説明

燃料電池システム

【課題】暖機を阻害することなく燃料電池の温度検出性能を向上できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池10から排出された冷媒をラジエータ42で冷却し、燃料電池10に戻す第1冷媒循環路41Aと、第1冷媒循環路41Aの冷媒量よりも少なく設定された第2冷媒循環路41Bとを備えている。燃料電池10を低温起動する場合には、第1冷媒ポンプ44の駆動を停止した状態において、第2冷媒ポンプ45を駆動して、燃料電池10と第2冷媒循環路41Bとの間で冷媒を循環させることにより、温度センサ52によって燃料電池10の温度を正確に検出することができ、また燃料電池10が過度に冷却されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を循環させて燃料電池を冷却する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムでは、発電時における燃料電池の過加熱を防止するために、燃料電池内に冷媒を循環させて燃料電池を冷却する冷却系を備えている。しかし、燃料電池システムが低温(例えば、氷点下)の環境下で起動される場合には燃料電池の暖機を行うことが行われる。しかし、低温環境下でのシステム起動時に冷媒を循環させると、燃料電池が冷却されて暖機が阻害されるため、冷媒の流れを遮断するなどして暖機を促進する技術が提案されている。しかし、燃料電池の温度は、冷媒で検出することが多く行われているため、冷媒の流れを遮断すると燃料電池の温度を検出することができなくなる。そこで、燃料電池の温度を検出するために、冷媒を循環させる冷媒ポンプを間欠的に動作させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−518077号公報(段落0011、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のように燃料電池に供給される冷媒を間欠的に循環させると、燃料電池の温度と冷媒の温度とが乖離してしまい、燃料電池の温度を正確に把握することが困難になるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、暖機を阻害することなく燃料電池の温度検出性能を向上できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、反応ガスが供給され発電を行う燃料電池と、前記反応ガスが流通する反応ガスデバイスと、前記燃料電池から排出された冷媒を熱交換器で冷却し、前記燃料電池に戻す第1冷媒循環路と、前記第1冷媒循環路に冷媒を循環させる第1循環手段と、前記燃料電池から排出された冷媒の温度を検出する温度検出手段と、を有し、前記温度検出手段の検出値に基づいて前記燃料電池の制御を行う燃料電池システムであって、前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限する流量制限手段と、前記第1冷媒循環路の前記第1循環手段の上流側から分岐して前記第1循環手段の下流側に合流するとともに、前記第1冷媒循環路に比べて冷媒量が少なく設定された第2冷媒循環路と、前記第2冷媒循環路に冷媒を循環させる第2循環手段と、前記第2冷媒循環路に配置され、前記反応ガスデバイスと熱交換する熱交換部と、を有し、前記流量制限手段により前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限する際には前記第2冷媒循環路に冷媒を流通させることを特徴とする。
【0007】
これによれば、第2循環手段により第2冷媒循環路に冷媒を循環させることができるので、第1冷媒循環路における冷媒の循環制限時であっても温度検出手段によって燃料電池の温度検出を正確に行うことができる。したがって、燃料電池の制御を的確に行うことが可能になる。
【0008】
しかも、第2冷媒循環路に流れる冷媒量が第1冷媒循環路に流れる冷媒量よりも少なくなるように設定されているので、通常発電時に流れる流量の冷媒で燃料電池が冷却されることがないので、燃料電池が過度に冷却されるのを防止することが可能になる。
【0009】
さらに、燃料電池の発電時の熱で温められて排出された冷媒を熱交換部に流通させて反応ガスデバイスとの間で熱交換が行われるように構成したので、反応ガスデバイスを昇温(凍結時には解氷)することが可能になる。
【0010】
なお、反応ガスデバイスとは、例えば、燃料電池のアノード側から排出された生成水と反応ガスとを分離する気液分離器、燃料電池のカソード側の圧力を制御する背圧制御弁である。
