説明

燃料電池システム

【課題】セルスタックの特定部位の劣化を判定する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムが、セルスタック8の出力電流を検出する電流検出手段12と、セルスタック8の出力電圧とセルスタック8の特定部位における一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧とを検出可能な電圧検出手段11と、燃料ガスの供給量、酸化剤ガスの供給量及びセルスタック8の出力電流を制御可能である制御手段13と、セルスタック8の所定部位の温度を検出する温度検出手段14とを備え、制御手段13はセルスタック8の温度が安定状態にあるとき出力電流と燃料ガスの供給量と酸化剤ガスの供給量とを一定の比率で変化させたときの電圧検出手段11による検出結果に基づいてセルスタック8の特定部位の劣化状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セルを配列してなるセルスタックを有する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、酸素イオンを伝導する固体電解質を間に挟むように、燃料ガス(水素、一酸化炭素等)が供給される燃料極及び酸化剤ガス(空気、酸素等)が供給される空気極を設けて構成される。固体電解質の材料としては一般的にはイットリアをドープしたジルコニアが用いられており、700℃から1000℃の高温で、燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学反応させて発電が行われる。固体酸化物形燃料電池は、他の燃料電池システムやガスエンジン等に比べて、特に高発電効率での発電が可能なことから、有望な発電技術として開発が行われている。
【0003】
一般的に固体酸化物形燃料電池は作動温度が高いため、発電効率が高いという特徴をもつが、高温ゆえの劣化モードが存在する。ここでいう発電性能の劣化とは、セルスタックの特定部位の劣化のことであり、具体的には、同じ発電出力を得るために必要な燃料ガスの供給量が増加することである。従って、劣化したセルスタックで劣化前と同等の発電出力を得ようとすると燃料ガスの供給量を増加させる必要があり、その場合には、燃料ガスの供給量の増加に伴ってセルスタックの温度も上昇する。また、同じ発電出力を得ようとして燃料ガスの流量を増加させると、更なる温度上昇によってセルスタックの特定部位の劣化の速度をより速めてしまうという問題がある。そのため、セルスタックの特定部位の劣化状態を判定して燃料電池システムを良好な状態に保つことが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の燃料電池システムは、セルスタックの特定部位の劣化状態を判定する際、燃料ガス、酸化剤ガス、及び、セルスタックからの出力電流を一定とし、そのとき検出されるセルスタック全体の現在の出力電圧を過去の(即ち、劣化前の初期状態の)出力電圧と比較する。そして、現在の出力電圧と過去の出力電圧との差分が予め定めた値を超えた場合に燃料電池システムが劣化したと判定する。
【0005】
特許文献2に記載の燃料電池システムは、セルスタックの出力電流電圧特性(I−V特性)の傾きを算出しその値に基づいてセルスタックの特定部位の劣化状態を判定している。
【0006】
SOFCにおけるセルスタックの特定部位の劣化は、電解質のイオン導電性や、電極、インターコネクタ及びこれらを連結する材料の電気伝導性が初期状態よりも低くなるというオーミック抵抗の上昇と、燃料電池セルでの電気化学反応における電荷の移動速度や物質移動の律速に関わる反応抵抗の上昇と、の2つに大きく分けることができる。前者のオーミック抵抗の上昇に伴う出力電圧の低下は、高抵抗の反応生成物が熱的に生成されることに起因する場合が多く、この場合の劣化状態の進行速度は比較的緩やかである。一方、反応抵抗に区分される出力電圧低下の一つに、燃料ガスや酸化剤ガスの供給不足に起因する場合がある。この場合、出力電流を多く取る条件(発電出力が高い条件)で急激に出力電圧が低下する。そして、このような燃料ガス不足や酸化剤ガス不足が生じている条件で電気化学反応を強制的におこなうため、燃料極及び空気極とその周辺の急速劣化を起こしてしまう。通常はこのような出力電圧の急な増大を生じない範囲で出力電流の上限を決定し運転する。しかしながら不慮の要因により、燃料ガスや酸化剤ガスの分配などに初期設計と異なる状態が生じた場合、通常の発電電力の制御範囲において、セルスタックの一部に拡散律速部を発生させ、その部分が急速に劣化するというリスクがあった。つまり、セルスタックの全体で均一に劣化が進行するのではなく、セルスタックの一部において劣化が進行する可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特開2007−087686号公報
【特許文献2】特開平11−195423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に記載の燃料電池システムは、出力電圧に基づいてセルスタックの特定部位の劣化状態を判定している。セルスタックの特定部位の劣化が進行しても、本来は低下するはずの出力電圧が、内部温度の上昇による影響で変動しないこともある。そのため、特許文献1及び特許文献2に記載のように、単に出力電圧のみに着目しただけでは、セルスタックの特定部位の劣化状態を正確に判定したとは言えない可能性がある。
【0009】
また、特許文献1及び特許文献2に記載の燃料電池システムが検出するのは、セルスタック全体の出力電圧である。つまり、特許文献1及び特許文献2に記載の燃料電池システムは、セルスタック全体の平均的な劣化状態を検出しているだけであり、セルスタックを構成する複数の燃料電池セルのうちの特定の燃料電池セルの出力電圧を検出することは行っていない。よって、セルスタックの特定部位の劣化状態を捉えられない。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、セルスタックの特定部位の劣化を正確に判定可能な燃料電池システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る燃料電池システムの特徴構成は、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セルを配列してなるセルスタックを有する燃料電池システムであって、
前記セルスタックの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記セルスタックの出力電圧と、前記セルスタックの特定部位における一つ又は複数の前記燃料電池セルの出力電圧とを検出可能な電圧検出手段と、
前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量及び前記セルスタックの出力電流を制御可能である制御手段と、
