説明

燃料電池システム

【課題】この発明は、燃料電池内部における不純物の悪影響を抑えることができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【解決手段】複数の燃料電池セル10が積層されてなる燃料電池スタック2に、アノードガス供給マニホールド60を設ける。この燃料電池システムは、シャットバルブ58を閉じた状態で燃料電池スタック2に水素ガスを供給して発電を行う、デッドエンド運転を行うことができる。燃料電池セル10は、ガス拡散層14と多孔質体層16の間に、シール層30を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2005−243476号公報に開示されているように、燃料電池のアノードに供給された燃料ガスを燃料電池内に留めてシステムの運転を行う燃料電池システムが知られている(以下、このような運転方法を、「デッドエンド運転」とも称す)。
【0003】
上記従来の燃料電池システムでは、燃料電池の運転時間の経過と共に、窒素や水分といった発電反応に関与しない物質(以下、「不純物」とも称す)が燃料電池のアノードのガス流路内に蓄積されていく。これら不純物が膜電極接合体の表面を覆ってしまうと、電極触媒における起電反応が阻害されて電圧の低下を招いてしまう。また、発生した異常電位が、膜電極接合体が備える触媒を劣化させてしまうおそれもある。特に、燃料電池内において不純物の濃度が100%の領域(すなわち、水素ガスが0%の領域、水素欠乏領域)が生ずると、その領域の触媒劣化が危惧される。
【0004】
上記従来の技術では、システムに不純物貯留用タンク(バッファタンク)を備え付けることにより、燃料電池内の不純物をこのバッファタンクへと必要に応じて逃がすことができるようにしている。これにより、燃料電池の発電の際に、不純物が発電反応に悪影響を及ぼすことを防いでいる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−243476号公報
【特許文献2】特開2001−135326号公報
【特許文献3】特開2006−236597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術のバッファタンクを用いる手法のみでは、不純物が燃料電池に及ぼす悪影響の抑制効果を、期待している程度に十分に得られない場合も考えられる。本願発明者は、このような点に鑑み、燃料電池内部の不純物の悪影響を抑えることが可能な他の手法を見出した。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、燃料電池内部における不純物の悪影響を抑えることができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池システムであって、
膜電極接合体と、前記膜電極接合体のアノードに積層されたガス拡散層と、前記ガス拡散層に重ねて備えられたガス供給用部材とを備えた燃料電池セルと、
燃料タンクと接続してその内部に燃料ガスが流通し、前記ガス供給用部材と接続して前記燃料電池セルのアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給通路と、
前記燃料電池セルのアノードの下流が閉鎖された状態で該燃料電池セルの発電を行うデッドエンド運転状態を、少なくとも一部の運転領域において実現することができるデッドエンド運転手段と、
を備えており、
前記ガス供給用部材が、
前記ガス拡散層の端面側の位置に設けられ前記燃料ガス供給通路と接続するガス入口と、
前記ガス入口に接続し、前記ガス拡散層と隔てられながら該ガス拡散層の面内の中央側に延びて、前記ガス入口に流入した燃料ガスを該ガス拡散層の面内の中央側へと導くガス誘導路と、
前記ガス誘導路と接続し該ガス誘導路を流れてきた燃料ガスを前記ガス拡散層へと供給することができるガス供給口と、
を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記ガス供給用部材は、
前記ガス拡散層に積層される多孔質体層と、
前記多孔質体層に重ねられ、前記ガス拡散層の端面側の位置において前記燃料ガス供給通路に接続するガス流入口と、該ガス流入口に流入した燃料ガスを該多孔質体層へと吐出するガス吐出口と、を備えた集電板と、
前記ガス拡散層と前記多孔質体層の界面に備えられ、前記ガス吐出口付近の位置から該界面の中央側へと延在するシール層と、
を含む構成であり、
前記多孔質体層のうち前記シール層によって前記ガス拡散層から隔てられた第1部位が、前記ガス誘導路として燃料ガスを該ガス拡散層の面内の中央側へと導き、
前記多孔質体層のうち前記シール層によるシールを受けずに前記ガス拡散層と接続している第2部位が、前記ガス供給口として燃料ガスを該ガス拡散層に供給することを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記シール層は、前記ガス拡散層と前記多孔質体層の界面に挿入された、導電性を有する板であることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、
前記多孔質体層は、ラスメタルで形成された層であることを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第1乃至4のいずれかの発明において、
前記膜電極接合体の前記ガス拡散層側の電極触媒層は、
該電極触媒層の面内の中央の領域に設けられた、触媒を含む第1領域と、
該電極触媒層の前記面内に前記第1領域を囲うように位置する、触媒を実質的に含まずに設けられた第2領域と、
を有することを特徴とする。
【0013】
また、第6の発明は、第1乃至5のいずれかの発明において、
システムの始動時に、前記デッドエンド運転状態を実現した状態で前記燃料電池セルへの燃料ガスの供給を行う始動制御手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、燃料ガスを、ガス誘導路によって燃料電池セル面内の中央側へと運び、その後ガス拡散層へと供給することができる。これにより、ガス拡散層の面内の中央寄りの位置へと燃料ガスを供給することができ、燃料ガスが存在する領域をセル面内において広範囲に確保することができる。燃料ガスが微小量(例えば濃度が数%程度)でも存在していれば、その領域では不純物の悪影響(例えば触媒劣化等の弊害)を免れることができる。第1の発明によれば、システムがデッドエンド運転状態に置かれて燃料電池セル内部に不純物が蓄積した状態で発電が行われたとしても、燃料ガスが存在する領域をセル面内において広範囲に確保して、不純物による悪影響を抑制することができる。
