説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池で発電を行うことができない場合であっても、システムに必要な熱量を供給することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】空気と水素とを電気化学反応させて発電する燃料電池2と、空気を燃料電池2に供給する空気供給配管40と、空気供給配管40に設けられるとともに、燃料電池2に供給ガスを圧送する空気ポンプ42とを備え、燃料電池2で発電をしない場合に、空気ポンプ42により圧送された空気を、空気供給配管40における空気ポンプ42の入口側に戻して循環させることにより熱を創出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学反応させて発電する燃料電池を備える燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池システムに必要な熱量を供給するために、燃料電池の電流を制御する電流制御手段と、燃料電池の電圧を制御する電圧制御手段と、燃料電池システムが必要とする必要熱量を算出し、算出された必要熱量を発熱するように電流制御手段の電流目標値と電圧制御手段の電圧目標値を決定することで発熱量を制御する発熱量制御手段とを備える燃料電池システムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の従来技術によれば、燃料電池本体が熱を創出する熱創出手段となり、電気ヒータ等の加熱手段を別途設ける必要なくなるため、燃料電池システムの簡素化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−32605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池を駆動源とする燃料電池車両では、一般に減速時や降坂時に車両駆動用モータ等を用いて回生制動を行わせ、回生制動により得られる回生電力を二次電池(電力貯蔵装置)に蓄え、次の発進時や加速時に利用することで、車両燃費、車両加速性能を向上させることが行われている。
【0006】
しかしながら、降り坂が連続して続くような場合には、回生電力により二次電池が満充電状態になってしまい、駆動用モータからの回生電力を二次電池に蓄えることができなくなる。すなわち、このような場合には、燃料電池で発電を行うことができなくなる。
【0007】
ここで、上記特許文献1に記載の従来技術は、燃料電池の電流および電圧を制御することにより発熱量を制御する構成である。したがって、上記特許文献1に記載の従来技術を上述のような燃料電池車両に適用した場合、回生制動時で且つ二次電池が満充電状態の場合、すなわち燃料電池で発電を行うことができない場合には、燃料電池で熱を創出することができないという問題がある。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、燃料電池で発電を行うことができない場合であっても、システムに必要な熱量を供給することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学反応させて発電する燃料電池(2)と、酸化剤ガスおよび燃料ガスの少なくとも一方である供給ガスを燃料電池(2)に供給する供給ガス流路(40)と、供給ガス流路(40)に設けられるとともに、燃料電池(2)に供給ガスを圧送する供給ガス圧送手段(42)とを備え、燃料電池(2)で発電をしない場合に、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の入口側に戻して循環させることにより熱を創出することを特徴とする。
【0010】
これによれば、燃料電池(2)で発電をしない場合に、供給ガスを圧送手段(42)にて断熱圧縮してその温度を上昇させることができる、すなわち熱を創出することができる。したがって、燃料電池(2)で発電を行うことができない場合であっても、システムに必要な熱量を供給することが可能となる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の入口側に戻す循環流路(44)と、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを燃料電池(2)へ流入させる第1流路、および、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを循環流路(44)へ流入させる第2流路とを切り替える流路切替手段(45)とを備えることを特徴としている。
【0012】
