説明

燃料電池システム

【課題】 燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても燃料極の酸化を抑制できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 燃料電池システム(100)は、燃料電池(10)と、燃料ガス通路(22)を介して燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(40a)と、酸化剤ガス通路(23)を介して燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(40b)と、燃料ガス通路を遮断する第1遮断手段(50a)と、酸化剤ガス通路を遮断する第2遮断手段(50b)と、燃料電池と外気との通路(24)を遮断する第3遮断手段(50c)と、を備え、第1〜第3遮断手段が通路遮断した際に、第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になるように、第1〜第3遮断手段が配置されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
燃料電池の運転時において、燃料極に供給された水素と酸素極に供給された酸素とが反応することによって発電が行われる。このような燃料電池において、燃料極が酸化した場合、燃料電池の性能が低下するおそれがある。特許文献1には、固体酸化物型燃料電池において、耐酸化性の良好な燃料極の材質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−19261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池の運転時においては、燃料極には燃料ガス供給手段によって燃料ガスが供給されていることから、燃料極の酸化は抑制されている。しかしながら、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合には、燃料極に酸素が流入して燃料極が酸化するおそれがある。特許文献1の技術を応用して燃料極を耐酸化性の良好な材料にしたとしても、このような燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合における燃料極の酸化を十分抑制できるとはいえない。
【0006】
本発明は、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても燃料極の酸化を抑制できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、燃料ガス通路を介して燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、酸化剤ガス通路を介して燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、燃料ガス通路を遮断する第1遮断手段と、酸化剤ガス通路を遮断する第2遮断手段と、燃料電池と外気との通路を遮断する第3遮断手段と、を備え、第1〜第3遮断手段が通路遮断した際に、第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になるように、第1〜第3遮断手段が配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
本願において、空燃比とは、酸化剤ガス中の酸素のモル量を燃料ガスのモル量で除した値をいう。理論空燃比とは、酸化剤ガス中の酸素および燃料ガスが過不足なく反応するときの空燃比をいう。本発明に係る燃料電池システムによれば、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても、第1〜第3遮断手段によって通路遮断がされることで通路遮断部分より外側からの燃料電池への酸素流入を抑制することができる。それにより、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても燃料電池の燃料極の酸化を抑制することができる。
【0009】
また、第1〜第3遮断手段が通路遮断した際に、第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になることから、通路遮断後において例えば酸素が燃料極側に流入した場合であっても、この酸素を水素等の還元成分と反応させることで燃料極の酸化を抑制することができる。それにより、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても燃料極の酸化を効果的に抑制することができる。
【0010】
上記構成において、第1〜第3遮断手段は、第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ理論空燃比×120%以下になるように、配置されていてもよい。
【0011】
上記構成において、燃料ガス通路の一部に当該通路の他の部位よりも容積の大きい箇所が設けられ、第1遮断手段は、当該通路の容積の大きい箇所よりも上流側を遮断するように配置されていてもよい。上記構成において、燃料ガス通路に、燃料ガスの流量を絞る絞り部が設けられ、第1遮断手段は、当該通路の絞り部よりも上流側を遮断するように配置されていてもよい。
【0012】
上記構成において、燃料ガスは、炭化水素が水素を含むガスに改質された後のガスであってもよい。上記構成において、燃料電池は、固体酸化物型の燃料電池であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料ガス供給手段の運転が突発的に停止した場合であっても燃料極の酸化を抑制できる燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係る燃料電池システムを示す模式図である。
【図2】バルブが通路遮断した際における空燃比調整の具体的手法の一例を説明するための図である。
