成されている。このような燃料電池においては、発電時に反応により生じる水蒸気の凝結水や、高分子電解質膜を湿潤させた水の排出を円滑に行うことが、燃料電池の分極を抑え、発電効率を確保するために重要である。
【0003】
このため、近年においては、各セルの排水性を向上させるための種々の提案がなされている。例えば、電解質膜の両面に触媒層を介して接合される拡散層の排水性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。かかる技術によれば、異なる空隙率を有する複数の多孔性導電性基材を積層して両面で異なる空隙率を有する拡散層を作製することにより、電極内部の余分な水分を速やかに外部に排出することが可能となる。
【特許文献1】特開2005−228755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に記載されたような技術を採用すると、作製される拡散層は複数の多孔性導電性基材を密接に積層した構造を有するため、多種類の材料を用いなければならず、また、それらを密接に接合しなければならないため、製造に手間を要し、コストが嵩み易いという問題点があった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、各セルの排水性を向上させる拡散層を有する燃料電池を容易に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る製造方法は、高分子電解質膜及びこの高分子電解質膜を挟む一対の触媒からなる接合体を、多数の透過孔を備えた一対の拡散層により挟持し、接合体及び一対の拡散層を、流体流路を備えた一対のセパレータにより両端側から挟持して燃料電池を製造する方法であって、導電性多孔質材料からなる拡散層基材に撥水ペーストを添加して乾燥させることにより拡散層を作製する拡散層作製工程を備え、この拡散層作製工程は、拡散層基材の一方の面から撥水ペーストを供給して拡散層基材を透過させ、両方の面に撥水ペーストを添加するとともに各面の添加量を調整することにより、乾燥後に各面に形成される透過孔の開口の大きさを調整するものである。
【0007】
かかる製造方法によれば、拡散層基材の一方の面から撥水ペーストを供給して両方の面に添加するので、各面毎に撥水ペーストを添加することなく、両方の面に撥水ペーストが添加された拡散層を既存の設備で容易に作製できる。同時に、一方の面から供給した同一の撥水ペーストを両方の面に添加し、各面の撥水ペーストの添加量の調整により拡散層の各面の透過孔の開口の大きさを異ならせることができるので、一方の面から他方の面への排水性を容易に向上させることができる。その結果、接合体からの排水性を向上させる拡散層を容易に製造することが可能となる。
【0008】
また、前記製造方法において、撥水ペーストを拡散層基材の一方の面に配置された添加手段により加圧して供給し、添加手段と拡散層基材との間のクリアランスを調整することにより、各面の前記撥水ペーストの添加量を調整する拡散層作製工程を採用することができる。
【0009】
このようにすると、拡散層基材の一方の面側に配置された添加手段により撥水ペーストを加圧して供給する際、添加手段と拡散層基材との間のクリアランスを小さくすると、添加手段による圧力により一方の面から拡散層基材を透過させて他方の面に撥水ペーストを添加し易く、他方の面の添加量を増加させることができる。一方、クリアランスを大きくすると、拡散層基材を透過し難くなり、その一方の面上に堆積させて添加量を増加させることができる。従って、添加手段と拡散層基材との間のクリアランスを調整するだけで、各面の添加量を調整することが可能となる。
【0010】
また、前記製造方法において、撥水ペーストが供給された拡散層基材の一方の面の添加量が、他方の面の添加量より少なくなるように調整する拡散層作製工程を採用することができる。
【0011】
このようにすることにより、撥水ペーストの供給側である一方の面に確実に撥水ペーストを存在させつつ、他方の面の添加量を増加することができるため、両面において添加量を調整し易い。
【0012】
また、前記製造方法において、透過孔の開口の大きい面がセパレータ側となるように拡散層を配置する拡散層配置工程を含むことができる。
【0013】
このようにすると、拡散層の透過孔の開口の大きい面がセパレータ側となるように配置するので、触媒層側からセパレータ層側への排水性を向上させることが可能な燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各セルの排水性を向上させる拡散層を有する燃料電池を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
【0016】
まず、本実施の形態において製造される燃料電池の構成について説明する。この燃料電池は、図1及び図2に示すように、多数のセル10が直列に連結されたスタック1を有しており、各種の電気機器に電力を供給するための図示しないパワーコントロールユニットに接続されている。各セル10は、陽イオン交換樹脂などからなる高分子電解質膜11と、この高分子電解質膜11を挟むように配置されて、高分子電解質膜11に密接に接合された一対の白金等からなる触媒層12とからなる接合体14(MEA)を備えており、この接合体14が、隣接する触媒層12に密接に接合されて両端側に配置された一対の拡散層13により挟まれ、さらに、その両端側から一対のセパレータ15により挟まれた構造を有している。ここでは、接合体14の一方側の触媒層12はアノードであり、他方側の触媒層12はカソードである。
