燃料電池用拡散層及びその製造方法、膜−電極接合体並びに燃料電池
【目的】膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる燃料電池用拡散層、膜−電極接合体、及びそれを用いた燃料電池を提供する。
【構成】本発明の燃料電池用拡散層1は、導電性及びガス透過性を有する拡散層基材10の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層11a、11bが形成されており、さらにマイクロポーラス層11a上に反応層12が形成されている。マイクロポーラス層11a、11bに含まれているカーボンは、有機湿潤ゲル化物を得る工程S1と、該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程S2と、該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程S3と、溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程S4と、該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程S5とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末である。
【構成】本発明の燃料電池用拡散層1は、導電性及びガス透過性を有する拡散層基材10の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層11a、11bが形成されており、さらにマイクロポーラス層11a上に反応層12が形成されている。マイクロポーラス層11a、11bに含まれているカーボンは、有機湿潤ゲル化物を得る工程S1と、該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程S2と、該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程S3と、溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程S4と、該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程S5とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用拡散層及びその製造方法、膜−電極接合体並びに燃料電池に関し、固体高分子燃料電池に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質からなる膜が触媒層で挟まれ、さらにその触媒層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体を備えている。触媒層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製)、以下同じ)等の高分子固体電解質が混合されている。そして、膜−電極接合体の両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されたスタックが形成されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では以下の電気化学反応が行われる。
アノード側:H2 → 2H++2e−
カソード側:1/2O2+2H++2e− → H2O
全反応 :H2+1/2O2 → H2O
すなわち、水素がアノード側のセパレータのガス流路に供給され、拡散層を通って触媒層に供給される。そして、触媒層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、オキソニウムイオンの形態で水を引き連れながら触媒層および高分子固体電解質内を移動し、カソード側に達する。
一方、カソード側に供給された酸素は、オキソニウムイオンと結合し、水が生成する。
【0004】
以上のように、固体高分子型燃料電池では、アノード側からカソード側に向かって水が移動するため、アノード側では膜−電極接合体が乾燥しやすくなり、燃料電池の内部抵抗が大きくなり、燃料電池の出力の低下原因となる。一方、カソード側ではアノード側から水が供給されるが、燃料電池自体の発熱によって水の蒸気圧は高くなっており、セパレータのガス流路を流れる酸化ガスによって蒸発した水が多量に持ち去られるため、カソード側においても膜−電極接合体が乾燥状態になることがある。
【0005】
膜−電極接合体を構成する固体高分子電解質膜が乾燥した場合には、プロトン導電性が低下し、燃料電池の内部抵抗が大きくなる。また、電極反応には水が必要とされるため、反応層が乾燥した場合には、電極反応が困難となる。このため、膜−電極接合体を冷却して水の蒸気圧を小さくしたり、反応ガスを加湿したりして、膜−電極接合体の乾燥を防ぐことが行われている。しかし、このためには冷却装置や加湿装置が必要となるため、構造が複雑化、大型化し、製造コストも高騰化するという問題があった。また、燃料電池によって発電された電力の一部で冷却装置や加湿装置を作動させるため、エネルギー効率が悪くなるという問題もあった。
【0006】
この点、空冷式無加湿の固体高分子型燃料電池であれば、酸化ガスとして供給する空気で冷却も行うため、冷却装置が不要となる。しかし、空冷式の固体高分子型燃料電池では、酸化ガスの流量を大きくすることによって膜−電極接合体を冷却するため、酸化ガスによって持ち去られる水の量が増加し、膜−電極接合体が乾燥状態となりやすい。
【0007】
また、固体高分子型燃料電池における膜−電極接合体の乾燥を防止する方法として、拡散層の反応層と接する側又は拡散層の両面に導電性の撥水層を設けることも提案されている(特許文献1)。この導電性撥水層付き拡散層を用いた燃料電池では、反応層に存在する水が導電性撥水層によってはじかれて通過が困難となるため、乾燥し難く、酸化ガスを加湿しなくても、発電効率がそれほど低下しないとされている。
【0008】
一方、本発明に関連する背景技術として、ジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとの重合物を出発物質として製造されるカーボンエアロゲルが知られている(特許文献2)。このカーボンエアロゲルは、図19に示す工程によって製造される。すなわち、まず重合工程S91として、レゾルシノールやカテコール等のジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを炭酸ナトリウムの存在下で重合して有機湿潤ゲル化物を得る。次に、溶媒置換工程S92として、ゲル化物をメタノールやアセトン等の水溶性有機溶媒で洗浄し、ゲル化物に含まれている水分を水溶性溶媒と溶媒置換する。さらに、超臨界乾燥工程S93として、溶媒置換されたゲル化物をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行う。こうして乾燥したゲル化物は、網目構造を形成している一次粒子の粒子径が0.1μm以下の粒子からなり、嵩密度も100mg/mlと極めて小さくなっている。これは、超臨界乾燥では通常の乾燥と異なり、毛管力による収縮を伴わずに乾燥するため、重合工程S1におけるホルムアルデヒドによる架橋によって形成された細孔構造が、破壊されることなくそのままの状態で残るからと考えられる。そして、熱分解工程S94として、上記の乾燥されたゲル化物を窒素雰囲気下で高温にして炭化物の塊を得る。こうして得られた炭化物は、炭化する前の細孔構造が保たれている。最後に、粉砕工程S95として上記炭化物の塊を粉砕機で粉砕し、カーボンエアロゲル粉末を得る。
【0009】
こうして得られた、カーボンエアロゲル粉末は、粒子径を極めて小さくすることができるため、高分子電解質型燃料電池における電極として使用した場合、電極の厚さを薄くすることができる。また、乾燥したゲル化物の熱分解によって得られた炭化物は細孔構造を有しているため、これを粉砕して得られたカーボンエアロゲルも優れたガス透過性を有することが期待される。このため、カーボンエアロゲルを高分子電解質型燃料電池の電極として用いることも提案されている(特許文献3)。
【0010】
さらには、カーボンエアロゲル粉末の製造方法として、重合工程S91で得られた有機湿潤ゲル化物を粉砕してから乾燥することを特徴とするカーボンエアロゲル粉末の製造法に関する技術も知られている(特許文献4)。この方法で製造されたカーボンエアロゲル粉末は、カーボンエアロゲルの細孔分布が保たれているという特性を有している。
【特許文献1】特開平9−245800号公報
【特許文献2】U.S.patent No.4873218 claim14、15
【特許文献3】特表平11−503267号公報
【特許文献4】特開2006−265091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載の燃料電池は、加湿器を必要としないとされているが、それにはメタノール改質器を備えていることが要件とされている。メタノール改質器から得られる水素には多量の水蒸気が含まれているため、たとえ反応ガスを加湿器で加湿しなかったとしても、水素と一緒に供給される水蒸気によって膜−電極接合体に水が供給される。
