説明

燃料電池システム及び方法

【課題】燃料電池自動車において、燃料電池の通常の冷却水温調整のための消費電力を抑制しつつ、燃料電池の高温高負荷継続状態での燃料電池スタックの出力電力減少に対処する。
【解決手段】モータ37が現時点の要求出力を出すのに必要なモータ37への供給電力と、現時点で燃料電池スタック11及び高圧バッテリ12がモータ37へ回すことが可能な供給電力との差からモータ37の出力余裕度を判断する(ROUTINE60)。燃料電池スタック11が高温高負荷の継続状態にあるか否かを判断する(ROUTINE61)。モータ37の出力余裕度が無しで、燃料電池スタック11が高温高負荷継続状態であると判断したときは、燃料電池スタック11の冷却能力を、燃料電池の通常の冷却水温調整範囲の最大能力より高めて、燃料電池スタック11の温度を下げる(ROUTINE64)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の高温高負荷時に対処する燃料電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車では、燃料電池の電極を所定の湿潤状態に保持するために、燃料電池に供給する反応ガスに対して加湿が行われる。しかしながら、高速走行や登坂走行時等に燃料電池の高温高負荷状態が継続すると、反応ガスへの加湿が不足したり、燃料電池の電極からの水分の揮発が高まるため、燃料電池の出力電力が低下し、その結果、モータの出力が要求量から大幅に低下してしまう。
【0003】
特許文献1は燃料電池の劣化を防止する燃料電池システムを開示する。該燃料電池システムによれば、燃料電池の出力電流から燃料電池内の最高温度を推定し、燃料電池内の推定最高温度が、燃料電池の膜電極構造体の耐久上限温度以下になるように、燃料電池の冷却用の冷媒流通量を制御する。
【0004】
特許文献2は燃料減圧弁の温度低下を防止する燃料電池システムを開示する。該燃料電池システムによれば、燃料電池に酸化剤ガスを供給するコンプレッサを冷却する冷却水を、燃料減圧弁の暖機必要時には、該冷却水の放熱部としてのラジエタでなく、燃料減圧弁へ送って、燃料減圧弁を、コンプレッサにより加熱された冷却水により加熱するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−191742号公報
【特許文献2】特開2004−158371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の燃料電池システムは、燃料電池温度が適正範囲内になるように、冷媒により燃料電池を冷却しており、燃料電池温度が上限設定温度になった時に、燃料が最大になるように、燃料電池の冷却制御を行っている。したがって、燃料電池の高負荷状態が継続して、冷却能力の不足により燃料電池温度が上限設定温度を超えたときには、燃料電池温度を上限設定温度以下に戻すことができず、燃料電池の出力電力が低下する。そのため、燃料電池自動車のように、燃料電池の出力電力によってモータを駆動するシステムに適用したときには、燃料電池が高温になったときにモータの出力が低下してしまう。
【0007】
そこで、特許文献1の燃料電池システムにおいて、もし、燃料電池の高負荷状態が継続しても、燃料電池温度が上限設定温度以下になるように、燃料電池の冷却手段の冷却能力を十分に増大させようとすると、今度は、燃料電池とバッテリとの合計の出力電力増大に余裕がある状況においても、燃料電池温度が上限設定温度近くになりさえすれば、冷却手段が最大冷却力で作動してしまい、これは、冷却手段が最大冷却力で作動する時間の大幅な増大につながり、消費電力増大の原因になる。
【0008】
特許文献2の燃料電池システムは、暖機中の燃料減圧弁の加熱に関し、燃料電池が上限設定温度を超えた時の燃料電池の冷却制御については一切言及していない。
【0009】
本発明の目的は、燃料電池の冷却に使用する電力を抑えつつ、燃料電池の高温高負荷継続状態時のモータ出力を改善する燃料電池システム及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の燃料電池システムは、モータと、蓄電池を充電するとともに該蓄電池と共同して前記モータとその他の電装品とへ電力を供給する燃料電池と、前記燃料電池を冷却する冷却手段と、前記燃料電池の温度を検出する温度検出手段と、前記燃料電池の負荷状態を検出する負荷状態検出手段と、前記燃料電池の現時点の上限出力電力と前記蓄電池の現時点の上限出力電力とを合計した現時点の合計上限出力電力を算出する上限出力電力算出手段と、前記モータが要