説明

燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池

【課題】再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池用電解質膜1は、室温から200℃までの温度範囲で、かつ無加湿雰囲気下においてプロトン伝導性を有する固体酸により構成される電解質と、架橋構造を含み、主鎖に芳香族基を有する高分子電解質とを少なくとも含んで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、COや汚染物質を排出しないクリーンエネルギー として燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子形電解質を用いたPEFC(固体高分子形燃料電池)の開発に注力がなされている。しかし、用いる電解質膜の耐熱性の観点から、作動温度は100℃以下に限られている。
【0003】
作動温度が100℃以上になると、排熱利用により総合的なエネルギー変換効率の向上、触媒白金電極のCO被毒の軽減、触媒使用量の低減など様々な利点が期待されていることから、中温領域(100℃〜300℃)で作動可能な燃料電池の開発が強く求められている。
【0004】
現在、プロトン伝導性を有する高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、耐熱性が100℃以下であるため中温領域での使用が困難であり、耐熱性の優れた新規の電解質膜の開発が強く望まれている。またPEFCではプロトン伝導機構が、Hの 状態でプロトンを伝導するVehicle(運搬)機構であるため、プロトン伝導性を維持するために飽和水蒸気圧に近い加湿機構を備える必要がある。このため加湿システムが煩雑になり、小型化が困難であるといった問題点がある。
【0005】
一方、高温作動型であるSOFC(固体酸化物形燃料電池)と比較すると、温度サイクルへの対応が容易になり、安価な金属材料や樹脂の使用による製造コスト削減が見込まれる。
【0006】
加湿の問題を改善した電解質としては、リン酸を含浸させたPBI(ポリベンズイミダ ゾール)膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この膜は90%以上が液体リン酸で構成されているため、強酸であるリン酸がしみ出しやすいことや、液体シールを厳密に行わなければならないこと、さらにセルを作製する際にリン酸のしみ出しによりMEA(膜・電極接合体)の作製が困難であること、等の問題点がある。
【0007】
他方、無加湿状態でプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質として金属リン酸塩 が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、金属リン酸塩の一部に別種の金属 をドープしたものも開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−510931号公報
【特許文献2】特開2005−294245号公報
【特許文献3】特開2008−53224号公報
【特許文献4】特開2008−53225号公報
【特許文献5】特開2008−84788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記金属リン酸塩は粉体であるため、成形性が困難であり、バインダーを添加しないとフィルム化しない。
【0010】
一方、フッ素系樹脂をバインダーとして用いた電解質膜が開示されている(例えば、特許文献3,4参照。)。しかしながら、特許文献3,4で提案された複合膜の場合、電解質としての無機粉体とバインダーとしてのPTFE粉末を混錬し、圧延して押し固めたものであるため成形性・自立性・強度に問題がある。
【0011】
また、電解質としてリン酸スズと、バインダーとして無機材料であるインジウムスズ酸化物/リン酸複合体を用いた電解質膜が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、特許文献5で提案された複合膜の場合、インジウムスズ酸化物/リン酸複合体が粉体であるため、結着性に乏しく成形性・自立性・強度に問題がある。
【0012】
このように、金属リン酸塩等の固体酸をプロトン伝導性電解質に用いた場合、バインダーを添加しただけでは成形性・自立性に問題がある。また、仮に成形できたとしても、十分な膜強度が得られず、膜・電極接合体形成の際、破損などの可能性が高くなる等、機械的性能を満足することはできないといった問題点がある。
【0013】
本発明の目的は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、固体酸により構成される電解質と、下記(A)の条件を満たす架橋構造を含み、主鎖に芳香族基を有する高分子電解質(以下バインダーZ)を少なくとも含んだ材料で構成された室温から200℃までの温度範囲、かつ無加湿雰囲気下で使用する燃料電池用電解質膜である。
(A)下記一般式(1)の構造を3つ以上有し、これらの構造のうち少なくとも2つが同一の芳香族基に結合している芳香族化合物から導かれる架橋構造
−CH−O−R・・・・(1)
(式中Rは水素またはアルキル基またはアシル基を表し、1種類の化合物に含まれるRはそれぞれ独立で、互いに同一であっても異なってもよい。)
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記架橋構造が、下記化学式に記載の構造を持つ化合物から導かれる構造であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電解質膜である。
【化1】

【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記バインダーZが、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを含む構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記バインダーZのイオン交換容量が1.6〜2.4 meq/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記固体酸が無機固体酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記無機固体酸が金属リン酸塩からなり、前記金属リン酸塩は下記式(2)で表される化合物からなることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜である。
1−X ・・・(2)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MがZr,Cs,Sn,Ti ,Si,Ge,Pb,Ca,Mg, W及びAlの群から選ばれる1種であり、NがAl,In ,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、前記金属リン酸塩がスズリン酸であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、前記無機固体酸がヘテロポリ酸と無機塩の複合体からなることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、前記無機固体酸が、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体、タングステンリン酸と硫酸水素セシウムの複合体、タングステンリン酸と硫酸セシウムの複合体のいずれかの複合体であることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、プロトン伝導度が、160℃及び無加湿雰囲気下において、1.0×10−3S/cm以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、引張破断強度が0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0025】
