説明

燃料電池用蒸発器

【課題】蒸発室において安定した蒸発を実現することで改質反応および燃料電池における発電を安定させるのに有利な燃料電池用蒸発器を提供する。
【解決手段】蒸発器200は、蒸発室301を有する箱体300と、球状をなす複数のセラミックスを母材として形成された蒸発促進材500を含む充填材503とを有する。箱体300は、底壁331と、側壁332と、底壁331および側壁332を交差させるコーナ角壁333とを有する。コーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率半径をR1とし、蒸発促進材500の曲率半径をR2とする。R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を水蒸気で改質させてアノードガスを生成させるために、液相状の改質水を蒸発させて水蒸気を生成させる燃料電池用蒸発器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、蒸発室にセラミックス製の蒸発促進材を充填して、伝熱面積を増加させた燃料電池用蒸発器が開示されている。特許文献2では、燃料を改質させる改質器が横軸形の円筒型とされた燃料電池装置が開示されている。但し、改質器が横軸形の円筒型とされているものの、蒸発部の構造は不明である。特許文献3では、改質器の底壁が下方に凸形状とされた横流し型の燃料電池装置が開示されている。但し、改質器の底壁が下方に凸形状とされているものの、蒸発部構造は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-289852号公報
【特許文献2】特開2005-158716号公報
【特許文献3】特開2005-332762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池のアノードに供給されるアノードガスは水素を主要成分して含むものであり、燃料を水蒸気で改質させることにより形成される。このため、アノードガスにおける水素濃度を安定化させるためには、液相状の水を安定的に水蒸気とさせることが好ましい。
【0005】
特許文献1に係る技術は、水が上下方向に流れることを想定しているため、水蒸発を安定して発生させることに関しては、問題視しない。特許文献2に係る技術によれば、改質器が横流し構造とされているにも関わらず、蒸発部の構造、特に底壁と側壁とのコーナ角壁については、言及されていない。蒸発促進材として機能するセラミックス等の充填材を蒸発室の内部に配置させるかの有無についても、言及されておらず、充填材の存在、充填剤の形状、サイズは不明である。特許文献3によれば、蒸発部の構造、蒸発促進用として蒸発部の蒸発室に収容されるセラミックス等の充填材の有無は不明である。特許文献2、3に係る技術によれば、仮に、蒸発促進材して機能するセラミックス等の充填材が使用されていたとしても、充填材の形状、大きさについては言及がないため、箱体の底壁と側壁とのコーナ角壁の内壁面において、液相状の改質水が局部的に溜まるおそれが高い。この場合、コーナ角壁の内壁面に存在する液相状の水の蒸発の安定性は必ずしも充分ではない。故に、蒸発器の下流に配置されている改質部における水蒸気を利用した改質反応への影響が避けられない。この場合、改質部で改質反応により生成されるアノードガスの水素濃度がばらつくおそれがある。ひいては燃料電池における発電反応への影響が避けられないおそれがある。
【0006】
一般的には、蒸発器を形成する箱体によれば、横方向に沿って延設された底壁と、底壁に対して立設された側壁とを備えている。底壁と側壁との境界域では、底壁および側壁を交差させつつ連設させるコーナ角壁とされている。このコーナ角壁の内壁面側に充填材が装填されにくく、コーナ角壁の内壁面側に空間隙間が発生し易い。このため、蒸発室に供給された改質用の液相状の水がコーナ角壁の内壁面側に局部的に溜まったり、流れたりするおそれが高い。コーナ角壁の内壁面側に局部的に存在する液相状の水は、セラミックス等の充填材(蒸発促進材)の表面に膜状に付着した水膜に比較して、蒸発が遅れがちである。場合によっては、液相状の水のまま存在するおそれがある。この場合、蒸発器を形成する箱体の底壁側のコーナ角壁の内壁面側に溜まっている水が不規則に蒸発し、蒸発室における圧力変動を誘発させるおそれがある。この場合、改質器における改質反応に影響を与えるおそれがある。更に、燃料ガスを水蒸気で改質させることにより生成されるアノードガスの組成がばらつくおそれがある。即ち、アノードガスに含まれる水素の濃度がばらつくおそれがある。