説明

燃料電池用の自己回復膜

本発明は、特にPEM燃料電池に使用するための自己回復膜に関する。前記膜は、イオン伝導性でない少なくとも1種の多孔性材料、及び、イオン伝導性でない多孔性材料より高い融点又は分解点を有する少なくとも1種の高分子のイオン伝導性電解質を含んでなる。孔、ひび割れ等が膜に形成された場合、高分子のイオン伝導性電解質が融解又は分解する前に、イオン伝導性でない多孔性材料が、漏れ点で起こる温度上昇のため融解し、この点で膜を密封する。本発明の膜は、このようにして発生する欠陥それ自体を治し、したがって自己回復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の自己回復膜、及び燃料電池用の膜電極接合体におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料に蓄えられている化学エネルギーを電気エネルギーにかなり効率的に変換できるエネルギー変換用装置である。現在、燃料電池の開発は、飛躍的に前進している。この理由には、燃料電池の上述の効率に加えて、燃料電池の汚染物質及び雑音の放出が低いだけでなく、人間が原因の温室効果を限定する燃料電池の可能性、及びエネルギー輸送留保量の存続期間を延ばすことが挙げられる。さらに、燃料電池は、信頼できる高品質の電流を発生することができる。
【0003】
プロトン交換膜としても知られる高分子電解質膜を有する燃料電池は、ある種の用途、例えば移動式の分野に、又は、特にかなり小さい燃料電池が必要になる場合に適する。この一つの理由は、この型式の燃料電池は、良好な動的特性、良好なサイクル安定性を有し、低温度で運転できることである。後者の因子は、とりわけ、この型式の燃料電池が、例えば熱探知カメラを使用してその場所を突き止めるのがかなり難しいので、軍事上の用途に重要である。
【0004】
典型的な高分子電解質膜燃料電池−略してPEMFC−の基本構造は、次の通りである。PEMFCには、膜電極接合体−略してMEA−が含まれ、それは、アノード、カソード、及び、アノードとカソードの間に配置される高分子電解質膜−略してPEM−からなる。MEAは、今度はその部品として2枚の分離板の間に配置され、一方の分離板は燃料分配用の流路を有し、他方の分離板は酸化剤分配用の流路を有し、流路はMEAに向かい合う。電極のアノード及びカソードは、一般にガス拡散電極−略してGDE−として設計される。それらは、電気化学反応(例えば2H+O→2HO)の際に発生する電流を取り出す機能と、反応物質の出発物質及び生成物が通って拡散するのを可能にする機能とを有する。GDEは、少なくとも1つのガス拡散層−略してGDL−、及び触媒層を含んでなり、それはPEMと向かい合い、そこで電気化学反応が起こる。PEMの一つの目的は、プロトンをアノードからカソードへ通過させること、及び、アノード空間をカソード空間から流体的及び電気的に分離することである。これは、反応物質が混合するのを防止すること、及び、電気的短絡を防止することを目的とする。
【0005】
PEMFCは、比較的低い運転温度で高出力の電流を発生することができる。現実の燃料電池は、出力の高い放電を達成するために、通常積み重ねて、燃料電池スタック−又は略して単にスタック−として知られるものを形成し、その場合、両極性板として知られる双極形分離板が単極形分離板の代わりに使われ、一方、単極形分離板は、スタックのエンドプレートとしてのみ使われる。
【0006】
使用する反応物質は、燃料及び酸化剤である。使用する反応物質は、通常ガスの形であり、例えば燃料としてH又はH含有ガス(例えば改質ガス)、酸化剤としてO又はO含有ガス(例えば空気)である。用語「反応物質」は、例えばHOなどの反応生成物を含めて、電気化学反応に関与する全ての物質を意味するものとして理解されるべきである。
【0007】
特に移動式の用途におけるそれらの利点にもかかわらず、PEMFCはまたある種の欠点を有し、それらの欠点のほとんどはPEMに起因する。一例として、大部分の従来のPEMの共通の特徴は、それらが、高温度(>80℃)で、及び/又は、それらが適切に濡れていない場合、低い機械的、熱的、及び/又は化学的安定性、減少した伝導性を有することである。
【0008】