また、請求項12に記載の発明は、固体酸とバインダーZあるいはバインダーZの前駆体とを混合してペーストを作成する第1の工程と、前記ペーストをキャスト基材上に塗布して成形する第2の工程と、前記第2の工程の後に、前記ペーストを乾燥させる第3の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法である。
【0026】
また、請求項13に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、一対の触媒層とを備え、前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層に挟持されたことを特徴とする燃料電池用触媒層・電解質膜積層体である。
【0027】
また、請求項14に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、一対の触媒層付電極とを備え、前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層付電極に挟持されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体である。
【0028】
また、請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、1対のセパレータとを備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜、燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池及び燃料電池用電解質膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体の模式的断面図。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体の模式的断面図。
【図3】本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の第1乃至第4の実施の形態を説明する。以下に示す第1乃至第4の実施 の形態は、本発明を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、本発明について、材料や製造方法等を下記のものに特定するものでない。
【0032】
[第1の実施の形態]
(燃料電池用電解質膜)
本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池用電解質膜(以下、単に「電解質膜」ともいう)は、架橋構造を含み、主鎖に芳香族基を有する高分子電解質(以下、バインダーZと記すことがある)を含んで構成される。より具体的には、固体酸とバインダーZ又はバインダーZの前駆体(後述する)とで形成された固体酸型プロトン伝導性電解質膜により構成されている。
【0033】
図1〜図3に示される燃料電池用電解質膜1が本実施の形態に係るプロトン伝導性を有する固体酸型プロトン伝導性電解質膜であり、その厚みは限定的ではないが、通常約20〜1000μm程度、強度の点から、好ましくは、約30〜300μm程度であるのが良い。
【0034】
(固体酸)
固体酸としては、無機固体酸だけでなく有機固体酸であっても良いが、室温から200℃までの温度範囲、かつ無加湿雰囲気下でプロトン伝導性を有する固体酸を用いる。ここで、無加湿雰囲気下とは、固体酸が置かれた雰囲気中に意図的な加湿を行わないことを意味する。また、室温とは、固体酸が置かれた雰囲気中に意図的な温度調整を行わないことを意味する。
【0035】
有機固体酸としては、スルホン酸基を有する有機酸であれば、特に限定されないが、有機固体酸として、例えば、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸等が挙げられる。あるいは複数のスルホン酸基を有する有機酸から選ばれる少なくとも一つであってもよい。またこれら2つ以上の混合物であってもよい。
【0036】
一方、無機固体酸は、プロトン伝導性を有する電解質であれば、特に限定されないが、無機固体酸として、無機塩であるのが好ましい。このような無機塩としては、例えば、金属リン酸塩、金属硫酸塩等が挙げられる。それらの中でも、特に、下記式(2)で表される金属リン酸塩であることが好ましい。
1−X ・・・(2)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti ,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、Nはドーピング 金属元素であり、Al,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0037】
上記(2)式に基づく金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。具体的には、リン酸スズ、リン酸ジルコニウム、リン酸セシウム 、リン酸タングステン等を挙げることができる。好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム、アルミニウムやアンチモン等のドーピング金属元素で置換されたピロリン酸塩であるのが良い。
【0038】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、1種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0039】
金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであれば、特に限定されない 。例えば、以下の金属元素からなる酸化物を挙げることができる。すなわち、Zr,Cs ,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg,W及びAl等の金属元素である。
【0040】
上記金属を主金属として、主金属と異なる金属をドープしてもよい。ドープ金属を用いた場合、上記主金属のうちリン酸塩としての安定性の点から、Sn,Cs,Ti及びZr を用いるのが望ましい。
【0041】
ドープ金属としては、例えば、Snを主金属として用いた場合、主金属と固溶可能なものであることから、In,Alが好適である。主金属とドープ金属の配合比率は固溶限界により異なるがSnを主金属、Inをドープ金属として用いる場合、例えば、Sn:In =7:3〜9.8:0.2の範囲が望ましい。
