説明

燃料電池用膜−電極接合体及びそれを備えた燃料電池。

【目的】膜−電極接合体に用いられている固体高分子電解質のプロトン伝導性が低下し難く、安定した出力を長時間にわたって奏し得る燃料電池用膜−電極接合体及び燃料電池を提供する。
【構成】本発明の膜−電極接合体7は、固体高分子電解質膜6と、固体高分子電解質膜6の両側に配設された反応層3と、反応層3の外側に配設された拡散層4とを備えている。反応層3にはナフィオン3aと白金担持カーボン3bと白金担持混合伝導体粉末3cとが混合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池用膜−電極接合体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜が反応層で挟まれ、さらにその反応層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体を備えている。反応層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子電解質が混合されている。そして、膜−電極接合体の両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されて固体高分子型燃料電池を構成する。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では、水素がアノード側のセパレータに供給され、拡散層を通って反応層に供給される。そして、アノード側反応層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、アノード側反応層及び固体高分子電解質膜の中を移動し、カソード側反応層に達し、カソード側の反応層に供給された酸素と結合して水となる。
【0004】
以上のように、固体高分子型燃料電池では、反応層及び固体高分子電解質膜中をプロトンが移動すること(すなわちプロトン伝導性を有すること)が不可欠である。そして、これを可能としているのが、固体高分子電解質膜や反応層の構成要素となっている固体高分子電解質である。この固体高分子電解質には通常、スルホン酸基が修飾されており、含水状態においてプロトンが水和したオキソニウムイオンの形で、スルホン酸基の間を移動する。すなわち、固体高分子電解質に存在するスルホン酸基は、プロトン伝導の担い手という重要な役割を演じている。
【0005】
以上の背景技術の他、本発明に関連する背景技術として、混合伝導体についての特許文献1及びガラス系固体電解質についての特許文献2が存在する。
【0006】
【特許文献1】再公表特許WO2004/102588
【特許文献2】特開2004−256327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体高分子型燃料電池においては、カソード側に供給される空気などの酸化ガス中に含まれる塵埃や、ガス通路を形成するセパレータの腐食などにより、不純物としての陽イオン(例えばNa、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni、Zn、Cuなど)が膜−電極接合体に侵入することがある。そして、反応層や固体高分子電解質膜を構成している個体高分子電解質に存在するスルホン酸基にプロトン以外の陽イオンが結合し、プロトン伝導性が低下するという問題があった。こうしたプロトン伝導性の低下は、固体高分子型燃料電池の内部抵抗の上昇を引き起こし、ひいては固体高分子型燃料電池の出力が低下するという問題を生じていた。
【0008】
このため、固体高分子型燃料電池における循環経路の途中にイオン交換樹脂等を挿入し、陽イオンの膜−電極接合体への侵入を防ぐことがなされていたが、それでも完全には陽イオンの侵入を阻止することができなかった。
【0009】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、膜−電極接合体に用いられている固体高分子電解質のプロトン伝導性が低下し難く、安定した出力を長時間にわたって奏し得る燃料電池用膜−電極接合体及び燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上記従来の問題点を解決すべく、膜−電極接合体に陽イオンを吸着しやすい無機固体を存在させておき、これにより固体高分子電解質のスルホン酸基への陽イオンの吸着を防ぎ、プロトン伝導性の低下を防止しようと考えた。
