説明

燃料電池スタックの換気構造

【課題】燃料電池スタックの換気性を確保するとともに、収納ケースの剛性を確保する。
【解決手段】燃料電池スタックは収納ケース15に収納される。収納ケース15には漏洩水素を外部に拡散させる開口部16が設けられ、開口部16を覆うように換気カバー10が設けられる。開口部16は、セル積層方向に沿って延在することで収納ケースの剛性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池スタックの換気構造に関し、特に移動体に搭載される燃料電池スタックの換気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックがハイブリッド自動車や電気自動車等の移動体に搭載される場合、燃料電池スタックは、専用のケースに収納されて車両の所定位置に搭載される。燃料電池では、反応ガスとして水素ガスが用いられ、この水素が燃料電池スタックから仮に漏洩した場合であっても漏洩水素が滞留して水素濃度が上昇することのないように、漏洩水素を外部に拡散するための通気口が設けられる。また、燃料電池スタックへの水の浸入を防止するために、収納ケースの通気口を水素透過膜で塞ぐ技術が提案されている。
【0003】
下記の特許文献1には、液体は透過しないが気体は透過するガス透過膜(好ましくは水素透過膜)を備える燃料電池用ケースにおいて、ガス透過膜を保護する保護手段を備えることが開示されている。保護手段としては、ガス透過膜を透過したガスを内側に滞留させることがないものであり、且つ、外力が作用した場合でも破損しないだけの強度を有するものとしている。
【0004】
また、特許文献2には、車両に搭載される燃料電池スタックを収納する収納ケースは、燃料電池スタックを収納する筐体と、筐体の上部側に設けられた開口部を備え、開口部はその開口面が車両の走行により発生する移動風(車速風)の流れ方向の上流側が下流側よりも高くなる傾斜を有するように形成されることが開示されている。
【0005】
図4に、特許文献2に記載された燃料電池スタック用ケースを示す。燃料電池スタックFCを収納した収納ケース20は、車両のフロアパネルFP下に、支持部材80により固定される。フロアパネルFPと収納ケース20との間には、所定のクリアランスが確保され、車両が進行方向に走行すると、当該クリアランスにはその走行により発生する移動風(車速風)が流れる。収納ケース20は、燃料電池スタックFCを収納する筐体30と、筐体30の上部側に設けられた開口部50を備える。開口部50の開口面には、全面的に水素透過膜40が貼り付けられ、開口部50が水素透過膜40により塞がれている。水素透過膜40は、水は透過しないが水素や空気等の気体は透過する材料で形成される。開口部50は、移動風の流れ方向の上流側が下流側よりも高くなるように形成され、埃等が移動風に運ばれてフロアパネルFPと収納ケース20との隙間に流入しても、これらが水素透過膜40の上面に付着し難い構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−149732号公報
【特許文献2】特開2010−170923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池スタックの収納ケースに開口部を設けることで、仮に水素が漏洩したとしても開口部を介して外部に拡散させることが可能であるが、その一方で、開口部の存在により収納ケースの剛性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、燃料電池スタックの換気性を確保しつつ、収納ケースの剛性も確保できる換気構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、移動体に搭載される燃料電池スタックの換気構造であって、燃料電池スタックを収納する収納ケースに設けられた開口部を備え、前記開口部は、前記燃料電池スタックのセル積層方向に沿って延在することを特徴とする。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、前記開口部の平面形状は楕円形状であり、前記楕円形状の長径方向は、前記燃料電池スタックのセル積層方向に沿うものである。
【0011】
また、本発明の他の実施形態では、前記移動体は自動車であり、前記燃料電池スタックの積層方向は、前記自動車の車幅方向である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料電池スタックの換気性を維持しつつ、収納ケースの剛性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態における燃料電池スタックの換気構造を示す斜視図である。
【図2】実施形態における燃料電池スタックの換気構造を示す平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】従来装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の燃料電池スタックは、図4に示された従来の燃料電池スタックと同様に、収納ケースに収納され、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両のフロアパネル下に、支持部材により固定される。また、フロアパネルと収納ケースとの間には、所定のクリアランスが確保されており、車両が進行方向に走行すると、当該クリアランスにはその走行により発生する移動風が流れる。燃料電池スタックは、固体高分子型燃料電池セルを積層して構成され、反応ガスとして水素ガス及び空気が供給される。
