説明

燃料電池システム

【課題】イオン液体の漏洩を防止するとともに、燃料電池のクロスリークを防止する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】イオン液体を含浸したマトリクスと、マトリクスを介し燃料極と対向して付設された空気極と、空気極を通じてマトリクスにイオン液体を補給するリザーバと、を含む燃料電池セルと、リザーバ内のイオン液体の量またはイオン液体と燃料電池セル内で生じた凝縮水とが混合した混合液の量を検出する検出手段301、302、303、313と、検出手段が検出した結果をもとに、リザーバ内のイオン液体の量または混合液の量をあらかじめ定めた設定範囲内に制御する制御手段313と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関し、より詳細には、イオン液体の漏洩およびクロスリークを防止する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、燃料電池が注目されている。特に、自動車用の燃料電池として、0℃以下の低温から100℃以上の高温まで発電が可能なイオン液体を電解質として用いる燃料電池が注目されている。
【0003】
しかし、SR(Stoich Ratio:要求電流に必要な酸素量から決定される空気流量に対する過剰率)が低い状態においては、空気極での電気化学反応により発生する水が凝縮する。また、SRを高くしても、低温の状態においては飽和水蒸気圧が下がるため、相対水蒸気圧(飽和水蒸気圧に対する水蒸気分圧の比)が高くなる。このような状態においては、凝縮した水がイオン液体に混入し、イオン液体が水とともにリザーバから漏洩することがある。特に、低温からの起動が常に行われる自動車にイオン液体を用いた燃料電池を使用した場合、このような問題が頻繁に発生しうる。また、漏洩によりイオン液体が不足すると燃料極の水素と空気極の酸素が直接混じり合うクロスリークという現象が起り燃料電池の特性を劣化させる。
【0004】
リザーバ内の電解質含有量を監視する方法としては下記特許文献1に示されたものがあるが、リザーバから電解質が漏洩するのを防止する方法については開示されていない。
【特許文献1】特開平6−288980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、リザーバ内のイオン液体量またはイオン液体と水の混合液量を検知し、該混合液量をあらかじめ定めた範囲内に制御することによりイオン液体の漏洩を防止するとともに、燃料電池のクロスリークを防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る燃料電池システムは、イオン液体を含浸したマトリクスと、マトリクスを介し燃料極と対向して付設された空気極と、空気極を通じてマトリクスにイオン液体を補給するリザーバと、を含む燃料電池セルと、リザーバ内のイオン液体の量またはイオン液体と燃料電池セル内で生じた凝縮水とが混合した混合液の量を検出する検出手段と、検出手段が検出した結果をもとに、リザーバ内のイオン液体の量または混合液の量をあらかじめ定めた設定範囲内に制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る燃料電池システムによれば、イオン液体の漏洩を防止するとともに、燃料電池のクロスリークを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明に係る燃料電池の制御方法について、第1実施形態〜第4実施形態に分けて、図面を参照し詳細に説明する。
【0009】
これらの実施形態の説明をする前に、本発明の理解を容易なものとするために、燃料電池スタックの全体構成について簡単に説明する。図1は燃料電池スタックの全体構成を示す斜視図であり、図2は、燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの断面構造を説明するための説明図である。
【0010】
図1に示すように、燃料電池スタック1は、アノード反応ガス(本明細書では水素)とカソード反応ガス(本明細書では酸素)の反応により起電力を生じる単位電池セル(以下、「燃料電池セル」と称する)2を所定数だけ積層して積層体3とされ、その積層体3の両端に集電板4、絶縁板5およびエンドプレート6を配置し、該積層体3の内部に貫通した貫通孔(図示は省略する)にタイロッド7を貫通させ、そのタイロッド7の端部にナット(図示は省略する)を螺合させることで構成されている。
【0011】
この燃料電池スタック1においては、アノード反応ガス、カソード反応ガスおよび液状媒体(具体的には冷却水又は温水)をそれぞれ各燃料電池セル2内に形成された流路溝に流通させるためのアノード反応ガス供給口8、アノード反応ガス排出口9、カソード反応ガス供給口10、カソード反応ガス排出口11、媒体供給口12および媒体排出口13を、一方のエンドプレート6に形成している。
【0012】
アノード反応ガスは、アノード反応ガス供給口8より供給されて各燃料電池セル2内に形成されたアノード反応ガス供給用の流路溝を流れ、アノード反応ガス排出口9より排出される。カソード反応ガスは、カソード反応ガス供給口10より供給されて各燃料電池セル2内に形成されたカソード反応ガス供給用の流路溝を流れ、カソード反応ガス排出口11より排出される。液状媒体は、媒体供給口12より供給されて各燃料電池セル2内に形成された媒体供給用の流路溝を流れ、媒体排出口13より排出される。
【0013】
燃料電池セル2は、図2に示すように、マトリクス(電解質)230と、マトリクスの両面に配置される空気極200および燃料極240と、空気極200を通じてマトリクスにイオン液体を補給するリザーバ210とを含んで構成される。
【0014】
マトリクス230は、例えば、SiCの絶縁多孔体に液体であるイオン液体を含浸させることにより構成される。イオン液体は、耐熱性が高く、プロトン伝導媒体としての水が不要であり、蒸気圧が非常に低いという高温燃料電池用電解質として優れた特徴を有する。また、イオン液体の中には0℃以下において液体のものがあり、このようなイオン液体を用いれば0℃以下から発電することが可能である。
【0015】
空気極200は、電極触媒である触媒金属としてのカソード触媒層とガス拡散層からなる。
【0016】
燃料極240は、アノード触媒層とガス拡散層からなる。
【0017】
