説明

燃料電池用触媒層、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用触媒層の製造方法

【課題】 発電効率が向上する燃料電池用膜電極接合体およびそれを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】 燃料電池用触媒層であって、
高分子電解質と、
樹枝状形状を有する触媒構造体と、
からなり、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体が白金と白金以外の金属からなり、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体における表面の白金組成比が前記樹枝状形状を有する触媒構造体全体の白金組成比よりも高いことを特徴とする燃料電池用触媒層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層、膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用触媒層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の更なる高出力密度化が求められるようになってきている。触媒においてもより高活性な触媒材料が求められており、その一つとして白金と白金以外の金属より構成された微粒子を用いた触媒層が注目されている。その中の例として、特許文献1には、微粒子の内部は合金状態であるが、表層は白金で構成されている微粒子が開示されている。
【特許文献1】特開2005−135900公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の方法では、電解質と接触することで非金属部分が溶解することを防ぐために、微粒子の焼成を行っている。微粒子を高温で処理することにより、微粒子が凝集して巨大粒子となることで、触媒の比表面積が小さくなり、触媒活性が低くなってしまうという課題があった。そのため、白金と白金以外の金属からなる高活性な燃料電池用触媒層の開発が強く求められていた。
【0004】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、高活性な白金と白金以外の金属からなる触媒を提供する。それにより、安定で高出力な燃料電池用触媒層、膜電極接合体、該膜電極接合体を用いた燃料電池および燃料電池用触媒層の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
燃料電池用触媒層であって、
高分子電解質と、
樹枝状形状を有する触媒構造体と、
からなり、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体が白金と白金以外の金属とを含有し、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体における表面の白金組成比が前記樹枝状形状を有する触媒構造体全体の白金組成比よりも高いことを特徴とする燃料電池用触媒層である。
【0006】
前記白金以外の金属の一種が、コバルトであることが好ましい。
また、別の本発明は、
前記燃料電池用触媒層を有する膜電極接合体である。
また、別の本発明は、
前記燃料電池用触媒層を有する燃料電池である。
また、別の本発明は、
燃料電池用触媒層の製造方法であって、
白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属の少なくとも一部を白金に置換して触媒構造体からなる層を得る工程と、
前記触媒構造体の表面に高分子電解質を付与して触媒層を得る工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用触媒層の製造方法である。
また、別の本発明は、
燃料電池用触媒層の製造方法であって、
白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
前記第1の触媒前駆体層に高分子電解質を付与する工程と、
前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒層を得る工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用触媒層の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、白金と白金以外の金属からなる高比表面積な燃料電池用触媒層、燃料電池用膜電極接合体、燃料電池および燃料電池用触媒層の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の最良の形態について説明する。
【0009】
図1(a)に本発明の燃料電池用触媒層、(b)に本発明の燃料電池用触媒層を用いた膜電極接合体の一例を模式的に示す。
【0010】
図1(a)において、12は樹枝状形状を有する触媒構造体、14は高分子電解質、15は触媒層を示す。また、図1(b)において、13は固体高分子電解質膜、11は膜電極接合体を示す。なお、本明細書の図面において、同一の符号で表されるものは同一のものを示すものとする。
【0011】