この場合、燃料電池の発電性能にも影響を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、蒸発室において安定した蒸発を実現することで改質反応および燃料電池に置ける発電を安定させるのに有利な燃料電池用蒸発器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の様相1に係る燃料電池用蒸発器は、蒸発室を形成する壁と蒸発室に改質水を供給させる給水口と蒸発室で生成させた水蒸気を改質部に向けて吐出させる水蒸気出口とを有する箱体と、蒸発室に収容され球状をなす複数の蒸発促進材含む充填材とを具備しており、箱体を高さ方向に沿って切断した断面において、箱体は、横方向に沿って延設された底壁と、底壁に対して立設された側壁と、底壁および側壁を交差させつつ連設させるコーナ角壁とを有しており、コーナ角壁のうち蒸発室に対面する内壁面の曲率半径をR1とし、蒸発促進材の曲率半径をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。曲率半径R1としては、コーナ角壁のうち蒸発室に対面する内壁面の曲率が変化する変極部分の曲率半径として定義される。
【0009】
本様相によれば、蒸発室に供給される改質水は、塊状の水ではなく、球状をなす複数の蒸発促進材の表面に水を薄い膜状に付着させるため、水の表面積が増大し、水の蒸発を促進できる。
【0010】
更に本様相によれば、箱体の底壁側のコーナ角壁のうち蒸発室に対面する内壁面の曲率半径をR1とし、球状をなす蒸発促進材の曲率半径(球径の半分)をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。このため、箱体の底壁側のコーナ角壁の内壁面側に球状の蒸発促進材が存在する確率が増加する。従って、箱体の底壁側のコーナ角壁の内壁面側に形成される空間隙間の大きさが抑えられる。故に、液相状の水がコーナ角壁の内壁面に局部的に多量に存在することが抑制される。この結果、コーナ角壁の内壁面に局部的に存在する水が液相状のまま残留したり、あるいは、加熱に伴い急激に蒸発したりすることが抑制される。したがって、蒸発室における改質水の蒸発ムラが低減される。このため、蒸発器の下流に設けられている改質部において、水蒸気を利用した改質反応が実行されるとき、改質反応のばらつきが抑制される。よって、改質部において水蒸気改質で生成されるアノードガスの水素濃度のばらつきが低減され、アノードガスの組成が安定する。ひいては燃料電池における発電反応が安定する。
【0011】
(2)本発明の様相2に係る燃料電池用蒸発器によれば、上記した様相において、蒸発促進材は、セラミックスを母材として形成されている。蒸発促進材における錆や酸化等の発生が防止される。セラミックスとしては、酸化物系、窒化物系、炭化物系等のいずれでも良い。セラミックスは蓄熱材としても機能でき、蒸発室における温度の過剰変動を抑制でき、蒸発作用を安定化できる。セラミックスとしては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、ジルコニア、マグネシア、ムライト、炭化珪素、チタニア、スピネル等のうちの少なくとも1種が例示される。セラミックスとしては非多孔質体でも良いし、多孔質体でも良い。セラミックスとしては中実体でも良いし、軽量化を考慮してセラミックスバルーン等の中空状でも良い。
【0012】
(3)本発明の様相3に係る燃料電池用蒸発器によれば、上記した様相において、充填材は、サイズが異なる複数種類の蒸発促進材を備えている。小さなサイズの蒸発促進材はコーナ角壁の内壁面側に存在することが好ましい。この場合、コーナ角壁の内壁面側の微小隙間の大きさを小さくさせ易い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、箱体の底壁側のコーナ角壁のうち蒸発室に対面する内壁面の曲率半径をR1とし、球状の蒸発促進材の曲率半径をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。このため、箱体の底壁側のコーナ角壁の内壁面側に球状の蒸発促進材が存在することができる。従って、箱体の底壁側のコーナ角壁の内壁面側に形成される空間隙間の大きさが抑えられる。故に、液相状の水が底壁のコーナ角壁の内壁面に局部的に多量に存在することが抑制される。この結果、底壁のコーナ角壁の内壁面に局部的に存在する水が液相状のまま残留したり、あるいは、加熱に伴い急激に蒸発したりすることが抑制される。したがって、蒸発室における改質水の蒸発ムラが低減される。このため、蒸発器の下流に設けられている改質部において、水蒸気を利用した改質反応が実行されるとき、改質反応のばらつきが抑制される。よって、改質部において水蒸気改質で生成されるアノードガスの水素濃度のばらつきが低減され、アノードガスの組成が安定する。ひいては燃料電池における発電反応が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係り、改質器を一体化させた構造をもつ蒸発器付近の要部の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿って且つ高さ方向に沿って蒸発器を切断した断面図である。