これによれば、燃料電池(2)で発電を行うことができない場合に、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の入口側に戻して循環させる構成を容易かつ確実に実現できる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、燃料電池(2)に供給される冷却水が循環する冷却水循環回路(5)を備え、循環流路(44)の入口側は、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の下流側に接続されており、供給ガス流路(40)における循環流路(44)との接続点と圧送手段(42)との間には、供給ガスと冷却水との間で熱交換を行う熱交換器(46)が設けられていることを特徴とする。
【0014】
これによれば、圧送手段(42)にて断熱圧縮されて昇温された供給ガスが熱交換器(46)に供給されるので、熱交換器(46)において、当該昇温された供給ガスと冷却水との間で熱交換を行い、冷却水を加熱することができる。すなわち、燃料電池(2)で発電を行うことができない場合に、供給ガスを圧送手段(42)にて断熱圧縮することにより創出した熱を、冷却水に供給することができる。このため、例えば、燃料電池システムを燃料電池車両に適用した場合、熱交換器(46)にて加熱された高温の冷却水を車室内暖房用の熱源として利用することができる。
【0015】
また、圧送手段(42)にて断熱圧縮されて昇温された供給ガスは、燃料電池(2)に流入することがなく、再度圧送手段(42)の入口側に供給される。このため、燃料電池(2)で発電を行うことができない場合に、供給ガスが燃料電池(2)に供給されることを防止できる。このため、燃料電池(2)の内部が乾燥することを抑制できる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明では、請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、燃料電池(2)内を通過した供給ガスが流通する下流側供給ガス流路(41)を備え、循環流路(44)の入口側は、下流側供給ガス流路(41)に接続されていることを特徴とする。
【0017】
これによれば、圧送手段(42)にて断熱圧縮されて昇温された供給ガスが燃料電池(2)に供給されるので、燃料電池(2)において、当該昇温された供給ガスと冷却水との間で熱交換を行い、冷却水を加熱することができる。このとき、供給ガスと冷却水との間で熱交換を行う熱交換器を別途設ける必要がないので、部品点数の増加を防止しつつ、燃料電池(2)で発電を行うことができない場合に、供給ガスを圧送手段(42)にて断熱圧縮することにより創出した熱を、冷却水に供給することができる。このため、例えば、燃料電池システムを燃料電池車両に適用した場合、燃料電池(2)にて加熱された高温の冷却水を車室内暖房用の熱源として利用することができる。
【0018】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、循環流路(44)の圧力損失が、供給ガス流路(40)の圧力損失より大きいことを特徴とする。
【0019】
これによれば、循環流路(44)を流れて再度圧送手段(42)に流入する供給ガスの圧力を低下させることができるので、供給ガスを圧送手段(42)にて断熱圧縮する際に、その温度をより高温にすることができる。すなわち、より多くの熱を創出することが可能となる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、圧送手段(42)の供給ガス圧送能力を制御する圧送能力制御手段(8a)と、燃料電池(2)で発電をしない場合に、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の入口側に戻して循環させることで熱を創出する熱創出手段(42、400)とを備え、圧送能力制御手段(8a)は、熱創出手段(42、400)に要求される要求熱創出量が多くなる程、圧送手段(42)による供給ガスの圧送能力を増加させることを特徴とする。
【0021】
これによれば、熱創出手段(42、400)に要求される要求熱創出量が多くなる程、圧送手段(42)による供給ガスの圧送能力を増加させて、創出される熱量を増加させることができる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、圧送手段(42)により圧送された供給ガスを、供給ガス流路(40)における圧送手段(42)の入口側に戻して循環させる際に、当該供給ガスが流れる流路を供給ガス循環回路(400)としたとき、供給ガス循環回路(400)を循環する供給ガスの少なくとも一部を、供給ガス循環回路(400)外へ排出可能な排出手段(45、48)を備え、供給ガス循環回路(400)を循環している供給ガスの温度が予め定めた基準温度を上回った場合に、排出手段(45、48)から供給ガスの少なくとも一部を供給ガス循環回路(400)外へ排出するとともに、供給ガス循環回路(400)内に新たに供給ガスを導入することを特徴とする。
【0023】