前記セルスタックの所定部位の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出される前記セルスタックの温度が安定状態にあるとき、前記出力電流と前記燃料ガスの供給量と前記酸化剤ガスの供給量とを一定の比率で変化させたときの前記電圧検出手段による検出結果に基づいて、前記セルスタックの特定部位の劣化状態を判定するように構成されている点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、セルスタックの温度が安定した状態でセルスタックの全部の出力電圧又はセルスタックの特定部位における燃料電池セルの出力電圧を検出することができるため、その出力電圧がセルスタックの温度の変動の影響を受けないようにできる。つまり、検出した出力電圧が温度の影響を受けない正確なものであることが確保される。また、セルスタックの特定部位における出力電圧を検出することができ、セルスタックの特定部位の劣化を検出できる。
更に、制御手段が、出力電流と燃料ガスの供給量と酸化剤ガスの供給量とを一定の比率で変化させるので、出力電流を高いほうに変化させることが比較的容易になり、そのときの電流変化幅を大きくとることができる。
従って、セルスタックの特定部位の劣化を正確に判定可能な燃料電池システムを提供できる。
【0013】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セルを積層したセルスタックを有する燃料電池システムであって、
前記セルスタックの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記セルスタックの出力電圧と、前記セルスタックの特定部位における一つ又は複数の前記燃料電池セルの出力電圧とを検出可能な電圧検出手段と、
前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量及び前記セルスタックの出力電流を制御可能である制御手段と、
前記セルスタックの所定部位の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出される前記セルスタックの温度が安定状態にあるとき、前記燃料ガスの供給量及び前記酸化剤ガスの供給量を一定のままで前記セルスタックの出力電流を変化させたときの前記電圧検出手段による検出結果に基づいて、前記セルスタックの特定部位の劣化状態を判定するように構成されている点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、セルスタックの温度が安定した状態でセルスタックの全部の出力電圧又はセルスタックの特定部位における燃料電池セルの出力電圧を検出することができるため、その出力電圧がセルスタックの温度の変動の影響を受けないようにできる。つまり、検出した出力電圧が温度の影響を受けない正確なものであることが確保される。また、セルスタックの特定部位における出力電圧を検出することができ、セルスタックの特定部位の劣化を検出できる。
更に、制御手段が、燃料ガスの供給量及び酸化剤ガスの供給量を一定のままでセルスタックの出力電流を変化させる場合(つまり、燃料利用率及び空気利用率の少なくとも一方が変化する場合)には、電流変化幅を慎重に設定する必要があるが、セルスタックの出力電流と出力電圧との関係を高感度に検知することができる。
従って、セルスタックの特定部位の劣化を正確に判定可能な燃料電池システムを提供できる。
【0015】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記電圧検出手段が出力電圧を検出する前記セルスタックの特定部位は、前記燃料ガス及び前記酸化剤ガスの流速が前記セルスタックでの平均流速よりも低くなる部位である点にある。
【0016】
出力電圧の低下として現れるセルスタックの特定部位の劣化は、上述したように、燃料ガス及び酸化剤ガスの燃料極及び空気極への供給不足によるものがある。この場合、出力電流を多く取る条件(即ち、燃料ガスや酸化剤ガスなどの供給量が多い条件)で急激に出力電圧が低下する。そして、このような燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が生じている条件で電気化学反応を強制的におこなうため、各電極とその周辺の急速劣化を起こしてしまう。
本特徴構成によれば、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速がセルスタックでの平均流速よりも低くなる部位、即ち、上述したような局所的に燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が生じている部位の出力電圧が検出されるので、その部分での局所的な劣化状態を良好に検出できる。
【0017】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記制御手段は、前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記一つ又は複数の燃料電池セルの出力電圧との関係に基づいて、前記出力電流の低電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記一つ又は複数の燃料電池セルの出力電圧の低電流側変化率を導出し、前記出力電流の高電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記一つ又は複数の燃料電池セルの出力電圧の高電流側変化率を導出し、前記高電流側変化率と前記低電流側変化率との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化が大きいと判定するように構成されている点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、上記高電流側変化率は上述したような局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、上記低電流側変化率は局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足がほとんど発生しないときの値である。つまり、上記高電流側変化率と上記低電流側変化率との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。よって、その劣化状態を評価することで、セルスタックの特定部位の劣化の程度を判定できる。
【0019】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記制御手段は、前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記一つ又は複数の燃料電池セルの出力電圧との関係に基づいて、前記出力電流の所定電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記一つ又は複数の燃料電池セルの出力電圧の第1変化量実測値を導出し、当該第1変化量実測値と所定の第1変化量基準値との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きいと判定するように構成されている点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、上記第1変化量実測値は上述したような局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値である。つまり、上記第1変化量実測値と上記第1変化量基準値との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。よって、その劣化状態を評価することで、セルスタックの特定部位の劣化の程度を判定できる。
