説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の水素ポンプの駆動に伴う音を目立たなくすること。
【解決手段】制御部80により、回転数センサ73の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数または回転数センサ99の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を、水素ポンプ55の回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動し、水素ポンプ55の駆動に伴う音や振動を、コンプレッサ75またはモータ94の駆動に伴う音や振動でマスクする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の掃気に用いる補機類を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電する燃料電池としては、例えば、固体高分子型燃料電池がある。この固体高分子型燃料電池は、複数のセルを積層して構成されたスタックを備えている。スタックを構成するセルは、アノード(燃料極)とカソード(空気極)とを備えており、これらのアノードとカソードとの間には、イオン交換基としてスルフォンサン基を有する固体高分子電解質膜が介在している。
【0003】
アノードには燃料ガス(水素ガスまたは炭化水素を改質して水素リッチにした改質水素)を含む燃料ガスが供給され、カソードには酸化剤として酸素を含むガス(酸化剤ガス)、一例として、空気が供給される。アノードに燃料ガスが供給されることで、燃料ガスに含まれる水素がアノードを構成する触媒層の触媒と反応し、これによって水素イオンが発生する。発生した水素イオンは固体高分子電解質膜を通過して、カソードで酸素と電気反応を起こす。この電気化学反応によって発電が行われる構成となっている。
【0004】
ところで、固体高分子型燃料電池を動力源とする燃料電池システムにおいて、システムの運転を停止すると、燃料電池の温度が下がり、高温多湿の状態にあった燃料電池内部の水分が凝結して結露したり、凍結したりすることがある。このため、システムの運転を停止するに際して、燃料電池の反応ガス流路から水を排出するための掃気が行われている。
【0005】
例えば、掃気に用いる補機類として、コンプレッサと水素ポンプを用いる場合、排水に必要なエネルギーを最小限に抑制するために、外気温度に応じてコンプレッサと水素ポンプの回転数と処理時間を設定する。そして、設定した回転数でコンプレッサと水素ポンプを設定時間駆動し、コンプレッサの駆動に従った空気(酸化剤ガス)を燃料電池のカソードに供給するとともに、水素ポンプの駆動に従った水素ガス(燃料ガス)を燃料電池のアノードに供給し、燃料電池の反応ガス流路から水を排出することが行われている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−193102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術においては、外気温度に応じてコンプレッサと水素ポンプの回転数と処理時間を設定し、設定した回転数でコンプレッサと水素ポンプを設定時間駆動しているので、外気温度が低い程外気温度に応じてコンプレッサと水素ポンプの回転数と処理時間を設定し、設定した回転数でコンプレッサと水素ポンプを長時間駆動することで、燃料電池内の水を排出することができる。
【0008】
しかし、コンプレッサと水素ポンプの回転数は外気温度によって設定され、両者の関係については何ら配慮されていないので、水素ポンプの駆動に伴う音が騒音となることが危惧される。また、燃料電池システムを搭載した自動車においては、走行用のトラクションモータの駆動に伴う音との関係でも、水素ポンプの駆動に伴う音が騒音となることがある。
【0009】
例えば、燃料電池搭載車が走行している場合には、アノード極に蓄積している水分を除去するため水素ポンプを駆動する必要があるが、トラクションモータやコンプレッサの駆動音を超えて回転させると、耳障りになる可能性がある。また、システムの停止時に掃気処理をする場合、コンプレッサやトラクションモータが動作していない状態であることが多く、比較的静かな運転状態となるため、水素ポンプの駆動が走行時以上に目立つ傾向にある。
【0010】
そこで、本発明は、掃気用駆動装置の駆動に伴う音を目立たなくすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、掃気用駆動装置を駆動して、燃料電池の掃気を行う燃料電池システムにおいて、掃気時における該駆動装置の駆動量を該駆動装置とは異なる他の駆動装置の駆動量に応じて制限してなる燃料電池システムを構成したものである。
【0012】