【図3】コーナ角壁付近の拡大断面図である。
【図4】実施形態2に係り、コーナ角壁付近の拡大断面図である。
【図5】実施形態3に係り、コーナ角壁付近の拡大断面図である。
【図6】実施形態4に係り、コーナ角壁付近の拡大断面図である。
【図7】適用形態に係り、蒸発器を搭載する燃料電池システムを模式的に示すシステム図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、燃料電池用蒸発器200は、水蒸気や燃料ガスを縦方向ではなく、横方向に沿って流す横流し方式であり、長い箱体300を備える。箱体300の高さ方向を矢印H方向として示す。箱体300の長手方向を矢印L方向として示す。箱体300は、蒸発室301を形成する壁302と、蒸発室301に液相状の改質水を供給させる給水口303と、蒸発室301で生成させた水蒸気を吐出させる水蒸気出口304とを有する。給水口303には、給水流路420を形成する給水配管421が形成されている。蒸発室301には、球状をなすセラミックスからなる複数の蒸発促進材500で形成された充填材503が収容されている。蒸発促進材500は、表面に水を付着して水膜を形成することができ、水蒸気化を促進できる。このように蒸発促進材500は、改質水の表面積を増加させて水蒸気化を促進させる機能を有する。蒸発促進材500は、セラミックスを母材として形成されているため、蓄熱作用をもち、蒸発室301の温度を安定させ、水蒸気化作用を安定させる機能も果たす。なお、蒸発促進材500の装填量としては、蒸発促進材500が改質水の給水口303や燃料ガスのガス入口321を閉鎖しない方が好ましい。
【0016】
蒸発器200は改質器も兼用するものであり、改質器を一体的に備えている。従って、箱体300は、蒸発室301に仕切壁305を介して隣接するように改質室311をもつ改質部310を有する。仕切壁305は、水蒸気を改質室311に流入させるための水蒸気出口304を形成する。蒸発室301で生成された水蒸気は、仕切壁305および水蒸気出口304を介して矢印M1方向に流れ、改質室311に流入できる。改質室311には、燃料ガスの改質反応を促進させるための改質用触媒を担持させた球状をなす複数のセラミックス担体313が収容されている。燃料ガス流路320は箱体300に接続されている。燃料ガス流路320からガス入口321を介して供給された炭化水素系の燃料ガスは、蒸発室301を通過した後に、水蒸気出口304を介して改質室311に流入し、改質室311において水蒸気改質される。これにより水素を主成分として含むアノードガスが形成される。燃料としてはメタン系、プロパン系、ブタン系等の炭化水素系が例示される。燃料ガスが例えばメタン系(CH)である場合には、次式により水蒸気改質され、水素を主成分とするアノードガスが生成される。CH+HO→CO+3H(吸熱反応)
【0017】
スタック400が固体酸化物形であれば、HおよびCOが発電反応に寄与できる。図2は、蒸発器200を構成する箱体300をこれの高さ方向(矢印H方向)に沿って切断した断面を示す。図2に示すように、蒸発器200を構成する箱体300は、横方向(水平方向)に沿って延設された金属製の底壁331と、底壁331に対して立設された金属製の側壁332と、底壁331および側壁332を交差させつつ連設させる金属製のコーナ角壁333と、横方向(水平方向)に沿った金属製の上壁334とを有する。上壁334は平坦状をなしており、底壁331に沿っていることが好ましい。上壁334は、溶接等で側壁332に固定された上蓋としても良い。
【0018】
図3に示すように、コーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率中心をC1とし、内壁面333iの曲率半径をR1とし、球状の蒸発促進材500の曲率半径をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。R1/R2としては、例えば1.2〜10の範囲、1.5〜7の範囲の任意値とすることが好ましい。蒸発促進材500の曲率半径をR2としては、0.2〜20ミリメートルの範囲、0.3〜10ミリメートルの範囲の任意値にできるが、これらに限定されるものではなく、蒸発器200の種類によって適宜選択できる。蒸発促進材500は複数存在するものの、同サイズであることが好ましい。水蒸気の発生ムラに貢献できるためである。
【0019】