【0012】
しかし、メタノール改質器を備えるためには、やはり装置が複雑化、大型化し、製造コストも高騰化することとなる。このため、加湿器や冷却装置やメタノール改質器がなくても駆動可能な、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる拡散層が求められていた。
【0013】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる燃料電池用拡散層、膜−電極接合体、及びそれを用いた燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層において、カーボンエアロゲルの細孔構造がそのまま保たれたカーボンエアロゲル粉末(特許文献4参照)を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の局面の燃料電池用拡散層は、
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層であって、
前記カーボンは、
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする。
【0016】
かかるカーボンエアロゲル粉末は、有機湿潤ゲル化物を粉砕工程において粉砕してから溶媒置換される。このため、ゲル化物の細孔に水が含まれた状態で粉砕されることとなり、乾燥状態での粉砕に比べて、水のクッション効果によって細孔が保護され、破壊され難くなる。このため、こうして得られたカーボンエアロゲル粉末は、ゲル化物の細孔構造を反映した細孔構造が保たれており、優れたガス透過性を有する。このため、拡散層基材の両面に、このカーボンエアロゲル粉末と撥水性樹脂とを混合して多孔性のマイクロポーラス層を形成して燃料電池用拡散層とした場合、マイクロポーラス層は優れたガス透過性を有する。
その一方、このマイクロポーラス層は、以下に示す理由から、水が透過し難いものとなる。すなわち、水がマイクロポーラス層を通過する場合に必要とされる水圧ΔPは、次式(1)で示される。
【数1】
カーボンエアロゲル粉末は極めて小さな孔径を有するため、マイクロポーラス層の孔径も小さくなり、水圧ΔPはきわめて大きくなる。このため、本発明の燃料電池用拡散層の両面に形成されたマイクロポーラス層は、水が透過し難く、ガスはすみやかに透過することができる。したがって、本発明の燃料電池用拡散層は、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる。
【0017】
第2の局面の発明によれば、有機湿潤ゲル化物をポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られるものとした。
ここに、ポリヒドロキシベンゼンとは、ベンゼン環に2個以上の水酸基を有する化合物を意味する。このような化合物は、ホルムアルデヒドと容易に重合して網目状の構造をとり、細孔構造を形成することができる。
【0018】
第3の局面の発明によれば、ポリヒドロキシベンゼンとしてジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体を採用する。
ポリヒドロキシベンゼンの中でもジヒドロキシベンゼンやジヒドロキシベンゼン誘導体は、比較的安定な化合物であるため、取り扱いやすく好適である。
ジヒドロキシベンゼンとして特に好適なのはレゾルシノールである。よって、第4の局面の発明として、ジヒドロキシベンゼンとしてレゾルシノールを採用した。
【0019】
第5の局面の発明によれば、溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒を採用した。
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることが好ましい。こうであれば、ゲル化物に含まれている水を溶媒と容易に置換することができる。
【0020】
第6の局面の発明によれば、粉砕工程における有機湿潤ゲル化物の粉砕はメディアを用いた粉砕方法て行うこととした。
本発明者らの試験結果によれば、メディアを用いて有機湿潤ゲル化物の粉砕を行えば、メディアの径や粉砕時間等の粉砕条件を適宜選択することによって、カーボンエアロゲルの粒子径を制御し、細孔構造を保持することができる。このため、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲルを得ることができる。
なお、メディアを用いて粉砕工程を行う前に、前もってメディアを用いない他の粉砕方法(例えば、ホモジナイザーやメディアを用いない回転式粉砕機による粉砕方法等)を行うことももちろん可能である。粉砕工程の最終段階でメディアを用いて粉砕工程を行えば、カーボンエアロゲルの粒子径を制御し、細孔構造を保持することはできるからである。
また、メディアの材料について特に限定はなく、安定化ジルコニア、アルミナ、メノウ、石英等を用いることができる。メディアの微粉末がカーボンエアロゲル粉末の中に不純物として入るおそれもあるため、カーボンエアロゲル粉末の用途に応じて、悪影響を与えることのないメディア材料を適宜選択することが好ましい。
【0021】
第7の局面の発明によれば、メディアの径を5mm以下とした。
本発明者らの試験結果によれば、メディアの径を5mm以下とすれば、粒子径が小さいゲル粉末を得ることができ、その細孔構造も破壊されにくい。このため、最終的に得られるカーボンエアロゲル粉末の粒子径も小さく、かつ有機湿潤ゲル化物の細孔構造が保たれたものとすることができる。さらに好ましいのは、0.65mm以下の径のメディアである。
【0022】
第8の局面の発明によれば、粉砕工程は少なくともメディアの径及び粉砕時間を制御して行うこととした。
本発明者らの試験結果によれば、本発明で得られるカーボンエアロゲル粉末の粒子径及び細孔分布は、メディアの径及び粉砕時間と密接に関係することが見出されている。このため、メディアの径及び粉砕時間を制御して粉砕工程を行えば、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲルを再現性良く得ることができる。
【0023】
第9の局面の発明によれば、マイクロポーラス層の細孔径は2〜30nmであることとした。細孔径が2〜30nmであれば、水がマイクロポーラス層を通過する場合に必要とされる水圧ΔPはきわめて大きくなり、マイクロポーラス層の水の通過が極めて困難となり、膜−電極接合体の乾燥を確実に防止することができる。
【0024】
第10の局面の発明によれば、マイクロポーラス層はカーボンエアロゲル粉末を5〜95重量%含有することとした。カーボンエアロゲル粉末の含有量が5%未満ではマイクロポーラス層の導電性が低下して、燃料電池の内部抵抗が上昇し、発熱による無駄なエネルギーを消費することとなる。また、カーボンエアロゲル粉末を95重量%以上とすると、撥水性樹脂のバインダーとしての役割が不十分となり、マイクロポーラス層の形成が困難となる。
【0025】
第11の局面の発明によれば、マイクロポーラス層は撥水性樹脂を5〜95重量%含有することとした。
撥水性樹脂の含有量が5%未満では撥水性樹脂のバインダーとしての役割が不十分となり、マイクロポーラス層の形成が困難となる。また、撥水性樹脂が95重量%以上とすると、カーボンエアロゲル粉末の含有量が5%未満となり、マイクロポーラス層の導電性が低下して、燃料電池の内部抵抗が上昇し、無駄なエネルギーを消費することとなる。
【0026】
本発明の燃料電池用拡散層に反応層を設け、固体高分子電解質膜を挟持させることによって、膜−電極接合体を得ることができる。さらに、この膜−電極接合体の両側にガス流路を設け、それらのガス流路に燃料ガスを供給する手段及び酸化ガスを供給する手段を設けることにより、燃料電池とすることができる。こうして構成された燃料電池は、上述したように、高度に乾燥し難い膜−電極接合体を有するため、加湿器や冷却装置やメタノール改質器がなくても良好なエネルギー効率で発電することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の拡散層1は、ガス拡散が可能なカーボン製の織物やカーボン製の紙等からなる拡散層基材10の両面に、カーボンエアロゲル粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを含む多孔性のマイクロポーラス層11a、11bが形成されており、さらにその一面側に白金触媒が担持されたカーボンとナフィオン(登録商標)とを含有する反応層12が形成されている。この拡散層1は、以下に示す方法によって製造した。
【0028】
<カーボンエアロゲル粉末の調製>
マイクロポーラス層11a、11bに含まれるカーボンエアロゲル粉末は、図2に示す工程図に従い、以下のようにして調製した。
・重合工程S1