【0016】
燃料電池スタックの収納ケースは、燃料電池スタックを密封するようなシール構造であるが、その上部側には開口部が形成され、反応ガスである水素ガスが仮に漏洩した場合でも漏洩水素が収納ケース内に滞留して水素濃度が上昇することがないように、この開口部を介して外部に拡散させる。開口部には、全面的に水素透過膜が貼り付けられる。水素透過膜は、水は透過しないが水素や空気等の気体は透過する材料で構成される。
【0017】
図1に、本実施形態における燃料電池スタックの換気構造を示す。収納ケースに収納された燃料電池スタックを上部側から見た斜視図である。
【0018】
収納ケース上部には、換気カバー10が設けられ、この換気カバー10には合計で4つの開口部12,14が形成される。開口部12,14にはそれぞれ水素透過膜が貼り付けられ、これにより収納ケースの開口部及び換気カバーの開口部12,14が塞がれる。本実施形態の換気カバー10は、2つの換気カバーユニット10a、10bからなり、これらの換気カバーユニット10a、10bを熱溶着接合して構成される。2つの換気カバーユニット10a、10bは同一平面上ではなく、接合面における高さが最も高くなるように傾斜して形成される。より具体的には、図1に示すように、2つの換気カバーユニット10a、10bは、車両進行方向に対して略垂直方向に並設され、2つのユニット10a、10bの接合部において最も高くなるように、車両進行方向に対して略垂直方向(車両の車幅方向)に傾斜するように形成される。
【0019】
図2に、本実施形態における燃料電池スタックの換気構造を上部から見た平面図を示す。燃料電池スタックを収納する収納ケース15の上部には、開口部16が形成される。開口部16は、車両の車幅方向に延在した略楕円形状であり、車両の進行方向に沿って複数個形成される。図では、開口部16は車両進行方向に沿って合計4個示されているが、もちろんこれは例示であって、その数は限定されない。また、収納ケース15は、例えばステンレスやアルミニウム等の金属、強化プラスチックから構成される。
【0020】
開口部16は、上記のように車幅方向に延在した略楕円形状あるいは長円形状であるが、燃料電池スタックとの関係においては、開口部16は、燃料電池スタックの積層方向に沿って開口が延在する。図2において、燃料電池スタックのセル積層方向を併せて示す。燃料電池スタックのセル積層方向は、車両の車幅方向であって、車両の進行に対して略垂直な方向である。収納ケース15を含む燃料電池スタックは、セル積層方向に一定の圧縮力を印加して拘束されており、このためセル積層方向に応力が生じている。開口部16を楕円形状とし、楕円形状の長径方向をセル積層方向に沿うように配置することで、応力方向に対する収納ケースの剛性低下を抑制することができる。
【0021】
収納ケース15の上部側、すなわち開口部16が形成された側には、換気カバー10が設けられる。換気カバー10は、その平面形状は矩形状をなし、4隅で収納ケース15に固定される。換気カバー10は、図1で示したように2つの換気カバーユニット10a、10bを互いに熱溶着で接合して構成され、換気カバーユニット10a側に2つの開口部12が形成され、換気カバーユニット10b側に2つの開口部14が形成される。2つの開口部12は、それぞれ平面形状が矩形状をなし、車両進行方向に並設される。同様に、2つの開口部14は、それぞれ平面形状が矩形状をなし、車両進行方向に並設される。開口部12,14の全てには、水素透過膜が貼り付けられる。水素透過膜は、水は透過しないが水素や空気等の気体は透過する材料、例えば多孔質材料により形成される。水素透過膜の材料の一例はポアフロン(登録商標)であるが、これに限定されない。
【0022】
開口部12,14は、収納ケース15の開口部16に対向するように設けられ、かつ、開口部12,14の形成位置は、開口部16の形成位置と少なくともその一部が互いに重複し、仮に燃料電池スタックから水素の一部が漏洩したとしても、収納ケース15の開口部15及び換気カバー10の開口部12,14を介して漏洩水素は外部に拡散される。
【0023】
図3に、図2のA−A断面を示す。また、図3には、併せて車両ボデーも示す。燃料電池スタックFCは、車両ボデー18、具体的にはフロアパネルの下に支持部材で固定される。2つの換気カバーユニット10a、10bからなる換気カバー10は、収納ケース15の上部に設けられる。車両ボデー18と換気カバー10との間には所定のクリアランスが確保され、このクリアランスに各種ワイヤハーネス17が配設される。
【0024】
換気カバーユニット10a、10bは、車両の車幅方向に並設し、かつ、その中央において最も高くなるように傾斜して形成される。その傾斜角θは、5°以上に形成され、例えば8°に形成される。
【0025】