リザーバ210は、空気極200を通じてマトリクス230にイオン液体を補給することによりマトリクス230中のイオン液体の量を適切な量に調整する。リザーバ210は、例えば、多孔質のカーボン材からなり、反応ガスである空気を通すための複数の平行した空気流路220を設ける。リザーバ210には、イオン液体またはイオン液体と水の混合液が保持されており、毛細管現象によりマトリクス230にイオン液体を供給する。
【0018】
イオン液体を用いた燃料電池は、電解質が液体となる。従って、安定的な運転のために、イオン液体への生成水の混合を予め加味して、マトリクス230中のイオン液体またはイオン液体と水の混合液の量を適切に保つ必要がある。例えば、マトリクス230中のイオン液体またはイオン液体と水の混合液が不足すると、燃料極240の水素と空気極200の酸素が直接混じり合うクロスリークという現象が生じる。一方、マトリクス230中のイオン液体またはイオン液体と水の混合液が許容量を超えると、イオン液体またはイオン液体と水の混合液が空気流路220に流れ出し、イオン液体が外部に漏洩する。また、マトリクス230から漏れ出したイオン液体またはイオン液体と水の混合液は反応ガスである空気の三相界面への移動を妨げるため、フラッディングという現象が起り燃料電池の性能を低下させる。
【0019】
燃料流路250に水素を、空気流路220に酸素を、それぞれ流通させると、水素はアノード触媒層の触媒作用で水素イオンに変わり電子を放出する。電子を放出した水素イオンはマトリクス230を通過する。カソード触媒層ではマトリクス230を通過してきた水素と外部流路(図示せず)を経由してきた電子が酸素と反応して水を生成する。この作用によって燃料極240がマイナスに、空気極200がプラスになり、燃料極240と空気極200との間で直流電圧が発生する。
【0020】
以下に、第1実施形態から第4実施形態に分けて本発明に係る燃料電池の制御方法およびその制御装置を具体的に説明する。
[第1実施形態]
図3は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【0021】
第1実施形態に係る燃料電池システムは、図3に示すように、燃料電池セルが積層されてなる燃料電池スタック300、各燃料電池セルの空気極側に設けられセル温度を計測する温度センサ301、同様に空気極側に設けられ空気極側のリザーバのイオン伝導度を計測するイオン伝導度センサ302、各燃料電池セルの空気流路の下流部に設けられ空気極側空気出口の水蒸気圧を計測する水蒸気圧センサ303、を有する。また、燃料電池の空気極に第1熱交換器304を介して外部空気を供給するコンプレッサ305、コンプレッサ305の吐出空気の温度を調節する第1熱交換器304(および第1ラジエータファン304a)、を有する。また、燃料極に供給する水素を蓄える水素タンク306、水素タンクから供給される高圧水素を燃料電池スタック300に供給できる圧力まで低下させるプレッシャレギュレータ307、水素を昇温する第2熱交換器308、を有する。また、燃料電池セル内を通過させる冷却水の温度を調節して燃料電池セルの温度を調節する第3熱交換器310(および第2ラジエータファン310a)、冷却水の流量を調節して燃料電池セルの温度を調節する冷却水ポンプ309、を有する。また、燃料電池システムへの要求出力と燃料電池スタックの出力に差があるときに充放電する2次電池311、燃料電池スタック300または2次電池311から得た電力を用途に応じた電圧に変換するインバータ312、を有する。また、燃料電池システムの各構成要素を制御する、演算/制御装置、記憶装置、入出力装置を含んでなるコントロールユニット313を有する。
【0022】
さらに、第1実施形態に係る燃料電池システムは、燃料電池セルの空気流路の途中に接続され空気流路に空気を流入させる空気バイパス流路314、空気バイパス流路314に流す空気を制御する空気バイパス流路制御バルブ315、燃料電池セルの冷却水流路の途中に接続され冷却水流路から冷却水を流出させた後冷却水路に流入させる(すなわち還流させる)冷却水バイパス流路316、冷却水バイパス流路316に流す冷却水を制御する冷却水バイパス流路制御バルブ317、を有する。空気バイパス流路制御バルブ315を開くことにより、空気バイパス流路314を流れる空気が空気流路に合流するため空気流路の下流の空気流量を増加させることができる。冷却水バイパス流路制御バルブ317を開くことにより、冷却水流路を流れる冷却水が冷却水バイパス流路316から流出するため、冷却水流路の下流の冷却水流量を減少させ該下流周辺の燃料電池セルの温度を上昇させることができる。冷却水流路の途中に接続する冷却水バイパス流路は1つに限定されず、冷却水流路の任意の箇所に冷却水バイパス流路を複数接続することにより、それぞれの箇所で冷却水を還流させうる。
【0023】
図4は、燃料電池セルの内部構造の断面を示す説明図である。図4に示すように、燃料電池セルはイオン液体を含浸したマトリクス400と、マトリクス400の両面に互いに対向して付設した燃料極410および空気極420と、燃料極410および空気極420をそれぞれ外側から狭持するリザーバ430とを有してなる。リザーバ430には空気流路430aと燃料流路430bが設けられ、それぞれ、空気と水素の流路をなす。
【0024】
図5は、リザーバの空気流路500が形成された部分の構造を示す説明図である。空気流路500には空気入口501、空気バイパス入口502、空気出口503を設ける。空気入口501から流入した空気は、空気流路500を流れ空気出口503から流出する。空気バイパス入口502には空気バイパス流路が接続され、空気バイパス流路を流れる空気が流入する。なお、リザーバには、後述する、冷却水を流す冷却板に冷却水を供給するための冷却水入口504と冷却板を流れた冷却水を流出させるための冷却水出口505、そして、冷却水バイパス流路が接続される冷却水バイパス出口506が設けられる。また、燃料である水素を流入させる燃料入口507と、水素を流出させる燃料出口508が設けられる。
【0025】
図6は、冷却板の構造を示す説明図である。冷却板には冷却水流路600を設ける。冷却水流路600には、冷却水入口604、冷却水バイパス出口606、冷却水出口605を設ける。冷却水入口604から流入した冷却水は、冷却水流路600を流れ冷却水出口605から流出する。冷却水バイパス出口606には冷却水バイパス流路が接続され、冷却水バイパス流路に流れる冷却水が流出する。冷却水バイパス出口606から流出した冷却水は、バイパス流路制御バルブを通して冷却水バイパス流路を流れた後、冷却水入口604から再流入することにより冷却水バイパス流路および冷却水流路600を還流する。なお、冷却板は、燃料電池スタックを構成する燃料電池セル単位で、積層構造の一部として挿入するため、空気入口601、空気出口603、空気バイパス入口602、燃料入口607、燃料出口608が設けられる。冷却板は、燃料電池スタックを構成する燃料電池セル単位で挿入するが、これに限定されず、燃料電池スタック内の燃料電池セル積層構造の任意の箇所に挿入してもよい。