これによれば、圧送手段(42)により断熱圧縮されて昇温された後の供給ガスの温度が高すぎる場合に、高温の供給ガスの少なくとも一部を供給ガス循環回路(400)外へ排出するとともに、供給ガス循環回路(400)内に新たに低温の供給ガスを導入することができる。これにより、供給ガス循環回路(400)内を循環する供給ガスの温度を低下させることが可能となる。
【0024】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態に係る燃料電池システムの電気制御部を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る燃料電池システムの制御処理を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図5】第3実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図3に基づいて説明する。図1は、本第1実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。この燃料電池システム1は、電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。
【0028】
図1に示すように、燃料電池システム1は、空気(酸化剤ガス)と水素(燃料ガス)との電気化学反応により電力を発生する燃料電池2を備えている。燃料電池2は、空気および水素の供給を受けて発電する複数の単セルを積層したスタック構造により構成されている。
【0029】
燃料電池2にて生じた直流の電力の一部は、第1インバータ21を介して交流電流に変換されて車両走行用電動モータ22等の各種電気負荷に供給される。また、燃料電池2にて生じた直流の電力の一部は、DC/DCコンバータ23によって昇降圧され、電力貯蔵手段である二次電池24に充電される。また、DC/DCコンバータ23によって昇降圧された電力の一部は、第2インバータ25を介して交流電流に変換されて、後述する空気ポンプ42の空気ポンプ用電動モータ26に供給される。
【0030】
なお、本実施形態の燃料電池車両は、減速時や降坂時に車両走行用電動モータ22等を用いて回生制動を行わせ、回生制動により得られる回生電力を二次電池24に蓄えられるようになっている。
【0031】
燃料電池2には、各単セルに水素を供給するための水素供給配管30、および各単セルの内部に存する生成水や窒素を未反応水素と共に燃料電池2の外部に排出する水素排出配管31が接続されている。そして、本実施形態の水素供給配管30および水素排出配管31は、水素循環配管32を介して接続されている。
【0032】
水素供給配管30には、その最上流部に、高圧水素が充填された高圧水素タンク33が設けられている。また、水素供給配管30における高圧水素タンク33と燃料電池2との間には、燃料電池2に供給される水素の圧力を所定の圧力に調整可能な水素調圧弁34が設けられている。
【0033】
水素排出配管31には、水素を燃料電池2の外部に排出するための排出弁35が設けられている。この排出弁35は、開放された際に、燃料電池2の水素極側から水素排出配管31を介して、水素、蒸気(あるいは水)および空気極側から電解質膜を通過して水素極側に混入した窒素、酸素などの不純物が排出される。
【0034】
水素循環配管32は、水素排出配管31の排出弁35上流側から分岐して水素供給配管30の水素調圧弁34下流側に接続されている。これにより、燃料電池2から流出した未反応水素を含む燃料オフガスを、燃料電池2に循環させて再供給している。さらに、水素循環配管32には、燃料オフガスを水素供給配管30に循環させる水素循環ポンプ36が配置されている。
【0035】
また、燃料電池2には、各単セルに空気を供給するための空気供給配管40、および各単セルの内部に存する生成水を空気と共に燃料電池2の外部に排出する空気排出配管41が接続されている。
【0036】
空気供給配管40には、燃料電池2に空気を圧送して供給する圧送手段としての空気ポンプ42が設けられている。空気ポンプ42は、ポンプ室を形成するケーシング内に配置された羽根車を空気ポンプ用電動モータ26で駆動する電動式のポンプである。
【0037】
空気ポンプ用電動モータ26は、第2インバータ25から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、第2インバータ25は、後述する制御装置8から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、空気ポンプ42の空気圧送能力が制御される。
【0038】
また、空気排出配管41には、燃料電池2の空気極側における空気の圧力(背圧)を所定の圧力に調整する空気調圧弁43が設けられている。空気調圧弁43は、制御装置8から出力される制御信号に応じて、その作動が制御される。
【0039】