触媒層15は、樹枝状形状を有する触媒構造体12と該触媒構造体の表面に存在する高分子電解質14とで構成されている。
【0012】
以下、触媒層15を構成する各部について説明する。
【0013】
樹枝状形状を有する触媒構造体12は、白金と白金以外の金属からなる。樹枝状形状を有する触媒構造体は、白金と複数種類の白金以外の金属とで構成されていても良いし、白金と一種類の白金以外の金属とで構成されていても良い。白金以外の金属としては、触媒活性を向上する金属を用いることが好ましく、白金と複数種類の白金以外の金属とで構成される場合は、複数種類の白金外の金属が、触媒活性を向上する金属と、それ以外の金属とからなっていても良い。例えば、コバルト、銅、鉄、ニッケル等を用いることができる。これらの中でもコバルトを用いることが好ましい。言い換えれば、樹枝状形状を有する白金以外の金属の一種がコバルトであることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、「樹枝状」とは、触媒粒子が集まって構成されるフレーク(薄片)状組織が、分岐点を有して多数集まった構造を指す。一つのフレーク状組織は、その短手方向の長さが5nm以上200nm以下であることが好ましい。なお、ここでいう短手方向の長さとは、一つのフレークの面内における最小の寸法を意味する。
【0015】
さらに、前記樹枝状形状を有する触媒構造体12の表面の白金組成比は、樹枝状形状を有する触媒構造体全体の白金組成比よりも高い。
【0016】
これについて、図2を用いて説明する。図2(a)は樹枝状形状を有する触媒構造体の一部を取り出した模倣図であり、その樹枝状形状を有する部位の一部を拡大したものを図2(b)に示す。また、図2(c)に、図2(b)に示す樹枝状形状をA−A´断面で切断した際の断面図を示す。図2(c)に示すように、樹枝状形状を有する触媒構造体は白金微粒子16と白金以外の金属からなる微粒子17とで構成されている。
【0017】
図2(c)に示すように、本形態の樹枝状形状を有する触媒構造体は、内部に比べて表面における白金微粒子16の占める割合が高い。これは、樹枝状形状を有する触媒構造体の内部においては、白金以外の金属の微粒子がある程度の割合を占めているのに対して、表面においては白金微粒子16が大部分を占めているからである。したがって、本形態の樹枝状形状を有する触媒構造体は、表面と内部で白金の組成比が異なっており、表面の白金組成比が内部の白金組成比よりも高い。言い換えれば、触媒構造体における表面の白金組成比が触媒構造体全体の白金の組成比よりも高い。
【0018】
なお、樹枝状形状を有する触媒構造体における表面の白金組成比を算出するには、例えば、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)を用いることができる。また、樹枝状形状を有する触媒構造体全体の白金組成比を算出するには、例えば、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)を用いることができる。
【0019】
ここで、「樹枝状形状を有する触媒構造体の表面」とは、燃料若しくは高分子電解質が接する樹枝状触媒の部分のことである。
【0020】
この二つの分析手法を用いて組成を求め、ESCAにおける白金組成比がEDXの白金組成比よりも高い場合に、触媒構造体表面の白金組成比が触媒構造全体の組成比よりも高いこととする。
【0021】
なお、図2において、樹枝状形状を有する触媒構造体12を構成する粒子である白金微粒子16、白金以外の金属からなる微粒子17は、簡単のため球状で表現しているが、球体に限られるものではない。触媒構造体12は、白金と白金以外の金属とが結晶化した構造体や、白金と白金以外の金属とがランダムに凝集した構造体などであれば良く、これらを構成する微小構造体の形状は、球状、針状、円柱状、四角柱状などいずれの形状であっても良い。
【0022】
次に、膜電極接合体について説明する。
【0023】
図1(b)に示した膜電極接合体は、固体高分子電解質膜11と、2つの前述した触媒層15とで構成されている。
【0024】
固体高分子電解質膜11は、プロトン伝導性基を有し、アノード側で発生したプロトンをカソード側に移動させる機能を有する。このようなプロトン伝導性を有する基としては、具体的には、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、リン酸基、水酸基などが挙げられる。また、固体高分子電解質膜の例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリスチレンスルホン酸樹脂、スルホン化ポリアミドイミド樹脂、スルホン化ポリスルホン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルイミド半透膜、パーフルオロホスホン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂等が挙げられる。
【0025】
次に、本発明の燃料電池用触媒層、膜電極接合体および燃料電池の製造方法について説明する。
【0026】
本発明の第1の燃料電池用触媒層の製造方法は、
(i)白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
