説明

燃料電池用拡散層、燃料電池用拡散層の製造方法及び燃料電池

【課題】燃料電池内の水の汚染による出力の低下が起こりにくく、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能な燃料電池用拡散層、燃料電池用拡散層の製造方法及び燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池用の拡散層14は、拡散層12を厚さ方向に貫通する通路に陽イオン交換樹脂12aが充填されている。この拡散層14は、拡散層12の一面側から他面側に水圧によって水を通過させることによって通路を形成し、この通路に陽イオン交換樹脂溶液を充填し、乾燥させ、塗布法によってポーラス層13a、13bを形成させて製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンや陰イオンによる燃料電池の汚染や腐食を効果的に防止できる燃料電池用拡散層、その製造方法及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質からなる膜が触媒層で挟まれ、さらにその触媒層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体(以下「MEA」と称する)を備えている。触媒層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))等の高分子固体電解質が混合されている。そして、MEAの両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されたスタックが形成されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では、水素がアノード側のセパレータに供給され、拡散層を通って触媒層に供給される。そして、触媒層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、オキソニウムイオンの形態で水を引き連れながら触媒層および高分子固体電解質内を移動し、カソード側に達する。また、電子はアノード側のセパレータから外部回路を経てカソード側のセパレータに供給される。
一方、カソード側のセパレータに供給された酸素は、拡散層を介して触媒層に供給され、アノード側から外部回路を経て供給された電子によって還元され、水酸イオンとなり、さらにはオキソニウムイオンと結合して水が生成する。
【0004】
このようにして燃料電池の内部で生成した水は、燃料電池の内部を循環することになるが、長期間使用した場合、燃料電池のセパレータ、各種ホース、配管等から金属イオンや陰イオンが溶出して以下のような問題を生ずる。
すなわち、高分子固体電解質は一種のイオン交換膜としての機能を有しており、燃料電池内部の水が金属イオンで汚染された場合、高分子固体電解質に存在するスルホン酸基の水素と金属とがイオン交換を行って置換される。このように金属イオンで置換されたスルホン酸基はプロトン移動に関与する水素を有さないため、プロトン伝道性が著しく低下する。このため、燃料電池の内部抵抗が大きくなり、燃料電池の出力の低下や異常な発熱を引き起こすこととなる。
また、燃料電池内部の高分子個体電解質膜や反応層中の高分子固体電解質が何らかの原因で分解し、硫酸イオンやフッ素イオン等の陰イオンが発生した場合、セパレータ等の金属の腐食を起こす原因となる。
【0005】
このため、燃料電池内部の水をイオン交換樹脂に接触させ、金属イオンや陰イオンを吸着させて除去することが行われている(例えば特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−166267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、イオン交換樹脂で燃料電池内の水中の金属イオン等を除去するためには、燃料電池システムの配管の途中にイオン交換樹脂を入れるハウジングを設け、配管を接続させなければならない。このため、水系統の配管が複雑化し、製造コストも高騰化する。また、イオン交換樹脂に水を通す際に圧力損失を生じるため、水循環用のポンプの動力も大きくしなければならない。さらには、設置スペースが大きくなって小型化の支障となる。