【図3】制御装置が通路遮断する際のフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1に係る燃料電池システム100について説明する。図1は、本実施例に係る燃料電池システム100を示す模式図である。燃料電池システム100は、燃料電池10と、燃料電池10を収容する収容体20と、燃焼装置30と、各種ポンプ(ポンプ40a、ポンプ40bおよびポンプ40c)と、各種バルブ(バルブ50a、バルブ50bおよびバルブ50c)と、制御装置60と、改質器70とを備えている。
【0017】
燃料電池10は、電解質膜11、燃料極12および酸素極13を備えている。燃料極12は、電解質膜11の一方の側に配置されている。酸素極13は、電解質膜11の燃料極12が配置されている側とは反対側に配置されている。
【0018】
燃料電池10の種類は特に限定されるものではないが、本実施例においては、一例として固体酸化物型の燃料電池(SOFC)を用いる。この場合、電解質膜11として、例えば酸素イオン導電性酸化物を用いることができる。酸素イオン導電性酸化物として、例えばイオン導電性の高いYを含有するZrO(YSZ)等を用いることができる。燃料極12として、例えば電子導電性の高いNiとYを含有するZrO(YSZ)との混合物等を用いることができる。酸素極13として、例えば電子およびイオンの双方の導電性が高いランタンコバルタイト系のペロブスカイト型複合酸化物等を用いることができる。ランタンコバルタイト系のペロブスカイト型複合酸化物として、例えばLaSrCoFeO(LSCF)等を用いることができる。
【0019】
燃料極12に水素(H)を含む燃料ガスが供給され、酸素極13に酸素(O)を含む酸化剤ガスが供給されることで、燃料極12および酸素極13において下記の電極反応が生じることによって発電が行われる。発電反応は、例えば、600℃〜1000℃で行われる。
酸素極:1/2O+2e→O2−(固体電解質)
燃料極:O2−(固体電解質)+H→HO+2e
【0020】
本実施例において、燃料極12に供給される燃料ガスとして、原燃料が改質器70によって改質された後のガス(以下、改質ガスと称する場合がある)を用いる。酸素極13に供給される酸化剤ガスとして、空気を用いる。原燃料としては、炭化水素等を用いることができ、一例としてメタンを用いる。
【0021】
本実施例においては、改質器70として、原燃料であるメタンを水蒸気改質することで改質ガスを生成する装置を用いる。本実施例に係る改質器70は、燃料ガス通路22のポンプ40aよりも燃料ガスの流動方向下流側に配置されている。改質器70には、ポンプ40aから燃料ガス通路22を介してメタンが供給される。また改質器70には、水蒸気改質反応に必要な水が、水供給用のポンプ40cから水供給通路71を介して供給される。メタンは、改質器70において水蒸気改質されて、水素を含有する改質ガスになる。なお、この場合、改質ガスには水蒸気も含まれる。また、改質ガスには、一酸化炭素(CO)等の水素以外の可燃成分も含まれる。以下、水素および水素以外の可燃成分を総称して還元成分と称することがある。改質ガスは、燃料極12に供給される。
【0022】
改質ガス中の水素は、燃料電池10の発電に用いられ、一酸化炭素等の還元成分は酸素と反応する。以上のことから、燃料電池システム100全体における燃料と酸素との反応式は以下のようになる。この場合、理論空燃比(Oの2モルをCHの1モルで割った値)は2である。
CH+2O→CO+2H
【0023】
なお、燃料ガスとして、改質ガスを用いる代わりに水素ボンベ等に貯蔵された水素を用いてもよい。この場合、他の還元成分が含まれないことから、理論空燃比(Oの1/2モルをHの1モルで割った値)は、1/2である。
【0024】
収容体20は、燃料電池10を収容する収容部21と、収容部21に接続した各ガス通路(燃料ガス通路22、酸化剤ガス通路23および排気通路24)とを備えている。収容部21には、燃料室25および酸素室26が設けられている。
【0025】
燃料室25は、燃料極12に供給される前の燃料ガスを貯留する空間である。酸素室26は、酸素極13に供給される前の酸化剤ガスを貯留する空間である。燃料ガス通路22は、燃料室25に燃料ガスを導くための通路である。酸化剤ガス通路23は、酸素室26に酸化剤ガスを導くための通路である。排気通路24は、燃料電池10の排気ガスを収容部21の外部に導くための通路である。
【0026】
燃焼装置30は、収容部21の燃料電池10と排気通路24との間に配置されている。燃焼装置30は、排気ガスに含まれる燃料ガスを排気ガスに含まれる酸化剤ガスを用いて燃焼させる装置である。このような機能を有する装置であれば、燃焼装置30の具体的構成は特に限定されるものではない。燃焼装置30の一例として、酸化触媒を備える装置を用いることができる。
【0027】
ポンプ40aは燃料ガス通路22に配置されている。ポンプ40aは燃料ガスを燃料極12に向けて圧送する。すなわち、ポンプ40aは燃料ガス通路22を介して燃料電池10に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段としての機能を有している。ポンプ40bは酸化剤ガス通路23に配置されている。ポンプ40bは酸化剤ガスを酸素極13に向けて圧送する。すなわち、ポンプ40bは酸化剤ガス通路23を介して燃料電池10に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段としての機能を有している。前述したようにポンプ40cは、改質器70に水を供給するポンプであり、水供給通路71に接続されている。ポンプ40a、ポンプ40bおよびポンプ40cの動作は、制御装置60によって制御される。
【0028】
バルブ50aは燃料ガス通路22に配置されている。具体的にはバルブ50aは、燃料ガス通路22のポンプ40aよりも上流側に配置されている。但しバルブ50aの燃料ガス通路22における配置箇所は、これに限定されるものではなく、例えば燃料ガス通路22のポンプ40aよりも下流側に配置されていてもよい。バルブ50bは酸化剤ガス通路23に配置されている。具体的にはバルブ50bは、酸化剤ガス通路23のポンプ40bよりも上流側に配置されている。但しバルブ50bの酸化剤ガス通路23における配置箇所は、これに限定されるものではなく、例えば酸化剤ガス通路23のポンプ40bよりも下流側に配置されていてもよい。バルブ50cは、排気通路24に配置されている。