(ii)前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
(iii)前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒構造体からなる層を得る工程と、
(iv)前記触媒構造体に高分子電解質を付与して触媒層を得る工程と、
を有する。
【0027】
(i)の工程について
(i)の工程では、白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する。第1の触媒前駆体層を形成する方法としては気相法が好ましく、酸素と、白金と、白金以外の金属とを反応させる気相法であることが好ましい。このような気相法としては、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着(EB蒸着)等が挙げられるが、これらの中でもスパッタ法を用いることが好ましい。
【0028】
(ii)の工程について
(ii)の工程では、第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る。
【0029】
第1の触媒前駆体層を還元する方法としては、還元電位の印加、水素による還元、還元溶液などによる還元方法が挙げられる。これらの中でも水素による還元方法が好ましい。
【0030】
(iii)の工程について
(iii)の工程では、(ii)の工程で得られた第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒構造体からなる層を得る。
【0031】
第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換する方法としては、白金イオンが存在する溶液に第2の触媒前駆体層を浸漬する方法が挙げられる。白金イオンが存在する溶液は、白金含有錯体を溶質とした溶液を用いることが好ましい。このような白金含有錯体としては、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸水素、テトラクロロ白金(II)酸カリウム等を使用できる。
【0032】
また、白金イオンが存在する溶液における白金塩の濃度は0.1mmol/L以上、50mmol/L以下であることが好ましく、より好ましくは1mmol/L以上、10mmol/L以下であることが好ましい。これは、白金イオン濃度が低すぎると白金以外の金属と白金との置換が十分に行われない場合があり、白金イオン濃度が高すぎると樹枝状構造体を浸漬した際に樹枝状形状が崩れる場合があるからである。
【0033】
(iv)の工程について
(iv)の工程では、(iii)の工程で得られた触媒構造体からなる層の表面に高分子電解質を付与して触媒層を得る。
【0034】
触媒構造体からなる層の表面に付与する高分子電解質は、プロトン伝導性を有するものである。このようなプロトン伝導性を有する高分子電解質としては、例えばナフィオン(登録商標)が挙げられる。なお、高分子電解質は有機溶媒に溶解させて触媒構造体からなる層に付与することが好ましい。このような有機溶媒としてはエタノールやイソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらは単独で有機溶媒として用いても良く、複数種類を混合して有機溶媒として用いても良い。また、これらの中でも高分子電解質としてナフィオンを用いる場合には有機溶媒としてはイソプロピルアルコールを主成分とすることが好ましい。さらに、高分子電解質を付与する方法としては、ディップ法、スプレー法、滴下法などを用いることができる。
【0035】
これにより、樹枝状形状を有する触媒層を得ることができる。
【0036】
次に、本発明の第2の燃料電池用触媒層の製造方法について説明する。
【0037】
本発明の第2の燃料電池用触媒層の製造方法は、
(I)白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
(II)前記第1の触媒前駆体層の高分子電解質を付与する工程と、
(III)前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
(IV)前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒層を得る工程と、
を有する。
【0038】
第2の燃料電池用触媒層の製造方法が第1の燃料電池用触媒層の製造方法と異なる点は、(II)〜(IV)の工程である。
【0039】
(II)の工程では、(I)の工程で形成した第1の触媒前駆体層の表面に高分子電解質を付与する。付与する高分子電解質および付与方法は第1の燃料電池用触媒層の製造方法における(iv)の工程と同様である。
【0040】
(III)の工程では、第1の燃料電池用触媒層の製造方法における(ii)の工程と同様に第1の触媒前駆体層を第2の触媒前駆体層に還元する。(III)の工程が、第1の燃料電池用触媒層の製造方法における(iii)の工程と異なる点は、高分子電解質が付与された状態で、第1の触媒前駆体層を第2の触媒前駆体層に還元する点である。
【0041】