【0011】
また、前記第2冷媒循環路での冷媒の循環を停止するか否かを判定する冷媒循環停止可否判定手段を有し、前記冷媒循環停止可否判定手段により冷媒の循環を停止すると判定した際には前記第2冷媒循環路における冷媒の循環を停止するとともに、前記第1冷媒循環路のみに冷媒を循環させることを特徴とする。
【0012】
これによれば、冷媒が第2冷媒循環路を流れなくなるので、冷媒が反応ガスデバイスから受け取る熱量がなくなり、燃料電池を冷却する際の冷却性能を向上できる。しかも、第2冷媒循環路に冷媒を無駄に循環させることがないので、第2循環手段によって消費される分の電力を削減できる。なお、冷媒循環停止可否判定手段は、例えば、燃料電池の暖機が完了したか、言い換えると燃料電池の温度が暖機完了の温度に達したかどうかに基づいて判断することができる。
【0013】
また、前記燃料電池を低温起動するか否かを判定する低温起動判定手段を有し、前記低温起動判定手段により低温起動すると判定された際には、前記流量制限手段により前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限するとともに前記第2冷媒循環路に冷媒を循環させ、前記低温起動判定手段により低温起動しないと判定された際には、前記第1冷媒循環路の冷媒の流量を制限しないことを特徴とする。
【0014】
これによれば、低温起動する場合には第1冷媒循環路における冷媒の流量制限を行うので燃料電池の低温起動性を向上することができ、低温起動しない場合、つまり比較的高い温度で起動(常温で起動)する場合には、流量制限を行わず、燃料電池に冷却に十分な流量の冷媒が供給されるため、燃料電池が過加熱になるのを防止でき、燃料電池の劣化を抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、暖機を阻害することなく燃料電池の温度検出性能を向上できる燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態の燃料電池システムにおける冷媒循環制御を示すフローチャートである。
【図3】第1実施形態の燃料電池システムにおける冷媒循環制御の変形例を示すフローチャートである。
【図4】燃料電池の温度と第1循環ポンプの回転速度との関係を示すマップである。
【図5】第2実施形態の燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図6】燃料電池の温度と流量制御弁の開度との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下では、本実施形態の燃料電池システム1A,1Bを燃料電池自動車(図示せず)に適用した場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、船舶や航空機、あるいは家庭用や業務用の定置式のものなど電気を必要とする様々なものに適用できる。
【0018】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態の燃料電池システム1Aは、燃料電池10、アノード系20、カソード系30、冷媒系40、制御系50などで構成されている。
【0019】
燃料電池10は、例えば、PEM(Proton Exchange Membrane)型の燃料電池であり、MEA(Membrane Electrode Assembly)を、一対の導電性のセパレータ(図示せず)で挟んで構成した単セルを厚み方向に複数積層し、電気的に直列に接続した構造を有している。なお、MEAは、固体高分子からなる電解質膜を、触媒を含むアノード(水素極)とカソード(酸素極)とで挟んでなる膜電極接合体である。また、アノードに対向するセパレータには、反応ガスとしての水素(燃料ガス)が流通するアノード流路10aが形成され、カソードに対向するセパレータには、反応ガスとしての酸素を含む空気(酸化剤ガス)が流通するカソード流路10bが形成されている。また、セパレータには、冷媒が流通する冷媒流路10cが形成されている。
【0020】
このような燃料電池10では、アノードに水素が、カソードに空気(酸素)がそれぞれ供給され、水素と酸素との化学反応により発電が可能になり、またカソードでは水が生成される。燃料電池10から取り出された発電電力(発電電流)は、走行モータ(図示せず)、後記するエアポンプ31、第1冷媒ポンプ44、第2冷媒ポンプ45、蓄電装置(図示せず)などの外部負荷に供給される。
【0021】