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、燃料電池内の水の汚染による出力の低下が起こりにくく、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能な燃料電池用拡散層、燃料電池用拡散層の製造方法及び燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池用拡散層の第1の局面は、ガスの透過が可能な空隙を有する電導性の基材を備え、該空隙の一部には陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方が充填されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の燃料電池用拡散層における第1の局面では、電導性の基材の空隙の一部に陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方が充填されている。空隙に陽イオン交換樹脂が充填されている場合には、金属イオンが吸着されるため、高分子固体電解質膜のスルホン酸基の水素が金属で置換されることを防止できる。このため、高分子固体電解質膜のプロトン伝導性の低下を防止でき、その結果燃料電池の出力低下を防止することができる。
また、空隙に陰イオン交換樹脂が充填されている場合には、高分子固体電解質膜から排出される硫酸イオンやフッ素イオンを吸着するため、これらの陰イオンによるセパレータ等の金属の腐食を防止することができる。
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを両方充填した場合には、上記の効果を両方とも備えることとなる。
また、イオン交換樹脂は保湿効果を有するため、高分子固体電解質の乾燥を防ぐ効果もある。
【0011】
以上のように、この燃料電池用拡散層を用いた燃料電池では、拡散層自身がイオン交換能を発揮するため、燃料電池システムの配管の途中にイオン交換樹脂を入れる必要がない。このため、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能となる。
【0012】
本発明の燃料電池用拡散層の第2の局面では、基材の片面又は両面にはガスの透過が可能な電導性のポーラス層が形成されており、ポーラス層にはイオン交換樹脂が充填されていないこととした。こうであれば、燃料電池用拡散層が直接セパレータや高分子固体電解質と接触しても、イオン交換樹脂はポーラス層がバリヤーとなるためセパレータや高分子固体電解質と直接接触することがない。このため、イオン交換樹脂によるセパレータの腐食や、イオン交換樹脂に吸着した金属イオンが高分子固体電解質に移動してプロトン伝導性の低下することを防止できる。
【0013】
また、本発明の燃料電池用拡散層の第3の局面では、イオン交換樹脂は前記基材の一面側から他面側まで貫通する無数の孔に充填されていることとした。こうであれば、水の通路となる孔にイオン交換樹脂が充填されているため、効果的に水のなかのイオンを除去することができる。また、反応ガスの透過は孔以外の部分で行われるため、ガス透過が妨げともならない。
【0014】
さらに、本発明の燃料電池用拡散層の第4の局面では、イオン交換樹脂の基材に対する含有率は厚さ方向及び/又は面方向で異なることした。こうであれば、汚れが進入してくるセパレート側のイオン交換樹脂の含有量を高めたり、面方向の水の汚染が著しい部分に対してイオン交換樹脂の含有率を高めたりすることにより、効果的に水の汚染を防止することができる。
【0015】
本発明の燃料電池は請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層を備えることを特徴とする。上述したように、本発明の燃料電池用拡散層を用いて燃料電池を構成すれば、燃料電池内の水の汚染による出力の低下が起こりにくく、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能となる。
【0016】
本発明の燃料電池用拡散層は次のようにして製造することができる。すなわち、第1発明の燃料電池用拡散層の製造方法の第1の局面は、燃料電池用の拡散層を用意する準備工程と、該拡散層の一面側から流体によって圧力を付与し、該一面側から他面側に該流体を通過させることによって該拡散層に通路を形成する通路形成工程と、該通路にイオン交換樹脂溶液を充填する充填工程と、該通路に充填されたイオン交換樹脂溶液を乾燥する乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
この燃料電池用拡散層の製造方法では、まず準備工程において燃料電池用の拡散層を用意する。このような拡散層は、例えばガス透過性を付与するためのフッ素樹脂粉末と、導電性を付与するためのカーボン粉末を基材上で熱圧着させることで製造することができる。