すなわち、本発明の第1の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、スルホン酸基を有する固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に配設された反応層と、該反応層の外側に配設された拡散層とを備え、該反応層はスルホン酸基を有するプロトン伝導体と触媒担持カーボンとを含有する燃料電池用膜−電極接合体において、
前記固体高分子電解質膜、前記反応層、前記拡散層、該固体高分子電解質膜と該反応層との間、及び該反応層と該拡散層との間、の少なくともいずれかの箇所に、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基を有し、実質的に水に溶解しない無機固体が備えられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第1の局面の燃料電池用膜−電極接合体では、固体高分子電解質膜、前記反応層、前記拡散層、該固体高分子電解質膜と該反応層との間、及び該反応層と該拡散層との間、の少なくともいずれかの箇所に、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基を有する無機固体が備えられている。無機固体に存在する官能基はスルホン酸基よりも酸性度が低いため、スルホン酸基と比較して他の陽イオンと結合し易い。このため、膜−電極接合体に浸入してきた陽イオンは、反応層や固体高分子電解質膜に存在する弱酸性基に選択的に吸着することとなる。このため、反応層や固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基に起因するプロトン伝導性が阻害され難くなり、長時間にわたって安定した出力を保つことができる。しかもこの無機固体は実質的に水に溶解しないので、陽イオンの吸着が飽和に達するまで、溶出することなく陽イオンの吸着が継続される。
【0012】
弱酸性基を有する無機固体を備える箇所は、固体高分子電解質膜、前記反応層、前記拡散層、該固体高分子電解質膜と該反応層との間、及び該反応層と該拡散層との間のいずれでもよく、複数箇所に存在していてもよい。この中でも、固体高分子電解質の存在する固体高分子電解質膜の外側となる反応層や拡散層に弱酸性基を有する無機固体を備えておくのは、それより内側に存在する高分子固体電解質膜への陽イオンの浸入を防ぐことができるため、効果的である。また、拡散層の両面又は片面にPTFE等の疎水性物質とカーボンとが練り込まれたマイクロポーラス層を設ける場合において、このマイクロポーラス層の中に弱酸性基を有する無機固体を含有させておいてもよい。
【0013】
本発明の第2の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、弱酸性基はリン酸基であることとした。リン酸基は、スルホン酸基と比較して酸性度が低く、スルホン酸基に優先して陽イオンが結合する。このため、固体高分子電解質のプロトン導電性が低下し難くなり、安定した出力を長時間にわたって奏し得る燃料電池用膜−電極接合体となる。
【0014】
本発明の第3の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、弱酸性基を有する無機固体はプロトン伝導性を有する無機固体電解質であることとした。プロトン伝導性を有する無機固体電解質であれば、これを反応層や固体高分子電解質膜やそれらの間に備えた場合に、無機固体自身がプロトン伝導性を有することとなる。このため、無機固体を備えることによる燃料電池の内部抵抗の上昇を防ぐことができ、ひいては出力低下を防止することができる。このような無機固体電解質としては、金属酸化物系固体電解質であって、リン酸基やカルボン酸基等のスルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基を有する化合物が挙げられる。また、金属酸化物系固体電解質としては、主にセラミックス系固体電解質とガラス系固体電解質に分類される。
【0015】
また、本発明の第4の局面の燃料電池用膜−電極接合体では、弱酸性基を有する無機固体として、プロトン伝導性を有するだけではなく、無機材料の電子伝導体と無機材料のプロトン伝導体とから構成された混合伝導体であり、反応層及び/又は拡散層に備えられていることとした。かかる混合伝導体は、分子構造というミクロなレベルで電子伝導を行う部分とプロトン伝導を行う部分とが混在している。このため、電極反応に必要とされる、反応物質、プロトン及び電子のそれぞれのパスが存在するような構造(三相界面)をとる部分が多くなり、電極反応を迅速に進行させることができる。また、無機材料の混合伝導体を用いているため、耐久性や耐熱性に優れている。さらには、プロトン伝導体の構造を選択することにより、比較的低温でのプロトン移動が可能となる。なお、拡散層の両面または片面にマイクロポーラス層が形成されている場合には、このマイクロポーラス層に混合伝導体を混入させておいてもよい。