【0017】
各セパレータ15には、拡散層13と対向する面に溝状の流体流路18が設けられており、各セパレータ15の流体流路18には、燃料ガス又は酸化剤ガス等が供給可能に構成されるとともに、余剰ガスや反応により生じた水分等が排出可能に構成されている。また、各拡散層13には、多数の微細な透過孔が形成されており、この多数の透過孔によりセパレータ15と接合体14との間で各ガスが透過可能となっている。
【0018】
このような燃料電池では、アノード側のセパレータ15の流体流路18に水素、水素リッチガス等の燃焼ガスが供給され、カソード側のセパレータ15の流体流路18に酸素、空気等の酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応により発電が行われる。このとき、アノード側では、セパレータ15から拡散層13を透過して触媒層12側に燃料ガスが供給され、触媒層12側で電子が放出され、生じた水素イオンが高分子電解質膜11によりカソード側に移送される。一方、カソード側では、高分子電解質膜11からの水素イオンと、セパレータ15から拡散層13を透過して触媒層12側に供給された酸化剤ガスと、電子と、が反応し、水蒸気等の水分が生成される。かかる発電時には、接合体14に高分子電解質膜11を湿潤するための液体の水が存在し、さらに、カソード側には水蒸気の凝縮等により液体の水が生じている。そして、これらの水が、接合体14の両側の拡散層13を透過してセパレータ15の液体流路18に排出され、セル10から排出されている。
【0019】
次に、本実施形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。
【0020】
本実施形態に係る製造方法では、拡散層基材に撥水処理を施して拡散層13を作製し(拡散層作製工程)、拡散層13の一方の面に触媒層12を形成可能なペーストを塗布し(触媒形成工程)、予め形成された高分子電解質膜11の両側に触媒層12が高分子電解質膜11側となるように拡散層13を配置し(拡散層配置工程)、加熱圧縮することで一体化させ(圧着工程)、さらに、両端側からセパレータ15により挟んで固定する(挟持工程)ことにより、各セル10を製造する。
【0021】
本製造方法の拡散層作製工程においては、拡散層13を、導電性多孔質材料からなる拡散層基材に撥水ペーストを添加して乾燥することにより作製している。拡散層13に使用される導電性多孔質基材からなる拡散層基材としては、燃料ガス及び酸化剤ガス並びに水に対して安定であって、導電性を有する材料からなる多孔質体を用いることができ、例えば、カーボンペーパ、カーボン織布等が使用できる。
【0022】
一方、撥水ペーストは、撥水性材料に溶媒を加えて均一に混練して形成されたペーストである。この撥水ペーストには、導電性材料粉末等、他の成分が含有されていてもよい。撥水ペーストに用いる撥水性材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂などが挙げられる。また、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等のアルコール、酢酸ブチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。さらに、撥水性材料とともに混練可能な他の成分としては、例えば、カーボン粉末等の導電性材料などが挙げられる。
【0023】
これらの成分を混練して得られる撥水ペーストの流動性に関する物性は、拡散層基材や供給方法に応じて適宜設定可能であるが、少なくとも拡散層基材の一方の面に供給される圧力により、他方の面まで透過可能な流動性を有するのが好ましい。これにより拡散層基材を透過させるための処理を簡略化できるからである。
【0024】
このような撥水ペーストを拡散層基材に添加するには、拡散層基材の一方の面に撥水ペーストを、拡散層基材側に加圧して供給することにより、拡散層基材を透過させ、他方の面に添加することにより行う。ここで、各面に撥水ペーストを添加するとは、各面の表面において撥水ペーストを含浸させること及び表面上に塗布することの一方又は双方を含む。また、含浸とは、拡散層基材の微細孔内に撥水ペーストを充填することや内面に付着させることを含み、塗布とは、乾燥後に拡散層基材の表面に拡散層基材の微細孔を完全に閉塞することなく、撥水ペーストからなる層を形成することを含んでいる。
【0025】
拡散層基材21の一方の面21aに撥水ペーストを加圧して供給する方法は、適宜選択することができる。本実施形態においては、図3に示すような供給装置20を用いて、拡散層基材21の一方の面21aに撥水ペーストを加圧して供給することとする。
【0026】
供給装置20は、図3に示すように、拡散層基材21の一方の面21a側に配置されて、拡散層基材21の幅に略相当する幅を有する添加手段としての吐出ノズル22と、吐出ノズル22の近傍の上流側位置で拡散層基材21を吐出ノズル22とは反対側から支持するバックロール24と、図示しない搬送手段とを備えており、搬送手段により拡散層基材21を搬送しつつ、吐出ノズル22から撥水ペースト23を供給可能に構成されている。
【0027】