【0026】
図7は、本第1実施形態に係る燃料電池システムを実施するためのフローチャートである。以下、図7に示すフローチャートをステップごとに説明する。
【0027】
〔S700〕
コンプレッサを起動し、燃料電池スタックの昇温を開始する。
【0028】
コンプレッサからは圧縮された約180℃の高温空気が排出される。燃料電池スタックは、100℃〜180℃が定常時の運転温度(以下、「定常運転温度T」と称する)であるため、第1熱交換器(および第1ラジエータファン)によりこの範囲まで空気の温度を低下させて、燃料電池スタックに空気を供給する。燃料電池スタックは、第1熱交換器から供給される空気の熱で暖機される。
【0029】
〔S710〕
燃料電池スタックの発電を開始する。
【0030】
燃料電池スタックの発電が開始した直後の燃料電池スタック全体の温度は周辺温度に等しい。したがって、燃料電池スタックの温度が定常運転温度Tに達するまでは、燃料電池スタックの最大出力は定常運転温度Tにおける最大出力よりも小さい状態にある。
【0031】
〔S720〕
空気極側リザーバの、イオン液体と水の混合液の充填率を計測する。
【0032】
上述したように、SRが低い状態や、SRは高くても低温の状態においては、凝縮による液体の水(以下、「凝縮水」と称する)が発生する。発生した凝縮水の一部はイオン液体と混合し、凝縮水とイオン液体が混合した液体(以下、「混合液」と称する)は毛管引力で空気極側のリザーバへ移動する。その結果、もともとリザーバの空孔の60%を占めていたイオン液体とともに混合液がリザーバに蓄えられる。ここで、リザーバの空孔のうちイオン液体または混合液が占める割合を充填率Fとする。
【0033】
本ステップは、図8に示す空気極側リザーバの充填率導出サブルーチンにより充填率Fを計測する。
【0034】
〔S800〕
空気流路下流の水蒸気分圧Pを計測する。
【0035】
図9は、燃料電池セルの空気極900側に設置された水蒸気圧センサ910、イオン伝導度センサ920、セル温度センサ930の位置を示すための説明図である。図9に示すように、水蒸気圧センサ910は空気極900の空気流路940下流付近に設置する。
【0036】
水蒸気圧センサ910としては、例えば、静電容量式の水蒸気圧計を用いることができる。通常、この方式の蒸気圧計は2成分以上の蒸気を含むガス中の水蒸気圧を計測するのは困難であるが、イオン液体は難揮発性という特徴があるため水蒸気圧を計測することができる。
【0037】
〔S810〕
燃料電池セルの温度TFCを計測する。
【0038】
図9に示すように、燃料電池セル950の空気極900にセル温度センサ930を設置することにより燃料電池セル950の温度TFCを計測する。セル温度センサ930には熱電対を用いることができる。
【0039】
〔S820〕
リザーバ内の水濃度Cを導出する。ここで、水濃度Cとはイオン液体のモル数に対する水のモル数の割合をいう。すなわち、イオン液体と水のモル数が等しい混合液の水濃度は100mol%となる。
【0040】
図10は、混合液の蒸気圧曲線を示す図である。図10に示すように、相対水蒸気圧P/Pと水濃度Cとは一定の関係を有する。ここで、相対水蒸気圧とは、水蒸気圧Pを飽和水蒸気圧Pで除した値(P/P)をいう。相対水蒸気圧P/Pと水濃度Cとの関係を示す曲線を蒸気圧曲線という。ステップS800で計測した水蒸気圧Pと、ステップS810で計測した燃料電池セルの温度TFCから算出した飽和水蒸気圧Pと、から相対水蒸気圧P/Pを算出することができる。ここで、飽和水蒸気圧Pは、あらかじめ燃料電池セルの温度TFCと飽和水蒸気圧Pとの関係をコントロールユニットの記憶装置に記憶させておき、計測した燃料電池セルの温度TFCと比較することで算出できる。
【0041】
当該蒸気圧曲線は、イオン液体によって異なる。本ステップでは、あらかじめ、使用するイオン液体の蒸気圧曲線を計測してコントロールユニットの記憶装置に記憶させておく。イオン液体の蒸気圧曲線の計測は、用途に応じて実際に想定される燃料電池セルの温度TFCの範囲内の数点について行う。上記算出した相対水蒸気圧P/Pと、記憶させておいた蒸気圧曲線と比較することにより空気極側のリザーバ中の水濃度Cを算出することができる。
【0042】
ここで、以下のステップS830〜S840によってリザーバの充填率Fを導出せずに、本ステップで導出したリザーバ中の水濃度Cからリザーバの充填率Fを導出してもよい。すなわち、リザーバ中のイオン液体量の初期値(モル数)と、水濃度Cから混合液中の水の量(モル数)が算出できる。そうすると、混合液中の水の体積が算出できるため、既知のイオン液体の体積と混合液中の水の体積の和と、設計値である既知のリザーバの空孔容積とからリザーバの充填率Fが導出できる。
【0043】
〔S830〕
混合液の伝導度σを導出する。
【0044】
本ステップと下記ステップS840によれば、さらに正確にリザーバの充填率Fが導出できる。
【0045】
混合液のイオン伝導度は一般に水の混入量が多いほど増大する。これは、液体の粘度とイオン伝導度の間に相関があり、水の粘度は一般的にイオン液体よりも低いからである。本ステップでは、あらかじめ複数の水濃度でイオン伝導度の温度依存性を計測し記憶装置に記憶させておき、前ステップS820で導出した水濃度Cと該記憶させたイオン伝導度の温度依存性を比較することにより混合液のイオン伝導度σを算出する。
【0046】
図11は、水濃度C、C、C(C>C>C)の混合液について計測し記憶させたイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。ステップS810で計測した燃料電池セル温度TFCおよびステップS820で導出した水濃度Cと該温度依存性を比較することにより混合液のイオン伝導度σを算出することができる。
【0047】
一方、混合液の伝導度σは以下の方法で導出することもできる。すなわち、混合液の伝導度σをイオン伝導度センサにより直接に求めることができる。
【0048】
