説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】低温環境において、セルの劣化を抑制しつつ、内部温度を速やかに上昇させることが可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、反応ガスを給排するためのガス流路と、冷媒を循環させるための冷媒流路と、内部温度を反映する温度取得部と、低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量との対応関係を予め記憶する記憶部と、内部温度が基準温度以下である場合に、反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得する電気量取得部と、電気量取得部により取得された電気量を、対応関係にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた推定反応熱量から冷媒の循環に関する条件を含む燃料電池を発電させる際の運転条件を決定し、決定した運転条件に従って燃料電池を発電させる運転制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率の観点から所定の温度範囲において運転されることが望ましい。このような燃料電池を含む燃料電池システムには、燃料電池における電気化学反応により生成される反応熱による燃料電池の温度変化を管理するために冷却システムが備えられている。冷却システムには、燃料電池内部に備えられた冷媒流路に冷媒(例えば冷却水)を循環させるものが知られている。
【0003】
このような冷却システムにおいて、低温(例えば氷点下)での運転開始時に、燃料電池の温度を速やかに上昇させるために、燃料電池内部の冷媒流路への冷媒の循環を停止させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−36874号公報
【特許文献2】特開2006−100093号公報
【特許文献3】特開2006−100094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、低温環境では冷媒流路への冷媒の循環を一律に停止させるため、このような状態で燃料電池の発電を継続した場合、燃料電池のセル面内で温度差が生じ、この温度差に起因して、例えばセルの構成部材に応力が生じセルの劣化や損傷を招くおそれがあった。
【0006】
本発明は、低温環境において、セルの劣化を抑制しつつ、内部温度を速やかに上昇させることが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを給排するためのガス流路と、
前記燃料電池を冷却する冷媒を循環させるための冷媒流路と、
前記燃料電池の内部温度を反映する温度取得部と、
低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量との対応関係を予め記憶する記憶部と、
前記温度取得部に反映された前記内部温度が基準温度以下である場合に、前記反応ガスの供給を停止した状態で前記燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得する電気量取得部と、
前記電気量取得部により取得された前記電気量を、前記対応関係にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた前記推定反応熱量から前記冷媒の循環に関する条件を含む前記燃料電池を発電させる際の運転条件を決定し、決定した前記運転条件に従って前記燃料電池を発電させる運転制御部と、を備える、燃料電池システム。
このような構成とすれば、電気量取得部は、温度取得部に反映された燃料電池の内部温度が基準温度以下である場合に、反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得し、運転制御部は、取得された電気量を、低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量との対応関係にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた推定反応熱量から冷媒の循環に関する条件を含む燃料電池を発電させる際の運転条件を決定するため、低温環境において、セルの劣化を抑制しつつ、内部温度を速やかに上昇させることが可能な燃料電池システムを提供することが可能となる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、
前記推定反応熱量が予め定められた第1の閾値以上である場合、前記運転条件を前記冷媒流路への前記冷媒の循環を行った状態で発電させる第1の運転モードと決定し、
前記推定反応熱量が前記第1の閾値未満かつ予め定められた第2の閾値以上である場合、前記運転条件を前記冷媒流路への前記冷媒の循環を停止させた状態で発電させる第2の運転モードと決定し、
前記推定反応熱量が前記第2の閾値未満である場合、前記運転条件を発電を行わない第3の運転モードと決定する、燃料電池システム。
このような構成とすれば、運転制御部は、推定反応熱量が予め定められた第1の閾値以上である場合、燃料電池の運転条件を冷媒流路への冷媒の循環を行った状態で発電させる第1の運転モードと決定し、推定反応熱量が第1の閾値未満かつ予め定められた第2の閾値以上である場合、燃料電池の運転条件を冷媒流路への冷媒の循環を停止させた状態で発電させる第2の運転モードと決定し、推定反応熱量が第2の閾値未満である場合、燃料電池の運転条件を発電を行わない第3の運転モードと決定する。すなわち、冷媒の循環によって燃料電池自身の温度上昇が抑制されたとしても十分な温度上昇が期待できる程度の反応熱量が推定される場合は、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下を抑制する観点から冷媒を循環させた状態で燃料電池を発電させ、冷媒の循環によって燃料電池自身の温度上昇が抑制されると十分な温度上昇が期待できないが、冷媒の循環を停止させて燃料電池を発電させれば、所定の時間内で十分な温度上昇が期待できる程度の反応熱量が推定される場合は、燃料電池の温度上昇を優先させて、冷媒の循環を停止させた状態で燃料電池を発電させることができる。この結果、低温環境において、セルの劣化を抑制しつつ、内部温度を速やかに上昇させることが可能な燃料電池システムを提供することが可能となる。
【0010】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第1の運転モードで前記燃料電池の発電を開始する前に、前記推定反応熱量と、前記第1の閾値に所定の値を加算した基準値とを比較し、