係る構成によれば、掃気時における掃気用駆動装置の駆動量を、掃気用駆動装置とは異なる他の駆動装置の駆動量に応じて制限することで、掃気用駆動装置の駆動に伴う音が、他の駆動装置の駆動に伴う音にマスクされ、燃料電池の停止時における掃気用駆動装置の駆動に伴う音を目立たなくすることができる。
【0013】
ここで、「掃気用駆動装置」は、燃料電池の含水量を低減させるべく動作する装置を含む概念であるが、例えば、掃気用駆動装置を水素ポンプとし、前記掃気用駆動装置の駆動量を該水素ポンプの回転数とすることができる。但し、掃気用駆動装置を、燃料電池に酸化剤ガスを圧送するコンプレッサとし、コンプレッサの回転数を制御対象とすることもできる。また、「掃気用駆動装置の駆動量」は「掃気用駆動装置」の種類によって定まり、典型的には、モータ系の駆動装置における回転数を意味するが、これに限定されるものではない。
【0014】
また、「他の駆動装置」は、燃料電池システムを動作させるための装置を含む概念であるが、例えば、他の駆動装置を、前記燃料電池に酸化剤ガスを圧送するコンプレッサまたは前記燃料電池の負荷となるモータの少なくともいずれか一方とし、前記他の駆動装置の駆動量を該コンプレッサまたは該モータの回転数とすることもできる。なお、コンプレッサを「掃気用駆動装置」とした場合、「他の駆動装置」として、水素ポンプまたは/およびモータとすることもできる。また、「他の駆動装置の駆動量」は「他の駆動装置」の種類によって定まり、典型的には、モータ系の駆動装置における回転数を意味するが、これに限定されるものではない。
【0015】
燃料電池システムを構成するに際しては、以下の要素を付加することができる。
【0016】
好適には、前記他の駆動装置の駆動量を検出する駆動量検出手段と、 検出された前記他の駆動装置の駆動量を基に前記掃気用駆動装置の駆動量を制御する制御部とを備え、前記制御部は、検出された前記他の駆動装置の駆動量を基に掃気時における前記掃気用駆動装置の許容駆動量を決定し、決定した駆動量で前記掃気用駆動装置を制御する。
【0017】
係る構成によれば、掃気時に、制御部により、駆動量検出手段の検出出力を基に掃気用駆動装置の許容駆動量を決定し、決定した駆動量で掃気用駆動装置を駆動することで、掃気用駆動装置の駆動に伴う音が、他の駆動装置の駆動に伴う音にマスクされ、燃料電池の停止時における駆動装置の駆動に伴う音を目立たなくすることができる。
【0018】
好適には、前記掃気用駆動装置とは、水素ポンプであり、前記他の駆動装置とは、燃料電池に酸化剤ガスを圧送するコンプレッサおよび燃料電池の負荷となるモータであり、該コンプレッサの回転数を検出する第1の回転数センサと、該モータの回転数を検出する第2の回転数センサと、前記第1の回転数センサと前記第2の回転数センサの検出出力を基に前記水素ポンプの回転数を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数または前記第2の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を掃気時における前記水素ポンプの回転数に決定する。
【0019】
係る構成によれば、掃気時に、制御部により、第1の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数または第2の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を、水素ポンプの回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプを駆動することで、水素ポンプの駆動に伴う音が、コンプレッサまたはモータの駆動に伴う音にマスクされ、燃料電池の停止時における水素ポンプの駆動に伴う音を目立たなくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、掃気用駆動装置の駆動に伴う騒音・振動を目立たなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1は、燃料電池システムを搭載した自動車のシステム停止時に行う掃気処理において本発明を適用するものである。
【0022】
図1は、本発明の一実施例を示す燃料電池システムのシステム構成図である。
図1において、燃料電池システム10は、燃料電池20に冷却液を供給するための冷却液供給系統3と、燃料電池20に燃料ガス(水素ガス)を供給するための燃料ガス供給系統4と、燃料電池20に酸化ガス(空気)を供給するための酸化ガス供給系統7と燃料電池20の出力電力を負荷装置に供給するための電力系統9とを備えて構成されている。
【0023】