本実施形態における供給装置20では、吐出ノズル22からの撥水ペースト23の吐出圧が、そのまま一方の面21aへの供給圧となる。そのため、この吐出圧は、拡散層基材21の厚さ、細孔の孔径や空隙率、或いは撥水ペースト23の粘度等に応じて設定される必要があり、ここでは、少なくともクリアランスDを最も小さくした状態で撥水ペースト23を他方の面21bに添加できる程度の圧力以上に設定されている。
【0028】
また、本実施形態における供給装置20では、吐出ノズル22の拡散層基材21側となる先端が、拡散層基材21と略平行となる平坦部25を有している。このような平坦部25を有すれば、吐出ノズル22から吐出される撥水ペースト23が拡散層基材21の一方の面21a側に押しつけて加圧し易いからである。そして、この吐出ノズル22の先端と、吐出ノズル22が対向する拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDが調整可能に構成されている。ここでは、突出ノズル22から所定圧で撥水ペースト23を吐出させる条件下で、吐出ノズル22と拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDを変化させることにより、拡散層基材21の一方の面の添加量と他方の面の添加量を調整することが可能となっている。
【0029】
図4のグラフに示した曲線A1は、撥水ペースト23が供給される一方の面21aの添加量を示すものであり、曲線A2は、他方の面21bの添加量を示すものである。
【0030】
一方の面21aでは、吐出ノズル22と拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDを最も小さくすると、吐出ノズル22の吐出圧により拡散層基材21を透過する撥水ペースト23の量が最大となるため、一方の面21aの添加量は最小量のa1となる。クリアランスDを増加させると、吐出ノズル22から供給された撥水ペースト23が拡散層基材21の一方の面21aに衝突して流れが乱れたり圧力が低下したりするため、拡散層基材21を透過する量が減少して一方の面21aに堆積する量が増加するため、添加量が増加する。そして、クリアランスDがd1以上に達すると、吐出ノズル22から供給された撥水ペースト23の全量が一方の面21aに添加され、添加量は最大量のa2で一定となる。従って、一方の面21aの添加量AはクリアランスDを調整することにより、a1〜a2まで調整することができる。
【0031】
これに対し、他方の面21bでは、クリアランスDを最も小さくすると、吐出ノズル22の吐出圧により拡散層基材21を透過する撥水ペースト23の量が最大となるため、他方の面21bの添加量は最大量のa3となる。クリアランスDを増加させると、拡散層基材21を透過する量が減少するため、添加量が減少する。そして、クリアランスDがd1近くに達した後は、撥水ペースト23が拡散層基材21を透過する量がなくなるため、添加量が0となる。従って、他方の面21bの添加量A2はクリアランスDを調整することにより、一方の面21aの添加量A1と反比例するように、a3〜0まで調整することができる。
【0032】
本実施形態における供給装置20を用いて、撥水ペースト23を拡散層基材21に添加するには、吐出ノズル22のクリアランスD及び吐出圧を設定し、搬送手段により拡散層基材21を一定速度で矢印C方向に搬送しつつ、吐出ノズル22から拡散層基材21の一方の面21aに撥水ペースト23を所定圧で供給すれば、拡散層基材21の両面に、クリアランスDに応じた量で撥水ペースト23を添加することができる。そして、このように撥水ペースト23が添加された拡散層基材21を、乾燥炉等を用いて乾燥し、必要に応じて、加熱、加圧、切断等の処理を施すことにより、拡散層13を得ることができる。
【0033】
このようにして得られた拡散層13には、拡散層基材21の内部構造と、内部に含浸された撥水ペースト23とにより、多数の透過孔が形成される。そして、拡散層13の各表面13a、13bには、拡散層基材21の各表面21a、21bの構造と、各表面21a、21bに添加された撥水ペースト23とにより、図5(A)、(B)に示すように、多数の透過孔の開口13c、13dが形成される。これらの開口13c、13dは複数の透過孔に共通に連続するように形成されていてもよい。これらの開口13c、13dは、表面に添加された撥水ペースト23が多い程小さくなり、少ない程大きくなる。そのため、この拡散層13の作製においては、吐出ノズル22と拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDを変化させることにより、拡散層13の各表面13a、13bの開口13c、13dの開口面積等の大きさを調整することが可能である。
【0034】
図6のグラフに示した曲線S1は、撥水ペースト23が供給される一方の面21aと吐出ノズル22との間のクリアランスDにより、乾燥後に拡散層13の一方の面21aに対応する側の表面13aに形成される開口13cの面積を示すものであり、曲線S2は、拡散層13の他方の面21bに対応する側の表面13bに形成される開口13dの面積を示すものである。
【0035】