アノード系20は、燃料電池10のアノードに水素(燃料ガス)を供給し、かつ、アノードからアノードオフガス(水素など)を排出するものであり、水素タンク21、遮断弁22、エゼクタ23、気液分離器(反応ガスデバイス)24、ドレイン弁25、パージ弁26、配管a1〜a7などで構成されている。
【0022】
また、アノード系20では、水素タンク21が、配管a1、遮断弁22、配管a2、エゼクタ23、配管a3を介して燃料電池10のアノード流路10aの入口と接続されている。燃料電池10のアノード流路10aの出口は、配管a4、気液分離器24、配管a5を介してエゼクタ23と接続され、また配管a6およびドレイン弁25を介して車外に連通し、また配管a7およびパージ弁26を介して車外に連通している。
【0023】
遮断弁22は、例えば電磁作動式のものであり、後記するECU51によって開閉制御される。
【0024】
エゼクタ23は、水素タンク21から供給される水素の流れを利用して負圧を発生させ、この負圧によってアノードオフガスを吸引、混合して、再びアノードに供給するようになっている。
【0025】
気液分離器24は、重力によって水素と水を分離して、水を貯留する貯留部を有している。さらに説明すると、アノードオフガスとともに流れる生成水が、配管a4から気液分離器24内に導入されることにより、流路断面積が拡大して流速が落ちることによって、アノードオフガスと生成水とが分離して貯留部に生成水が溜まるようになっている。
【0026】
ドレイン弁25は、例えば、電磁作動式のものであり、後記するECU51によって定期的に開弁されて、気液分離器24に貯留した水を車外(システム外部)に排出する。
【0027】
パージ弁26は、例えば、電磁作動式のものであり、後記するECU51によって定期的に開弁されて、水素循環路(配管a3〜a5およびアノード流路10a)に含まれる窒素などの不純物を車外に排出する。なお、窒素などの不純物は、カソードから電解質膜を介してアノードに透過したものである。
【0028】
カソード系30は、燃料電池10のカソードに空気(酸化ガス)を供給し、かつ、カソードからカソードオフガス(湿潤な空気など)を排出するものであり、エアポンプ31、背圧制御弁(反応ガスデバイス)32、配管b1〜b3などで構成されている。
【0029】
また、カソード系30では、エアポンプ31が、配管b1を介して燃料電池10のカソード流路10bの入口に接続される。また、燃料電池10のカソード流路10bの出口は、配管b2、背圧制御弁32、配管b3を介して車外に連通している。
【0030】
エアポンプ31は、例えばモータにより駆動される機械式の過給器であり、ECU51の制御により取り込んだ外気(空気)を圧縮して、カソードに供給する。なお、配管b1には、エアポンプ31からの空気を加湿する加湿器(図示せず)が設けられている。
【0031】
背圧制御弁32は、例えばバタフライ弁などの開度調整が可能な弁であり、カソードに供給される圧力を適宜調節するようになっている。
【0032】
冷媒系40は、第1冷媒循環路41Aと第2冷媒循環路41Bとで構成されている。
【0033】
第1冷媒循環路41Aは、燃料電池10とラジエータ(熱交換器)42との間で冷媒を循環させて燃料電池10を冷却するものであり、配管c1〜c5を備えている。また、第1冷媒循環路41Aには、サーモスタット43、第1冷媒ポンプ(第1循環手段)44が設けられている。なお、冷媒は、例えば、エチレングリコールを主成分とするものが使用される。
【0034】
ラジエータ42は、放熱性の高い金属材料などで形成された配管、フィンなどで構成され、燃料電池10の発電時に発生する熱で温められた冷媒を放熱させるものであり、配管c1を介して燃料電池10の冷媒流路10cの出口10c2と接続され、配管c2,c4,c5を介して冷媒流路10cの入口10c1と接続されている。
【0035】
サーモスタット43は、配管c2を介してラジエータ42の冷媒出口と接続され、配管c3を介してラジエータ42をバイパスする配管c3と接続され、配管c4を介して第1冷媒ポンプ44と接続されている。また、サーモスタット43は、冷媒の温度に応じて、冷媒の流路がラジエータ42側、またはラジエータ42をバイパスする側に切替わるものである。この切替えは、例えばワックスが温度によって体積を変化させることによりなされるものであってもよく、例えばECU51からの信号により電気的に切替えが行われるものであってもよい。
【0036】
第1冷媒ポンプ44は、モータを動力源として冷媒を循環させるものであり、配管c5を介して冷媒流路10cの入口10c1と接続されている。第1冷媒ポンプ44は、ECU51によってモータの回転速度が制御されることにより、第1冷媒循環路41Aに流れる冷媒の流量が調整される。例えば、モータの回転速度を制限(低下)することにより、第1冷媒循環路41Aを流れる冷媒の流量が通常の発電時よりも制限され、または0に設定される。