燃料電池20は、フッ素系樹脂などにより形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜などから成る高分子電解質膜21の両面にアノード極22とカソード極23をスクリーン印刷などで形成した膜・電極接合体24を多数積層した構造を備えている。膜・電極接合体24の両面は、燃料ガス、酸化ガス、冷却液の流路を有するセパレータ(図示せず)によってサンドイッチされ、このセパレータとアノード極22およびカソード極23との間に、それぞれ溝状のアノードガスチャンネル25およびカソードガスチャンネル26を形成している。アノード極22は、燃料極用触媒層を多孔質支持層上に設けて構成され、カソード極23は、空気極用触媒層を多孔質支持層上に設けて構成されている。これら電極の触媒層は、例えば、白金粒子を付着して構成されている。アノード極22では、次の(1)式の酸化反応が生じ、カソード極23では、次の(2)式の還元反応が生じる。燃料電池20全体としては、次の(3)式の起電反応が生じる。
【0024】
2→2H++2e-・・・(1)
【0025】
(1/2)O2+2H++2e-→H2O・・・(2)
【0026】
2+(1/2)O2→H2O・・・(3)
【0027】
なお、同図では説明の便宜上、膜・電極接合体24、アノードガスチャンネル25およびカソードガスチャンネル26からなる単位セルの構造を模式的に図示しているが、実際には、上述したセパレータを介して複数の単位セルが直列に接続したスタック構造を備えている。
【0028】
燃料電池システム10の冷却液供給系統3には、冷却液を循環させる冷却路31、燃料電池20から排水される冷却液の温度を検出する温度センサ32、冷却液の熱を外部に放熱するラジエータ(熱交換器)33、ラジエータ33へ流入する冷却液の水量を調整するバルブ34、冷却液を加圧して循環させる冷却液ポンプ35、燃料電池20に供給される冷却液の温度を検出する温度センサ36などが設けられている。
【0029】
燃料電池システム10の燃料ガス供給系統4には、燃料ガス供給装置42からの燃料ガス、例えば、水素ガスをアノードガスチャンネル25に供給するための燃料ガス流路40と、アノードガスチャンネル25から排気される燃料オフガスを燃料ガス流路40に循環させるための循環流路(循環経路)51が配管されており、これらのガス流路によって燃料ガス循環系統が構成されている。
【0030】
燃料ガス流路40には、燃料ガス供給装置42からの燃料ガス流出を制御する遮断弁(元弁)43、燃料ガスの圧力を検出する圧力センサ44、循環経路51の燃料ガス圧力を調整する調整弁45、燃料電池20への燃料ガス供給を制御する遮断弁46が設置されている。
【0031】
燃料ガス供給装置42は、例えば高圧水素タンク、水素吸蔵合金、改質器などより構成される。循環流路51には、燃料電池20から循環流路51への燃料オフガス供給を制御する遮断弁52、燃料オフガスに含まれる水分を除去する気液分離器53および排出弁54、アノードガスチャンネル25を通過する際に、圧力損失を受けた燃料オフガスを圧縮して適度なガス圧まで昇圧させて、燃料ガス流路40に還流させる水素ポンプ(循環ポンプ)55、燃料ガス流路40の燃料ガスが循環流路51側に逆流するのを防止する逆流阻止弁56が設置されている。水素ポンプ55をモータによって駆動することで、水素ポンプ55の駆動による燃料オフガスは、燃料ガス流路40で燃料ガス供給装置42から供給される燃料ガスと合流した後、燃料電池20に供給されて再利用される。なお、水素ポンプ55には、水素ポンプ55の回転数を検出する回転数センサ57が設置されている。
【0032】
また、循環流路51には、燃料電池20から排気された燃料オフガスを、希釈器(例えば水素濃度低減装置)64を介して車外に排気するための排気流路61が分岐して配管されている。排気流路61にはパージ弁63が設置されており、燃料オフガスの排気制御を行えるように構成されている。パージ弁63を開閉することで、燃料電池20内の循環を繰り返して、不純濃度が増加した燃料オフガスを外部に排出し、新規の燃料ガスを導入してセル電圧の低下を防止することができる。また、循環流路51の内圧に脈動を起こし、ガス流路に蓄積した水分を除去することもできる。
【0033】
一方、燃料電池システム10の酸化ガス供給系統7には、カソードガスチャンネル26に酸化ガス(酸化剤ガス)を供給するための酸化ガス流路71と、カソードガスチャンネル26から排気されるカソードオフガスを排気するためのカソードオフガス流路72が配管されている。酸化ガス流路71には、大気からエアを取り込むエアクリーナ74、および、取り込んだエアを圧縮し、圧縮したエアを酸化剤ガスとして、カソードガスチャンネル26に送給するエアコンプレッサ75が設定されており、エアコンプレッサ75には、エアコンプレッサ75の回転数を検出する回転数センサ73が設置されている。酸化ガス流路71とカソードオフガス流路72との間には湿度交換を行う加湿器76が設けられている。カソードオフガス流路72には、カソードオフガス流路72の排気圧力を調整する調圧弁77、カソードオフガス中の水分を除去する気液分離器78、カソードオフガスの排気音を吸収するマフラー79が設けられている。気液分離器78から排出されたカソードオフガスは分流され、一方は、希釈器62に流れ込み、希釈器62内に滞留する燃料オフガスと混合希釈され、また分流された他方のカソードオフガスは、マフラー79にて吸音され、希釈器62により混合希釈されたガスと混合されて、車外に排出される。