また、空気供給配管40には、空気ポンプ42により圧送された供給ガスとしての空気を、空気供給配管40における空気ポンプ42の入口側(上流側)に戻す空気循環配管44が接続されている。この空気循環配管44内の圧力損失は、空気供給配管40内の圧力損失より大きくなっている。
【0040】
また、空気供給配管40における空気ポンプ42より下流側部分と空気循環配管44との接続部には、電気式の第1三方弁45が配置されている。第1三方弁45は、空気ポンプ42により圧送された空気を燃料電池2へ流入させる第1流路、および、空気ポンプ42により圧送された空気を空気循環配管44へ流入させる第2流路を切り替える流路切替手段である。この第1三方弁45は、制御装置8から出力される制御電圧によって、その作動が制御される。
【0041】
また、空気供給配管40における空気ポンプ42の出口側と第1三方弁45の間には、燃料電池2を冷却する冷却水(熱媒体)と空気との間で熱交換可能な熱交換器としてのインタークーラ46が設けられている。このインタークーラ46の詳細な構成については後述する。
【0042】
また、空気供給配管40における空気ポンプ42とインタークーラ46との間には、空気ポンプ42から吐出された空気温度Taを検出する空気温度検出手段としての空気温度センサ47が設けられている。
【0043】
なお、本実施形態では、空気供給配管40が供給ガス流路を構成し、空気ポンプ42が供給ガス圧送手段を構成し、空気循環配管44が循環流路を構成している。また、本実施形態では、空気排出配管41は、燃料電池2内を通過した空気が流通するようになっている。したがって、空気排出配管41が下流側供給ガス流路を構成している。
【0044】
ところで、燃料電池システム1は、燃料電池2に冷却水を循環供給する冷却水循環回路5を備えている。冷却水循環回路5は、冷却水を燃料電池2および後述するラジエータ55に循環供給する冷却水循環流路51と、冷却水のラジエータ55への流入を回避させるバイパス流路52と、冷却水を冷却水循環流路51やバイパス流路52等に循環させる冷却水循環ポンプ53と、冷却水を循環させる流路を制御する電気式の第2三方弁54等を備えている。
【0045】
冷却水循環流路51には、送風ファン55aから送風された送風空気と冷却水とを熱交換させて冷却水を放熱させる放熱用熱交換器としてのラジエータ55が設けられている。また、冷却水循環流路51のうち燃料電池2の出口側には、冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ56が設けられている。
【0046】
冷却水循環ポンプ53は、冷却水循環回路5において冷却水を燃料電池2へ圧送する電動式のポンプであり、制御装置8から出力される制御信号によって回転数(流量)が制御される。
【0047】
第2三方弁54は、冷却水循環流路51とバイパス流路52とを切り替える回路切替手段である。この第2三方弁54は、制御装置8から出力される制御電圧によって、その作動が制御される。
【0048】
具体的には、第2三方弁54は、第一入口、第二入口および出口を形成する三つの弁を有する。第2三方弁54の第一入口は、ラジエータ55の出口側に冷却水循環流路51を介して接続されており、第2三方弁54の第二入口は、バイパス流路52の出口に接続されている。第2三方弁54の出口は冷却水循環ポンプ53の入口側に冷却水循環流路51を介して接続されている。
【0049】
そして、第2三方弁54は、冷却水の温度が低い場合(例えば、燃料電池2の暖機が必要な場合)には、第一入口が閉弁され、第二入口が開弁される。これにより、冷却水がラジエータ55を経由することなくバイパス流路52を通って循環するため、冷却水の温度が上昇する。一方、冷却水の温度が高い場合(例えば、燃料電池2が安定して運転できる上限温度を超える場合)には、第一入口を開弁し、第二入口を閉弁する。これにより、冷却水がラジエータ55によって冷却されるため、冷却水の温度が低下する。
【0050】
冷却水循環回路5には、ヒータコア61に冷却水を供給するヒータコア循環流路6が接続されている。ヒータコア循環流路6は、冷却水循環回路5におけるバイパス流路52への分岐点よりも冷却水流れ上流側から分岐している。すなわち、ヒータコア循環流路6の入口側は、冷却水循環回路5におけるバイパス流路52への分岐点と冷却水温度センサ56との間に接続されている。ヒータコア循環流路6の出口側は、冷却水循環回路5における第2三方弁54と冷却水循環ポンプ53との間に接続されている。
【0051】
また、ヒータコア循環流路6には、ヒータコア61およびシャット弁62が設けられている。シャット弁62およびヒータコア61は、ヒータコア循環流路6の冷却水流れ上流側から、この順に配置されている。
【0052】
ヒータコア61は、送風機(図示せず)により送風された送風空気(空調用空気)と冷却水とを熱交換させて、送風空気を加熱する加熱用熱交換器である。シャット弁62は、冷却水循環流路51からヒータコア61への冷却水の供給を遮断または許容する電気式の制御弁であり、制御装置8から出力される制御電圧によって、その作動が制御される。
