説明

燃料電池用セパレータ及び燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】本発明の目的は、発電時におけるTiCx、TiNx等の不純物の酸化を抑制し、接触抵抗の上昇を抑える燃料電池用セパレータ及び燃料電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、チタン基材に形成されるTiCx又はTiNxを含む不純物を陽極酸化する陽極酸化工程(S14)と、前記チタン基材にめっき処理をするめっき処理工程(S22)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ及び燃料電池用セパレータの製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池は、電解質膜と、触媒層及び拡散層を含む一対の電極(アノード極及びカソード極)と、電極を挟持する一対の燃料電池用セパレータ(アノード極セパレータ及びカソード極セパレータ)と、を有する。燃料電池の発電時には、アノード極に供給するアノードガスを水素ガス、カソード極に供給するカソードガスを酸素ガスとした場合、アノード極側では、水素イオンと電子とにする反応が行われ、水素イオンは電解質膜中を通りカソード極側に、電子が外部回路を通じてカソード極に到達する。一方、カソード局側では、水素イオン、電子及び酸素ガスが反応して水を生成する反応が行われ、エネルギを放出する。
【0003】
このような燃料電池に用いられる燃料電池用セパレータは、低接触抵抗であること、発電時に生成する水等に対して耐食性を有すること等が求められる。そこで、近年では、耐食性に優れるチタン基材(純チタン又はチタン合金)に、低接触抵抗を目的として貴金属めっきが施された燃料電池用セパレータが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(1)チタン基材表面にNiめっき等の下地めっきを施さずに直接に貴金属めっきをすること、(2)該貴金属をチタン基材表面上で粒状に存在させること、(3)該貴金属のチタン基材表面上での面積率を15〜95%とすること、(4)該貴金属のチタン基材表面上への付着量を0.01〜0.40mg/cm2とすることの条件を満たす燃料電池用セパレータが提案されている。
【0005】
通常、チタン基材には、基材加工時に不可避的に生成するTiCx、TiNx等の不純物が形成される。また、チタン基材の表層には、緻密な酸化チタン層も形成されている。そして、このようなチタン基材に貴金属めっきを施すと、酸化チタン層上にも貴金属は析出するが、酸化チタン層上より比較的低抵抗なTiCx、TiNx等の不純物上に、貴金属が析出し易い。しかし、TiCx、TiNx等の不純物は酸化され易いため、発電時に生成した水が、チタン基材上に析出させた貴金属の隙間を通過し、TiCx、TiNx等の不純物と接すれば、発電時における燃料電池用セパレータの電位で容易に酸化されてしまう。その結果、接触抵抗が上昇し、燃料電池用セパレータの性能を低下させてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2007−146250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、発電時におけるTiCx、TiNx等の不純物の酸化を抑制し、接触抵抗の上昇を抑える燃料電池用セパレータ及び燃料電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、チタン基材に形成されるTiCx又はTiNxを含む不純物を陽極酸化する陽極酸化工程と、前記チタン基材にめっき処理をするめっき処理工程と、を含む。
【0009】
また、前記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記陽極酸化工程後に、前記チタン基材上の酸化被膜を除去する除去工程を含むことが好ましい。
【0010】
また、前記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記陽極酸化時の印加電圧は、1〜10Vの範囲であることが好ましい。
【0011】
また、前記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記陽極酸化工程前に、チタン基材に形成されるTiCx又はTiNxを含む不純物の量を調整する調整工程を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、チタン基材表面にめっき処理されためっき部と非めっき部とを有する燃料電池用セパレータであって、前記非めっき部は、TiCx又はTiNxを含む不純物由来の酸化物である。
【0013】