重合工程S1としてレゾルシノール4gとホルムアルデヒド37%水溶液5.5mlと炭酸ナトリウム99.5%粉末0.019gとを混合し、3時間撹拌を行った後、室温−24h、50°C−24h、90°C−72hエージングする事によりゲル化物を得た。
【0029】
・粉砕工程S2
上記のゲル化物をイオン交換水でデカンテーションした後、水の存在下、2時間の粉砕を行いゲル粉末スラリーとした。
【0030】
・溶媒置換工程S3
そして、溶媒置換工程S3として、上記ゲル粉末スラリーを吸引ろ過法によりアセトンで5回洗浄した後、スラリーをケーキ層型とした。
【0031】
・超臨界乾燥工程S4
さらに、超臨界乾燥工程S4として、溶媒置換されたゲル粉末をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行いゲル乾燥粉末を得た。
【0032】
・熱分解工程S5
最後に、熱分解工程S5として、上記ゲル乾燥粉末を電気炉内に入れ、窒素雰囲気下、1000°Cにて4時間の加熱を行った後、冷却してカーボンエアロゲル粉末を得た。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 629m2/g
細孔容積: 2.00cm3/g
【0033】
・マイクロポーラス層形成工程S6
ポリテトラフルオロエチレンの微粉末を上記カーボンエアロゲル粉末に対して35重量部%となるように混合し、界面活性剤を添加した水を加えて分散液とする。この分散液を吸引ろ過し、プレス機で圧着して自立膜とし、さらに不活性ガス中で300°Cで2時間加熱溶着させる。そして、平織りのカーボンクロスを用意し、上記の溶着した自立膜2枚で挟んで345°Cで熱圧着させて一体化する。
次に、市販の白金担持カーボン(白金含有量60wt%)1gに、ナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)2g〜200gを加え、ハイブリッドミキサーで撹拌し、触媒ペーストとし、上記の方法によって一体化した膜の表面にPt担持量が0.01〜2mg/cm2となるように印刷して、乾燥する。こうして実施例1の拡散層1を得た。
なお、拡散層の上に印刷して反応層を形成する替わりに、ポリテトラフルオロエチレン製のシート上に上記触媒ペーストで印刷し、乾燥後、剥離させて自立した反応層膜を作製し、これを拡散層と熱圧着させて反応層を形成してもよい。
【0034】
<燃料電池単層セルの作製>
上記のようにして調製した拡散層1を用いて、図3に示す燃料電池単層セルを作成した。すなわち、拡散層1を2枚用意し、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜13の両側に反応層12側を挟み、ホットプレスによって圧着する。さらに、その外側に酸素及び水素のガス供給路となるセパレータ14a、14bを図示しない取付治具により圧接する。こうして、燃料電池単層セル20を作製し、さらに、この燃料電池単層セル20を積層させることにより、燃料電池スタックが完成する。
【0035】
(比較例1)
比較例1では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、実施例1における粉砕工程S2を行わず、熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルを遊星回転ボールミルによって公転300rpm、自転300rpmで2時間粉砕を行って得られたカーボン粉末を用いた。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 105m2/g
細孔容積: 0.25cm3/g
その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0036】
(比較例2)
比較例2では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.15μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0037】
(比較例3)
比較例3では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.07μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0038】
(比較例4)
比較例4では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.015μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0039】
(比較例5)
比較例5では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.15μmのカーボンブラックを用い、平織りのカーボンクロスの片面のみにマイクロポーラス層を形成した。そして、マイクロポーラス層側がナフィオン(登録商標)膜に密着するようにして両側から挟んだ。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0040】
図4に実施例1、比較例2及び比較例5に用いたマイクロポーラス層の細孔分布曲線(窒素吸着測定法による)を示す。また、図5に比較例2〜5で用いたマイクロポーラス層の細孔分布曲線(水銀ポロシメータ法による)を示す。
【0041】
<評 価>
上記実施例1及び比較例1〜5の燃料電池単層セルについて、無加湿条件下、セル温度を60°Cとし、導入空気の露点とセル電圧との関係を調べた。電流を2Aとした場合の測定結果を図6に、電流を6Aとした場合の測定結果を図7に示す。図6及び図7から、実施例1の燃料電池単層セルでは、無加湿条件下であるにもかかわらず、高いセル電圧を示した。これに対し、比較例1の燃料電池単層セルでは、実施例1と同様、カーボンエアロゲル粉末を用いているにもかかわらず、セル電圧が低く、特に電流が6Aと大きい場合や、導入空気の露点が低い場合に、セル電圧の低下が特に著しかった。これは、カーボンエアロゲル粉末の製造方法の違いに起因するものであり、後述するように、実施例1のカーボンエアロゲル粉末は粉砕工程S2において細孔が保持されているのに対し、比較例1では細孔が破壊されており、マイクロポーラス層におけるガスの通過が困難になったためであると考えられる。また、比較例2〜5についても、実施例1よりセル電圧が低く、その中でも細孔径が大きいものほど低かった。これは、細孔径が大きいと、液体としての水がマイクロポーラス層を移動し易くなり、ガス流路側に水が持ち去られて膜−電極接合体が乾燥しやすくなるためであると考えられる。また、比較例5ではセル電圧が低く、6Aでの測定では、セル電圧が0となった。これは、比較例5の拡散層のガス流路側にマイクロポーラス層が形成されておらず、カーボンクロスが剥き出しとなっているため、カーボンクロスに含まれている水がガス流路を流れる空気中に蒸発し、迅速に持ち去られたためである。
【0042】
<製造条件の違いによるカーボンエアロゲル粉末の特性の変化>
カーボンエアロゲル粉末の製造条件を変えて、その特性の変化を調べた。
(試験例1)
試験例1では、粉砕工程S2における粉砕時間を4時間とした。他の条件は実施例1と同じであり、説明を省略する。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 632m2/g
細孔容積: 1.83cm3/g
【0043】
(試験例2)
試験例2では、実施例1における粉砕工程S2を行わず、熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルを測定試料とした。他の条件は実施例1と同じであり、説明を省略する。得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 670m2/g
細孔容積: 2.17cm3/g
【0044】
<評 価>
上記実施例1及び試験例2のカーボンエアロゲルについて、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図8に示すように、実施例1のカーボンエアロゲルは、まったく粉砕を行っていない試験例2と比較しても、細孔分布についてほとんど差はなく、細孔構造が壊れることなく保たれていることが分かった。
【0045】
これに対し、比較例1では、図9に示すように、細孔が減少しており、細孔構造がほとんど破壊されていることが分かる。
【0046】
また、実施例1及び試験例1における、超臨界乾燥を行った直後のゲル乾燥粉末及び熱分解直後のカーボンエアロゲルの粒度分布を測定した。その結果、図10及び図11に示すように、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの粒度分布を制御できることが分かった。また、ゲル粉末スラリーとカーボンエアロゲル粉末とは、ほとんど同じ粒度分布を示すことが分かった。
【0047】