図12は、本実施形態で用いるイオン伝導度センサの構成を示す説明図である。図12は、リザーバの断面図であり、イオン伝導度センサはリザーバ内部に設ける。イオン伝導度センサは、リザーバと同様の空孔率を有しかつ絶縁性の物質からなるイオン伝導度計測部1200、イオン伝導度計測部内を貫通する2対の白金線からなる電極端子1210、2対の白金線に接続される交流抵抗計1220、を有してなる。イオン伝導度センサを、空気バイパス流路入口、空気流路入口、空気流路出口、空気流路中間といった複数個所に設けることで混合液のイオン伝導度の計測の精度を向上でき、充填率制御の精度を向上させることが可能になる。例えば、温度センサとイオン伝導度センサを空気バイパス流路入口の上流側と下流側にそれぞれ1つ以上設けることで充填率制御の精度を向上させることができる。
【0049】
イオン伝導度センサを用いて、交流インピーダンス法により電極端子間の抵抗Rを計測することができる。そうすると、混合液の伝導度σは、下記の式(1)で求めることができる。電極端子間の抵抗Rの計測においては、イオン伝導度計測部1200全体を混合液で満たす必要があるため、イオン伝導度計測部1200の設計においてこのことを考慮する必要がある。
【0050】
【数1】

【0051】
ここで、lは白金電極の電極間距離、Aはイオン伝導度計測部の電極間面積であり、これらの値は設計値であるため既知である。
【0052】
式(1)に電極端子間の抵抗Rを代入することにより、混合液の伝導度σを算出できる。
【0053】
〔S840〕
空気極側のリザーバの充填率Fを導出する。
【0054】
図13は、イオン液体の伝導率であるσに対する混合液の伝導率σの割合(以下、「イオン伝導度比σ/σ」と称する)と、リザーバの充填率Fとの関係のグラフを示す図である。イオン液の伝導率σは各イオン液体固有のものであり、既知である。あらかじめ、イオン伝導度比σ/σと充填率Fの関係をコントロールユニットの記憶装置に記憶させておき、前ステップS830で導出した混合液の伝導率σからイオン伝導度比σ/σを求め、あらかじめ記憶させたイオン伝導度比σ/σと充填率Fの関係と比較することによりリザーバの充填率Fを導出することができる。
【0055】
以下、図7に戻りステップS730以降のステップを実施する。
【0056】
〔S730〕
リザーバの充填率Fがあらかじめ定めた充填率上限閾値Fmaxより小さいかどうか判断する。
【0057】
リザーバの充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さくないと判断したときは、イオン液体が外部に漏洩するおそれがあると判断して、ステップS740に移行する。
【0058】
リザーバの充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さいと判断したときは、イオン液体が外部に漏洩するおそれがないと判断して、ステップS750に移行する。
【0059】
ここで、充填率上限閾値Fmaxの値は、後述する充填率下限閾値Fminの値と同様に、空気流路のサイズ、空気極側のリザーバの容積、該リザーバの空孔率、該リザーバの材質、触媒の材料、運転出力といった条件や、電解質漏洩やガスリークに対して設定された安全率により変化させうる。本実施形態においては、Fmax=80%、Fmin=40%とする。
【0060】
まず、充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さくないと判断した場合について説明する。もし、充填率Fが一箇所でも充填率上限閾値Fmaxより小さくないと判断した場合は、ステップS740に移行し、以下のステップS1400〜S1420からなる第1充填率低下サブルーチンを実施する。図14は、第1充填率低下サブルーチンを示す図である。
【0061】
〔S1400〕
2次電池の充電状態Sが閾値Sより大きいかどうか判断する。
【0062】
2次電池の充電状態Sは、一般的には2次電池の開放端電圧で検知するが、これに限定されない。
【0063】
2次電池の充電状態Sが閾値Sより大きいと判断した場合は、2次電池が一時的な放電に耐えられるだけの充電状態になっていると判断して、ステップS1410に移行する。
【0064】
2次電池の充電状態Sが閾値Sより大きくないと判断した場合は、2次電池が燃料電池システムへの要求電力と燃料電池スタックの発電量との差を補うだけの充電状態になっていないと判断し、ステップS1420の第2充填率低下サブルーチンに移行する。
【0065】
〔S1410〕
空気極に供給する空気流量を一定としたまま、燃料電池スタックの発電量を低下させる。
【0066】
空気流量を一定として燃料電池スタックの発電量を低下させると、電気化学反応によって生成する水の量が減少するため水蒸気圧Pが低下し、相対水蒸気圧P/Pが低下する。図10に示す蒸気圧曲線によると、相対水蒸気圧P/Pが低下すると水濃度Cが低下する。すなわち、空気極側のリザーバの充填率Fを低下させることができる。
【0067】
充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さくなるまで第1充填率低下サブルーチンを実施する。
【0068】
〔S1420〕
2次電池の充電状態Sが閾値Sより大きくないと判断した場合は、以下ステップS1500からなる第2充填率低下サブルーチンに移行する。図15は、第2充填率低下サブルーチンを示す図である。
【0069】
〔S1500〕
燃料電池冷却水量を低下させる。
【0070】
燃料電池セルの温度は、図3に示す本実施形態に係る燃料電池システムにおいて、冷却水ポンプ309による燃料電池セルを通過する冷却水量の制御や、第1ラジエータファン304aまたは第2ラジエータファン310aの回転数の調整によりそれぞれ空気の温度または冷却水の温度を調整することにより制御できる。本ステップでは、燃料電池セル内を通過させる冷却水量を低下させて燃料電池セルの温度を上昇させる。燃料電池セルの温度を上昇させることにより空気極側のリザーバから液水が蒸発する速度を上昇させ、空気極側のリザーバの充填率Fを低下させることができる。
【0071】
また、同時に冷却水バイパス流路制御バルブを開放する。そうすると、冷却水流路の途中に接続された冷却水バイパス流路へ冷却水が流出するため、冷却水流路の下流を流れる冷却水量が低下し、冷却水流路の下流と近接した空気流路下流付近のリザーバの温度を上昇させることができる。そうすると、空気流路下流付近のリザーバの飽和水蒸気圧Pが上昇し、相対水蒸気圧P/Pが低下するため、空気流路下流付近のリザーバの充填率を低下させることができ、空気極側のリザーバ全体における充填率を均一化しうる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0072】