【0029】
バルブ50a、バルブ50bおよびバルブ50cは、それぞれ制御装置60によって制御されることで、燃料ガス通路22、酸化剤ガス通路23および排気通路24を遮断する。すなわち、バルブ50aは燃料ガス通路22を遮断する遮断手段としての機能を有し、バルブ50bは酸化剤ガス通路23を遮断する遮断手段としての機能を有し、バルブ50cは燃料電池10と外気との通路(排気通路24)を遮断する遮断手段としての機能を有している。
【0030】
制御装置60は、CPU(Central Processing Unit)61、ROM(Read Only Memory)62およびRAM(Random Access Memory)63を備える電子制御装置(Electronic Control Unit)である。制御装置60は、各種ポンプおよび各種バルブを制御する制御手段としての機能を有している。
【0031】
制御装置60は、燃料電池10の運転時には、ポンプ40aおよびポンプ40bを作動させ、バルブ50aおよびバルブ50bを開に制御する。この場合、燃料ガスはポンプ40aによって圧送されることで、燃料ガス通路22を通過して燃料室25に流入し、次いで燃料極12に供給される。酸化剤ガスは、ポンプ40bによって圧送されることで、酸化剤ガス通路23を通過して酸素室26に流入し、次いで酸素極13に供給される。なお、本実施例において、燃料電池10の運転時に燃料電池10に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスの空燃比は、理論空燃比よりも高い値(例えば、原燃料としてメタンを用いる場合で2.5〜3程度(理論空燃比の125%〜150%程度))に設定されている。燃焼の安定性を図るためである。
【0032】
また制御装置60は燃料電池10の運転時においてバルブ50cを開に制御することで、燃料電池10の排気ガスを排気通路24を介して収容体20の外部へ排出させる。排気ガスに含まれる燃料ガスは、燃焼装置30において排気ガスに含まれる酸化剤ガスを用いて燃焼する。
【0033】
ここで、燃料電池10の運転時において燃料電池10の温度は600℃〜1000℃になっている。燃料極12がこのような高温になった場合、燃料極12の金属成分は酸化され易い状態にあるが、燃料電池10の運転時において燃料極12は還元雰囲気にさらされていることから、燃料極12の酸化は抑制されている。
【0034】
制御装置60は燃料電池10の運転を終了する場合、通常は、燃料極12の酸化を抑制するために、燃料電池10の温度を低下させてからポンプ40aおよびポンプ40bの運転を停止させる、不活性ガスによって燃料電池10をパージしてからポンプ40aおよびポンプ40bの運転を停止させる等の制御処理を行う。
【0035】
また制御装置60は、地震発生時等のようにポンプ40aの運転を直ちに停止させることが好ましいと考えられる所定の条件(以下、緊急停止条件と称する)が満たされた場合、ポンプ40aの運転を直ちに停止させる。さらに制御装置60は、緊急停止条件が満たされてポンプ40aの運転を停止させる場合、バルブ50a、バルブ50bおよびバルブ50cを閉に制御する。バルブ50a、バルブ50bおよびバルブ50cが閉に制御されることで、燃料ガス通路22、酸化剤ガス通路23および排気通路24は遮断される(以下、通路遮断と称する場合がある)。その結果、収容体20の内部は密閉される。なお、本実施例において、緊急停止条件が満たされた場合、制御装置60はポンプ40bおよびポンプ40cの運転も停止させる。
【0036】
燃料ガス通路22、酸化剤ガス通路23および排気通路24が遮断されることで、酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも上流側からの酸素の流入および排気通路24のバルブ50cよりも下流側からの酸素の流入が抑制される。それにより、緊急停止条件が満たされてポンプ40aの運転が突発的に停止した場合であっても、燃料極12の酸化が抑制されている。
【0037】
さらに本実施例に係る収容体20は、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ通路遮断前よりも低い空燃比になるように設定されている。これにより、ポンプ40aの運転停止後において酸素が燃料室25側に流入した場合であっても、この酸素を燃料ガスと反応させることで燃料極12の酸化を抑制することができる。その結果、ポンプ40aの運転停止後における燃料極12の酸化を効果的に抑制することができる。
【0038】
ここで、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際にバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が低いほど、通路遮断後における燃料極12の酸化抑制効果は高くなる。そこで、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上、所定の空燃比になるように設定されていることが好ましい。この所定の空燃比は、燃料電池10を破壊しない程度の残留酸素がバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間に存在するような空燃比であることが好ましい。所定の空燃比の一例として、理論空燃比×120%を用いることができる。すなわち、この場合、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上、理論空燃比×120%になるように設定される。この構成によれば、燃料極12の酸化をより抑制できる。
【0039】
バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が、理論空燃比近傍に設定されていることがより好ましい。但し、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際におけるバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間の空燃比を、理論空燃比に設定した場合、仮に空燃比の設定誤差等があった場合には、バルブ50a〜バルブ50cで構成される空間の実際の空燃比が理論空燃比より小さい値になってしまうおそれがある。この場合、酸素極13が還元雰囲気にさらされるおそれが高くなり、その結果、酸素極13の劣化のおそれが生じる。
【0040】
したがって、空燃比の設定誤差等があったとしても酸素極13が還元ガス(燃料ガス)によって劣化しないようにするため、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際におけるバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間の空燃比を、想定される設定誤差の分だけ理論空燃比よりも高く設定することが好ましい。
【0041】
バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際におけるバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間の空燃比を理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比に設定するための具体的手法は、特に限定されるものではない。例えば、燃料電池10の運転状態(燃料電池10の運転時における燃料ガスの圧力、酸化剤ガスの圧力、燃料電池10の運転時における燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給比率、水分量等)、燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側の容積等を適切に設定することで、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比を理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比に設定することができる。
【0042】
燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側の容積の調整によって、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比を理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比に設定する場合には、バルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断の際において、燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側に残存する還元成分のモル量が酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも下流側に残存する酸素のモル量よりも多くなるように、バルブ50aおよびバルブ50bのガス通路への配置箇所を調整する手法を用いることができる。
【0043】
図1においては、この手法が用いられている。具体的には、図1において燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側の容積が酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも下流側の容積よりも大きくなるように、バルブ50aおよびバルブ50bがそれぞれ燃料ガス通路22および酸化剤ガス通路23に配置されている。これにより、バルブ50a〜バルブ50bが通路遮断した際において燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側に残存する還元成分のモル量が酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも下流側に残存する酸素のモル量よりも多くなる結果、バルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比に調整されている。
【0044】
燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側の容積の調整によって通路遮断の際におけるバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間の空燃比を調整する手法のより好ましい形態として、例えば以下の手法を用いることもできる。図2(a)〜図2(c)は、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比の調整の具体的手法の一例を説明するための図である。図2(a)〜図2(c)において、水供給通路71およびポンプ40cの図示は省略されている。
【0045】
例えば図2(a)に示すように、燃料ガス通路22の一部に他の部位よりも容積の大きい箇所(大容積部27)を設け、バルブ50aを大容積部27の上流側に配置することができる。この場合にも、バルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断の際において、燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側に残存する還元成分のモル量を酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも下流側に残存する酸素のモル量よりも多くすることができる。その結果、バルブ50a〜バルブ50bによる通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比を理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比にすることができる。
【0046】