【0015】
第2の発明によれば、シール層を用いた簡便な構成により、不純物による悪影響を抑制することができる。
【0016】
第3の発明によれば、導電性の板材をシール層として用いることにより、シール層を高精度かつ簡易に製造でき、多孔質体層のガスの移動とシール層によるシールを両立することができる。
【0017】
第4の発明によれば、多孔質体層をラスメタルで形成することにより、製造バラツキを小さく抑えることができる。
【0018】
第5の発明によれば、燃料電池セルの端部側のスペースに非触媒含有領域としての第2領域を積極的に設け、このスペースを高濃度不純物領域の許容領域として有効活用することができる。
【0019】
第6の発明によれば、発電時の燃料電池セル内の不純物による悪影響を抑え、かつ、水素ガスを外部に排出するおそれなく発電を開始することができるという、優れたシステム始動制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
(システム構成)
図1は、本発明にかかる実施の形態1の燃料電池システムの構成を説明するための図である。実施の形態1のシステムは、燃料電池スタック2を備えている。燃料電池スタック2は、複数の燃料電池セル10が重ねられたものである。
【0021】
個々の燃料電池セル10は、アノードとカソードに、それぞれ、ガス入口とガス出口を有している。図1では図示しないが、燃料電池スタック2には、個々の燃料電池セル10のアノードのガス入口と接続するアノードガス供給マニホールドと、個々の燃料電池セル10のアノードのガス出口と接続するアノードガス排出マニホールドとが備えられている。アノードガス供給マニホールドとアノードガス排出マニホールドは、それぞれ、燃料電池セル10の積層方向に伸びながら、個々の燃料電池セル10と接続している。
【0022】
実施の形態1のシステムは、燃料電池スタック2のアノードガス供給マニホールドと接続するガス供給用配管52を備えている。ガス供給用配管52は、高圧の水素ガスが貯留された燃料タンク50に接続している。ガス供給用配管52には、バルブ54が備えられている。バルブ54の開度を変えることにより、燃料電池スタック2への水素ガスの供給量(あるいは供給圧)を変化させることができる。
【0023】
実施の形態1のシステムは、燃料電池スタック2のアノードガス排出マニホールドと接続するガス排出用配管56を備えている。ガス排出用配管56には、シャットバルブ58が備えられている。シャットバルブ58を開くことにより、燃料電池スタック2内のガスを、図示しない排気系へと排出することができる。
【0024】
なお、図示しないが、実施の形態1のシステムは、個々の燃料電池セル10のカソードと接続するカソードガス供給マニホールドおよびカソードガス排出マニホールドも備えている。これらのカソード側のマニホールドは、図示しないカソード系と接続する。カソード系は、コンプレッサ等を含んで構成され、外気から取り込んだ空気を、カソードガス供給マニホールドを介して個々の燃料電池セル10のカソードへと供給する。
【0025】
実施の形態1のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40は、バルブ54およびシャットバルブ58に接続し、実行されるルーチンの要求に従ってそれらのバルブを制御する。シャットバルブ58を閉じた状態で燃料電池スタック2の発電を行うことにより、燃料電池セル10のアノードの下流を閉鎖して、アノードからガスを排気することなく燃料電池セル10の発電を行う運転状態(以下、「デッドエンド運転状態」とも称す)を実現することができる。
【0026】
(セルの構成)
以下、図2および図3を用いて、実施の形態1の燃料電池セル10の構成について説明する。図2は実施の形態1の燃料電池セル10の構成を示す平面図である。図2は、燃料電池セル10の構造をアノード側から透視した図であり、すなわち燃料電池セル10のアノードの積層構造を示している。また、図3は図2におけるA−A線に沿って切断した燃料電池セル10の断面図である(但し、図3では、アノード側の積層構造のみを示し、カソード側の構造については図示を省略している)。
【0027】
燃料電池セル10は、電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体12を内蔵している。膜電極接合体12は、扁平な矩形形状の外形を有している。膜電極接合体12の両面には更にガス拡散層および多孔質体層が積層され、1個の積層構造体が構成される。このような積層構造体が、集電板としても機能する一対のセパレータによって挟み込まれることにより、1枚の燃料電池セル10が得られる。
【0028】
既述した燃料電池スタック2は、膜電極接合体、ガス拡散層および多孔質体層が積層された積層構造体が、セパレータを介在させながら、複数枚重ね合わされて構成されたものである。この場合、ある積層構造体に接するセパレータは、隣接する他の積層構造体にも接し、これら2枚の積層構造体の間を仕切る役割を果たす。燃料電池スタック2のなかで、1組のセパレータにより1つの上記積層構造体が挟持された構造が、発電の基本単位となる構造、すなわち1つの燃料電池セル10に相当することになる。なお、燃料電池セルは、単位燃料電池あるいは単セルなどとも称される。
【0029】
燃料電池セル10では、図2の紙面裏面側から、膜電極接合体12(図示せず)、ガス拡散層14、多孔質体層16が順次重ねられて位置している。また、図2では図示していないが、多孔質体層16よりも紙面の表面側には、セパレータ20がさらに取り付けられる。また、図示しないが、膜電極接合体12よりも紙面裏面側には、カソードの構造が形成されている。
【0030】
燃料電池セル10は、ガス拡散層14と多孔質体層16との界面に挿入されたシール層30を備えている。シール層30は多孔質体層16よりも紙面の奥側に位置するため、本来は図2の紙面表面側からは目視できないはずである。しかし、図2では、説明の便宜上、多孔質体層16を部分的に透視してシール層30が見えるように図示している。