一方、空気バイパス流路制御バルブを開くと、空気流路の途中に接続された空気バイパス流路から空気が流入するため、空気流路の下流の空気流量が増加する。そうすると、空気流路下流付近のリザーバの水蒸気圧Pが低下し、相対水蒸気圧P/Pが低下するため、空気流路下流付近のリザーバの充填率を低下させることができ、リザーバの空気流路方向でより均一な充填率を達成することができる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0073】
充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さくなるまで第2充填率低下サブルーチンを実施する。
【0074】
次に、図7に戻り、充填率Fが充填率上限閾値Fmaxより小さいと判断した場合について説明する。この場合は、ステップS750に移行する。
【0075】
〔S750〕
充填率Fがあらかじめ定めた充填率下限閾値Fminより小さいかどうか判断する。
【0076】
充填率Fが充填率下限閾値Fminより小さいと判断したときは、空気極側からマトリクスへの電界質たるイオン液体の供給が不十分であり、クロスリークが起きる可能性があると判断して、ステップS760に移行する。
【0077】
充填率Fが充填率下限閾値Fminより小さくないと判断したときは、空気極側からマトリクスへの電界質たるイオン液体の供給が十分であると判断して、ステップS770に移行する。
【0078】
まず、充填率Fが充填率下限閾値Fminより小さいと判断した場合について説明する。この場合は、ステップS760に移行し、以下のステップS1600〜S1620からなる第1充填率上昇サブルーチンを実施する。図16は、第1充填率上昇サブルーチンを示す図である。
【0079】
〔S1600〕
2次電池の充電状態Sが閾値Sより小さいかどうか判断する。
【0080】
2次電池の充電状態Sは、一般的には2次電池の開放端電圧により検知するが、これに限定されない。
【0081】
2次電池の充電状態Sが閾値Sより小さいと判断した場合は、2次電池が一時的に充電可能な充電状態になっていると判断し、ステップS1610に移行する。
【0082】
該充電状態Sが上限閾値Sより小さくないと判断した場合は、2次電池が燃料電池システムへの要求電力と燃料電池スタックの発電量との差を吸収するだけの空容量を有していないと判断して、ステップS1620の第2充填率上昇サブルーチンに移行する。
【0083】
〔S1610〕
空気極に供給する空気流量を一定のまま、燃料電池スタックの発電量を増加させる。
【0084】
空気流量を一定として燃料電池スタックの発電量を増加させると、電気化学反応によって生成する水の量が増加するため水蒸気圧Pが上昇し、相対水蒸気圧P/Pが上昇する。図7に示す蒸気圧曲線によると、相対水蒸気圧P/Pが上昇すると水濃度Cが上昇する。すなわち、空気極側のリザーバの充填率Fを上昇させることができる。
【0085】
充填率Fが充填率下限閾値Fminより大きくなるまで第1充填率上昇サブルーチンを実施する。
【0086】
〔S1620〕
2次電池の充電状態Sが閾値Sより小さくないと判断した場合は、以下ステップS1700からなる第2充填率上昇サブルーチンに移行する。図17は、第2充填率上昇サブルーチンを示す図である。
【0087】
〔S1700〕
燃料電池冷却水流量を増加させる。
【0088】
燃料電池セルの温度は、上述したように、図3に示す本実施形態に係る燃料電池システムにおいて、冷却水ポンプ309による燃料電池セルを通過する冷却水量の調整や、第1ラジエータファン304aまたは第2ラジエータファン310aの回転数の調整により制御できる。本ステップでは、燃料電池セル内を通過させる冷却水量を増加させて燃料電池セルの温度を低下させる。図10に示す蒸気圧曲線によると、燃料電池セルの温度を低下させることにより、飽和水蒸気圧Pが低下し、相対水蒸気圧P/Pが上昇するため、水濃度Cが上昇する。すなわち、空気極側のリザーバの充填率Fを上昇させることができる。
【0089】
また、同時に冷却水バイパス流路制御バルブを開放する。そうすると、冷却水流路から冷却水流路の途中に接続された冷却水バイパス流路へ冷却水が流出するため、冷却水流路の下流を流れる冷却水量が低下し、冷却水流路の下流と近接した空気流路下流付近のリザーバの温度を上昇させることができる。そうすると、空気流路下流付近のリザーバの飽和水蒸気圧Pが上昇し、相対水蒸気圧P/Pが低下するため、空気流路下流付近のリザーバの充填率を低下させる方向に調整することができ、空気極側のリザーバ全体における充填率を均一化しうる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0090】
一方、空気バイパス流路制御バルブを開放すると、空気流路の途中に接続された空気バイパス流路から空気流路へ空気が流入するため、空気流路の下流の空気流量が増加する。そうすると、空気流路下流付近のリザーバの水蒸気圧Pが低下し、相対水蒸気圧P/Pが低下するため、空気流路下流付近のリザーバの充填率を低下させることができ、リザーバの空気流路方向でより均一な充填率を達成することができる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0091】
充填率Fが充填率下限閾値Fminより小さくなるまで第2充填率上昇サブルーチンを実施する。
【0092】
次に、図7に戻り、充填率Fが充填率上限閾値Fminより小さくないと判断した場合について説明する。このときは、前述したように、空気極側からマトリクスへの電界質たるイオン液体の供給が十分であると判断して、ステップS770に移行する。
【0093】
〔S770〕
全ての燃料電池セルの平均温度TFCaveが、定常運転温度TFC0になったかどうか判断する。
【0094】
上述したステップS720〜S750を実施することで、空気極側のリザーバの充填率Fを充填率下限閾値Fminと充填率上限閾値Fmaxの間である適正範囲に保ちながら燃料電池を昇温させる。そして、全ての燃料電池セルの平均温度TFCaveが、仕様である定常運転温度TFC0になったかどうか判断する。
【0095】
全ての燃料電池セルの平均温度TFCaveが、仕様である定常運転温度TFC0となったところで、燃料電池スタックの起動操作を終了する。
【0096】
なお、図7に示す、本第1実施形態に係る燃料電池システムを実施するためのフローチャートのうちステップS720以降のフローは、燃料電池スタックの運転中においても連続的かつ継続的に実施しうる。
【0097】
