説明

燃料電池用膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池並びに燃料電池用膜電極接合体製造方法

【課題】燃料電池用膜電極接合体において、アノード側において高いプロトン伝導性を保ちつつ、カソード側の排水性を高めて、発電効率を高めることが可能な技術を提供する。
【解決手段】燃料電池用膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜上に形成され複数の第1の内孔を有するアノード側触媒電極層と、電解質膜上において前記アノード側触媒電極層と反対側に形成され複数の第2の内孔を有するカソード側触媒電極層と、を備え、第1の内孔は、アノード側触媒とアノード側触媒を担持するアノード側担持体とから成るアノード側触媒粒子間の空隙であり、第2の内孔は、カソード側触媒とカソード側触媒を担持するカソード側担持体とから成るカソード側触媒粒子間の空隙であり、複数の第2の内孔の平均孔径は、複数の第1の内孔の平均孔径に比べて大きくなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜を含む膜電極接合体を備える燃料電池では、アノード側に水素等を含む燃料ガスが供給され、また、カソード側には酸素等を含む酸化ガスが供給されて、これら燃料ガス及び酸化ガス(反応ガス)を用いた電気化学反応によって電気エネルギーが生成される。この電気化学反応の効率を高めるために、電解質膜上に形成された触媒層において、電解質膜に近づくほど触媒粒径が小さくなるように構成された膜電極接合体が提案されている(下記特許文献1参照)。下記特許文献1に記載の膜電極接合体では、電解質膜から遠ざかるほど(拡散層に近づくほど)、触媒粒径が大きくなって触媒粒子間の間隙が大きくなるので、反応ガスが拡散層から触媒層に流入し易くなる。それゆえ、反応ガスが触媒層内に十分に拡散されて反応効率が高くなる。
【0003】
【特許文献1】特開平8−162123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の膜電極接合体では、電解質膜付近において触媒粒子間の間隙が小さいので、反応ガスを加湿するための水分や、電気化学反応によって生成された生成水が、触媒層から拡散層へと排水されにくくなる。したがって、アノード側では、高い湿潤状態が保たれることによって、高いプロトン伝導性を保つことが可能となる。しかしながら、カソード側では、カソード側触媒層に溜まった生成水が、カソード側に供給される酸化ガスの拡散を阻害してしまい、発電効率を低下させてしまう(フラッディングの発生)という問題が起こり得る。
【0005】
本発明は、膜電極接合体において、アノード側における高いプロトン伝導性を保ちつつ、カソード側の排水性を高めて、発電効率を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池用膜電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜上に形成され、複数の第1の内孔を有するアノード側触媒電極層と、前記電解質膜上において前記アノード側触媒電極層と反対側に形成され、複数の第2の内孔を有するカソード側触媒電極層と、を備え、前記第1の内孔は、アノード側触媒と前記アノード側触媒を担持するアノード側担持体とから成るアノード側触媒粒子間の空隙であり、前記第2の内孔は、カソード側触媒と前記カソード側触媒を担持するカソード側担持体とから成るカソード側触媒粒子間の空隙であり、前記複数の第2の内孔の平均孔径は、前記複数の第1の内孔の平均孔径に比べて大きいことを要旨とする。
【0007】
本発明の燃料電池用膜電極接合体では、アノード側触媒電極層が有する第1の内孔の平均孔径は、カソード側触媒電極層が有する第2の内孔の平均孔径に比べて小さいので、アノード側触媒電極層において比較的高い保水性を保ち、高いプロトン伝導性を保つことができると共に、カソード側触媒電極層において比較的高い排水性を保つことができ、カソード側におけるフラッディングの発生を抑制して、燃料電池用膜電極接合体を用いた燃料電池における発電効率を高めることが可能となる。
【0008】
上記燃料電池用膜電極接合体において、前記アノード側触媒粒子と、前記カソード側触媒粒子と、は互いに同一の組成であるようにしてもよい。
【0009】