【0031】
図2に示すように、シール層30は、開口22の付近の位置から、セル面内の中央に向かって延在している。図2のように、シール層30は、多孔質体層16の面内の概ね紙面上方半分の領域に、発電部Eを覆いながら連続的に形成されている。また、図2にあるように、燃料電池セル10面内に見たシール層30の形状パターンは、燃料電池セル10の長辺及び短辺に沿う方向に長辺及び短辺を有する矩形形状となっている。そして、シール層30は、開口22の位置からシール層30の先端までの距離が画一的にLとなるように、形成されている。
【0032】
本実施形態では、燃料電池セル10が、ガス流入口21と、セルの紙面上方の端部側に位置してガス流入口21と接続する開口22とを備えている。また、セルの紙面下方の端部側に位置する開口24も備えている。ガス流入口21、開口22および開口24は、それぞれ、図示しないセパレータ20に設けられている。図2に示すように、実施の形態1では、開口22および開口24を、燃料電池セル10の長辺に沿って伸びる細長いスリット状の形にしている。これにより、燃料電池セル10の内部で、その短辺に沿って(図1の紙面の上下方向に)水素ガスを流通させることができる。
【0033】
図2には、説明の便宜上、アノードガス供給マニホールド60を破線で仮想的に示している。ガス流入口21はアノードガス供給マニホールド60と接続し、アノードガス供給マニホールド60から水素ガスの供給を受ける。ガス流入口21に流れ込んだ水素ガスは、開口22に至った後、多孔質体層16へと流入する。
【0034】
実施の形態1では、以下述べるように、燃料電池セル10内の個々の層を異なる寸法に形成している。具体的には、実施の形態1では、図2に示すように、ガス拡散層14の寸法L、Wに比べて多孔質体層16の寸法L、Wは小さくされており、多孔質体層16がガス拡散層14に対して一回り小さく形成されている。このような層ごとの寸法の相違は、燃料電池セル10の端部を囲うようにシール枠部材を取り付ける都合などから、要請されるものである。なお、実施の形態1の燃料電池セル10では、多孔質体層16の寸法Lは、開口22と開口24との間の距離とほぼ同じである。
【0035】
シール層30は、燃料電池セル10の長辺方向の寸法が多孔質体層16と同じくWとされ、燃料電池セル10の短辺方向の寸法がLとされている。なお、実施の形態1では、一例として、Lを、Lの34%程度の長さ(つまり、Lの値に0.34を乗じて得た値)にしている。
【0036】
なお、実施の形態1では、開口22の直近の位置からシール層30が延びている。このため、実施の形態1では、シール層30の寸法Lは、開口22からガス拡散層14に水素ガスが流入した位置から、この水素ガスがシール層30のシールを受けなくなってガス拡散層14へと流入し始める位置までの距離(言い換えれば、水素ガスが誘導される距離)にも相当している。
【0037】
また、図2における距離Zは、ガス拡散層14の開口22側の端面からシール層30の先端までの距離である。実施の形態1では、図に示すように、燃料電池セル10の中央付近にシール層30の端部が延びる程度に、距離Zが大きくされている。
【0038】
実施の形態1では、膜電極接合体12のアノードの電極触媒層には、触媒が含まれている第1の領域(図中の領域E)と、第1の領域を囲うように位置し、触媒が実質的に含まれていない第2の領域とが存在している。図2の領域Eは、燃料電池セル10面内において多孔質体層16よりも一回り小さく区画された領域であり、水素ガスの触媒反応が生ずる領域である(以下、この領域Eを「発電部E」とも称し、第2の領域を「非発電部」とも称す)。なお、「触媒が実質的に含まれていない」場合とは、例えば、触媒含有量が零である場合のみならず、触媒を含んでいたとしても、その含有量が、第2の領域の発電反応が第1の領域と比較して実質的に無視できる程小さいような量である場合も含む。
【0039】
図3は、図2のA−A線に沿って燃料電池セル10を切断した場合の断面図である。図3には、燃料電池セル10のアノード側の積層構造が図示されている。上述の図2の説明でも述べたように、膜電極接合体12に、ガス拡散層14、多孔質体層16、およびセパレータ20が順次重ねられている。
【0040】
シール層30は、ガス拡散層14と多孔質体層16の間に設けられている。実施の形態1では、多孔質体層16を、金属微粒子(例えばチタン)を焼結した焼結多孔体を用いて形成する。また、シール層30は、多孔質体層16にシール材を含浸させることにより形成する。また、実施の形態1ではシール材として金属ペースト材料を用いて、シール層30が導電性を有する構成とする。これにより、シール層30形成部位においても電流の流れが阻害されないという利点がある。実施の形態1では、多孔質体層16の厚さをDとし、シール層30の厚さをDとした場合に、DはDの三分の一程度にする。
【0041】
なお、実施の形態1では、燃料電池セル10のカソード側の構成の説明は省略したが、例えば、膜電極接合体12を介してアノード側の構成と対称の構造であってシール層30を設けない構造とすることができる。
【0042】
[実施の形態1の動作]
実施の形態1は、シャットバルブ58を閉じた状態で燃料電池スタック2へと水素ガスを供給しながら発電を行うデッドエンド運転を行うことができる。デッドエンド運転の状態においては、システムの運転時間の経過と共に、窒素や水分といった発電反応に関与しない物質(以下、「不純物」とも称す)が燃料電池セル10のアノード側に蓄積されていく。
【0043】
この不純物は、燃料電池セル10のカソード側から、膜電極接合体12を透過してアノード側に侵入してきた、窒素、水蒸気、二酸化炭素等の発電に供されない物質である。空気には、窒素以外にも、水蒸気や二酸化炭素等の発電に供されない不純物が含まれている。しかし、それらの空気中における濃度は窒素に比較すれば極微小であるので、ここでは不純物として窒素にのみ着目するものとする。ただし、本発明が想定する不純物から窒素以外の物質を除外することを意味するものではない。
【0044】
(セル内のガス流れ)
上記説明した燃料電池セル10によれば、先ず、アノードガス供給マニホールド60からガス流入口21へと流入した水素ガスが、開口22から多孔質体層16へと流れ込む。シール層30が多孔質体層16とガス拡散層14の間のガスの授受を遮断しているので、開口22から流れ込んだ水素ガスは、多孔質体層16を面内の中央側に向かって(図2、図3においてともに紙面下方側に向かって)流れていく。