撥水ペースト23の供給側である表面13aでは、吐出ノズル22と拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDが最も小さいときには、撥水ペースト23の添加量が最小量であるため、開口13cの面積が最大のs1となる。クリアランスDを増加させると、添加量が増加するため、開口面積が減少し、クリアランスDがd1以上に達すると、添加量が最大量となるため、開口面積は最小のs2となる。従って、拡散層13の表面13aの開口13cの面積は、クリアランスDを調整することにより、s1〜s2まで調整することができる。
【0036】
これに対し、撥水ペースト23の供給側である表面13aと反対側の表面13bでは、クリアランスDが最も小さいときには、撥水ペースト23の添加量が最大量となるため、開口13dの開口面積が最小のs3となる。クリアランスDを増加させると、添加量が減少するため、開口面積が増加し、クリアランスDがd1以上に達すると、添加量が最小量となるため、開口面積は最大のs4となる。従って、拡散層13の表面13bの開口13dの面積は、クリアランスDを調整することにより、s3〜s4まで調整することができる。
【0037】
かかる拡散層作製工程を経て各面の開口を調整して拡散層13を作製した後、この拡散層13の一方の面に触媒層12を形成可能なペーストを塗布し、予め形成された高分子電解質膜11の両側に触媒層12を対向させて挟み、加熱圧着することで、接合体14が拡散層13で挟まれた構造の成形体を得る。
【0038】
その際、本実施形態では、拡散層13の表面13a、13bの開口13c、13dの開口面積を異なるように作製している。具体的には、図5(A)に示される拡散層13の表面13aの開口13cの開口面積を、図5(B)に示す表面13bの開口13dの開口面積より大きくしている。そして、透過孔の開口13cが大きい表面13aをセパレータ15側に配置されるように、透過孔の開口13dが小さい表面13bに触媒層12を形成して、成形体を作製している。その後、この接合体14を含む成形体を、両面側から一対のセパレータ15により挟んで固定することにより、本実施形態の燃料電池の製造を終了する。
【0039】
以上の実施形態に係る製造方法においては、拡散層13を作製する際、拡散層基材21の一方の面21aから撥水ペースト23を供給して両方の面21a、21bに添加するので、各面21a、21b毎に撥水ペースト23を添加することなく、両方の面21a、21bに撥水ペースト23を添加することができ、しかも、拡散層基材21の一方の面21aから撥水ペーストを供給できる既存の設備を用いて作製できるため、拡散層13の作製が容易である。
【0040】
また、以上の実施形態に係る製造方法においては、一方の面21aから供給した同一の撥水ペースト23を両方の面21a、21bに添加し、各面21a、21bの撥水ペースト23の添加量の調整により拡散層13の各面の透過孔の開口13c、13dの大きさを異ならせることができるので、開口13dを有する面から開口13cを有する面への排水性を容易に向上させることができる。その結果、接合体14からの排水性を向上させることが可能となる。
【0041】
また、以上の実施形態に係る製造方法においては、拡散層基材21の一方の面21a側に配置された吐出ノズル22から撥水ペースト23を供給する際、この吐出ノズル22と拡散層基材21との間のクリアランスDを調整するだけで、拡散層基材21の各面21a、21bの排水ペースト23の添加量を調整することが可能であるため、一方の面21aに撥水ペースト23を確実に存在させつつ、他方の面21bの添加量を増加することができ、各面21a、21bの添加量の調整が容易である。しかも、拡散層13の大きい開口13cを有する表面13aがセパレータ15側となるように拡散層13を配置するので、触媒層12側からセパレータ15層側への排水性を向上させることが可能である。
【0042】
[第2実施形態]
次に、図7を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る製造方法においては、拡散層13を作製する際に使用する供給装置の構成が異なる他は、第1実施形態に係る製造方法と同様にして燃料電池を製造している。
【0043】
本実施形態における供給装置30は、吐出ノズル22の下流側にブレード31が設けられている他は、実施の形態1の供給装置20と同一の構成を有している。この供給装置30のブレード31は、板状に形成されており、拡散層基材21の一方の面21aに対する角度θが調整可能に構成されているとともに、拡散層基材21の一方の面21aと、この一方の面に対向する先端部31aとの間のクリアランスDが全長に渡り調整可能に構成されている。吐出ノズル22は、所定量以上の撥水ペースト23を一方の面21a側に供給可能であり、ノズル先端と拡散層基材21の一方の面21aとの間の距離や吐出圧は任意に設定することができる。
【0044】
かかる構成を有する供給装置30を用いて、拡散層基材21に撥水ペースト23を添加するには、吐出ノズル22から所定量以上の撥水ペースト23を一方の面21a側に供給した後、ブレード31により一方の面21a上の撥水ペースト23を拡散層基材21に押しつけることにより行う。この際、ブレード31の一方の面21aに対する上流側の角度θと搬送手段による搬送速度等を調整することにより、撥水ペースト23の拡散層基材21に対する供給圧を調整することができる。そして、これらを調整することにより、所定圧で撥水ペースト23を拡散層基材21に供給しつつ、拡散層基材21の一方の面21aとブレード31の先端部31aとの間のクリアランスDを調整すれば、拡散層基材21の各面21a、21bへの撥水ペースト23の添加量を調整することが可能である。