(IV)の工程では、第1の燃料電池用触媒層の製造方法における(iii)の工程と同様に、第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒構造体からなる層を得る。(IV)の工程が第1の燃料電池用触媒層の製造方法における(iii)の工程と異なる点は、(IV)の工程では高分子電解質が付与された状態で第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換する点である。これにより、樹枝状形状を有する触媒層を得ることができる。
【0042】
次に、膜電極接合体の製造方法について説明する。
【0043】
膜電極接合体は、上記方法で製造した2つの燃料電池用触媒層を固体高分子電解質膜に転写することで得ても良いし、固体高分子電解質膜に直接燃料電池用触媒層を形成することで得ても良い。また、一方の燃料電池用触媒層を固体高分子電解質膜に転写し、一方の燃料電池用触媒層を固体高分子電解質膜に直接形成しても良い。
【0044】
なお、転写はホットプレスなどにより行うことができる。この際のホットプレスの温度は、ガラス転移点以下の温度であることが好ましい。
【0045】
次に、上記膜電極接合体を有する燃料電池について説明する。
【0046】
燃料電池を構成する燃料電池セルの例を図5に示す。図5に示す燃料電池セルは、固体高分子電解質膜51とアノード触媒層52とカソード触媒層53とで構成される膜電極接合体61、アノード触媒層52に接するアノード側拡散層59、カソード触媒層53に接するカソード側拡散層60を有する。さらに、燃料電池セルは、アノード側拡散層59に接するアノード側集電体54、カソード側拡散層60に接するカソード側集電体55、外部出力端子56、燃料導入ライン57、燃料排出ライン58を有している。
【0047】
アノード側拡散層59およびカソード側拡散層60は、アノード側燃料もしくはカソード側燃料を拡散させる機能を有する。このような拡散層としては、高気孔率を有する導電性部材を用いることが好ましく、例えば、炭素繊維織物やカーボンペーパー等を好適に用いることが出来る。なお、アノード側拡散層59およびカソード側拡散層60は、複数の層で構成しても良い。更に、カソード側拡散層を複数の層で構成する場合は、複数の層のうち、カソード側集電体に接触する層を酸素供給層とすることもできる。このような酸素供給層を構成する材料としては、発泡金属などが挙げられる。
【0048】
アノード側集電体54およびカソード側集電体55は、発生した電流を集電する機能を有する。このような集電体としては、SUSやチタンなどの金属材料やカーボンなどを用いることができる。
【0049】
なお、本発明の燃料電池は、前述したような燃料電池セルを一つ有する構成であっても良いし、複数の燃料電池セルが積層した構成であっても良い。
【0050】
なお、本発明においては、燃料として、固体高分子型燃料電池に一般的に用いられる燃料および酸化剤を用いることができる。それらの中でも、実用的な視点からは、アノード側では水素若しくはメタノール、カソード側では空気を用いることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示し本発明の一例を具体的に説明する。
【0052】
(実施例1)
本実施例では、白金とコバルトからなり樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成した後に、高分子電解質を塗布し、第1の触媒前駆体層を第2の触媒前駆体層に還元し、第2の触媒前駆体層を白金塩が溶解した溶液に浸漬して第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒層を得た。また、得られた触媒層を用いて膜電極接合体および燃料電池セルを作製した。
【0053】
以下、具体的な取得方法について説明する。
【0054】
白金とコバルトからなり樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層をシート上に作製した。作製方法として、チャンバー内にPTFEシートを設置し、スパッタ室内圧力を1.0×10−4Paまで排気した後、Ar、Oを其々15、85sccm導入し、オリフィスにて全圧を5.0Paに調整した。白金のRF投入パワー12W/cm、コバルトのRF投入パワー15W/cmにて反応性スパッタを行い、シート上に酸化白金−コバルトからなる樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を約2000nmの厚さで成膜した。
【0055】
次に、シート上に作製された樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層に、イソプロピルアルコールで濃度を調整したナフィオン溶液を滴下し、乾燥させた。
【0056】
次に、ナフィオン溶液が滴下・乾燥された第1の触媒前駆体層が表面に存在するシートを、2%H/Heに10分間暴露し、第1の触媒前駆体層が有する酸化白金−コバルトの還元を行い、第2の触媒前駆体層を得た。
【0057】
次に、10mmol/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムを溶解した溶液を約20mL準備した。この溶液内に第2の触媒前駆体層が作製されたPTFEシートを所望の大きさに切り取って浸漬し、第2の触媒前駆体層の表面に存在するコバルトを白金と置換させ、樹枝状形状を有する触媒層を得た。さらに樹枝状形状を有する触媒が設置されたPTFEシートを水洗して、乾燥させた。