【0045】
多孔質体層16の中央側に流れた水素ガスは、シール層30の寸法Lの距離を流れた後、多孔質体層16のうちシール層30が設けられていない領域に到達する。ここでは、シール層30によるシールが行われていないので、水素ガスが多孔質体層16からガス拡散層14へと進行する。この水素ガスは、拡散により、ガス拡散層14内をその面方向に沿って広がり、シール層30の裏側も含めてガス拡散層14内に行き渡る。ガス拡散層14内の水素ガスは、膜電極接合体12のアノードの電極触媒層へと到達し、発電反応に寄与することになる。
【0046】
実施の形態1によれば、水素ガスを、多孔質体層16のうちシール層30によりシールされた部位を流して燃料電池セル10面内の中央側へと運ぶことができる。そして、セル面内の中央側へと導かれた水素ガスを、多孔質体層16のうちシール層30が設けられていない領域においてガス拡散層14へと供給することができる。その結果、水素ガスを、ガス拡散層14の面内の中央寄りの位置から供給することができる。このような手法により、燃料電池セル内に不純物が蓄積された状況下において、水素が存在する領域をセル面内に広範囲に確保することが可能になる。
【0047】
水素ガスが領域内に微小量(例えば濃度が数%程度)でも存在していれば、その領域では不純物の悪影響(例えば触媒劣化等の弊害)を免れることができる。従って、実施の形態1によれば、システムがデッドエンド運転状態に置かれて燃料電池セル10内部に不純物が蓄積した状態で発電が行われたとしても、不純物による悪影響を抑制することができる。
【0048】
また、実施の形態1によれば、シール層30により、開口22側の非発電部が覆われている。非発電部においては発電反応が生じないので、ガス拡散層14のうち非発電部に接する部位については、水素を優先的に供給する必要はないと考えることができる。この点、シール層30がガス拡散層14の非発電部側の部位を覆うことで、水素を必要とする発電部E側の部位へと優先的に水素を届けることができる。
【0049】
そして、実施の形態1によれば、シール構造の追加という非常に簡便で低コストな方法により、上述の効果を得ることができる。更に、シール層の形状(パターン)を複雑にする必要もなく、特に量産時に著しい効果が期待できる。
【0050】
また、実施の形態1では、アノードガス供給マニホールド60が、燃料電池セル10の積層方向に延びながら、個々の燃料電池セル10の端部側にあるガス流入口21と接続されている。実施の形態1にかかる個々の燃料電池セル10にシール層30を挿入する手法を用いれば、個々のセルのサイズを薄く保つこともできるので、燃料電池スタック2の大型化を避けられる。これは、燃料電池セルを数百枚単位で積層して燃料電池スタックを構成するような場合には極めて有利である。このように実施の形態1は、例えば車両搭載用など、スペースに制限のある燃料電池システムにおいて極めて効果的である。
【0051】
(システム始動時の動作)
本発明の実施の形態1では、システムの始動時にシャットバルブ58を閉じた状態で、バルブ54を開いて燃料電池スタック2に水素ガスを供給して発電を開始する。
【0052】
デッドエンド運転を行う燃料電池システムにおいては、始動時に燃料電池セル10のアノード内が空気等の非活性ガス(つまり発電に寄与しない不純物ガス)で満たされている場合、この非活性ガスが、セル内部に水素ガスが行き渡ることを妨げるという問題がある。
【0053】
従来技術としてアノード側を一旦パージしてから水素ガスの供給を始めるという手法も考えられているが、このような手法では、例えば前回の運転終了時に残存した水素ガスがパージガスに混ざって排出されてしまうなど、水素ガスの系外への放出のおそれがある。このような背景から、デッドエンド運転を行う燃料電池システムの始動時に、アノードの排気を行わずにシステムを起動する方法の確立が望まれている。しかしながら、そのような要求に対して、未だ十分な解決策が見出されているとはいえなかった。
【0054】
この点、本実施の形態1では、前述した燃料電池セル10の効果を活用することにより、発電時に燃料電池セル内の不純物による悪影響を抑えながら、かつ、水素ガスを外部に排出するおそれなく発電を開始することができる。
【0055】
[実施の形態1に関するシミュレーション結果]
ここで、図4乃至7を用いて、本願発明者が行ったシミュレーション結果を示しながら、実施の形態1の作用効果について実証する。図4は、実施の形態1に対応する構成として用意した、シール層を具備した燃料電池セル110について示す図である。また、図6は、比較例として示す、燃料電池セル110からシール層を取り除いた比較用燃料電池セル210について示す図である。
【0056】
図4(a)と図5(a)は、燃料電池セル110と比較用燃料電池セル210それぞれの平面図である。図4(b)と図5(b)は、図4(a)と図5(a)のそれぞれにおけるC−C線に沿う、燃料電池セル110と比較用燃料電池セル210のそれぞれの断面図である。上述した実施の形態1の場合と同様に、便宜上シール層を視認できるように図示し、カソード側の構成については図示を省略している。
【0057】
燃料電池セル110および比較用燃料電池セル210は、燃料電池セル10がガス拡散層14、多孔質体層16、セパレータ20、ガス流入口21、開口22、24およびシール層30を備えるのと同様に、ガス拡散層114、多孔質体層116、セパレータ120、ガス流入口121、開口122、124を備えている。但し、実施の形態1のシール層30に対応するシール層130は、燃料電池セル110のみが備えている。
【0058】
本願発明者は、このような2種類の構成に対して、各セルのアノードに所定の圧力で窒素ガスが充填されている状態からガス流入口121に水素ガスを流入させた場合について、各セル面内でのガスの分布状態のシミュレーションを行った。つまり、上述した実施の形態1のシステムの始動時の様子に対応した環境を、シミュレーションにより検討した。なお、燃料電池セル110および比較用燃料電池セル210について、水素ガスや窒素ガスの圧力などの、シミュレーション上の条件は同じである。
【0059】
