説明

燃料電池システム

【課題】本発明は、燃料電池内の液水量を精度よく推定することができる燃料電池システムを提供することにある。
【解決手段】本発明の燃料電池システムは、反応ガスの反応により発電する燃料電池と、燃料電池の電圧降下時に発生する電流値から、電圧降下時に発生する電気量を算出する電気量算出手段と、前記電圧降下時に発生する電気量に基づいて、燃料電池内の反応ガスの物質量を算出する反応ガス物質量算出手段と、前記反応ガス物質量に基づいて、燃料電池内のガス体積を算出するガス体積算出手段と、燃料電池内の流体流路容積から前記ガス体積を差し引いて、燃料電池内の液水体積を算出する液水体積算出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池内の液水量を検出する燃料電池システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば、電解質膜の両面をアノード極とカソード極とで挟んで構成された膜電極接合体を、さらに一対のセパレータで挟んで構成された単セルを複数積層した構造となっている。この燃料電池のアノード極に水素を含む燃料ガスを、カソード極に空気(酸素)等の酸化ガスをそれぞれ導入することで、水素と酸素との電気化学反応によって発電して、水を生成する。
【0003】
ところで、燃料電池の運転中において、生成水は主にカソード極にて生成されるが、カソード極とアノード極との間に介装された電解質膜を介して、カソード極中の水分がアノード極に移動する。このため、燃料電池の発電を停止する際には燃料電池内に液水が残留しており、この液水を放置したまま発電を停止すると、寒冷地や冬季などの低温環境下での使用において水が凍結して電解質膜などを傷めるおそれがある。そこで、燃料電池の発電停止時にアノード極やカソード極に掃気ガスを導入して掃気処理することが行われている。
【0004】
従来の燃料電池システムでは、発電停止時に予め決められた一定の設定量で掃気処理されていたため、不必要に長い時間掃気してしまうことがあり、これによって電解質膜を劣化させるなどして、発電性能が低下するという問題があった。
【0005】
掃気は発電停止後に行われ、蓄電装置からのエネルギーを利用する必要があるため、前記のように不必要に長い時間掃気処理が実行されると、蓄電装置の電力を余分に消費して、例えば次回始動時に必要な電力が不足する場合がある。
【0006】
そこで、燃料電池内の液水量を推定し、その推定した液水量に基づいて燃料電池の掃気処理を実行することが望ましいため、従来から燃料電池内の液水量を推定する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、発電電流の積算値に基づいて燃料電池内の液水量を推定する技術が開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献2には、燃料電池の電圧差から燃料電池内の液水量を推定する技術が開示されている。
【0008】
また、例えば、特許文献3には、燃料電池内の湿度及び圧力損失から燃料電池内の液水量を推定する技術や、生成水量、電池温度、外気温度、電池負荷、運転履歴から燃料電池内の液水量を推定する技術が開示されている。
【0009】
また、例えば、特許文献4には、燃料電池の電圧を統計的に処理してフラッディングの程度を推定する技術が開示されている。
【0010】
また、例えば、特許文献5には、燃料電池のインピーダンスからフラッディングの程度を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−35389号公報
【特許文献2】特開2006−338921号公報
【特許文献3】特開2006−278168号公報
【特許文献4】特開2005−108673号公報
【特許文献5】特開平7−235324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1〜5の方法において、燃料電池の電圧や湿度や圧力損失等では感度が悪く、運転履歴等では誤差の積み重ねを補正することができないため、燃料電池内の液水量を精度よく推定することができない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、燃料電池内の液水量を精度よく推定することができる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の燃料電池システムは、反応ガスの反応により発電する燃料電池と、燃料電池の電圧降下時に発生する電流値から、電圧降下時に発生する電気量を算出する電気量算出手段と、前記電圧降下時に発生する電気量に基づいて、燃料電池内の反応ガスの物質量を算出する反応ガス物質量算出手段と、前記反応ガス物質量に基づいて、燃料電池内のガス体積を算出するガス体積算出手段と、燃料電池内の流体流路容積から前記ガス体積を差し引いて、燃料電池内の液水体積を算出する液水体積算出手段と、を備える。