前記推定反応熱量が前記基準値未満である場合、前記第1の運転モードと、前記第2の運転モードとのうちから、実行すべき運転条件の選択を受け付け、受け付けた前記運転条件に従って前記燃料電池を発電させる、燃料電池システム。
このような構成とすれば、運転制御部は、第1の運転モードで燃料電池の発電を開始する前に、推定反応熱量と、第1の閾値に所定の値を加算した基準値とを比較し、推定反応熱量が基準値未満である場合、第1の運転モードと、第2の運転モードとのうちから、実行すべき運転条件の選択を受け付け、受け付けた運転条件で燃料電池を発電させるため、利便性を向上させることができる。
【0011】
[適用例4]
適用例2または3記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第1の運転モードで前記燃料電池の発電を開始してから所定の時間経過後に、前記燃料電池の発電性能を評価するための指標値を取得し、取得した指標値が、前記電気量取得部による前記電気量の取得の際に予め取得していた前記指標値と比較して劣っている場合は、前記燃料電池の運転条件を前記第2の運転モードに切り替える、燃料電池システム。
このような構成とすれば、運転制御部は、第1の運転モードで燃料電池の発電を開始してから所定の時間経過後に、燃料電池の発電性能を評価するための指標値を取得し、取得した指標値が、電気量取得部による電気量の取得の際に予め取得していた指標値と比較して劣っている場合は、燃料電池の運転条件を冷媒の循環が停止される第2の運転モードに切り替えるため、燃料電池の温度を上昇しやすくすることができる。
【0012】
[適用例5]
適用例2ないし4のいずれか一項記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第2の運転モードで前記燃料電池の発電を開始した後、前記内部温度を定期的に取得し、前記内部温度が前記基準温度よりも高くなった場合は、前記燃料電池の運転条件を前記第1の運転モードに切り替える、燃料電池システム。
このような構成とすれば、運転制御部は、第2の運転モードで燃料電池の発電を開始した後内部温度を定期的に取得し、内部温度が基準温度よりも高くなった場合は燃料電池の運転条件を第1の運転モードに切り替えるため、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下を抑制することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例2ないし5のいずれか一項記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第3の運転モードである場合に、前記燃料電池の発電が不可能である旨と、前記燃料電池の運転条件を他の運転条件に切り替えるために必要な前記内部温度の上昇値と、のうちの少なくともいずれか一方を外部に通知する、燃料電池システム。
このような構成とすれば、運転制御部は、第3の運転モードである場合に、燃料電池の発電が不可能である旨と、燃料電池の運転条件を他の運転条件に切り替えるために必要な内部温度の上昇値と、のうちの少なくともいずれか一方を外部に通知するため、利便性を向上させることができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、燃料電池システム、燃料電池システムの制御方法、それらを備える移動体等の態様で実現することができる。また、本発明は、上述した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、その一部を省略して構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池における単セルの構成を示す説明図である。
【図3】燃料電池内の残留酸素により生じる電気量の取得方法についての説明図である。
【図4】運転モード判定制御において用いられる運転制御マップの一例を示す説明図である。
【図5】燃料電池システムにおける運転モード判定制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
【0017】
A.実施例:
(A−1)燃料電池システムの構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池システム10の概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、自動車(図示省略)に搭載されており、インバータ60を介して、自動車に推進力を与えるためのモータ(図示省略)等に接続されている。燃料電池システム10は、外部に電力を供給するために、水素と酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池20を運転する。
【0018】
燃料電池システム10の燃料電池20は、反応ガスの供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。本実施例では、燃料電池20に供給される反応ガスには、水素を含有する燃料ガスと、酸素を含有する酸化ガスである空気とが含まれる。燃料電池20に供給された燃料ガスは、水素と酸素との電気化学反応の進行に伴って水素濃度が低下し、アノードオフガスとして燃料電池20の外部に排出される。燃料電池20に供給された酸化ガスは、水素と酸素との電気化学反応の進行に伴って酸素濃度が低下し、カソードオフガスとして燃料電池20の外部に排出される。
【0019】
燃料電池20は、燃料ガスから直接的に電気エネルギを取り出す基本構造を構成する複数の単セル21を備え、これら複数の単セル21は、電気的に直列に積層されている。単セル21の構成の詳細は後述する。また、燃料電池20には、電流計測部217と、セル電圧計測部218と、内部温度計測部219が設けられている。
【0020】
電流計測部217は、燃料電池20の直流電源ラインDCLに接続されており、燃料電池20が出力する電流値を計測し、計測結果を制御部90へ送信する。セル電圧計測部218は、燃料電池20の各単セル21と接続されている。セル電圧計測部218は、各単セル21におけるアノード電極とカソード電極との間の電位差、すなわち、各単セル21の電圧(セル電圧)を計測し、計測結果を制御部90へ送信する。温度取得部としての内部温度計測部219は、燃料電池20の内部温度を計測し、計測結果を制御部90へ送信する。内部温度計測部219は、例えば、熱電対によって構成することができる。
【0021】
燃料電池システム10は、燃料電池20を運転するための構成として、水素供給部30と、冷却部40と、空気供給部50と、制御部90とを備えている。
【0022】
水素供給部30は、制御部90の指示に基づいて、燃料ガスである水素を燃料電池20に供給する。本実施例では、水素供給部30は、水素を圧縮して貯蔵するタンクから水素を供給する装置であるが、例えば、水素を吸蔵する水素吸蔵合金から水素を供給する装置であっても良いし、天然ガス、メタノール、ガソリンなどの炭化水素系燃料を改質して水素を取り出す改質器から水素を供給する装置であっても良い。