図5は、燃料電池セル110についての結果を、図7は、比較用燃料電池セル210についての結果を、それぞれ示している。図5のガス分布は、燃料電池セル110において、多孔質体層116の面内のガス分布とガス拡散層114の面内のガス分布とを重ね合わせた結果である。本シミュレーションによれば、燃料電池セル110内で、多孔質体層116のガス分布とガス拡散層114のガス分布が、それぞれ図5の分布と同様の分布を示すことが確認されている。図7についても、比較用燃料電池セル210に関して、同様の条件下での結果を示している。
【0060】
図5および図7において、領域S1は水素ガス濃度がセル面内で最も高い領域を、領域S2は水素と窒素の混在領域のうち相対的に水素ガス濃度が高い領域を、領域S3は水素と窒素の混在領域のうちS2に比して水素ガス濃度が低い領域を、領域S4は窒素ガス濃度がセル面内で最も高い領域を、それぞれ示している。水素濃度は領域S1→S2→S3→S4の順に低くなっていき、窒素濃度は領域S1→S2→S3→S4の順に高くなっていく。
【0061】
図5と図7を比較すると、シール層130を備える燃料電池セル110では、セル面内の中央を横断する形で領域S1が広く分布し、この領域S1から領域S2、S3が図5の紙面上下方向に分布している。このように、図5のシミュレーション結果によれば、燃料電池セル110内部で水素ガスがバランスよく分布していることが把握できる。一方、図7では、先ず領域S1がセル面内の紙面左側に偏っており、領域S2、S3の分布もセル面内において偏在している。そして、図7の紙面右下側に、領域S4が大きく広がっており、窒素ガスの局所的な滞留が広範囲に起きている。これらの結果を比較した場合、比較例燃料電池セル210のほうが面内のガスの濃度分布のバランスが相対的に悪く、窒素100%領域(つまり水素欠乏領域)の発生によるセル内の異常電位、ひいては触媒劣化のおそれが相対的に大きいと考えられる。この比較により、シール層130を備えることによる改善効果が把握できる。
【0062】
また、図7に示すように、シール層を備えない比較用燃料電池セル210では、発電部Eの一部(図中紙面右下側の楕円Pで囲った部分)が領域S4で覆われている。既述したように、発電部Eは、電極触媒層中で触媒が含まれている領域である。よって、発電部E内に高濃度窒素領域である領域S4が存在することは好ましくない。これに対し、図5に示すように、シール層130を備えた燃料電池セル110では、発電部Eの内側及びその周囲が領域S1、S2、S3で占められている。このように、シール層130を備えることにより、水素ガス濃度が良好な領域を燃料電池セルの面内の中央領域に広範囲に確保し、少なくとも発電部Eに水素ガスが存在することを確保できる。
【0063】
以上述べたように、本願発明者が行ったシミュレーション結果に基づく燃料電池セル110と比較用燃料電池セル210の比較結果により、シール層130を備えることが不純物の悪影響を抑制するという観点で有効であることが実証されている。このような燃料電池セル110の優位性が、そのまま、燃料電池セル10に備えられている。
【0064】
また、実施の形態1では、アノードの電極触媒層に、発電部Eと非発電部とを設けることとしている。実施の形態1でも行われているように、燃料電池セルの端部側にシール枠部材を取り付ける都合上、個々の層が、面方向に見た寸法を相違させられながら(より具体的には、ガス拡散層に比して多孔質体層を小さく)形成されることがある。この場合、シール枠部材の取り付け精度など製造面の都合を総合的に考慮すると、燃料電池セルの端部側は避けて、セル面内の中央側に一回り小さく発電部Eを設けることが好ましい。このとき、発電反応の有無という観点からは、燃料電池セルの端部側の非発電部は、デッドスペースになっていると考えられる。
【0065】
実施の形態1の燃料電池によれば、このような燃料電池セルの端部側の空間に高濃度不純物領域が位置するように、水素ガスを供給することができる。実施の形態1のシミュレーション結果でも述べたように、セル面内の中央側が水素ガスの上流側となりセル面内の端部側が下流側となって、非発電部に高濃度不純物領域が位置するように、燃料電池セル内のガス濃度分布が広がりやすくなる。これにより、実施の形態1によれば、シール枠部材取付の都合等を考慮する観点から非発電部を設ける手法と、水素ガスをセル面内の中央部寄りに導く手法とを組み合わせることにより、燃料電池セル内のスペースを有効活用できるという相乗的な効果が生まている。
【0066】
なお、ここで、実施の形態1の作用効果について、本願発明者が分析、考察した結果得た知見を述べる。図4(b)に示した燃料電池セル110の断面図には、水素ガスの進行の様子を示す矢印が描かれている。ここで、実線矢印Q1は、燃料電池セル110内において、開口122からの水素ガスが多孔質体層16内を移動していく様子(水素の「移流」の様子)を表している。また、破線矢印Q2は、ガス拡散層114のシール層130下層側へと水素ガスが潜りこんで、拡散していく流れを表している。水素の移流は主に水素ガスの圧力により水素が運ばれる現象であり、拡散はガス拡散層114内の濃度勾配が駆動力となる現象である。
【0067】
燃料電池セル110の構造によれば、燃料電池セル110内における水素ガス流れの下流側の部位(開口124近傍)に、移流により水素が供給され、ガス拡散層114のシール層130によりシールされた部位(開口122側部位)には拡散により水素が供給される。実施の形態1によれば、このように、移流と拡散とを両立させて(効果的に使い分けて)セル面内に水素ガスを供給でき、窒素100%領域つまり水素欠乏領域の発生を抑えることができる。実施の形態1の燃料電池セル10は、以上述べたような燃料電池セル110の効果を具備している。
【0068】
尚、上述した実施の形態1では、燃料電池セル10が前記第1の発明における「燃料電池セル」に、膜電極接合体12が、前記第1の発明における「膜電極接合体」に、ガス拡散層14が前記第1の発明における「ガス拡散層」に、多孔質体層16、セパレータ20およびシール層30が、前記第1の発明における「ガス供給用部材」に、それぞれ相当している。
【0069】
また、実施の形態1では、アノードガス供給マニホールド60が前記第1の発明における「燃料ガス供給通路」に相当し、ECU40がシャットバルブ58を閉じた状態でシステムの運転を行うことにより、前記第1の発明における「デッドエンド運転手段」が実現される。