【0042】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[M]及び[N]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[P]とした場合、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0043】
2<[P]/([M]+[N])≦4 ・・・・・(3)
より好ましくは、下記式(4)を満たすことが好ましい。
【0044】
2.4≦[P]/([M]+[N])≦3.2 ・・・・・(4)
【0045】
上記式(3)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。上記式[P]/([M]+[N])の値が、2以下であると、金属リン酸塩上のリン酸量が少なくなり、プロトン伝導性が向上しない。一方、4を越えると、リン酸量が多すぎて大気中の水分の吸湿が高く成形体が脆くなるので形状が維持できないおそれがある。
【0046】
また本実施の形態に係る無機固体酸が、ヘテロポリ酸と無機塩の複合体であっても良い。このような塩としては、硫酸水素塩もしくはリン酸水素塩とヘテロポリ酸の複合体が挙げられる。硫酸水素塩としては、硫酸水素セシウム、硫酸水素カリウム等を挙げることができる。リン酸水素塩としては、リン酸水素セシウム等を挙げることができる。ヘテロポリ酸としてはリンタングステン酸(HPW1240:WPA)等が挙げられる。また硫酸水素塩やリン酸水素塩の代わりに炭酸セシウム(CsCO)、硫酸セシウム(CsSO)を用いてもよい。より好ましくは、硫酸水素塩とヘテロポリ酸の複合体であり、さらに好ましくは硫酸水素カリウムとリンタングステン酸のメカノケミカル法による複合体である。
【0047】
また硫酸水素塩とリン酸水素塩を用いた硫酸水素セシウム−リン酸水素セシウム系複合体等も挙げられる。
【0048】
(バインダーZ)
バインダーZは、架橋構造を含み、主鎖に芳香族基を有する高分子電解質であれば適宜利用できる。ここで架橋構造とは架橋前の架橋剤及び架橋した構造のどちらか一つ、もしくは両方を含む。主鎖構造については、主鎖に芳香族基を含む構造が良い。このような高分子はエンジニアリングプラスチックと呼ばれる構造であり、ポリイミド、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホンケトン、ポリイミドエーテルなど、もしくはこのような構造を主鎖中に部分的に持つブロック型、グラフト型共重合体などが例示される。
【0049】
これらは、主鎖中にフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基などの芳香族基を持つことから高い耐熱性や化学的耐久性を持ち、これにより得られる高分子電解質膜は高い耐久性を持つ。またこのような高分子電解質は、(「固体高分子型燃料電池用イオン交換膜の開発」(2000)株式会社シーエムシーP.94〜95)などに例示されている。導入されているイオン交換基としては、スルホン酸基のほか、スルホンイミド基、カルボン酸基、リン酸基、あるいはこれらの塩などの陽イオン交換基が挙げられる。中でも、プロトン伝導度の優れている点、バインダーとしての加工性の点において、スルホン酸基またはこの塩が好ましい。このような高分子電解質のなかでも、加工性、固体酸との成形性からポリエーテルエーテルスルホンにスルホン酸基が導入されたもの、つまりスルホン化ポリエーテルエーテルスルホンが好ましい。
【0050】
バインダーZのイオン交換容量については1.0〜3.0meq/gが製膜性と膜の伝導度特性に優れ好ましく、さらには1.6〜2.4meq/gが膜の機械強度とハンドリング性にも優れ好ましい。分子量については、数平均分子量で5,000〜100,000g/molが好ましく、さらには10,000〜50,000g/molが溶媒溶解性と結着力のバランスに優れ好ましい。
【0051】
架橋構造については従来公知の架橋構造が適応しうるが、適応が簡便である、試薬の入手が容易である、反応の制御が容易であるなどの理由から、下記一般式(1)の構造を複数持つ芳香族化合物から導かれる架橋構造であることが好ましい。
−CH−O−R ・・・(1)
(式中Rは水素またはアルキル基またはアシル基を表し、1種類の化合物に含まれるRはそれぞれ独立で、互いに同一であっても異なってもよい)
【0052】
このような芳香族化合物としては、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)−ベンゼン、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−フェノール、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−パラ−クレゾール、5,5´−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[2−ヒドロキシ−1,3−ベンゼンジメタノール]、オキシビス(3,4−ジヒドロキシメチル)ベンゼン、4,4´−メチレンビス[2,6−ジ(ヒドロキシメチル)]フェノール、2,4,6−トリス[ビス(メトキシメチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン、日本サイテック製サイメル(登録商標)、DML-PC(本州化学工業株式会社製)、TML-BPA-MF(本州化学工業株式会社製)、TML−BPAF−MF(本州化学工業株式会社製)、DML−OC(本州化学工業株式会社製)、Dimethoxymethyl p−CR(本州化学工業株式会社製)、DML−MBPC(本州化学工業株式会社製)、DML−BPC(本州化学工業株式会社製)、TML−BP(本州化学工業株式会社製)、DML−PEP(本州化学工業株式会社製)、DML−34X(本州化学工業株式会社製)、DML−PSBP(本州化学工業株式会社製)、DML−PCHP(本州化学工業株式会社製)、DML−POP(本州化学工業株式会社製)、DML−PFP(本州化学工業株式会社製)、DML−MBOC(本州化学工業株式会社製)、26DMPC(旭有機材工業株式会社製)、46DMOC(旭有機材工業株式会社製)、DM−BIPC−F(旭有機材工業株式会社製)、DM−BIOC−F(旭有機材工業株式会社製)、TM−BIP−A(旭有機材工業株式会社製)、ニカラック(株式会社三和ケミカル)などがあり、他には(Macromolecules 1994、27、5154−5159)中のスキーム1に示される化合物、下記式群が例示される。
【化2】

【0053】
このような化合物の中でも、架橋基が多い方が架橋構造が形成されやすく架橋密度があがる、不溶性などの特性向上が期待できるなどの理由から、上記一般式(1)の構造を3つ以上持ち、これらの構造のうち少なくとも2つが、同一の芳香族基に結合している芳香族化合物から導かれる架橋構造であることが好ましい。
【0054】
このような化合物の中でも、下記化学式の構造を持つ化合物が反応性、固体酸との膜成形性にすぐれ好ましい。
【化3】

これら化合物(以下架橋剤と示すことがある)の導入による架橋構造の導入は、架橋剤と架橋構造が導入されていない高分子電解質を共存させ、架橋反応させることによる。架橋反応は架橋剤の種類により適切な条件があるので適宜設定すればよい。
【0055】
例えば、高分子電解質と架橋剤が混合された溶液を用いて、これと固体酸を混合しペーストを作製、キャスト基材に塗布、乾燥の過程で温度を上げることにより架橋反応を進めることができる。もしくは、架橋剤なしで製膜を行い、これを架橋剤の溶解している溶液(膜が溶けないものが好ましい)に浸漬する方法も例示される。架橋反応の促進のためには高い温度で真空乾燥することが望ましいが、この条件は他の材料の耐久性などを考慮し設定すればよい。具体的には100〜200℃の温度で真空状態にすることが好ましい。