【0037】
第1冷媒ポンプ44がECU51によって駆動されることにより、冷媒流路10cの出口10c2から排出された冷媒が、配管c1、ラジエータ42、配管c2、配管c4、配管c5を通って、および/または配管c1、配管c3、配管c4、配管c5を通って冷媒流路10cの入口10c1に戻るように循環する。
【0038】
第2冷媒循環路41Bは、低温起動時に使用される流路であり、配管c10〜c14を備えている。また、第2冷媒循環路41Bは、冷媒流路10cの出口10c2に接続された配管c1から分岐して形成され、気液分離器24に設けられた熱交換部24aおよび背圧制御弁32に設けられた熱交換部32aを通って、冷媒流路10cの入口10c1に接続された配管c5に合流するように構成されている。
【0039】
また、第2冷媒循環路41B(配管c10〜c14)が保有する冷媒量は、例えば、配管径が配管c1〜c5よりも細く、および/または、配管長が第1冷媒循環路41A(配管c1〜c5)よりも短くなるように形成されて、配管c1〜c5が保有する冷媒量よりも少なくなるように構成されている。つまり、配管c10〜c14が保有する冷媒量は、冷媒を循環させたときに、燃料電池10の起動時における燃料電池10の昇温(暖機)を阻害しない(速やかに行なう)程度の冷媒量に設定される。
【0040】
なお、第2冷媒循環路41Bの上流側の分岐部P1と下流側の合流部P2は、冷媒流路10cの出口10c2、入口10c1の近傍に配置することが、第2冷媒循環路41Bの冷媒量を少なくする点において有効である。
【0041】
また、第2冷媒循環路41Bには、第2冷媒ポンプ(第2循環手段)45、逆止弁46、熱交換部24a,32aが設けられている。
【0042】
第2冷媒ポンプ45は、モータを動力源として冷媒を循環させるものであり、配管c10を介して配管c1と接続され、配管c11を介して熱交換部32aの入口と接続されている。熱交換部32aの出口は、配管c12を介して熱交換部24aの入口と接続され、熱交換部24aの出口は、配管c13を介して逆止弁46と接続されている。逆止弁46は、配管c14を介して配管c5と接続されている。
【0043】
第2冷媒ポンプ45がECU51によって駆動されることにより、冷媒流路10cの出口10c2から排出された冷媒が、配管c1、配管c10、配管c11、熱交換部32a、配管c12、熱交換部24a、配管c13、配管c14、配管c5を介して冷媒流路10cの入口10c1に戻るように循環する。
【0044】
逆止弁46は、配管c13から配管c14に向かう冷媒の通流のみを許容する弁で構成され、第1冷媒ポンプ44が駆動されたときに、冷媒が第2冷媒循環路41Bを逆流しないようになっている。
【0045】
熱交換部24aは、冷媒が流通することにより、気液分離器24と冷媒との間で熱交換を行うもの、つまり冷媒の熱で気液分離器24を温めるものであり、例えば、気液分離器24をいわゆるウォータジャケットと称される流路で覆った構成である。
【0046】
同様に、熱交換部32aについても、背圧制御弁32と冷媒との間で熱交換を行うもの、つまり冷媒の熱で背圧制御弁32を温めるものであり、例えば、背圧制御弁32をいわゆるウォータジャケットと称される流路で覆った構成である。
【0047】
制御系50は、ECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)51、温度センサ(温度検出手段)52などで構成されている。温度センサ52は、燃料電池10の温度(以下、FC温度と略記する)を検出するものであり、冷媒流路10cの出口10c2近傍の配管c1に設けられている。
【0048】
ECU51は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)などで構成されている。
【0049】
流量制限手段は、第1冷媒循環路41Aを流れる冷媒の流量を制限する手段であり、第1冷媒ポンプ44のモータの回転速度を制限して、第1冷媒循環路41Aと燃料電池10との間で冷媒が循環しないようになっている。なお、図1に示す燃料電池システム1Aでは、ECU51の制御によって流量制限手段が構成され、図5に示す後記する燃料電池システム1Bでは、流量制御弁47とECU51によって流量制限手段が構成されている。
【0050】