例えば、最新のPEMFCの使用寿命は、特に車両に関連した条件下ではPEMによってしばしば制限される。PEMFC全体故障が頻繁に起こる原因は、例えば、PEMが、燃料電池の運転、製造、及び/又は組込みの際に生じる負荷によって損傷及び/又は漏れを欠点として持つことである。小さい孔又はひび割れ等でさえ、内部の電気的短絡、及び、カソード空間への燃料浸透又はアノード空間への酸化剤浸透につながる可能性があり、その場合、反応物質は、不都合な状況下で互いと直接反応するおそれがある。両方の工程がPEMの漏れ場所で大量の熱(短絡に起因する抵抗熱損失、直接化学反応に起因する反応熱)を生成するので、PEMは、これらの「高温点」で溶落ちするおそれがあり、それは燃料電池全体の故障につながる。水素及び酸素が反応物質として使われ、PEMでの漏れの結果として互いに混合され、水素−酸素混合ガスを生成した場合、この状況はさらに悪くなる。好ましくない状況下では、これは、重大な爆発、したがってスタック内の燃料電池の一部又は全ての全体故障につながる可能性がある。上述したように、従来のPEMにおいては、漏れが存在すると、大量の熱が放出され、それはPEMの溶落ちによる漏れ量を増加させ、そのことによりさらにいっそう熱が放出されることになるので、一旦漏れが形成されると、漏れ量は、一般に自己加速の仕方で増加する。
【0009】
これらの問題に立ち向かうことを目的とする標準的手段は、例えば、膜の製造の際の厳しい品質管理によって、この型式のPEMに備えられるMEA内の熱の最適化された放散によって、及び/又は、機械的に安定化又は保護されたPEMによって、PEM内の漏れを回避することに基づく。しかし、これらの手段全ては、単に予防手段であり、それでもやはり起こる漏れを防止するのには適さないという欠点を有し、全てが上記否定的な結果を伴う。
【0010】
漏れが形成された場合、それ自体を再度自動的に密封する膜を利用可能にすることが望ましいだろう。
【0011】
リチウム電池の分野では、本来的には流体を通さないものではないが、危険な運転状況の場合に膜自体を自動的に密封する膜が開示されている。例えば、特許文献1(セルガード(Celgard))は、3つの層から形成される膜を開示しており、第1及び第3の層が強度層であり、その間に微小孔性の閉止層が取付けられる。この膜は、さらに詳細に定義されてないが、電解質を含む。しかし、これは、Li電池の場合典型的である液体又はゲル電解質であり、及び、ミクロ細孔内を移動できるとみなすことができる。この閉止層は、ほんの124℃又はさらにはそれ未満の温度で融解し、それによって膜の細孔が閉じられ、アノードからカソードまでのLiイオンの流れが中断される原因となり、その結果、電気回路が遮断される。その結果、リチウムの融点、及び/又は電解質を有するリチウムの発火点に到達する前に、リチウム電池全体が停止される。これにより、Li電池の破局的な熱的圧壊が防止される。しかし、この種の膜は、それらが気密ではないという事情のため、燃料電池には適していない。
【0012】
特許文献2(ゴア(Gore))は、膨潤したポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)とイオン交換物質の膜を含んでなる複合膜を開示している。ePTFEは、高分子繊維の微細構造を有し、膜の内部体積が閉じられて到達できないような方法で、イオン交換物質に含浸される。この膜は、10 000sを超えるガーレー(Gurley)数を有する。この文献は、漏れが起きた場合の停止操作又は自動密封を開示していない。
【0013】
【特許文献1】欧州特許第951 080 B1号明細書
【特許文献2】国際公開第96/28242号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この従来技術を基礎として研究して、燃料電池に使用するのに適切であり、及び、少しでも起きた場合、漏れが自動的に密封される流体を通さない膜を提供することが本発明の目的である。
【0015】
本発明の別の目的は、自動的に密封される膜の使用を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の第1の主題は、少なくとも1種の多孔性の非イオン伝導性の材料、及び少なくとも1種のイオン伝導性電解質を含んでなる燃料電池用の膜であり、イオン伝導性電解質は、細孔内に配置され及び流体を通さない仕方で細孔を満たす。本発明によれば、前記少なくとも1種のイオン伝導性電解質が、多孔性の非イオン伝導性材料より高い融点又は分解点を有する高分子電解質である。