【0015】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記ガス体積算出手段は、前記反応ガス物質量、飽和蒸気量、燃料電池内の温度、燃料電池内の圧力に、気体の状態方程式を適用して、前記ガス体積を算出することが好ましい。
【0016】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記液水体積算出手段は、前記液水体積が零以下の場合には、前記反応ガス物質量、前記燃料電池内の流体流路容積、燃料電池内の温度、燃料電池内の圧力に、気体の状態方程式を適用して、燃料電池内の湿度を算出することが好ましい。
【0017】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記電圧降下時に発生する電気量は、反応ガスが消費された際に発生する電気量と、燃料電池を構成する触媒層の触媒に形成される酸化被膜が還元された際に発生する電気量とを含み、燃料電池内の液水体積が零の時の反応ガスが消費された際に発生する電気量を算出し、該算出した反応ガスが消費された際に発生する電気量を前記電圧降下時に発生する電気量から差し引いて、前記触媒に形成された酸化被膜が還元された際に発生する電気量を算出する手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池内の液水量を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例を示す模式図である。
【図2】(A)は、電圧降下時における電圧と経過時間との関係を表すグラフであり、(B)は、電圧降下時において発生した電流値と経過時間との関係を表すグラフである。
【図3】本実施形態に係る燃料電池システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】触媒に形成される酸化被膜が還元される時に発生する電気量の算出方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例を示す模式図である。図1に示すように燃料電池システム1は、単セルを複数積層した燃料電池10(スタック)を備えている。単セルは、電解質膜の両面をアノード極及びカソード極で挟んでなるMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)と、MEAを挟む一対のセパレータと、を備えている。一方のセパレータには、MEAのアノード極と対向する面に水素ガスを含む燃料ガスが流通する燃料ガス流路溝が形成され、各単セルの燃料ガス流路溝がマニホールド等を介して連通している。また、他方のセパレータには、MEAのカソード極と対向する面に空気等の酸化ガスが流通する酸化ガス流路溝が形成され、各単セルの酸化ガス流路溝がマニホールド等を介して連通している。
【0022】
電解質膜は、例えば、イオン交換基としてスルフォン酸基を有する固体高分子等により薄膜状に形成されている。アノード極及びカソード極は、触媒層及び拡散層を備え、電解質膜側から触媒層、拡散層の順で配置される。触媒層は白金や白金系合金等の触媒を担持した炭素と、電解質等とを混合して、拡散層、又は電解質膜上に成膜したものである。拡散層は、撥水化処理等の表面処理を施したカーボンペーパーやカーボンクロス等の導電性多孔体等である。
【0023】
図1に示すように、燃料電池10のアノード側入口(不図示)は、燃料ガス供給路12を介して燃料ガスタンク14に接続されており、水素を含む燃料ガスが燃料ガス供給路12を介してアノード側入口から燃料電池10内に供給される。そして、燃料ガスはセパレータの燃料ガス流路溝、拡散層を通過し、アノード極の触媒層に供給され、燃料電池10の発電に利用される。一方、燃料電池10のアノード側出口(不図示)には、燃料ガス排気路16が接続されており、発電に利用された燃料ガス(アノード排ガス)が、燃料ガス流路溝を通過して燃料ガス排気路16へ排出される。
【0024】