【0023】
水素供給部30は、燃料電池20への燃料ガスの供給と、燃料電池20からの反応ガスの排出のために、アノード供給路310と、アノード排出路320とを備えている。アノード供給路310は、水素供給部30から燃料電池20に燃料ガスを流す流路を形成する。アノード供給路310には、アノード供給バルブ312が設けられている。アノード供給バルブ312は、制御部90の指示に応じて、燃料電池20へ供給される燃料ガスの供給量を調整する機能を有する。アノード排出路320は、燃料電池20からアノードオフガスを流す流路を形成する。
【0024】
空気供給部50は、制御部90の指示に基づいて、酸化ガスである空気を燃料電池20に供給する。本実施例では、空気供給部50は、ポンプで大気中から取り込んだ空気を供給する装置である。
【0025】
空気供給部50は、燃料電池20への酸化ガスの供給と、燃料電池20からの反応ガスの排出のために、カソード供給路510と、カソード排出路520とを備えている。カソード供給路510は、空気供給部50から燃料電池20に酸化ガスを流す流路を形成する。カソード供給路510には、カソード供給バルブ512が設けられている。カソード供給バルブ512は、制御部90の指示に応じて、燃料電池20へ供給される酸化ガスの供給量を調整する機能を有する。カソード排出路520は、燃料電池20からカソードオフガスを流す流路を形成する。なお、なお、アノード供給路310と、アノード排出路320と、カソード供給路510と、カソード排出路520とを総称して、単に「ガス流路」とも呼ぶ。
【0026】
冷却部40は、燃料電池20の内部との間で冷媒としての冷却水(不凍液)を循環させながら、冷却水の熱を大気中に発散させることで燃料電池20を冷却する。
【0027】
冷却部40は、冷却水の循環のために、冷却水往路410と、冷却水復路420とを備えている。冷却水往路410は、冷却部40から燃料電池20へ冷却水を流す流路を形成する。冷却水往路410には、往路バルブ412が設けられている。往路バルブ412は、制御部90の指示に応じて、燃料電池20へ循環される冷却水の量を調整する機能を有する。冷却水復路420は、燃料電池20から冷却部40へ冷却水を流す流路を形成する。冷却水復路420には、復路バルブ422が設けられている。復路バルブ422、制御部90の指示に応じて、燃料電池20へ循環される冷却水の量を調整する機能を有する。なお、冷却水往路410と、冷却水復路420とを総称して、単に「冷媒流路」とも呼ぶ。
【0028】
制御部90は、燃料電池システム10の各部を制御する機能を有する。制御部90は、運転制御部910と、記憶部920と、インタフェース930とを備えている。運転制御部910は、燃料電池20の運転に関する制御を行う。記憶部920は、各種のプログラムやデータを記憶する。インタフェース930は、燃料電池システム10の各部との間を電気的に接続する。
【0029】
運転制御部910は、燃料電池20による発電を開始する際に実行される運転モード判定制御(詳細は後述)を行う。運転制御部910は、さらに、ガス制御部912と、冷媒制御部914と、電気量取得部916とを備えている。本実施例において、運転制御部、および、運転制御部が備える各部の機能は、記憶部920に予め記憶されている制御プログラム922に基づいて運転制御部910のセントラルプロセッシングユニット(Central Processing Unit、CPU)が動作することによって実現される。なお、運転制御部910の少なくとも一部の機能は、運転制御部910の電子回路がその物理的な回路構成に基づいて動作することによって実現されても良い。
【0030】
ガス制御部912は、燃料電池20による発電を開始/停止させるために、アノード電極への水素の供給およびカソード電極への空気の供給を開始/停止する。ガス制御部912は、燃料電池20に対する水素および空気の供給を開始するために、インタフェース930を介して、水素供給部30および空気供給部50に対してそれぞれ制御信号を出力する。制御信号を受信した水素供給部30は、アノード供給バルブ312を開放する。アノード供給バルブ312の開放によって、水素供給部30から送出される水素は、アノード供給路310を経由して、燃料電池20のアノード電極へ供給される。同様に、制御信号を受信した空気供給部50は、カソード供給バルブ512を開放する。カソード供給バルブ512の開放によって、空気供給部50から送出される空気は、カソード供給路510を経由して、燃料電池20のカソード電極へ供給される。
【0031】
ガス制御部912は、燃料電池20に対する水素および空気の供給を停止するために、インタフェース930を介して、水素供給部30および空気供給部50に対してそれぞれ制御信号を出力する。制御信号を受信した水素供給部30は、アノード供給バルブ312を閉鎖する。これにより、アノード電極への水素の供給は停止される。同様に、制御信号を受信した空気供給部50は、カソード供給バルブ512を閉鎖する。これにより、カソード電極への空気の供給は停止される。
【0032】
冷媒制御部914は、燃料電池20への冷却水の循環を開始/停止させる。冷媒制御部914は、燃料電池20への冷却水の循環を開始させるために、インタフェース930を介して冷却部40に対して制御信号を出力する。制御信号を受信した冷却部40は、往路バルブ412と、復路バルブ422とを開放した上で、冷却水を循環させる。また、冷媒制御部914は、燃料電池20への冷却水の循環を停止させるために、インタフェース930を介して冷却部40に対して制御信号を出力する。制御信号を受信した冷却部40は、往路バルブ412と、復路バルブ422とを閉鎖した上で、冷却水の循環を停止させる。
【0033】
電気量取得部916は、燃料電池20に対する反応ガスの供給を停止した状態において生じる電気量を取得する機能を有する。詳細は後述する。記憶部920は、制御プログラム922と、運転制御マップ924とを含んでいる。運転制御マップ924の詳細は後述する。インタフェース930は、運転制御部910と、記憶部920と、燃料電池システム10の各部との間を電気的に接続する。
【0034】
(A−2)燃料電池セルの構成:
図2は、燃料電池20における単セル21の構成を示す説明図である。燃料電池20の単セル21は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下、「MEA」とも呼ぶ)24と、アノードセパレータ23と、カソードセパレータ25とを備える。単セル21において、MEA24は、アノードセパレータ23と、カソードセパレータ25との間に挟持されている。
【0035】