【0016】
また、本発明の第4の局面の燃料電池用膜−電極接合体における混合伝導体の電子伝導体部分は、脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素若しくはそれらの誘導体の内、少なくとも1種を炭素化したものとすることができる。このような混合伝導体は、例えば有機−リン酸系のハイブリッドポリマーの有機ポリマー鎖を炭化することによって、容易に得ることができる。炭素化される脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素若しくはそれらの誘導体としては、ポリアセチレン、レソルシノール、フェノール、2−フェニルフェノール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、フェニルホスホン酸、フェニルシランアルコキシド類、ピロガロール、ジヒドロキシビフェニルの少なくとも1種とすることができる。これらの有機ポリマー鎖は二重結合を含む炭素の連続的な結合(すなわち炭素−炭素二重結合の共役系)からなるため、これを炭素化することにより、優れた電子伝導性を有することとなる。
本発明の第4の局面の燃料電池用膜−電極接合体における混合伝導体の電子伝導体部分は、炭素材料とすることができる。さらには、電子伝導体は、二重結合を含む炭素の連続的な結合(すなわち炭素−炭素二重結合の共役系)をもつこととすることにより、混合伝導体に優れた電子伝導性を付与することができる。
【0017】
本発明の第5の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、反応層及び/または拡散層に、貴金属触媒が担持された混合伝導体が備えられていることとした。こうであれば、電極反応に必要とされる、反応物質、プロトン及び電子のそれぞれのパスが触媒の周囲に存在するような構造(三相界面)をとる部分が混合伝導体においても形成され、電極反応の迅速な進行に寄与させることができる。なお、拡散層の両面または片面にマイクロポーラス層が形成されている場合には、このマイクロポーラス層に貴金属触媒の担持された混合伝導体を混入させておいてもよい。
【0018】
本発明の第6の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、混合伝導体は、有機材料を炭素化した無機材料からなる電子伝導体に無機材料からなるプロトン伝導体を固定化したこととした。このような混合伝導体は、例えば有機−リン酸系のハイブリッドポリマーの有機ポリマー鎖を炭化することによって、容易に得ることができる。
電子伝導体とプロトン伝導体との固定方法について特に限定はないが、例えば共有結合法やインターカレーション法や包接法等を用いて固定化することが考えられる。また、製造過程の条件によりこれらの各方法が混在する方法であってもかまわない。さらには、電子伝導体及びプロトン伝導体の材料の種類に応じて、固定化の状態が共有結合、包接、インターカレーションをとるのか否かが変化する。例えば、電子伝導体に有機材料を炭化した無機材料とした場合には共有結合が主になると考えられる。他の例として電子伝導体に金属材料を選んだ場合、プロトン伝導体材料として無機材料、特に酸化物を選択すれば共有結合若しくは包接で固定化が可能となる。
【0019】
本発明の第7の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、前記無機固体高分子電解質は、P−MO(M=Si,Ti,Zr、Al)系のガラス系固体電解質であることとした。
このような組成において、優れたプロトン伝導性を有するガラス系固体電解質が得られる。このため、反応層や固体高分子電解質膜やそれらの間に存在させた場合においても、プロトン伝導性を損なわない。また、Pに起因するリン酸基は、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基として機能するため、スルホン酸基に優先して陽イオンを吸着することができる。
このP−MO(M=Si,Ti,Zr、Al)系のガラス系固体電解質の中でも、
MがSiであるガラス系固体電解質は、室温においても優れたプロトン伝導性を有している。このため、本発明の第8の局面の燃料電池用膜−電極接合体は、前記ガラス系固体電解質はP−SiOからなることとした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の燃料電池用膜−電極接合体における弱酸性基のトータル数は、固体高分子電解質膜に含まれるスルホン酸基の数及び反応層のプロトン伝導体に含まれるスルホン酸基の数を合算した数の20%以上80%以下とすることが好ましい。その理由は、次のとおりである。