また、図1に示すように、燃料電池10のカソード側入口(不図示)は、酸化ガス供給路18を介してエアコンプレッサ20に接続されており、空気等の酸化ガスが酸化ガス供給路18を介してカソード側入口から燃料電池10内に供給される。そして、酸化ガスはセパレータの酸化ガス流路溝、拡散層を通過し、カソード極の触媒層に供給され、燃料電池10の発電に利用される。一方、燃料電池10のカソード側出口(不図示)には、酸化ガス排気路22が接続されており、発電に利用された酸化ガス(カソード排ガス)が、酸化ガス流路溝を通過して酸化ガス排気路22へ排出される。
【0025】
燃料電池システム1には、例えば、燃料電池10内の液水を掃気するために、燃料ガス供給路12と酸化ガス供給路18とを接続する連通路24が設けられている。掃気処理する場合には、エアコンプレッサ20を稼働させ、連通路24、燃料ガス排気路16及び酸化ガス排気路22に設けられた弁(26,28,30)を開くことにより、掃気ガス(空気)が燃料ガス供給路12、酸化ガス供給路18を通して、燃料電池10内に供給され、燃料電池10内の液水を掃気することができる。また、連通路24及び燃料ガス排気路16の弁(26,28)を開き、酸化ガス排気路22の弁30を閉じることにより、燃料電池10のアノード極側にのみ掃気ガスを供給し、アノード極内の液水を掃気することができる。また、連通路24の弁26を閉じ、酸化ガス排気路22の弁30を開くことにより、燃料電池10のカソード極側にのみ掃気ガスを供給し、カソード極内の液水を掃気することができる。なお、これらの弁(26,28,30)の開閉は、制御部40により行われる。
【0026】
燃料電池10には、燃料電池10の電圧を検出する電圧センサ32、燃料電池10の電流を検出する電流センサ34、燃料電池10の温度を検出する温度センサ36、燃料電池10内の圧力(アノード極側、カソード極側のうち少なくともいずれか一方の圧力)を検出する内圧センサ38が設置されている。また、各センサは制御部40に電気的に接続されており、各センサにより検出されたデータが制御部40に送信される。
【0027】
制御部40は、燃料電池システム1を電子制御するユニットであって、CPU(Central Control Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Randam Access Memory)、各種インターフェイス、電子回路等から構成されている。
【0028】
制御部40は、電気量算出手段、反応ガス物質量算出手段、ガス体積算出手段及び液水体積算出手段を備える。
【0029】
制御部40は、燃料電池10の電圧降下時に発生する電流値から、電圧降下時に発生する電気量を算出する(電気量算出手段)。燃料電池10の電圧を降下させる際には、制御部40は、発電している燃料電池10を所定の電圧で所定時間保持させることが好ましい。その後、燃料電池10に接続される不図示のコンバータ及びインバータを制御して、燃料電池10の電圧を降下させる。この際、カソード極側の水分量を算出する場合には、アノード極側への燃料ガスの供給を維持したまま、エアコンプレッサ20を停止してカソード極側への酸化ガス(空気)の供給を停止することが好ましい。また、アノード極側の水分量を算出する場合には、カソード極側への酸化ガス(空気)の供給は維持したまま、アノード極側への燃料ガスの供給を停止することが好ましい。これにより、燃料電池10内の液水量の算出精度を向上させることができる。
【0030】
図2(A)は、電圧降下時における電圧と経過時間との関係を表すグラフであり、図2(B)は、電圧降下時において発生した電流値と経過時間との関係を表すグラフである。制御部40は、電圧降下時における電圧センサ32及び電流センサ34から送信されるデータを基に、図2(B)に示す電圧降下時に発生する電流値を積算して、電圧降下時に発生する電気量を算出する。燃料電池10の電圧降下時に発生する電気量の算出方法は、必ずしも電流値を積算する方法に制限されるものではなく、例えば、図2(B)に示す電流値のピーク値から電圧降下時に発生する電気量を推定してもよいし、電流値のピーク値から所定時間後の電流値までの傾きから電圧降下時に発生する電気量を推定してもよい。これにより、短時間で電圧降下時に発生する電気量を算出することができる。
【0031】