【0053】
冷却水循環回路5には、インタークーラ46に冷却水を供給するインタークーラ循環流路7が接続されている。インタークーラ循環流路7は、冷却水循環回路5におけるヒータコア循環流路6への分岐点よりも冷却水流れ上流側から分岐している。すなわち、インタークーラ循環流路7の出口側は、冷却水循環回路5におけるヒータコア循環流路6への分岐点と冷却水温度センサ56との間に接続されている。インタークーラ循環流路7の入口側は、冷却水循環回路5における冷却水循環ポンプ53の出口側に接続されている。
【0054】
インタークーラ46は、上述した空気供給配管40を流通する空気と冷却水とを熱交換させて、空気の有する熱を冷却水へ供給する熱交換器である。
【0055】
次に、図2により、本実施形態の電気制御部について説明する。図2は、本第1実施形態に係る燃料電池システムの電気制御部を示すブロック図である。
【0056】
図2に示すように、制御装置8は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種機器の作動を制御する。
【0057】
制御装置8の出力側には、各種インバータ21、25、DC/DCコンバータ23、各種調圧弁34、43、排出弁35、各種循環ポンプ36、53、各種三方弁45、54、送風ファン55a、シャット弁62等が接続されている。
【0058】
また、制御装置8の入力側には、燃料電池2の出力電流を検出する電流センサ27、燃料電池2の出力電圧を検出する電圧センサ28、空気ポンプ42から吐出された空気温度Taを検出する空気温度センサ47、燃料電池2の出口側の冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ56等が接続されている。
【0059】
なお、制御装置8は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。本実施形態では、特に、空気ポンプ42の圧送能力制御変更手段である空気ポンプ用電動モータ26の作動(空気圧送能力)を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を圧送能力制御手段8aとする。
【0060】
次に、図3により、上記構成における本実施形態の燃料電池システム1の作動を説明する。図3は、本実施形態に係る燃料電池システム1の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、燃料電池システム1の作動スイッチ(図示せず)が投入されるとスタートする。
【0061】
まず、ステップS101では、暖房要求があるか否か判定する。具体的には、暖房スイッチ(図示せず)が投入された場合に、暖房要求があると判定することができる。ステップS101にて、暖房要求がないと判定された場合は、再度ステップS101に戻る。
【0062】
一方、ステップS101にて、暖房要求があると判定された場合は、ステップS102に進み、燃料電池2での発電が許可されているか否かを判定する。具体的には、回生制動時で且つ二次電池24が満充電状態になっており、車両走行用電動モータ22からの回生電力を二次電池24に蓄えることができない場合に、燃料電池2での発電が許可されていないと判定することができる。
【0063】
ステップS102にて、燃料電池2での発電が許可されていると判断された場合は、ステップS103に進み、燃料電池2に通常運転時よりも発電効率の低い運転(以下、低効率発電という)を行わせ、ステップS101に戻る。燃料電池2に低効率発電を行わせると、燃料電池2から放出される熱を増加させることができる。
【0064】
具体的には、空気のストイキ比Stを通常運転時(St=1.5〜2.0)より小さく設定(St=1.0〜1.2)する。これにより、水素と酸素との反応によって取り出せるエネルギーのうち、電力損失分(すなわち熱損失分)が積極的に増大されるため、燃料電池2から放出される熱を増加させることができる。このように、燃料電池2から放出される熱を増加させると、燃料電池2からの排熱を吸収する冷却水の温度を上昇させることができる。
【0065】
また、他の方法としては、燃料電池2の出力電流を維持させながら、出力電圧をDC/DCコンバータ23で降圧させる。これにより、同じ燃料消費量で、出力電圧を低下させることができるため、その分、燃料電池2に低効率発電を行わせることができ、燃料電池2から放出される熱を増大させることができる。
【0066】
一方、ステップS102にて、燃料電池2での発電が許可されていないと判断された場合は、ステップS104に進み、第1三方弁45を、空気ポンプ42により圧送された空気を空気循環配管44へ流入させる第2流路(後述する空気循環回路400側)に切り替える。続くステップS105では、空気ポンプ42を作動させて、ステップS101に戻る。