さらに、実施例1及び試験例1のカーボンエアロゲル粉末について、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図12に示すように、実施例1と試験例1とでは、細孔分布に差ができ、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの細孔分布を制御できることがさらに確かめられた。
【0048】
(試験例4〜試験例15)
試験例4〜試験例15では、ゲル化物の粉砕条件と、得られたカーボンエアロゲル粉末の特性との関係を検討した。粉砕工程は図13に示すように3段階で行った。すなわち、まず第1粉砕工程として、実施例1における重合工程S1で得られたゲル化物をホモジナイザーによって粉砕する(回転数2000rpm、粉砕時間15分)。次に第2粉砕工程として、遊星回転ボールミルの容器内に第1粉砕工程で得られた粉砕物を入れ、さらに5mm径の安定化ジルコニア製のメディアを入れて粉砕を行う(公転255rpm、自転550rpm、粉砕時間2時間)。そして、さらに第3粉砕工程として、各種の径の安定化ジルコニア製メディアを用い、遊星回転ボールミルによる粉砕を行いゲル粉末スラリーを得た。第3粉砕工程における試験例4〜試験例15の粉砕条件を表1に示す。こうして第1〜第3粉砕工程を行った後、実施例1及び試験例1と同様の溶媒置換工程S2、超臨界乾燥工程S3及び熱分解工程S4を行い、カーボンエアロゲル粉末を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
(メディア径と任意粒子径の関係)
第3粉砕工程で得られた試験例4〜試験例15に係るゲル粉末スラリーについて、レーザー回折・散乱方式による粒度分布測定を行った。結果を図14に示す。この図から、第3粉砕工程で用いたメディアの径を小さくすると、任意%粒子径が小さくなることが分かった。また、第3粉砕工程の粉砕時間を長くすると、任意%粒子径が小さくなることが分かった。以上の結果から、粉砕時間及びメディアの径を制御することにより、目的に応じた所望の粒子径のカーボンエアロゲル粉末を得られることが分かった。
【0051】
(メディア径と全細孔容積及びBET比表面積との関係)
試験例4〜実施例15で得られたカーボンエアロゲル粉末について、窒素吸着法によって全細孔容積及びBET比表面積を測定した(図15)。その結果、第3粉砕工程の違いによる差異はあまり生じなかった。
【0052】
(ゲル粉末スラリーの平均粒子径と細孔容積分率との関係)
試験例4〜実施例15で得られたゲル粉末スラリーについて、その平均粒子径と10〜30nmの細孔容積分率(窒素吸着等温線の脱着側から求めたメソ細孔容積に対する10〜30nmの細孔容積の割合)をプロットした。その結果、図16及び図17に示すように、ゲル粉末スラリーの平均粒子径が1μm未満で細孔容積分率が急激に低下することが分かった。このことから、ゲル粉末スラリーの粒子径が1μm未満とならないように粉砕条件を適宜制御すれば、細孔構造にダメージを与え難くなることが分かる。また、図16から、第3粉砕工程における粉砕時間に応じて細孔容積分率が減少することが分かる。さらに、図17から、メディアの径が5mm以下であれば、粉砕時間を調整することによって細孔容積を保持することができることが分かる。また、メディアの径が0.65mm以下であれば、さらに細孔容積を保持しやすいことが分かる。
【0053】
(ゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係)
試験例4〜実施例15における第3粉砕工程で用いたメディアの径と、得られたカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率をプロットした結果を図18に示す。この図から、メディアの径が5mm以下では細孔容積分率がそれほど変化せず、細孔構造が保持されやすいことが分かる。また、メディアの径が0.3mm及び0.65mmの場合には、特によく細孔容積分率が保持されることが分かる。
【0054】
上記の結果を総合すれば、カーボンエアロゲル粉末の粒子径及び細孔分布は、メディアの径及び粉砕時間と密接に関係していることが分かる。そして、メディアの径及び粉砕時間を制御して粉砕工程を行えば、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲル粉末を再現性良く得ることができることが分かる。
【0055】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の燃料電池用拡散層の模式断面図である。
【図2】実施例1で用いたカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【図3】実施例1の燃料電池スタックの模式断面図である。
【図4】実施例1及び比較例2、4の細孔分布を示すグラフである。
【図5】比較例2、3、4及び5の細孔分布を示すグラフである。
【図6】電流を2Aとした場合の導入空気の露点とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図7】電流を6Aとした場合の導入空気の露点とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1及び試験例2の細孔分布を示すグラフである。
【図9】試験例2及び試験例3の細孔分布を示すグラフである。
【図10】実施例1及び試験例1における、粉砕工程S2を行った後のゲル粉末スラリーの粒度分布を示すグラフである。
【図11】実施例1及び試験例1における、超臨界乾燥を行った後、熱分解したカーボンエアロゲル粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図12】実施例1及び試験例1のカーボンエアロゲル粉末の細孔分布を示すグラフである。
【図13】試験例4〜15における粉砕工程の工程図である。
【図14】試験例4〜15におけるメディア径とゲル粉末スラリーの任意%粒子径との関係を示すグラフである。
【図15】試験例4〜15におけるメディア径とカーボンエアロゲル粉末の全細孔容積及びBET比表面積との関係を示すグラフである。
【図16】試験例4〜15における各粉砕時間におけるゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図17】試験例4〜15における各メディア径におけるゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図18】試験例4〜15における各粉砕時間におけるメディア径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図19】従来のカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0057】
10…拡散層基材
11a、11b…マイクロポーラス層
1…燃料電池用拡散層
S1…重合工程
S2…粉砕工程
S3…溶媒置換工程
S4…超臨界乾燥工程
S5…熱分解工程
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用拡散層及びその製造方法、膜−電極接合体並びに燃料電池に関し、固体高分子燃料電池に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質からなる膜が触媒層で挟まれ、さらにその触媒層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体を備えている。触媒層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製)、以下同じ)等の高分子固体電解質が混合されている。そして、膜−電極接合体の両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されたスタックが形成されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では以下の電気化学反応が行われる。
アノード側:H2 → 2H++2e−
カソード側:1/2O2+2H++2e− → H2O
全反応 :H2+1/2O2 → H2O
すなわち、水素がアノード側のセパレータのガス流路に供給され、拡散層を通って触媒層に供給される。そして、触媒層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、オキソニウムイオンの形態で水を引き連れながら触媒層および高分子固体電解質内を移動し、カソード側に達する。
一方、カソード側に供給された酸素は、オキソニウムイオンと結合し、水が生成する。
【0004】
以上のように、固体高分子型燃料電池では、アノード側からカソード側に向かって水が移動するため、アノード側では膜−電極接合体が乾燥しやすくなり、燃料電池の内部抵抗が大きくなり、燃料電池の出力の低下原因となる。一方、カソード側ではアノード側から水が供給されるが、燃料電池自体の発熱によって水の蒸気圧は高くなっており、セパレータのガス流路を流れる酸化ガスによって蒸発した水が多量に持ち去られるため、カソード側においても膜−電極接合体が乾燥状態になることがある。