また、前記燃料電池用セパレータにおいて、前記チタン基材表面における前記めっき部の占める割合は70%〜90%であり、前記チタン基材表面における前記非めっき部の占める割合は10%〜30%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発電時におけるTiCx、TiNx等の不純物の酸化を抑制し、接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、燃料電池1は、膜−電極アッセンブリ10と、膜−電極アッセンブリ10を挟持する一対の燃料電池用セパレータ12と、を備えている。
【0017】
図1に示すように、膜−電極アッセンブリ10は、電解質膜14と、電解質膜14を挟持する一対の触媒層16(アノード極側、カソード極側)と、触媒層16の両外側を挟持する一対の拡散層18とを備える。
【0018】
電解質膜14は、アノード極側で発生した水素イオンをカソード極側まで移動するプロトン伝導性を有するものである。電解質膜14の材料には、例えば、パーフルオロスルホン酸系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜等が挙げられる。
【0019】
触媒層16は、アノード極側での水素の酸化反応や、カソード極側での酸素の還元反応を促進する機能を有するものである。そして、触媒層16は、例えば、触媒と、金属触媒を担持する担体とを含んで構成される。触媒には、水素の酸化反応や酸素の還元反応について、より小さい活性化過電圧を有する白金属元素である白金等が使用されることが好ましい。担体としては、カーボン材料、例えば、カーボンブラック等が使用される。
【0020】
拡散層18は、アノードガスである水素ガス等と、カソードガスである空気等とを触媒層16に拡散させる機能、導電性等の機能を有している。拡散層18としては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパ等の多孔質カーボン材料等が使用される。
【0021】
燃料電池用セパレータ12は、隣接する燃料電池1におけるアノードガスとカソードガスとを分離する機能、隣接する燃料電池1を電気的に接続する機能を有している。図1に示す燃料電池用セパレータ12の空洞部は、アノードガス、カソードガスが通過するガス流路20である。
【0022】
次に燃料電池用セパレータ12の製造方法について説明する。
【0023】
図2は、本実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、燃料電池用セパレータ12の製造方法は、洗浄工程(S10)、中和工程(S12)、陽極酸化工程(S14)、除去工程(S16)、中和工程(S18)、活性化工程(S20)、めっき工程(S22)を含んで構成される。
【0024】
まず、燃料電池用セパレータ12の基材となる、チタン基材について説明する。チタン基材は、純チタン又はチタン合金等のチタン材を、例えば、700℃〜900℃の温度で熱間圧延加工される。そして、チタン材の圧延には、焼き付き等を防止するために油脂類、カーボン類等を含む潤滑剤が使用される。チタン材を圧延する圧延装置には、一般的にチタン材の圧延加工に使用されている圧延装置が用いられる。なお、チタン材の加工は、圧延加工に限定されるものではなく、プレス加工等であってもよい。
【0025】
そして、このような圧延加工等により形成されたチタン基材の表層及び内部には、TiCx、TiNx等の不純物が形成される。本実施形態では、圧延加工時の温度、圧延時間等により、チタン基材に形成されるTiCx、TiNx等の不純物の量を調整する調整工程を含んでもよい。TiCx、TiNx等の不純物は、その後に陽極酸化され、酸化物となるため、当該箇所には、めっき処理によるめっき膜は形成されない。したがって、TiCx、TiNx等の不純物の量を調整することにより、チタン基材上にめっきされる金属の使用量を調整することが可能となる。
【0026】
<S10:洗浄工程>
洗浄工程は、チタン基材を洗浄する工程である。例えば、チタン基材をアルカリ浸漬脱脂等で洗浄して、チタン基材表面に付着している油分等を除去する。アルカリ浸漬脱脂には、苛性ソーダ等のアルカリ性溶液を使用する。
【0027】
<S12:中和工程>
中和工程は、洗浄工程後のチタン基材を中和液に浸漬し、チタン基材上に残ったアルカリを中和除去する工程である。また、中和液から取り出したチタン基材を脱イオン水等で洗浄することが好ましい。中和液としては、硫酸溶液、塩酸溶液、硝酸溶液等を使用する。
【0028】
<S14:陽極酸化工程>
陽極酸化工程は、チタン基材を陽極として電解液中で電圧をかけて電解し、チタン基材に形成されるTiCx、TiNx等の不純物を酸化する工程である。具体的には、電解液中で、1V〜10V(vs.SHE)の範囲の定電圧で、0.1秒〜10時間の条件で、チタン基材を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化する。印加電圧が1V未満であると、TiCx、TiNx等の不純物を十分に酸化することができない場合があり、10Vを超えると、TiCx、TiNx等の不純物以外の箇所におけるチタン基材が酸化される場合がある。電解液は、特に制限されるものではないが、例えば、酸、アルカリをベースとして、必要に応じて金属の塩、ハロンゲン等を添加したものである。