【0017】
多孔性の材料は、その細孔が、少なくともある場合には連続的である材料を意味するものとして理解されるべきである。この種の細孔は、2つの対向する表面を、特に主表面を互いに流体的に連結している。この場合、細孔の大きさは0.1〜100μm(微細孔性)の範囲である。
【0018】
イオン伝導性電解質は、プロトン伝導性電解質が好ましい。
【0019】
高分子のイオン伝導性電解質は、流体を通さない仕方で細孔を満たす。用語「流体」は、ガス及び液体を意味するものとして理解されるべきである。本発明との関連で、用語「流体を通さない」は、流体が、本発明による膜を通過することが実質的に不可能であることを意味するものとして理解されるべきである。これは、特に5000s以上のガーレー数を意味するものとして理解されるべきである。
【0020】
多孔性の非イオン伝導性の材料、及び/又は高分子のイオン伝導性電解質は、いきなりの融点を有さず、通常の場合のように、むしろ融解範囲を有し、例えば高分子の場合、融解範囲又は融点の間には重なりが全くない。高分子のイオン伝導性電解質の融解範囲又は融点は、本発明によれば、多孔性の非イオン伝導性材料の融解範囲又は融点より常に高い。これに関連して、高分子のイオン伝導性電解質の少なくともどんな融解範囲も、できるだけ狭く、特に5℃以下になる融解範囲であることが好ましい。
【0021】
さらに、高分子のイオン伝導性電解質は、それが融解する前に分解する、すなわち、それは、融点を有さず、むしろ分解点を有することが度々ある。この場合、融点又は融解範囲に関してなされる記載は、対応するやり方で適用される。換言すれば、その場合、高分子のイオン伝導性電解質の分解点は、本発明によれば、多孔性の非イオン伝導性材料の融点又は融解範囲より高い温度である。
【0022】
本発明との関連で、特に断りのない場合、用語「融点」は、常に用語「融解範囲」をも包含し、高分子のイオン伝導性電解質に関しては「分解点」をも包含する。
【0023】
多孔性の非イオン伝導性材料が分解を伴わずに融解し、さらに、PEMFCが目的通りに使用される場合のPEMFCにおける一般の条件下で化学的に安定であるなら、それも好ましい。
【0024】
本発明による膜は、流体を通さないものであり、燃料電池に使用するのに特に適する。漏れ(例えば孔、ひび割れ等)が膜で起きた場合、多孔性の非イオン伝導性材料は、高分子のイオン伝導性電解質が融解又は分解する前に、漏れ場所で起こる温度上昇の結果として融解し、この点で膜を密封する。その結果、この点での膜のイオン伝導もなくなり、その結果、そこではもはや反応及び発熱が起ることができない。このようにして、本発明による膜は、発生する欠陥を自己回復し、この点においてそれは自己回復である。
【0025】
驚いたことに、上記自己回復機構は、高分子のイオン伝導性電解質が融解又は分解する前に、多孔性の非イオン伝導性材料が融解する膜の場合だけに起こることが知見された。この自己回復機構は、多孔性の非イオン伝導性の材料と高分子のイオン伝導性電解質とが同時に融解する(又は、多孔性の非イオン伝導性の材料が融解するのと同時に、高分子のイオン伝導性電解質が分解する)膜、又は、多孔性の非イオン伝導性の材料の前に、高分子のイオン伝導性電解質が融解又は分解する膜では知見されなかった。
【0026】
閉止機構を有する周知の膜の場合とは異なり、本発明による膜は、完全に閉止されず、それどころか点で、特に漏れが発生した場所だけで閉止される。その結果として、燃料電池は、たとえその膜がそのイオン伝導性を失っても、1つ又は複数の場所における自動密封の後、極端な場合全部の膜が密封されるまで、運転し続けることができる。これにより、燃料電池の使用寿命がかなり延ばされる。
【0027】
さらに、水素−酸素ガス爆発によって引き起こされる事故が実質的に排除されるので、本発明による膜を備えた燃料電池もやはり改善された動作信頼性を有する。
【0028】
本発明による膜のさらなる利点は、本発明による膜を備えた燃料電池が目的通りに運転される場合に発生するどんな漏れも自動的に治されるので、本発明による膜の製造及びMEAへの組込みの際の品質管理に伴う経費を低減できることである。
【0029】