すなわち、固体高分子型燃料電池には、通常、陽イオンをトラップする吸着装置が備えられる等の対策がとられており、膜−電極複合体の固体高分子電解質の汚染程度は、イオン交換率として総スルホン酸基数の20%以下である。このため、弱酸性基のトータル数を総スルホン酸基数の20%以上とすれば、スルホン酸基に陽イオンが結合することを確実に防ぐことができる。また、弱酸性基のトータル数が総スルホン酸基数の80%以下であれば、固体高分子電解質膜や反応層や拡散層の機能にそれほどの悪影響を及ぼすことはない。
【0021】
以下、本発明を具体化した実施例1、2について説明する。
(実施例1)
実施例1は、反応層に混合伝導体の微粉末が混合された燃料電池用膜−電極接合体であり、以下のように調製した。
<混合伝導体の調製>
反応層に入れるための混合伝導体は、特許文献1に記載の方法と同様の方法により調整した(下記化学式1参照)。
【化1】

【0022】
すなわち、レソルシノール(10g)とホルムアルデヒド(13ml)とを水(40ml)に溶かし、当該溶液にリン酸トリメチルを加水分解した溶液を加える。かかる溶液をNaCOを触媒として脱水縮合させゲル化する。このゲルを120°Cの条件で乾燥することにより、前駆体を得る(図1参照)。そして、この前駆体を窒素雰囲気下で800°Cで熱処理することにより、有機ポリマー鎖部分を炭素化し、混合伝導体を得る。この混合伝導体は、図2に示すように、グラファイト類似骨格を有する電子伝導体相1、1とリン酸基のプロトン伝導体相2とが交互に並ぶ構成となる。こうして得られた混合伝導体をボールミルで粉砕し、粒子径が0.5μm以下の混合伝導体粉末とした。この混合伝導体の伝導率を測定したところ、1.3×10-3 S/cmであった。また、イオン交換量はおよそ2mmol/gであった。
【0023】
<白金担持混合伝導体粉末の調製>
次に、上記混合伝導体粉末に対して、コロイド法によって白金触媒を担持させた。すなわち、塩化白金酸を用いて40°CにてPtコロイド溶液を調製し、このコロイド溶液に混合伝導体粉末を入れ、撹拌を行って白金粒子を混合伝導体粉末に担持させる。さらに、溶液ろ過し、水洗し、水素雰囲気下で熱処理を施して白金担持混合伝導体粉末を得た。
なお、コロイド法に替えて浸漬法を採用することも可能である。浸漬法は次のようにして行われる。すなわち、ジアミノ亜硝酸白金のメタノール溶液に粉砕した混合伝導体粉末を投入し、混合後乾燥させ、更に還元処理を施す。
【0024】
<反応層付拡散層の作製>
こうして得られた白金担持混合伝導体粉末を用い、次のようにして反応層付拡散層を作成した。すなわち、白金担持混合伝導体粉末と市販の白金担持カーボン1gとを混合した後、適当量の水を加え、ハイブリッドミキサーで撹拌する。次に、ナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)を加え、さらにハイブリッドミキサーによる撹拌を行う。こうして得られたペーストを、炭素製の網からなる拡散層に印刷、乾燥して反応層付拡散層を得た。なお、白金担持混合伝導体粉末の添加量は、反応層中のナフィオンに存在するスルホン酸基の数及び後述する固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基の数の和の20〜80%が、白金担持混合伝導体粉末に存在するリン酸基の数となる量に調整する。
【0025】
<燃料電池単層セルの作製>
次に、上記のようにして作製した電極(反応層付拡散層)を用いて図3に示す燃料電池単層セルを作製した。すなわち、反応層3と拡散層4とが貼り合わされた反応層付拡散層5を2枚用意し、ナフィオン(登録商標)からなる固体高分子電解質膜6の両側から挟み、ホットプレスによって圧着させて一体として実施例1の燃料電池用膜−電極接合体7とした。反応層3には、上述したように、ナフィオン3aと白金担持カーボン3bと白金担持混合伝導体粉末3cとが混合されている。さらに、拡散層4の外側に酸素及び水素のガス供給路となるセパレータ8を形成し、燃料電池単層セルを完成させた。
【0026】
