説明

燃料電池システム

【課題】冷却水の循環開始直後に、導電率が悪化している冷却水が燃料電池に導入されることを防止する。
【解決手段】導電率検出部13により導電率が所定値以上の冷却水が検出された場合、制御部15が、三方弁8を制御することにより、暖機用循環経路5又は冷却用循環経路7に導電率が所定値以上の冷却水を一時的に導入又は滞留させる。これにより、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池2に供給されることを防止できる。また、冷却水を一時的に導入、又は滞留させる経路を別途設ける必要がないので、スペース,重量,コスト等の無駄を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、より詳しくは、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池に供給されることを防止するための技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷却水の温度に応じて、冷却水を冷却する冷却用循環経路と冷却水を加熱する暖機用循環経路との間で冷却水の循環経路を切り替える燃料電池システムが知られている。このような燃料電池システムでは、冷却水の循環経路が暖機用循環経路に切り替えられている際、冷却用循環経路を構成する配管内や冷却水を冷却するためのラジエータ内に冷却水が滞留し、冷却水の温度によっては、配管やラジエータからイオンが溶出することにより冷却水の導電率が悪化する(高くなる)ことがある。そして、このような状態において、冷却水の循環経路が暖機用循環経路から冷却用循環経路に切り替えられた場合には、導電率が悪化した冷却水が燃料電池に供給されることにより、燃料電池の液絡が生じることがある。このような背景から、従来までの燃料電池システムでは、冷却水の温度が冷却用循環経路への切り替え温度に近づいた際、燃料電池から排出される冷却水の一部をラジエータに供給し、イオン除去装置によりイオン濃度が低下された冷却水とラジエータから排出された冷却水とを混合して燃料電池に供給することにより、循環経路を冷却用循環経路に切り替えた際に、導電率が悪化した冷却水が燃料電池に供給されることを防止している(例えば、特許文献1,2を参照)。
【特許文献1】特開2003−123804号公報
【特許文献2】特開2003−123813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、本願発明の発明者は、冷却水の導電率を悪化させる因子を有する部品が冷却水の循環経路にある場合には、循環開始直後、循環経路内部において冷却水の導電率に部分的な偏りが生じ、イオン除去装置に冷却水を循環させることによりこの偏りは徐々に改善されていくことを知見した。しかしながら、従来までの燃料電池システムは、このような循環開始直後における導電率の偏りについては考慮しておらず、冷却水の温度のみに従って循環経路を切り替える構成になっているために、長期放置後の起動時等の冷却水の温度が低い状態であって、且つ、冷却水の導電率が悪化している状態からの循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池に供給されることがある。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池に供給されることを防止可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するために、本発明に係る燃料電池システムは、
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る燃料電池システムによれば、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池に供給されることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態となる燃料電池システムの構成について説明する。
【0008】
〔燃料電池システムの構成〕
本発明の一実施形態となる燃料電池システム1は、図1に示すように、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池と略記)2と、燃料電池2に冷却水を循環させる冷却水循環経路3と、燃料電池2に冷却水を圧送する循環ポンプ4とを主な構成要素として備える。また、燃料電池2の下流側の冷却水循環経路3は、冷却水を直接循環ポンプ4に循環させる暖機用循環経路5と、冷却水を冷却する放熱器6を経由して循環ポンプ4に冷却水を循環させる冷却用循環経路7に分岐され、その分岐点には、暖機用循環経路5及び冷却用循環経路7に流入する冷却水の流量を制御する三方弁8が設けられている。
【0009】