ここで、球状の蒸発促進材500の曲率半径R2が過少であると、蒸発促進材500のサイズが過少となり、隣接する蒸発促進材500間の隙間流路が狭くなり、液相状の改質水および気相状の水蒸気が透過しにくくなる。球状の蒸発促進材500の曲率半径R2が過大であると、蒸発促進材500のサイズが過大となり、R2がR1に接近したり、R1よりも大きくなるおそれがある。コーナ角壁333の外壁面333pの曲率半径をR4とすると、外壁面333pは内壁面333iよりも外側に位置するため、一般的には、R4はR1よりも大きいか同じ程度である。なお、コーナ角壁333の内壁面333iの曲率半径R1が過大になると、コーナ角壁333の外壁面333pの曲率半径R4も大きくなり、燃焼部600の燃焼火炎605の受熱面積が小さくなる。
【0020】
本実施形態によれば、改質室311については、液相状の改質水が直接供給されることは基本的には抑えられているため、コーナ角壁333が存在していても、改質室311においてR1>R2の関係にする必要性は実質的にはない。但し、蒸発器200は改質器兼用として形成されているため、製造過程の事情により、改質室311側のコーナ角壁333についても、R1>R2の関係を維持させる曲率半径とさせても良い。
【0021】
箱体300は金属板のプレス成形等の機械加工を利用して成形できる。従って、底壁331、側壁332、コーナ角壁333についても、金属板のプレス成形等の機械加工により成形できる。金属としては炭素鋼、合金鋼(ステンレス鋼を含む)、チタン合金、銅合金等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
側壁332は、互いに対向しており、鉛直線に沿っており、上下方向に沿って延びることが好ましい。もし、互いに対向する2つの側壁332が、上方(矢印U方向)に向かうにつれて間隔WA(図2参照)が大きく増加するように拡開傾斜されているときには、底壁331の受熱面積が小さくなり、更に、コーナ角壁333の外壁面333pの外方側のデッドスペース380(図3参照)が増加し、蒸発促進材500を蒸発室301に装填させる装填効率が低下するおそれがある。更に、側壁332の外側に形成されるガス流路610の流路幅が狭くなり、排ガスの排出性に影響を与えるおそれがある。このため側壁332は、鉛直方向に沿って高さ方向(矢印H方向)に延設されていることが好ましい。省スペース化のため、蒸発器200の幅サイズが制約されている条件において、R1が過剰に大きくなると、コーナ角壁333の外壁面333pの外方側のデッドスペース380が増加し、底壁331の受熱面積が低下し、好ましくない。故に、底壁331の受熱面積を確保させるためには、コーナ角壁333の内壁面333iの曲率半径R1は、R1>R2の関係を維持させつつ、小さい方が好ましい。なお、内壁面333iの曲率半径R1を過剰に小さくすると、曲率半径R1は、蒸発促進材500の曲率半径R2よりも小さくなり、R1>R2の関係が得られなくなるため、注意することが好ましい。
【0023】
図2に示すように、箱体300の底壁331の下方には、複数の燃料電池で形成されたスタック400が配置されている。スタック400と箱体300との間には、燃焼部600が形成されている。燃焼部600において生成される燃焼火炎605による底壁331の均一加熱性を考慮すると、スタック400の上面402と箱体300の底壁331との距離MAは、上面402の幅方向(図2に示す矢印MB方向)に沿ってほぼ均等であることが好ましい。なお、燃料電池は固体酸化物形(SOFC)とすることができる。この場合、燃料電池は、Niおよび/またはNiOおよび希土類元素を含むジルコニア系のアノード、希土類元素を含むジルコニア系の電解質膜、ペロブスカイト型のカソードを有する。
【0024】
スタック400の上面402からアノードオフガスが矢印W1方向に燃焼部600に向けて吐出されて、燃焼部600において燃焼し、燃焼火炎605を形成する(水素の燃焼火炎は可視光ではなく、ユーザの肉眼では視認できない)。アノードオフガスはスタック400から排出されたものであり、発電反応において消費されなかった水素を含むため、可燃性をもつ。燃焼部600には図示しないものの着火部が設けられている。燃焼部600における燃焼より、箱体300の底壁331が加熱される。燃焼された高温の排ガス、燃焼部600において燃焼しなかった可燃性をもつアノードオフガスは、箱体300を構成する互いに対向する側壁332の外壁面332pに沿って矢印W2方向に沿って流れ、側壁332を加熱させる。これにより蒸発室301の全体における蒸発が促進される。高温の排ガスおよび/または可燃性をもつアノードオフガスは箱体300の上壁334にも接触するため、上壁334から蒸発室301も加熱される。
【0025】