以上のように構成された燃料電池単層セルでは、反応層3に白金担持混合伝導体粉末3cが含有されており、この白金担持混合伝導体粉末3cにはスルホン酸基よりも酸性度の低いリン酸基を有している。このため、セパレータ8から拡散層4を経てFeイオン等の陽イオンが侵入したとしても、反応層3に含まれている混合伝導体のリン酸基に選択的に吸着し、反応層3や固体高分子電解質膜6に存在するスルホン酸基に陽イオンが吸着することを防ぐことができ、ひいては反応層3や固体高分子電解質膜6のプロトン伝導性の低下を防止することができる。またこの混合伝導体は、図2に示すように、グラファイト類似骨格を有する電子伝導体相1、1とリン酸基のプロトン伝導体相2とが交互に並ぶ構成とが混在しているため、電極反応に必要とされる、反応物質、プロトン及び電子のそれぞれのパスが触媒の周囲に存在するような構造(三相界面)をとる部分が多くなり、さらには、電極触媒となる白金も担持されているため、電極反応を迅速に進行させることができる。また、有機材料の混合伝導体に比べて耐久性や耐熱性に優れている。
【0027】
(実施例2)
実施例2は、拡散層と固体高分子電解質膜との間に混合導電体の微粉末を備えた燃料電池用膜−電極接合体であり、以下のように調製した。
図4(a)に示すように、炭素製の網からなる拡散層9を用意し、撥水剤としてのポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)粉末と、電子伝導体としての炭素粉末と、上記実施例1において用いた白金触媒を担持させていない混合伝導体粉末とを混合したペーストを拡散層9に塗布し、ホットプレスによって熱圧着する。こうして、図4(b)に示すように、拡散層9上にPTFE10aと炭素粉末10bと混合伝導体粉末10cとからなるマイクロポーラス層10を形成する。次に、市販の白金担持カーボン11a(1g)と適当量の水とナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)とを混合したペーストを用意し、マイクロポーラス層10の上にペーストを塗布し、乾燥することにより、図4(c)に示すように、マイクロポーラス層10の上にさらに白金担持カーボン11aとナフィオン11bとが含まれた反応層11を形成する。なお、マイクロポーラス層10中の混合伝導体粉末の添加量は、反応層11中のナフィオン11bに存在するスルホン酸基の数及び後述する固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基の数の和の20〜80%が、混合伝導体粉末10cに存在するリン酸基の数となる量に調整する。
ただし、混合伝導体10cの添加量は、燃料電池内に存在する陽イオンの量によって、適宜調整することができる。例えば、燃料電池内に存在する陽イオンの量が少なければ、反応層11中のナフィオン11bに存在するスルホン酸基の数及び後述する固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基の数の和の20%未満とすることが可能な場合もありうる。
【0028】
<燃料電池単層セルの作製>
次に、上記のようにして作製したマイクロポーラス層10及び反応層11が形成された拡散層9を用を2枚用意し、図5に示すように、ナフィオン(登録商標)からなる固体高分子電解質膜12の両側から挟み、ホットプレスによって圧着させて一体として実施例2の燃料電池用膜−電極接合体13とする。そして、さらに拡散層9の外側に酸素及び水素のガス供給路となるセパレータ14を形成することにより、燃料電池単層セルとなる。
【0029】
以上のように構成された燃料電池単層セルでは、反応層11と拡散層9との間にマイクロポーラス層10が設けられており、このマイクロポーラス層10中に混合伝導体粉末10cが含有されている。このため、セパレータ8から侵入する鉄イオンやカルシウムイオン等の陽イオンは、反応層11に侵入する前に、マイクロポーラス層10中の混合伝導体粉末10cに存在するリン酸基によって吸着される。このため、反応層11や固体高分子電解質膜12に陽イオンが侵入することを、未然に防ぐことができ、ひいては反応層11や高分子電解質膜12のプロトン伝導性の低下を防止することができる。また、実施例1とは異なり、反応層11や固体高分子電解質膜12には混合伝導体粉末が入っていないため、反応層11での電極反応や、固体高分子電解質膜12のイオン伝導性が混合伝導体粉末の存在によって影響を受けることもない。
【0030】
なお、実施例2の変形例として、マイクロポーラス層を反応層と固体高分子電解質膜との間に設けることもできる。このような膜−電極接合体は、PTFEとカーボン粉末と混合伝導体粉末とを混合したペーストを固体高分子電解質膜の両面に塗布してマイクロポーラス層を形成し、このマイクロポーラス層の上にさらに白金担持カーボンとナフィオンとが含まれた反応層を形成し、両側から2枚の拡散層で挟んで熱圧着させることにより作製することができる。
【0031】
(実施例3)
実施例3では、P−SiOからなるガラス系固体電解質の微粉末を分散させた反応層を有する燃料電池用膜−電極接合体であり、以下のようにして調製した。