このように、換気カバー10には傾斜面が形成されるとともに、その傾斜方向が車両進行方向ではなくこれと略垂直な車両の車幅方向であるため、漏洩水素の換気性を確保しつつ、車両の走行に伴う移動風が必要以上に開口部12,14,16を介して流入することがない。また、換気カバー10の傾斜方向は車両の車幅方向であるため、移動風が傾斜面に直接当たることがなく、移動風による換気カバー10の振動を抑制し、換気カバー10の耐久性を維持することもできる。
【0026】
また、換気カバー10の傾斜面が車両の車幅方向に形成されているので、車両が登坂路を走行していても水が換気カバー10の上面に溜らない利点もある。
【0027】
また、本実施形態における換気カバー10は単一部材から構成されるのではなく、2つの換気カバーユニット10a、10bを熱溶着して構成されているため、上部方向の高さを抑制できる。このことは、車両ボデー18と換気カバー10との間のクリアランスを確保してワイヤハーネス17の配設領域を確実に確保できることを意味する。
【0028】
なお、本実施形態において、水素透過膜は、換気カバー10の表面に貼り付けられ、図3において車両ボデー18側に貼り付けられるが、これにより水素透過膜上に水分が溜ることも防止することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、本実施形態における開口部16は、楕円形状であって車両の進行方向に沿って複数設けられており、いわばスリット状に形成されているが、上記した通り、これは燃料電池スタックの換気性を確保しつつ、収納カバー15の強度を維持するためである。従って、収納カバー15の強度を維持できる範囲内において、任意の形状の開口部を設けることができる。開口部16の形状を例示すると、楕円形状の他に、長方形形状、菱型形状等が挙げられる。但し、いずれの場合においても、燃料電池セルの積層方向に沿って開口部が延在していることが望ましい。
【0031】
また、本実施形態では、換気カバー10の傾斜角θ(図3を参照)を5°以上としているが、傾斜角θが増大するほど水等の滞留を防止する効果が大きくなる一方、換気カバー10の高さも増大して車両ボデー18との間のクリアランスを圧迫することになる。従って、傾斜角θは、この両者を考慮した適当な値とすることが好ましい。もちろん、クリアランス内にワイヤハーネス17を配設する必要がない場合には、このような配慮は不要である。
【0032】
また、本実施形態における傾斜角θは、2つの換気カバーユニット10a、10bで同一としているが、必ずしも同一である必要はなく、一方の傾斜角が他方の傾斜角よりも大きい非対称の傾斜面を形成してもよい。
【0033】
また、本実施形態における「略垂直」とは、厳密な意味での垂直を意味するものではなく、所定の公差の範囲内における垂直も含まれる意味である。この意味で、換気カバー10の傾斜面が車両の進行方向に対して90°をなす場合だけでなく、90°±α(αは所定の公差であり、例えば10°に設定される)の範囲内であれば略垂直と言い得る。
【0034】
さらに、本実施形態では、燃料電池スタックを車両のフロアパネルの下に配置する構成について説明したが、これ以外の位置に搭載してもよく、例えば従来のガソリンエンジンを動力源とする車両のエンジンルームに相当する空間(エンジンコンパートメント)に搭載してもよく、センタートンネル、トランク等であってもよい。センタートンネルに搭載する場合、図3における車両ボデー18はセンタートンネルに相当し、ワイヤハーネス17はこのセンタートンネル内に配設されることになる。センタートンネルの高さは制限されており、この意味で換気カバー10の傾斜角θは一定の範囲内に制限されることが理解されよう。
【符号の説明】
【0035】
10 換気カバー、10a,10b 換気カバーユニット、12,14 開口部(換気カバーの開口部)、15 収納ケース、16 開口部(収納ケースの開口部)、17 ワイヤハーネス、18 車両ボデー、FC 燃料電池スタック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される燃料電池スタックの換気構造であって、
燃料電池スタックを収納する収納ケースに設けられた開口部
を備え、
前記開口部は、前記燃料電池スタックのセル積層方向に沿って延在することを特徴とする燃料電池スタックの換気構造。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池スタックの換気構造において、
前記開口部の平面形状は楕円形状であり、
前記楕円形状の長径方向は、前記燃料電池スタックのセル積層方向に沿う
ことを特徴とする燃料電池スタックの換気構造。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載の燃料電池スタックの換気構造において、
前記移動体は自動車であり、前記燃料電池スタックの積層方向は、前記自動車の車幅方向である
ことを特徴とする燃料電池スタックの換気構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−1231(P2013−1231A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133844(P2011−133844)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】