また、冷却水循環経路3には、循環ポンプ4から排出された冷却水内に含まれるイオンをイオン除去装置9により除去し、イオン除去された冷却水を放熱器6から排出された冷却水に混合させるサブ配管10が設けられている。また、この燃料電池システム1は、制御系として、燃料電池2に供給される冷却水の導電率を検出する導電率検出部11と、燃料電池2に供給される冷却水の温度を検出する温度検出部12と、三方弁8に流入する冷却水の導電率を検出する導電率検出部13と、燃料電池2の発電電流を検出する電流検出部14と、燃料電池システム1全体の動作を制御する制御部15を備える。
【0010】
なお、この実施形態では、暖機用循環経路5及び冷却用循環経路7に流入する冷却水の流量は三方弁8によって制御することとしたが、図2や図3に示すように、暖機用循環経路5と冷却用循環経路7の双方に遮断弁(シャットバルブ)16や可変バルブ17を設け、遮断弁16及び可変バルブ17の開度を調整することにより暖機用循環経路5及び冷却用循環経路7に流入する冷却水の流量を制御してもよい。但し、遮断弁16を用いる場合には、各遮断弁16をデューティ制御する必要がある。
【0011】
〔燃料電池システムの動作〕
本願発明の発明者は、冷却水の導電率を悪化させる因子を有する部品が冷却水循環経路3にある場合には、図4に示すように、循環開始直後、冷却水循環経路3内部において冷却水の導電率に部分的な偏りが生じ、イオン除去装置9に冷却水を循環させることによりこの偏りは徐々に改善されていくことを知見した。しかしながら、従来までの燃料電池システムは、このような循環開始直後における導電率の偏りについては考慮せずに、冷却水の温度のみに従って暖機用循環経路5と冷却用循環経路7を切り替える構成になっているために、長期放置後の起動時等の冷却水の温度が低い状態であって、且つ、冷却水の導電率が悪化している状態からの循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池2に供給されることがある。そこで、この燃料電池システム1では、制御部15が以下に示す循環制御処理を実行することにより、循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池2に供給されることを防止する。以下、図5に示すフローチャートを参照して、この循環制御処理を実行する際の制御部15の動作について説明する。
【0012】
〔循環制御処理〕
図5に示すフローチャートは、燃料電池システム1が起動され、制御部15が循環ポンプ4を起動させることにより冷却水の循環を開始するのに応じて開始となり、循環制御処理はステップS1の処理に進む。
【0013】
ステップS1の処理では、制御部15が、導電率検出部13を利用して三方弁8に流入する冷却水の導電率Aを検出する。これにより、このステップS1の処理は完了し、この制御処理はステップS2の処理に進む。
【0014】
ステップS2の処理では、制御部15が、三方弁8に流入する冷却水の導電率Aが所定値α以上であるか否かを判別することにより、冷却水循環経路3内部の冷却水の導電率が悪化しているか否かを判断する。なお、上記所定値αは、燃料電池2の液絡を生じさせない程度の導電率に設定されている。
【0015】
そして、判別の結果、導電率Aが所定値α以上でない場合、制御部15は、冷却水の導電率は悪化していないと判断し、この制御処理をステップS1の処理に戻す。一方、導電率Aが所定値α以上である場合には、制御部15は、冷却水の導電率は悪化していると判断し、この制御処理をステップS3の処理に進める。
【0016】
ステップS3の処理では、制御部15が、温度検出部12を介して燃料電池2に供給される冷却水の温度T1を検出する。これにより、このステップS3の処理は完了し、この制御処理はステップS4の処理に進む。
【0017】
ステップS4の処理では、制御部15が、燃料電池2に供給される冷却水の温度T1が所定値β以下であるか否かを判別することにより、導電率が悪化した冷却水を滞留させる経路(以下、バッファ部と表記)を暖機用循環経路5と冷却用循環経路7との間で決定する。なお、上記所定値βは、燃料電池2の発電効率を高い状態に維持可能な冷却水温度に設定されている。そして、判別の結果、冷却水の温度T1が所定値β以下でない場合、冷却水は冷却用循環経路7を循環するために、制御部15は、バッファ部を暖機用循環経路5にするべく、この制御処理をステップS15の処理に進める。一方、冷却水の温度T1が所定値β以下である場合には、冷却水は暖機用循環経路5を循環するために、制御部15は、バッファ部を冷却用循環経路7にするべく、この制御処理をステップS5の処理に進める。
【0018】
ステップS5の処理では、制御部15が、冷却用循環経路7側に冷却水の全量が分流されるように三方弁8を制御し、導電率が悪化した冷却水を冷却用循環経路7に導入する。これにより、このステップS5の処理は完了し、この制御処理はステップS6の処理に進む。
【0019】
ステップS6の処理では、制御部15が、導電率検出部13を利用して三方弁8に流入する冷却水の導電率Bを推定する。これにより、このステップS6の処理は完了し、この制御処理はステップS7の処理に進む。