<ガラス系固体電解質の調製>
反応層に入れるガラス系固体電解質は、特許文献2に記載の方法により調製した。すなわち、リンのアルコキシドとSiのアルコキシドを原料として一般的なゾル−ゲル法によりP−SiO(P:SiO=5:95(モル比))のガラス電解質ゲルを合成する(ステップ1)。このガラス電解質ゲルを温度150°Cで24時間乾燥しバルク体とした後(ステップ2)、ボールミルで粉砕し(ジルコニアポット、ジルコニアボールφ:5mm、300rpm、15分)、ふるいで分粒して粒径75μm以下の粉体とした(ステップ3)。この粉体(0.2g)を放電プラズマ焼結装置のカーボン型にセットし、バインダを加えることなく焼結温度500°C、面圧400kg/cm、真空雰囲気、保持時間5分の条件で放電プラズマ焼結し(ステップ4)、ディスク状(φ:20mm、t:1mm)のガラス系固体電解質を得た。焼結温度の範囲は450°C〜850°Cであればよく、その中でも最適な温度は500°Cである。こうして得られたガラス系固体電解質のディスクを再び粉砕機で粉砕し微粉末を得た。このガラス系固体電解質は、SiO2の網目構造におけるケイ素原子の一部がリン原子に置き換わった構造を有しており、リン酸基を有している(下記化学式2参照)。このリン酸基は酸性プロトンを有し、これによりプロトン伝導性が発現する。このリン酸基はスルホン酸基より弱い酸である。
【化2】

【0032】
こうして得られたガラス系固体電解質の微粉末を用い、燃料電池用膜−電極接合体を調製し、さらには燃料電池単層セルを作製した。作製方法は、実施例1における混合伝導体粉末の替わりにガラス系固体電解質微粉末を用いたこと以外は同様であり、説明を省略する。なお、ガラス系固体電解質の添加量は質量比で担体カーボンの4倍以内であることが好ましい。これ以上のガラス系固体電解質の添加は、反応層の電子伝導性の低下を引き起こし、燃料電池の内部抵抗上昇の原因となる。
【0033】
以上のように構成された燃料電池単層セルでは、ガラス系固体電解質のリン酸基は、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基として機能するため、反応層や固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基に優先して陽イオンを吸着することができる。このため、反応層中のナフィオンや固体高分子電解質膜のプロトン伝導性の陽イオン吸着によるプロトン伝導性の阻害を防止することができる。また、ガラス系固体電解質自身もプロトン伝導性を有するため、ガラス系固体電解質を添加することによって、反応層のプロトン伝導性はそれほど損なわれることがない。このため、実施例2に係る燃料電池単層セルも、安定した出力を長時間にわたって奏し得ることとなる。
【0034】
(実施例4)
実施例4は、P−SiOからなるガラス系固体電解質の微粉末をナフィオン(登録商標)からなる固体高分子電解質膜中に分散させた燃料電池用膜−電極接合体であり、以下のようにして調製した。
【0035】
ナフィオン(登録商標)の溶液とガラス系固体電解質の微粉末とを混合し、キャスティング法を用いてシート状に成形し、ガラス系固体電解質含有固体高分子電解質膜とする。また、炭素製の網からなる拡散層を用意し、撥水剤としてのPTFE粉末と、電子伝導体としての炭素粉末とを拡散層に塗布し、ホットプレスによって熱圧着して反応層付拡散層を2枚作製する。そして、ガラス系固体電解質含有固体高分子電解質膜の両側から反応層付拡散層で挟み、ホットプレスによって圧着させて一体として実施例4の燃料電池用膜−電極接合体13とする。そして、さらに拡散層の外側にセパレータを形成することにより、実施例4の燃料電池単層セルが作製される。
【0036】
実施例4の燃料電池用膜−電極接合体では、高分子固体電解質膜にガラス系固体電解質の微粉末が分散されている。ガラス系固体電解質のリン酸基は、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基として機能するため、反応層や固体高分子電解質膜に存在するスルホン酸基に優先して陽イオンを吸着する。このため、例え固体高分子電解質膜に陽イオンが浸入したとしても、プロトン伝導性が損なわれることがない。このため、安定した出力を長時間にわたって奏し得る
【0037】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
以下、次の事項を開示する。
この発明の第1の局面の接合体において、前記弱酸性官能基のトータル数は、固体高分子電解質膜に含まれるスルホン酸基の数及び反応層のプロトン伝導体に含まれるスルホン酸基の数を合算した数の20%以上80%以下とすることが好ましい。