発生するどんな漏れをも自動的に止める本発明の膜の機能は、無制限ではなく、むしろ漏れの大きさに依存する。孔又はひび割れがあまりに大きいと、膜が再度自動的に閉止することが不可能な場合がある。しかし、明らかに、PEMFC膜で観察できる大部分の漏れは、それらが形成された直後は通常とても小さいので、漏れは、本発明による膜の自己回復機構によって容易に止め得ると判明した。漏れがもはや自動的に止めることができないほどの大きい漏れは、通常、漏れを膜に意図的に与えるか、又は、非常に下手な取扱いによって発生するだけである。一例として、意図的に作り出したもはや閉止できない孔は、約0.1mm以上の表面積を有し、意図的に作り出したもはや閉止できないひび割れは、約1mm以上の長さを有していた。
【0030】
本発明によれば、膜の好適な実施形態では、高分子のイオン伝導性電解質は、多孔性の非イオン伝導性の材料より少なくとも15℃高い融点又は分解点、好ましくは20〜80℃高い融点又は分解点を有する。これには、多孔性の非イオン伝導性の材料と高分子のイオン伝導性電解質の融点及び分解点が互いに明瞭に区別されるという利点がある。この種の膜は、特に良好な自己回復能力を有する。
【0031】
これに関連して、多孔性の非イオン伝導性の材料が125〜250℃の範囲、好ましくは130〜180℃の範囲の融点を有するなら、それも好ましい。これにより、多孔性の非イオン伝導性の材料が、低すぎる温度又は高すぎる温度で融解しないのを確実にすることが可能になる。
【0032】
多孔性の非イオン伝導性の材料が低すぎる温度で融解することになる場合、膜の使用寿命は不必要に短くなるだろう。多孔性の非イオン伝導性の材料が高すぎる温度でのみ融解することになる場合、高温点が大きくなりすぎる危険性、及び、膜の融解領域はもはやイオン伝導性ではないが、それが不必要に大きくなる危険性が増加し、そのことは、膜性能のかなりの低下を不必要に伴う。
【0033】
これに関連して、好ましくは有機高分子、特に熱可塑性材料が、多孔性の非イオン伝導性の材料用に適する材料と判明した。好適な材料には、特に、例えばポリエチレン及びプロピレンなどのポリオレフィンが含まれる。
【0034】
その他の好適な材料には、特に、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、及びポリカーボネートが含まれる。
【0035】
また、その他の好適な材料には、特に、例えばポリテトラフルオロエチレン/ポリスチレン共重合体、及びポリフェニレンオキシド/ポリスチレン共重合体などの共重合体が含まれる。
【0036】
さらに、上述の高分子の混合物、共重合体、又はそれらの組合せを使用することも可能である。用語「組合せ」は、上述の2種以上の高分子又はそれらの混合物が一緒に存在することを意味するものとして理解されるべきである。
【0037】
この点で、高分子の融点は、それらの鎖長又は鎖長分布に依存することが知られていることも述べておく必要がある。しかし、上述の高分子の中から、好適な鎖長分布、及び好適な融点又は融解範囲を有する高分子を選択することは、当業者にとって難しくない。
【0038】
特に、例えばスルホン酸、ホスホン酸、及び/又はカルボン酸基などの酸性基を含むイオノマーが、高分子のイオン伝導性電解質用に好適な材料であると判明した。好適な例には、ポリペルフルオロカルボスルホン酸、スルホン化ポリエチレンオキシド、ポリベンゾイミダゾール/リン酸混合物、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ペルフルオロビニレンエーテル、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリオレフィン、及びそれらの混合物又は共重合体が含まれる。これらのうちで、ナフィオン(Nafion)(登録商標)(デュポン(DuPont))、フレミオン(Flemion)(登録商標)(旭硝子)、アシプレックス(Aciplex)(登録商標)(旭化成)、及びネオセブタ(Neosepta)−F(登録商標)(徳山曹達)が特に適する。
【0039】
本発明のように、互いの隣に存在する2種以上の材料の組合せが流体を通さないことになっている場合、これらの材料が互いと相溶であること、すなわち、これらの材料が、製造の間及び組込みの間、目的とする使用条件下でそれらが互いに分離されることが不可能であることが必要である。何故なら、この分離が漏れを生じさせる可能性があるからである。このため、2種以上の材料の互いの注意深い選択又は整合が必要になる。