そして、次に通路形成工程として、拡散層の一面側から液体や気体によって圧力をかけながら拡散層の他面側へ通過させる。このとき拡散層のMPLの内部では、独立して存在する空孔の壁が突き破られ、一面側から他面側に通ずる通路が形成される。通路の数は圧力を大きくすれば多く形成され、小さな圧力では形成される通路の数が少なくなる。このため、圧力を適宜選択することにより、通路を燃料電池の出力を上げるために最適な状態となるようにすることができる。
【0018】
この燃料電池用拡散層の製造方法の第2の局面は、通路形成工程において用いられる流体はイオン交換樹脂溶液であり、通路形成工程と前記充填工程とを同時に行うこととした。こうであれば、製造工程が短縮化され、燃料電池用拡散層の製造に要する時間が短縮され、製造コストも低廉化される。
【0019】
また、この製造方法の第3の局面は、通路形成工程において、拡散層の材質、厚さ、構造等の拡散層の性質に応じて圧力を制御し、所定の通路を形成することとした。通路形成工程においては、流体の圧力が高いほど通路が数多く形成され、また、広く押し広げられるため、流体の圧力を拡散層の材質、厚さ、構造等の拡散層の性質に応じて制御すれば、所望の通路幅及び通路数とすることができる。
【0020】
さらに、この製造方法の第4の局面は、通路形成工程における通路の形成は拡散層の一部において選択的に行うこととした。燃料電池内の水の汚染状況は場所によって異なる。また、拡散層の高分子固体電解質側では、イオン交換樹脂に吸着された金属イオンの高分子固体電解質への移動を防止するために、イオン交換樹脂の含有率は低いほうがよい。こうした状況を考慮し、通路形成工程における通路の形成を部分的に行えば、場所によらず状況に応じた最適な状態を保つことが可能な燃料電池用拡散層とすることができる。
【0021】
また、この燃料電池用拡散層の製造方法の第5の局面は、通路形成工程の前に拡散層に無数の凹部及び/又は無数の孔を形成する前処理工程を備えることとした。このような前処理を行うことにより、通路形成工程における圧力を付与された流体は、前処理工程で設けられた無数の凹部や孔を経由して通路が形成されることとなる。このため、通路形成を確実に行うことが可能となるとともに、前処理によって形成する凹部や孔の密度や大きさを制御することによって、形成される通路の密度や径を精密に制御することができる。このような前処理工程としては、例えば、無数の針状突起を有する穴あけ治具を前記拡散層に押し当てることによって拡散層に無数の凹部及び/又は無数の孔を形成すること等が挙げられる。
【0022】
本発明の燃料電池用拡散層の別の製造方法として、次のようにすることもできる。すなわち、第2発明の燃料電池用拡散層の製造方法は、燃料電池用の拡散層を用意する準備工程と、該拡散層にイオン交換樹脂溶液を含浸させる含浸工程と、該イオン交換樹脂溶液が含浸した該拡散層を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
この製造方法では、含浸工程において拡散層に浸み込んだイオン交換樹脂溶液が乾燥工程で乾燥することにより、イオン交換樹脂が拡散層を構成しているカーボンクロス等の基材の空隙において、隙間を残した状態で充填される。
【0023】
さらには、本発明の燃料電池用拡散層の別の製造方法として、次のような技術的特長を有する製造方法を採用することもできる。すなわち、燃料電池用の拡散層MPLの原料とイオン交換樹脂材料とを加熱混合する混練工程と、混練工程で得られた混合物を膜状に成型する成型工程とを備えることを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法である。この方法によれば、溶液化することが困難なイオン交換樹脂を用いることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の燃料電池用拡散層で用いられる拡散層としては、例えばガス透過性を付与するためのフルオロカーボン系ポリマー(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等)と、導電性を付与するためのカーボン粉末とを混合したペーストをカーボン繊維不織布などの基材に塗り込んで形成したものを用いることができる。
【0025】
また、本発明の燃料電池用拡散層で用いられるイオン交換樹脂についても特に限定はされない。例えば陽イオン交換樹脂として、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))、スチレン系の母体にスルホン酸基が結合したもの、アクリル系の母体にカルボン酸基が結合したもの等が挙げられる。また、陰イオン交換樹脂としては、スチレン系の母体に4級アンモニウム基や3級アンモニウム基が結合したもの等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
<準備工程>