このような構成とすることで、アノード側触媒粒子と、カソード側触媒粒子とを、互いに異なる組成とする構成に比べて、燃料電池用膜電極接合体の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、上述した燃料電池用膜電極接合体としての構成の他、上記燃料電池用膜電極接合体を備える燃料電池としても構成することができる。また、これら装置発明の態様に限ることなく、燃料電池用膜電極接合体製造方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
A.燃料電池の構成
図1は、本発明の一実施形態としての燃料電池を適用した燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。この燃料電池システム1000は、燃料電池スタック100と、水素タンク40と、ラジエータ50と、を備えている。燃料電池スタック100は、積層された複数の燃料電池10から構成されている。
【0012】
燃料電池スタック100には、各燃料電池10における電気化学反応に用いられる反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)及び冷却媒体が供給される。具体的には、水素タンク40から配管250aを介して燃料ガスとしての水素が燃料電池スタック100に供給される。電気化学反応で用いられなかった燃料ガスは、配管250bを介して配管250aに戻されて再び燃料電池スタック100に供給される。配管250bには、燃料ガスの循環のための循環ポンプ240が配置されている。また、燃料電池スタック100には、エアポンプ310から配管350aを介して酸化ガスとしての空気が供給される。電気化学反応で用いられなかった酸化ガスは、配管350bを介して大気中に放出される。また、燃料電池スタック100には、ラジエータ50から配管450aを介して冷却媒体としての水が供給される。燃料電池スタック100から排出された水は、配管450bを介してラジエータ50に送られて再び燃料電池スタック100に供給される。配管450bには、水の循環のための循環ポンプ410が配置されている。
【0013】
各反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)は、加湿器(図示省略)で加湿されて燃料電池スタック100に供給される。これは、燃料電池10が有する電解質膜(後述)は、湿潤環境下において高いイオン交換能力を発揮するためである。なお、水素タンク40から水素を供給する代わりに、アルコールや炭化水素などを原料とする改質反応によって水素を生成して供給するようにしても良い。また、冷却媒体として、水の代わりにエチレングリコール等の不凍水や空気等を用いてもよい。
【0014】
図2は、図1に示す燃料電池10の概略構成を示す説明図である。燃料電池10は、膜電極接合体(以下、「MEA」(Membrane-Electrode Assembly)とも呼ぶ)24と、カソード側セパレータ35と、アノード側セパレータ36と、を備えている。カソード側セパレータ35とアノード側セパレータ36とは、MEA24を挟み込むように配置されている。MEA24は、電解質膜21と、電解質膜21上に形成されたカソード側触媒電極層22と、電解質膜21においてカソード側触媒電極層22と反対側の面に形成されたアノード側触媒電極層23と、カソード側触媒電極層22の外側に形成されたカソード側拡散層32と、アノード側触媒電極層23の外側に形成されたアノード側拡散層33と、を備えている。
【0015】
電解質膜21は、スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜であり、Nafion(登録商標)やFlemion(登録商標)やAciplex(登録商標)等を用いることができる。なお、電解質膜21としては、スルホン酸基に限らず、リン酸基やカルボン酸基など、他のイオン交換基を含む膜を用いることができる。カソード側拡散層32とアノード側拡散層33とは、いずれもカーボンペーパーで構成されている。なお、カソード側拡散層32とアノード側拡散層33とは、カーボンペーパー以外にも、例えば、カーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いて構成することができる。カソード側セパレータ35は、ガス不透過の伝導性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板によって構成することができる。カソード側セパレータ35の表面は凸凹形状となっており、カソード側拡散層32とカソード側セパレータ35との間には、酸化ガスが流れる酸化ガス流路37が形成されている。同様にして、アノード側拡散層33とアノード側セパレータ36との間には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路38が形成されている。なお、図2の例では、カソード側セパレータ35は、互いに平行な複数の溝から成る凸凹形状を有しているが、カソード側セパレータ35とカソード側拡散層32との間に酸化ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。また、アノード側セパレータ36についても同様に、アノード側セパレータ36とアノード側拡散層33との間に燃料ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。