【0067】
これにより、空気ポンプ42により圧送された空気が、空気供給配管40から空気循環配管44に流入し、再度空気ポンプ42へ流入する。すなわち、空気が、空気ポンプ42→インタークーラ46→第1三方弁45→空気循環配管44→空気ポンプ42のように循環する。以下、この空気が循環する流路を、空気循環回路400ともいう。
【0068】
したがって、空気ポンプ42にて断熱圧縮されることにより昇温された空気を、インタークーラ46に供給することができる。このため、インタークーラ46にて、高温の空気とインタークーラ循環流路7を流れる冷却水との間で熱交換を行い、冷却水を加熱することができる。そして、インタークーラ46にて加熱された冷却水がヒータコア61に供給されることで、ヒータコア61にて空調空気を加熱することができるので、車室内の暖房を行うことができる。
【0069】
なお、この場合、空気は空気循環回路400内で循環しており、燃料電池2に供給されることはないので、燃料電池2では発電が行われない。さらに、燃料電池2に空気が供給されないので、燃料電池2内部(スタック)の乾燥を抑制できる。
【0070】
ここで、ステップS104、S105において、空気循環回路400内を循環する空気を、空気ポンプ42にて断熱圧縮することにより昇温させる、すなわち熱を創出することができる。したがって、本実施形態では、空気ポンプ42および空気循環回路400が熱創出手段を構成している。
【0071】
本実施形態では、ステップS105において空気ポンプ42を作動させる際に、空気ポンプ42を作動させる電力として、二次電池24に蓄電されている電力もしくは回生電力を利用している。また、ステップS105では、要求される暖房能力(要求熱創出量)が多くなる程、空気ポンプ42の空気圧送能力を増加させている。これにより、二次電池24に蓄電されている電力を効率よく利用することができる。
【0072】
また、本実施形態では、ステップS104、S105において、空気を空気循環回路400内で循環させる場合に、通常時(空気を空気循環回路400内に循環させない場合)と比較して、冷却水循環ポンプ53の冷却水圧送能力を増大させて、インタークーラ46に供給される冷却水の流量を増大させている。このように、空気を空気循環回路400内で循環させる場合には、空気の温度が上昇するが、この際にインタークーラ46を流れる冷却水流量を増大させることで、インタークーラ46における熱交換性能を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態では、ステップS104、S105において、空気を空気循環回路400内で循環させている場合に、冷却水温度が予め定めた基準冷却水温度を上回ったときには、第2三方弁54を切り替えて、冷却水がラジエータ55によって冷却されるようにしている。これにより、冷却水温度を調整することができる。
【0074】
また、本実施形態では、空気温度センサ47により検出された空気ポンプ42吐出側の空気温度Taが予め定めた基準空気温度を上回った場合には、第1三方弁45の開度を調整し、空気循環回路400を循環する空気の一部を燃料電池2側に流出させている。これによれば、高温の空気を空気循環回路400の系外に排出しつつ、新たに低温の空気を空気循環回路400内に導入することができるので、空気ポンプ42吐出側の空気温度Taを低下させることができる。
【0075】
ここで、本実施形態では、第1三方弁45が、空気循環回路400を循環する空気の一部を空気循環回路400外へ排出可能な排出手段を構成している。
【0076】
ところで、降り坂が連続して続くような場合に、回生電力により二次電池24が満充電状態になってしまうと、回生制動を利用するために回生電力を放電する必要がある。本実施形態では、このような場合においても、第1三方弁45を空気循環回路400側に切り替えるとともに、空気ポンプ42を作動させている。これにより、燃料電池2で発電が行われない場合に、燃料電池2に空気が供給されることはないので、燃料電池2内部(スタック)の乾燥を抑制できる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態によれば、燃料電池2で発電を行うことができない場合に、空気を空気ポンプ42にて断熱圧縮してその温度を上昇させることができる、すなわち熱を創出することができる。したがって、燃料電池2で発電を行うことができない場合であっても、システムに必要な熱量を供給することが可能となる。
【0078】
また、空気循環配管44内の圧力損失を、空気供給配管40内の圧力損失より大きくすることで、空気循環配管44を流れて再度空気ポンプ42に流入する空気の圧力を低下させることができるので、空気を空気ポンプ42にて断熱圧縮する際に、その温度をより高温にすることができる。すなわち、より多くの熱を創出することが可能となる。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図4に基づいて説明する。本第2実施形態では、上記第1実施形態と比較して、空気循環配管44の入口側を、空気排出配管41に接続した点が異なるものである。