本実施形態によれば、蒸発室301に供給される改質水は、セラミックスを母材として形成されている蒸発促進材500の表面に薄い水膜として付着できるため、塊状の改質水となりにくく、改質水の蒸発が促進される。本実施形態によれば、前述したように、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率半径をR1とし、球状の蒸発促進材500の曲率半径をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている。このため、図3に示すように、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333の内壁面333i側においても、球状の蒸発促進材500が効率よく存在することができる。従って、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333の内壁面333i側に形成される空間隙間の大きさが抑えられる。故に、液相状の改質水(以下、水ともいう)が底壁331のコーナ角壁333の内壁面333iに局部的に多量に存在することが抑制される。この結果、底壁331のコーナ角壁333の内壁面333iに局部的に存在する水が液相状のまま残留したり、あるいは、加熱に伴い急激に蒸発したりすることが抑制される。したがって、蒸発室301における改質水の蒸発ムラが低減され、蒸発室301における急激な圧力変動が抑制される。
【0026】
このため、蒸発器200の下流に設けられている改質部310において、燃料ガスを水蒸気を利用して改質反応によりアノードガスを生成させるとき、改質反応におけるばらつきが抑制される。よって、改質部310において水蒸気改質で生成されるアノードガスの水素濃度のばらつきが低減され、アノードガスの組成が安定する。ひいては安定した組成のアノードガスが燃料電池のアノードに供給されるため、燃料電池のスタック400における発電反応が安定する。
【0027】
球状の充填材503は、セラミックスを母材として形成されている。セラミックスであれば、蒸発器200の壁302が高温に加熱されるときであっても、表面酸化、溶融等の変質劣化が抑制される。セラミックスとしては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、ジルコニア、マグネシア、ムライト、炭化珪素、チタニア、スピネル等のうちの公知のセラミックスの少なくとも1種が例示される。非多孔質体でも良いし、多孔質体でも良い。非多孔質体であれば、水がセラミックスに過剰に吸収されることを抑制できる。多孔質体であれば、保水性を高め得る。球状の蒸発促進材500の曲率半径R2としては、具体的に、0.3〜10ミリメール、殊に、0.7〜5ミリメールにできる。但しこれに限定されるものではなく、適宜変更できる。球状は、疑似球状も含む意味である。疑似球状については、直交する複数の断面を複数回測定した直径寸法のばらつきが40%以内が好ましい。殊に、30%以内、20%以内、10%以内のものをいうことが好ましい。なお、蒸発促進材500が多少楕円球、長円球であったとしても、その長径をR2とするとき、R1>R2の関係が維持されていれば良い。蒸発促進材500が球状であるため、隣設する蒸発促進材500同士の隙間幅のばらつき低減に有利となり、蒸発機能のばらつき低減に貢献できる。
【0028】
なお、重力の関係で、上壁334側には改質水は溜まらない。このため、箱体300の上壁334側にコーナ角壁が仮に存在するとしても、上壁334側のコーナ角壁については本発明構造を実施せずとも良い。但し、製造過程上の理由等により実施しても良い。
【0029】
(実施形態2)
図4は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成であり、同様の作用および効果を示す。充填材503は、サイズが異なるセラミックスを母材として形成されている複数種類の蒸発促進材500を備えている。具体的には、製造過程において、蒸発室301に仕切部材700を配置する。これにより蒸発室301は、コーナ角壁333側の第1室301fと、コーナ角壁333から離間する第2室301sとに仕切られる。サイズが相対的に小さなセラミックスを母材として形成されている球状の第1蒸発促進材500fは、第1室301fに配置される。サイズが相対的に大きなセラミックスを母材として形成されている球状の第2蒸発促進材500sは、第2室301sに配置される。その後、仕切部材700が蒸発室301から取り外される。
【0030】
仕切部材700が取り外されたとしても、第1蒸発促進材500fおよび第2蒸発促進材500sは密に装填されているため、過剰に移動して混合することが抑えられる。このため、サイズが相対的に小さなセラミックスを母材として形成されている球状の第1蒸発促進材500fは、コーナ角壁333の内壁面333iに集中され易い。その後、蒸発器200の組付が終了される。
【0031】