【0005】
膜−電極接合体を構成する固体高分子電解質膜が乾燥した場合には、プロトン導電性が低下し、燃料電池の内部抵抗が大きくなる。また、電極反応には水が必要とされるため、反応層が乾燥した場合には、電極反応が困難となる。このため、膜−電極接合体を冷却して水の蒸気圧を小さくしたり、反応ガスを加湿したりして、膜−電極接合体の乾燥を防ぐことが行われている。しかし、このためには冷却装置や加湿装置が必要となるため、構造が複雑化、大型化し、製造コストも高騰化するという問題があった。また、燃料電池によって発電された電力の一部で冷却装置や加湿装置を作動させるため、エネルギー効率が悪くなるという問題もあった。
【0006】
この点、空冷式無加湿の固体高分子型燃料電池であれば、酸化ガスとして供給する空気で冷却も行うため、冷却装置が不要となる。しかし、空冷式の固体高分子型燃料電池では、酸化ガスの流量を大きくすることによって膜−電極接合体を冷却するため、酸化ガスによって持ち去られる水の量が増加し、膜−電極接合体が乾燥状態となりやすい。
【0007】
また、固体高分子型燃料電池における膜−電極接合体の乾燥を防止する方法として、拡散層の反応層と接する側又は拡散層の両面に導電性の撥水層を設けることも提案されている(特許文献1)。この導電性撥水層付き拡散層を用いた燃料電池では、反応層に存在する水が導電性撥水層によってはじかれて通過が困難となるため、乾燥し難く、酸化ガスを加湿しなくても、発電効率がそれほど低下しないとされている。
【0008】
一方、本発明に関連する背景技術として、ジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとの重合物を出発物質として製造されるカーボンエアロゲルが知られている(特許文献2)。このカーボンエアロゲルは、図19に示す工程によって製造される。すなわち、まず重合工程S91として、レゾルシノールやカテコール等のジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを炭酸ナトリウムの存在下で重合して有機湿潤ゲル化物を得る。次に、溶媒置換工程S92として、ゲル化物をメタノールやアセトン等の水溶性有機溶媒で洗浄し、ゲル化物に含まれている水分を水溶性溶媒と溶媒置換する。さらに、超臨界乾燥工程S93として、溶媒置換されたゲル化物をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行う。こうして乾燥したゲル化物は、網目構造を形成している一次粒子の粒子径が0.1μm以下の粒子からなり、嵩密度も100mg/mlと極めて小さくなっている。これは、超臨界乾燥では通常の乾燥と異なり、毛管力による収縮を伴わずに乾燥するため、重合工程S1におけるホルムアルデヒドによる架橋によって形成された細孔構造が、破壊されることなくそのままの状態で残るからと考えられる。そして、熱分解工程S94として、上記の乾燥されたゲル化物を窒素雰囲気下で高温にして炭化物の塊を得る。こうして得られた炭化物は、炭化する前の細孔構造が保たれている。最後に、粉砕工程S95として上記炭化物の塊を粉砕機で粉砕し、カーボンエアロゲル粉末を得る。
【0009】
こうして得られた、カーボンエアロゲル粉末は、粒子径を極めて小さくすることができるため、高分子電解質型燃料電池における電極として使用した場合、電極の厚さを薄くすることができる。また、乾燥したゲル化物の熱分解によって得られた炭化物は細孔構造を有しているため、これを粉砕して得られたカーボンエアロゲルも優れたガス透過性を有することが期待される。このため、カーボンエアロゲルを高分子電解質型燃料電池の電極として用いることも提案されている(特許文献3)。
【0010】
さらには、カーボンエアロゲル粉末の製造方法として、重合工程S91で得られた有機湿潤ゲル化物を粉砕してから乾燥することを特徴とするカーボンエアロゲル粉末の製造法に関する技術も知られている(特許文献4)。この方法で製造されたカーボンエアロゲル粉末は、カーボンエアロゲルの細孔分布が保たれているという特性を有している。
【特許文献1】特開平9−245800号公報
【特許文献2】U.S.patent No.4873218 claim14、15
【特許文献3】特表平11−503267号公報
【特許文献4】特開2006−265091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載の燃料電池は、加湿器を必要としないとされているが、それにはメタノール改質器を備えていることが要件とされている。メタノール改質器から得られる水素には多量の水蒸気が含まれているため、たとえ反応ガスを加湿器で加湿しなかったとしても、水素と一緒に供給される水蒸気によって膜−電極接合体に水が供給される。
【0012】
しかし、メタノール改質器を備えるためには、やはり装置が複雑化、大型化し、製造コストも高騰化することとなる。このため、加湿器や冷却装置やメタノール改質器がなくても駆動可能な、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる拡散層が求められていた。
【0013】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる燃料電池用拡散層、膜−電極接合体、及びそれを用いた燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層において、カーボンエアロゲルの細孔構造がそのまま保たれたカーボンエアロゲル粉末(特許文献4参照)を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の局面の燃料電池用拡散層は、
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層であって、
前記カーボンは、
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする。
【0016】
かかるカーボンエアロゲル粉末は、有機湿潤ゲル化物を粉砕工程において粉砕してから溶媒置換される。このため、ゲル化物の細孔に水が含まれた状態で粉砕されることとなり、乾燥状態での粉砕に比べて、水のクッション効果によって細孔が保護され、破壊され難くなる。このため、こうして得られたカーボンエアロゲル粉末は、ゲル化物の細孔構造を反映した細孔構造が保たれており、優れたガス透過性を有する。このため、拡散層基材の両面に、このカーボンエアロゲル粉末と撥水性樹脂とを混合して多孔性のマイクロポーラス層を形成して燃料電池用拡散層とした場合、マイクロポーラス層は優れたガス透過性を有する。
その一方、このマイクロポーラス層は、以下に示す理由から、水が透過し難いものとなる。すなわち、水がマイクロポーラス層を通過する場合に必要とされる水圧ΔPは、次式(1)で示される。
【数1】
カーボンエアロゲル粉末は極めて小さな孔径を有するため、マイクロポーラス層の孔径も小さくなり、水圧ΔPはきわめて大きくなる。このため、本発明の燃料電池用拡散層の両面に形成されたマイクロポーラス層は、水が透過し難く、ガスはすみやかに透過することができる。したがって、本発明の燃料電池用拡散層は、膜−電極接合体の乾燥を高度に防ぐことができる。
【0017】
第2の局面の発明によれば、有機湿潤ゲル化物をポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られるものとした。
ここに、ポリヒドロキシベンゼンとは、ベンゼン環に2個以上の水酸基を有する化合物を意味する。このような化合物は、ホルムアルデヒドと容易に重合して網目状の構造をとり、細孔構造を形成することができる。
【0018】
第3の局面の発明によれば、ポリヒドロキシベンゼンとしてジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体を採用する。
ポリヒドロキシベンゼンの中でもジヒドロキシベンゼンやジヒドロキシベンゼン誘導体は、比較的安定な化合物であるため、取り扱いやすく好適である。
ジヒドロキシベンゼンとして特に好適なのはレゾルシノールである。よって、第4の局面の発明として、ジヒドロキシベンゼンとしてレゾルシノールを採用した。
【0019】
第5の局面の発明によれば、溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒を採用した。
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることが好ましい。こうであれば、ゲル化物に含まれている水を溶媒と容易に置換することができる。
【0020】
第6の局面の発明によれば、粉砕工程における有機湿潤ゲル化物の粉砕はメディアを用いた粉砕方法て行うこととした。