【0045】
従って、本実施形態における供給装置30を用いても、第1実施形態と全く同様の効果を得ることが可能である。本実施形態における供給装置30のブレード31は、本発明における添加手段に相当するものである。
【0046】
なお、以上の各実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、以上の実施形態においては、添加手段として吐出ノズル22やブレード31を採用し、これら吐出ノズル22やブレード31により拡散層基材21の一方の面21aに加圧して撥水ペースト23を供給した例について説明したが、他の添加手段により供給することも可能である。
【0047】
また、第1実施形態においては、吐出ノズル22と拡散層基材21の一方の面21aとの間のクリアランスDを調整することにより各面21a、21bの添加量を調整した例について説明したが、撥水ペースト23の供給圧自体を調整することにより、クリアランスを変化させずに、一方の面21aと他方の面21bとの添加量を調整することも可能である。その場合、供給圧を増加すれば他方の面21bの添加量を増加でき、供給圧を減少すれば一方の面21aの添加量を増加することができる。
【0048】
また、以上の各実施形態においては、拡散層13に触媒層12をペースト状で塗布して形成した例について説明したが、特に限定されることはなく、高分子電解質膜11に触媒層12を形成可能なペーストを塗布して形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される燃料電池のスタックの斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される燃料電池のセルの部分拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される燃料電池の拡散層を作製するために用いる供給装置の概略断面図である。
【図4】図3の供給装置を用いた拡散層作製工程において、吐出ノズルのクリアランスと、拡散層基材の各表面における撥水ペーストの添加量と、の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造される燃料電池の拡散層の表面を示す部分拡大図であり、(A)、(B)は互いに異なる面を示している。
【図6】図3の供給装置を用いた拡散層作製工程において、吐出ノズルのクリアランスと、乾燥後に得られる拡散層の各表面における開口の大きさと、の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2実施形態に係る製造方法に用いる供給装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10…セル、11…高分子電解質膜、12…触媒層、13…拡散層、13c・13d…開口、14…接合体、15…セパレータ、20・30…供給装置、21…拡散層基材、22…吐出ノズル(添加手段)、23…撥水ペースト、31…ブレード(添加手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜及びこの高分子電解質膜を挟む一対の触媒からなる接合体を、多数の透過孔を備えた一対の拡散層により挟持し、前記接合体及び前記一対の拡散層を、流体流路を備えた一対のセパレータにより両端側から挟持して燃料電池を製造する方法であって、
導電性多孔質材料からなる拡散層基材に撥水ペーストを添加して乾燥させることにより前記拡散層を作製する拡散層作製工程を備え、
前記拡散層作製工程は、
前記拡散層基材の一方の面から撥水ペーストを供給して前記拡散層基材を透過させ、両方の面に前記撥水ペーストを添加するとともに各面の添加量を調整することにより、乾燥後に各面に形成される透過孔の開口の大きさを調整するものである、
燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記拡散層作製工程は、
前記撥水ペーストを前記拡散層基材の前記一方の面に配置された添加手段により加圧して供給し、前記添加手段と前記拡散層基材との間のクリアランスを調整することにより、各面の前記撥水ペーストの添加量を調整するものである、
請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記拡散層作製工程は、
前記撥水ペーストが供給された前記拡散層基材の前記一方の面の添加量が、前記他方の面の添加量より少なくなるように調整するものである、
請求項1又は2に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記透過孔の開口の大きい面が前記セパレータ側となるように前記拡散層を配置する拡散層配置工程を含む、
請求項1から3の何れか一項に記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−71691(P2008−71691A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251045(P2006−251045)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】