【0016】
図3は、図2に示す領域Xの拡大図である。この領域Xは、電解質膜21を挟んでカソード側触媒電極層22とアノード側触媒電極層23とを含む。アノード側触媒電極層23は、内部に多くの細孔(以下、「内孔」と呼ぶ)42aを有している。この内孔42aは、2次粒子と2次粒子との間に形成された空隙である。ここで、2次粒子とは、触媒である白金(P)がカーボン(C)に担持されて成る1次粒子が複数集まったクラスタ状の粒子である。同様に、カソード側触媒電極層22は、2次粒子と2次粒子との間に形成された空隙である内孔42bを内部に多数有している。なお、前述の2次粒子は、請求項におけるアノード側触媒粒子及びカソード側触媒粒子に相当する。
【0017】
カソード側の2次粒子を構成する1次粒子は、前述のアノード側の2次粒子を構成する1次粒子と同一の組成である。しかしながら、カソード側の2次粒子の平均粒子径は、アノード側の2次粒子の平均粒子径に比べて大きくなっている。それゆえ、カソード側の内孔42bの平均径は、アノード側の内孔42aの平均径に比べて大きくなっている。ここで、カソード側触媒電極層22で生成された水は、内孔42bを通ってカソード側触媒電極層22からカソード側拡散層32(図2)へと排出される。そして、内孔42bは比較的大きいので、生成水の圧力損失が比較的小さくなり、カソード側における排水性は比較的高くなる。したがって、カソード側におけるフラッディングを抑制して、酸化ガスをカソード側触媒電極層22に十分に拡散することができ、燃料電池10において高い発電効率を実現することが可能となる。
【0018】
一方、アノード側の内孔42aは比較的小さいので、燃料ガスに含まれる水分は、アノード側触媒電極層23において比較的多く留まることとなる。それゆえ、アノード側における高いプロトン伝導性を保つことができ、燃料電池10において高い発電効率を実現することが可能となる。なお、かかる効果については、燃料ガスが、改質ガスのように炭化水素が残留するおそれのあるガスであるか否かに関わらず認められる。
【0019】
B.MEAの生成処理:
図4は、MEA24の生成処理の手順を示すフローチャートである。ステップS105では、後述する触媒電極層生成処理が実行され、電解質膜21(図2)上にアノード側触媒電極層23及びカソード側触媒電極層22が生成される。ステップS110では、拡散層生成処理が実行され、アノード側触媒電極層23の外側にアノード側拡散層33が形成されると共に、カソード側触媒電極層22の外側にカソード側拡散層32が形成される。具体的には、例えば、カーボンクロスをカソード側触媒電極層22及びアノード側触媒電極層23の外部に配置して、ホットプレスによってカソード側触媒電極層22及びアノード側触媒電極層23に接合することで、カソード側拡散層32及びアノード側拡散層33を形成することができる。
【0020】
図5は、図4に示す触媒電極層生成処理の詳細手順を示すフローチャートである。なお、触媒電極層生成処理の手順の一部は、アノード側とカソード側とで異なっている。まず、ステップS205では、アノード側とカソード側との共通手順として、触媒と電解質溶媒とを混合して共通触媒インクを生成する。ここで、共通触媒インクとは、アノード用の触媒インク(以下、「第1触媒インク」と呼ぶ)と、カソード用の触媒インク(以下、「第2触媒インク」と呼ぶ)とを、生成する際に共通して用いられる触媒インクである。
【0021】
図6は、第1触媒インク及び第2触媒インクの生成処理の手順を模式的に示す説明図である。図6の例では、触媒としての導電性カーボンブラックと、Nafion(登録商標)21%溶媒と、水と、を混合して共通触媒インクCoIを得た。共通触媒インクCoI内における2次粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって測定することができる。なお、共通触媒インクCoI内の2次粒子は、前述の1次粒子(図3)が複数集まったクラスタ状の粒子である。
【0022】