またこの構成によれば、大容積部27の容積を調整することで、バルブ50a〜バルブ50bによる通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比の調整を容易に行うことができる。さらにこの構成によれば、大容積部27が設けられていない構成の場合に比較して、通路遮断後において燃料極12に供給できる還元成分のモル量をより多くすることができる。その結果、通路遮断後における燃料極12の酸化をより長時間抑制することができる。
【0047】
あるいは、図2(b)に示すように、燃料ガス通路22に燃料ガス流量を絞る部分(絞り部28)を設け、バルブ50aを絞り部28よりも上流側に配置してもよい。この場合、絞り部28によって燃料ガス通路22の絞り部28よりも上流側の燃料ガス圧力を高めることができることから、燃料ガス通路22の絞り部28よりも上流側かつバルブ50aよりも下流側の部分の還元成分のモル量を高めることができる。その結果、バルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断の際において、燃料ガス通路22のバルブ50aよりも下流側に残存する還元成分のモル量を酸化剤ガス通路23のバルブ50bよりも下流側に残存する酸素のモル量よりも多くすることができる。それにより、バルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比を理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比にすることができる。
【0048】
またこの構成によれば、絞り部28の燃料ガス通路22における配置位置、絞り部28による燃料ガス通路の絞り具合等を調整することで、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比の調整を容易に行うことができる。さらにこの構成によれば、絞り部28が設けられていない構成の場合に比較して、通路遮断後において燃料極12に供給できる還元成分のモル量をより多くすることができる。その結果、通路遮断後における燃料極12の酸化をより長時間抑制することができる。
【0049】
あるいは、図2(c)に示すように、図2(a)および図2(b)の構成を組み合わせてもよい。この場合、バルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断後における燃料極12の酸化をさらに長時間抑制することができる。
【0050】
図3は、本実施例に係る制御装置60が通路遮断する際のフローチャートの一例を示す図である。制御装置60は、図3のフローチャートを所定の周期で繰り返し実行する。まず制御装置60は、緊急停止条件が満たされたか否かを判定する(ステップS10)。ステップS10において緊急停止条件が満たされたと判定されなかった場合、制御装置60はフローチャートの実行を終了する。
【0051】
なお、制御装置60による緊急停止条件が満たされたか否かの具体的判定手法は、特に限定されるものではない。例えば燃料電池システム100は地震計を備え、制御装置60は地震計の検出結果が所定値以上の場合に緊急停止条件が満たされたと判定してもよい。この所定値は例えばROM62が記憶しておき、CPU61は地震計の出力に基づいて震度データ取得し、取得された震度データをROM62に記憶された所定値と比較することで、緊急停止条件が満たされたか否かを判定することができる。
【0052】
また制御装置60は、ユーザからの入力信号に基づいて緊急停止条件が満たされたと判定してもよい。この場合、燃料電池システム100は、ユーザがポンプ40aを停止させるための信号を入力するための入力装置を備える。制御装置60は、入力装置からのポンプ40aの停止信号があった場合に緊急停止条件が満たされたと判定する。
【0053】
ステップS10において緊急停止条件が満たされたと判定された場合、制御装置60はポンプ40aおよびポンプ40bを停止させる(ステップS20)。次いで制御装置60は、バルブ50a〜バルブ50cを閉に制御することで、燃料ガス通路22、酸化剤ガス通路23および排気通路24を遮断する(ステップS30)。次いで制御装置60はフローチャートの実行を終了する。
【0054】
以上説明したように、本実施例に係る燃料電池システム100によれば、バルブ50a〜バルブ50cによって通路遮断がされることで、通路遮断部分よりも外側からの燃料電池10への酸素流入を抑制することができる。それにより、緊急停止条件が満たされてポンプ40aの運転が突発的に停止した場合であっても燃料極12の酸化を抑制することができる。
【0055】
また、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、バルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になることから、通路遮断後において例えば酸素が燃料極12側に流入した場合であっても、この酸素を還元成分と反応させることで燃料極12の酸化を抑制できる。それにより、ポンプ40aの運転が突発的に停止した場合であっても燃料極12の酸化を効果的に抑制することができる。
【0056】
なお、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際にバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が理論空燃比に設定されている場合、当該空燃比が理論空燃比より高く設定されている場合に比較して、燃料極12の酸化の抑制効果を高くすることができる。一方、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際にバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が理論空燃比より高く当該通路遮断前よりも低い空燃比に設定されている場合、当該空燃比が理論空燃比に設定されている場合に比較して、酸素極13の還元ガス(燃料ガス)による劣化の抑制効果を高くすることができる。
【0057】