【0058】
触媒層の白金とコバルトの組成比は、ESCAとEDXで測定した。その結果、触媒層のEDXにおけるPtとコバルトの組成比は86atom.%:14atom.%であった。一方、触媒層のESCAにおけるPtとコバルトの組成比は92atom.%:8atom.%であった。
【0059】
これにより、触媒層における表面の白金組成比は、全体の白金組成比よりも高いことがわかった。すなわち、触媒構造体における表面の白金組成比は、触媒構造体全体の白金組成比よりも高いことがわかった。
【0060】
また、ナフィオン膜の両面に得られた触媒層をホットプレスによって転写して膜電極接合体を作製し、この膜電極接合体を図5に示したように組み込み、燃料電池セルとした。
【0061】
(比較例1)
比較例1は、実施例1における白金とコバルトを白金に置き換えてスパッタすることによって厚さ約2000nmの第1の触媒前駆体層を形成したこと、および10mmol/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムを溶解した溶液に第2の触媒前駆体層を含浸させなかったこと以外は実施例1と同様にして触媒層、膜電極接合体および燃料電池セルを作製した。
【0062】
実施例1および比較例1で得られた燃料電池セル(単セル)の電流−電位特性を評価した。使用したセルはELECTROCHEM社製のFC05−01SPセルであり、集電体としてグラファイトプレートを用いている。また、ガス拡散層としてE−TEK社製のLT−1400−Wを用いた。なお、セル温度は80℃とし、アノード側に100%で加湿した水素を、カソード側に同様に加湿した空気を使用した。流量として、それぞれ500mL/分、2000mL/分で供給し、作製したセルを運転した。測定結果を図3に示す。400mA/cmにおける実施例1で作製した燃料電池セルと比較例1で作製したセルの電位差は20mVであり、実施例1のセルの性能が比較例1の燃料電池セルの性能を上回っていた。さらに、実施例1及び比較例1のセルのインピーダンス測定を行った。その条件は、印加電流を400mA/cm、電流振幅20mA/cmとし、周波数100kHzから0.1Hzへと徐々に低周波側に挿引した。このとき得られるコンデンサ成分に起因するリアクタンス成分1/(2πfc)をコールコールプロット(複素平面表示)したものが図4である。
【0063】
図4に示すように、実施例1の燃料電池セルが有する触媒層は比較例1の燃料電池セルが有する触媒層よりも活性化抵抗が小さく、実施例1の燃料電池セルが有する触媒層の触媒活性が比較例1の燃料電池セルが有する触媒層の触媒活性よりも高いことが確認できた。
【0064】
(実施例2)
本実施例では、白金とコバルトからなり樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成した後に、第1の触媒前駆体層を第2の触媒前駆体層に還元し、第2の触媒前駆体層を白金塩が溶解した溶液に浸漬して第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換し、高分子電解質を塗布して触媒層を得た。また、得られた触媒層を用いて膜電極接合体および燃料電池セルを作製した。
【0065】
まず、白金とコバルトからなる樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を実施例1と同様に約2000nmの厚さでシート上に作製した。
【0066】
次に、酸化白金−コバルトからなる樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層が作製されたシートを2%H/Heに10分間暴露し、第1の触媒前駆体層が有する酸化白金−コバルトの還元を行い、第2の触媒前駆体層を得た。
【0067】
次に、10mmol/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムを溶解した溶液を約20mL準備した。この溶液内に第2の触媒前駆体層が作製されたPTFEシートを所望の大きさに切り取って浸漬し、第2の触媒前駆体層の表面に存在するコバルトを白金と置換させ、樹枝状形状を有する触媒構造体を得た。この樹枝状形状を有する触媒構造体が設置されたPTFEシートを水洗して、乾燥させた。
【0068】
次に、シート上に作製された樹枝状形状を有する触媒構造体にイソプロピルアルコールで濃度を調整したナフィオン溶液を滴下し、乾燥させて触媒層を得た。
【0069】
触媒層の白金とコバルトの組成比は、ESCAとEDXで測定した。その結果、触媒層のEDXにおけるPtとコバルトの組成比は86atom.%:14atom.%であった。一方、触媒層のESCAにおけるPtとコバルトの組成比は93atom.%:7atom.%であった。
【0070】
これにより、触媒層における表面の白金組成比は、全体の白金組成比よりも高いことがわかった。すなわち、触媒構造体における表面の白金組成比は、触媒構造体全体の白金組成比よりも高いことがわかった。
【0071】