本発明者らの試験結果によれば、メディアを用いて有機湿潤ゲル化物の粉砕を行えば、メディアの径や粉砕時間等の粉砕条件を適宜選択することによって、カーボンエアロゲルの粒子径を制御し、細孔構造を保持することができる。このため、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲルを得ることができる。
なお、メディアを用いて粉砕工程を行う前に、前もってメディアを用いない他の粉砕方法(例えば、ホモジナイザーやメディアを用いない回転式粉砕機による粉砕方法等)を行うことももちろん可能である。粉砕工程の最終段階でメディアを用いて粉砕工程を行えば、カーボンエアロゲルの粒子径を制御し、細孔構造を保持することはできるからである。
また、メディアの材料について特に限定はなく、安定化ジルコニア、アルミナ、メノウ、石英等を用いることができる。メディアの微粉末がカーボンエアロゲル粉末の中に不純物として入るおそれもあるため、カーボンエアロゲル粉末の用途に応じて、悪影響を与えることのないメディア材料を適宜選択することが好ましい。
【0021】
第7の局面の発明によれば、メディアの径を5mm以下とした。
本発明者らの試験結果によれば、メディアの径を5mm以下とすれば、粒子径が小さいゲル粉末を得ることができ、その細孔構造も破壊されにくい。このため、最終的に得られるカーボンエアロゲル粉末の粒子径も小さく、かつ有機湿潤ゲル化物の細孔構造が保たれたものとすることができる。さらに好ましいのは、0.65mm以下の径のメディアである。
【0022】
第8の局面の発明によれば、粉砕工程は少なくともメディアの径及び粉砕時間を制御して行うこととした。
本発明者らの試験結果によれば、本発明で得られるカーボンエアロゲル粉末の粒子径及び細孔分布は、メディアの径及び粉砕時間と密接に関係することが見出されている。このため、メディアの径及び粉砕時間を制御して粉砕工程を行えば、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲルを再現性良く得ることができる。
【0023】
第9の局面の発明によれば、マイクロポーラス層の細孔径は2〜30nmであることとした。細孔径が2〜30nmであれば、水がマイクロポーラス層を通過する場合に必要とされる水圧ΔPはきわめて大きくなり、マイクロポーラス層の水の通過が極めて困難となり、膜−電極接合体の乾燥を確実に防止することができる。
【0024】
第10の局面の発明によれば、マイクロポーラス層はカーボンエアロゲル粉末を5〜95重量%含有することとした。カーボンエアロゲル粉末の含有量が5%未満ではマイクロポーラス層の導電性が低下して、燃料電池の内部抵抗が上昇し、発熱による無駄なエネルギーを消費することとなる。また、カーボンエアロゲル粉末を95重量%以上とすると、撥水性樹脂のバインダーとしての役割が不十分となり、マイクロポーラス層の形成が困難となる。
【0025】
第11の局面の発明によれば、マイクロポーラス層は撥水性樹脂を5〜95重量%含有することとした。
撥水性樹脂の含有量が5%未満では撥水性樹脂のバインダーとしての役割が不十分となり、マイクロポーラス層の形成が困難となる。また、撥水性樹脂が95重量%以上とすると、カーボンエアロゲル粉末の含有量が5%未満となり、マイクロポーラス層の導電性が低下して、燃料電池の内部抵抗が上昇し、無駄なエネルギーを消費することとなる。
【0026】
本発明の燃料電池用拡散層に反応層を設け、固体高分子電解質膜を挟持させることによって、膜−電極接合体を得ることができる。さらに、この膜−電極接合体の両側にガス流路を設け、それらのガス流路に燃料ガスを供給する手段及び酸化ガスを供給する手段を設けることにより、燃料電池とすることができる。こうして構成された燃料電池は、上述したように、高度に乾燥し難い膜−電極接合体を有するため、加湿器や冷却装置やメタノール改質器がなくても良好なエネルギー効率で発電することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の拡散層1は、ガス拡散が可能なカーボン製の織物やカーボン製の紙等からなる拡散層基材10の両面に、カーボンエアロゲル粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを含む多孔性のマイクロポーラス層11a、11bが形成されており、さらにその一面側に白金触媒が担持されたカーボンとナフィオン(登録商標)とを含有する反応層12が形成されている。この拡散層1は、以下に示す方法によって製造した。
【0028】
<カーボンエアロゲル粉末の調製>
マイクロポーラス層11a、11bに含まれるカーボンエアロゲル粉末は、図2に示す工程図に従い、以下のようにして調製した。
・重合工程S1
重合工程S1としてレゾルシノール4gとホルムアルデヒド37%水溶液5.5mlと炭酸ナトリウム99.5%粉末0.019gとを混合し、3時間撹拌を行った後、室温−24h、50°C−24h、90°C−72hエージングする事によりゲル化物を得た。
【0029】
・粉砕工程S2
上記のゲル化物をイオン交換水でデカンテーションした後、水の存在下、2時間の粉砕を行いゲル粉末スラリーとした。
【0030】
・溶媒置換工程S3
そして、溶媒置換工程S3として、上記ゲル粉末スラリーを吸引ろ過法によりアセトンで5回洗浄した後、スラリーをケーキ層型とした。
【0031】
・超臨界乾燥工程S4
さらに、超臨界乾燥工程S4として、溶媒置換されたゲル粉末をステンレス製の圧力容器に入れ、CO2を導入し、超臨界状態となるよう圧力と温度を調節し、その後ゆっくりとCO2を排出させることによって、CO2を気相条件へ移行させて超臨界乾燥を行いゲル乾燥粉末を得た。
【0032】
・熱分解工程S5
最後に、熱分解工程S5として、上記ゲル乾燥粉末を電気炉内に入れ、窒素雰囲気下、1000°Cにて4時間の加熱を行った後、冷却してカーボンエアロゲル粉末を得た。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 629m2/g
細孔容積: 2.00cm3/g
【0033】
・マイクロポーラス層形成工程S6
ポリテトラフルオロエチレンの微粉末を上記カーボンエアロゲル粉末に対して35重量部%となるように混合し、界面活性剤を添加した水を加えて分散液とする。この分散液を吸引ろ過し、プレス機で圧着して自立膜とし、さらに不活性ガス中で300°Cで2時間加熱溶着させる。そして、平織りのカーボンクロスを用意し、上記の溶着した自立膜2枚で挟んで345°Cで熱圧着させて一体化する。
次に、市販の白金担持カーボン(白金含有量60wt%)1gに、ナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)2g〜200gを加え、ハイブリッドミキサーで撹拌し、触媒ペーストとし、上記の方法によって一体化した膜の表面にPt担持量が0.01〜2mg/cm2となるように印刷して、乾燥する。こうして実施例1の拡散層1を得た。
なお、拡散層の上に印刷して反応層を形成する替わりに、ポリテトラフルオロエチレン製のシート上に上記触媒ペーストで印刷し、乾燥後、剥離させて自立した反応層膜を作製し、これを拡散層と熱圧着させて反応層を形成してもよい。
【0034】
<燃料電池単層セルの作製>
上記のようにして調製した拡散層1を用いて、図3に示す燃料電池単層セルを作成した。すなわち、拡散層1を2枚用意し、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜13の両側に反応層12側を挟み、ホットプレスによって圧着する。さらに、その外側に酸素及び水素のガス供給路となるセパレータ14a、14bを図示しない取付治具により圧接する。こうして、燃料電池単層セル20を作製し、さらに、この燃料電池単層セル20を積層させることにより、燃料電池スタックが完成する。
【0035】
(比較例1)
比較例1では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、実施例1における粉砕工程S2を行わず、熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルを遊星回転ボールミルによって公転300rpm、自転300rpmで2時間粉砕を行って得られたカーボン粉末を用いた。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 105m2/g
細孔容積: 0.25cm3/g
その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0036】
(比較例2)
比較例2では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.15μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0037】
(比較例3)
比較例3では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.07μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0038】
