説明

燃料電池用電極触媒、酸素還元型触媒の性能評価方法、及びそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】遷移金属元素とカルコゲン元素からなる高活性な燃料電池用電極触媒を提供するとともに、良好な触媒設計に役立つ性能評価のための指標を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素とを含む燃料電池用電極触媒であって、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の白金触媒の代替となる、少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素からなる燃料電池用電極触媒、酸素還元型触媒の性能評価方法、及びそれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質型燃料電池のアノード用触媒としては主として白金や白金合金系触媒が用いられる。具体的には、白金を含む貴金属をカーボンブラックに担持した触媒が用いられてきた。高分子電解質型燃料電池を実用化する上での課題の一つは、材料コストである。これを解決する手段の一つが白金量の低減である。
【0003】
一方、酸素(O)を電解還元すると、1電子還元ではスーパーオキシドが生成し、2電子還元では過酸化水素が生成し、4電子還元では水が生成することが知られている。電極として白金や白金系触媒を用いた燃料電池セルスタックでは、何らかの原因で電圧低下が生じると、4電子還元性が低下し、2電子還元性となってしまう。このため、過酸化水素を発生し、MEAの劣化の原因となっていた。
【0004】
最近、酸素を4電子還元して水を生成させる反応により、高価な白金触媒を必要としない低コスト型の燃料電池触媒の開発が行われている。下記非特許文献1には、カルコゲン元素を有する触媒が4電子還元性に優れていることが開示され、燃料電池への適用も示唆されている。
【0005】
同様に、下記特許文献1には、白金代替触媒として、少なくとも1種の遷移金属及びカルコゲンからなる電極触媒であって、該遷移金属としてRu、カルコゲンとしてS又はSeからなる電極触媒が開示されている。ここで、Ru:Seのモル比が0.5〜2の範囲であり、且つ(Ru)nSeの化学量論数nが1.5〜2である旨が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、Pt代替触媒として、Fe又はRuから選択される遷移金属と、窒素含有有機金属遷移錯体、及びS等のカルコゲン成分を有する燃料電池用触媒材料が開示されている。
【0007】
また、下記非特許文献1には、Mo−Ru−Se三元系電極触媒、及びその合成方法が開示されている。
【0008】
更に、下記非特許文献2には、Ru−S、Mo−S、Mo−Ru−Sの二元系及び三元系電極触媒、及びその合成方法が開示されている。
【0009】
更に、下記非特許文献3には、Ru−Mo−S、Ru−Mo−Seの三元系カルコゲナイド電極触媒が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特表2001−502467号公報
【特許文献2】特表2004−532734号公報
【非特許文献1】Electrochimica Acta,vol.39,No.11/12,pp.1647−1653,1994
【非特許文献2】J.Chem.Soc.、Faraday Trans.,1996,92(21),4311−4319
【非特許文献3】Electrochimica Acta,vol.45,pp.4237−4250,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1や非特許文献1、2、3に記載の触媒は、四電子還元性能が十分ではなく、より高性能の触媒の開発と、高性能の触媒設計に役立つ性能評価のための指標が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、遷移金属元素とカルコゲン元素からなる燃料電池用電極触媒中の各元素間の配位数比が触媒の酸素還元特性と密接に関係することを見出すとともに、これを触媒設計に役立つ性能評価のための指標とすることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、第1に、本発明は、少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素とを含む燃料電池用電極触媒の発明であって、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5であることを特徴とする。
【0014】
ここで、電極触媒中の(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)及び(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)は、単に遷移金属元素とカルコゲン元素組成比だけで決定されるものではなく、両者からなる触媒粒子の結晶、粒径などによっても決定される。そして、これらの触媒粒子の結晶学的活性、粒径学的活性などは、主として触媒調製後の焼成条件によって変化させることが出来る。
【0015】
本発明の少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素からなる燃料電池用電極触媒は、遷移金属元素が、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)から選択される1種以上であり、カルコゲン元素が、イオウ(S)、セレン(Se)、及びテルル(Te)から選択される1種以上であることが好ましい。
【0016】
第2に、本発明は、燃料電池用電極触媒に代表される酸素還元型触媒の性能評価方法の発明であり、少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素とを含む燃料電池用電極触媒において、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)を触媒性能の指標とすることを特徴とする。これにより、優れた酸素還元型触媒の設計に役立つ。
【0017】
具体的には、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5である場合に、優れた酸素還元型触媒であると評価できる。
【0018】
前記遷移金属元素が、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)から選択される1種以上であり、前記カルコゲン元素が、イオウ(S)、セレン(Se)、及びテルル(Te)から選択される1種以上であることが好ましいことは上述の通りである。
【0019】
第3に、本発明は、上記の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池用電極触媒は、従来の遷移金属−カルコゲン元素系触媒と比べて、四電子還元性能が高く高活性であり、白金触媒の代替となりうるものである。