実施例1では、まず準備工程として、ポリテトラフルオロエチレンの微粉末を含む高分子バインダーとカーボンブラック粉末とを混合し、カーボン繊維の不織布に塗布する。そして、ホットプレス法によって固めて多孔質の拡散層を得る。
【0027】
<通路形成工程>
そして、図1に示す無数に孔1aが開けられた仕切り板1bを有する管状治具1を用意し、仕切り板1b上に拡散層2を載せる。さらに水3を拡散層2の上に注ぎ、図示しない圧縮ポンプにて加圧する(なお、圧縮ポンプを用いる代わりに図2に示すように吸引ポンプを用いて大気圧で加圧してもよい)。ここで、拡散層2はカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンとの境界で剥離を起こしながら押し広げられ、図3に示すように、一面側から他面側に通じる通路2aが形成される。
なお、管状治具1をシリンダとして、その上側からピストンを圧入することにより、水3に圧力を付与することができる。この場合、ピストン圧入のストロークを調整することにより、拡散層に対する圧力を調整可能となる。
さらには、水3を用いることなく、空気等の気体を圧縮して拡散層2を通過させ、これによって通路を形成してもよい。
【0028】
<充填工程>
全ての水が図1に示す拡散層2を通過した後、陽イオン交換樹脂としてパーフルオロスルホン酸水溶液を注ぎ、圧縮ポンプにて加圧する。これにより通路2aにパーフルオロスルホン酸水溶液が充填される。このとき、充填圧が高ければ高いほど孔径の小さな部分にまでパーフルオロスルホン酸水溶液が充填される。このため、拡散層2の材料や圧力を適宜選択することにより、通路2aの孔径の調整が可能となる。
【0029】
<乾燥工程>
次に、通路2aにパーフルオロスルホン酸水溶液が充填された拡散層2を取り出し、乾燥させる。こうして、図4に示すように、拡散層2の通路2aにパーフルオロスルホン酸水溶液からなる陽イオン交換樹脂2bが充填された拡散層4を得る。
【0030】
このようにして得られた実施例1の拡散層4を用い、図5に示す単位セル5を作製する。この単位セル5は、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜6が触媒層7a、7bで挟まれており、さらにその触媒層7a、7bの外側を上記工程で得られた拡散層8a、8bが挟んでいる。これらによってMEA9が構成されている。触媒層7a、7bは、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))等の高分子固体電解質が混合されている。また、拡散層8a、8bには陽イオン交換樹脂8c、8dが膜厚方向に貫通して充填されている。MEA9は、空気や水素のガス流路10a、10bを備えたステンレス製のセパレータ11a、11bによって挟持されている。これらの単位セル5が複数積層されたスタックが構成され、反応ガス供給装置や循環用のポンプや保湿用の貯水タンク等が配管によって接続されて燃料電池が構成される。
【0031】
以上のように構成された燃料電池では、拡散層8a、8bに陽イオン交換樹脂8c、8dが膜厚方向に貫通して充填されているため、セパレータ11a、11bのガス流路10a、10bから拡散層8a、8bに侵入した水の中に含まれる陽イオンは、陽イオン交換樹脂8c、8dを通過するときに吸着除去される。このため、触媒層7a、7b及び高分子電解質膜6への金属イオンの侵入が陽イオン交換樹脂8c、8dによって阻止される。このため、触媒層7a、7bや高分子電解質膜6におけるプロトン伝導性の低下が防止され、ひいては燃料電池の出力低下を防止することができる。
また、この燃料電池では、拡散層8a、8b自身がイオン交換能を発揮するため、燃料電池システムの配管の途中にイオン交換樹脂を入れる必要がない。このため、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能となる。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、上記実施例における陽イオン交換樹脂の替わりに、陰イオン交換樹脂を用いて拡散層を調製する。この拡散層を用いれば、高分子固体電解質膜から排出される硫酸イオンやフッ素イオンを吸着するため、これらの陰イオンによるセパレータや配管等の腐食を防止することができる。
なお、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを両方充填した場合には、実施例1において得られる効果と実施例2において得られる効果を両方とも備えることとなる。
また、イオン交換樹脂は保湿効果を有するため、高分子固体電解質の乾燥を防ぐ効果もある。
【0033】
(実施例3)