【0056】
また架橋反応については触媒を用いることも好ましい。ここで触媒は、架橋剤と高分子電解質との架橋反応を促進する物質であれば特に限定されるものではないが、特に酸が好ましい。酸の種類としては、たとえばメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸類、酢酸や安息香酸などのカルボン酸類などの有機酸類、または一般的な無機酸を利用することができる。本発明において高分子電解質はスルホン酸基などの酸基を持つので、これを利用してもよい。
【0057】
本発明の電解質膜の製造方法においては、一般に架橋構造が導入されると溶媒溶解性が低くなり、ペーストとして用いるのが困難になることから、バインダーZの前駆体を用いて電解質膜を製造し、その後架橋構造を導入し本発明の電解質膜を製造する方法が好ましい。製造方法については下記燃料電池用電解質膜の製造方法でにさらに詳しく説明する。
【0058】
(燃料電池用電解質膜の製造方法)
本実施の形態に係る燃料電池用電解質膜の製造方法は、バインダーZ又はバインダーZの前駆体と固体酸を混合してペーストを作成する工程と、ペーストをキャスト基材上に塗布して成形した後、乾燥する工程とを備える。以下、詳細に説明する。
【0059】
固体酸として、例えば、金属リン酸塩を用いる。金属リン酸塩は、以下のようにして、作製する。
【0060】
(a)まず、スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む、それぞれの金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、或いは金属硝酸化物等と液体リン酸を所定のモル数で配合する 。次いで、これに水を加えて、温度、約100〜300℃程度で、約1〜3時間程度スターラー等を用いて攪拌して分散させる。この分散液を坩堝に入れて、例えば、約300〜700℃程度の温度で、約1〜3時間程度で焼成する。上記高温状態ではリン酸が消失するおそれがあるため、液体リン酸のモル数は大目、モル当量の約1.1〜1.5倍程度加えるのが望ましい。
【0061】
焼成時におけるリン酸消失の問題を回避するため、液体リン酸に代えて固体リン酸を用いても良い。固体リン酸を用いる場合は、例えば、リン酸1水素アンモニウム、リン酸2 水素アンモニウム等を用いて、スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む 、それぞれの金属酸化物とを所定のモル数で混合する。金属酸化物は、主金属を含む酸化 物とドーピング金属を含む酸化物が、主金属とドーピング金属のモル比を、例えば、約9 :1〜1:1にして混合されたものがよい。これらを坩堝に投入し、例えば、約300〜 650℃程度の温度で、約1〜3時間程度で焼成する。次いで、焼成で得られた生成物を、めのう鉢で粉砕して、所望の金属リン酸塩を得ることができる。
【0062】
また、共沈法で作製することも可能である。例えば、塩化スズ5水和物(SnCl・5HO)及び塩化インジウム4水和物(InCl・4HO)を、約9:1のモル比となるよう所定濃度の水溶液を調整した後、スターラーで撹拌し、アンモニア水溶液をpH7になるまで滴下することにより水酸化スズ(Sn(OH))中に微量な水酸化インジウム(In(OH)))が均一に存在した状態で沈殿物が得られる。その後、沈殿物を吸引・濾過し乾燥させ、上記水酸化塩とリン酸を混合し、還元雰囲気下で約200℃、約2時間熱処理を行うことにより、金属リン酸塩を得ることができる。最後に脱イオン水で洗浄を行う。共沈法によれば、所望の複数の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させることで、インジウムをリン酸スズに均一にドープした粉体を調整することができる。
【0063】
(b)次に、上記で得られた金属リン酸塩を粉末状にし、バインダーを加えてペーストを作製することができる。なお、バインダーとは、バインダーZあるいはバインダーZの前駆体である。また、後焼成として、金属リン酸塩にリン酸を所定量加えた後、約100〜200℃程度の温度で、約30分〜2時間程度焼成したものにバインダーを添加してペーストを作製してもよい。金属リン酸塩とリン酸類の配合量は質量比で5:0.2〜5:2、好ましくは5:0.3〜5:1.2、より好ましくは5:0.8〜5:1、最も好ましくは5:0.9になるように調整する。
【0064】
ここで、リン酸類(以下、単に「リン酸」ともいう。)とは、オルトリン酸及びリン酸縮合体をいい、リン酸縮合体としては、ピロリン酸、トリリン酸、メタリン酸(ポリリン酸)等が挙げられる。
【0065】
上記ペーストは、バインダーに溶媒を加えて作製しても良い。溶媒は、バインダーを凝集させないものが用いられている。例えば、メタノール、1−ブタノール、1−プロパノール等を挙げることができる。
【0066】
上記ペーストの配合比は、金属リン酸塩とバインダーの質量固形分比が10:1〜10:3であることが好ましく、10:1がより好ましい。金属リン酸塩とバインダーの質量固形分比が10:1〜10:3は、自立性と性能の観点から好ましい範囲となる。
【0067】
得られたペーストを分散機で混合・分散して電解質ペーストを得る。分散手法としては、スターラー分散、超音波分散、ホモゲナイザー分散、遊星ボールミル分散、ボールミル分散等を用いることができる。
【0068】
(c)次に、得られた電解質ペーストをキャスト基材上に所望の形状に塗布して成形した後、乾燥を行い、キャスト基材を剥離することにより、固体酸型プロトン伝導性電解質からなる燃料電池用電解質膜1が得られる。乾燥温度は、約50〜300℃程度、好ましくは約100〜250℃であるのが良い。乾燥温度が、約50℃程度より低いとペースト中に含まれる溶媒が除去できず、約300℃程度を超えるとバインダーが熱分解するおそれがあり好ましくない。また、乾燥時間は、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。ここで、上記乾燥時に架橋構造を導入する場合は、溶媒の除去だけでなく架橋構造の導入、つまりは架橋反応を促す条件になるようにする。具体的には、温度を150℃以上、雰囲気を真空にする等である。これらの条件は、バインダーの種類により適宜調整すれば良い。また、架橋構造の導入のタイミングは、後の電極接合体の作製時でも良い。架橋構造の導入は、溶媒溶解性の変化の他、IRやNMRなどの機器分析によっても確認することができる。
【0069】
キャスト基材としては、電解質ペーストを塗工する支持体であれば、特に限定されないが、耐酸性・耐熱性に優れたものであるのが好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等が用いられる。このうち、後述する電解質膜の製造工程における寸法安定性、剥離性の点よりPTFE、ポリエステルが望ましい。また、電解質膜への剥離性を向上させるため、離型層・剥離層などを設けても良い。
【0070】
上記乾燥により、リン酸に含まれる水を揮発させるとともに、金属リン酸塩上のオルトリン酸が縮合してピロリン酸或いはメタリン酸等が生成される。そして、このピロリン酸等と金属リン酸塩が架橋されることにより金属リン酸塩周辺にリン酸とのネットワークが形成され、電荷を有するリン酸が高密度に集積することにより良好なプロトン伝導性が発現するとともに、電解質の強度が増大するものと考えられる。