【0070】
また、上述した実施の形態1では、セパレータ20が備えるガス流入口21が、前記第1の発明における「ガス入口」および前記第2の発明における「ガス流入口」に、多孔質体層16のうちシール層30によってガス拡散層14から隔てられた部位が、前記第1の発明における「ガス誘導路」に、多孔質体層16のうちシール層30が設けられておらずガス拡散層14と接している部位が、前記第1の発明における「ガス供給口」に、それぞれ相当している。
【0071】
また、上述した実施の形態1によれば、多孔質体層16が、前記第2の発明における「多孔質体層」に、ガス流入口21が、前記第2の発明における「ガス流入口」に、セパレータ20が、前記第2の発明における「集電板」に、開口22が、前記第2の発明における「ガス吐出口」に、シール層30が、前記第2の発明における「シール層」に、それぞれ相当している。そして、多孔質体層16のうちシール層30によってガス拡散層14から隔てられた部位が、前記第2の発明における「第1部位」に、多孔質体層16のうちシール層30が設けられておらずガス拡散層14とガスを授受できる部位が、前記第2の発明における「第2部位」に、それぞれ相当している。
【0072】
また、上述した実施の形態1によれば、膜電極接合体12のアノードの電極触媒層のうち、発電部Eが、前記第5の発明における「第1領域」に、非発電部が、前記5の発明における「第2領域」に、それぞれ相当している。また、システムの始動時にECU40がシャットバルブ58を閉じたままシステムの起動を行うことにより、前記第6の発明における「始動制御手段」が実現されている。
【0073】
なお、実施の形態1のシステムの利点として、例えば、以下のような項目を見出すことが出来る。
【0074】
燃料電池内部における不純物の悪影響を抑える手法としては、他には、例えば、特許文献1にも開示されているようなバッファタンクを用いる手法が考えられている。しかしながら、例えばシステム起動時に不純物ガスを全てバッファタンクに移すことを考えた場合、燃料電池スタック2内におけるアノード側のガス流路総容積(個々の燃料電池セル10のアノードの容積や、スタック内のアノード側のマニホールドの容積などの総和)と同等の容積のタンクを準備する必要がある。車載用の燃料電池システムなどの場合においては、必要なバッファタンク容積が約10リットル程度まで大きくなることも考えられる。システムの搭載スペースに限りがあるような場合は、バッファタンクに全面的に頼ることは現実的に難しい。
【0075】
この点、実施の形態1によれば、燃料電池セルの内部の構造の工夫により燃料電池内部における不純物の悪影響を抑えることができる。よって、バッファタンクを用いないシステム構成も実現できるし、あるいは、バッファタンクを併用する場合にも小型のタンクで足りるなど、システム全体の小型化を実現することができる。
【0076】
また、燃料電池内部における不純物の悪影響を抑える手法としては、上記のバッファタンクとは別に、水素ガスによる不純物ガスの圧縮手法がある。この手法は、システムの始動時にアノード下流のバルブ(実施の形態1のシステムではシャットバルブ58)を閉じた状態で水素ガスを供給し、水素ガスの圧力によって燃料電池スタック内の窒素の体積を圧縮するという手法である。不純ガスを、燃料電池システムの中の燃料電池セル内(より厳密には、セル内の発電に関与する部分、すなわち発電部)よりも下流側の空間(具体的には、例えば、アノードガス排出マニホールド内や、その下流に接続した配管の内部)に圧縮することができれば、個々の燃料電池セルの発電部に水素ガスを存在させることができ、水素欠乏による悪影響を回避できる。
【0077】
しかし、このように、不純物ガスを下流側の空間内に完全に圧縮するには、供給する水素ガスの圧力を相応に高めなければならない。燃料電池セル内では、膜電極接合体の耐久性を考慮すると、アノードとカソードとの間でつけられる差圧の大きさは限られてくる。従って、このような圧縮手法によってもなお、デッドエンド運転を行う燃料電池システムの起動方法としては十分ではない場合がある。
【0078】
この点、シミュレーション結果でも示したように、アノード内の圧力が同じであったとしても、水素ガスを燃料電池セルの中央部寄りまで運んでからガス拡散層に供給することで燃料電池セル内の水素存在領域を広げることができる。従って、実施の形態1によれば、単に圧縮手法を用いるという場合に比べて、より低いアノード圧で、同等のシステム始動性能を実現することができる。
【0079】
[実施の形態1の変形例]
(第1変形例)
実施の形態1では、シール層30の寸法をLを、Lの34%の長さにした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。上述したように、燃料電池セル10の中央側へと水素ガスを導くという機能を実現するように、シール層30の寸法Lを適宜好適な寸法に決定することができる。例えば、寸法Lを相対的に小さくし、実施の形態1よりもシール層30を短くすることもできる。
【0080】
(第2変形例)
実施の形態1では、シール材の材料として、金属ペーストを用いた。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。例えば、金属微粒子を混入させて導電性を付した樹脂材料などを用いてもよい。また、必ずしも導電性のシール材である必要はなく、非導電性のシール材、フッ素樹脂やシリコン樹脂などのシール材を用いてもよい。シール層30が燃料(実施の形態1では水素)の透過を抑制可能な気密性を有するように、種々のシール材を選定すればよい。
【0081】
また、シール材を非導電性材料とする場合には、シール材を含浸させる位置において多孔質体層16の表面を露出させるように、シール材を深く含浸させることとしてもよい。これにより、非導電性のシール材を用いる場合でも、シール層30を形成しつつ、多孔質体層16とガス拡散層14を直接接触させることができる。
【0082】
(第2変形例)
シール層30は、必ずしもシール材の含浸によるものではなくともよい。例えば、燃料(実施の形態1では水素)の透過を抑制可能な程度の気密性を有するフィルムを、シール層30に代えて、ガス拡散層14と多孔質体層16との界面に挿入してもよい。
【0083】
(第3変形例)