実施例3では、実施例1の方法によって製造された拡散層の両面にポリテトラフルオロエチレンの微粉末を含む高分子バインダーとカーボンブラック粉末との混合物を塗布し、ホットプレス法によって固めることにより、図6に示すように、陽イオン交換樹脂12aが厚さ方向に貫通して充填された拡散層12の両側をガス透過が可能な電導性のポーラス層13a、13bで挟持する拡散層14とした。この拡散層14を用いて単位セルを構成したものを図7に示す。反応層14以外は実施例1の単位セルと同様であり、同一の構成には同一の符号を付して、説明を省略する。
【0034】
この燃料電池では、陽イオン交換樹脂12aがセパレータ11a、11bや高分子固体電解質6と直接接触することがない。このため、陽イオン交換樹脂12aによるセパレータ11a、11bの腐食や、陽イオン交換樹脂12aに吸着した金属イオンが高分子固体電解質6に移動してプロトン伝導性の低下することを防止できる。
【0035】
(実施例4)
実施例4では、実施例1における準備工程によって得られた拡散層2に対して、前処理工程として図8に示すように、無数の針15aが立設された治具15によって無数の孔を開けてから通路形成工程を行う。他の製造条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0036】
実施例4では、前処理工程で設けられた無数の凹部や孔を経由して通路が形成されることとなる。このため、通路形成を確実に行うことが可能となるとともに、前処理によって形成する凹部や孔の密度や大きさを制御することによって、形成される通路の密度や径を精密に制御することができる。
【0037】
(実施例5)
実施例5では、まず実施例1と同様の方法により、図9(a)に示すように、片面に反応層16aが形成された拡散層16を用意し、実施例2で用いた管状治具1の仕切り板1b上に載せる。そして、さらに拡散層16の表面の一部を覆う金属製のマスキング17を載せ、図示しない加圧ポンプにて圧力P1で加圧することにより、領域16bに通路を形成する(図9(b))。そして、次にマスキング17を取り外し、マスキング17とは異なる部分を覆うマスキング18を拡散層6の上に載せ、加圧ポンプにより圧力P2で領域16cに通路を形成する。ここでP2<P1とすれば、領域16bには様々な幅の通路が数多く形成される。これに対し、領域6cでは幅広の通路の数が少なく、幅広の通路のみとなる。
【0038】
こうして拡散層を形成すれば、水の汚染が著しい部分に対してより多くの陽イオン交換樹脂が充填された通路が対向するように設計することによって、効果的に水の汚染を防止することができる。
【0039】
(実施例6)
実施例6は、含浸による燃料電池用拡散層の製造である。すなわち、まず実施例1と同様の方法により拡散層を得る(準備工程)。そして、この拡散層をナフィオン(登録商標)のアルコール溶液に浸漬する(含浸工程)。このナフィオン(登録商標)が陽イオン交換樹脂である。こうしてナフィオン(登録商標)を含浸させた拡散層を乾燥し(乾燥工程)、カーボンクロスにナフィオン(登録商標)が付着した燃料電池用拡散層を得る。
【0040】
実施例6の方法で得られた燃料電池用拡散層は、陽イオン交換樹脂としてナフィオン(登録商標)が含まれているため、これを燃料電池に用いた場合、触媒層及び高分子電解質膜への金属イオンの侵入が阻止され、それらのプロトン伝導性の低下が防止され、ひいては燃料電池の出力低下を防止することができる。また、燃料電池システムの配管の途中にイオン交換樹脂を入れる必要がないため、水系統の配管も複雑とならず、燃料電池の低廉化が可能となる。
【0041】
なお、上記含浸工程を以下に示すように段階的に行い、厚さ方向でナフィオン(登録商標)の含有量が異なる燃料電池用拡散層を製造することができる。
すなわち、図10(a)に示すように、まず準備工程で用意したカーボンクロスからなる拡散層17の全体をナフィオン(登録商標)のアルコール溶液18に浸漬した後、引き上げて乾燥させる。そして、図10(b)に示すように、再び拡散層の一面側をナフィオン(登録商標)のアルコール溶液に浸漬し、毛細管現象によってL1のレベルの厚さまで浸透した後、引き上げて乾燥させる。これにより、図10(b)に示すL1のレベルまでがナフィオン(登録商標)の含有量が高い部分となる。そして、再度拡散層の一面側をナフィオン(登録商標)のアルコール溶液に浸漬し、図10(c)に示すL2のレベルまでさらにナフィオン(登録商標)の含有量が高い部分を形成させてから、乾燥させて、図10dに示すように、ナフィオン(登録商標)の含有率が最小のゾーン17a、中ぐらいのゾーン17b、最大のゾーン17cの3段階となった燃料電池用拡散層を形成させることができる。