【0071】
また本実施の形態に係る無機固体酸として、例えば、ヘテロポリ酸の一種であるタングステンリン酸と硫酸水素塩である硫酸水素カリウム(KHSO)の複合体を用いて、これを粉末状にしてバインダーを加えてペースト状にし、上記と同様の方法で電解質膜を製造することができる。
【0072】
タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体は、以下のようにして作製することができる。WPA(HPW120:12タングスト(VI)リン酸n水和物)をあらかじめ温度60℃で約5〜24時間乾燥することにより、6水和物(WPA・6HO)にする。次いで、硫酸水素カリウム(KHSO)と前記WPA・6HOとボールをポットに入れる。その後、ボールミルで約720 rpm、約10分混合することにより、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体が得られる。タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの配合量のモル比は、例えば、1:99〜40:60にして混合したものがよい。
【0073】
上記ミリング処理により、WPAのケギンアニオンPW12403−とKHSOのHSOアニオンがブレンステッド酸−塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。硫酸水素塩とヘテロポリ酸をメカノケミカル法により複合化し、無機固体表面に欠陥構造やランダム構造を高密度に導入し、水素結合ネットワークを設計することが、広い温度範囲で高いプロトン伝導性を示す複合体を合成するための一つの重要な指針となる。上記ペーストの配合比は、タングステンリン酸及び硫酸水素カリウムの複合体とバインダーの質量固形分比が10:1〜10:3であることが好ましく、10:1がより好ましい。タングステンリン酸及び硫酸水素カリウムの複合体とバインダーの質量固形分比が10:1〜10:3は、自立性と性能の観点から好ましい範囲となる。
【0074】
また、上記メカノケミカル法では、ボールミル等を用いたミリングによって得られる衝撃や磨砕等の大きな機械的エネルギーを利用することによって、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を合成している。したがって、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を作製する場合には、金属リン酸塩等のように高温プロセスを必要としないため、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0075】
上記電解質膜のプロトン伝導性は、160℃及び無加湿雰囲気下において、1.0×10−3 S/cm以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.0×10−2 S/cmである。電解質膜のプロトン伝導性が1.0×10−3 S/cm未満だと、燃料電池の電解質膜としての実用性が不十分となる。
【0076】
また、上記電解質膜の引張破断強度は、0.5 Mpa以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.8 Mpa以上である。電解質膜の引張破断強度が0.5 Mpa未満だと、成形性が悪くなったり、また、触媒層付電極を接合した際に膜破れ等の要因となる。
【0077】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を提供することができる。
【0078】
[第2の実施の形態]
(燃料電池用触媒層・電解質膜積層体)
本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体は、図1に示すように、第1の実施の形態で示した燃料電池用電解質膜1と、一対の触媒層2、3とを備えており、燃料電池用電解質膜1が触媒層2、3に挟持されている。
【0079】
電解質膜としては、第1の実施の形態で示したプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を用いれば良いので、この説明は省略する。
【0080】
(触媒層)
本実施の形態における触媒層2、3は、触媒を含有した層であれば、特に限定されないが、第1の実施の形態で示した固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒で構成されるのが好ましい。
【0081】
本実施の形態に係る触媒層2、3は、前記で示した固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒で構成される。また、触媒層用バインダーを含有してもよい。触媒層2、3の形成には、上記固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒のみでも成形可能であるが、これらに触媒層用バインダーを添加してペースト化したものを塗工・形成することにより、機械強度に優れた触媒層を得ることができる。固体酸型プロトン伝導性電解質は、上記第1の実施の形態の説明でした材料と同じものを用いれば良いので、説明は省略する。また、触媒層用バインダーは、従来公知のものの他、上記第1の実施の形態の説明でしたバインダーZを用いることもできる。
【0082】
触媒層2、3の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよいが、通常約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜1000μm程度であるのがよい。
【0083】
(触媒)
本実施の形態における触媒は、燃料電池におけるアノード及びカソード反応を促進する物質であれば、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン、白金―ルテニウム担持カーボン、金担持カーボン、銀担持カーボン、鉄―コバルト−ニッケル担持カーボンなどの金属担持カーボンやモリブデンカーバイド等の無機物質を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0084】
本実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体10は、ペースト状にした触媒を電解質膜上の両面に形成し、熱処理することにより触媒層を形成して製造することができる。
【0085】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜1.0mg/cm程度、好ましくは、約0.3〜0.6mg/cm程度であるのがよい。
【0086】
電解質膜への触媒ペーストの塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷、ブレードコート、ダイコート、スプレー塗工、ディスペンサー塗工、インクジェット塗工を用いることができる。このうち触媒ペーストの簡便さよりスクリーン印刷、ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0087】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層・電解質膜積層体10を提供することができる。