【0020】
ステップS7の処理では、制御部15が、三方弁8に流入する冷却水の導電率Bが所定値α以下であるか否かを判別することにより、導電率が悪化している冷却水が全て冷却用循環経路7に流入したか否かを判断する。そして、判別の結果、導電率Bが所定値α以下でない場合、制御部15は、導電率が悪化している冷却水が全て冷却用循環経路7に流入していないと判断し、この制御処理をステップS1の処理に戻す。一方、導電率Bが所定値α以下である場合には、制御部15は、導電率が悪化している冷却水が全て冷却用循環経路7に流入したと判断し、この制御処理をステップS8の処理に進める。
【0021】
ステップS8の処理では、制御部15が、暖機用循環経路5側に冷却水の全量が分流されるように三方弁8を制御することにより、冷却用循環経路7に流入させた冷却水を一時的に滞留させる。これにより、このステップS8の処理は完了し、この制御処理はステップS9の処理に進む。
【0022】
ステップS9の処理では、制御部15が、冷却水循環経路3から冷却用循環経路7に流す冷却水の流量割合rを算出する。具体的には、制御部15は、導電率検出部11を介して燃料電池2に流入する冷却水の最大導電率bを検出し、導電率検出部13を介して三方弁8に流入する冷却水の最大導電率aを検出する。そして、制御部15は、最大導電率a,bを以下に示す数式1に代入することにより冷却水の流量割合rを算出する。
【0023】
なお、上記数式1は、数式2により導出され、数式中のパラメータc,Qはそれぞれ、燃料電池2に導入される冷却水の所定導電率値及び冷却水循環流路3を流れる冷却水の全体流量を示す。また、所定導電率値cは、燃料電池2の液絡を生じさせない程度の導電率を示す。これにより、このステップS9の処理は完了し、この制御処理はステップS10の処理に進む。
【数1】

【数2】

【0024】
ステップS10の処理では、制御部15が、冷却水循環流路3を流れる冷却水の全体流量Qを制御する(全体流量制御処理)。なお、この冷却水全体流量制御処理の詳細については、図6に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、このステップS10の処理は完了し、この制御処理はステップS11の処理に進む。
【0025】
ステップS11の処理では、制御部15が、ステップS9の処理により算出された流量割合rになるように三方弁8の切替割合を制御する(流量割合制御処理)。なお、この流量割合制御処理の詳細については、図7に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、このステップS11の処理は完了し、この制御処理はステップS12の処理に進む。
【0026】
ステップS12の処理では、制御部15が、冷却水の全体流量Qと、三方弁8の切替割合と、冷却水を流した時間に基づいて、冷却用循環経路7を流れた冷却水の積算量Eを算出する。これにより、このステップS13の処理は完了し、この制御処理はステップS13の処理に進む。
【0027】
ステップS13の処理では、制御部15が、ステップS12の処理により算出された積算量Eと冷却用循環経路の容積Vの大小関係を比較する。そして、積算量Eが容積Vより大きい場合、制御部15は、ステップS14の処理として、冷却用循環経路7内の導電率が悪化した冷却水が全て導電率が良い冷却水に置換され、冷却水の導電率は回復したと判断した後、この制御処理をステップS1の処理に戻す。一方、積算量Eが容積Vより小さい場合には、制御部15はこの制御処理をステップS1の処理に戻す。
【0028】
ステップS15の処理では、制御部15が、暖機用循環経路5側に冷却水の全量が分流されるように三方弁8を制御し、導電率が悪化した冷却水を暖機用循環経路5に導入する。これにより、このステップS15の処理は完了し、この制御処理はステップS16の処理に進む。
【0029】
ステップS16の処理では、制御部15が、導電率検出部13を利用して三方弁8に流入する冷却水の導電率Bを検出する。これにより、このステップS16の処理は完了し、この制御処理はステップS17の処理に進む。
【0030】
ステップS17の処理では、制御部15が、三方弁8に流入する冷却水の導電率Bが所定値α以下であるか否かを判別することにより、導電率が悪化している冷却水が全て暖機用循環経路5に流入したか否かを判断する。そして、判別の結果、導電率Bが所定値α以下でない場合、制御部15は、導電率が悪化している冷却水が全て暖機用循環経路5に流入していないと判断し、この制御処理をステップS1の処理に戻す。一方、導電率Bが所定値α以下である場合には、制御部15は、導電率が悪化している冷却水が全て暖機用循環経路5に流入したと判断し、この制御処理をステップS18の処理に進める。
【0031】
ステップS18の処理では、制御部15が、冷却用循環経路7側に冷却水の全量が分流されるように三方弁8を制御することにより、暖機用循環経路5に流入させた冷却水を一時的に滞留させる。これにより、このステップS18の処理は完了し、この制御処理はステップS19の処理に進む。