【0021】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記制御手段は、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電圧についての前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧を導出し、
前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、導出した前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧との第1関係に基づいて、前記出力電流の所定電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧の第1変化量実測値を導出し、
前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、導出した前記セルスタックの出力電圧における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧との第2関係に基づいて、前記所定電流範囲での前記セルスタックの出力電圧の第2変化量実測値を導出し、
前記第1変化量実測値と前記第2変化量実測値との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きいと判定するように構成されている点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、上記第1変化量実測値は上述したような局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、上記第2変化量実測値は燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足による影響がセルスタック全体で平均化されたときの値である。つまり、上記第1変化量実測値と上記第2変化量実測値との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。よって、その劣化状態を評価することで、セルスタックの特定部位の劣化の程度を判定できる。
【0023】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記制御手段は、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きい程、前記燃料ガスの供給量及び前記酸化剤ガスの供給量を制御して燃料利用率及び空気利用率の少なくとも一方を下げた状態で前記セルスタックでの発電を行わせるように構成されている点にある。本発明において、燃料利用率とは、実際に発電に使用した燃料ガス量(或いは、その燃料ガス量を生成するのに用いた原燃料量)の、供給した燃料ガス量(或いは、上記原燃料量)に対する割合(%)であり、空気利用率とは、実際に発電に使用した酸化剤ガス量の、供給した酸化剤ガス量に対する割合(%)である。
【0024】
上記特徴構成によれば、燃料利用率又は空気利用率を下げた状態で前記セルスタックでの発電を行わせることで、局所的な燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が抑制され、セルスタックの特定部位の劣化を防止できる。
【0025】
本発明に係る燃料電池システムの別の特徴構成は、前記制御手段は、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きい程、前記出力電流の上限を下げた状態で発電を行わせるように構成されている点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、出力電流の上限を下げた状態、即ち、反応に要する燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量が比較的少ない状態でセルスタックでの発電を行わせることで、局所的な燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が抑制され、セルスタックの特定部位の劣化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下に、図面を参照して第1実施形態の燃料電池システムの構成について説明する。
図1は、燃料電池システムの構成を示す図である。この燃料電池システムにおいて、固体酸化物型燃料電池(SOFC)である燃料電池本体7は、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セル9を配列してなるセルスタック8を有する。燃料ガスとしては水素、一酸化炭素などを用いることができ、酸化剤ガスとしては酸素(空気)を用いることができる。燃料ガスは各燃料電池セル9の燃料極(図示せず)に供給され、酸化剤ガスは各燃料電池セル9の空気極(図示せず)に供給される。燃料極と空気極との間には、イットリアをドープしたジルコニアなどで構成される固体酸化物電解質(図示せず)が設けられる。
【0028】
燃料ガスは、メタンなどの炭化水素を含む原燃料ガスを改質(例えば、水蒸気改質等)することで生成される。図1に示す例では、原燃料ガスとして、メタンを主成分とする天然ガス(都市ガス)を用いて、水蒸気改質を行なう例を示している。原燃料ガスは原燃料ポンプ1によって脱硫器2に送り込まれる。脱硫器2は、原燃料ガス中に含まれる硫黄化合物を除去する。脱硫された後の原燃料ガスは、水蒸気と混合された状態で改質器5へ送り込まれる。水蒸気は、改質水ポンプ3から供給される改質水を気化器4で気化させることで生成される。改質器5は、改質触媒(図示せず)で原燃料ガスを水蒸気改質して、水素を主に含む燃料ガスを生成する。本実施形態では、制御手段13は、原燃料ポンプ1及び改質水ポンプ3の作動を制御して、セルスタック8に対する燃料ガス(水素)の供給量を制御可能である。また、制御手段13は、ブロア6の作動を制御して、セルスタック8に対する酸化剤ガス(空気)の供給量を制御可能である。
【0029】
セルスタック8から出力される直流電力は、インバータ10によって交流電力に変換されて、負荷(図示せず)への電力供給が行われる。インバータ10は、制御手段13からの指示に従って、負荷に供給する電力を制御する。インバータ10が負荷に供給する電力を変更すると、セルスタック8の出力電流も変更される。
【0030】