【0088】
[第3の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体)
本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体は、図2に示すように第1の実施の形態に記載の燃料電池用電解質膜1と、一対の触媒層付電極11、12とを備えており、燃料電池用電解質膜1が触媒層付電極11、12に挟持されている。
【0089】
電解質膜としては、第1の実施の形態において示した燃料電池用電解質膜1を用いればよい。
【0090】
触媒層付電極11、12は、例えば、上記触媒ペーストをガス拡散層上に塗布して形成することができ、燃料ガス、あるいは酸化剤ガスが流通できるようになっている。アノード極側触媒層付電極12は、燃料極であり、カソード側触媒層付電極11は、酸化剤極である。燃料極には水素の酸化反応を促進する触媒金属が付着されており、酸化剤極には酸素の還元反応を促進する触媒金属が付着している。
【0091】
触媒層付電極11、12の厚みは、ガス拡散層の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すれば良い。その厚みは、例えば、約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜1000μm程度である。
【0092】
触媒層付電極11、12は、図2に示すようにガス拡散層4、5と触媒層2、3の2層から構成されている。ガス拡散層4,5としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が用いられる。また、これらに撥水処理を行ったものを用いても良い。また、ガス拡散層4,5に触媒ペーストを塗工した場合のしみこみを防ぐため平坦化層を設けたガス拡散層を用いることが望ましい。例えば、ガス拡散層の上に触媒層を塗工形成することにより、触媒層付電極を得ることができる。
【0093】
本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体13は、第1の実施の形態で示したのと同様の燃料電池用電解質膜1を用いて、その両面に触媒層付電極11、12を圧着等により形成して製造することができる。
【0094】
本実施の形態によれば、再現性に優れ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体13を提供することができる。
【0095】
[第4の実施の形態]
(燃料電池)
本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池は、図3に示すように、第3の実施の形態で示した燃料電池用膜・電極接合体13と、一対のセパレータ6、7とを備える。燃料電池用膜・電極接合体13がセパレータ6、7に挟持されている。
【0096】
セパレータ6、7以外は、第3の実施の形態で示した燃料電池用膜・電極接合体13と同じであるので、説明は省略する。
【0097】
セパレータ6は、燃料をアノード側触媒層付電極12に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路8を有する。一方、セパレータ7は、酸化剤ガスをカソード側触媒層付電極11に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路9を有する。
【0098】
セパレータ6、7の材質としては、燃料電池21内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ6、7は、ステンレススチール等の金属により構成し、その金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0099】
なお、セパレータ6、7は、燃料電池21を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0100】
(動作原理)
燃料流路8に水素ガスあるいはメタノールなどの水素供給可能な燃料が、アノード側触媒層付電極12に供給され、この燃料からプロトン(H)と電子(e)が生成される。生成されたプロトンはプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1によってカソード側触媒層付電極11へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路9には空気あるいは酸素ガス等の酸化剤ガスがカソード側触媒層付電極11に供給され、燃料電池用電解質膜1によって搬送されてきたプロトンと外部回路30からくる電子と酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0101】
本実施の形態に係る燃料電池21は、第3の実施の形態で記載した燃料電池用膜・電極接合体に、公知の技術を用いて、触媒層付電極11上にセパレータ7を、触媒層付電極12上にセパレータ6を積層することにより、図3に示す燃料電池21を製造することができる。
【0102】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を用いるので、安定性に優れ、高性能な燃料電池21を提供することができる。
【0103】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【実施例】
【0104】
[バインダーZの作製方法]
<合成例1〜6>
メカニカルスターラーと還流管、および塩化カルシウム管を取り付けたガラス製反応容器に硫酸560.0gを入れ、次いで撹拌しながらPEEK450PF(ビクトレックス・エムシー社製ポリエーテルエーテルケトン)30.0gを加え、室温にて48時間撹拌した。反応溶液をイオン交換水中に滴下して反応生成物を沈殿させた後ろ過し、ろ液が中性になるまでイオン交換水にて洗浄した。
【0105】
得られた反応生成物を真空下、105℃にて8時間乾燥することにより、プロトン伝導性基が導入された芳香族高分子化合物(スルホン化ポリエーテルエーテルケトン)36.4gを得た。この化合物のみを製膜してIECを測定したところ、2.2meq/gであった。この化合物と、架橋剤として5,5’−[2,2,2−Trifluoro−1−(trifluoromethyl)ethylidene]bis[2−hydroxy−1,3−benzenedimethanol]”(本州化学工業株式会社製TML−BPAF−MF)を以下の比率で混合し、メタノールに固形分濃度10wt%となるよう溶解した。
(芳香族化合物:架橋剤)=(95:5)、(90:10)、(80:20)、(75:25)、(70:30)、(65:35)
【0106】
これらのバインダーZの前駆体をそれぞれ合成例1〜6とする。これら合成例1〜6の溶液をキャスト法により製膜しIECを測定したところ、それぞれ2.38、2.25、2.05、1.90、1.75、1.60meq/gであった。
【0107】
[実施例1]
まず、金属リン酸塩(スズリン酸)を以下のようにして作製した。酸化スズ(SnO:Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)及び酸化インジウム(In:ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)に、りん酸水素2アンモニウム(ナカライテスク社製)27.99g(0.212モル)を加え、これらを薬さじで混合した。