【0032】
ステップS19の処理では、制御部15が、冷却水循環経路3から暖機用循環経路5に流す冷却水の流量割合rを算出する。なお、この流量割合rの算出方法は上述のステップS9の処理と同じであるのでここではその説明を省略する。これにより、このステップS19の処理は完了し、この制御処理はステップS20の処理に進む。
【0033】
ステップS20の処理では、制御部15が、冷却水循環流路3を流れる冷却水の全体流量Qを制御する(全体流量制御処理)。なお、この冷却水全体流量制御処理の詳細については、図8に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、このステップS20の処理は完了し、この制御処理はステップS21の処理に進む。
【0034】
ステップS21の処理では、制御部15が、ステップS19の処理により算出された流量割合rになるように三方弁8の切替割合を制御する(流量割合制御処理)。なお、この流量割合制御処理の詳細については、図9に示すフローチャートを参照して後述する。これにより、このステップS21の処理は完了し、この制御処理はステップS22の処理に進む。
【0035】
ステップS22の処理では、制御部15が、冷却水の全体流量Qと、三方弁8の切替割合と、冷却水を流した時間に基づいて、暖機用循環経路5を流れた冷却水の積算量Eを算出する。これにより、このステップS22の処理は完了し、この制御処理はステップS23の処理に進む。
【0036】
ステップS23の処理では、制御部15が、ステップS12の処理により算出された積算量Eと暖機用循環経路の容積Vの大小関係を比較する。そして、積算量Eが容積Vより大きい場合、制御部15は、ステップS24の処理として、暖機用循環経路5内の導電率が悪化した冷却水が全て導電率が良い冷却水に置換され、冷却水の導電率は回復したと判断した後、この制御処理をステップS1の処理に戻す。一方、積算量Eが容積Vより小さい場合には、制御部15はこの制御処理をステップS1の処理に戻す。
【0037】
〔全体流量制御処理〕
次に、図6に示すフローチャートを参照して、上記ステップS10における全体流量制御処理について詳しく説明する。
【0038】
図6に示すフローチャートは、上記ステップS9の処理が完了するのに応じて開始となり、全体流量制御処理はステップS31の処理に進む。
【0039】
ステップS31の処理では、制御部15が、電流検出部14を利用して燃料電池2の発電電流Iを検出する。これにより、このステップS31の処理は完了し、この制御処理はステップS32の処理に進む。
【0040】
ステップS32の処理では、制御部15が、実験やシミュレーションによって予め求められた燃料電池の発電電流Iと冷却水全体流量Qの関係を示すテーブルを参照して、ステップS1の処理により推定された発電電流Iに対応する冷却水全体流量Qを算出する。これにより、このステップS32の処理は完了し、この制御処理はステップS33の処理に進む。
【0041】
ステップS33の処理では、制御部15が、温度検出部12を介して燃料電池2に供給される冷却水の温度Tを検出する。これにより、このステップS33の処理は完了し、この制御処理はステップS34の処理に進む。
【0042】
ステップS34の処理では、制御部15が、ステップS33の処理により検出された冷却水の温度Tを時間tで微分することにより、燃料電池2に供給される冷却水の温度tの上昇速度dT/dtを算出する。これにより、このステップS34の処理は完了し、この制御処理はステップS35の処理に進む。
【0043】
ステップS35の処理では、制御部15が、ステップS33の処理により検出された冷却水の温度Tと、ステップS34の処理により算出された上昇速度dT/dtと、燃料電池2の耐熱温度Tmaxとを以下に示す数式3に代入することにより、燃料電池2が耐熱温度に到達するまでの時間を耐熱温度到達時間tとして算出する。これにより、このステップS35の処理は完了し、この制御処理はステップS36の処理に進む。
【数3】

【0044】
ステップS36の処理では、制御部15が、冷却用循環経路7の容積Vと冷却水全体流量Qと流量割合rを以下に示す数式4に代入することにより、冷却用循環経路7内の導電率が悪化した冷却水が全て導電率が良い冷却水に置換されるまでの時間を冷却用循環経路全置換時間trとして算出し、耐熱温度到達時間tと冷却用循環経路全置換時間trの大小関係を比較する。
【数4】

【0045】
そして、耐熱温度到達時間tより冷却用循環経路全置換時間trの方が長い場合、制御部15は、ステップS37の処理として燃料電池2の出力を制限して冷却水全体流量Qを減少させ、一連の制御処理は終了する。一方、耐熱温度到達時間tより冷却用循環経路全置換時間trの方が短い場合には、制御部15はステップS38の処理として冷却水全体流量Qを増加させ、一連の制御処理は終了する。
【0046】
〔流量割合制御処理〕