ここで、コンプレッサ、第1熱交換器、空気バイパス流路、空気バイパス流路制御バルブは本発明の空気供給手段に、第3熱交換器、冷却水バイパス流路、冷却水バイパス流路制御バルブは冷却手段に相当する。温度センサ、水蒸気圧センサ、イオン伝導度センサ、コントロールユニットは検出手段に、コントロールユニットは制御手段に相当する。
【0098】
以下に、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの効果を示す。
・ 燃料電池セルからのイオン液体の漏洩を防止するとともに、燃料電池のクロスリークを防止することができる。
・リザーバのイオン液体と水の混合液の充填率を均一化することができる。
・リザーバの充填率調整を新たな設備を必要とせず容易に行うことができる。
・空気および水素の供給量を変化させることなく燃料電池セルの温度の調整をすることができる。
[第2実施形態]
図18は、本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。第2実施形態に係る燃料電池システムの構成は、以下説明する構成以外は第1実施形態と同様であるため、重複となる説明は省略する。
【0099】
第1実施形態と異なり、第2実施形態は、空気バイパス流路1814を流れる空気の温度を独立した第5熱交換器1840(および第4ラジエータファン1840a)により単独に調整する。また、冷却水路は、互いに独立した2つの冷却水路である第1独立冷却水路1820と第2独立冷却水路1830とからなる。
【0100】
空気バイパス流路1814は、空気流路の中間点に接続され、空気バイパス流路制御バルブ1815を開くことにより空気流路の該中間点から空気を流入させることができる。空気バイパス流路の温度は、第5熱交換器1840のラジエータファン1840aの回転数を変えることにより単独に調整しうる。すなわち、第1実施形態よりも自由度の高い空気流路下流の温度調整を可能としている。これにより、リザーバの空気流路方向でより均一な充填率を達成することができる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0101】
冷却水流路を構成する互いに独立した第1独立冷却水流路1820および第2独立冷却水流路1830は、燃料電池セルの異なる領域の温度を調整できる位置に配置しうる。すなわち、第1独立冷却水流路1820は空気流路の上流の温度を調整可能な位置に、第2独立冷却水流路1830は空気流路の下流の温度を調整可能な位置に配置しうる。
【0102】
第1独立冷却水流路1820を流れる冷却水の温度は第3熱交換器1821のラジエータファン1821aの回転数を変えることにより単独に調整可能であり、冷却水量は第1冷却水ポンプ1822により独自に調整可能である。また、第2独立冷却水流路1830を流れる冷却水の温度は第4熱交換器1831のラジエータファン1831aの回転数を変えることにより単独に調整可能であり、冷却水量は第2冷却水ポンプ1832により独自に調整可能である。したがって、2つの独立冷却水流路で独立した温度調整が可能であるため、燃料電池セル内部で2つの温度領域が設定できることとなり、燃料電池セル内部の温度バラツキをより軽減し空気極側のリザーバ全体における充填率をより均一化しうる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0103】
図19は、リザーバの空気流路が形成された部分の構造を示す説明図である。リザーバには、冷却板の第1独立冷却水流路に冷却水を供給するための第1冷却水入口1904と第1独立冷却水流路を流れた冷却水を流出させるための第1冷却水出口1906aが設けられる。さらに、第2独立冷却水流路に冷却水を供給するための第2冷却水入口1906bと第2独立冷却水流路を流れた冷却水を流出させるための第2冷却水出口1905が設けられる。
【0104】
図20は、冷却板の構造を示す説明図である。冷却板には第1独立冷却水流路2010および第2独立冷却水流路2020からなる冷却水流路を設ける。第1独立冷却水流路2010には、第1冷却水入口2004、第1冷却水出口2006aを設ける。第2独立冷却水流路2020には、第2冷却水入口2006b、第2冷却水出口2005を設ける。第1冷却水入口2004から流入した冷却水は、第1独立冷却水流路2010を流れ第1冷却水出口2006aから流出する。第2冷却水入口2006bから流入した冷却水は、第2独立冷却水流路2020を流れ第2冷却水出口2005から流出する。それぞれの独立冷却水流路の冷却水出口から流出した冷却水は、それぞれ個別に設けられた熱交換器および冷却水ポンプを通ることにより冷却水流量および冷却水温度が調整され、それぞれの冷却水入口から再流入することにより冷却水流路を還流する。
【0105】
ここで、冷却板に温水を流すことにより、2つの独立冷却水流路で独立した温度調整をしてもよい。燃料電池セル内部で2つの温度領域が設定できることとなり、燃料電池セル内部の温度バラツキをより軽減し空気極側のリザーバ全体における充填率をより均一化しうる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0106】
また、冷却板は燃料電池セルごとに設置するが、これに限定されない。すなわち、燃料電池スタック内の燃料電池セル積層構造の任意の箇所に挿入してもよい。これにより、燃料電池スタック内に複数の温度領域を設けることができ、燃料電池スタックを構成する燃料電池セルのリザーバの充填率を均一化し、イオン液体の漏洩を防止することができる。
【0107】
ここで、コンプレッサ、第1熱交換器、空気バイパス流路、空気バイパス流路制御バルブ、第5熱交換器は本発明の空気供給手段に、第3熱交換器、第4熱交換器、第1冷却水ポンプ、第2冷却水ポンプは冷却手段に相当する。温度センサ、水蒸気圧センサ、イオン伝導度センサ、コントロールユニットは検出手段に、コントロールユニットは制御手段に相当する。
【0108】
本発明の第2実施形態に係る燃料電池の運転方法は、第1実施形態が有する効果に加えて、以下の効果を有する。
・リザーバの充填率調整の自由度をさらに拡大することができる。
・リザーバの空気流路方向でより均一な充填率を達成することができる。
[第3実施形態]
図21は、本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。第2実施形態と異なる点は、第3実施形態は、空気バイパス流路を流れる空気の湿度を調整する加湿システムをさらに備えている点である。第1および第2実施形態と重複する説明は省略する。
【0109】