図1に示す燃料電池システムは、セルスタック8の出力電流を検出する電流検出手段12と、セルスタック8の出力電圧と、セルスタック8の特定部位における一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧を検出可能な電圧検出手段11と、セルスタック8の所定部位の温度を検出する温度検出手段14と、を備える。なお、電圧検出手段11は、セルスタック8の複数の特定部位における一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧を検出するように構成することもできる。
【0031】
電流検出手段12は、インバータ10によって制御されるセルスタック8からの出力電流を検出する。
【0032】
電圧検出手段11が検出する、セルスタック8全体の出力電圧は、電圧の異常が起こった場合の停止判断や、電圧低下が所定の値以下とならないような負荷追従速度などを制御する際に使用される。また、セルスタック8において、各燃料電池セル9に対するガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)の分配のアンバランスが生じることがある。ガスの分配が少なくなった燃料電池セル9では、出力電圧が低下する。そして、このような燃料ガス不足や酸化剤ガス不足が生じている条件で電気化学反応を強制的におこなうと、電極とその周辺の急速劣化を起こしてしまう。
ところが、本実施形態では、電圧検出手段11が、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速がセルスタック8における平均流速よりも低くなる部位において、その部位における一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧を検出するように構成されている。よって、その出力電圧の低下の程度を見ることで、セルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の劣化の兆候を知ることができる。つまり、従来から行われていたセルスタック8全体の出力電圧計測では、セルスタック8全体の劣化を診断することしかできなかったが、本実施形態では、セルスタック8の局所的な劣化を診断することが可能となる。
【0033】
但し、燃料電池セル9の温度が一定せずに変化するような条件では、その温度変化によって燃料電池セル9の出力電圧が変化することがある。その場合、電圧検出手段11によって検出する出力電圧の低下が、燃料電池セル9の劣化を表すものではない可能性がある。通常の負荷追従運転では、温度と出力電圧は常に変動しているが、負荷が発電出力の上限を超える時間帯では、一定時間、発電出力が固定のまま運転されることとなり、燃料電池セル9の温度を安定状態にすることができる。ここで、燃料電池セル9の温度は、セルスタック8の所定部位の温度によって代表される。よって、本実施形態では、セルスタック8の所定部位の温度(即ち、燃料電池セル9の温度)を検出する温度検出手段14を備える。そして、制御手段13は、温度検出手段14を用いてセルスタック8の所定部位の温度の安定状態を検出して、その安定状態の間に、出力電流を短時間で変化させこの時の出力電圧値を用いて劣化状態を診断する。
【0034】
本実施形態において、制御手段13は、燃料ガスの供給量及び酸化剤ガスの供給量を一定のままでセルスタック8の出力電流を変化させる。
具体的には、制御手段13は、原燃料ポンプ1及び改質水ポンプ3の作動を制御して、セルスタック8に対する燃料ガス(水素)の供給量を一定に制御するとともに、ブロア6の作動を制御して、セルスタック8に対する酸化剤ガス(空気)の供給量を一定に制御する。また、制御手段13は、インバータ10を制御してセルスタック8の出力電流を変化させる。結果として、原燃料ガスと改質水と酸化剤ガスとの供給量は一定の状態で、セルスタック8の出力電流、燃料利用率、空気利用率、S/Cを変動させることができる。この場合、出力電流を増加させるとき、燃料枯れや空気枯れによるセルスタック8の急速劣化をおこすリスクもある。そのため、電流変化幅を慎重に設定する必要があるが、セルスタック8の出力電流と出力電圧との関係を高感度に検知することが可能で、電流変動の幅と時間が適切であれば、劣化診断に有効である。電圧検出が行われる部位としては、初期の設計上、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速が平均の値よりも低くなる、一つ又は複数の燃料電池セル9を挟むような特定部位に設置することが望ましい。ここで、燃料利用率とは、実際に発電に使用した原燃料ガス量の、供給した原燃料ガス量に対する割合(%)であり、空気利用率とは、実際に発電に使用した空気量の、供給した空気量に対する割合(%)である。S/Cとは、原燃料ガスの炭化水素中に含まれる炭素数に対する水蒸気改質反応に供する水(水蒸気)のモル比率である。
【0035】
以下に、第1実施形態の燃料電池システムの劣化状態判定方法について説明する。
図2は、セルスタック8の出力電流と出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、燃料電池システムの劣化が生じていない初期状態での、燃料ガスの供給量及び酸化剤ガスの供給量を一定のままでセルスタック8の出力電流を変化させたときの電圧検出手段11による検出結果である。このとき、燃料利用率が変化している。グラフ中の縦軸及び横軸は、ある出力電圧及び出力電流を基準としてパーセント表示している。図2において、黒四角のマーカを付して破線で示すのは、図1に示す測定点a及び測定点cの間で測定されるセルスタック8の全体の出力電圧を各燃料電池セル9で平均化した、燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧である。また、図2において、白丸のマーカを付して実線で示すのは、図1に示す測定点a及び測定点bの間で測定されるセルスタック8の一部分(特定部位)の出力電圧(一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧)を特定部位における燃料電池セル9の個数で平均化した、特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧である。本実施形態において、測定点a及び測定点bの間は、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速がセルスタック8の平均流速よりも低くなる特定部位である。
【0036】
図2から分かるように、出力電流102%以下では、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧と特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧とは同等である。一方で、出力電流102%を超えると、セルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧は、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧に比べて低くなる。このとき、セルスタック8の劣化は発生していないと見なせるので、ここで検出したセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧の特性は、後述する所定の第1変化量基準値とできる。