【0080】
図4は、本第2実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。図4に示すように、空気排出配管41における空気調圧弁43より空気流れ下流側には、空気循環配管44の入口側が接続されている。空気排出配管41と空気循環配管44との接続部には、第1三方弁45が設けられている。
【0081】
第1三方弁45は、燃料電池2から流出した空気を外部へ排出する第1流路、および、燃料電池2から流出した空気を空気循環配管44へ流入させる第2流路を切り替える流路切替手段である。第1三方弁45を第1流路に切り替えることで、空気ポンプ42により圧送された空気は、空気供給配管40を流れて燃料電池2に供給され、燃料電池2から流出した空気(オフ空気ガス)が外部へ排出される。
【0082】
また、第1三方弁45を第2流路に切り替えるとともに、空気ポンプ42を作動させることで、空気ポンプ42により圧送された空気が、空気供給配管40を流れて燃料電池2に供給され、燃料電池2から流出した空気が空気循環配管44を流れて、再度空気ポンプ42へ流入する。すなわち、空気が、空気ポンプ42→燃料電池2→第1三方弁45→空気循環配管44→空気ポンプ42のように循環する。以下、この空気が循環する流路を、空気循環回路400ともいう。
【0083】
したがって、空気ポンプ42にて断熱圧縮されることにより温度が上昇した空気を、燃料電池2に供給することができる。このため、燃料電池2にて、高温の空気と燃料電池2内を流れる冷却水との間で熱交換を行い、冷却水を加熱することができる。そして、燃料電池2にて加熱された冷却水がヒータコア61に供給されることで、ヒータコア61にて空調空気を加熱することができるので、車室内の暖房を行うことができる。
【0084】
本実施形態では、燃料電池2において、高温の空気を冷却水と熱交換させて冷却水を加熱している。すなわち、燃料電池2が、高温の空気を冷却水と熱交換させる熱交換器としての機能を果たす。したがって、冷却水を加熱するためのインタークーラ等の熱交換器を廃止することができるので、部品点数を低減しつつ、上記第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0085】
また、第1三方弁45を、空気排出配管41における空気調圧弁43より空気流れ下流側に配置することで、第1三方弁45の開度を調整することにより、空気循環配管44を流れて空気ポンプ42に再度流入する空気の圧力を調整することができる。このため、空気ポンプ42にて空気を断熱圧縮する際に、その温度を調整することができる。
【0086】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図5に基づいて説明する。本第3実施形態では、上記第1実施形態と比較して、空気循環回路400を循環する空気を排出可能な循環空気排出弁48を設けた点が異なるものである。
【0087】
図5は、本第3実施形態に係る燃料電池システムを示す全体構成図である。図5に示すように、空気供給配管40におけるインタークーラ46と第1三方弁45との間には、空気循環回路400を循環する空気の少なくとも一部を系外へ排出可能な排出手段としての循環空気排出弁48が設けられている。循環空気排出弁48は、常閉型の電磁弁であり、制御装置8から出力される制御信号に応じて、その作動が制御される。
【0088】
具体的には、制御装置8は、空気温度センサ47により検出された空気ポンプ42吐出側の空気温度Taが基準空気温度を上回った場合に、循環空気排出弁48を開弁し、空気循環回路400を循環する高温の空気の一部を系外に排出しつつ、新たに低温の空気を空気循環回路400内に導入する。これにより、空気ポンプ42吐出側の空気温度Taを低下させることができる。
【0089】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0090】
(1)上記第1、第2実施形態では、空気温度センサ47により検出された空気ポンプ42吐出側の空気温度Taが基準空気温度を上回った場合に、第1三方弁45の開度を調整し、空気循環回路400を循環する空気の一部を燃料電池2側に流した例について説明したが、これに限らず、空気ポンプ42の空気圧送能力(回転数)を低下させてもよい。これによれば、空気ポンプ42による断熱圧縮仕事量を低減できるので、空気ポンプ42吐出側の空気温度Taを低下させることができる。
【0091】
(2)上記実施形態では、供給ガスとして空気を採用した例について説明したが、これに限らず、供給ガスとして水素を採用してもよいし、水素および空気の双方を採用してもよい。