ステップS210a(図5)では、アノード側の手順として、共通触媒インク内の2次粒子を比較的強い力で砕いて、平均粒子径がより小さくなった2次粒子を含む第1触媒インクを生成する。図6の例では、ホモジナイザー600を用いて、比較的強い力で共通触媒インクCoIを攪拌して2次粒子を破砕し、第1触媒インクAnIを生成した。ステップS215a(図5)では、ステップS210aで生成した第1触媒インクを電解質膜21のアノード側に塗布する。
【0023】
同様にして、カソード側の手順として、ステップS210c(図5)では、共通触媒インク内の2次粒子を比較的弱い力で砕いて、第2触媒インクを生成する。図6の例では、ホモジナイザー600を用いて、比較的弱い力で共通触媒インクCoIを攪拌して2次粒子を破砕し、第2触媒インクCaIを生成した。ステップS215c(図5)では、ステップS210cで生成した第2触媒インクを電解質膜21のカソード側に塗布する。次に、ステップS220では、アノード側とカソード側との共通手順として、第1触媒インク及び第2触媒インクを塗布した電解質膜21を自然乾燥させる。
【0024】
以上の処理によって、電解質膜21のアノード側には、図3に示すように、比較的小さな径の内孔42aを有するアノード側触媒電極層23が形成される。一方、電解質膜21のカソード側には、比較的大きな径の内孔42bを有するカソード側触媒電極層22が形成される。これは、第1触媒インクの生成において、共通触媒インクを比較的強い力で砕くことによって、第1触媒インク内の2次粒子の平均径が、第2触媒インク内の2次粒子の平均径に比べて小さくなっているからである。なお、アノード側触媒電極層23における内孔42aの平均径と、カソード側触媒電極層22における内孔42bの平均径とは、ガス吸着法によって測定することができる。例えば、CO(一酸化炭素)吸着法では、各触媒電極層22,23にCOを吹き付けて、各触媒電極層22,23に吸着されたCO量に基づき、内孔42a,42bの平均径を測定することができる。このようにCO吸着法によって内孔42a,42bの平均径を測定する装置として、例えば、触媒ガス吸着量測定装置R−6015(株式会社大倉理研製)を用いることができる。
【0025】
以上説明したように、触媒電極層生成処理では、アノード側で用いる第1触媒インクとカソード側で用いる第2触媒インクとは、いずれも同一組成の共通触媒インクを基材として生成している。したがって、アノード用の触媒インクとカソード用の触媒インクとを、それぞれ異なる触媒インクを基材として生成する製造方法に比べて、MEAの製造コストの上昇を抑制することが可能となる。
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
C.実施例及び比較例:
図7は、本発明の実施例で得られた燃料電池のI(電流)−V(電圧)特性と、比較例の燃料電池のI−V特性を示す説明図である。本実施例では、図5に示す処理によって、燃料電池10の触媒電極層を生成した。具体的には、ステップS205では、図6に示すように、導電性カーボンブラック(エヌ・イーケムキャット株式会社製SA50BK(白金担持50Wt%,担持体ケッチェンブラック))1gと、Nafion(登録商標)21%溶媒(アルドリッチ社製)4.762gと、水10mlと、を混合して共通触媒インクCoIを得た。ここで、この共通触媒インクCoI内に存在する導電性カーボンブラックの2次粒子の平均粒子径は50μmであった。
【0028】
ステップS210aでは、ホモジナイザー600(株式会社日本精機製作所製US−300T)を用いて、比較的強い力(パワーレベル:9)で30分間共通触媒インクCoIを攪拌して2次粒子を破砕し、第1触媒インクAnIを生成した。このようにして得られた第1触媒インクAnI内の2次粒子の平均粒子径は、0.5μmであった。
【0029】
ステップS210bでは、ホモジナイザー600を用いて、比較的弱い力(パワーレベル:8)で30分間共通触媒インクCoIを攪拌して2次粒子を破砕し、第2触媒インクCaIを生成した。このようにして得られた第2触媒インク内CaIの2次粒子の平均粒子径は、3μmであった。
【0030】
一方、比較例では、触媒電極層生成処理において、アノード側についても第2触媒インクCaI(2次粒子径:3μm)を用いる点において、実施例と異なるだけであり、他の条件は実施例と同一とした。なお、このようにして生成された比較例の燃料電池(図示省略)では、アノード側触媒電極層の内孔の平均径と、カソード側触媒電極層の内孔の平均径とは、ほぼ同程度となっている。
【0031】