【0034】
また、燃料電池システム10の電力系統9には、一次側にバッテリ91の出力端子が接続され、二次側に燃料電池20の出力端子が接続されたDC−DCコンバータ90、二次電池として余剰電力を蓄電するバッテリ91、バッテリ91の充電状況を監視するバッテリコンピュータ92、燃料電池20の負荷または駆動対象となる車両走行用モータ94に交流電力を供給するインバータ93、燃料電池システム10の各種高圧補機96に交流電力を供給するインバータ95、燃料電池20の出力電圧を測定する電圧センサ97、および出力電流を測定する電流センサ98が接続されている。
【0035】
DC−DCコンバータ90は、燃料電池20の余剰電力または車両走行用モータ94への制動動作により発生する回生電力を電圧変換してバッテリ91に供給して充電させる。また、車両走行用モータ94の要求電力に対する、燃料電池20の発電電力の不足分を補填するため、DC−DCコンバータ90は、バッテリ91からの放電電力を電圧変換して二次側に出力する。
【0036】
インバータ93および95は、直流電流を三相交流電流に変換して、車両走行用モータ94および高圧補機96にそれぞれ出力する。車両走行用モータ94には、モータ94の回転数を検出する回転数センサ99が設置されている。モータ94は、ディファレンシャルを介して車輪100が機械的に結合されており、モータ94の回転力を車両の推進力に変換可能となっている。
【0037】
電圧センサ97および電流センサ98は、電力系統に重畳された交流信号に電圧に対する電流の位相と振幅とに基づいて交流インピーダンスを測定するためのものである。交流インピーダンスは、燃料電池20の含水量に対応している。
【0038】
さらに、燃料電池システム10には、燃料電池12の発電を制御するための制御部80が設置されている。
制御部80は、例えば、CPU(中央処理装置)、RAM、ROM、インターフェイス回路などを備えた汎用コンピュータで構成されており、温度センサ32、36、圧力センサ44、回転数センサ57、73からのセンサ信号や電圧センサ97、電流センサ98、イグニッションスイッチ82からの信号を取り込み、電池運転の状態、例えば、電力負荷に応じて各モータを駆動して、水素ポンプ55およびエアコンプレッサ75の回転数を調整し、さらに、各種の弁の開閉制御または弁開度の調整などを行うようになっている。
【0039】
特に、本実施形態において、制御部80は、燃料電池20の運転停止時に、掃気処理を行うに際して、掃気に用いる補機類として、水素ポンプ55、エアコンプレッサ75を選択し、水素ポンプ55、エアコンプレッサ75の回転数を制御するようになっている。
【0040】
すなわち、制御部80は、燃料電池20の水収支(上記式(1)〜(3)で示すような電気化学作用により生成される水分と掃気により除去される水分とのバランスを示す)の観点から、燃料電池20の含水量を判定するために、電圧センサ97および電流センサ98の計測値に基づいて電解質膜21のインピーダンスを演算する。そして演算されたインピーダンスを基に電解質膜21の含水量を推定し、この推定値(含水量)が燃料電池20の動作に支障のない範囲にあるか否かを判定し、推定による含水量が許容量の範囲内にあり、かつエアコンプレッサ75が動作状態にあることを条件に、掃気実行タイミングであるとして、掃気時における掃気用駆動装置、すなわち水素ポンプ55の回転数を他の駆動装置、例えば、エアコンプレッサ75の回転数に応じて制限するようになっている。
【0041】
具体的には、制御部80は、燃料電池20の運転停止時に、掃気処理を行うに際して、回転数センサ73の検出出力を基に、メモリに格納された情報を参照するために、図2に示すテーブルT1を検索し、回転数センサ73の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数を、掃気時における水素ポンプ55の回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動することとしている。
【0042】
(動作説明)
次に、システム停止時における掃気処理を図3のフローチャートに従って説明する。
まず、制御部80は、イグニッションスイッチ82がオフになったか否かを判定する(S1)。イグニッションスイッチ82がオフになったときには(YES)、電圧センサ97および電流センサ98の計測値を取り込み電解質膜21のインピーダンスを演算する(S2)。そして演算された電解質膜21のインピーダンスを基に電解質膜21の含水量を推定し、推定による含水量が許容量の範囲内か否かを判定する(S3)。