実施の形態1では、多孔質体層16にシール材を含浸させたが、本発明はこれに限られるものではない。実施の形態1でシール層30を設けた位置において、多孔質体層16に代えてガス拡散層14に対してシール材を含浸させることにより、シール層を形成してもよい。もちろん、両方にシール材を含浸させて、シール層を形成してもよい。
【0084】
(第4変形例)
実施の形態1では、膜電極接合体12のアノードの電極触媒層が、発電部Eおよびその周囲を囲う非発電部を備えている。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。例えば電極触媒層の面内の全領域に渡って触媒が含まれている燃料電池セルに対しても、シール層30を用いて本発明の思想を適用することができる。
【0085】
なお、多孔質体層16は、焼結多孔体以外にも、発泡金属、エキスパンドメタルなどの、種々の多孔質体を用いて形成することが可能である。
【0086】
なお、下記(i)〜(iii)の運転状態は、デッドエンド運転状態に含まれるものとする。
【0087】
(i)燃料電池セルのアノード極(アノード側のガス流路)からガスを排気させることなく、燃料電池の発電を継続的に行う運転状態。
【0088】
(ii)アノード極内における不純物ガス(上記実施の形態では、電解質膜を介してカソードから透過してきた窒素などの反応非関与ガス)の分圧と、カソード極における不純物ガスとが、略つりあった状態(あるいは略等しくなった状態)で、燃料電池セルの発電を継続的に行う運転状態。換言すれば、アノードの不純物ガスの分圧を、カソードの不純物ガスの分圧まで上げた状態で発電する運転状態。
電解質膜はガスを透過する性質を有している。カソードとアノードとの間にガスの分圧差があると、この分圧差が縮小されるように電解質膜を介してガスが移動する。その結果、アノードとカソードにおける不純物ガスの分圧は、やがて略つりあった状態となる。(ii)の態様は、このような状態で発電を行う運転状態である。
【0089】
(iii)燃料電池のアノードに供給された燃料(上記の実施の形態では、既述したように、水素を含む反応ガス)を、略全て、発電反応で消費する運転。
ここで、略全てとは、シール構造や電解質膜を介してアノード極の外へとリークしていった分の燃料を除き、供給された全ての燃料であることが好ましい。
【0090】
なお、本発明は、常にではなく特定の状況下(例えば、小負荷時のみなど)に限ってデッドエンド運転を行う燃料電池に対しても、採用することができる。つまり、本発明の対象となる燃料電池システムは、必ずしも全ての発電帯域、運転領域でデッドエンド運転を行う燃料電池システムに限られるものではない。
【0091】
なお、実施の形態1では、個々の燃料電池セル10が開口24を介してアノードガス排出マニホールドに接続し、このアノードガス排出マニホールドがガス排出用配管56に接続している。そして、シャットバルブ58の開閉により、燃料電池セル10のアノードの下流の状態を、を開放状態と閉鎖状態との間で任意に切換えることができる。しかしながら、本発明は、このようなシステム構成のみに限定されるものではない。個々の燃料電池セル10のアノードがガス入口だけを備えガス出口を備えていないような、アノードの下流が完全に閉鎖されている(「完全デッドエンド方式」とも呼ばれる)ようなシステムに、本発明を用いることができる。なお、このような完全デッドエンド方式のシステムでは、システムの構成上、前記第1の発明における「デッドエンド運転手段」が常時機能していることになる。
【0092】
実施の形態2.
実施の形態2の燃料電池システムは、燃料電池セル70を、燃料電池セル10に代えて用いている点を除き、実施の形態1の燃料電池システムと同じ構成を備えている。以下、実施の形態2が実施の形態1と相違する点、つまり実施の形態2の特徴点について説明する。
【0093】
図8は、本発明の実施の形態2にかかる燃料電池セル70の断面図である。図3に示した燃料電池セル10と同じ構成には、同一の符号を付している。実施の形態2の燃料電池セル70は、多孔質体層16に代えて多孔質体層76を、シール層30に変えてシール層80を備えている点を除き、燃料電池セル10と同じ構造である。
【0094】
実施の形態2では、多孔質体層76をラスメタルを用いて形成している。また、実施の形態2では、シール層80を、多孔質体層76とガス拡散層14の間に、金属製の平板を挟み込むことにより形成している。図9は、図8における領域Bを拡大した図である。移流による多孔質体層76内の水素ガスの移動を実線矢印Q1で、ガス拡散層14内の拡散による水素ガスの移動を破線矢印Q2で、それぞれ示している。
【0095】
実施の形態2の効果を、図10に示す比較例と比較しながら説明する。図10に示す比較例は、実施の形態1の構成と同様に、焼結多孔体の多孔質体層116と、多孔質体層116にシール材を含浸させることにより形成したシール層130とを備えている。
【0096】
シール材を含浸させる場合、その含浸の度合いが適切であれば、図10(a)に示すように、水素ガスの移動および遮断(つまり、ガス拡散層14の面内の中央側への水素ガスの誘導)を適切に行うことができる。しかしながら、シール材の含浸の際に、シール材が多孔質体層の内部まで深く侵入しすぎると、図10(b)のように多孔質体層内のガスの移動経路が閉塞されるという不具合が生じてしまう。このような事態は、圧損の増加を招き、水素ガスの進行を阻害してしまう。この点、実施の形態2によれば、ラスメタルおよび金属製の平板を用いることにより、上記のような製造上の不具合の発生を抑えることができる。
【0097】
また、ラスメタルや金属製の平板を用いれば、シール材の含浸による製造手法に比べて加工精度も高くでき、製造ばらつきを極力抑えることができる。なお、多孔質体層76の厚みDに対するシール層80の厚み(即ち、金属製の平板の厚さ)Dは、実施の形態1と同じく、DをDの三分の一程度にすることができる。
【0098】
尚、上述した実施の形態2では、シール層80を形成している金属製の平板が、前記第3の発明における「導電性を有する板」に相当している。また、実施の形態2では、多孔質体層76が、前記第4の発明における「ラスメタルで形成された層」に相当している。
【0099】
なお、金属製の平板に限らず、導電性(電気伝導性)を有する材料で形成した板材を、実施の形態2のシール層80を形成するために用いてもよい。
【0100】
実施の形態3.