この発明の第4の局面の接合体において、前記電子伝導体は、脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素若しくはそれらの誘導体のうち、少なくとも1種を炭素化したものであることが好ましい。
上記において、前記脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素若しくはそれらの誘導体は、ポリアセチレン、レソルシノール、フェノール、2−フェニルフェノール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、フェニルホスホン酸、フェニルシランアルコキシド類、ピロガロール、ジヒドロキシビフェニルの少なくとも1種であることが好ましい。
上記において前記電子伝導体は炭素材料であることが好ましい。
上記において、前記電子伝導体は、二重結合を含む炭素の連続的な結合をもつことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】混合伝導体の前駆体の構造を示す模式図である。
【図2】混合伝導体の構造を示す模式図である。
【図3】実施例1に係る燃料電池単層セルの模式断面図である。
【図4】実施例2に係る膜−電極接合体の作製過程を示す、模式断面図である。
【図5】実施例2に係る燃料電池単極セルの模式断面図である。
【符号の説明】
【0039】
7…燃料電池用膜−電極接合体
6、12…固体高分子電解質膜
3、11…反応層
4、9…拡散層
3a、10a、11b…ナフィオン(プロトン伝導体)
3b、11a…白金担持カーボン(触媒担持カーボン)
3c…白金担持混合伝導体粉末(無機固体電解質)
1…電子伝導体相(電子伝導体)
2…プロトン伝導体相(プロトン伝導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に配設された反応層と、該反応層の外側に配設された拡散層とを備え、該反応層はスルホン酸基を有するプロトン伝導体と触媒担持カーボンとを含有する燃料電池用膜−電極接合体において、
前記固体高分子電解質膜、前記反応層、前記拡散層、該固体高分子電解質膜と該反応層との間、及び該反応層と該拡散層との間、の少なくともいずれかの箇所に、スルホン酸基よりも酸性度の低い弱酸性基を有し実質的に水に溶解しない無機固体が備えられていることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項2】
前記弱酸性基はリン酸基であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項3】
前記弱酸性基を有する無機固体はプロトン伝導性を有する無機固体電解質であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項4】
前記プロトン伝導性を有する無機固体電解質は無機材料の電子伝導体と無機材料のプロトン伝導体とから構成された混合伝導体であり、反応層及び/又は拡散層に備えられていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項5】
反応層及び/又は拡散層に、貴金属触媒が担持された混合伝導体が備えられていることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項6】
前記混合伝導体は、有機材料を炭素化した無機材料からなる電子伝導体に無機材料からなるプロトン伝導体を固定化したことを特徴とする請求項4又は5に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項7】
前記無機固体高分子電解質は、P−MO(M=Si,Ti,Zr、Al)系のガラス系固体電解質であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項8】
前記ガラス系固体電解質はP−SiOからなる、ことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかの燃料電池用膜−電極接合体を備える燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−140613(P2008−140613A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324219(P2006−324219)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】