次に、図7に示すフローチャートを参照して、上記ステップS11における流量割合制御処理について詳しく説明する。
【0047】
図7に示すフローチャートは、上記ステップS10の処理が完了するのに応じて開始となり、流量割合制御処理はステップS41の処理に進む。
【0048】
ステップS41の処理では、制御部15が、流量割合rと冷却水全体流量Qから三方弁8の切替割合を算出する。これにより、このステップS41の処理は完了し、この制御処理はステップS42の処理に進む。
【0049】
ステップS42の処理では、制御部15が、導電率検出部11を介して燃料電池2に供給される冷却水の導電率Dを検出する。これにより、このステップS42の処理は完了し、この制御処理はステップS43の処理に進む。
【0050】
ステップS43の処理では、制御部15が、ステップS42の処理により検出された導電率Dと所定の導電率設定値γとの大小関係を判別する。そして、判別の結果、導電率Dが所定の導電率設定値γよりも小さい場合、制御部15は、ステップS44の処理として、冷却用循環経路7から燃料電池2に供給される冷却水流量を増加させるべく、冷却用循環経路7への流量割合を増加させ、一連の制御処理は終了する。一方、導電率Dが所定の導電率設定値γよりも大きい場合には、制御部15は、ステップS45の処理ととして、冷却用循環経路7から燃料電池2に供給される冷却水流量を減少させるべく、冷却用循環経路7への流量割合を減少させ、一連の制御処理は終了する。
【0051】
〔全体流量制御処理〕
次に、図8に示すフローチャートを参照して、上記ステップS20における全体流量制御処理について詳しく説明する。
【0052】
図8に示すフローチャートは、上記ステップS19の処理が完了するのに応じて開始となり、全体流量制御処理はステップS51の処理に進む。
【0053】
ステップS51の処理では、制御部15が、電流検出部14を利用して燃料電池2の発電電流Iを推定する。これにより、このステップS51の処理は完了し、この制御処理はステップS52の処理に進む。
【0054】
ステップS52の処理では、制御部15が、実験やシミュレーションによって予め求められた燃料電池2の発電電流Iと冷却水全体流量Qの関係を示すテーブルを参照して、ステップS1の処理により推定された発電電流Iに対応する冷却水全体流量Qを算出する。これにより、このステップS52の処理は完了し、一連の制御処理は終了する。
【0055】
〔流量割合制御処理〕
次に、図9に示すフローチャートを参照して、上記ステップS21における流量割合制御処理について詳しく説明する。
【0056】
図9に示すフローチャートは、上記ステップS20の処理が完了するのに応じて開始となり、流量割合制御処理はステップS61の処理に進む。
【0057】
ステップS61の処理では、制御部15が、流量割合rと冷却水全体流量Qから三方弁8の切替割合を算出する。これにより、このステップS61の処理は完了し、この制御処理はステップS62の処理に進む。
【0058】
ステップS62の処理では、制御部15が、導電率検出部11を利用して燃料電池2に供給される冷却水の導電率Dを検出する。これにより、このステップS62の処理は完了し、この制御処理はステップS63の処理に進む。
【0059】
ステップS63の処理では、制御部15が、ステップS62の処理により検出された導電率Dと所定の導電率設定値γとの大小関係を判別する。そして、判別の結果、導電率Dが所定の導電率設定値γよりも小さい場合、制御部15は、ステップS64の処理として、暖機用循環経路5から燃料電池2に供給される冷却水流量を増加させるべく、暖機用循環経路5への流量割合を増加させ、一連の制御処理は終了する。一方、導電率Dが所定の導電率設定値γよりも大きい場合には、制御部15は、ステップS65の処理ととして、暖機用循環経路5から燃料電池2に供給される冷却水流量を減少させるべく、暖機用循環経路5への流量割合を減少させ、一連の制御処理は終了する。
【0060】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、導電率が所定値以上の冷却水が検出された場合、制御部15が、三方弁8を制御することにより、暖機用循環経路5又は冷却用循環経路7に導電率が所定値以上の冷却水を一時的に導入又は滞留させるので、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池2に供給されることを防止できる。また、冷却水を一時的に導入、又は滞留させる経路を別途設ける必要がないので、スペース,重量,コスト等の無駄を無くすことができる。
【0061】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、暖機用循環経路5又は冷却用循環経路7に導入又は滞留させた冷却水を導電率が所定値以下の冷却水と混合して燃料電池2に供給するので、導電率の部分的な偏りを平均化し、導電率が極端に悪化した冷却水2が燃料電池2に供給されることを防止できる。