実際の燃料電池システム1000では、複数の燃料電池10が積層された構成を有しているが、本実施例及び比較例では、それぞれ1つの燃料電池10(単セル)について発電を行わせてI−V特性を得た。具体的には、燃料電池スタック100(図1)に対して燃料ガスとして純度の高い水素ガスを過剰に供給し、また、酸化ガスとして空気を過剰に供給し、燃料電池スタック100に対して電流を供給して、燃料電池10の電圧を測定した。このとき、燃料電池スタック100に供給する電流の電流密度を0(A/cm2)から徐々に増加させていき(往路)、電圧が0.2Vに達した段階で、反対に電流密度を低下させていった(復路)。なお、燃料電池10自体の温度(セル温度)は80℃であり、バブラ温度(反応ガスの加湿温度)は80℃であった。また、ストイキ(空燃比)は、アノード側が1.2で、カソード側が1.5であった。また、背圧は0.1MPaであった。
【0032】
図7に示すように、実施例と比較例とのいずれにおいても、同じ電流密度では、往路の電圧値に比べて復路の電圧値がより高くなっていた。これは、往路における発電の結果、電気化学反応によって水が生成されるので、復路では、かかる生成水によってプロトン伝導性が高まった状態で発電を行うこととなるからである。また、同じ電流密度では、実施例の電圧値は、比較例の電圧値に比べてより高くなっていた。例えば、電流密度が1.4(A/cm2)の場合における実施例の電圧値V2(およそ0.55V)は、比較例の電圧値V1(およそ0.48V)に比べて高くなっていた。このことは、本実施例の燃料電池10は、比較例の燃料電池に比べて発電効率が高いことを示す。そして、本実施例の燃料電池10が、比較例の燃料電池と比べて高い発電効率を示すのは、本発明の燃料電池10は、比較例の燃料電池に比べて、アノード側において保水性が高く、高いプロトン伝導性を保っていることに起因しているものと考えられる。
【0033】
D.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0034】
D1.変形例1:
上述した実施形態では、アノード側の第1触媒インクとカソード側の第2触媒インクとは、同一の組成の共通触媒インクを用いて生成していたが、互いに異なる触媒インクを基材として生成するようにしてもよい。具体的には、例えば、カソード側の基となる触媒インクとして、白金が45Wt%含まれており担持体がケッチェンブラックの触媒を、Nafion(登録商標)溶媒と混合して生成する。一方、アノード側の基となる触媒インクとして、白金が30Wt%含まれており担持体がバルカンブラックの触媒を、Nafion(登録商標)溶媒と混合して生成するようにしてもよい。このような構成であっても、カソード側に比べてより強い力で、アノード側の基となる触媒インクにおいて、触媒の2次粒子を破砕するようにすればよい。そうすると、アノード側触媒電極層の内孔がカソード側触媒電極層の内孔よりも小さくなり、アノード側における保水性を比較的高くすることができると共に、カソード側における排水性を比較的高くすることができる。なお、このようにアノード側とカソード側とで互いに異なる触媒インクを基材として用いる場合において、アノード側の基となる触媒インク内の2次粒子の径が、カソード側の基となる触媒インク内の2次粒子の径に比べて小さいのであれば、それぞれの基となる触媒インクにおいて、触媒の2次粒子を互いに同じ強さで破砕するようにしてもよい。
【0035】
D2.変形例2:
上述した実施例では、共通触媒インクを基材として第1触媒インク及び第2触媒インクを生成する際に、ホモジナイザー600を用いて超音波で2次粒子を破砕するようにしていたが、他の任意の方法で2次粒子を破砕するようにしてもよい。具体的には、例えば、ボールミルやロールミルを用いて、2次粒子をすりつぶして破砕するようにしてもよい。或いは、2次粒子を飛ばして粒子同士の衝突エネルギーで破砕する方法を採用してもよい。
【0036】
D3.変形例3:
上述した実施例におけるインクに用いられた触媒は、白金をカーボンで担持して構成されていたが、他の任意の構成とすることができる。例えば、触媒として白金に代えてパラジウムやイリジウム等の貴金属をはじめ、種々の金属、合金、酸化物を用いることができる。また、担持体として、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればよく、グラファイト、フラーレン、各種金属粉末等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池を適用した燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す燃料電池10の概略構成を示す説明図である。