実施の形態1および実施の形態2では、多孔質体層とガス拡散層との間にシール層を挿入することにより、燃料電池セルの面内の中央側へと水素ガスを導いた。これに対し、実施の形態3では、セパレータ内にトンネル状のガス流路を形成し、このガス流路を用いて、燃料電池セルの面内の中央側へと水素ガスを導くこととする。
【0101】
図11は、実施の形態3にかかる燃料電池セル90を示す図である。燃料電池セル90は、シール層30を備えない点およびセパレータが異なる点を除き、実施の形態1の燃料電池セル10と同様の構造を備えている。燃料電池セル90は、3枚のプレート(92a、92b、92c)を重ねて形成されたセパレータ92を備えている。セパレータ92には、ガス誘導路94およびガス排出路96が形成されている。
【0102】
ガス誘導路94は燃料電池セル90の紙面上方で、図示しないアノードガス供給マニホールドに接続する。ガス排出路96は、図示しないアノードガス排出マニホールドに接続する。なお、このように、複数の平板プレートを重ねてセパレータを構成する多層セパレータ構造は、より具体的には、例えば、特開2007−149427号公報に開示されているような技術を用いて実現することができる。
【0103】
ガス誘導路94の下流端は、多孔質体層16の表面に接続している。実施の形態3では、多孔質体層16の端面から距離Zの位置で、ガス誘導路94が多孔質体層16に接続するようにしている。距離Zの大きさについては、実施の形態1のシール層30の場合と同様に、燃料電池セル90の中央側へと水素ガスを導くという機能を実現するように適宜好適な値に決定することができる。
【0104】
これにより、実施の形態1と同様に、水素ガスをセル面内の中央寄りに導く事ができる。なお、一枚の平板をセパレータとして用いる場合には、平板の内部に貫通路を設けて、実施の形態3のガス誘導路を実現してもよい。
【0105】
尚、上述した実施の形態3は、セパレータ90が、前記第1の発明における「ガス供給用部材」に、ガス誘導路94の入口が、前記第1の発明における「ガス入口」に、ガス誘導路94が、前記第1の発明における「ガス誘導路」に、ガス誘導路94の出口が、前記第1の発明における「ガス供給口」に、それぞれ相当している。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明にかかる実施の形態1の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図2】実施の形態1の燃料電池セルの構成を示す平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿って燃料電池セルを切断した場合の断面図である。
【図4】実施の形態1の効果を実証するシミュレーション結果を説明するための図である。
【図5】実施の形態1の効果を実証するシミュレーション結果を説明するための図である。
【図6】実施の形態1の効果を実証するシミュレーション結果を説明するための、比較例を示す図である。
【図7】実施の形態1の効果を実証するシミュレーション結果を説明するための図、比較例を示すである。
【図8】本発明の実施の形態2にかかる燃料電池セルの断面図である。
【図9】図8における領域Bを拡大した図である。
【図10】実施の形態2に対する比較例を説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態3にかかる燃料電池セルの断面図である。
【符号の説明】
【0107】
2 燃料電池スタック
10 燃料電池セル
12 膜電極接合体
14 ガス拡散層
16 多孔質体層
20 セパレータ
21 ガス流入口
22 開口
24 開口
30 シール層
40 ECU(Electronic Control Unit)
50 燃料タンク
52 ガス供給用配管
54 バルブ
56 ガス排出用配管
58 シャットバルブ
60 アノードガス供給マニホールド
70 燃料電池セル
76 多孔質体層
80 シール層
90 燃料電池セル
92 セパレータ
92a、92b、92c プレート
110 燃料電池セル
114 ガス拡散層
116 多孔質体層
120 セパレータ
121 ガス流入口
122 開口
124 開口
130 シール層
210 比較用燃料電池セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と、前記膜電極接合体のアノードに積層されたガス拡散層と、前記ガス拡散層に重ねて備えられたガス供給用部材とを備えた燃料電池セルと、
燃料タンクと接続してその内部に燃料ガスが流通し、前記ガス供給用部材と接続して前記燃料電池セルのアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給通路と、
前記燃料電池セルのアノードの下流が閉鎖された状態で該燃料電池セルの発電を行うデッドエンド運転状態を、少なくとも一部の運転領域において実現することができるデッドエンド運転手段と、
を備えており、
前記ガス供給用部材が、
前記ガス拡散層の端面側の位置に設けられ前記燃料ガス供給通路と接続するガス入口と、
前記ガス入口に接続し、前記ガス拡散層と隔てられながら該ガス拡散層の面内の中央側に延びて、前記ガス入口に流入した燃料ガスを該ガス拡散層の面内の中央側へと導くガス誘導路と、
前記ガス誘導路と接続し該ガス誘導路を流れてきた燃料ガスを前記ガス拡散層へと供給することができるガス供給口と、
を備えていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記ガス供給用部材は、
前記ガス拡散層に積層される多孔質体層と、
前記多孔質体層に重ねられ、前記ガス拡散層の端面側の位置において前記燃料ガス供給通路に接続するガス流入口と、該ガス流入口に流入した燃料ガスを該多孔質体層へと吐出するガス吐出口と、を備えた集電板と、
前記ガス拡散層と前記多孔質体層の界面に備えられ、該ガス拡散層の前記ガス吐出口側の端部の側から該界面の中央側へと延在するシール層と、
を含む構成であり、
前記多孔質体層のうち前記シール層によって前記ガス拡散層から隔てられた第1部位が、前記ガス誘導路として燃料ガスを該ガス拡散層の面内の中央側へと導き、
前記多孔質体層のうち前記シール層によるシールを受けずに前記ガス拡散層と接続している第2部位が、前記ガス供給口として燃料ガスを該ガス拡散層に供給することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記シール層は、前記ガス拡散層と前記多孔質体層の界面に挿入された、導電性を有する板であることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記多孔質体層は、ラスメタルで形成された層であることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記膜電極接合体の前記ガス拡散層側の電極触媒層は、
該電極触媒層の面内の中央の領域に設けられた、触媒を含む第1領域と、
該電極触媒層の前記面内に前記第1領域を囲うように位置する、触媒を実質的に含まずに設けられた第2領域と、
を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
システムの始動時に、前記デッドエンド運転状態を実現した状態で前記燃料電池セルへの燃料ガスの供給を行う始動制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−134948(P2009−134948A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309247(P2007−309247)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】