【0108】
得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で約1時間焼成し、焼結後得られた生成物を、めのう鉢で粉砕し金属リン酸塩を得た。
【0109】
次に、金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例3のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0110】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。なお、JARIセル標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Auto mobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究及びPEFC用材料(膜、触媒層付電極、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルである。
【0111】
[実施例2]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例3のバインダー前駆体10.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0112】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0113】
[実施例3]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例3のバインダー前駆体15.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0114】
得られた電解質膜1の両面にガス拡散電極を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0115】
[実施例4]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例6のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み90μmの電解質膜1を得た。
【0116】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0117】
[実施例5]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例5のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み72μmの電解質膜1を得た。
【0118】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0119】
[実施例6]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例4のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み90μmのプロトン伝導性電解質膜1を得た。
【0120】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0121】
[実施例7]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例2のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み105μmの電解質膜1を得た。
【0122】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0123】
[実施例8]
実施例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約150℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質として、合成例1のバインダー前駆体5.0gと混合し、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm、東レ(株)製)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み92μmのプロトン伝導性電解質膜1を得た。
【0124】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0125】
[実施例9]
タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を以下のようにして作製した。タングステンリン酸(WPA(12タングスト(VI)リン酸n水和物:ナカライテスク社製))をあらかじめ温度60℃で乾燥し、6水和物(WPA・6HO)とする。次いで、硫酸水素カリウム(KHSO:ナカライテスク社製)4gと前記タングステンリン酸6水和物(WPA・6HO)4.458gとボールをポットに入れ、ボールミルで約720rpm、約10分混合し、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を得た。
【0126】
次に、得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、合成例3のバインダー前駆体5.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0127】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0128】
[実施例10]
実施例9と同様のタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、合成例6のバインダー前駆体5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分程度、乾燥し厚み84μmの電解質膜1を得た。
【0129】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0130】
[実施例11]
実施例9と同様のタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5 gに、合成例5のバインダー前駆体5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み85μmの電解質膜1を得た。
【0131】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0132】
[実施例12]
実施例9と同様のタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、合成例4のバインダー前駆体5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み92μmの電解質膜1を得た。
【0133】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0134】
[実施例13]