【0029】
図3(A)は、陽極酸化処理を施さずにめっき処理したチタン基材の模式断面図であり、図3(B)は、陽極酸化処理を施した後にめっき処理をしたチタン基材の模式断面図である。図3(A)に示すように、陽極酸化処理を施さずにめっき処理を(100nm以下の膜厚レベル)行うと、直径数十nm程度の粒子状金属22がチタン基材24上及びTiCx、TiNx等の不純物26上に析出する。特に、TiCx、TiNx等の不純物26は比較的低抵抗であるため、粒子状金属22はTiCx、TiNx等の不純物26上に析出し易い。このような燃料電池用セパレータを燃料電池に組み込むと、発電時に生成した水がTiCx、TiNx等の不純物26に接触した際に、TiCx、TiNx等の不純物26は、発電時の燃料電池用セパレータの電位で容易に酸化される。TiCx、TiNx等の不純物26はポーラスであるため、酸化の進行は速く、厚い酸化膜が形成されてしまう。そうすると、TiCx、TiNx等の不純物26上に析出した粒子状金属22の導電効果は低下し、燃料電池用セパレータの接触抵抗は増加してしまう。
【0030】
一方、本実施形態では、陽極酸化処理を施した後にめっき処理をするため、チタン基材24に形成されるTiCx、TiNx等の不純物26は、酸化物28となっている。したがって、図3(B)に示すように、めっき処理(100nm以下の膜厚レベル)を行うと、直径数十nm程度の粒子状金属22は、TiCx、TiNx等の不純物26由来の酸化物28以外のチタン基材24上に優先的に析出する。すなわち、陽極酸化処理を施した後にめっき処理をすることにより、チタン基材24上の一部(不純物26由来の酸化物28以外の部分)に集合的にめっきを施すことが可能となる。このように、予めTiCx、TiNx等の不純物26を酸化させることにより、燃料電池の発電時においてTiCx、TiNx等の不純物26が酸化されることはなく、チタン基材24上に析出させた金属の導電効果が低下することはほとんどない。その結果、燃料電池用セパレータの耐久性を向上させることができる。また、チタン基材24上の一部に集合的にめっきを施すことが可能であるため、チタン基材24上に均一に金属めっきを施した場合に比べて、金属使用量を削減することができ、環境資源的、コスト的なメリットが大きくなる。
【0031】
通常、チタン基材の表層1μm中のC成分及びN成分の量が、全成分量の5%以上存在するチタン基材において、めっき処理を施しても、燃料電池の発電時においてTiCx、TiNx等の不純物が酸化され、燃料電池用セパレータの接触抵抗は著しく増加する。しかし、本実施形態では、チタン基材の表層1μm中のC成分及びN成分の量が、全成分量の5%以上存在していても、陽極酸化処理により予め該不純物を酸化させるため、燃料電池の発電時において、燃料電池用セパレータの接触抵抗が増加することはほとんどない。なお、本実施形態では、燃料電池の発電時においてTiCx、TiNx等の不純物が酸化されることはほとんどないため、上記説明したチタン基材に形成されるTiCx、TiNx等の不純物の量を調整する調整工程において、チタン基材の表層1μm中のC成分及びN成分の量を意図的に全成分量の5%以上にして、チタン基材上にめっきされる金属の使用量を削減してもよい。
【0032】
<S16:除去工程>
除去工程は、陽極酸化処理したチタン基材を酸洗(エッチング)して、チタン基材上に生成した酸化物を除去する工程である。酸洗液(エッチング溶液)としては、チタン基材上に生成した酸化物を除去することができるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、硝弗酸溶液、弗酸溶液等を使用することができる。
【0033】
図4(A)〜(C)は、陽極酸化工程、除去工程及びめっき工程後のチタン基材の模式断面図である。図4(A)に示すように、陽極酸化処理によるTiCx、TiNx等の不純物由来の酸化物28だけでなく、陽極酸化処理前からチタン基材24上に酸化物30が形成されている場合等には、図4(B)に示すように、上記説明した除去工程により、チタン基材上の酸化被膜を除去した上で、図4(C)に示すように、めっき処理を施すことが好ましい。
【0034】
<S18:活性化処理工程>
活性化処理工程は、酸を含む活性化処理液を用いて、チタン基材を洗浄すると同時に活性化させる工程である。活性化処理液の組成及び処理時間等は、特に制限されるものではないが、チタン基材に金等の貴金属をめっきする場合には、フッ化物を含む活性化処理液中に、チタン基材を5〜60秒間浸漬するのが好ましい。
【0035】
<S20:めっき工程>