求された出力を出すために必要とするモータ要求電力を算出するモータ要求電力算出手段と、前記合計上限出力電力と前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力とに基づきモータ出力が非余裕状態であるか否かを判断するとともに、燃料電池温度と燃料電池負荷と燃料電池温度及び燃料電池負荷についての所定状態の継続時間とに基づき前記燃料電池が高温高負荷継続状態であるか否かを判断し、その判断結果が、モータ出力が非余裕状態でかつ燃料電池が高温高負荷継続状態であれば、前記冷却手段の冷却能力を増大させて、前記燃料電池温度を第1所定値以下まで下降させる冷却促進手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
第1発明によれば、モータ出力が非余裕状態となっている、燃料電池の高温高負荷継続状態時では、燃料電池の冷却能力を増大して、燃料電池の電極における湿潤状態を改善して、燃料電池の出力増大を図り、モータ出力を改善することができる。また、燃料電池の高温高負荷継続状態では、冷却手段による最大冷却能力での冷却作動が行われるものの、燃料電池の通常の高温状態では、最大冷却能力より低い冷却作動に留まるため、燃料電池の運転期間全体における電力消費量を節約することができる。
【0012】
第2発明の燃料電池システムでは、第1発明の燃料電池システムにおいて、前記冷却促進手段は、前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力との合計が前記合計上限出力電力を上回っているときはモータ出力が非余裕状態であると判断することを特徴とする。
【0013】
第2発明によれば、モータ要求電力とその他の電装品への現時点の供給電力との合計が合計上限出力電力を上回っているときはモータ出力が非余裕状態であると判断することにより、上記電力消費量の節約とモータ出力の改善に加え、燃料電池の冷却による燃料電池の出力増加時を的確に把握して、モータのドライバビリティを向上させることができる。
【0014】
第3発明の燃料電池システムでは、第1又は第2発明において、前記冷却促進手段は、燃料電池温度が前記第1所定値以上の第2所定値以上でありかつ燃料電池負荷が所定値以上である状態が所定時間以上継続したとき、前記燃料電池が高温高負荷継続状態であると判断することを特徴とする。
【0015】
第3発明によれば、燃料電池温度が第1所定値以上でありかつ燃料電池負荷が所定値以上である状態が所定時間以上継続したとき、燃料電池が高温高負荷継続状態であると判断することにより、燃料電池の冷却による燃料電池の出力増加時を的確に把握して、上記電力消費量の節約とモータ出力の改善に加え、モータのドライバビリティを向上させることができる。
【0016】
第4発明の燃料電池システムでは、第1〜3のいずれか1つの発明の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池を冷却する冷媒用のラジエタは、エアコンの冷媒用のコンデンサに隣接し、該コンデンサを通過した後の冷却風により冷却されるように配設されており、前記冷却促進手段は、前記冷却手段の冷却能力の増大を、前記エアコンによる温度調整量の減少により実施することを特徴とする。
【0017】
第4発明によれば、燃料電池の冷却促進は、エアコンによる温度調整量の減少により、冷却風がコンデンサを通過する際に温度上昇するのを抑制して、低温を保持した冷却風によるラジエタの冷却に達成される。すなわち、冷却ファンや冷却ポンプの性能上昇に依らず、燃料電池の冷却を促進することができ、上記電力消費量の節約とモータ出力の改善に加え、コスト上昇を抑えることができる。
【0018】
第5発明の制御方法は、モータと、蓄電池を充電するとともに該蓄電池と共同して前記モータとその他の電装品とへ電力を供給する燃料電池と、前記燃料電池を冷却する冷却手段と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、前記燃料電池の温度を検出する温度検出ステップと、前記燃料電池の負荷状態を検出する負荷状態検出ステップと、前記燃料電池の現時点の上限出力電力と前記蓄電池の現時点の上限出力電力とを合計した現時点の合計上限出力電力を算出する上限出力電力算出ステップと、前記モータが要求された出力を出すために必要とするモータ要求電力を算出するモータ要求電力算出ステップと、前記合計上限出力電力と前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力とに基づきモータ出力が非余裕状態であるか否かを判断するとともに、燃料電池温度と燃料電池負荷と燃料電池温度及び燃料電池負荷についての所定状態の継続時間とに基づき前記燃料電池が高温高負荷継続状態であるか否かを判断し、その判断結果が、モータ出力が非余裕状態でかつ燃料電池が高温高負荷継続状態であれば、前記冷却手段の冷却能力を増大させて、前記燃料電池温度を第1所定値以下まで下降させる冷却促進ステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