単セル21のMEA24は、アノード拡散層241と、アノード触媒層242と、電解質膜244と、カソード触媒層245と、カソード拡散層246とを備え、この順序で、これらの層は一体的に積層されている。アノード拡散層241およびアノード触媒層242は、電解質膜244のアノード側の面に積層され、アノード電極243を構成する。カソード拡散層246およびカソード触媒層245は、電解質膜244のカソード側の面に積層され、カソード電極247を構成する。したがって、MEA24における電解質膜244は、アノード電極243とカソード電極247との間に挟持される状態となる。なお、アノード電極243と、カソード電極247とを総称して単に「電極」とも呼ぶ。
【0036】
MEA24の電解質膜244は、プロトン伝導性を有するプロトン伝導体で形成されている。本実施例では、電解質膜244は、プロトン伝導体の一つであるアイオノマ樹脂を用いたパーフルオロスルホン酸イオン交換膜である。
【0037】
MEA24のアノード触媒層242およびカソード触媒層245は、電解質膜244を介して行われる水素と酸素との電気化学反応を促進させる触媒機能に加え、ガス透過性、導電性、撥水性を有する材料で形成されている。本実施例では、アノード触媒層242およびカソード触媒層245は、白金を含有する白金系触媒を担持した炭素担体に、プロトン伝導体であるアイオノマ樹脂を混合した材料で形成されている。
【0038】
MEA24のアノード拡散層241およびカソード拡散層246は、ガス透過性、導電性、撥水性を有する材料で形成されている。アノード拡散層241は、アノード触媒層242に燃料ガスを拡散させ、カソード拡散層246は、カソード触媒層245に酸化ガスを拡散させる。本実施例では、アノード拡散層241およびカソード拡散層246は、炭素製の多孔体であるカーボンクロスやカーボンペーパーに、撥水性を有する撥水樹脂(例えば、ポリテトラフロロエチレン(PTFE))を含浸させた材料で形成されている。
【0039】
単セル21のアノードセパレータ23は、MEA24におけるアノード側の面に燃料ガスを流すアノード流路232を形成し、単セル21のカソードセパレータ25は、MEA24におけるカソード側の面に酸化ガスを流すカソード流路252を形成する。アノードセパレータ23およびカソードセパレータ25は、燃料ガスや酸化ガスを流す上で十分な強度およびガス不透過性に加え導電性を有する材料(例えば、ステンレス、カーボン樹脂、導電性セラミックス)で形成されている。
【0040】
(A−3)残留酸素により生じる電気量の計測方法:
図3は、燃料電池内の残留酸素により生じる電気量の取得方法についての説明図である。低温条件下(例えば、0℃以下)において燃料電池を起動する際には、燃料電池内部に残留していた液水や発電により生じた生成水が、電極上(図2:アノード触媒層242、カソード触媒層245)、ガス流路内(図2:アノード拡散層241、カソード拡散層246)、電解質膜内(図2:電解質膜244)で凍結する場合がある。電極上やガス流路内で液水が凍結すると、燃料電池内におけるガス流れが妨げられて、燃料電池の発電が抑制される。また、電解質膜内で液水が凍結すると、電解質膜内におけるプロトンの移動が抑えられて、燃料電池の発電が抑制される。従って、燃料電池への反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させ、その際に生じた電気量を取得すれば、上述のような液水の凍結による燃料電池の発電性能の低下の度合いを知ることができる。
【0041】
本実施例においては、具体的には、以下のような手順で、反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得する。
a)まず、電気量取得部916(図1)は、ガス制御部912と協働し、水素供給部30および空気供給部50に対して反応ガス(水素、空気)の送出開始を指示する。これにより、燃料電池20の内部には、反応ガスが充填される。
b)所定時間経過後、電気量取得部916は、ガス制御部912と協働し、空気供給部50に対して空気の送出停止を指示する。
c)空気の送出停止後、電気量取得部916は、単セル21に対して高速で電圧をスイープさせつつ印加することで単セル21を放電させ、電流計測部217により計測される電流を取得する。図3は、手順cに従って、ある単セル21に対して0.05Vから1Vまでの範囲で、200mV/秒で電圧をスイープさせた際に計測された電流挙動を示している。図3では、縦軸に印加した電圧(V)を、横軸に計測された電流の電流密度(mA/cm)を、それぞれ示している。
d)電気量取得部916は、手順cにより計測された電流の積分値(すなわち、図3のハッチングを付して示す部分の面積)を、ある単セル21についての、反応ガスとしての空気の供給を停止した状態において生じる電気量(換言すれば、残留酸素により生じる電気量)として求める。
e)電気量取得部916は、全ての単セル21に対して手順c、dを実行する。そして、全ての単セル21に対しての手順dで得られた電気量を積算し、その合計値を燃料電池20の残留酸素により生じる電気量(C)として取得する。
【0042】
(A−4)運転制御マップの構成:
図4は、運転モード判定制御において用いられる運転制御マップ924の一例を示す説明図である。燃料電池システム10の記憶部920(図1)には、図示のような運転制御マップが予め記憶されている。運転制御マップ924では、複数の燃料電池のサンプルを用意し、用意した複数の燃料電池のサンプルに対して実験を行い、横軸に燃料電池の残留酸素により生じる電気量(C)を、縦軸に燃料電池の発電により生じた生成水量(mg/cm)を、それぞれプロットし、近似曲線APを求めた。
【0043】
横軸(残留酸素により生じる電気量)の値は、燃料電池のサンプルを、低温環境下(本実施例では−10℃)において、(A−3)で説明した手順に従って発電させ、燃料電池の残留酸素により生じる電気量(C)を求めることによって得る。縦軸(生成水量)の値は、燃料電池のサンプルを、低温環境下(本実施例では−10℃)おいて、反応ガスの供給を継続した状態で、所定の時間発電させて得られた生成水の量を測定することによって得る。
【0044】
図4の運転制御マップ924からは、燃料電池の残留酸素により生じる電気量が増加するほど、低温環境下における燃料電池の生成水量も増加することがわかる。燃料電池は、各電極において水素と酸素の電気化学反応が進行して起電力が得られるが、このような電気化学反応が進行する際に、カソード側において生成水が生じるため、生成水量と、燃料電池における発電量とは比例すると言える。また、燃料電池では、その発電量が多いほど反応熱量(水素と酸素の電気化学反応によって発生する熱)も多くなることから、すなわち、燃料電池における生成水量と、燃料電池における反応熱量とは比例することがわかる。このため、本実施例における運転制御マップ924では、燃料電池の生成水量を、燃料電池の反応熱量を知るための指標として用いている。すなわち、運転制御マップ924は、複数の燃料電池を低温環境下において発電させた際に生じた電気量と、複数の燃料電池を低温環境下において発電させた際に生じると推定される反応熱量との対応関係を示している。