めっき工程は、主に燃料電池用セパレータ12の導電性、耐食性等を向上させるために、チタン基材に金等の貴金属等を電気めっきする工程である。めっき処理は、導電性、耐食性に優れる貴金属めっきが好ましく、例えば、チタン基材をシアン浴(シアン化第一金系、シアン化第二金系)や非シアン浴(無機亜硫酸金系、有機亜硫酸金系)のめっき浴中で、0.1〜1A/dmの電流密度で、1分〜10分間にわたり陰極電解する。これにより、チタン基材上に貴金属を析出させる。なお、電流密度、めっき時間等は、上記に制限されるものではなく、基材の大きさ等に適宜設定されればよい。
【0036】
このようにして得られるチタン基材の表面(すなわち、燃料電池用セパレータの表面)は、めっき処理によりめっきされためっき部と、陽極酸化処理により酸化されたTiCx、TiNx等の不純物由来の酸化物である非めっき部とを有する。そして、チタン基材におけるめっき部の占める割合は70%〜90%であり、チタン基材表面における非めっき部の占める割合は10〜30%であることが好ましい。チタン基材におけるめっき部の占める割合が70%より低く、非めっき部の占める割合が30%より高いと、燃料電池用セパレータの接触抵抗が高くなり、充分な導電性が得られない場合がある。また、チタン基材におけるめっき部の占める割合が90%より高く、非めっき部の占める割合が10%より低いと、チタン基材に均一にめっき処理した場合と比べても、コスト的なメリットはほとんどない。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
アルカリ系電解液中で、1Vの定電圧、60秒の条件で、チタン平板を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化した。陽極酸化したチタン平板を金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、75秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、50nmであった。これを実施例1とした。
【0039】
アルカリ系電解液中で、10Vの定電圧、10秒の条件で、チタン平板を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化した。陽極酸化したチタン平板にエッチング処理を施した後、金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、10nmであった。これを実施例2とした。
【0040】
フッ化物含有の酸性電解液中で、1Vの定電圧、60秒の条件で、チタン平板を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化した。陽極酸化したチタン平板を金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、10nmであった。これを実施例3とした。
【0041】
アルカリ系電解液中で、1Vの定電圧、60秒の条件で、発砲焼結体のチタン基材を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化した。陽極酸化した発砲焼結体のチタン基材をパラジウムめっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、パラジウムめっき処理した。パラジウムめっき処理により形成しためっき膜の厚さは、30nmであった。これを実施例4とした。
【0042】
アルカリ系電解液中で、10Vの定電圧、10秒の条件で、発砲焼結体のチタン基材を陽極として電解し、TiCx、TiNx等の不純物を酸化した。陽極酸化した発砲焼結体のチタン基材にエッチング処理を施した後、金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、30nmであった。これを実施例5とした。
【0043】
チタン平板を金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、10nmであった。これを比較例1とした。
【0044】
発砲焼結体のチタン基材を金めっき浴中で、電流密度0.5A/dm、15秒の条件で、金めっき処理した。金めっき処理により形成しためっき膜の厚さは、30nmであった。これを比較例2とした。
【0045】
<接触抵抗>
上記実施例1〜5及び比較例1,2の接触抵抗を測定した。以下に、接触抵抗の測定方法について説明する。実施例1〜5及び比較例1,2の接触抵抗は、各基材の両側を銅板により挟持し、荷重1MPaを加え、一般的に用いられる交流4端子法(電流1A)により測定した。実施例1〜5及び比較例1,2の接触抵抗を以下の基準で評価し、それを表1にまとめた。
◎:比較例1の接触抵抗を基準値とし、該基準値より低い接触抵抗であった。
○:比較例1の接触抵抗を基準値とし、該基準値とほとんど変わらない接触抵抗であった。
×:比較例1の接触抵抗を基準値とし、該基準値より高い接触抵抗であった。
【0046】