加湿システム2150は、水噴霧により空気を加湿する加湿器、加湿器に水を供給するポンプ、ポンプに供給する水を貯留する水タンクを有してなるが、これに限定されない。加湿システム2150は、空気バイパス流路2114に設置され、空気バイパス流路を流れる空気を加湿して湿度を上昇させる。空気バイパス流路1814は、空気流路の中間点に接続され、空気バイパス流路制御バルブ2115を開くことにより空気流路の該中間点から加湿システム2150により加湿された空気を流入させることができる。空気バイパス流路の温度は、第5熱交換器2140のラジエータファン2140aの回転数を変えることにより単独に調整しうる。
【0110】
図22は、第3充填率上昇サブルーチンを示す図である。第3充填率上昇サブルーチンは、第1実施形態で説明した、ステップS1320の第2充填率上昇サブルーチンに相当する。すなわち、第3充填率上昇サブルーチンは、第2充填率上昇サブルーチンに代替して実施しうる。
【0111】
以下、第3充填率上昇サブルーチンについて説明する。
【0112】
〔S2200〕
空気バイパス流路の空気を加湿する。
【0113】
空気バイパス流路の空気を加湿することにより、空気流路下流付近のリザーバの水蒸気圧Pが上昇し、相対水蒸気圧P/Pが上昇するため、空気流路下流付近のリザーバの充填率を上昇させる方向に調整することができ、空気極側のリザーバ全体における充填率を均一化しうる。すなわち、空気流路下流付近で凝縮する水の量が空気流路上流付近で凝縮する水の量と比較して少なくなるというバラツキの要因をなくすことにより、空気流路方向でより均一な充填率を達成することができる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0114】
ここで、コンプレッサ、第1熱交換器、空気バイパス流路、空気バイパス流路制御バルブ、第5熱交換器は本発明の空気供給手段に、第3熱交換器、第4熱交換器、第1冷却水ポンプ、第2冷却水ポンプは冷却手段に相当する。温度センサ、水蒸気圧センサ、イオン伝導度センサ、コントロールユニットは検出手段に、コントロールユニット、加湿システムは制御手段に相当する。
【0115】
本発明の第3実施形態に係る燃料電池の運転方法は、第1および第2実施形態が有する効果に加えて、以下の効果を有する。
・空気の加湿によりリザーバの充填率を上昇させるため、応答性よく充填率を上昇させることができる。
[第4実施形態]
図23は、本発明の第4実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。第1実施形態と異なる点は、第4実施形態は、空気流路における空気の流れる方向を逆転させるための4つのバルブ2360〜2363をさらに有している点である。
【0116】
図23の4つのバルブ2360〜2363のうち黒色で示した第1方向変換バルブおよび第4方向変換バルブは閉じた状態のバルブであり、白色で示した第2方向変換バルブおよび第4方向変換バルブは開いた状態のバルブである。すなわち、図23は、空気流路における空気の流れ方向を逆転させた状態を示している。
【0117】
例えば、一定時間おきに空気流路における空気の流れる方向を逆転させることにより、空気流路の下流および下流付近で凝縮する水の量を平均化できるため、空気流路方向でさらに均一な充填率を達成することができる。また、リザーバの充填率を均一化することは局所的なイオン液体の漏洩の防止に繋がる。
【0118】
ここで、コンプレッサ、第1熱交換器、空気バイパス流路、空気バイパス流路制御バルブは本発明の空気供給手段に、第3熱交換器、冷却水バイパス流路、冷却水バイパス流路制御バルブは冷却手段に相当する。温度センサ、水蒸気圧センサ、イオン伝導度センサ、コントロールユニットは検出手段に、コントロールユニット、第1〜第4方向変換バルブは制御手段に相当する。
【0119】
本発明の第4実施形態に係る燃料電池の運転方法は、第1実施形態が有する効果に加えて、以下の効果を有する。
・リザーバの空気流路方向でさらに均一な充填率を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】燃料電池スタックの全体構成を示す斜視図である。
【図2】燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの断面構造を説明するための説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図4】燃料電池セルの内部構造の断面を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムのリザーバの空気流路が形成された部分の構造を示す説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの冷却板の構造を示す説明図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムを実施するためのフローチャートである。
【図8】空気極側リザーバの充填率導出サブルーチンを示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの燃料電池セルの空気極側に設置された水蒸気圧センサ、イオン伝導度センサ、セル温度センサの位置を示すための説明図である。
【図10】混合液の蒸気圧曲線を示す図である。
【図11】水濃度C、C、Cの混合液について計測し記憶させたイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。
【図12】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムのイオン伝導度センサの構成を示す説明図である。
【図13】イオン伝導度比とリザーバの充填率との関係のグラフを示す図である。
【図14】第1充填率低下サブルーチンを示す図である。
【図15】第2充填率低下サブルーチンを示す図である。
【図16】第1充填率上昇サブルーチンを示す図である。
【図17】第2充填率上昇サブルーチンを示す図である。
【図18】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図19】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムのリザーバの空気流路が形成された部分の構造を示す説明図である。
【図20】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの冷却板の構造を示す説明図である。