【0045】
以上のことから、図4の運転制御マップ924は、燃料電池の残留酸素により生じる電気量が増加するほど、低温環境下における燃料電池の反応熱量が増加することを示していると言える。低温環境下において所定の時間発電した場合の燃料電池の反応熱量が大きいことは、すなわち、低温環境下であっても一定の時間発電を行えば、燃料電池自身の温度がある程度高くなることが推定できることを示している。燃料電池自身の温度が高くなれば、燃料電池内部で凍結した液水を融解させることが可能となるため、上述のような液水の凍結による燃料電池の発電性能の低下を解消することができる。
【0046】
また、燃料電池自身の温度の上昇には、冷却水の循環有無も関係する。具体的には、冷却水を循環させた状態で燃料電池を発電させると、冷却水が燃料電池内部の熱を奪いながら循環するため、燃料電池自身の温度上昇が抑制される。一方、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池を発電させると、燃料電池自身の温度上昇は抑制されない反面、燃料電池のセル面内で発電しやすい部位では温度上昇が早く、発電しにくい部位(液水が多い部位等)では温度上昇が遅くなる。この結果、セル面内で温度差が生じ、この温度差に起因してセルの構成部材に応力が生じ、セルの劣化や損傷を招く可能性がある。また、セル面内の発電しやすい部分において温度上昇が激しくなり、セル面内の一部がドライアップする可能性がある。そのため、これらを繰り返すことで、燃料電池の発電性能を低下させてしまうおそれがある。
【0047】
以上のことから、冷却水の循環によって燃料電池自身の温度上昇が抑制されたとしても十分な燃料電池の温度上昇が推定できる場合は、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下を抑制する観点から、冷却水を循環させた状態で燃料電池を発電させることが好ましい。このため、後述の運転モード判定制御において、低温環境下における生成水量が閾値S1(20mg/cm)以上である場合の燃料電池の運転条件は、冷却水を循環させた状態で燃料電池を運転可能な第1の運転モードと決定する。なお、本実施例における「運転条件」とは、燃料電池を発電させる際の反応ガスの供給有無、冷媒の循環有無を意味する。
【0048】
また、冷却水の循環によって燃料電池自身の温度上昇が抑制されると十分な燃料電池の温度上昇が見込めないが、冷却水の循環を停止させて燃料電池を発電させれば、所定の時間内で燃料電池の温度が上昇すると推定できる場合は、燃料電池の温度上昇を優先させて、燃料電池内部における液水の凍結による発電性能の低下を解消することが好ましい。なお、所定の時間とは、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下が問題とならない程度の短時間を意味し、任意に定めることができる。このため、後述の運転モード判定制御において、低温環境下における生成水量が閾値S1(20mg/cm)未満、閾値S2(8mg/cm)以上である場合の燃料電池の運転条件は、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池を運転可能な第2の運転モードと決定する。
【0049】
また、後述の運転モード判定制御において、低温環境下における生成水量が閾値S2(8mg/cm)未満である場合の燃料電池の運転条件は、発電を行わない第3の運転モードと決定する。これは、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池を長時間発電させることとなり、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下を招くおそれがあるためである。なお、上記閾値S1、S2は例示であり、設計により任意の値を採用することができる。なお、燃料電池における生成水量と、燃料電池における反応熱量とは比例するため、図4の閾値S1は特許請求の範囲における「第1の閾値」を間接的に示し、閾値S2は特許請求の範囲における「第2の閾値」を間接的に示す。
【0050】
(A−5)燃料電池システムの動作:
図5は、燃料電池システム10における運転モード判定制御の手順を示すフローチャートである。運転モード判定制御は、燃料電池20による発電を開始する際(例えば、制御部90が燃料電池20の運転開始要求を受け付けた際)に、運転制御部910(図1)によって実行される処理である。
【0051】
運転モード判定制御を開始すると、電気量取得部916は、ガス制御部912(図1)と協働して、燃料電池20への反応ガスの送出を行う(ステップS100)。詳細は、(A−3)手順aと同様である。次に、運転制御部910は、内部温度計測部219によって計測される燃料電池20の内部温度を取得し、この内部温度が0℃よりも高いか否かを判定する(ステップS102)。燃料電池20の内部温度が0℃よりも高い場合(ステップS102:YES)、運転制御部910は通常の運転が可能であると決定し、燃料電池20を通常通りの方法で発電を開始させた後、処理を終了する(ステップS116)。具体的には、運転制御部910は、ガス制御部912に対して、水素供給部30および空気供給部50からの反応ガス(水素、空気)の送出開始を要求する。さらに、運転制御部910は、冷媒制御部914に対して、冷却部40による冷媒の循環の開始を要求する。
【0052】
一方、燃料電池20の内部温度が基準温度(本実施例では0℃)以下である場合(ステップS102:NO)、電気量取得部916は、燃料電池への空気の送出を停止する(ステップS104)。詳細は、(A−3)手順bと同様である。空気の送出停止後、電気量取得部916は、燃料電池20の残留酸素により生じる電気量を求める(ステップS106)。詳細は、(A−3)手順c〜eと同様である。
【0053】
次に、運転制御部910は、冷却水を循環させた状態で燃料電池の運転が可能か否かを判定する(ステップS108)。具体的には、運転制御部910は、記憶部920に格納されている運転制御マップ924を参照し、運転制御マップ924の近似曲線AP(図4)と、ステップS106で求めた燃料電池20の電気量とから推定される燃料電池20の推定生成水量(すなわち、縦軸の値)を求める。なお、燃料電池における生成水量と、燃料電池における反応熱量とは比例するため、ここで求める推定生成水量は、特許請求の範囲における「推定反応熱量」を間接的に示す。
【0054】
この推定生成水量が閾値S1(図4)未満である場合、運転制御部910は、冷却水を循環させた状態での燃料電池の運転は不可能であると判定し、ステップS110へ処理を遷移させる(ステップS108:NO)。一方、推定生成水量が閾値S1以上である場合、運転制御部910は、冷却水を循環させた状態での燃料電池の運転が可能であると判定し、処理をステップS120へ遷移させる(ステップS108:YES)。
【0055】
ステップS110において、運転制御部910はさらに、冷却水の循環を停止させた状態であれば燃料電池の運転が可能か否かを判定する。具体的には、運転制御部910は、ステップS108で求めた推定生成水量が閾値S2(図4)以上であるか否かを判定する。推定生成水量が閾値S2以上である場合、運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた状態であれば燃料電池の運転が可能であると判定し、処理をステップS112へ遷移させる(ステップS110:YES)。
【0056】
ステップS112において運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池20の発電を開始させる。具体的には、運転制御部910は、ガス制御部912に対して、水素供給部30および空気供給部50からの反応ガス(水素、空気)の送出開始を要求する。その後、運転制御部910は、内部温度計測部219によって計測される燃料電池20の内部温度を定期的に取得し、監視を継続する。運転制御部910は、燃料電池20の内部温度が0℃よりも高くなった場合、冷媒制御部914に対して、冷却部40による冷媒の循環の開始を要求した後、処理を終了する(ステップS114)。
【0057】
一方、ステップS110において、推定生成水量が閾値S2未満である場合、運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた状態であっても燃料電池の運転は不可能であると判定し、運転不可能である旨と、燃料電池の内部温度が何度になれば燃料電池の運転が可能になるかを、ユーザに通知する(ステップS118)。具体的には、運転制御部は、案内表示のための要求を制御部90へ送信する。要求を受信した制御部90は、図示しないモニタ等の表示部に対して要求された内容の表示を行うことによって、ユーザへの通知を行う。
【0058】
このようにすれば、ユーザは、燃料電池システムがなぜ起動できないのかの原因を知ることができるため、ユーザによる故障の誤判断を抑制することができる。さらに、ユーザは、あとどれくらい待てば燃料電池システムが起動可能となるかを知ることができるため、利便性が向上する。なお、ステップS118における通知は、いずれか一方を省略しても良い。また、外気温を取得し、外気温と内部温度とを用いて起動可能となるまでに必要と推定される時間を取得し、この時間を案内することとしてもよい。
【0059】
ステップS120において運転制御部910は、燃料電池20の運転開始時間を短縮する必要があるか否かを判定する。具体的には、ステップS108で求めた推定生成水量と、閾値S1(図4)とを比較して、推定生成水量が閾値S1よりも十分多いと判定できる場合(例えば、指定生成水量≧閾値S1の値+所定の値)、運転制御部910は、始動時間を短縮する必要はないと判定し、処理をステップS122へ遷移させる(ステップS120:NO)。
【0060】
一方、ステップS108で求めた推定生成水量と、閾値S1(図4)とを比較して、推定生成水量が閾値S1よりも十分多いと判定できない場合(例えば、指定生成水量<閾値S1の値+所定の値)、運転制御部910は、運転開始時間を短縮する必要があると一旦判定する。これは、燃料電池20の推定生成水量が閾値S1付近にある場合は、燃料電池を発電させた際の温度上昇の幅が小さいため、燃料電池20の運転開始までの時間(換言すれば、燃料電池20の温度が上昇するまでの時間)、を多く要するためである。
【0061】
従って、運転開始時間を短縮する必要があると一旦判定した場合、運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池の発電を開始するか(すなわち、運転開始時間を短縮するか)、冷却水の循環を行った状態で燃料電池の発電を開始するか(すなわち、運転開始時間の短縮よりも燃料電池の発電性能低下の抑制を優先させるか)、の選択を促すための画面をユーザに表示する。具体的には、運転制御部910は、ステップS118と同様に、選択画面表示のための要求を制御部90へ送信することにより行う。こうすれば、運転開始時間の短縮と、燃料電池の発電性能低下の抑制とを、ユーザは選択することができるため、利便性を向上させることができる。
【0062】
運転開始時間を短縮することが選択された場合(ステップS120:YES)、運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池20の発電を開始させる(ステップS128)。詳細は、ステップS112と同様である。その後、運転制御部910は、処理をステップS114へ遷移させる。
【0063】
一方、運転開始時間の短縮よりも燃料電池の発電性能低下の抑制を優先させることが選択された場合(ステップS120:NO)、運転制御部910は、冷却水の循環を行った状態で燃料電池20の発電を開始させる(ステップS122)。詳細は、ステップS116と同様である。
【0064】
燃料電池20の発電開始後、運転制御部910は、燃料電池20の発電性能が不十分であるか否かを判定する(ステップS124)。具体的には、運転制御部910は、燃料電池20の発電開始後、所定の時間(例えば、ステップS106で求めた電気量から、燃料電池20内部の温度が十分上昇すると予想される時間)待機した後に、電流計測部217によって計測される出力電流の値を取得する。そして、運転制御部910は、取得した出力電流値と、ステップS106で計測した電流値とを比較する。
【0065】
取得した出力電流値のほうが小さい場合、運転制御部910は、ステップS108における推定と比較して発電性能が不十分であると判定する(ステップS124:YES)。これは、アノード触媒層242(図2)上やアノード拡散層241(図2)内で残留した液水が未だ凍結していること等に起因する。なお、ステップS106、S108では、空気の供給を停止した状態(すなわち、酸素が欠乏した状態)における出力電流の値を計測していることから、ステップS124ではアノード側に問題が生じていると判定することができる。
【0066】
発電性能が不十分であると判定された場合(ステップS124:YES)、運転制御部910は、冷却水の循環を停止させた上で燃料電池20の発電を継続する(ステップS126)。具体的には、運転制御部910は、冷媒制御部914に対して、冷却部40による冷媒の循環の停止を要求した後、処理を終了する(ステップS114)。こうすれば、冷却水の循環が停止されるため、燃料電池20の温度が上昇しやすくなるため、燃料電池20内部で凍結した液水の融解を促進することができる。
【0067】
一方、発電性能が不十分でないと判定された場合(ステップS124:NO)、運転制御部910は、冷却水の循環を行った状態での燃料電池20の発電を継続する(ステップS130)。
【0068】
以上のように、実施例によれば、電気量取得部916は、温度取得部(内部温度計測部219)に反映された燃料電池20の内部温度が基準温度(0℃)以下である場合に、反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池20を発電させた際に生じる電気量を取得する。そして、運転制御部910は、取得された電気量を、運転制御マップ924(低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量を間接的に示す推定生成水量との対応関係を示すマップ)にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた推定反応熱量から冷媒(冷却水)の循環に関する条件を含む燃料電池20を発電させる際の運転条件を決定する。
【0069】
具体的には、運転制御部910は、推定反応熱量(推定生成水量)が予め定められた第1の閾値(閾値S1)以上である場合、燃料電池20の運転条件を冷却水の循環を行った状態で発電させる第1の運転モードと決定し、推定反応熱量(推定生成水量)が第1の閾値(閾値S1)未満かつ予め定められた第2の閾値(閾値S2)以上である場合、燃料電池20の運転条件を冷却水の循環を停止させた状態で発電させる第2の運転モードと決定し、推定反応熱量(推定生成水量)が第2の閾値(閾値S2)未満である場合、燃料電池20の運転条件を発電を行わない第3の運転モードと決定する。
【0070】
すなわち、このようにすれば、冷却水の循環によって燃料電池20自身の温度上昇が抑制されたとしても十分な温度上昇が期待できる程度の反応熱量が推定される場合は、セルの劣化等による燃料電池20の発電性能低下を抑制する観点から冷却水を循環させた状態で燃料電池20を発電させ、冷却水の循環によって燃料電池20自身の温度上昇が抑制されると十分な温度上昇が期待できないが、冷却水の循環を停止させて燃料電池20を発電させれば、所定の時間内で十分な温度上昇が期待できる程度の反応熱量が推定される場合は、燃料電池20の温度上昇を優先させて、冷却水の循環を停止させた状態で燃料電池20を発電させることができる。この結果、低温環境において、セルの劣化を抑制しつつ、内部温度を速やかに上昇させることが可能な燃料電池システムを提供することが可能となる。
【0071】
さらに、運転制御部910は、第1の運転モードで燃料電池20の発電を開始してから所定の時間経過後に、燃料電池20の発電性能を評価するための指標値(電流計測部217によって計測される出力電流の値)を取得し、取得した指標値が、電気量取得部による電気量取得の際に予め取得していた指標値(図5:ステップS106で計測した電流値)と比較して劣っている場合は、燃料電池20の運転条件を冷却水の循環が停止される第2の運転モードに切り替えるため、燃料電池20の温度を上昇しやすくすることができる。
【0072】
さらに、運転制御部910は、第2の運転モードで燃料電池20の発電を開始した後、燃料電池20の内部温度を定期的に取得し、内部温度が基準温度(0℃)よりも高くなった場合は、燃料電池20の運転条件を第1の運転モードに切り替えるため、セルの劣化等による燃料電池20の発電性能低下を抑制することができる。
【0073】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。そのほか、以下のような変形が可能である。
【0074】
B1.変形例1:
上記実施例では、燃料電池システムの構成について例示した。しかし、これらの構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に定めることができる。
【0075】
例えば、セル電圧センサ(図1)は、燃料電池における全ての単セルの各々のセル電圧を検出するセンサであるものとしたが、他の態様を採用することもできる。例えば、燃料電池を構成する複数の単セルのうちの代表的な一部の単セルのセル電圧を検出するものとしてもよい。
【0076】
例えば、燃料電池の内部温度を測定するための手段として、燃料電池に直接設けられた温度センサ(内部温度センサ:図1)からの検出信号に基づいて内部温度の測定を行うものとしたが、他の態様を採用してもよい。例えば、冷却水復路に温度センサを設けた上で、温度測定部は、冷却水復路の温度センサから出力される検出信号に基づいて、セル温度を測定することとしてもよい。
【0077】
B2.変形例2:
上記実施例(A−3)残留酸素により生じる電気量の計測方法では、燃料電池の残留酸素により生じる電気量を計測するための一態様について例示した。しかし、この電気量は種々の方法で計測することができる。
【0078】
例えば、各単セルの電気量を取得後、全ての単セルの電気量を積算した合計値を求めて燃料電池の電気量としたが、各単セルが積層されたスタック全体としての電気量を取得して、燃料電池の電気量とすることもできる。
【0079】
例えば、手順bにおいて、電気量取得部は空気の送出停止を指示するものとしたが、空気に加えて、水素の送出停止を指示してもよい。
【0080】
B3.変形例3:
上記実施例(A−5)燃料電池システムの動作(図5)では、運転モード判定制御についての一態様を例示した。運転モード判定制御は、種々の変形が可能である。
【0081】
例えば、運転制御マップの近似曲線AP(図4)と、燃料電池の電気量とから推定される燃料電池全体としての推定生成水量を求めて運転条件を決定することに代えて、運転制御マップの近似曲線AP(図4)と、単セルの電気量とから推定される単セルの推定生成水量を求め、これを全てのセルに対して実行し、分布を判定することによって、運転条件を決定してもよい。
【0082】
例えば、燃料電池自身の温度上昇を促すための手段として、冷却水を停止するものとしたが、燃料電池の温度上昇を促すために採用し得る冷媒の循環に関する条件は、任意に定めることができる。具体的には、冷却水の循環有無に代えて、循環させる冷却水の流量を調整することとしてもよい。このようにすれば、冷却水の循環による燃料電池の温度上昇抑制効果を小さくしつつ、セルの劣化等による燃料電池の発電性能低下を抑制することができる。
【0083】
例えば、ステップS102、S114における基準温度は0℃(すなわち、氷点下)であるものとした。しかし、この基準温度は任意に設定することができる。
【0084】
例えば、ステップS118では、第3の運転モードにおける処理の一態様(すなわち、燃料電池の運転を行わず、運転不可能な旨を通知する)について例示した。しかし、第3の運転モードにおいては、他の処理態様も採用することができる。例えば、ヒータ等を用いて暖めた冷却水を循環させつつ、燃料電池の運転を行うこととしてもよい。
【0085】
例えば、ステップS124では、水素欠を判定するために用いる燃料電池の発電性能を評価するための指標値は、電流計測部によって計測される出力電流の値であるものとした。しかし、この指標値には他の値(例えば、燃料電池の内部温度と燃料電池の発電開始からの経過時間)を採用することができる。
【0086】
B4.変形例4:
上記実施例では、燃料電池システムは、燃料電池で発電した電力を利用して走行する車両に搭載されるシステムであるものとしたが、他の態様を採用することもできる。例えば、燃料電池システムを、住宅や施設の電源として設置されるシステムに適用しても良いし、電気で作動する電気機械機器に電源として搭載されるシステムに適用しても良い。
【符号の説明】
【0087】
10…燃料電池システム
20…燃料電池
21…単セル
23…アノードセパレータ
25…カソードセパレータ
30…水素供給部
40…冷却部
50…空気供給部
60…インバータ
90…制御部
217…電流計測部
218…セル電圧計測部
219…内部温度計測部
232…アノード流路
241…アノード拡散層
242…アノード触媒層
243…アノード電極
244…電解質膜
245…カソード触媒層
246…カソード拡散層
247…カソード電極
252…カソード流路
310…アノード供給路
312…アノード供給バルブ
320…アノード排出路
410…冷却水往路
412…往路バルブ
420…冷却水復路
422…復路バルブ
510…カソード供給路
512…カソード供給バルブ
520…カソード排出路
910…運転制御部
912…ガス制御部
914…冷媒制御部
916…電気量取得部
920…記憶部
922…制御プログラム
924…運転制御マップ
930…インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを給排するためのガス流路と、
前記燃料電池を冷却する冷媒を循環させるための冷媒流路と、
前記燃料電池の内部温度を反映する温度取得部と、
低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量との対応関係を予め記憶する記憶部と、
前記温度取得部に反映された前記内部温度が基準温度以下である場合に、前記反応ガスの供給を停止した状態で前記燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得する電気量取得部と、
前記電気量取得部により取得された前記電気量を、前記対応関係にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた前記推定反応熱量から前記冷媒の循環に関する条件を含む前記燃料電池を発電させる際の運転条件を決定し、決定した前記運転条件に従って前記燃料電池を発電させる運転制御部と、を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、
前記推定反応熱量が予め定められた第1の閾値以上である場合、前記運転条件を前記冷媒流路への前記冷媒の循環を行った状態で発電させる第1の運転モードと決定し、
前記推定反応熱量が前記第1の閾値未満かつ予め定められた第2の閾値以上である場合、前記運転条件を前記冷媒流路への前記冷媒の循環を停止させた状態で発電させる第2の運転モードと決定し、
前記推定反応熱量が前記第2の閾値未満である場合、前記運転条件を発電を行わない第3の運転モードと決定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第1の運転モードで前記燃料電池の発電を開始する前に、前記推定反応熱量と、前記第1の閾値に所定の値を加算した基準値とを比較し、
前記推定反応熱量が前記基準値未満である場合、前記第1の運転モードと、前記第2の運転モードとのうちから、実行すべき運転条件の選択を受け付け、受け付けた前記運転条件に従って前記燃料電池を発電させる、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項2または3記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第1の運転モードで前記燃料電池の発電を開始してから所定の時間経過後に、前記燃料電池の発電性能を評価するための指標値を取得し、取得した指標値が、前記電気量取得部による前記電気量の取得の際に予め取得していた前記指標値と比較して劣っている場合は、前記燃料電池の運転条件を前記第2の運転モードに切り替える、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか一項記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第2の運転モードで前記燃料電池の発電を開始した後、前記内部温度を定期的に取得し、前記内部温度が前記基準温度よりも高くなった場合は、前記燃料電池の運転条件を前記第1の運転モードに切り替える、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか一項記載の燃料電池システムであって、
前記運転制御部は、さらに、
前記第3の運転モードである場合に、前記燃料電池の発電が不可能である旨と、前記燃料電池の運転条件を他の運転条件に切り替えるために必要な前記内部温度の上昇値と、のうちの少なくともいずれか一方を外部に通知する、燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池を備えた燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記燃料電池の内部温度を反映する工程と、
(b)前記工程(a)により反映された前記内部温度が基準温度以下である場合に、前記燃料電池への反応ガスの供給を停止した状態で前記燃料電池を発電させた際に生じる電気量を取得する工程と、
(c)前記工程(b)により取得された前記電気量を、低温環境下において反応ガスの供給を停止した状態で燃料電池を発電させた際の電気量と、反応熱量との対応関係にあてはめることによって導かれる推定反応熱量を求め、求めた前記推定反応熱量から前記燃料電池を冷却するために用いる冷媒の循環に関する条件を含む前記燃料電池を発電させる際の運転条件を決定し、決定した前記運転条件に従って前記燃料電池を発電させる工程と、
を含む、燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−64539(P2012−64539A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209904(P2010−209904)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】