制御部40は、電圧降下時に発生する電気量に基づいて、燃料電池10内の反応ガス物質量(アノード極内の水素物質量のみ又はカソード極内の酸素物質量のみも含まれる)を算出する(反応ガス物質量算出手段)。図2に示すように、電圧降下時に電流が発生する主な要因は、(1)カソード極の酸素が反応(4H+O+4e→2HO)及びアノード極の水素が反応(2H→4H+4e)する時の電流、(2)触媒に形成される酸化被膜が還元(例えば、PtO+2H+2e→Pt+HOやPtOH+H+e→Pt+HO)する時の電流、(3)燃料電池10に発生する電気二重層容量が放電する時の電流等である。よって、電圧降下時に発生する電気量は、主に(1)〜(3)により発生する電気量の和である。そして、(2)及び(3)により発生する電気量は燃料電池10が劣化していなければ一定であるため、予め設定した所定値とすることができる。したがって、上記算出した電圧降下時に発生する電気量から予め設定した所定値を差し引くことにより、(1)により発生する電気量を算出し、上記反応式を基に酸素物質量又は水素物質量に換算する。なお、カソード側の場合には、初めにカソード極内にあった酸素が消費されると、その体積分だけ外部から空気が流入し、その空気の21%の酸素が消費され、これらが繰り返される。したがって、上記算出した酸素物質量は、電圧降下中に消費した酸素物質量であるため、該酸素物質量を所定の定数(1.27≒1+0.21+0.21+0.21+・・・)で除して、電圧降下させた時の当初の燃料電池10内にある酸素物質量に補正することが好ましい。
【0032】
また、(2)及び(3)により発生する電気量は一定であるので、予め電圧降下時に発生する電気量と(1)により発生する電気量との関係を表すマップを制御部40に記憶させておき、該マップに算出した電圧降下時に発生する電気量を当てはめて、(1)により発生する電気量を算出してもよい。
【0033】
制御部40は、反応ガス物質量に基づいて、燃料電池10内のガス体積(アノード極内のガス体積のみ又はカソード極内のガス体積のみも含まれる)を算出する(ガス体積算出手段)。具体的には気体の状態方程式を用いて(酸素物質量を算出した場合には下式(a)、水素物質量を算出した場合には下式(b)を用いる)、燃料電池10内のガス体積を算出する。
=(nN2+nO2+nH2O)R×T (a)
=(nH2+nH2O)R×T (b)
ここで、Pはカソード極内の圧力、Pはアノード極内の圧力、Vはカソード極内のガス体積、Vはアノード極内のガス体積、nは物質量、Rは気体定数、Tは燃料電池10の温度である。
【0034】
制御部40は、電圧降下時における内圧センサ38から送信される圧力データ(P、P)、上記算出した酸素物質量(nO2)又は水素物質量(nH2)、酸素物質量に空気中の窒素割合(0.71)を乗じた窒素物質量(nN2)、温度センサ36から送信される温度データ(T)、該温度での飽和蒸気量(nH2O)を上式に当てはめることにより、燃料電池10内のガス体積(アノード極内のガス体積のみ又はカソード極内のガス体積のみでもよい)を算出する。飽和蒸気量(nH2O)は、温度と飽和蒸気量との関係を表すマップを用いることにより算出される。
【0035】
本実施形態では、燃料電池10内のガス体積を正確に算出する場合には、上記のように気体の状態方程式を用いることが好ましいが、燃料電池10内の反応ガス物質量とガス体積との関係を表すマップを用いて、該マップに算出した反応ガス物質量を当てはめることにより燃料電池10内のガス体積を算出してもよい。このような燃料電池10内の反応ガス物質量とガス体積との関係を表すマップを採用する場合には、燃料電池10の温度や圧力に依存すること考慮して、例えば、いくつかの燃料電池温度の時の燃料電池10内の反応ガス物質量とガス体積との関係を表すマップを用意するか、又は、例えば、いくつかの燃料電池10内の圧力の時の燃料電池10内の反応ガス物質量とガス体積との関係を表すマップを用意することが望ましい。
【0036】
制御部40は、燃料電池10内の流体流路容積から算出した燃料電池10内のガス体積を差し引いて、燃料電池10内の液水体積(アノード極内の液水体積のみ又はカソード極内の液水体積のみも含まれる)を算出する(液水体積算出手段)。ここで、燃料電池10内の流体流路容積は、予め設定される所定値であって、例えば、燃料電池10のセパレータに形成されるガス流路容積及び拡散層の細孔容積等である。アノード極内の液水体積を算出する場合には、例えば、アノード極側のセパレータの燃料ガス流路容積及び拡散層の細孔容積から、アノード極内のガス体積を差し引き、カソード極内の液水体積を算出する場合には、例えば、カソード極側のセパレータの酸化ガス流路容積及び拡散層の細孔容積から、カソード極内のガス体積を差し引けばよい。
【0037】
以上により、燃料電池10内の液水量を精度よく算出することができる。そして、燃料電池10内の液水量に基づいて、掃気処理の時間、掃気処理の際に供給する掃気ガス(空気)の流量等を決定したり、液水量に基づいて燃料電池10内の圧損を算出することができる。また、本実施形態は、燃料電池10内の液水量の算出が必要な時には、いつでも上記のように算出することができるが、液水量の計算制度を向上させることができる点で、燃料電池10を停止する際、燃料電池10の間欠運転時、車両のアイドリング時等燃料電池10に負荷が掛かっていない状態で、燃料電池10内の液水量を算出することが好ましい。