冷媒循環停止可否判定手段は、第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御を停止するか否かを判断する手段であり、例えば、燃料電池システム1Aの起動時に行われる暖機処理が完了したか否かによって判断できる。なお、暖機処理とは、例えば、常温で起動する場合の通常流量より多い流量、通常圧力より高い圧力で空気を供給して、燃料電池10における自己発熱量を高めるようなものであってもよく、常温で起動する場合の流量、圧力の空気を供給するものであってもよい。暖機完了の判断は、FC温度に基づいて判断することができ、FC温度が所定温度以上となったときに暖機完了と判断できる。
【0051】
低温起動判定手段は、燃料電池10を低温起動するか否かを判定する手段であり、例えば、FC温度に基づいて判断できる。FC温度が所定温度(例えば、氷点下)以下であるときに燃料電池10を低温起動すると判断する。なお、FC温度に限定されるものではなく、例えば、アノード側の出口温度、カソード側の出口温度、外気温度などに基づいて判定してもよい。
【0052】
次に、第1実施形態の燃料電池システム1Aの動作について図2を参照して説明する。運転者によって車両のイグニッションスイッチがオン(IG−ON)にされると、ECU51は、ステップS10において、燃料電池10を低温起動するか否か、つまり燃料電池10を暖機運転するか否かを判断する(低温起動判定手段)。ステップS10において、ECU51は、低温起動すると判断した場合には(Yes)、ステップS20に進み、フラグ「1」を設定し、低温起動しない、つまり通常起動(常温起動)すると判断した場合には(No)、ステップS30に進み、フラグ「0」を設定する。なお、設定したフラグは、RAMに記憶される。
【0053】
そして、ステップS40に進み、ECU51は、燃料電池(FC:Fuel Cell)10の発電を開始する。すなわち、ECU51は、遮断弁22を開いて水素タンク21からアノードに水素を供給し、エアポンプ31を駆動してカソードに空気を供給することにより発電を開始する。
【0054】
そして、ステップS50に進み、ECU51は、RAMに記憶されたフラグを参照して、フラグが「1」であるかどうかを判断し、フラグが「1」である場合には(Yes)、ステップS60Aに進み、フラグが「0」である場合には(No)、ステップS130に進む。
【0055】
フラグが「1」である場合、ステップS60Aにおいて、ECU51は、第1冷媒循環路41Aに冷媒を循環させるのを制限する循環制限制御を開始する。すなわち、ECU51は、第1冷媒ポンプ44が停止して、第1冷媒循環路41A(ラジエータ42)と燃料電池10との間で冷媒が循環しないように制御する。これにより、第1冷媒循環路41A(ラジエータ42)を通ることによって過度に冷却された冷媒が燃料電池10内を循環することがなくなる。
【0056】
そして、ステップS70に進み、ECU51は、第2冷媒循環路41Bに冷媒を循環させる循環制御を開始する。すなわち、ECU51は、第2冷媒ポンプ45を駆動して、第2冷媒循環路41Bと燃料電池10との間で冷媒が循環するように制御する。本実施形態では、第2冷媒循環路41Bを流れる冷媒量が第1冷媒循環路41Aを流れる冷媒量よりも少なく設定されているので、第2冷媒循環路41Bを通過した冷媒が燃料電池10内に導入されたとしても、燃料電池10が過度に冷却されることはない。
【0057】
また、燃料電池10の発電時の熱で温められた冷媒が熱交換部32a,24aに導入されることにより、冷媒と背圧制御弁32との間、および冷媒と気液分離器24との間で、それぞれ熱交換が行われ、冷媒が保持する熱によって背圧制御弁32および気液分離器24が温められる。
【0058】
そして、ステップS80に進み、ECU51は、温度センサ52によってFC温度を検出する。第2冷媒循環路41Bに冷媒を流すことにより、燃料電池10内を冷媒が連続して流れるようになるので、ECU51が温度センサ52の検出値を監視することにより、FC温度を正確に検出することが可能になる。
【0059】
そして、ステップS90に進み、ECU51は、第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御を停止させることが可能であるかを判断する(冷媒循環停止可否判定手段)。なお、この場合、FC温度(温度センサ52で検出した冷媒温度)が所定温度(例えば、15℃)以上になったかどうかによって判断できる。ステップS90において、ECU51は、FC温度が所定温度以上ではないと判断したときには(No)、ステップS80の処理に戻り、FC温度が所定温度以上であると判断した場合には(Yes)、ステップS100に進む。
【0060】
ステップS100において、ECU51は、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒循環制限制御を終了(解除)する。
【0061】
そして、ステップS110に進み、ECU51は、第1冷媒循環路41Aに冷媒を循環させる循環制御を開始する。すなわち、ECU51は、第1冷媒ポンプ44のモータの回転速度を通常運転時(定格運転時)に設定された回転速度に設定する。これにより、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒の循環が開始され、冷媒流路10cの出口10c2から排出された冷媒が、配管c1,c3,c4,c5を通って冷媒流路10cの入口10c1に戻るように循環する。さらに、冷媒の温度が上昇した場合には、サーモスタット43によって流路が切り替わり、燃料電池10とラジエータ42との間で冷媒が循環するようになる。
【0062】
そして、ステップS120に進み、ECU51は、第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御を停止する。すなわち、ECU51は、第2冷媒ポンプ45の駆動を停止して、第2冷媒循環路41Bに冷媒が流れないようになる。
【0063】
なお、第2冷媒循環路41Bには逆止弁46が設けられているので、第1冷媒循環路41Aと燃料電池10との間での冷媒の循環が開始されたとしても、冷媒が合流部P2から配管c14側に逆流することはなく、また第2冷媒ポンプ45が停止しているので、分岐部P1から配管c10側に流入することもない。
【0064】
一方、ステップS50においてフラグが「0」である場合(No)、ステップS130において、ECU51は、第1冷媒循環路41Aに冷媒を循環させる循環制御を開始する。つまり、低温起動を行わない場合には、第1冷媒循環路41Aの冷媒の流量を制御することなく(第2冷媒循環路41Bに冷媒を循環させることなく)、直ちに第1冷媒ポンプ44を駆動して、第1冷媒循環路41Aに冷媒を循環させる。
【0065】
そして、ステップS140に進み、ECU51は、FC温度を温度センサ52によって検出する。
【0066】
以上説明したように、第1実施形態の燃料電池システム1Aによれば、燃料電池10との間で冷媒が循環する第2冷媒循環路41Bを設けて、低温起動時などに第2冷媒循環路41Bに冷媒を循環させることで、第1冷媒循環路41Aの冷媒循環制限時であっても温度センサ52によってFC温度の検出を行うことができ、しかも冷媒を連続的に循環させているのでFC温度を正確に検出することが可能になる。したがって、従来と比較して温度検出性能を向上させることができる。
【0067】
さらに、第1実施形態によれば、第2冷媒循環路41Bに流れる冷媒量が第1冷媒循環路41Aに流れる冷媒量よりも少なくなるように設定されているので、燃料電池10の低温起動時などに燃料電池10が過度に冷却されて燃料電池10の暖機が阻害されるのを防止することが可能になる。
【0068】
さらに、第1実施形態によれば、燃料電池10から排出された温かい冷媒を熱交換部24a,32aに流通させて反応ガスデバイス(気液分離器24、背圧制御弁32)との間で熱交換が行われるように構成したので、反応ガスデバイスを昇温させることができ、またこれら反応ガスデバイスが凍結している場合にあっては解氷させることが可能になり、反応ガスデバイスの暖機性能を向上できる。
【0069】
さらに、第1実施形態によれば、冷媒循環停止可否判定手段(S90)により、冷媒が第2冷媒循環路41Bを流れなくなるので(S120)、冷媒が反応ガスデバイスから受け取る熱量がなくなり、反応ガスデバイスによって温められた冷媒が燃料電池10に戻ることがなく、燃料電池10を冷却する際の冷却性能を向上できるようになる。しかも、第2冷媒循環路41Bに冷媒を無駄に循環させることがないので、第2冷媒ポンプ45を駆動させるための電力を削減でき、省電力化を図ることが可能になる。
【0070】
さらに、第1実施形態によれば、低温起動判定手段(S10)により、燃料電池10を低温起動する場合には第1冷媒循環路41Aにおける冷媒の流量制限を行うので燃料電池10の低温起動性を向上することができ、逆に低温起動しない場合には冷媒の流量制限を行わないので燃料電池10が過加熱になるのを防止でき、燃料電池10の劣化を抑制することが可能になる。
【0071】
図3は第1実施形態の燃料電池システムにおける冷媒循環制御の変形例を示すフローチャート、図4は燃料電池の温度と第1循環ポンプの回転速度との関係を示すマップである。なお、図3に示すフローチャートは、図2に示すフローチャートのステップS60AをステップS60Bに替え、さらにステップS100,S110を削除した点が相違している。また、図2と同様な処理については、同一のステップ符号を示し、重複した説明を省略する。
【0072】
すなわち、ステップS60Bは、低温起動を行うと判断した場合(S50,Yes)であり、このときECU51は、図4のマップに基づいて第1冷媒ポンプ44を駆動して、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒循環制限制御を開始する。図4に示すマップは、FC温度が高くなるにしたがってモータの回転速度が高く設定される。なお、このマップは、予め実験やシミュレーション等によって決定され、燃料電池10の低温起動時に暖機が損なわれない、または第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御停止時に燃料電池10が過加熱にならない回転速度となるように設定される。
【0073】
なお、図3のステップS70では、第2冷媒循環路41Bを流れる冷媒の流量が一定となるように、ECU51によって第2冷媒ポンプ45の回転速度が制御される。
【0074】
また、温度センサ52の検出値が、第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御を停止可能な温度に到達した場合には(S90、Yes)、ECU51によって第2冷媒ポンプ45の駆動を停止して、第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環を停止させる。
【0075】
(第2実施形態)
図5は第2実施形態の燃料電池システムを示す全体構成図、図6は燃料電池の温度と流量制御弁の開度との関係を示すマップである。この燃料電池システム1Bは、第1実施形態の燃料電池システム1Aにおいて、エアポンプ31の回転軸と第1冷媒ポンプ44の回転軸とが単一のモータに接続された同軸構造としたものである。つまり、モータが駆動されることにより、エアポンプ31と第1冷媒ポンプ44とが共に動作して、カソードに空気が供給されるとともに第1冷媒循環路41Aに冷媒が流通するようになる構造である。また、燃料電池システム1Bは、冷媒流路10cの入口10c1と第1冷媒ポンプ44との間の配管c6,c7に流量制御弁47を備える点において、燃料電池システム1Aと異なっている。なお、第2実施形態では、流量制御弁47とECU51とで流量制限手段が構成されている。また、その他の構成については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0076】
流量制御弁47は、第1冷媒循環路41Aを流れる冷媒の流れを制限するものであり、例えば、開度調整が可能なバタフライ弁で構成され、配管c6を介して第1冷媒ポンプ44と接続され、配管c7を介して冷媒流路10cの入口10c1と接続されている。
【0077】
第2実施形態の燃料電池システム1Bの動作については、図2および図3に示すフローチャートを適用することができ、図2に示すフローチャートを適用した場合には、ステップS60Aにおいて、ECU51によって流量制御弁47が全閉(最小開度)に設定される。これにより、エアポンプ31と共に第1冷媒ポンプ44が駆動したとしても、第1冷媒循環路41Aに冷媒が流れないようになっている。また、ステップS100において、ECU51によって流量制御弁47が全開(最大開度)に設定され、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒の循環制限制御が終了する(解除される)。
【0078】
一方、図3に示すフローチャート(変形例)を適用した場合には、ステップS60Bにおいて、ECU51によって流量制御弁47の開度がFC温度に応じて設定される。すなわち、図6のマップに基づいて流量制御弁47の開度を制御して、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒循環制限制御を行う。図6に示すマップは、FC温度が高くなるにしたがって開度が大きく設定される。なお、このマップは、予め実験やシミュレーション等によって決定され、燃料電池10の低温起動時に暖機が損なわれない、または第2冷媒循環路41Bにおける冷媒の循環制御停止時に燃料電池10が過加熱にならない開度となるように設定される。
【0079】
第2実施形態の燃料電池システム1Bによれば、第1冷媒循環路41Aにおける冷媒の循環制限制御時であっても、燃料電池10の発電によってエアポンプ31と第1冷媒ポンプ45とを駆動する電力を供給して、燃料電池10がより高い出力で発電しているので、燃料電池10の発熱量が上がり、燃料電池10の暖機性能を向上できる。
【0080】
なお、本実施形態では、第2冷媒循環路41Bの冷媒が背圧制御弁32(反応ガスデバイス)の熱交換部32aを通った後に気液分離器24(反応ガスデバイス)の熱交換部24aを通る場合を例に挙げて説明したが、冷媒が通過する順番はこれに限定されるものではなく、より暖機が必要な反応ガスデバイスに冷媒が先に流れるようにしてもよい。
【0081】
また、熱交換部24a,32aを設ける反応ガスデバイスとして、気液分離器24と背圧制御弁32を例に挙げて説明したが、これらに限定されるものではなく、低温時の凍結度合いに応じて種々変更することができる。例えば、ドレイン弁25やパージ弁26などに熱交換部を設けて暖機するようにしてもよく、あるいは図示していないが、カソード系30に設けられた加湿器に熱交換部を設けて暖機するようにしてもよい。
【0082】
また、第2冷媒循環路41Bの分岐部P1と合流部P2の位置を、冷媒流路10cの出口10c2、入口10c1の近傍に設定したが、この位置に限定されるものではなく、例えば分岐部P1の位置が第1冷媒ポンプ44の上流側であれば配管c3などの位置であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1A,1B 燃料電池システム
10 燃料電池
24 気液分離器(反応ガスデバイス)
24a 熱交換部
32 背圧制御弁(反応ガスデバイス)
32a 熱交換部
41A 第1冷媒循環路
41B 第2冷媒循環路
42 ラジエータ(熱交換器)
44 第1冷媒ポンプ(第1循環手段)
45 第2冷媒ポンプ(第2循環手段)
47 流量制御弁(流量制限手段)
51 ECU(流量制限手段、冷媒循環停止可否判定手段、低温起動判定手段)
52 温度センサ(温度検出手段)
c1〜c7 配管
c10〜c14 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが供給され発電を行う燃料電池と、
前記反応ガスが流通する反応ガスデバイスと、
前記燃料電池から排出された冷媒を熱交換器で冷却し、前記燃料電池に戻す第1冷媒循環路と、
前記第1冷媒循環路に冷媒を循環させる第1循環手段と、
前記燃料電池から排出された冷媒の温度を検出する温度検出手段と、を有し、前記温度検出手段の検出値に基づいて前記燃料電池の制御を行う燃料電池システムであって、
前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限する流量制限手段と、
前記第1冷媒循環路の前記第1循環手段の上流側から分岐して前記第1循環手段の下流側に合流するとともに、前記第1冷媒循環路に比べて冷媒量が少なく設定された第2冷媒循環路と、
前記第2冷媒循環路に冷媒を循環させる第2循環手段と、
前記第2冷媒循環路に配置され、前記反応ガスデバイスと熱交換する熱交換部と、を有し、
前記流量制限手段により前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限する際には前記第2冷媒循環路に冷媒を流通させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記第2冷媒循環路での冷媒の循環を停止するか否かを判定する冷媒循環停止可否判定手段を有し、
前記冷媒循環停止可否判定手段により冷媒の循環を停止すると判定した際には前記第2冷媒循環路における冷媒の循環を停止するとともに、前記第1冷媒循環路のみに冷媒を循環させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池を低温起動するか否かを判定する低温起動判定手段を有し、
前記低温起動判定手段により低温起動すると判定された際には、前記流量制限手段により前記第1冷媒循環路を流れる冷媒の流量を制限するとともに前記第2冷媒循環路に冷媒を循環させ、
前記低温起動判定手段により低温起動しないと判定された際には、前記第1冷媒循環路の冷媒の流量を制限しないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−182518(P2010−182518A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24467(P2009−24467)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】