また、耐食性試験を行った後の上記実施例1〜5及び比較例1,2の接触抵抗も測定した。耐食性試験は、実施例1〜5、比較例1,2を酸性電解液に浸漬させ、100時間の間、1Vの定電位を与えることにより行った。耐食性試験後の実施例1〜5及び比較例1,2の接触抵抗を以下の基準で評価し、それを表1にまとめた。
◎:耐食性試験前の接触抵抗を基準値とし、該基準値とほとんど変わらない接触抵抗であった。
○:耐食性試験前の接触抵抗を基準値とし、接触抵抗の上昇が該基準値より50%未満であった。
×:耐食性試験前の接触抵抗を基準値とし、接触抵抗の上昇が該基準値より50%以上であった。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から判るように、実施例1〜5の耐食性試験前の接触抵抗は、比較例1の耐食性試験前の接触抵抗と比べてもほとんど変化がなかった。さらに、実施例1〜5の耐食性試験後の接触抵抗は、耐食性試験前の接触抵抗と比較しても50%未満しか上昇しなかった。これに対し、比較例1,2の耐食性試験後の接触抵抗は、耐食性試験前の接触抵抗と比較して50%以上上昇した。実施例1〜5のように、めっき処理をする前に、予めチタン基材に形成されるTiCx、TiNx等の不純物を陽極酸化することにより、チタン基材上の一部(TiCx、TiNx等の不純物由来の酸化物以外の部分)に集合的にめっきを施すことが可能となる。すなわち、TiCx、TiNx等の不純物由来の酸化物上には、めっきが施されないため、耐食性試験において、チタン基材24上に析出させた金属の導電効果が低下することはほとんどない。一方、比較例1、2のように、陽極酸化処理をしないままめっき処理をすると、TiCx、TiNx等の不純物上にもめっきがされる。その結果、耐食性試験において、TiCx、TiNx等の不純物が酸化され、不純物上のめっき部の導電効果が低下する。上記でも説明したように、TiCx、TiNx等の不純物上に比較的めっきがされ易いため、不純物上のめっき部の導電効果が低下すると、接触抵抗は著しく増加してしまう。
【0049】
また、チタン基材の形態及びめっき膜の厚さが同じである実施例2,3と比較例1、実施例5と比較例2において、めっき処理に使用する金属使用量を比較すると、比較例1より実施例2,3の方が、比較例2より実施例5の方がめっき処理に使用する金属使用量が少なかった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】(A)は、陽極酸化処理を施さずにめっき処理したチタン基材の模式断面図であり、(B)は、陽極酸化処理を施した後にめっき処理をしたチタン基材の模式断面図である。
【図4】(A)〜(C)は、陽極酸化工程、除去工程及びめっき工程後のチタン基材の模式断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 燃料電池、10 膜−電極アッセンブリ、12 燃料電池用セパレータ、14 電解質膜、16 触媒層、18 拡散層、20 ガス流路、22 粒子状金属、24 チタン基材、26 不純物、28 TiCx、TiNx等の不純物由来の酸化物、30 酸化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基材に形成されるTiCx又はTiNxを含む不純物を陽極酸化する陽極酸化工程と、前記チタン基材にめっき処理をするめっき処理工程と、を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記陽極酸化工程後に、前記チタン基材上の酸化被膜を除去する除去工程を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記陽極酸化時の印加電圧は、1〜10Vの範囲であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記陽極酸化工程前に、チタン基材に形成されるTiCx又はTiNxを含む不純物の量を調整する調整工程を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
チタン基材表面にめっき処理されためっき部と非めっき部とを有する燃料電池用セパレータであって、
前記非めっき部は、TiCx又はTiNxを含む不純物由来の酸化物であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池用セパレータであって、前記チタン基材表面における前記めっき部の占める割合は70%〜90%であり、前記チタン基材表面における前記非めっき部の占める割合は10%〜30%であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−97840(P2010−97840A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268234(P2008−268234)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】