【0038】
ところで、燃料電池10の温度や周囲温度が高温の時等では、燃料電池10内の生成水が液水として存在していない場合がある(気体の状態)。そして、本実施形態では、燃料電池10内のガス体積を算出する際に用いた気体の状態方程式において、nH2Oを飽和蒸気量で計算している。すなわち、燃料電池10内に液水がない場合では、空気中の蒸気が飽和していないにも関わらず飽和蒸気量で計算しているため、燃料電池10内の流体流路容積から算出した燃料電池10内のガス体積を差し引いて燃料電池10内の液水体積を算出すると、その値が零以下になる場合がある。
【0039】
本実施形態では、通常、制御部40は、算出した燃料電池10内の液水体積が零以下の場合には、燃料電池10内に液水が存在しないとして液水の算出を終了するが、以下の方法により燃料電池10内の湿度を計算することも可能である。これにより、湿度センサを設置しなくても燃料電池10内の湿度を算出することができる。
【0040】
算出した燃料電池10内の液水体積が零以下の場合は、液水体積が零であるから、所定値である燃料電池10内の流体流路容積をガス体積とすることができる。すなわち、制御部40は、既定値である燃料電池10内の流体流路容積(V、V)、電圧降下時における内圧センサ38から送信される圧力データ(P、P)、上記算出した酸素物質量(nO2)又は水素物質量(nH2)、酸素物質量に空気中の窒素割合(0.71)を乗じた窒素物質量(nN2)、温度センサ36から送信される温度データ(T)を上式(a)、(b)に当てはめることにより、燃料電池10内の蒸気量を算出する。そして、算出した蒸気量を、温度センサ36から検出された温度での飽和蒸気量で除することにより、燃料電池10内の湿度を算出することができる。
【0041】
図3は、本実施形態に係る燃料電池システムの動作の一例を示すフローチャートである。ここでは、カソード極内の液水量を算出する。図3に示すように、ステップS10では、制御部40は、発電している燃料電池10を所定の電圧で所定時間維持するように制御する。ステップS12では、制御部40は、燃料ガスを供給したまま、エアコンプレッサ20を停止して、燃料電池10の電圧を降下させる。ステップS14では、電圧センサ32、電流センサ34、温度センサ36、及び内圧センサ38により、電圧降下時における燃料電池10の電圧、電流値、温度、内圧を検出する。ステップS16では、制御部40は、電圧センサ32及び電流センサ34から送信されるデータを基に、電圧降下時に発生する電流値を積算して、電圧降下時に発生する電気量を算出する。ステップS18では、制御部40は、電圧降下時に発生する電気量から予め設定した所定値(触媒に形成される酸化被膜の還元時に発生する電気量及び電気二重総容量の放電時に発生する電気量)を差し引いて酸素ガスが消費された際に発生する電気量を算出する。そして、酸素ガスが消費された際に発生する電気量を酸素物質量に換算し、さらにその値を所定値(1.27)で除して、電圧降下時にカソード極内にある酸素物質量を算出する。ステップS20では、制御部40は、上式(a)に、内圧センサ38から送信される圧力データ(P)、上記算出した酸素物質量(nO2)、窒素物質量(nN2)、温度センサ36から送信される温度データ(T)、温度と蒸気量との関係を表すマップを用いて算出した該温度での飽和蒸気量(nH2O)を当てはめて、カソード極内のガス体積を算出する。ステップS22では、制御部40は、予め設定した所定値であるカソード極内の流体流路容積(カソード極側のセパレータのガス流路容積及び拡散層の細孔容積)から、算出したカソード極内のガス体積を差し引いて、カソード極内の液水体積を算出する。
【0042】
そして、制御部40は、算出したカソード極内の液水体積が零を超えていれば、ステップS24に進み、算出した液水体積をカソード極内に存在する液水量として確定する。なお、予めカソード極内の液水量と燃料電池10内全体の液水量との関係をマップで規定し、該マップに算出したカソード極内の液水量を当てはめて、燃料電池10内全体の液水量を推定してもよい。
【0043】
一方、算出したカソード極内の液水体積が零以下であれば、ステップS26に進み、制御部40は、上式(a)に既定値であるカソード極内の流体流路容積(V)、内圧センサ38から送信される圧力データ(P)、上記算出した酸素物質量(nO2)、窒素物質量(nN2)、温度センサ36から送信される温度データ(T)を当てはめて、カソード極内の蒸気量を算出し、算出した蒸気量からカソード極内の湿度を算出する。なお、予めカソード極内の湿度と燃料電池10内全体の湿度との関係をマップで規定し、該マップに算出したカソード極内の湿度を当てはめて、燃料電池10内全体の湿度を推定してもよい。
【0044】
また、アノード極内の液水量を算出する場合には、制御部40は、発電している燃料電池10を所定の電圧で所定時間維持するように制御した後、エアコンプレッサ20により酸化ガスを供給したまま、燃料ガスタンク14からの燃料ガスの供給を停止して、燃料電池10の電圧を降下させる。そして、上記と同様に燃料電池システム1を動作させることにより、アノード極内の液水量又は湿度を算出することができる。また、上記同様に、アノード極内の液水量又は湿度から、燃料電池10内全体の液水量又は湿度を推定することも可能である。
【0045】
本実施形態では、カソード極内にある酸素物質量を算出する際には、触媒に形成される酸化被膜の還元時に発生する電気量を予め設定した所定値としているが、燃料電池10を長期間使用すると、触媒が劣化して、触媒に形成される酸化被膜の還元時に発生する電気量が変化してしまうため、上記所定値を補正することが好ましい。
【0046】
電圧降下時に発生する電気量は、(1)カソード極の酸素が反応する時に発生する電気量、(2)触媒に形成される酸化被膜が還元される時に発生する電気量、(3)電気二重層容量が放電する時に発生する電気量である。そこで、(3)の電気量を所定値とし、また、(1)の電気量を算出すれば、電圧降下時に発生する電気量から(1),(3)の電気量を差し引くことにより、(2)の電気量を算出することができる。
【0047】
ここで、(1)の電気量を算出するには、カソード極内の液水を零にする必要がある。カソード極内の液水が零であれば、カソード極内のガス体積をカソード極内の流体流路容積に置き換えることができるため、制御部40は、以下のように(1)の電気量を算出することができる。制御部40は、上式(a)に既定値であるカソード極内の流体流路容積(V)、内圧センサ38から送信される圧力データ(P)、温度センサ36から送信される温度データ(T)、温度と蒸気量との関係を表すマップを用いて算出した該温度での飽和蒸気量(nH2O)を当てはめて、カソード極内の酸素物質量を算出する。ここで、カソード極では、初めにカソード極内にあった酸素が消費されると、その体積分だけ外部から空気が流入し、その空気の21%の酸素が消費され、これらが繰り返されるため、上記算出した酸素物質量に所定の定数(1.27≒1+0.21+0.21+0.21+・・・)を乗じることにより、カソード極内で消費される酸素物質量が算出される。そして、カソード極の酸素が反応する式(4H+O+4e→2HO)を基に、算出した消費酸素物質量を酸素ガスが消費される時に発生する電気量((1)の電気量)に換算する。そして、制御部40は、電圧降下時に発生する電気量から(1),(3)の電気量を差し引くことにより、(2)の電気量を算出する。これにより、予め規定した(2)の電気量を補正することが可能となる。なお、アノード極側でも同様に算出することが可能である。また、本実施形態では、(3)の電気量を予め設定した所定値としているが、電気二重層容量の放電は最後に行われるため、図2(B)の電圧降下時において発生した電流値と経過時間との関係を表すグラフにおいて、例えば、電流値が降下した後の平坦領域(11秒〜12秒当たり)の電流値を積算し、それを(3)の電気量として算出してもよい。
【0048】
図4は、触媒に形成される酸化被膜が還元される時に発生する電気量の算出方法の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、ステップS30では、制御部40は、温度センサ36により、燃料電池10の温度を検出し、また、電圧センサ32、電流センサ34により、燃料電池10の電圧及び電流値を検出し、該電圧及び電流値に基づいて内部抵抗を推定する。なお内部抵抗の推定、検出方法は特に制限されるものではなく、従来の推定、検出方法の全てを採用することができる。制御部40は、検出した温度が予め設定した所定値以下であって、内部抵抗が予め設定した所定値以下である場合にはステップS32に進み、上記条件を満たさない時はその後の動作を終了する。燃料電池10の温度が高く、また内部抵抗が高いと、カソード極内の蒸気が飽和蒸気と見なせないため、電気量の計算精度が悪くなる虞があるため、上記の温度及び内部抵抗の条件を設定することが好ましい。