【0040】
特に、ポリフッ化ビニリデンとナフィオン(登録商標)、ポリプロピレンとナフィオン(登録商標)、及びポリエチレンとフレミオン(登録商標)が、多孔性の非イオン伝導性の材料と高分子のイオン伝導性電解質用に好適な組合せであると判明した。
【0041】
さらに、多孔性の非イオン伝導性の材料が、1つ又は複数の層を含んでなる構造を有する場合、有利と判明した。これには、これらの層のうちの、その全部ではなく、1つ又は複数が、多孔性の非イオン伝導性の層−これを強化又は支持層と区別するため自己気密層と称する−が目的通り融解する場合、膜に寸法安定性を与える強化又は支持層として設計できるという利点がある。この場合、強化又は支持層は、自己気密層より高い融点、及び、特にまた、高分子のイオン伝導性電解質より低い融点を有することが好ましい。
【0042】
これに関連して、多孔性の非イオン伝導性の材料が3つの層を含んでなる構造を有する膜が、例えばもっと多い層は製膜原価に有害な影響を及ぼすので、特に有利である。この場合、2つの外側の層は、例えば、強化可能な支持層として設計でき、一方、それらの間に配置される層は、自己気密層として設計できる。
【0043】
本発明の好適な実施形態では、多孔性の非イオン伝導性の材料内の細孔は、高分子繊維材料によって形成される。本発明の他の同様に好適な実施形態では、発泡体気泡の間の空間によって細孔が形成された高分子発泡体が使われる。
【0044】
本発明の第2の主題は、上記開示した本発明による膜を、電気化学電池、好ましくは燃料電池用の膜電極接合体(MEA)に使用することである。
【0045】
この種の膜を備えたMEAには、その膜に漏れが発生した場合、膜は完全に閉止されず、むしろ漏れた場所で点状に閉止されるだけという利点がある。その結果、その使用寿命が延ばされる。さらに、特にそれが燃料電池に使われる場合、その膜に発生した漏れが自動的に止められるので、この燃料電池は改善された動作信頼性を有し、それによって、場合によっては危険な水素−酸素混合ガスを生ずる可能性がある望ましくない燃料と酸化剤の混合が防止される。本発明によるMEAはまた、品質に関する要求を減少させて製造することができ、製造が安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明は、図を参照して以下にさらに詳細に説明される。図は、本発明による膜(1)を貫く断面を概略的に示す。この膜(1)は、多孔性の非イオン伝導性の材料の3つの層(2)、(3)を有する。この例では、2つの外側の層(2)は、実質的にポリフッ化ビニリデンを含んでなり、強化又は支持層を形成する。この例では、内側の層(3)は、実質的にポリプロピレンを含んでなり、自己気密層を形成する。この例では、3つの多孔性の層(2)、(3)は、多孔性の非イオン伝導性の材料(ポリフッ化ビニリデンとポリプロピレン)の細孔(4)、(4’)、(4’’)内に配置される高分子のイオン伝導性電解質としてのナフィオン(登録商標)で満たされ、図では、明確にするために、(4)、(4’)、及び(4’’)で示される細孔だけが全ての細孔の代表として示されている。
【0047】
この例では、ナフィオン(登録商標)は約200℃の分解点を有し、ポリプロピレンは160〜165℃の融解範囲を有し、ポリフッ化ビニリデンは約174℃の融点を有する。(5)は、漏れ、この例ではひび割れを示す。ひび割れ(5)の結果として、自己気密層(3)が融解するような程度まで材料がこの近傍で加熱され、自己気密層(3)の材料、すなわち上述したようにポリプロピレンが、ひび割れ(5)の中に流れ、それを密封する(自己回復機構)。この工程の間、2つの強化又は支持層(2)は、膜がその寸法安定性を維持するのを助ける。しかし、大きな温度上昇の場合、強化又は支持層(2)も融解することができ、ひび割れ(5)の自動密封を助ける。ひび割れ(5)が融解現象によって閉止された後、膜を経由するイオン又はプロトン輸送がこの場所で抑制され、その結果、この膜が取り付けられている電気化学電池の電気化学反応が停止し、この膜は冷却され、したがってこの場所で固まる。その結果として、膜がこの場所で溶落ちすることは不可能である。しかし、電気化学反応は、ひび割れによる影響を受けていない全ての場所で続けることができ、その結果、膜は、密封された場所(5)の結果としてその出力の一部を失うが、膜は、全体として運転し続けることができる。
【0048】
この種の膜の製造法が、一例として3層ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン膜に基づいて以下に説明される。厚さ25μmの多孔性のポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンを含んでなる3層膜サンドイッチ(セルガード)を、イソプロパノール中のナフィオン−1100 (登録商標)(デュポン)飽和溶液に1時間置き、次いで50℃で24時間乾燥する。その後、ナフィオン(登録商標)(デュポン)の噴霧被覆を、主表面の両方にさらに塗布する(任意選択)。
【0049】
この工程によって製造した良好な膜は、厚さ5〜200μmであり、厚さは、主に使用した膜サンドイッチの厚さに依存する。
【0050】
その後、この膜は、当業者に知られている工程によって、両方の主表面が触媒インク(Pt)で被覆され、電極と共に押圧して、同様に当業者に知られている工程を使用してMEAを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による膜(1)を貫く断面を概略的に示す図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の多孔性の非イオン伝導性の材料、及び、細孔の中に配置され及びそれを満たす少なくとも1種のイオン伝導性電解質を含んでなる燃料電池用の膜であって、
前記少なくとも1種のイオン伝導性電解質が、多孔性の非イオン伝導性の材料より高い融点又は分解点を有する高分子電解質であることを特徴とする膜。
【請求項2】
前記高分子のイオン伝導性電解質が、前記多孔性の非イオン伝導性の材料より少なくとも15℃高い融点又は分解点、好ましくは20〜80℃高い融点又は分解点を有することを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記多孔性の非イオン伝導性の材料が、125〜250℃の範囲、好ましくは130〜180℃の範囲の融点を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の膜。
【請求項4】
前記多孔性の非イオン伝導性の材料が、有機高分子、好ましくは熱可塑性材料、特に好ましくはポリオレフィン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、又は、それらの混合物、共重合体、又は組合せであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
前記高分子のイオン伝導性電解質が、スルホン酸、ホスホン酸、及び/又はカルボン酸基、ポリペルフルオロカルボスルホン酸、スルホン化ポリエチレンオキシド、ポリベンゾイミダゾール/リン酸混合物、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ペルフルオロビニレンエーテル、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリオレフィン、又は、それらの混合物又は共重合体を含んでなる実質的にイオノマーであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜。
【請求項6】
前記多孔性の非イオン伝導性の材料が、1つ又は複数の層、好ましくは3つの層を含んでなる構造を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜。
【請求項7】
電気化学電池用、好ましくは燃料電池用の膜電極接合体(MEA)における請求項1〜6のいずれか一項に記載の膜の使用。

【公表番号】特表2006−520521(P2006−520521A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504574(P2006−504574)
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002330
【国際公開番号】WO2004/082813
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】