【0021】
又、本発明の(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)を求める手法は、酸素還元型触媒の触媒設計に広く役立つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
[触媒の調製]
ルテニウムカルボニル、モリブデンカルボニル、イオウをアルゴン中で140℃で加熱し、冷却の後、アセトンで洗浄し、ろ過をする。ろ過物であるRuMoS/C(Ru:Mo:S=5:1:5、60wt%)を350℃で2時間焼成して触媒を調整した。
【0023】
[構造解析]
上記の触媒材料について、EXAFS及びTEMを用いて構造解析を行った。
【0024】
図1に、EXAFS(Extend X−ray absorption fine structure)によるRuを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。図2に、TEMによるRuを含むカルコゲナイドのRu−S部分のTEM像(図2(A)、(B))と該Ru−S部分のX線回折像(図2(C))を示す。同様に、図3に、TEMによるRuを含むカルコゲナイドのRu−Ru部分のTEM像(図3(A)、(B))と該Ru−Ru部分のX線回折像(図3(C))を示す。
【0025】
EXAFS及びTEMを用いた構造解析の結果、Ruを含むカルコゲナイドには、Ru硫化物(Ru−S)とRuメタル成分(Ru−Ru)が存在することが分かった。
【0026】
[S量を変化させた触媒材料の構造解析と性能評価]
硫黄仕込み量を0、20、45、71mol%に変化させて、上記と同様に触媒材料を調整した。
図4に、EXAFSによる、硫黄仕込み量:20%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。図4の結果より、Ru−Ru結合のみ見られる。図5に、EXAFSによる、硫黄仕込み量:45%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。図5の結果より、Ru−S結合とRu−Ru結合が見られる。図6に、EXAFSによる、硫黄仕込み量:71%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。図6の結果より、多量のRu−S結合と少量のRu−Ru結合が見られる。
【0027】
図7に、回転リングディスク評価法(RDE)による、硫黄仕込み量を変化させた上記各触媒材料について、Ruを含むカルコゲナイドの酸素還元性能評価結果を示す。
【0028】
図4〜図6から得られるRu硫化物(Ru−S)とRuメタル成分(Ru−Ru)の配位数割合と、図7から得られる酸素還元性能評価結果の相関関係を調べた。ここで、Ru硫化物(Ru−S)とRuメタル成分(Ru−Ru)は、図4〜図6におけるRu−S結合とRu−Ru結合のフーリエ変換振幅をそれらの配位数として算出した。
【0029】
図8に、Ru硫化物(Ru−S)/Ruメタル成分(Ru−Ru)と、酸素還元電流値の相関関係を示す。図8の結果より、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5である場合に、優れた酸素還元型触媒であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の燃料電池用電極触媒は、四電子還元性能が高く高活性であり、白金触媒の代替となりうるものである。又、本発明の(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)を求める手法は、酸素還元型触媒の触媒設計に広く役立つものである。これにより、燃料電池の実用化と普及に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】EXAFSによるRuを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。
【図2】TEMによるRuを含むカルコゲナイドのRu−S部分のTEM像(図2(A)、(B))と該Ru−S部分のX線回折像(図2(C))を示す。
【図3】TEMによるRuを含むカルコゲナイドのRu−Ru部分のTEM像(図3(A)、(B))と該Ru−Ru部分のX線回折像(図3(C))を示す。
【図4】EXAFSによる、硫黄仕込み量:20%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。
【図5】EXAFSによる、硫黄仕込み量:45%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。
【図6】EXAFSによる、硫黄仕込み量:71%の、Ruを含むカルコゲナイドの構造解析結果を示す。
【図7】回転リングディスク評価法(RDE)による、硫黄仕込み量を変化させた上記各触媒材料について、Ruを含むカルコゲナイドの酸素還元性能評価結果を示す。
【図8】Ru硫化物(Ru−S)/Ruメタル成分(Ru−Ru)と、酸素還元電流値の相関関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素とを含む燃料電池用電極触媒であって、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記遷移金属元素が、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)から選択される1種以上であり、前記カルコゲン元素が、イオウ(S)、セレン(Se)、及びテルル(Te)から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
少なくとも1種の遷移金属元素と少なくとも1種のカルコゲン元素とを含む燃料電池用電極触媒において、(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)を触媒性能の指標とすることを特徴とする酸素還元型触媒の性能評価方法。
【請求項4】
前記(遷移金属元素−カルコゲン元素配位数)/(遷移金属元素−遷移金属元素配位数)=0.9〜2.5であることを特徴とする請求項3に記載の酸素還元型触媒の性能評価方法。
【請求項5】
前記遷移金属元素が、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)から選択される1種以上であり、前記カルコゲン元素が、イオウ(S)、セレン(Se)、及びテルル(Te)から選択される1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の酸素還元型触媒の性能評価方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−32420(P2009−32420A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192443(P2007−192443)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】