このようにすれば、サイズが相対的に小さなセラミックスを母材として形成されている球状の第1蒸発促進材500f(曲率半径R2)を、コーナ角壁333の内壁面333iに集中させ易い利点が得られる。このような本実施形態によれば、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率半径R1は、蒸発促進材500の曲率半径R2よりも大きくさせ易い(R1>R2)。しかも、コーナ角壁333のうち内壁面333iの曲率半径R1を相対的に小さくでき、コーナ角壁333の外側に存在するデッドスペース380をなるべく小さくできる。故に、箱体300の小型化を図りつつ、蒸発促進材500の装填効率を高めることができる。デッドスペース380を小さくすれば、底壁331の受熱面積を増加でき、蒸発器200の加熱効率を高めることができる。
【0032】
(実施形態3)
図5は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成であり、同様の作用および効果を示す。本実施形態によれば、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率半径R1は、蒸発促進材500の曲率半径R2よりも大きくされている(R1>R2)。更に、底壁331の内壁面は、コーナ角壁333から横方向にそって離間するにつれて下方(矢印D1方向)に傾斜するようにされている。従って、底壁331の内壁面は、仮想水平線WPに対して角度θ1傾斜する傾斜面335と、仮想水平線WPに沿って水平に延設され且つ傾斜面335に連設された連設面336とを備えている。万一、コーナ角壁333の内壁面333iに液相状の水が過剰に存在するときであっても、その水を傾斜面335に沿って底壁331の内壁面において矢印K1方向に緩やかに水膜状に流下させることができ、水蒸気化を促進できる。角度θ1は微小角度であり、0.05〜10°の範囲、または0.1〜5°の範囲内の任意値にできる。このように角度θ1を小さく抑えれば、コーナ角壁333側の水は傾斜面335に沿って水膜状に流下されつつも、底壁331は実質的に仮想水平線WPに沿っており、スタック400の上面402と箱体300の底壁331の外壁面との距離MAの変動が抑えられる。ひいては、底壁331の加熱効果におけるばらつきが抑制される。
【0033】
(実施形態4)
図6は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1〜3と基本的には同様の構成であり、同様の作用および効果を示す。本実施形態によれば、箱体300の底壁331側のコーナ角壁333のうち蒸発室301に対面する内壁面333iの曲率半径R1は、球状の蒸発促進材500の曲率半径R2よりも大きくされている(R1>R2)。更に図5に示すように、側壁332の内壁面332iは、コーナ角壁333から高さ方向(矢印H方向)にそって上方に向かうにつれて横方(矢印M2方向)に傾斜するように成形されている。従って、側壁332の内壁面332iは、仮想鉛直線HPに対して角度θ拡開するように傾斜されている。このため矢印W2方向に流れる高温の排ガスは、側壁332の外壁面332pに接触し易くなり、側壁332を効率よく加熱でき、蒸発室301における蒸発を良好に行い得る。なお、角度θ2は適宜でき、0.5〜15°の範囲、または1〜10°の範囲内の任意値にできる。
【0034】
(適用形態)
図7は適用形態の概念を模式的に示す。図7に示すように、燃料電池システムは、スタック1と、液相状の水を蒸発させて水蒸気を生成させる蒸発部2を有する蒸発器と、蒸発部2で生成された水蒸気を用いて燃料を改質させてアノードガスを形成する改質部3と、蒸発部2に供給される液相状の水を溜めるタンク4と、これらを収容するケース5とを有する。スタック1は、イオン伝導体を挟むアノード10とカソード11とをもち、例えば、SOFCとも呼ばれる固体酸化物形燃料電池(運転温度:例えば400℃以上)とされている。改質部3は、セラミックス等の担体に改質触媒を担持させて形成されており、蒸発部2に隣設されている。改質部3および蒸発部2は改質部2Aを構成しており、スタック1と共に断熱壁19で包囲され、発電モジュール18を形成している。発電モジュール18内には、改質部3,蒸発部2を加熱する燃焼部105が設けられている。アノード10側から排出されたアノード排ガスは、流路103を介して燃焼部105に供給される。カソード11側から排出されたカソード排ガスは、流路104を介して燃焼部105に供給される。起動時には、燃焼部105は、アノード10から供給された改質前のガスを、カソード11から供給されたカソードガスで燃焼させ、蒸発部2および改質部3を加熱させる。
【0035】