なお、本実施例においてバルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際に、収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間には、改質器70に接続した水供給通路71を考慮しなくてもよい。水供給通路71には水のみが存在し、空燃比に影響する成分(原燃料、改質ガス、酸化剤ガス等)が存在しないからである。但し、仮に収容体20のバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間に水供給通路71を含めたとしても、水供給通路71はバルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際にバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比に影響を及ぼさない。このように、バルブ50a〜バルブ50cで構成される空間とは、空燃比に影響する成分が流入可能な空間と定義することもできる。
【0058】
また、本実施例のように燃料電池システム100が改質器70を備えている場合には、バルブ50a〜バルブ50cが通路遮断した際にバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間における空燃比が理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になるようにバルブ50a〜バルブ50cを配置するにあたり、改質器70におけるS/Cの影響を考慮して、適切なバルブ50a〜バルブ50cの位置を設計することが好ましい。S/Cに応じて原燃料量が変化するからである。ここで、S/Cとは、改質器70における水蒸気のモル数(S)とカーボンのモル数(C)との比である。
【0059】
なお、本実施例においてバルブ50a〜バルブ50cによる通路遮断が行われるのは、緊急停止条件が満たされ且つポンプ40aが停止した場合であるが、これに限定されるものではない。制御装置60は、緊急停止条件が満たされるか否かに関わらず、ポンプ40aの運転が停止された場合には常にバルブ50a〜バルブ50cを閉に制御することで通路遮断を行ってもよい。
【0060】
またバルブ50a〜バルブ50cは、手動によっても開閉できる構成としてもよい。この場合、例えば地震発生時等において燃料電池システム100への電源供給が停止した場合であっても、手動でバルブ50a〜バルブ50cを閉にして通路を遮断することで、ポンプ40aの突発的な運転停止後における燃料極12の酸化を抑制することができる。
【0061】
また、収容体20は燃焼装置30を備えていなくもよい。但し収容体20が燃焼装置30を備えることで、通路遮断後におけるバルブ50a〜バルブ50cで構成される空間に存在する酸素を燃焼装置30における燃焼によって消費することができる。それにより、燃料極12の酸化を効果的に抑制することができる。
【0062】
また、上記実施例は、固体高分子型、固体酸化物型、炭酸溶融塩型等の他のいずれのタイプの燃料電池にも適用可能である。但し、固体酸化物型のように発電温度が高い場合には、燃料極12が酸化しやすい傾向にある。したがって、上記実施例は、燃料電池10として固体酸化物型の燃料電池を用いる場合に特に有効である。
【符号の説明】
【0063】
10 燃料電池
11 電解質膜
12 燃料極
13 酸素極
20 収容体
21 収容部
22 燃料ガス通路
23 酸化剤ガス通路
24 排気通路
25 燃料室
26 酸素室
27 大容積部
28 絞り部
30 燃焼装置
40a,40b ポンプ
50a,50b,50c バルブ
60 制御装置
100 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
燃料ガス通路を介して前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
酸化剤ガス通路を介して前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
前記燃料ガス通路を遮断する第1遮断手段と、
前記酸化剤ガス通路を遮断する第2遮断手段と、
前記燃料電池と外気との通路を遮断する第3遮断手段と、を備え、
前記第1〜第3遮断手段が通路遮断した際に、前記第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ当該通路遮断前よりも低い空燃比になるように、前記第1〜第3遮断手段が配置されていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記第1〜第3遮断手段は、前記第1〜第3遮断手段で構成される空間における空燃比が、理論空燃比以上かつ理論空燃比×120%以下になるように、配置されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料ガス通路の一部に当該通路の他の部位よりも容積の大きい箇所が設けられ、
前記第1遮断手段は、当該通路の前記容積の大きい箇所よりも上流側を遮断するように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料ガス通路に、前記燃料ガスの流量を絞る絞り部が設けられ、
前記第1遮断手段は、当該通路の前記絞り部よりも上流側を遮断するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料ガスは、炭化水素が水素を含むガスに改質された後のガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池は、固体酸化物型の燃料電池であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−33666(P2013−33666A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169567(P2011−169567)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】