また、ナフィオン膜の両面に得られた触媒層をホットプレスによって転写して膜電極接合体を作製し、この膜電極接合体を図5に示したように組み込み、燃料電池セルとした。
【0072】
(比較例2)
比較例2は、実施例2における白金とコバルトを白金に置き換えてスパッタすることによって厚さ約2000nmの第1の触媒前駆体層を形成したこと、および10mmol/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムを溶解した溶液に第2の触媒前駆体層を含浸させなかったこと以外は実施例2と同様にして触媒層、膜電極接合体および燃料電池セルを作製した。
【0073】
次に、実施例2及び比較例2の燃料電池単セルの電流−電位特性を実施例1と同様の条件で評価した。測定結果を図6に示す。実施例2で作製した燃料電池セルと比較例2で作製した燃料電池セルの400mA/cmにおける電位差は10mVであり、実施例2の燃料電池セルの性能が比較例2の燃料電池セルの性能を上回っていた。また、実施例1と同様に活性化抵抗の減少が確認された。さらに、同じ膜電極接合体を繰り返し使用したときも実施例2の燃料電池セルの性能は比較例2の燃料電池セルの性能まで低下することは無かった。
【0074】
また、図7に示すように、実施例2の燃料電池セルが有する触媒層は比較例2の燃料電池セルが有する触媒層よりも活性化抵抗が小さいことがわかった。これにより、実施例2の燃料電池セルが有する触媒層の触媒活性が比較例2の燃料電池セルが有する触媒層の触媒活性よりも高いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の膜電極接合体の構成の一例を示す模式図である。
【図2】樹枝状形状を有する触媒構造体の一例を示した構造図である。
【図3】実施例1の電流−電位特性の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例1および比較例1の活性化抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図5】燃料電池の一般的な模式図である。
【図6】実施例2の電流−電位特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2および比較例2の活性化抵抗の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
11 膜電極接合体
12 樹枝状形状を有する触媒構造体
13 固体高分子電解質膜
14 高分子電解質
15 触媒層
16 白金微粒子
17 白金以外の金属からなる微粒子
51 固体高分子電解質膜
52 アノード触媒層
53 カソード触媒層
54 アノード側集電体
55 カソード側集電体
56 外部出力端子
57 燃料導入ライン
58 燃料排出ライン
59 アノード側拡散層
60 カソード側拡散層
61 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用触媒層であって、
高分子電解質と、
樹枝状形状を有する触媒構造体と、
からなり、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体が白金と白金以外の金属とを含有し、
前記樹枝状形状を有する触媒構造体における表面の白金組成比が前記樹枝状形状を有する触媒構造体全体の白金組成比よりも高いことを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項2】
前記白金以外の金属の一種が、コバルトであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層を有する膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層を有する燃料電池。
【請求項5】
燃料電池用触媒層の製造方法であって、
白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属の少なくとも一部を白金に置換して触媒構造体からなる層を得る工程と、
前記触媒構造体の表面に高分子電解質を付与して触媒層を得る工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項6】
燃料電池用触媒層の製造方法であって、
白金と白金以外の金属と酸素とを少なくとも含有し樹枝状形状を有する第1の触媒前駆体層を形成する工程と、
前記第1の触媒前駆体層に高分子電解質を付与する工程と、
前記第1の触媒前駆体層を還元して第2の触媒前駆体層を得る工程と、
前記第2の触媒前駆体層の表面に存在する白金以外の金属を白金に置換して触媒層を得る工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用触媒層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−140864(P2009−140864A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318481(P2007−318481)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】