【図3】図2に示す領域Xの拡大図である。
【図4】MEA24の生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す触媒電極層生成処理の詳細手順を示すフローチャートである。
【図6】第1触媒インク及び第2触媒インクの生成処理の手順を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の実施例で得られた燃料電池のI(電流)−V(電圧)特性と、比較例の燃料電池のI−V特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10…燃料電池
100…燃料電池スタック
21…電解質膜
22…触媒電極層
22…カソード側触媒電極層
23…アノード側触媒電極層
24…膜電極接合体(MEA)
32…カソード側拡散層
34…アノード側拡散層
35…カソード側セパレータ
36…アノード側セパレータ
37…酸化ガス流路
38…燃料ガス流路
40…水素タンク
42a,42b…内孔
50…ラジエータ
240…循環ポンプ
250a…配管
250b…配管
310…エアポンプ
350a…配管
350b…配管
410…循環ポンプ
450a…配管
450b…配管
600…ホモジナイザー
1000…燃料電池システム
X…領域
CaI…第2触媒インク
AnI…第1触媒インク
CoI…共通触媒インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用膜電極接合体であって、
電解質膜と、
前記電解質膜上に形成され、複数の第1の内孔を有するアノード側触媒電極層と、
前記電解質膜上において前記アノード側触媒電極層と反対側に形成され、複数の第2の内孔を有するカソード側触媒電極層と、
を備え、
前記第1の内孔は、アノード側触媒と前記アノード側触媒を担持するアノード側担持体とから成るアノード側触媒粒子間の空隙であり、
前記第2の内孔は、カソード側触媒と前記カソード側触媒を担持するカソード側担持体とから成るカソード側触媒粒子間の空隙であり、
前記複数の第2の内孔の平均孔径は、前記複数の第1の内孔の平均孔径に比べて大きいことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体において、
前記アノード側触媒粒子と、前記カソード側触媒粒子と、は互いに同一の組成である、
燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池用膜電極接合体を備える燃料電池。
【請求項4】
燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、
(a)電解質膜を用意する工程と、
(b)前記電解質膜上に、複数の第1の内孔を有するアノード側触媒電極層を形成する工程と、
(c)前記電解質膜上において前記アノード側触媒電極層と反対側に、複数の第2の内孔を有するカソード側触媒電極層を形成する工程と、
を備え、
前記第1の内孔は、アノード側触媒と前記アノード側触媒を担持するアノード側担持体とから成るアノード側触媒粒子間の空隙であり、
前記第2の内孔は、カソード側触媒と前記カソード側触媒を担持するカソード側担持体とから成るカソード側触媒粒子間の空隙であり、
前記複数の第2の内孔の平均孔径は、前記複数の第1の内孔の平均孔径に比べて大きいことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池用膜電極接合体製造方法であって、さらに、
(d)触媒と前記触媒の担持体とから成る共通触媒粒子を含む共通触媒インク内の、前記共通触媒粒子を、第1の粒子径となるように砕いて、第1の触媒インクを生成する工程と、
(e)前記共通触媒インク内の、前記共通触媒粒子を、前記第1の粒子径よりも大きな第2の粒子径となるように砕いて、第2の触媒インクを生成する工程と、
を備え、
前記工程(b)において、前記アノード側触媒電極層は、前記第1の触媒インクを用いて形成され、
前記工程(c)において、前記カソード側触媒電極層は、前記第2の触媒インクを用いて形成される、
燃料電池用膜電極接合体製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−226468(P2008−226468A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58372(P2007−58372)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】