第5発明によれば、モータ出力が非余裕状態となっている、燃料電池の高温高負荷継続状態時では、燃料電池の冷却能力を増大して、燃料電池の電極における湿潤状態を改善して、燃料電池の出力増大を図り、モータ出力を改善することができる。また、燃料電池の高温高負荷継続状態時以外では、燃料電池についての最大冷却能力を使用しないので、電力消費量を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】燃料電池システムの構成図。
【図2】冷却水温度と燃料電池スタックの出力電圧との関係に関連して燃料電池自動車の走行状態に因る燃料電池スタックの出力電圧の変化について説明する図。
【図3】燃料電池システムにおける燃料電池スタックの冷却制御のフローチャート。
【図4】モータの出力余裕度を判定するルーチンのフローチャート。
【図5】燃料電池スタックの高温高負荷継続状態を判定するルーチンのフローチャート。
【図6】燃料電池スタックの水温と出力とから定義される燃料電池スタックの高温高負荷状態の説明図。
【図7】燃料電池スタックの冷却促進ルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、燃料電池システム10は、燃料電池自動車に搭載され、燃料電池スタック11、高圧バッテリ12、電子駆動装置13、冷却水循環路14及び冷却制御装置15を備える。該燃料電池自動車は、燃料電池スタック11において発電した電力で電子駆動装置13のモータ37を作動させて、モータ37により駆動輪(図示せず)を駆動して、走行する。
【0022】
燃料電池スタック11は、水素と空気中の酸素とを反応ガスに使用して、発電する。燃料電池スタック11は、電力ケーブル33を介して電子駆動装置13の車両制御ユニット27へ接続され、高圧バッテリ12は、電力ケーブル34を介して車両制御ユニット27へ接続されている。
【0023】
充電池としての高圧バッテリ12は、燃料電池スタック11が発生した電力の一部を、車両制御ユニット27を経由して供給され、充電される。燃料電池スタック11及び高圧バッテリ12は、共同して、燃料電池自動車に搭載されている電装品へ電力を供給する。電装品には、冷却制御装置15、FC(FC:Fuel Cell。燃料電池)用ラジエタファン22やFC冷却水ポンプ23の駆動用モータ(図示せず)、車両制御ユニット27及びモータ37等の補機の他に、エアコン及びカーナビ等の電気機器も含まれる。
【0024】
冷却水循環路14は、燃料電池スタック11、FC系ラジエタ21及びFC冷却水ポンプ23を周回する循環路を構成し、冷却水を導く。エアコンコンデンサ20、FC系ラジエタ21及びFC用ラジエタファン22は、燃料電池自動車の前後方向へ前方からこの記載した順番で、ボンネット室内に配設される。エアコンコンデンサ20とFC用ラジエタファン22とは隣接している。冷却風Wは、燃料電池自動車の走行及び/又はFC用ラジエタファン22の回転に伴って、自動車前方からボンネット室内へ流入し、エアコンコンデンサ20及びFC系ラジエタ21を、この順番に通過して、それらから熱を奪う。
【0025】
FC冷却水ポンプ23は、冷却制御装置15からの制御信号により回転速度を制御され、冷却水循環路14に冷却水を循環させる。水温センサ28は、燃料電池スタック11における冷却水循環路14の出口箇所に配設され、該箇所における冷却水温度を検出する。温度センサ29は、反応ガスの水素の流路が燃料電池スタック11から出て来る箇所に配設され、該箇所における水素の温度を検出する。温度センサ30は、反応ガスの酸素を含む空気の流路が燃料電池スタック11から出て来る箇所に配設され、該箇所における空気の温度を検出する。
【0026】
電子駆動装置13は、車両制御ユニット27及びモータ37の他に、パワードライブユニット36を備える。車両制御ユニット27は、電力ケーブル35を介してパワードライブユニット36へ接続され、燃料電池スタック11からの電力を高圧バッテリ12とパワードライブユニット36とへ振り分けるとともに、振り分け比を制御する。パワードライブユニット36は、車両制御ユニット27経由で供給される電力によりモータ37を駆動する。
【0027】
電圧センサ41及び電流センサ42は電力ケーブル33における電圧及び電流をそれぞれ検出する。電圧センサ45及び電流センサ46は電力ケーブル34における電圧及び電流をそれぞれ検出する。電圧センサ49及び電流センサ50は電力ケーブル35における電圧及び電流をそれぞれ検出する。
【0028】
冷却制御装置15は、モータ出力余裕度判断部55、FC高温高負荷判断部56及び冷却促進制御部57を備える。冷却制御装置15は、水温センサ28、温度センサ29、温度センサ30、電圧センサ41,45,49、及び電流センサ42,46,50等からの検出信号を入力される。冷却制御装置15は、また、エアコンコンデンサ20、FC系ラジエタ21、FC用ラジエタファン22、FC冷却水ポンプ23及び車両制御ユニット27へ制御信号を送って、それらを制御する。
【0029】
モータ出力余裕度判断部55は、モータ37の出力余裕度を判断する。FC高温高負荷判断部56は、燃料電池スタック11が高温高負荷継続状態であるか否かを判断する。冷却促進制御部57は、モータ出力余裕度判断部55及びFC高温高負荷判断部56の判断に基づきエアコンコンデンサ20、FC用ラジエタファン22及び/又はFC冷却水ポンプ23を制御して、燃料電池スタック11の冷却を制御する。
【0030】
冷却制御装置15についての具体的な作用の説明に入る前に、図2を参照して、冷却制御装置15の制御を概略的に説明する。
【0031】
図2のグラフにおいて、横軸は水温センサ28により検出した燃料電池スタック11の冷却水の温度(FC水温T)、縦軸は電圧センサ41により検出された燃料電池スタック11の出力電圧(FC電圧V)を示している。実線は、燃料電池スタック11の上限の出力電圧を示している。実線から下に離れて図示されている破線は、燃料電池スタック11の下限の出力電圧を示している。燃料電池スタック11の上限及び下限の出力電圧VはFC水温Tに応じて変化する。なお、V1,V2は例えば320V、330Vである。
【0032】
燃料電池スタック11が、各FC水温Tでの上限又は下限の出力電圧を出力しているときのIFC(出力電流)は一定となっており、上限時のIFC(例:300A)は下限時のIFCより大きい。燃料電池スタック11の出力電力は燃料電池スタック11の出力電圧Vに比例する。
【0033】
図2では、通常走行範囲と、高速走行又は登板走行範囲とが定義されている。通常走行範囲は、T1≦T≦T2である。高速走行又は登板走行範囲は、T2<Tの範囲である。T1,T2は例えばそれぞれ75°C,85°Cである。燃料電池スタック11の下限又は上限のFC電圧Vは、通常走行範囲ではFC水温Tの変化に対してフラットを維持し、通常走行範囲より下側では、FC水温Tの上昇に連れて上昇し、通常走行範囲より上側では、FC水温Tの上昇に連れて下降する。
【0034】
該燃料電池自動車が、高速走行又は登板走行の状態になると、モータ37に対する要求出力が増大し、これに伴い、FC電圧Vはその上限まで上昇し、燃料電池スタック11は図2における通常走行範囲内のP1になる。
【0035】
燃料電池自動車が、高速走行又は登板走行をさらに続けると、FC水温Tが上昇し、燃料電池スタック11は、図2における通常走行範囲のP1から高速走行又は登板走行範囲のP2へ移る。
【0036】
燃料電池スタック11が高速走行又は登板走行範囲のP2へ移ってから、なおも、高速走行又は登板走行状態が継続すると、FC水温Tは、上昇を続けて、T3を超えて、燃料電池の状態は、実線のフラット部分の右端から右へ水平に延び出している波線におけるP3へ移る。P3の状態で、何も対策を採らないと、P3の状態へ移行してから数分が経つと、上限FC電圧は、FC水温TがT3を上回る範囲では、T3における上限FC電圧の値を起点に右肩下がりになり、燃料電池の状態はP4へ移ってしまう。この結果、モータ37の出力は下降してしまい、高速走行又は登板走行の継続が困難になってしまう。
【0037】
冷却制御装置15は、これに対処した制御を実施することにより、P4のような燃料電池スタック11の出力電力の低下は回避する。図3〜図7を参照して、冷却制御装置15の具体的な制御について説明する。
【0038】
なお、本発明における燃料電池は燃料電池スタック11に相当する。本発明における蓄電池は高圧バッテリ12に相当する。本発明における冷却手段は、FC系ラジエタ21、FC用ラジエタファン22又はFC冷却水ポンプ23に相当する。本発明における温度検出手段は水温センサ28に相当する。本発明における負荷状態検出手段はFC高温高負荷判断部56に相当する。本発明における上限出力電力算出手段及びモータ要求電力算出手段はモータ出力余裕度判断部55に相当する。本発明における冷却促進手段は冷却促進制御部57に相当する。
【0039】
本発明における燃料電池温度についての第1所定値は図2のT2又はT3に設定することができる。本発明における燃料電池温度についての第2所定値も図2のT2又はT3に設定することができる。第1及び第2所定値をそれぞれT2及びT3に設定することもできる。
【0040】
図3において、冷却制御装置15は、燃料電池システム10が搭載される燃料電池自動車のイグニッションスイッチ(図示せず)がオンになるのに伴い、すなわち、燃料電池自動車の運転が開始される時に起動する。ROUTINE60,61の処理はそれぞれ冷却制御装置15のモータ出力余裕度判断部55及びFC高温高負荷判断部56の機能を実現するものとなっている。
【0041】
STEP62では、ROUTINE60での判断結果が、モータ37の出力について余裕度無しか余裕度有りかのどちらであるかを調べ、余裕度無しであれば、STEP63へ進み、余裕度有りであれば、STEP65へ進む。
【0042】
STEP63では、ROUTINE61での判断結果が、燃料電池スタック11が高温高負荷継続状態であるか否かのどちらであるかを調べ、高温高負荷継続状態であるの判断結果であれば、ROUTINE64へ進み、高温高負荷継続状態でないの判断結果であれば、STEP65へ進む。
【0043】
ROUTINE64の処理は冷却制御装置15の冷却促進制御部57の機能を実現するものになっている。ROUTINE64は、モータ37の出力について余裕度無しでかつ燃料電池スタック11が高温高負荷継続状態であるときに実行され、それ以外のときにはスキップされる。ROUTINE64の詳細については、図7を参照して、後述する。
【0044】
STEP65では、イグニッションスイッチがオフであるかオンであるかを判定し、オンであれば、ROUTINE60へ戻り、オフであれば、すなわち、燃料電池自動車の運転が終了すると、冷却制御装置15の作動を停止する。
【0045】
図4は、モータ37の出力余裕度を判断するROUTINE60のフローチャートであり、STEP601では、燃料電池スタック11と高圧バッテリ12とが現時点で共同してモータ37へ供給することができる出力電力(モータ出力上限)をA、現時点での燃料電池スタック11の出力電力の上限(FC出力上限)をA1、現時点での高圧バッテリ12の出力電力の上限(バッテリ出力上限)をA2、モータ37を除くすべての電装品の現在の消費電力をA3と定義し、式:A=A1+A2−A3からAを算出する。現時点でのA1は、図2における実線上の各位置における燃料電池スタック11の出力電力(FC電圧×出力電流)に相当する。現時点でのA2は、高圧バッテリ12の放電終了までほぼ一定を維持するが、放電終了間近になると、低下する。Aは、モータ37が、現時点で燃料電池スタック11及び高圧バッテリ12から供給を受けることができる電力となる。
【0046】
STEP602では、Aと、モータ37がその要求出力を出力するために、モータ37へ供給する必要のある供給電力(モータ要求電力)とを対比し、A≦モータ要求電力であれば、STEP603へ進み、A>モータ要求電力であれば、STEP604へ進む。なお、モータ37に対する要求出力は、例えば運転室の加速ペダルの踏込み量に対応する。運手者は、モータ37に対して大きな出力を要求するときほど、加速ペダル大きく踏込む。
【0047】
モータ37の出力について、STEP603では、余裕度無しと判定し、STEP604では、余裕度有りと判定する。
【0048】
図5は、燃料電池スタック11の高温高負荷継続状態を判断するROUTINE61のフローチャートであり、STEP611では、タイマをリセットし、該タイマにより時間経過の計測を開始する。
【0049】
STEP612では、FC水温Tと所定値B(例:B≦図2のT3でかつT3の近傍の値。例えばB=90°C。)とを対比し、FC水温T>Bであれば、STEP613へ進み、FC水温T≦Bであれば、STEP616へ進む。
【0050】
STEP613では、燃料電池スタック11の出力電力(又は出力電流IFC)と所定値Cとを対比し、出力電力(又は出力電流IFC)>Cであれば、STEP614へ進み、出力電力(又は出力電流IFC)≦Cであれば、STEP616へ進む。なお、STEP613において、燃料電池スタック11の出力電力に代えて、出力電圧Vではなく、出力電流IFCにより判断するのは、燃料電池の出力電力は、出力電圧Vよりも出力電流IFCに大きく依存するからである。出力電流IFCにより燃料電池スタック11の負荷を判断するときは、Cは、例えば、図2の実線のIFCが例えば300Aであれば、200A以上である。
【0051】
STEP614では、STEP611で経過時間の計測を開始したタイマにおける計測時間が所定時間以上になっているか否かを判定し、所定時間以上であれば、STEP615へ進み、所定時間以内であれば、STEP612へ戻る。
【0052】
燃料電池スタック11の温度、負荷及び継続状態に関して、STEP615では、燃料電池スタック11は高温高負荷継続状態にあると判断し、STEP616では、燃料電池スタック11は通常状態にあると判断する。
【0053】
図6において、(a)及び(b)は2種類の高温高負荷状態の領域を定義している。(a)は図5のROUTINE61で採用している高温高負荷状態の領域である。実際のROUTINE61では、高温高負荷継続状態として、STEP614の継続(時間因子)判断も加えているが、図6は、STEP612,613で絞り込まれる高温高負荷状態の領域のみを示している。図6において横軸はFC水温Tを、縦軸は燃料電池スタック11の出力電力(FC出力)又は出力電流(FC電流)をそれぞれ示している。
【0054】
図6(a)では、FC水温T>BでかつFC出力>Cである領域が高温高負荷状態の領域となり、それ以外の領域は燃料電池スタック11の通常状態の領域となる。
【0055】
図6(b)では、高温高負荷状態の領域と燃料電池スタック11の通常状態とを分ける境界線Lが、傾斜角の異なる2つの傾斜線部分により定義される。すなわち、Lを定義する2つの傾斜線部分は、燃料電池スタック11の出力電力=Cの箇所において結合しており、結合点におけるFC水温TはBより少し小さい値B’(B’<B)となっている。また、FC水温Tの単位増加量に対するFC出力の減少量は結合点より右側では左側より小さくなっている。
【0056】
図7は、燃料電池スタック11の冷却促進制御に係るROUTINE64のフローチャートである。STEP641では、(a)FC用ラジエタファン22の増速、(b)FC冷却水ポンプ23の増速、及び/又は(c)車室の気温を調整するエアコンの温度調整量を減少させる。(a)及び(b)では、燃料電池スタック11の冷却水の流量が増大し、その結果、燃料電池スタック11の冷却が促進される。
【0057】
(c)では、エアコンの温度調整温度量の減少により、エアコンコンデンサ20における冷却風Wの気温とエアコンコンデンサ20の温度との差が減少し、冷却風Wは、エアコンコンデンサ20を通過する際の温度上昇を抑制されて、低温を維持して、FC系ラジエタ21を通過する。その結果として、FC系ラジエタ21における冷却水温度の低下量が増大し、燃料電池スタック11の冷却が促進される。
【0058】
ROUTINE64による燃料電池スタック11の冷却促進によりFC水温TはB以下、したがってT3(図2)以下となり、燃料電池スタック11の出力電力は増大する。なお、ROUTINE64の実施による下降後のFC水温Tは、T3より小さい、例えばT2(図2)とすることもできる。このようなFC水温Tの下降により、燃料電池スタック11の電極における湿潤状態が改善され、燃料電池スタック11の出力電力は増大する。
【0059】
なお、図3でROUTINE64がスキップされたときには、燃料電池スタック11の冷却能力は、ROUTINE64の実行時よりも所定分低いものとなる。
したがつて、モータ37が出力余裕度無しの状態でかつ燃料電池スタック11が高温高負荷継続状態になっていない通常の期間である、例えば燃料電池スタック11が高温であっても、モータ37の出力に余裕があるか、あるいは燃料電池スタックの負荷が大きくないために、燃料電池スタック11の出力電力の低下が問題にならない期間では、適当に低い冷却力で燃料電池スタック11が冷却され、消費電力が抑制される。
【0060】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池自動車以外の車両や船舶等の移動体に搭載される燃料電池システムにも適用可能である。
【0061】
モータに対する要求出力は、本発明の実施形態では、アクセルペダルの踏込み量に基づき算出されるが、その他として、アクセルペダルの踏込み量が所定値以上にもかかわらず、走行速度が低下していく場合のその低下量や低下速度に基づき算出してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10・・・燃料電池システム、11・・・燃料電池スタック、12・・・高圧バッテリ、14・・・冷却水循環路、15・・・冷却制御装置、20・・・エアコンコンデンサ、21・・・FC系ラジエタ、22・・・FC用ラジエタファン、23・・・FC冷却水ポンプ、28・・・水温センサ、37・・・モータ、55・・・モータ出力余裕度判断部、56・・・FC高温高負荷判断部、57・・・冷却促進部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