【0062】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、燃料電池2に供給される冷却水の温度T1が所定値β以上である場合、暖機用循環経路5に冷却水を導入又は滞留させ、冷却水の温度T1が所定値β以上でない場合には、冷却用循環経路7に冷却水を導入又は滞留させるので、燃料電池2の保護、又は燃料電池2の発電効率を高く維持するための暖機,冷却機能を損なうことなく、冷却水の循環開始直後、導電率が悪化している冷却水が燃料電池2に供給されることを防止できる。
【0063】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、導電率検出部13により検出された導電率Bが所定値α以下になるのに応じて、三方弁8を制御することにより、冷却水を導入又は滞留させている暖機用循環経路5又は冷却用循環経路7に流入する冷却水の流量を減少させるので、導電率が悪化した冷却水のみを暖機用循環経路5又は冷却用循環経路7に導入又は滞留させることができる。
【0064】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、冷却水を導入又は滞留させた後、三方弁8を制御することにより、燃料電池2に供給される冷却水の導電率が所定値以上にならないように、冷却用循環経路7及び暖機用循環経路5に供給する冷却水の流量割合rを制御するので、導電率が極端に悪化した冷却水2が燃料電池2に供給されることを防止できる。
【0065】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、燃料電池2の運転負荷に従って冷却水の全体流量Qを算出し、冷却水の全体流量Qと流量割合rに従って三方弁8の切替割合を制御するので、冷却水の全体流量Qが変化することによって冷却用循環経路7及び暖機用循環経路5に供給する冷却水の流量割合rが変動することを防止し、制御精度を上げることができる。
【0066】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、燃料電池2に供給される冷却水の導電率Dと所定の閾値γとの偏差に従って、三方弁8の切替割合をフィードバック制御するので、冷却用循環経路7及び暖機用循環経路5に供給する冷却水の流量割合rを精密に制御し、冷却用循環経路7に滞留させた冷却水の全量を短時間で導電率が良好な冷却水に置換することができる。
【0067】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、冷却用循環経路7に冷却水を導入又は滞留させた場合、燃料電池2の耐熱温度Tmax、燃料電池入口側の冷却水温度T、及び冷却水温度の上昇速度dT/dtを用いて、燃料電池2が耐熱温度Tmaxに到達するまでの時間を耐熱温度到達時間tとして算出し、耐熱温度到達時間tに基づいて三方弁8の切替割合をフィードバック制御するので、燃料電池2の耐熱温度Tmaxに到達するまでに冷却用循環経路7に導入又は滞留させた冷却水を導電率が良好な冷却水と混合し、流路切替時に、冷却用循環経路7に残存する導電率が悪化した冷却水が燃料電池2に供給されることを防止できる。
【0068】
また、本発明の一実施形態となる燃料電池システム1によれば、制御部15が、冷却用循環経路7に導入又は滞留された冷却水が全て三方弁8から流入する冷却水に置換されるまでの時間を冷却用循環経路全置換時間trとして算出し、冷却用循環経路全置換時間trが耐熱温度到達時間tより長い場合、燃料電池2の出力を制限するので、燃料電池2を保護することができる。
【0069】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、制御部15は、導電率検出部13により検出される導電率が冷却液の循環開始時から所定時間の間所定値以下である場合には、上記制御を行わないでもよい。これにより、消費エネルギーの削減し、制御をより簡単にすることができる。このように、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態となる燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す燃料電池システムの応用例の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す燃料電池システムの応用例の構成を示すブロック図である。
【図4】循環開始時からの時間経過に伴う冷却水導電率の変化を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態となる循環制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図6】図5に示すステップS10の全体流量制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図7】図5に示すステップS11の流量割合制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図8】図5に示すステップS20の全体流量制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図9】図5に示すステップS21の流量割合制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0071】