【0049】
ステップS32では、制御部40は、エアコンプレッサ20を所定流量で所定時間稼働させ、カソード極内の液水を全て排出させる。ステップS34では、制御部40は、発電している燃料電池10を所定の電圧で所定時間維持するように制御する。ステップS36では、制御部40は、燃料ガスを供給したまま、エアコンプレッサ20を停止して、燃料電池10の電圧を降下させる。ステップS38では、電圧センサ32、電流センサ34、温度センサ36、及び内圧センサ38により、電圧降下時における燃料電池10の電圧、電流値、温度、内圧を検出する。ステップS40では、制御部40は、電圧センサ32及び電流センサ34から送信されるデータを基に、電圧降下時に発生する電流値を積算して、電圧降下時に発生する電気量を算出する。ステップS42では、制御部40は、上式(a)に、既定値であるカソード極内の流体流路容積(V)、内圧センサ38から送信される圧力データ(P)、温度センサ36から送信される温度データ(T)、温度と蒸気量との関係を表すマップを用いて算出した該温度での飽和蒸気量(nH2O)を当てはめて、カソード極内の酸素物質量を算出する。そして、算出した酸素物質量に所定値(1.27)を乗じて、カソード極内で消費される酸素物質量を算出し、カソード極の酸素が反応する式(4H+O+4e→2HO)を基に、算出した消費酸素物質量を酸素ガスが消費される時に発生する電気量に換算する。ステップS44では、ECU40は、電圧降下時に発生する電気量から算出した酸素ガスが消費されるときに発生する電気量及び所定値(電気二重層容量が放電する時に発生する電気量)を差し引き、触媒上に形成される酸化被膜が還元される際に発生する電気量を算出する。この算出方法は、カソード極に限定されるものではなく、アノード極側でも同様に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 燃料電池システム、10 燃料電池、12 燃料ガス供給路、14 燃料ガスタンク、16 燃料ガス排気路、18 酸化ガス供給路、20 エアコンプレッサ、22 酸化ガス排気路、24 連通路、26,28,30 弁、32 電圧センサ、34 電流センサ、36 温度センサ、38 内圧センサ、40 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの反応により発電する燃料電池と、
燃料電池の電圧降下時に発生する電流値から、電圧降下時に発生する電気量を算出する電気量算出手段と、
前記電圧降下時に発生する電気量に基づいて、燃料電池内の反応ガスの物質量を算出する反応ガス物質量算出手段と、
前記反応ガス物質量に基づいて、燃料電池内のガス体積を算出するガス体積算出手段と、
燃料電池内の流体流路容積から前記ガス体積を差し引いて、燃料電池内の液水体積を算出する液水体積算出手段と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、前記ガス体積算出手段は、前記反応ガス物質量、飽和蒸気量、燃料電池内の温度、燃料電池内の圧力に、気体の状態方程式を適用して、前記ガス体積を算出することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムであって、前記液水体積算出手段は、前記液水体積が零以下の場合には、前記反応ガス物質量、前記燃料電池内の流体流路容積、燃料電池内の温度、燃料電池内の圧力に、気体の状態方程式を適用して、燃料電池内の湿度を算出することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システムであって、前記電圧降下時に発生する電気量は、反応ガスが消費された際に発生する電気量と、燃料電池を構成する触媒層の触媒に形成される酸化被膜が還元された際に発生する電気量とを含み、
燃料電池内の液水体積が零の時の反応ガスが消費された際に発生する電気量を算出し、該算出した反応ガスが消費された際に発生する電気量を前記電圧降下時に発生する電気量から差し引いて、前記触媒に形成された酸化被膜が還元された際に発生する電気量を算出する手段を備えることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−238401(P2011−238401A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107381(P2010−107381)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】