【0043】
推定による含水量が許容量の範囲から外れているときには(NO)、電解質膜21の含水量が少な過ぎるまたは多過ぎるとして、このルーチンの処理を終了する。一方、推定による含水量が許容量の範囲内にあるときには(YES)、電解質膜21の含水量が適切な状態にあるとして、制御部80は、エアコンプレッサ75が動作状態にあるか否かを判定する(S4)。そして、エアコンプレッサ75が動作状態にないときには(NO)、このルーチンでの処理を終了し、エアコンプレッサ75が動作状態にあるときには(YES)、掃気実行タイミングであるとして、燃料電池20の運転停止に伴う掃気処理を実行する。
【0044】
掃気処理として、制御部80は、まず、元弁43を閉じるとともに(S5)、回転数センサ57、73、99の検出出力を取り込む(S6)。まず、回転数センサ73の検出出力を基に、図2に示すテーブルT1を検索する(S7)。次いで、回転数センサ73の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数を抽出する(S8)。例えば、エアコンプレッサ75の回転数が2000rpmのときには、エアコンプレッサ75の回転数に対応した水素ポンプ許容回転数として、テーブルT1より2000rpmを抽出する。
【0045】
次に、制御部80は、抽出した水素ポンプ許容回転数を、掃気時における水素ポンプ55の回転数として決定し(S9)、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動し(S10)、このルーチンでの処理を終了する。上記数値例では、抽出した水素ポンプ許容回転数である2000rpmを、掃気時における水素ポンプ55の回転数として決定することになる。
【0046】
これにより、燃料電池20の運転停止に伴う掃気時には、エアコンプレッサ75が2000rpmで回転し、水素ポンプ55が2000rpmで回転し、エアコンプレッサ75の回転駆動に伴う酸化剤ガス(エア)が燃料電池20に圧送されるとともに、水素ポンプ55の駆動に伴う燃料ガス(水素ガス)が燃料電池20に送給され、燃料電池20内の水が燃料電池20の外部に排出される。この際、水素ポンプ55は、エアコンプレッサ75と同じ回転数で回転駆動されるため、水素ポンプ55の駆動に伴う音は、エアコンプレッサ75の駆動に伴う音にマスクされ、水素ポンプ55の駆動に伴う騒音や振動が目立たなくなり、ユーザに不快感を与えるのを防止できる。
【0047】
本実施形態によれば、掃気時に、制御部80により、回転数センサ73の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数を、水素ポンプ55の回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動するようにしたため、水素ポンプ55の駆動に伴う音が、コンプレッサ75の駆動に伴う音にマスクされ、燃料電池20の停止時における水素ポンプ55の駆動に伴う騒音や振動を目立たなくすることができる。
【0048】
また、回転数センサ73の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数に関する情報をテーブルT1に格納するに際しては、人間の耳において目立たない水素ポンプ55の回転数を実験で求め、実験による値をマップ形式でテーブルT1に記憶することができる。
【0049】
また、掃気時における水素ポンプ55の回転数を決定するに際しては、水素ポンプ55の許容回転数を演算によって求めることもできる。例えば、エアコンプレッサ75の回転数に対応する騒音レベルを演算し、この演算により得られた騒音レベルよりも小さい騒音レベルに対応した水素ポンプ55の回転数を演算により求め、この回転数を掃気時における水素ポンプ55の許容回転数に決定することができる。
【0050】
(実施形態2)
上記実施形態1では、システム停止時という前提から、水素ポンプの回転数をエアコンプレッサのみの回転数に応じて制御していたが、本実施形態2では、車両走行時における掃気処理に本発明を適用するものであって、エアコンプレッサおよび車両走行用モータの駆動に伴う音の影響が大きい方の回転数に応じて水素ポンプの回転数を制御する例に関する。
【0051】
本実施形態2における構成は、上記実施形態1とほぼ同様である。
但し、上記実施形態1では、制御部80は、システム停止時における掃気処理に本発明を適用していたため、水素ポンプ55の回転数をエアコンプレッサ75のみの回転数に応じて制御していたが、本実施形態2では、車両走行時の掃気処理に本発明を適用するため、水素ポンプ55の回転数を他の駆動装置、例えば、エアコンプレッサ75またはモータ94の回転数に応じて制限するようになっている。走行時に相対的に大きな駆動音を発生させる車両走行用モータ94の駆動状況も勘案する点で、上記実施形態1と異なっている。