1:燃料電池システム
2:燃料電池システム
3:冷却水循環経路
4:循環ポンプ
5:暖機用循環経路
6:放熱器
7:冷却用循環経路
8:三方弁
9:イオン除去装置
10:サブ配管
11,13:導電率検出部
12:温度検出部
14:電流検出部
15:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に冷却水を循環させる冷却水循環経路と、
前記冷却水循環経路の一部に対し並列に設けられた分岐経路と、
前記分岐経路の上流側に設けられ、前記冷却水循環経路の一部と前記分岐経路との間で冷却水の流路を切り替える切替部と、
前記切替部に流入する冷却水の導電率を検出する導電率検出部と、
前記導電率検出部により導電率が所定値以上の冷却水が検出された場合、前記切替部を制御することにより、前記冷却水循環経路の一部又は前記分岐経路に導電率が所定値以上の冷却水を一時的に導入又は滞留させる制御部と
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記冷却水循環経路の一部又は前記分岐経路に導入又は滞留させた冷却水を導電率が所定値以下の冷却水と混合して前記燃料電池に供給することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記冷却水循環経路の一部は冷却水を加熱するための暖機用循環経路であり、前記分岐流路は冷却水を冷却するための冷却用循環経路であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記冷却水の温度を検出する温度検出部を備え、
前記制御部は、前記温度検出部により検出された冷却水の温度が所定値以上である場合、前記暖機用循環経路に導電率が所定値以上の冷却水を導入又は滞留させ、冷却水の温度が所定値以上でない場合には、前記冷却用循環経路に導電率が所定値以上の冷却水を導入又は滞留させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記導電率検出部により検出された導電率が所定値以下になるのに応じて、前記切替部を制御することにより、冷却水を導入又は滞留させている経路に流入する冷却水の流量を減少させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記冷却水を導入又は滞留させた後、前記切替部を制御することにより、前記燃料電池に供給される冷却水の導電率が所定値以上にならないように、冷却用循環経路及び暖機用循環経路に供給する冷却水の流量割合を制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、燃料電池の発熱量を推定するパラメータに従って冷却水の全体流量を算出し、冷却水の全体流量と前記流量割合に従って前記切替部の切替割合を制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池に供給される冷却水の導電率を検出する第2導電率検出部を備え、
前記制御部は、前記第2導電率検出部により検出された導電率と所定の閾値との偏差に従って、前記切替部の切替割合をフィードバック制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、冷却用循環経路に冷却水を導入又は滞留させた場合、燃料電池の耐熱温度、燃料電池入口側の冷却水温度、及び当該冷却水温度の上昇速度を用いて、燃料電池が耐熱温度に到達するまでの時間を耐熱温度到達時間として算出し、算出された耐熱温度到達時間に基づいて前記切替部の切替割合をフィードバック制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記冷却用循環経路に導入又は滞留された冷却水が全て前記切替部から流入する冷却水に置換されるまでの時間を全置換時間として算出し、算出された全置換時間が前記耐熱温度到達時間より長い場合、前記燃料電池の出力を制限することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のうち、いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記導電率検出部により検出される導電率が冷却液の循環開始時から所定時間の間所定値以下である場合には、前記制御を行わないことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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