(比較例4)
比較例4では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.015μmのカーボンブラックを用いた。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0039】
(比較例5)
比較例5では、マイクロポーラス層に用いるカーボンとして、細孔径0.15μmのカーボンブラックを用い、平織りのカーボンクロスの片面のみにマイクロポーラス層を形成した。そして、マイクロポーラス層側がナフィオン(登録商標)膜に密着するようにして両側から挟んだ。その他については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0040】
図4に実施例1、比較例2及び比較例5に用いたマイクロポーラス層の細孔分布曲線(窒素吸着測定法による)を示す。また、図5に比較例2〜5で用いたマイクロポーラス層の細孔分布曲線(水銀ポロシメータ法による)を示す。
【0041】
<評 価>
上記実施例1及び比較例1〜5の燃料電池単層セルについて、無加湿条件下、セル温度を60°Cとし、導入空気の露点とセル電圧との関係を調べた。電流を2Aとした場合の測定結果を図6に、電流を6Aとした場合の測定結果を図7に示す。図6及び図7から、実施例1の燃料電池単層セルでは、無加湿条件下であるにもかかわらず、高いセル電圧を示した。これに対し、比較例1の燃料電池単層セルでは、実施例1と同様、カーボンエアロゲル粉末を用いているにもかかわらず、セル電圧が低く、特に電流が6Aと大きい場合や、導入空気の露点が低い場合に、セル電圧の低下が特に著しかった。これは、カーボンエアロゲル粉末の製造方法の違いに起因するものであり、後述するように、実施例1のカーボンエアロゲル粉末は粉砕工程S2において細孔が保持されているのに対し、比較例1では細孔が破壊されており、マイクロポーラス層におけるガスの通過が困難になったためであると考えられる。また、比較例2〜5についても、実施例1よりセル電圧が低く、その中でも細孔径が大きいものほど低かった。これは、細孔径が大きいと、液体としての水がマイクロポーラス層を移動し易くなり、ガス流路側に水が持ち去られて膜−電極接合体が乾燥しやすくなるためであると考えられる。また、比較例5ではセル電圧が低く、6Aでの測定では、セル電圧が0となった。これは、比較例5の拡散層のガス流路側にマイクロポーラス層が形成されておらず、カーボンクロスが剥き出しとなっているため、カーボンクロスに含まれている水がガス流路を流れる空気中に蒸発し、迅速に持ち去られたためである。
【0042】
<製造条件の違いによるカーボンエアロゲル粉末の特性の変化>
カーボンエアロゲル粉末の製造条件を変えて、その特性の変化を調べた。
(試験例1)
試験例1では、粉砕工程S2における粉砕時間を4時間とした。他の条件は実施例1と同じであり、説明を省略する。
得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 632m2/g
細孔容積: 1.83cm3/g
【0043】
(試験例2)
試験例2では、実施例1における粉砕工程S2を行わず、熱分解工程S5を行った後、得られた塊状のカーボンエアロゲルを測定試料とした。他の条件は実施例1と同じであり、説明を省略する。得られたカーボンエアロゲル粉末の特性は次の通りである。
BET比表面積: 670m2/g
細孔容積: 2.17cm3/g
【0044】
<評 価>
上記実施例1及び試験例2のカーボンエアロゲルについて、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図8に示すように、実施例1のカーボンエアロゲルは、まったく粉砕を行っていない試験例2と比較しても、細孔分布についてほとんど差はなく、細孔構造が壊れることなく保たれていることが分かった。
【0045】
これに対し、比較例1では、図9に示すように、細孔が減少しており、細孔構造がほとんど破壊されていることが分かる。
【0046】
また、実施例1及び試験例1における、超臨界乾燥を行った直後のゲル乾燥粉末及び熱分解直後のカーボンエアロゲルの粒度分布を測定した。その結果、図10及び図11に示すように、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの粒度分布を制御できることが分かった。また、ゲル粉末スラリーとカーボンエアロゲル粉末とは、ほとんど同じ粒度分布を示すことが分かった。
【0047】
さらに、実施例1及び試験例1のカーボンエアロゲル粉末について、BET吸着法により細孔分布を測定した。その結果、図12に示すように、実施例1と試験例1とでは、細孔分布に差ができ、粉砕工程S2における粉砕時間を制御することによって、カーボンエアロゲルの細孔分布を制御できることがさらに確かめられた。
【0048】
(試験例4〜試験例15)
試験例4〜試験例15では、ゲル化物の粉砕条件と、得られたカーボンエアロゲル粉末の特性との関係を検討した。粉砕工程は図13に示すように3段階で行った。すなわち、まず第1粉砕工程として、実施例1における重合工程S1で得られたゲル化物をホモジナイザーによって粉砕する(回転数2000rpm、粉砕時間15分)。次に第2粉砕工程として、遊星回転ボールミルの容器内に第1粉砕工程で得られた粉砕物を入れ、さらに5mm径の安定化ジルコニア製のメディアを入れて粉砕を行う(公転255rpm、自転550rpm、粉砕時間2時間)。そして、さらに第3粉砕工程として、各種の径の安定化ジルコニア製メディアを用い、遊星回転ボールミルによる粉砕を行いゲル粉末スラリーを得た。第3粉砕工程における試験例4〜試験例15の粉砕条件を表1に示す。こうして第1〜第3粉砕工程を行った後、実施例1及び試験例1と同様の溶媒置換工程S2、超臨界乾燥工程S3及び熱分解工程S4を行い、カーボンエアロゲル粉末を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
(メディア径と任意粒子径の関係)
第3粉砕工程で得られた試験例4〜試験例15に係るゲル粉末スラリーについて、レーザー回折・散乱方式による粒度分布測定を行った。結果を図14に示す。この図から、第3粉砕工程で用いたメディアの径を小さくすると、任意%粒子径が小さくなることが分かった。また、第3粉砕工程の粉砕時間を長くすると、任意%粒子径が小さくなることが分かった。以上の結果から、粉砕時間及びメディアの径を制御することにより、目的に応じた所望の粒子径のカーボンエアロゲル粉末を得られることが分かった。
【0051】
(メディア径と全細孔容積及びBET比表面積との関係)
試験例4〜実施例15で得られたカーボンエアロゲル粉末について、窒素吸着法によって全細孔容積及びBET比表面積を測定した(図15)。その結果、第3粉砕工程の違いによる差異はあまり生じなかった。
【0052】
(ゲル粉末スラリーの平均粒子径と細孔容積分率との関係)
試験例4〜実施例15で得られたゲル粉末スラリーについて、その平均粒子径と10〜30nmの細孔容積分率(窒素吸着等温線の脱着側から求めたメソ細孔容積に対する10〜30nmの細孔容積の割合)をプロットした。その結果、図16及び図17に示すように、ゲル粉末スラリーの平均粒子径が1μm未満で細孔容積分率が急激に低下することが分かった。このことから、ゲル粉末スラリーの粒子径が1μm未満とならないように粉砕条件を適宜制御すれば、細孔構造にダメージを与え難くなることが分かる。また、図16から、第3粉砕工程における粉砕時間に応じて細孔容積分率が減少することが分かる。さらに、図17から、メディアの径が5mm以下であれば、粉砕時間を調整することによって細孔容積を保持することができることが分かる。また、メディアの径が0.65mm以下であれば、さらに細孔容積を保持しやすいことが分かる。
【0053】
(ゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係)
試験例4〜実施例15における第3粉砕工程で用いたメディアの径と、得られたカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率をプロットした結果を図18に示す。この図から、メディアの径が5mm以下では細孔容積分率がそれほど変化せず、細孔構造が保持されやすいことが分かる。また、メディアの径が0.3mm及び0.65mmの場合には、特によく細孔容積分率が保持されることが分かる。
【0054】
上記の結果を総合すれば、カーボンエアロゲル粉末の粒子径及び細孔分布は、メディアの径及び粉砕時間と密接に関係していることが分かる。そして、メディアの径及び粉砕時間を制御して粉砕工程を行えば、用途に応じた、所望の特性のカーボンエアロゲル粉末を再現性良く得ることができることが分かる。
【0055】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の燃料電池用拡散層の模式断面図である。
【図2】実施例1で用いたカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【図3】実施例1の燃料電池スタックの模式断面図である。
【図4】実施例1及び比較例2、4の細孔分布を示すグラフである。
【図5】比較例2、3、4及び5の細孔分布を示すグラフである。
【図6】電流を2Aとした場合の導入空気の露点とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図7】電流を6Aとした場合の導入空気の露点とセル電圧との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1及び試験例2の細孔分布を示すグラフである。
【図9】試験例2及び試験例3の細孔分布を示すグラフである。
【図10】実施例1及び試験例1における、粉砕工程S2を行った後のゲル粉末スラリーの粒度分布を示すグラフである。
【図11】実施例1及び試験例1における、超臨界乾燥を行った後、熱分解したカーボンエアロゲル粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図12】実施例1及び試験例1のカーボンエアロゲル粉末の細孔分布を示すグラフである。
【図13】試験例4〜15における粉砕工程の工程図である。
【図14】試験例4〜15におけるメディア径とゲル粉末スラリーの任意%粒子径との関係を示すグラフである。
【図15】試験例4〜15におけるメディア径とカーボンエアロゲル粉末の全細孔容積及びBET比表面積との関係を示すグラフである。
【図16】試験例4〜15における各粉砕時間におけるゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図17】試験例4〜15における各メディア径におけるゲル粉末スラリーの平均粒子径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図18】試験例4〜15における各粉砕時間におけるメディア径とカーボンエアロゲル粉末の細孔容積分率との関係を示すグラフである。
【図19】従来のカーボンエアロゲル粉末の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0057】
10…拡散層基材
11a、11b…マイクロポーラス層
1…燃料電池用拡散層
S1…重合工程
S2…粉砕工程
S3…溶媒置換工程
S4…超臨界乾燥工程
S5…熱分解工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層であって、
前記カーボンは、
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする燃料電池用拡散層。
【請求項2】
前記有機湿潤ゲル化物はポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用拡散層。
【請求項3】
ポリヒドロキシベンゼンはジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体であることを特徴とする請求項2記載の燃料電池用拡散層。
【請求項4】
ジヒドロキシベンゼンはレゾルシノールであることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用拡散層。
【請求項5】
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項6】
粉砕工程における有機湿潤ゲル化物の粉砕はメディアを用いて行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項7】
メディアの径は5mm以下であることを特徴とする請求項6記載の燃料電池用拡散層。
【請求項8】
粉砕工程は少なくともメディアの径及び粉砕時間を制御して行うことによりカーボンエアロゲルの細孔を保持することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項9】
マイクロポーラス層の細孔径は2〜30nmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項10】
マイクロポーラス層はカーボンエアロゲル粉末を5〜95重量%含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項11】
マイクロポーラス層は撥水性樹脂を5〜95重量%含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかの燃料電池用拡散層を備えた膜−電極接合体。
【請求項13】
請求項12の膜−電極接合体を備えた燃料電池。
【請求項14】
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程と、
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面に該カーボンエアロゲル粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項1】
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面にカーボンと撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層が形成された燃料電池用拡散層であって、
前記カーボンは、
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程とを経て得られたカーボンエアロゲル粉末であることを特徴とする燃料電池用拡散層。
【請求項2】
前記有機湿潤ゲル化物はポリヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを塩基触媒存在下で重合させて得られることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用拡散層。
【請求項3】
ポリヒドロキシベンゼンはジヒドロキシベンゼン及び/又はジヒドロキシベンゼン誘導体であることを特徴とする請求項2記載の燃料電池用拡散層。
【請求項4】
ジヒドロキシベンゼンはレゾルシノールであることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用拡散層。
【請求項5】
溶媒置換工程において用いる水溶性有機溶媒は、メタノール、アセトン、酢酸アミルの1種又は2種以上の混合溶媒であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項6】
粉砕工程における有機湿潤ゲル化物の粉砕はメディアを用いて行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項7】
メディアの径は5mm以下であることを特徴とする請求項6記載の燃料電池用拡散層。
【請求項8】
粉砕工程は少なくともメディアの径及び粉砕時間を制御して行うことによりカーボンエアロゲルの細孔を保持することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項9】
マイクロポーラス層の細孔径は2〜30nmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項10】
マイクロポーラス層はカーボンエアロゲル粉末を5〜95重量%含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項11】
マイクロポーラス層は撥水性樹脂を5〜95重量%含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の燃料電池用拡散層。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかの燃料電池用拡散層を備えた膜−電極接合体。
【請求項13】
請求項12の膜−電極接合体を備えた燃料電池。
【請求項14】
有機湿潤ゲル化物を得る工程と、
該有機湿潤ゲル化物を粉砕してゲル粉末とする粉砕工程と、
該ゲル粉末を水溶性有機溶媒と接触させて溶媒置換を行う溶媒置換工程と、
溶媒置換された該ゲル粉末を超臨界乾燥してゲル乾燥粉末を得る超臨界乾燥工程と、
該ゲル乾燥粉末を熱分解してカーボンエアロゲル粉末とする熱分解工程と、
導電性及びガス透過性を有する拡散層基材の両面に該カーボンエアロゲル粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−277094(P2008−277094A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118484(P2007−118484)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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