発電運転時には、燃焼部105はアノード10(燃料極)から排出されたアノード排ガスを、カソード11(酸化剤極)から排出されたカソード排ガスで燃焼させ、蒸発部2および改質部3を加熱させる。燃焼部105には燃焼排ガス路75が設けられ、燃焼部105における燃焼後のガス、未燃焼のガスを含む燃焼排ガスが燃焼排ガス路75を介して大気中に放出される。改質部3の温度を検出する温度センサ33が設けられている。着火させるヒータである着火部35が燃焼部105に設けられている。着火部35は着火できるものであれば何でも良い。外気の温度を検出する外気温度センサ57が設けられている。温度センサ33,57の信号は制御部100Xに入力される。制御部100Xは警報器102に警報を出力する。
【0036】
発電運転時には、改質部2Aは改質反応に適するように断熱壁19内において加熱される。発電運転時には、蒸発部2は水を加熱させて水蒸気とさせ得るように加熱される。スタック1がSOFCタイプの場合には、アノード10側から排出されたアノード排ガスとカソード11側から排出されたカソード排ガスが燃焼部105で燃焼するため、改質部3および蒸発部2は、発電モジュール18の内部において同時に加熱される。図7に示すように、ガス流路6は、ガス源63からガスを改質器2Aに供給させるものであり、ポンプ60、脱硫装置65をもつ。スタック1のカソード11には、カソードガス(空気)をカソード11に供給させるためのカソードガス流路70が繋がれている。カソードガス流路70には、カソードガス搬送用の搬送源として機能するカソードポンプ71が設けられている。
【0037】
図7に示すように、ケース5は外気に連通する吸気口50と排気口51とをもち、更に、第1室である上室空間52と、第2室である下室空間53とをもつ。スタック1は、改質部3および蒸発部2と共に発電モジュール18を形成し、ケース5の上側つまり上室空間52に収容されている。ケース5の下室空間53には、改質部3で改質される液相状の水を溜めるタンク4が収容されている。タンク4には、電気ヒータ等の加熱機能をもつ加熱部40が設けられている。加熱部40は、タンク4に貯留されている水を加熱させるものであり、電気ヒータ等で形成できる。外気温度等の環境温度が低いとき等には、制御部100Xからの指令に基づいて、タンク4の水は加熱部40により所定温度以上に加熱され、凍結が抑制される。図7に示すように、下室空間53側のタンク4の出口ポート4pと上室空間52側の蒸発部2の入口ポート2iとを連通させる給水流路8が、配管としてケース5内に設けられている。給水流路8は、タンク4内に溜められている水をタンク4から蒸発部2に供給させる流路である。給水流路8には、タンク4内の水を蒸発部2まで搬送させる水搬送源として機能するポンプ80が設けられている。更に、制御部100Xはポンプ80,71,79,60を制御する。
【0038】
さて起動時において、ポンプ60が駆動すると、ガス管6wのガス流路6からガスが蒸発部2,改質部3,アノードガス流路73,スタック1のアノード10,流路103を介して燃焼部105に流れる。カソードポンプ71によりカソードガス(空気)がカソードガス流路70、カソード11,流路104を介して燃焼部105に流れる。この状態で着火部35が着火すると、燃焼部105において燃焼が発生し、改質部3および蒸発部2が加熱される。このように改質部3および蒸発部2が加熱された状態で、ポンプ80が駆動すると、タンク4内の水はタンク4の出口ポート4pから蒸発部2の入口ポート2iに向けて給水流路8内を搬送され、蒸発部2で加熱されて水蒸気とされる。水蒸気は、ガス流路6から供給されるガスと共に改質部3に移動する。ガスは改質部3において水蒸気で改質されてアノードガス(水素含有ガス)となる。アノードガスはアノードガス流路73を介してスタック1のアノード10に供給される。更にカソードガス(酸素含有ガス、ケース5内の空気)がカソードガス流路70を介してスタック1のカソード11に供給される。これによりスタック1が発電する。アノード10から排出されたアノードオフガス、カソード11から排出されたカソードオフガスは、流路103,104を通過し、燃焼部105に至り、燃焼部105で燃焼される。高温の排ガスは、排ガス流路75を介してケース5の外方に排出される。
【0039】
上記したシステムの発電運転時において、ポンプ80が駆動すると、タンク4内の水は、タンク4の出口ポート4pから蒸発部2の入口ポート2iに向けて給水管8wの給水流路8内を搬送され、蒸発部2で加熱されて水蒸気とされる。水蒸気はガス流路6から供給されるガスと共に改質部3に移動する。改質部3において燃料は、水蒸気で改質されてアノードガス(水素含有ガス)となる。なお燃料がメタン系である場合には、水蒸気改質によるアノードガスの生成は、次の(1)式に基づくと考えられている。但し燃料はメタン系に限定されるものではなく、プロパン系等でも良い。
(1)…CH+2HO→4H+CO
CH+HO→3H+CO