こうして得られた燃料電池用拡散層のナフィオン(登録商標)の含有量が少ないゾーン17a側を燃料電池の反応層側に接触させれば、ナフィオン(登録商標)によって吸着された金属イオンが反応層や高分子固体電解質膜に移行してプロトン伝導性が低下することを最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】加圧によって通路形成工程を行う場合の模式断面図である。
【図2】減圧によって通路形成工程を行う場合の模式断面図である。
【図3】通路形成工程によって通路が形成された拡散層の模式断面図である。
【図4】充填工程によって通路にイオン交換樹脂が充填された燃料電池用の拡散層の模式部分拡大断面図である。
【図5】実施例1の燃料電池用拡散層を用いた単一セルの模式部分断面図である。
【図6】実施例3の燃料電池用拡散層の模式断面図である。
【図7】実施例3の燃料電池用拡散層を用いた単一セルの模式部分断面図である。
【図8】実施例4の前処理工程を示した部分断面模式図である。
【図9】実施例5の燃料電池用拡散層の製造工程を表わした模式断面図である。
【図10】実施例6の変形例の製造工程を示した模式断面図である。
【符号の説明】
【0043】
4、8a、8b、14…燃料電池用拡散層
2…拡散層(基材)
2a…通路
2b…陽イオン交換樹脂
13a、13b…ポーラス層
2a…孔
3…水(流体)
16b…領域(第1の領域)
16c…領域(第2の領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの透過が可能な空隙を有する電導性の基材を備え、該空隙の一部には陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方が充填されていることを特徴とする燃料電池用拡散層。
【請求項2】
前記基材の片面又は両面にはガスの透過が可能な電導性のポーラス層が形成されており、該ポーラス層にはイオン交換樹脂が充填されていないことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用拡散層。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂は前記基材の一面側から他面側まで貫通する無数の孔に充填されていることを特徴とする請求項2記載の燃料電池用拡散層。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂の前記基材に対する含有率は厚さ方向及び/又は面方向で異なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項5】
燃料電池用の拡散層を用意する準備工程と、
該拡散層の一面側から流体によって圧力を付与し、該一面側から他面側に該流体を通過させることによって該拡散層に通路を形成する通路形成工程と、
該通路にイオン交換樹脂溶液を充填する充填工程と、
該通路に充填されたイオン交換樹脂溶液を乾燥する乾燥工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項6】
前記通路形成工程において用いられる流体はイオン交換樹脂溶液であり、前記通路形成工程と前記充填工程とを同時に行うことを特徴とする請求項5記載の燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項7】
前記通路形成工程において、拡散層の材質、厚さ、構造等の拡散層の性質に応じて圧力を制御し、所定の通路を形成することを特徴とする請求項5又は6記載の燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項8】
通路形成工程における通路の形成は拡散層の一部において選択的に行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項9】
通路形成工程の前に拡散層に無数の凹部及び/又は無数の孔を形成する前処理工程を備えることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項10】
燃料電池用の拡散層を用意する準備工程と、
該拡散層にイオン交換樹脂溶液を含浸させる含浸工程と、
該イオン交換樹脂溶液が含浸した該拡散層を乾燥させる乾燥工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−273216(P2007−273216A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96454(P2006−96454)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】