【0037】
図3は、セルスタック8の出力電流と出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、ある一定時間経過後の、燃料ガスの供給量及び酸化剤ガスの供給量を一定のままでセルスタック8の出力電流を変化させたときの電圧検出手段11による検出結果である。図3では、黒四角のマーカを付して破線で示すのはセルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧であり、白三角のマーカを付して実線で示すのは、セルスタック8の特定部位(図1で示した測定点aと測定点bとの間)における燃料電池セル9の平均出力電圧である。この場合、同じ出力電流(例えば、100%)であっても、セルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧は、燃料電池セル9の劣化の影響により、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧よりも低くなる。
【0038】
この場合、制御手段13は、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧と、電圧検出手段11によって検出されるセルスタック8全体の出力電圧についての燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧を導出し、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、導出した特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧との第1関係に基づいて、出力電流の所定電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の第1変化量実測値を導出し、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、導出したセルスタック8全体における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧との第2関係に基づいて、所定電流範囲でのセルスタック8全体における燃料電池セル9の出力電圧の第2変化量実測値を導出し、第1変化量実測値と第2変化量実測値との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
ここでは、出力電圧を比較するために、所定電流範囲での電圧の変化量を用いているが、電圧の変化率を用いてもよい。
【0039】
具体的には、制御手段13は、図3に示すように、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との第1関係(実線)における出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量実測値Aと、出力電流とセルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧との第2関係(破線)における出力電流100%〜102%での出力電圧の第2変化量実測値Bとを導出し、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとを比較する。ここで、第1変化量実測値Aは局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、第2変化量実測値Bは燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足による影響がセルスタック全体で平均化されたときの値である。つまり、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。例えば、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差が、ある閾値を超えた場合に、劣化状態にあると判定することができる。
【0040】
或いは、制御手段13は、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の出力電圧との関係に基づいて、出力電流の低電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の低電流側変化率と、出力電流の高電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の高電流側変化率とを導出し、高電流側変化率と低電流側変化率との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化が大きいと判定する。
具体的には、制御手段13は、図3に示した、ある一定時間経過後での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(実線)から、低電流範囲(例えば、出力電流98%〜100%)での出力電圧の変化量D(本発明の「低電流側変化率」)と、高電流範囲(例えば、100%〜102%)での出力電圧の変化量A(本発明の「高電流側変化率」)とを導出する。ここで、高電流側変化率は局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、低電流側変化率は局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足がほとんど発生しないときの値である。つまり、上記高電流側変化率と上記低電流側変化率との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、上記高電流側変化率と上記低電流側変化率との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化が大きいと判定する。
ここでは、出力電圧を比較するために、所定電流範囲での電圧の変化率を用いているが、電圧の変化量を用いてもよい。
【0041】
図4は、セルスタック8の出力電流と燃料電池セル9の出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との電流電圧特性を、初期状態(白丸及び破線で示す)及びある一定時間経過後(白三角及び実線で示す)で比較するグラフである。この場合、制御手段13は、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の出力電圧との関係に基づいて、出力電流の所定電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の第1変化量実測値を導出し、当該第1変化量実測値と所定の第1変化量基準値との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
【0042】