【0092】
(3)上記実施形態では、冷却水循環流路51とバイパス流路52とを切り替える回路切替手段として、電気式の第2三方弁54を採用した例を説明したが、回路切替手段はこれに限定されない。例えば、サーモスタット弁を採用してもよい。サーモスタット弁は、温度によって体積変化するサーモワックス(感温部材)によって弁体を変位させて冷却水通路を開閉する機械的機構で構成される冷却水温度応動弁である。
【符号の説明】
【0093】
2 燃料電池
40 空気供給配管(供給ガス流路)
42 空気ポンプ(供給ガス圧送手段)
44 空気循環配管(循環流路)
45 第1三方弁(流路切替手段)
46 インタークーラ(熱交換器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学反応させて発電する燃料電池(2)と、
前記酸化剤ガスおよび前記燃料ガスの少なくとも一方である供給ガスを前記燃料電池(2)に供給する供給ガス流路(40)と、
前記供給ガス流路(40)に設けられるとともに、前記燃料電池(2)に前記供給ガスを圧送する供給ガス圧送手段(42)とを備え、
前記燃料電池(2)で発電をしない場合に、前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを、前記供給ガス流路(40)における前記圧送手段(42)の入口側に戻して循環させることにより熱を創出することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
さらに、前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを、前記供給ガス流路(40)における前記圧送手段(42)の入口側に戻す循環流路(44)と、
前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを前記燃料電池(2)へ流入させる第1流路、および、前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを前記循環流路(44)へ流入させる第2流路とを切り替える流路切替手段(45)とを備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
さらに、前記燃料電池(2)に供給される冷却水が循環する冷却水循環回路(5)を備え、
前記循環流路(44)の入口側は、前記供給ガス流路(40)における前記圧送手段(42)の下流側に接続されており、
前記供給ガス流路(40)における前記循環流路(44)との接続点と前記圧送手段(42)との間には、前記供給ガスと前記冷却水との間で熱交換を行う熱交換器(46)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
さらに、前記燃料電池(2)内を通過した前記供給ガスが流通する下流側供給ガス流路(41)を備え、
前記循環流路(44)の入口側は、前記下流側供給ガス流路(41)に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記循環流路(44)の圧力損失が、前記供給ガス流路(40)の圧力損失より大きいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
さらに、前記圧送手段(42)の供給ガス圧送能力を制御する圧送能力制御手段(8a)と、
前記燃料電池(2)で発電をしない場合に、前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを、前記供給ガス流路(40)における前記圧送手段(42)の入口側に戻して循環させることで熱を創出する熱創出手段(42、400)とを備え、
前記圧送能力制御手段(8a)は、前記熱創出手段(42、400)に要求される要求熱創出量が多くなる程、前記圧送手段(42)による前記供給ガスの圧送能力を増加させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記圧送手段(42)により圧送された前記供給ガスを、前記供給ガス流路(40)における前記圧送手段(42)の入口側に戻して循環させる際に、当該供給ガスが流れる流路を供給ガス循環回路(400)としたとき、
前記供給ガス循環回路(400)を循環する前記供給ガスの少なくとも一部を、前記供給ガス循環回路(400)外へ排出可能な排出手段(45、48)を備え、
前記供給ガス循環回路(400)を循環している前記供給ガスの温度が予め定めた基準温度を上回った場合に、前記排出手段(45、48)から前記供給ガスの少なくとも一部を前記供給ガス循環回路(400)外へ排出するとともに、前記供給ガス循環回路(400)内に新たに前記供給ガスを導入することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate