説明

燃料電池用拡散電極を構成する拡散層の製造方法

【課題】混合粉体内に凝集が生じるのを阻止することができ、かつ混合粉体で形成される層に高い剛性を与えることでハンドリングを容易とした、燃料電池用拡散電極を構成する拡散層の製造方法を提供する。
【解決手段】カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第1の粉砕混合装置10内に投入し粉砕混合した後、第1の粉砕混合装置10内にさらにカーボンファイバーを投入して低速で混合し第1の混合粉体とする。第1の粉砕混合装置10を作動させた状態で第1の混合粉体をエアーにより塗工装置30内に送り込み、塗工装置30内にセットした通気性基材(第1のメッシュ材32)の上に第1の混合粉体からなる第1の層を形成する。それを通気性基材から分離した後、分離した第1の層を熱プレスする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体で用いられる拡散電極を構成する拡散層を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子型燃料電池が知られている。固体高分子型燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(−30℃〜120℃程度)、また、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、図7に示すように、膜電極接合体(MEA)50を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータ51、51で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池52を形成している。膜電極接合体50は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜55と、その両面に接合された触媒層56,56と拡散層57,57とからなる拡散電極58,58とで構成される。
【0004】
触媒層56の形成には、一般に、白金のような触媒金属をカーボン粒子材のような導電性材料の表面に担持させた粒子状の触媒物質と電解質樹脂とを、水または有機溶媒系の溶液内で分散させながら混合溶液(触媒物質含有インク)を作り、この混合溶液を固体高分子電解質膜に塗布した後、加熱乾燥して定着することにより行われる。
【0005】
拡散層57は、ガス透過性と電子伝導性を合わせ備えるものであり、一般に、カーボンペーパーまたはカーボンクロスが用いられている。拡散層は発電時に生成する水の排水性を良好にするために高い撥水性を備えることが望ましく、通常、カーボンペーパーまたはカーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性のある樹脂の溶液をコーティングした後、乾燥させる撥水化処理が施される。
【0006】
拡散層あるいは拡散層に相当する部材を、粉体を用いて形成することも知られており、例えば、特許文献1には、カーボン粉末とフッ素樹脂粉末を、ホモジナイザーまたはケミカルカッターにより粉砕し、粉砕したカーボン粉末とフッ素樹脂粉末を、散布機により、エアスプレー方式で電極基材上に交互に散布することにより、積層状の材料堆積層を形成することが記載されている。また、特許文献2には、特別の撥水化処理を施すことなく、高撥水性を備えかつガス拡散性と排水性に優れた燃料電池用の拡散層を得る方法として、超臨界流体中でカーボン粒子と撥水性を有するパウダー状の樹脂材料とを攪拌混合し、基材の上に攪拌混合したカーボン粒子と樹脂材料との混合材料を超臨界流体を除去しながら塗布するようにした製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−1603992号公報
【特許文献2】特開2009−4268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、粉体を用いて拡散層を形成する技術について、継続して実験と研究を行ってきているが、特許文献1に記載のように、カーボン粉末とフッ素樹脂粉末を粉砕し、粉砕したカーボン粉末とフッ素樹脂粉末を電極基材等の上に散布する方法の場合、粉砕装置を停止したときに、散布の途中で粉体同士での凝集が起こりやすく、粒径をコントロールして粉体材料を作っても、基材上には均一な粒径分布の混合粉体層が形成されないことを経験した。また、カーボン粉末とフッ素樹脂粉末からなる混合粉体層は、フッ素樹脂粉末が結着材として機能するためにある程度の剛性(自立性)を備えているものの、十分ではなく、単独でのハンドリングが困難であることから、カーボンペーパーの上に混合粉体層を形成する等の手段を取る必要があった。特許文献2に記載の方法では、超臨界流体を用いることで粉体の凝集による不都合は解消できるが、形成される拡散層の剛性(自立性)の点では、なお解決すべき課題が残されている。
【0009】
本発明は、粉体を用いて拡散層を形成する場合での上記の不都合を解決することを課題としており、より具体的には、混合粉体内に凝集が生じるのを阻止することができ、かつ混合粉体で形成される層に高い剛性を与えることでハンドリングを容易とした、拡散層の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による燃料電池用拡散電極を構成する拡散層を製造する第1の方法は、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第1の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合した後、第1の粉砕混合装置内にさらにカーボンファイバーを投入して混合し第1の混合粉体とする工程と、第1の粉砕混合装置を作動させた状態で第1の混合粉体をエアーにより塗工装置内に送り込み、該塗工装置内にセットした通気性基材の上に前記第1の混合粉体からなる第1の層を形成する工程と、前記第1の層を通気性基材から分離する工程と、分離した第1の層を熱プレスする工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記の製造方法では、第1の粉砕混合装置を作動させた状態で、そこに形成される第1の混合粉体をエアーにより塗工装置内にセットした通気性基材の上に送り込む。そのために、第1の混合粉体内において粉体に凝集が生じるのを効果的に回避することができ、通気性基材上へ均一な流度分布を持つ層を形成することができる。また、第1の混合粉体はカーボンファイバーを含んでいるので、高い剛性が得られる。また、カーボンファイバーは、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを粉砕混合した後に、第1の粉砕混合装置内に投入するようにしており、投入後の第1の粉砕混合装置の回転数等を制御することで、カーボンファイバーが粉体状になるのを確実に回避することができる。さらに、混合されるカーボンファイバーは、形成される拡散層の細孔径を大きくしてガス透過性および保水性を向上させると共に、面方向での強度、電気伝導性および熱伝導性を向上させるのにも寄与する。
【0012】
本発明による燃料電池用拡散電極を構成する拡散層を製造する第2の方法は、上記の各工程に加えて、さらに、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第2の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合して第2の混合粉体とする工程と、第2の粉砕混合装置を作動させた状態で第2の混合粉体をエアーにより前記塗工装置内に送り込み、塗工装置内にセットした通気性基材の上に形成されている前記第1の層の上に、前記第2の混合粉体からなる第2の層を形成する工程と、をさらに有し、前記第1の層と第2の層との積層体を通気性基材から分離する工程と、分離した積層体を熱プレスする工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記第2の方法で製造される拡散層は、カーボンファイバーを含む第1の層と、カーボンファイバーを含まない第2の層とで形成される。この形態の拡散層では、膜へのカーボンファイバーの突き刺し防止、触媒層間の接着性向上等の効果が得られる。さらに、第1の層を形成する時間長と第2の層を形成する時間長を適宜設定することで、第1の層と第2の層のそれぞれの厚さおよび第1の層と第2の層の厚さ比のいずれか一方または双方の異なる拡散層を、容易に製造することができる。
【0014】
本発明による燃料電池用拡散電極を構成する拡散層を製造する第3の方法は、燃料電池用拡散電極を構成する拡散層の製造方法であって、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第1の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合した後、第1の粉砕混合装置内にさらにカーボンファイバーを投入して混合し第1の混合粉体とする工程と、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第2の粉砕混合装置内で攪拌混合して第2の混合粉体とする工程と、第1の粉砕混合装置内の第1の混合粉体と第2の粉砕混合装置内の第2の混合粉体とを第1および第2の粉砕混合装置が作動している状態で両者の配合比を経時的に変えながら第3の粉砕混合装置にエアーにより送り込む工程と、第3の粉砕混合装置内で撹拌されて形成される経時的に第1の混合粉体と第2の混合粉体との配合比の異なる第3の混合粉体をエアーにより前記塗工装置内に送り込み、塗工装置内にセットした通気性基材の上に厚み方向で第1の混合粉体と第2の混合粉体との配合比の異なる第3の層を形成する工程と、前記第3の層を通気性基材から分離する工程と、分離した第3の層を熱プレスする工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記第3の方法で製造される拡散層は、厚さ方向で組成に傾斜を持つものとなる。すなわち、第1の混合粉体と第2の混合粉体の混合比が100:0〜0:100の間で厚さ方向で適宜変化した拡散層を、容易に製造することができる。そのために、この形態の拡散層では、排水性の向上、電気、熱伝導性の向上等の効果が得られる。
【0016】
本発明による上記の製造方法で製造される拡散層は、それ自体で多孔質でありかつ撥水性と導電性を備えている。そのために、従来のように撥水性樹脂を塗布する等の撥水化処理を必要とせず、製造プロセスを簡素化できる利点もある。
【0017】
上記の各発明において、カーボン粉末には、従来燃料電池の拡散層を形成するときに用いられる任意の種類のカーボン粉末を用いることができる。例として、アセチレンブラック、カーボンナノフィラー(VGCF)、ファーネスブラック、黒鉛、等が挙げられる。また、撥水性を有する樹脂粉末も従来の拡散層を形成するときに用いられる任意の種類の樹脂粉末を用いることができる。好ましくは、高い撥水性を備え、取り扱いが容易であり化学的安定性に特に優れていることからPTFE樹脂の粉末は好ましい。他に、PFA,FEPなどいろいろのフッ素系樹脂、およびそこに少しのフェノール樹脂を混ぜ込んだもの等を用いることもできる。カーボンファイバーは、PAN系、ピッチ系等のカーボンからなるファイバー(繊維状のカーボン)を用いることができる。長さは、100μm〜5mm程度のものが好適である。
【0018】
上記の各発明において、通気性基材は、転写機能を備えるものであり、拡散層を構成する素材に対して化学的に安定である材料、例えば、ポリアミド系合成繊維、PTFE,ステンレスのような材料で作られる。通気性基材の目開きは、前記した混合粉体が自由には通過できない大きさであることが必要であり、好ましくは、10μm〜100μmの範囲である。また、異なった目開きの通気性基材を用いることで、通気性基材の上に第1〜第3の層を形成するときでのガス(エアー)の透過量を調整することが可能となる。それにより、形成される拡散層の気孔率を制御することもできるようになる。
【0019】
上記の各発明において、通気性基材を2つの部材で構成することもできる。転写機能を専らとする第1の通気性基材と、第1の通気性基材の下流側に密着した姿勢で位置し、通気性基材としての所要の強度と担保しかつガス(エアー)の透過量の調整を行うことを主たる機能とする第2の通気性基材である。この態様では、前記第1の通気性基材は、その上に形成される第1の層あるいは第3の層を保持し、かつ他の基材に転写するときに、基材まで第1の層あるいは第3の層を運搬できる機能を備えればよく、目開きには特に制限はない。
【0020】
上記のように、本発明による製造方法では、材料の種類、材料配合比、粉砕強度、さらには熱プレス強度を調整することにより、細孔径や気孔率の異なる、あるいは細孔径や気孔率を適宜調整した拡散層を、容易に作成することができる。また、本願発明の方法で製造される拡散層は、カーボンファイバーを含んでおり、前記したように高い剛性と自立性を持つ。そのために、それ単独でハンドリングすることが可能であり、触媒層と積層して拡散電極するときの態様、セパレータと共に積層して単セルと呼ばれる1つの燃料電池ときの態様、等に多くの選択肢を持つことができ、多種多様の拡散電極、膜電極積層体、および単セルを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃料電池用拡散電極を構成する拡散層であって、面方向と厚さ方向に均質性を持ち、電気伝導性や熱伝導性も良好であり、かつ自立性の高い拡散層を、容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による拡散層を製造する第1の方法を実施するための装置を模式的に示す図。
【図2】第1の方法で作られた拡散層の模式図。
【図3】本発明による拡散層を製造する第2の方法を実施するための装置を模式的に示す図。
【図4】第2の方法で作られた拡散層の模式図。
【図5】本発明による拡散層を製造する第3の方法を実施するための装置を模式的に示す図。
【図6】第3の方法で作られた拡散層の模式図。
【図7】固体高分子型燃料電池を説明するための模式図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。
[第1の方法]
図1は、本発明による拡散層を製造する第1の方法を実施するための装置Aを模式的に示している。この例において、装置Aは、基本的に、第1の粉砕混合装置10と、塗工装置30を備える。
【0024】
第1の粉砕混合装置10は、粉砕カッター11を備えた粉砕混合室12と、粉砕カッター11の駆動源を収容した基部13とで構成される。粉砕混合室12は密閉室であり、上方に材料投入ホッパー14を備え、開度調整可能な開閉バルブ15を介して、粉砕混合室12内に接続している。また、粉砕混合室12には、開度調整可能な開閉バルブ16を備えたエアー導入口17が形成されており、エアー導入口17と反対の側には、開度調整可能な開閉バルブ18を備えた粉体導出口19が形成されている。また、基部13内に収容した駆動源の回転数等を制御するために、電圧コントロール装置20も備えている。
【0025】
塗工装置30は、密閉可能な筒状本体31と、筒状本体31に脱着自在に取り付けられている第1のメッシュ材32と、第1のメッシュ材32の下流側に密着した状態で位置する第2のメッシュ材33とを備える。この例で、第1のメッシュ材32はポリアミド系樹脂、第2のメッシュ材33はステンレスで作られており、第1のメッシュ材32の目開きは20μm程度、第2のメッシュ材33の目開きは150μm程度である。また、第2のメッシュ材33は所定の強度を持たせるために、厚さ90μm程度の材料が用いられている。なお、第1のメッシュ材32と第2のメッシュ材33とが、本発明でいう「通気性基材」を構成する。
【0026】
筒状本体31の上端側は、前記した第1の粉砕混合装置10の粉体導出口19と導管34を介して接続しており、筒状本体31の下端側は、導管35を介して適宜の吸引装置36に接続している。
【0027】
次に、上記の装置Aを用いて拡散層を製造する手順の一例を説明する。最初に、塗工装置30に前記した第1のメッシュ材32と第2のメッシュ材33とをセットする。そして、開閉バルブ15,16,18を閉じた状態で、材料投入ホッパー14内に、カーボン粉末(例えばアセチレンブラック0.1g)と撥水性を有する樹脂粉末(例えばPTFE粉末0.4g)を投入する。
【0028】
開閉バルブ15を開き、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末との混合物を粉砕混合室12に投入し、開閉バルブ15を閉じる。電圧コントロール装置20を操作して、粉砕カッター11を一定時間にわたり高速回転(例えば、25000rpm程度)させ、混合物を粉砕混合する。
【0029】
時間経過後、粉砕カッター11を停止し、開閉バルブ15を開いて粉砕混合室12内に適量のカーボンファイバー(例えば1.0g)を投入する。投入後、開閉バルブ15を閉じ、電圧コントロール装置20を操作して、粉砕カッター11を低速回転(例えば、15000rpm程度)させる。それにより、粉砕カッター11が停止したことで形成された粉砕混合されたカーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末の微粉末の凝集体は破壊されて、再びの微粉末状態になると共に、該微粉末とカーボンファイバーとの混合粉体(第1の混合粉体)が粉砕混合室12内に形成される。
【0030】
その間に、吸引装置36を作動させて、塗工装置30の筒状本体31内を負圧状態としておく。そして、吸引装置36と粉砕カッター11の作動を継続させた状態で、開閉バルブ17,18を開く。それにより、吸引装置36のよる吸引とエアー導入口17から入り込むエアーによって、粉砕混合室12内に浮遊する混合粉体(第1の混合粉体)は、導管34を通って塗工装置30の筒状本体31内に導かれ、途中で凝集を起こすことなく第1のメッシュ材32の上に積層し、第1の混合粉体からなる第1の層が形成される。この例では、面積10cm×10cmの第1のメッシュ材32の上に、目付15mg/cmの第1の混合粉体からなる第1の層が形成された。
【0031】
なお、投入する各材料の量を多くし、また第1のメッシュ材32の上への積層時間を調整することで、形成される第1の層の厚みを制御することができ、また、粉砕カッター11の回転数を調整することで、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末の粉砕程度も制御することができる。
【0032】
第1のメッシュ材32の上に所定の厚みに第1の層が形成された時点で、吸引装置36を停止し、筒状本体31から第1のメッシュ材32を取り出す。そして、第1の層の上に耐熱性付着防止シート(例えばカプトンまたはPTFEシート)を乗せてから、第1のメッシュ材32を反転させることで、第1の層を耐熱性付着防止シート側に転写する。転写後の第1の層の上に、もう1枚の耐熱性付着防止シートを乗せることで、2枚の耐熱性付着防止シートの間に第1の層が挟持された状態とする。
【0033】
それに対して熱プレスを行う。この例では、1MPa×200℃×10分で熱プレスした。熱プレス後に、プレス装置から取り出し、両面の耐熱性付着防止シートをは剥がすことで、図2に断面を模式的に示すような拡散層1が得られる。図示のように、拡散層1内では、PTFE微粉体とアセチレンブラック微粉体とが共に凝集のない状態でカーボンファイバーの間に分散していることがわかる。従って、この拡散層1は、細孔径が大きくかつ面方向および厚さ方向において細孔径や気孔率の均質性を保ち、さらに電気伝導性や熱伝導性も良好であり、かつ自立性の高い拡散層となる。また、強くかつ自立性が高いことから、触媒層を積層して拡散層電極とするときも、種々の態様を自由に選択することが可能となる。
【0034】
[第2の方法]
図3は、本発明による拡散層を製造する第2の方法を実施するための装置Bを模式的に示している。この装置Bは、第1の方法で使用した装置Aに、さらにもう一つの粉砕混合装置、すなわち第2の粉砕混合装置10Aを備えるようにした点に特徴がある。第2の粉砕混合装置10Aは、前記した第1の粉砕混合装置10と同じものであり、対応する部材には同じ符号にAを付して示している。また、第2の粉砕混合装置10Aの粉体導出口19Aも、導管34Aを介して、塗工装置30の筒状本体31の上端側に接続している。
【0035】
上記の装置Bを用いて拡散層を製造する手順の一例を説明する。第1の層を第1のメッシュ材32の上に形成するまでの手順は、第1の方法で説明したと同様の手順で行う。その手順の過程で、第2の粉砕混合装置10Aの開閉バルブ15A,16A,18Aを閉じた状態で、材料投入ホッパー14A内に、カーボン粉末(例えばアセチレンブラック0.4g)と撥水性を有する樹脂粉末(例えばPTFE粉末0.1g)を投入する。
【0036】
開閉バルブ15Aを開き、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末との混合物を粉砕混合室12Aに投入し、開閉バルブ15Aを閉じる。電圧コントロール装置20Aを操作して、粉砕カッター11Aを一定時間にわたり高速回転(例えば、25000rpm程度)させ、混合粉体(第2の混合粉体)が粉砕混合室12A内に形成する。
【0037】
前記した第1の層を第1のメッシュ材32の上に形成した後、第1の粉砕混合装置10の開閉バルブ18を閉じるとともに、吸引装置36と粉砕カッター11Aの作動を継続させた状態で、開閉バルブ17A,18Aを開く。それにより、吸引装置36のよる吸引とエアー導入口17Aから入り込むエアーによって、粉砕混合室12A内に浮遊する混合粉体(カーボン微粉末と撥水性を有する樹脂微粉末との混合物である第2の混合粉体)は、導管34Aを通って塗工装置30の筒状本体31内に導かれ、途中で凝集を起こすことなく、前記第1の層の上に積層して、第2の混合粉体からなる第2の層を形成する。この例では、面積10cm×10cmの第1の層の上に、目付5mg/cmの第2の層が形成された。
【0038】
ここでも、投入する各材料の量を多くし、また第1の層の上へ積層する時間を調整することで、形成される第2の層の厚みを制御することができ、また、粉砕カッター11Aの回転数を調整することで、カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末の粉砕程度も制御することができる。
【0039】
第1の層の上に所定の厚みに第2の層が形成された時点で、吸引装置36を停止し、筒状本体31から第1のメッシュ材32を取り出す。そして、第1の層と第2の層との積層体における第2の層の上に、耐熱性付着防止シートを乗せてから、第1のメッシュ材32を反転させることで、前記積層体を第2の層側を耐熱性付着防止シート側として、耐熱性付着防止シート側に転写する。転写後の積層体の第1の層の上に、もう1枚の耐熱性付着防止シートを乗せることで、2枚の耐熱性付着防止シートの間に第1の層と第2の層が挟持された状態とする。
【0040】
以下、第1の方法の場合と同様にして熱プレスを行い、両面の耐熱性付着防止シートを剥がすことで、図4に断面を模式的に示すような拡散層2が得られる。図示のように、この拡散層2は、PTFE微粉体とアセチレンブラック微粉体とカーボンファイバーとから層(b層)の上に、PTFE微粉体とアセチレンブラック微粉体とからなる層(a層)が積層した2層構造をなしている。この拡散層2は、前記した拡散層1の奏する作用効果に加えて、さらに膜へのカーボンファイバーの突き刺さり防止、触媒層間の接着性向上、等の効果を発揮することができる。
【0041】
図示しないが、第1の粉砕混合装置10と第2の粉砕混合装置10Aとを交互に操作することで、前記b層とa層とがさらに交互に積層した拡散層を形成することもできる。
【0042】
[第3の方法]
図5は、本発明による拡散層を製造する第3の方法を実施するための装置Cを模式的に示している。この装置Cは、図3に示した装置Bにおける、第1の粉砕混合装置10および第2の粉砕混合装置10Aと、塗工装置30との間に、第3の粉砕混合装置10Bをさらに配置している点で、装置としての特徴を備える。第3の粉砕混合装置10Bは、実質的に、前記した第1の粉砕混合装置10と同じものであってよいが、材料投入ホッパー14およびエアー導入口17を備えない。なお、その他の対応する部材には第1の粉砕混合装置10と同じ符号にBを付して示している。
【0043】
第3の粉砕混合装置10Bは、エアー導入口17に代えて、2つの粉体導入口21、22を備えており、第1の粉砕混合装置10の粉体導出口19は導管34を介して前記粉体導入口21に、また、第2の粉砕混合装置10Aの粉体導出口19Aは導管34Aを介して粉体導入口22に接続している。また、粉体導入口21、22には開閉バルブ23,24がそれぞれ備えられている。
【0044】
上記の装置Cを用いて拡散層を製造する手順の一例を説明する。第1の粉砕混合装置10を用い、第1の方法と同様にして、粉砕混合室12内にカーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末の微粉末とカーボンファイバーとからなる混合粉体(第1の混合粉体)を形成する。また、第2の粉砕混合装置10Aを用いて、粉砕混合室12A内にカーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末との混合粉体(第2の混合粉体)を形成する。
【0045】
その過程で、第3の粉砕混合装置10Bの電圧コントロール装置20Bを操作して、粉砕カッター11Bを低速回転(例えば、15000rpm程度)させるとともに、吸引装置36を作動させて、塗工装置30の筒状本体31内を負圧状態としておく。そして、その状態で、第3の粉砕混合装置10Bの粉体導出口19Bに備えた開閉バルブ18Bを開く。
【0046】
次に、第1の粉砕混合装置10、第2の粉砕混合装置10A、および第3の粉砕混合装置10Bの粉砕カッター11、11A,11Bの作動を継続させた状態で、第3の粉砕混合装置10Bの2つの粉体導入口21、22に備えた開閉バルブ23,24を開く。そして、第1の粉砕混合装置10のエアー導入口17に備えた開閉バルブ16と粉体導出口19に備えた開閉バルブ18、および、第2の粉砕混合装置10Aのエアー導入口17Aに備えた開閉バルブ16Aと粉体導出口19Aに備えた開閉バルブ18A、とを、図示しない適宜の制御装置を用いて、時間の経過と共に開度が変化するように、それぞれ制御する。それにより、第3の粉砕混合装置10Bには、第1の粉砕混合装置10から時間と共に変化する制御された量の第1の混合粉体が、また、第2の粉砕混合装置10Aからやはり時間と共に変化する制御された量の第2の混合粉体が、エアーにより送り込まれる。すなわち、第3の粉砕混合装置10Bの粉砕混合室12B内には、第1の混合粉体と第2の混合粉体とが時間と共に配合比を変化させた状態で送り込まれる。
【0047】
第3の粉砕混合装置10Bでは、送り込まれた第1の混合粉体と第2の混合粉体とが粉砕混合室12B内で撹拌されることで、第3の混合粉体とされ、それが、前記した第1および第2の製造方法の場合と同様にして、塗工装置30内に送り込まれる。そして、塗工装置30内にセットした第1のメッシュ材32の上に、第1の混合粉体と第2の混合粉体との混合体である第3の混合粉体からなる第3の層が形成される。
【0048】
実際の運転において、例えば、第1の粉砕混合装置10と第2の粉砕混合装置10Aの各バルブを、第1の粉砕混合装置10からの第1の混合粉体の送り出し量が経時的に100→0となるように制御し、同じ時間帯に、第2の粉砕混合装置10Aからの第2の混合粉体の送り出し量が経時的に0→100となるように制御することで、第1のメッシュ材32の上に、第1の混合粉体:第2の混合粉体の比率が、厚さ方向で、100:0→0:100に変化した第3の層を形成することができる。
【0049】
所要厚みの第3の層で形成された時点で、吸引装置36を停止し、筒状本体31から第1のメッシュ材32を取り出す。以下、第2の方法と同様にして、耐熱性付着防止シートへの転写と熱プレスを行い、両面に付着している耐熱性付着防止シートを剥がすことで、図6に断面を模式的に示すような拡散層3が得られる。図示のように、この拡散層3は、厚さ方向で傾斜する構造、すなわち、下面側ではカーボンファイバーリッチであり、上面側ではアセチレンブラックリッチとなった構造を備えている。
【符号の説明】
【0050】
A,B,C…本発明の方法を実施するのに用いられる装置、
1,2,3…拡散層、
10…第1の粉砕混合装置
10A…第2の粉砕混合装置
10B…第3の粉砕混合装置
11…粉砕カッター、
12…粉砕混合室、
14…材料投入ホッパー、
15、16,18…開度調整可能な開閉バルブ、
17…エアー導入口、
19…粉体導出口、
20…電圧コントロール装置、
30…塗工装置、
31…密閉可能な筒状本体、
32…第1のメッシュ材(通気性基材)、
33…第2のメッシュ材(通気性基材)、
36…吸引装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用拡散電極を構成する拡散層の製造方法であって、
カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第1の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合した後、第1の粉砕混合装置内にさらにカーボンファイバーを投入して混合し第1の混合粉体とする工程と、
第1の粉砕混合装置を作動させた状態で第1の混合粉体をエアーにより塗工装置内に送り込み、該塗工装置内にセットした通気性基材の上に前記第1の混合粉体からなる第1の層を形成する工程と、
前記第1の層を通気性基材から分離する工程と、
分離した第1の層を熱プレスする工程と、
を備えることを特徴とする拡散層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の各工程に加えて、さらに、
カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第2の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合して第2の混合粉体とする工程と、
第2の粉砕混合装置を作動させた状態で第2の混合粉体をエアーにより前記塗工装置内に送り込み、塗工装置内にセットした通気性基材の上に形成されている前記第1の層の上に、前記第2の混合粉体からなる第2の層を形成する工程と、をさらに有し、
前記第1の層と第2の層との積層体を通気性基材から分離する工程と、
分離した積層体を熱プレスする工程と、
を備えることを特徴とする拡散層の製造方法。
【請求項3】
燃料電池用拡散電極を構成する拡散層の製造方法であって、
カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第1の粉砕混合装置内に投入し粉砕混合した後、第1の粉砕混合装置内にさらにカーボンファイバーを投入して混合し第1の混合粉体とする工程と、
カーボン粉末と撥水性を有する樹脂粉末とを第2の粉砕混合装置内で攪拌混合して第2の混合粉体とする工程と、
第1の粉砕混合装置内の第1の混合粉体と第2の粉砕混合装置内の第2の混合粉体とを第1および第2の粉砕混合装置が作動している状態で両者の配合比を経時的に変えながら第3の粉砕混合装置にエアーにより送り込む工程と、
第3の粉砕混合装置内で撹拌されて形成される経時的に第1の混合粉体と第2の混合粉体との配合比の異なる第3の混合粉体をエアーにより前記塗工装置内に送り込み、塗工装置内にセットした通気性基材の上に厚み方向で第1の混合粉体と第2の混合粉体との配合比の異なる第3の層を形成する工程と、
前記第3の層を通気性基材から分離する工程と、
分離した第3の層を熱プレスする工程と、
を備えることを特徴とする拡散層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−108438(P2011−108438A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260760(P2009−260760)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】