具体的には、制御手段13は、図4に示した、ある一定時間経過後での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(実線)から、出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量実測値Aを導出する。また、制御手段13は、図4に示した、初期状態での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(破線)から、出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量基準値Cを導出する。ここで、第1変化量実測値Aは局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値である。つまり、上記第1変化量実測値と上記第1変化量基準値との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、第1変化量実測値Aと第1変化量基準値Cとの差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
【0043】
以上のようなセルスタック8の特定部位の劣化の程度の判定後、制御手段13は、セルスタック8部の特定部位の劣化の程度が大きい程、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御して燃料利用率又は空気利用率を下げた状態でセルスタック8での発電を行わせる、或いは、制御手段13は、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きい程、出力電流の上限を下げた状態で発電を行わせる。その結果、局所的な燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が抑制され、セルスタックの特定部位の劣化を防止できる。
【0044】
<第2実施形態>
第2実施形態の燃料電池システムは、セルスタック8の特定部位の劣化状態を判定するに当たり、セルスタック8からの出力電流の変化のさせ方が上記第1実施形態と異なっている。以下に、第2実施形態の燃料電池システムの構成について説明するが、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0045】
本実施形態において、制御手段13は、セルスタック8からの出力電流と燃料ガスの供給量と酸化剤ガスの供給量とを一定の比率で変化させており、燃料利用率、空気利用率、S/Cの値は一定である。
具体的には、制御手段13は、原燃料ポンプ1及び改質水ポンプ3の作動を制御して、セルスタック8に対する燃料ガス(水素)の供給量を変化させるとともに、ブロア6の作動を制御して、セルスタック8に対する酸化剤ガス(空気)の供給量を変化させる。また、制御手段13は、インバータ10を用いてセルスタック8の出力電流を制御可能である。この場合、電流を高いほうに変化させるときの電流変化幅を大きくとることができる。
【0046】
以下に、第2実施形態の燃料電池システムの劣化状態判定方法について説明する。
図5は、セルスタック8の出力電流と出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、燃料電池システムの劣化が生じていない初期状態での、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御してセルスタック8の出力電流を変化させたときの電圧検出手段11による検出結果である。図5において、黒四角のマーカを付して破線で示すのは、図1に示す測定点a及び測定点cの間で測定されるセルスタック8の全体の出力電圧を各燃料電池セル9で平均化した、燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧である。また、図5において、白丸のマーカを付して実線で示すのは、図1に示す測定点a及び測定点bの間で測定されるセルスタック8の特定部における出力電圧(一つ又は複数の燃料電池セル9の出力電圧)を特定部位における燃料電池セル9の個数で平均化した、特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧である。本実施形態において、測定点a及び測定点bの間は、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速がセルスタック8の平均流速よりも低くなる特定部位である。
【0047】
図5から分かるように、出力電流102%以下では、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧と特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧とは同等である。一方で、出力電流102%を超えると、セルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧は、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧に比べて低くなる。このとき、セルスタック8の劣化は発生していないと見なせるので、ここで検出したセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧の特性は、後述する所定の第1変化量基準値とできる。
【0048】
図6は、セルスタック8の出力電流と出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、ある一定時間経過後の、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御してセルスタック8の出力電流を変化させたときの電圧検出手段11による検出結果である。図6では、黒四角のマーカを付して破線で示すのはセルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧であり、白三角のマーカを付して実線で示すのは、セルスタック8の特定部位(図1で示した測定点aと測定点bとの間)における燃料電池セル9の平均出力電圧である。この場合、同じ出力電流(例えば、100%)であっても、セルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧は、燃料電池セル9の劣化の影響により、セルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧よりも低くなる。
【0049】
この場合、制御手段13は、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧と、電圧検出手段11によって検出されるセルスタック8全体の出力電圧についての燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧を導出し、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、導出した特定部位における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧との第1関係に基づいて、出力電流の所定電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の第1変化量実測値を導出し、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、導出したセルスタック8全体における燃料電池セル9の1つ当たりの出力電圧との第2関係に基づいて、所定電流範囲でのセルスタック8全体における燃料電池セル9の出力電圧の第2変化量実測値を導出し、第1変化量実測値と第2変化量実測値との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