生成されたアノードガスはアノードガス流路73を介してスタック1のアノード10に供給される。更にカソードガス(酸素含有ガス、ケース5内の空気)がカソードガス流路70を介してスタック1のカソード11に供給される。これによりスタック1が発電する。スタック1で排出された高温の排ガスは、排ガス流路75を介してケース5の外方に排出される。
【0040】
排ガス流路75には、凝縮機能をもつ熱交換器76が設けられている。貯湯槽77に繋がる貯湯流路78および貯湯ポンプ79が設けられている。貯湯流路78は往路78aおよび復路78cをもつ。貯湯槽77の低温の水は、貯湯ポンプ79の駆動により、貯湯槽77の吐出ポート77pから吐出されて往路78aを通過し、熱交換器76に至り、熱交換器76により加熱される。熱交換器76で加熱された温水は、復路78cを介して帰還ポート77iから貯湯槽77に帰還する。このようにして貯湯槽77の水は温水となる。前記した排ガスに含まれていた水蒸気は、熱交換器76で凝縮されて凝縮水となる。凝縮水は、熱交換器76から延設された凝縮水流路42を介して重力等により水精製器43に供給される。水精製器43はイオン交換樹脂等の水精製剤43aを有するため、凝縮水の不純物は除去される。不純物が除去された水は水タンク4に移動し、水タンク4に溜められる。ポンプ80が駆動すると、水タンク4内の水は給水流路8を介して高温の蒸発部2に供給され、蒸発部2で水蒸気とされて改質部3に供給され、改質部3において燃料を改質させる改質反応として消費される。本適用形態における蒸発部2の構造は、前記した各実施形態に係る構造とされており、R1>R2の関係とされている。
【0041】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。充填材503は蒸発促進材500で形成されているが、他のセラミックス材を含むことにしても良い。燃料電池のスタックは、固体酸化物形燃料電池に限定されず、場合によっては、固体高分子電解質形燃料電池でも良いし、リン酸形燃料電池でも良く、溶融炭酸塩形燃料電池でも良い。蒸発器200は改質部と一体化されているが、これに限らず、蒸発器200は改質部に対して離間しつつ独立して設けられていても良い。改質器に供給される燃料も特に制限されず、都市ガス、プロパンガス、バイオガス、LPGガス、CNGガス、アルコール等を例示できる。本明細書から次の技術的思想が把握できる。
【0042】
(付記項1)蒸発室を形成する壁と前記蒸発室に改質水を供給させる給水口と前記蒸発室で生成させた水蒸気を改質部に向けて吐出させる水蒸気出口とを有する箱体と、前記蒸発室に収容され表面に水を付着する球状をなす複数の蒸発促進材からなる充填材とを具備しており、前記箱体を高さ方向に沿って切断した断面において、前記箱体は、横方向に沿って延設された底壁と、前記底壁に対して立設された側壁と、前記底壁および前記側壁を交差させつつ連設させるコーナ角壁とを有する燃料電池用蒸発器。
【符号の説明】
【0043】
図中、200は蒸発器、300は箱体、301は蒸発室、302は壁、303は給水口、304は水蒸気出口、420は給水流路、500は蒸発促進材、503は充填材、310は改質部、311は改質室、313はセラミックス担体、331は底壁、332は側壁、333はコーナ角壁、331iは内壁面、334は上壁、400はスタック、402は上面、600は燃焼部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発室を形成する壁と前記蒸発室に改質水を供給させる給水口と前記蒸発室で生成させた水蒸気を改質部に向けて吐出させる水蒸気出口とを有する箱体と、
前記蒸発室に収容され球状をなす複数の蒸発促進材からなる充填材とを具備しており、
前記箱体を高さ方向に沿って切断した断面において、
前記箱体は、横方向に沿って延設された底壁と、前記底壁に対して立設された側壁と、前記底壁および前記側壁を交差させつつ連設させるコーナ角壁とを有しており、
前記コーナ角壁のうち前記蒸発室に対面する内壁面の曲率半径をR1とし、前記蒸発促進材の曲率半径をR2とするとき、R1はR2よりも大きく(R1>R2)されている燃料電池用蒸発器。
【請求項2】
請求項1において、前記蒸発促進材は、セラミックスを母材として形成されている燃料電池用蒸発器。
【請求項3】
請求項1または2において、前記充填材は、サイズが異なる複数種類の蒸発促進材を備えている燃料電池用蒸発器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−55012(P2013−55012A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194195(P2011−194195)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】