【0052】
具体的には、制御部80は、車両走行時に、燃料電池20のアノード極22における水分量を演算し、アノード極22の水分量がしきい値を超えた場合に掃気処理が必要と判断する。そして、車両走行時における掃気処理として、アノード極22から排水するために水素ポンプ55を駆動する際に、回転数センサ(第1の回転数センサ)73の検出出力と回転数センサ(第2の回転数センサ)99の検出出力を基に、メモリに格納された情報を参照するために、実施形態1で用いた図2に示すテーブルT1と併せて、図4に示すテーブルT2を検索し、回転数センサ73の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数または回転数センサ99の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を、掃気時における水素ポンプ55の回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動することとしている。
【0053】
次に、本実施形態2における車両走行時における燃料電池システム10の掃気処理を図5および図6のフローチャートに従って説明する。
まず、制御部80は、燃料電池20のアノード極22の水分量を計算する(S20)。アノード極20の水分量推定には種々の方法を適用可能であるが、図6に示す演算手順はその一例である。
【0054】
図6において、制御部80は、掃気処理開始時において把握しているアノード極22における水分量の初期値を入力する(S21)。次いでステップ22に移行し、制御部80は、上記式(1)〜(3)によってカソード極23側で生成された生成水量、および、カソードガスの循環によってカソード極23から排水された水分量を求める。そして生成水量とカソード極23から持ち去られた水分量との差分を演算する。この差分はカソード極23に残留している水分量と推測される。アノード極22の水分量はカソード極23に残留している水分が電解質膜21を介してアノード極22に透過してくる水分量を推測できるので、制御部80は、カソード極23の残留水分量(=生成水量−カソード極23から持ち去られた水分量)に実験的に求めたカソード極23の水分透過率を乗じて、アノード極22の水分量を求める。
【0055】
ここで、アノード極22に残留している水分量は、カソード極23から透過してきた水分量から、水素ポンプ55の駆動によるカソードガスの循環によりアノード極22から直接蒸発した水分量を除いた量となる。そこで、ステップ23に移行し、制御部80は、アノード極22の水分量から水素ポンプ55の駆動により持ち去られた水分量を減算し、現時点におけるアノード極22の残留水分量を算出する。
【0056】
このアノード極22に残留している水分量が所定のしきい値を超える場合に過剰な水分が残留しているものとして、アノード極22のための掃気処理の必要性が生じる。そこで、ステップS24に移行し、制御部80は、ステップS20によって演算されたアノード極22の残留水分量が排水のための所定のしきい値を超えているか否かを判定する。その結果、アノード極22の残留水分量がしきい値以下であれば(NO)、掃気処理は不要と判断し、制御部80は、適当なインターバルをおいて、再びアノード極22の残留水分量の監視を継続する(ステップS20〜S24)。
【0057】
一方、ステップS24において、アノード極22の残留水分量がしきい値を超えていた場合(YES)、掃気処理が必要な状態と判断し、制御部80は、アノード極22の残留水分を水素ポンプ55の駆動により除去する処理に移行する。このとき、本発明を適用し、制御部80は、コンプレッサ75の回転数と車両走行用モータ94の回転数を考慮した上限の回転数で水素ポンプ55を駆動するように処理する。
【0058】
すなわち、ステップS25において、制御部80は、まず回転数センサ57、73、99の検出出力を取り込む。次いで、ステップS26に移行し、制御部80は、回転数センサ73および99の検出出力を基に、図2に示すテーブルT1と、図4に示すテーブルT2とを検索する。次いで、ステップS27に移行し、制御部80は、回転数センサ73の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数と回転数センサ99の検出出力に対応した水素ポンプ許容回転数を抽出する。例えば、エアコンプレッサ75の回転数が2000rpmのときには、エアコンプレッサ75の回転数に対応した水素ポンプ許容回転数として、テーブルT1より2000rpmを抽出し、モータ94の回転数が6000rpmのときには、モータ94の回転数に対応した水素ポンプ許容回転数として、テーブルT2より4000rpmを抽出する。
【0059】