【0050】
具体的には、制御手段13は、図6に示すように、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との第1関係(実線)における出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量実測値Aと、出力電流とセルスタック8全体における燃料電池セル9の平均出力電圧との第2関係(破線)における出力電流100%〜102%での出力電圧の第2変化量実測値Bとを導出し、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとを比較する。ここで、第1変化量実測値Aは局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、第2変化量実測値Bは燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足による影響がセルスタック全体で平均化されたときの値である。つまり、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。例えば、第1変化量実測値Aと第2変化量実測値Bとの差が、ある閾値を超えた場合に、劣化状態にあると判定することができる。
【0051】
或いは、制御手段13は、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の出力電圧との関係に基づいて、出力電流の低電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の低電流側変化率と、出力電流の高電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の高電流側変化率とを導出し、高電流側変化率と低電流側変化率との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化が大きいと判定する。
具体的には、制御手段13は、図6に示した、ある一定時間経過後での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(実線)から、低電流範囲(例えば、出力電流98%〜100%)での出力電圧の変化量D(本発明の「低電流側変化率」)と、高電流範囲(例えば、100%〜102%)での出力電圧の変化量A(本発明の「高電流側変化率」)とを導出する。ここで、高電流側変化率は局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値であり、低電流側変化率は局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足がほとんど発生しないときの値である。つまり、上記高電流側変化率と上記低電流側変化率との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、上記高電流側変化率と上記低電流側変化率との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化が大きいと判定する。
【0052】
図7は、セルスタック8の出力電流と燃料電池セル9の出力電圧との関係を示すグラフであり、具体的には、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との電流電圧特性を、初期状態(白丸及び破線で示す)及びある一定時間経過後(白三角及び実線で示す)で比較するグラフである。この場合、制御手段13は、電流検出手段12によって検出されるセルスタック8の出力電流と、電圧検出手段11によって検出される特定部位における燃料電池セル9の出力電圧との関係に基づいて、出力電流の所定電流範囲での特定部位における燃料電池セル9の出力電圧の第1変化量実測値を導出し、当該第1変化量実測値と所定の第1変化量基準値との差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
【0053】
具体的には、制御手段13は、図7に示した、ある一定時間経過後での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(実線)から、出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量実測値Aを導出する。また、制御手段13は、図7に示した、初期状態での、出力電流とセルスタック8の特定部位における燃料電池セル9の平均出力電圧との関係(破線)から、出力電流100%〜102%での出力電圧の第1変化量基準値Cを導出する。ここで、第1変化量実測値Aは局所的な燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足に伴い反応抵抗が上昇するときの値である。つまり、上記第1変化量実測値と上記第1変化量基準値との差は、上述したような局所的な反応抵抗の上昇に起因するものであると見なせることから、その燃料ガスの供給不足や酸化剤ガスの供給不足が生じている特定部位の劣化状態を表しているといえる。そして、制御手段13は、第1変化量実測値Aと第1変化量基準値Cとの差が大きい程、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きいと判定する。
【0054】
以上のようなセルスタック8の特定部位の劣化の程度の判定後、制御手段13は、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きい程、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給量を制御して燃料利用率又は空気利用率を下げた状態でセルスタック8での発電を行わせる、或いは、制御手段13は、セルスタック8の特定部位の劣化の程度が大きい程、出力電流の上限を下げた状態で発電を行わせる。その結果、局所的な燃料ガスの不足や酸化剤ガスの不足が抑制され、セルスタック8の特定部位の劣化を防止できる。
【0055】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、出力電圧の変化量実測値や変化率を導出するための電流範囲を、出力電流98%〜100%及び出力電流100%〜102%とした場合を例示したが、電流範囲は適宜設定可能である。
【0056】
<2>