蓄電池を充電するとともに該蓄電池と共同して前記モータとその他の電装品とへ電力を供給する燃料電池と、
前記燃料電池を冷却する冷却手段と、
前記燃料電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記燃料電池の負荷状態を検出する負荷状態検出手段と、
前記燃料電池の現時点の上限出力電力と前記蓄電池の現時点の上限出力電力とを合計した現時点の合計上限出力電力を算出する上限出力電力算出手段と、
前記モータが要求された出力を出すために必要とするモータ要求電力を算出するモータ要求電力算出手段と、
前記合計上限出力電力と前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力とに基づきモータ出力が非余裕状態であるか否かを判断するとともに、燃料電池温度と燃料電池負荷と燃料電池温度及び燃料電池負荷についての所定状態の継続時間とに基づき前記燃料電池が高温高負荷継続状態であるか否かを判断し、その判断結果が、モータ出力が非余裕状態でかつ燃料電池が高温高負荷継続状態であれば、前記冷却手段の冷却能力を増大させて、前記燃料電池温度を第1所定値以下まで下降させる冷却促進手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記冷却促進手段は、前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力との合計が前記合計上限出力電力を上回っているときはモータ出力が非余裕状態であると判断することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池システムにおいて、
前記冷却促進手段は、燃料電池温度が前記第1所定値以上の第2所定値以上でありかつ燃料電池負荷が所定値以上である状態が所定時間以上継続したとき、前記燃料電池が高温高負荷継続状態であると判断することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池を冷却する冷媒用のラジエタは、エアコンの冷媒用のコンデンサに隣接して、該コンデンサを通過した後の冷却風により冷却されるように配設され、
前記冷却促進手段は、前記冷却手段の冷却能力の増大を、前記エアコンによる温度調整量の減少により実施することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
モータと、
蓄電池を充電するとともに該蓄電池と共同して前記モータとその他の電装品とへ電力を供給する燃料電池と、
前記燃料電池を冷却する冷却手段と、
を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池の温度を検出する温度検出ステップと、
前記燃料電池の負荷状態を検出する負荷状態検出ステップと、
前記燃料電池の現時点の上限出力電力と前記蓄電池の現時点の上限出力電力とを合計した現時点の合計上限出力電力を算出する上限出力電力算出ステップと、
前記モータが要求された出力を出すために必要とするモータ要求電力を算出するモータ要求電力算出ステップと、
前記合計上限出力電力と前記モータ要求電力と前記その他の電装品への現時点の供給電力とに基づきモータ出力が非余裕状態であるか否かを判断するとともに、燃料電池温度と燃料電池負荷と燃料電池温度及び燃料電池負荷についての所定状態の継続時間とに基づき前記燃料電池が高温高負荷継続状態であるか否かを判断し、その判断結果が、モータ出力が非余裕状態でかつ燃料電池が高温高負荷継続状態であれば、前記冷却手段の冷却能力を増大させて、前記燃料電池温度を第1所定値以下まで下降させる冷却促進ステップと、
を含むことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209109(P2012−209109A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73388(P2011−73388)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】