次に、ステップS28に移行し、制御部80は、抽出した2つの水素ポンプ許容回転数を相互に比較し、2つの水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を、掃気時における水素ポンプ55の回転数として決定する。すなわち、騒音レベルの高い方の駆動装置の駆動量に応じて、制御対象となる掃気用駆動装置の駆動量を決定するのである。次いで、ステップS29に移行し、制御部80は、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動し、このルーチンでの処理を終了する。例えば、上記数値例では、抽出した2つの水素ポンプ許容回転数2000rpmと4000rpmのうち大きい方の水素ポンプ許容回転数である4000rpmを、掃気時における水素ポンプ55の回転数として決定することになる。
【0060】
これにより、車両走行中における掃気時には、エアコンプレッサ75が2000rpmで回転し、モータ94が4000rpmで回転し、水素ポンプ55が4000rpmで回転し、エアコンプレッサ75の回転駆動に伴う酸化剤ガス(エア)が燃料電池20に圧送されるとともに、水素ポンプ55の駆動に伴う燃料ガス(水素ガス)が燃料電池20に送給され、燃料電池20内のカソード極22の残留水が燃料電池20の外部に排出される。この際、水素ポンプ55は、車両走行用モータ94と同じ回転数で回転駆動されるため、水素ポンプ55の駆動に伴う音は、モータ94やエアコンプレッサ75の駆動に伴う音にマスクされ、水素ポンプ55の駆動に伴う騒音や振動が目立たなくなり、ユーザに不快感を与えるのを防止できる。
【0061】
本実施形態2によれば、車両走行時における掃気処理において、制御部80により、回転数センサ73の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数または回転数センサ99の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を、水素ポンプ55の回転数に決定し、決定した回転数で水素ポンプ55を駆動するようにしたため、水素ポンプ55の駆動に伴う音が、コンプレッサ75またはモータ94の駆動に伴う音にマスクされ、燃料電池20の停止時における水素ポンプ55の駆動に伴う騒音や振動を目立たなくすることができる。
【0062】
また、上記実施形態1と同様に、回転数センサ73の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数と回転数センサ99の検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数に関する情報をテーブルT1、T2に格納するに際しては、人間の耳において目立たない水素ポンプ55の回転数を実験で求め、実験による値をマップ形式でテーブルT1、T2に記憶することができる。
【0063】
また、掃気時における水素ポンプ55の回転数を決定するに際しては、水素ポンプ55の許容回転数を演算によって求めることもできる。例えば、エアコンプレッサ75やモータ94の回転数に対応する騒音レベルを演算し、この演算により得られた騒音レベルよりも小さい騒音レベルに対応した水素ポンプ55の回転数を演算により求め、この回転数を掃気時における水素ポンプ55の許容回転数に決定することができる。
【0064】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されることなく種々に変形して適用することが可能である。
例えば、上記実施形態では、騒音の抑制対象となる掃気用駆動装置を水素ポンプ55とし、この水素ポンプ55の駆動による騒音を他の駆動装置としてのエアコンプレッサ75または車両走行用モータ94のいずれかの駆動音に紛れさせていたが、騒音や振動の抑制対象を変更することが可能である。
【0065】
具体的には、エアコンプレッサ75を騒音の抑制対象となる掃気用駆動装置とし、水素ポンプ55または車両走行用モータ94のいずれか一方の駆動音に紛れさせるように構成することもできる。この場合、制御部80のエアコンプレッサ75の回転数決定用のテーブルは、水素ポンプ55の検出回転数に対するエアコンプレッサ75の許容回転数、車両走行用モータ94の回転数に対するエアコンプレッサ75の許容回転数を記憶させたものとなる。
【0066】
また、上記実施形態2では、水素ポンプ55の回転数を、エアコンプレッサ75または車両走行用モータ94のいずれか一方の回転数に応じて制御していたが、実施形態1にようにエアコンプレッサ75または車両走行用モータ94の一方のみの回転数に応じて制御してもよい。具体的には、車両走行用モータ94の駆動に伴う音が大きいという前提が成り立つなら、車両走行用モータ94の回転数のみに応じて水素ポンプ55の回転数を制御してもよい。
【0067】