上記実施形態では、電圧検出手段11が出力電圧を検出するセルスタック8の特定部位の一例として、測定点a及び測定点bの間の出力電圧を測定する例について説明したが、燃料ガス及び酸化剤ガスの流速がセルスタック8の平均流速よりも低くなる部位であれば、他の一つ又は複数の特定部位の出力電圧の測定を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】燃料電池システムの構成を示す図
【図2】セルスタックの出力電流と出力電圧との関係を示すグラフ
【図3】セルスタックの出力電流と出力電圧との関係を示すグラフ
【図4】セルスタックの出力電流と燃料電池セルの出力電圧との関係を示すグラフ
【図5】セルスタックの出力電流と出力電圧との関係を示すグラフ
【図6】セルスタックの出力電流と出力電圧との関係を示すグラフ
【図7】セルスタックの出力電流と燃料電池セルの出力電圧との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0058】
8 セルスタック
9 燃料電池セル
11 電圧検出手段
12 電流検出手段
13 制御手段
14 温度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セルを配列してなるセルスタックを有する燃料電池システムであって、
前記セルスタックの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記セルスタックの出力電圧と、前記セルスタックの特定部位における一つ又は複数の前記燃料電池セルの出力電圧とを検出可能な電圧検出手段と、
前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量及び前記セルスタックの出力電流を制御可能である制御手段と、
前記セルスタックの所定部位の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出される前記セルスタックの温度が安定状態にあるとき、前記出力電流と前記燃料ガスの供給量と前記酸化剤ガスの供給量とを一定の比率で変化させたときの前記電圧検出手段による検出結果に基づいて、前記セルスタックの特定部位の劣化状態を判定するように構成されていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを反応させて発電する複数の燃料電池セルを配列してなるセルスタックを有する燃料電池システムであって、
前記セルスタックの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記セルスタックの出力電圧と、前記セルスタックの特定部位における一つ又は複数の前記燃料電池セルの出力電圧とを検出可能な電圧検出手段と、
前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量及び前記セルスタックの出力電流を制御可能である制御手段と、
前記セルスタックの所定部位の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出される前記セルスタックの温度が安定状態にあるとき、前記燃料ガスの供給量及び前記酸化剤ガスの供給量を一定のままで前記セルスタックの出力電流を変化させたときの前記電圧検出手段による検出結果に基づいて、前記セルスタックの特定部位の劣化状態を判定するように構成されていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記電圧検出手段が出力電圧を検出する前記セルスタックの特定部位は、前記燃料ガス及び前記酸化剤ガスの流速が前記セルスタックでの平均流速よりも低くなる部位であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セルの出力電圧との関係に基づいて、前記出力電流の低電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セルの出力電圧の低電流側変化率と、前記出力電流の高電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セルの出力電圧の高電流側変化率とを導出し、前記高電流側変化率と前記低電流側変化率との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化が大きいと判定するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セルの出力電圧との関係に基づいて、前記出力電流の所定電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セルの出力電圧の第1変化量実測値を導出し、当該第1変化量実測値と所定の第1変化量基準値との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きいと判定するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧と、前記電圧検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電圧における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧とを導出し、
前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、導出した前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧との第1関係に基づいて、前記出力電流の所定電流範囲での前記セルスタックの特定部位における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧の第1変化量実測値を導出し、
前記電流検出手段によって検出される前記セルスタックの出力電流と、導出した前記セルスタックの出力電圧における前記燃料電池セル1つ当たりの出力電圧との第2関係に基づいて、前記所定電流範囲での前記セルスタックの出力電圧の第2変化量実測値を導出し、
前記第1変化量実測値と前記第2変化量実測値との差が大きい程、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きいと判定するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きい程、前記燃料ガスの供給量及び前記酸化剤ガスの供給量を制御して燃料利用率及び空気利用率の少なくとも一方を下げた状態で前記セルスタックでの発電を行わせるように構成されていることを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記セルスタックの特定部位の劣化の程度が大きい程、前記出力電流の上限を下げた状態で発電を行わせるように構成されていることを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−27580(P2010−27580A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191338(P2008−191338)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】