【図21】本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図22】第3充填率上昇サブルーチンを示す図である。
【図23】本発明の第4実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0121】
1 燃料電池スタック、
2 燃料電池セル、
200 空気極、
210 リザーバ、
220 空気流路、
230 マトリクス、
240 燃料極、
250 燃料流路、
300 燃料電池スタック、
301 温度センサ(検出手段)、
302 イオン伝導度センサ(検出手段)、
303 水蒸気圧センサ(検出手段)、
304 第1熱交換器(空気供給手段)、
304a 第1ラジエータファン、
305 コンプレッサ(空気供給手段)、
306 水素タンク、
307 プレッシャレギュレータ、
308 第2熱交換器、
309 冷却水ポンプ、
310 第3熱交換器(冷却手段)、
310a 第2レジエータファン、
311 2次電池、
312 インバータ、
313 コントロールユニット(検出手段、制御手段)、
314 空気バイパス流路(空気供給手段)、
315 空気バイパス流路制御バルブ(空気供給手段)、
316 冷却水バイパス流路(冷却手段)、
317 冷却水バイパス流路制御バルブ(冷却手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を含浸したマトリクスと、前記マトリクスを介し燃料極と対向して付設された空気極と、前記空気極を通じて前記マトリクスにイオン液体を補給するリザーバと、を含む燃料電池セルと、
前記リザーバ内のイオン液体の量または前記イオン液体と前記燃料電池セル内で生じた凝縮水とが混合した混合液の量を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した結果をもとに、前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量をあらかじめ定めた設定範囲内に制御する制御手段と、
を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内に設けられた空気流路を通じて空気を供給する空気供給手段がさらに設けられ、
前記空気供給手段は、前記燃料電池セル内の空気流路に接続され前記空気を流入可能な少なくとも1つの空気バイパス流路を有し、
前記制御手段は、前記空気バイパス流路に流れる前記空気の流量を調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御するバイパス空気流量調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内に設けられた空気流路を通じて空気を供給する空気供給手段がさらに設けられ、
前記空気供給手段は、前記燃料電池セル内の空気流路に接続され前記空気を流入可能な少なくとも1つの空気バイパス流路を有し、
前記制御手段は、前記空気バイパス流路の空気の温度を単独に調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御するバイパス空気温度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内の冷却水流路に冷却水を流して前記燃料電池セルを冷却する冷却手段がさらに設けられ、
前記冷却手段は、前記冷却水流路に接続され前記冷却水を還流可能な少なくとも1つの冷却水バイパス流路を有し、
前記制御手段は、前記冷却水バイパス流路に流れる冷却水の流量を調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御するバイパス冷却水流量調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内の冷却水流路に冷却水を流して前記燃料電池セルを冷却する冷却手段がさらに設けられ、
前記冷却手段は、前記冷却水流路に接続され前記冷却水を還流可能な少なくとも1つの冷却水バイパス流路を有し、
前記制御手段は、前記冷却水バイパス流路に流れる冷却水の温度を単独に調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御するバイパス冷却水温度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内の冷却水流路に冷却水を流して前記燃料電池セルを冷却する冷却手段がさらに設けられ、
前記冷却水流路は互いに独立した複数の独立冷却水流路からなり、
前記制御手段は、前記独立冷却水流路に流れる冷却水の温度をそれぞれ単独に調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御する独立冷却水温度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池セルには、前記燃料電池セル内に設けられた空気流路を通じて空気を供給する空気供給手段がさらに設けられ、
前記空気供給手段は、前記燃料電池セル内の空気流路に接続され前記空気を流入可能な少なくとも1つの空気バイパス流路を有し、
前記制御手段は、前記空気バイパス流路に流れる前記空気の湿度を単独に調整し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御する空気湿度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記燃料セルまたは前記燃料電池セルを積層した燃料電池スタック内に少なくとも2つの温度領域を設定し前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御する温度領域設定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記空気流路における前記空気の流れる方向を逆転させ前記リザーバ内のイオン液体の量または前記混合液の量を制御する空気流れ方向逆転手段を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2010−15933(P2010−15933A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176951(P2008−176951)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】