さらに、上記実施形態では、回転数の制御対象となる掃気用駆動装置を一つ(水素ポンプ55)に限定していたが、掃気駆動装置を運転状態に応じて切り替えるように構成してもよい。例えば、水素ポンプ55もエアコンプレッサ75もともに燃料電池20の含水量低減に影響を与える掃気用駆動装置といえるので、運転状況に応じて駆動の必要性が相対的に低い方の駆動装置の回転数(駆動量)を駆動の必要性が相対的に高い方の駆動装置の回転数(駆動量)に基づいて制御するように構成することができる。
【0068】
具体的には、水素ポンプ55の駆動が必須の場合には、水素ポンプ55の回転数に応じて定まるエアコンプレッサ75の許容回転数を決定し、その許容回転数でエアコンプレッサ75を駆動させる。逆に、エアコンプレッサ75の駆動が必須の場合には、エアコンプレッサ75の回転数に応じて定まる水素ポンプ55の許容回転数を決定し、その許容回転数で水素ポンプ55を駆動させる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施例を示す燃料電池システムのシステム構成図である。
【図2】エアコンプレッサと水素ポンプ許容回転数との関係を示すテーブルの構成図である。
【図3】実施形態1における燃料電池システム停止時の掃気処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】モータと水素ポンプ許容回転数との関係を示すテーブルの構成図である。
【図5】実施形態2における車両走行時の掃気処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】車両走行時のカソード極残留水分量を演算する処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
10 燃料電池システム、20 燃料電池、55 水素ポンプ、57 回転数センサ、73 回転数センサ(第1の回転数センサ)、75 エアコンプレッサ、94 車両走行用モータ、80 制御部、82 イグニッションスイッチ、97 電圧センサ、98 電流センサ、99 回転数センサ(第2の回転数センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃気用駆動装置を駆動して、燃料電池の掃気を行う燃料電池システムにおいて、
掃気時における該駆動装置の駆動量を該掃気用駆動装置とは異なる他の駆動装置の駆動量に応じて制限してなることを燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記掃気用駆動装置とは、水素ポンプであり、前記掃気用駆動装置の駆動量とは、該水素ポンプの回転数である、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記他の駆動装置とは、前記燃料電池に酸化剤ガスを圧送するコンプレッサまたは前記燃料電池の負荷となるモータの少なくともいずれか一方であり、前記他の駆動装置の駆動量とは、該コンプレッサまたは該モータの回転数である、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記他の駆動装置の駆動量を検出する駆動量検出手段と、
検出された前記他の駆動装置の駆動量を基に前記掃気用駆動装置の駆動量を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、検出された前記他の駆動装置の駆動量を基に掃気時における前記掃気用駆動装置の許容駆動量を決定し、決定した駆動量で前記掃気用駆動装置を制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記掃気用駆動装置とは、水素ポンプであり、
前記他の駆動装置とは、燃料電池に酸化剤ガスを圧送するコンプレッサおよび燃料電池の負荷となるモータであり、
該コンプレッサの回転数を検出する第1の回転数センサと、
該モータの回転数を検出する第2の回転数センサと、
該第1の回転数センサと該第2の回転数センサの検出出力を基に該水素ポンプの回転数を制御する制御部とを備え、
該制御部は、該第1の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数または該第2の回転数センサの検出出力から定まる水素ポンプ許容回転数のうち大きい方の水素ポンプ許容回転数を掃気時における前記水素ポンプの回転数に決定することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−171770(P2008−171770A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6067(P2007−6067)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】