実施例9と同様のタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、合成例2のバインダー前駆体5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0135】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0136】
[実施例14]
実施例9と同様のタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、合成例1のバインダー前駆体5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製したこ。の電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約150℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜1を得た。
【0137】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0138】
[比較例1]
酸化スズ(SnO:Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)、酸化インジウム(In:ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)、85%リン酸水溶液(ナカライテスク社製)にリン酸水素2アンモニウム(ナカライテスク社製)27.9g(0.212モル)を加え、これらを薬さじで混合した。
【0139】
得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で約1時間焼成し、焼結後得られた生成物を、めのう鉢で粉砕し金属リン酸塩を得た。
【0140】
金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1−E:ダイキン工業社製)0.83gと、水20gとを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0141】
[比較例2]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1−E:ダイキン工業社製)1.66gと、水20gとを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0142】
[比較例3]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして10%酢酸セルロース溶液(ダイセル化学工業社製、LT-35)5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0143】
[比較例4]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして10%酢酸セルロース溶液(ダイセル化学工業社製、LT-35)10gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0144】
[比較例5]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして20%Nafion溶液(登録商標:Dupont社、DE2020CS)2.5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0145】
[比較例6]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして20%Nafion溶液(登録商標:Dupont社、DE2020CS)5.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0146】
[比較例7]
比較例1と同様の金属リン酸塩(スズリン酸)5gに85%リン酸水溶液0.9gを加え、よく混錬して約200℃で、約30分の事前加熱処理を行い後処理とした。これを電解質とし、バインダーとして10%エチルセルロース溶液(日新化成社製、EC100FTR)5.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0147】
[比較例8]
タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を以下のようにして作製した。タングステンリン酸(WPA(12タングスト(VI)リン酸n水和物:ナカライテスク社製))をあらかじめ温度60℃で乾燥し、6水和物(WPA・6HO)とする。ついで、硫酸水素カリウム(KHSO:ナカライテスク社製)4gと前記タングステンリン酸6水和物(WPA・6HO)4.458gとボールをポットに入れ、ボールミルで約720rpm、約10分混合し、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を得た。
【0148】
次に、得られたタングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を電解質とし、この複合体5gに、バインダーとして10wt%酢酸セルロース溶液(ダイセル化学工業社製、LT-35)5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリイミドフィルム、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約160℃、約30分、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0149】
(イオン交換容量(IEC)の測定)
合成例1〜6の各バインダー前駆体のイオン交換容量を以下の方法により測定した。高分子電解質を秤量後、25℃における飽和塩化ナトリウム水溶液20mlに浸漬し、60℃のウォーターバス中で3時間浸透させながらイオン交換反応を行った。25℃まで冷却した後、高分子電解質をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に指示薬としてフェノールフタレイン-エタノール溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定してイオン交換容量を算出した。
【0150】
(引張破断強度測定)
実施例1〜14、比較例1〜8で得られた電解質膜について、引っ張り破断強度を以下の方法により測定した。上記電解質膜を、電解質膜のMD方向に、幅10mm、長さ70mmの試験片を作製した。
【0151】
この測定サンプルを小型卓上試験機EZ Test(島津製作所(株)製)を用いて、JIS規格に基づいて測定した。つかみ間隔50mmで、約1mm/分の速度で引っ張って、破断時の荷重(MPa)の測定を2回行い、その平均値を引張破断強度とした。この結果を表1に示す。
【0152】
【表1】

【0153】
表1に示すように、本発明の範囲内にある実施例1〜14では、自立膜化が可能であり、引張破断強度において良好な機械強度特性を示した。これに対して、比較例1〜8は実施例1〜14に比べて、基材から剥離して自立膜化せず、機械強度を測定することが困難であることを確認した。
【0154】
(プロトン伝導度測定)
実施例1〜14、及び比較例1〜8で得られたプロトン伝導性を有する電解質について、プロトン伝導度を以下の方法により測定した。電解質膜を幅10 mm、長さ50 mmに切り抜き、電気化学測定装置(12528WB型:Solartron社)で交流インピーダンス負荷を行い、160℃かつ無加湿雰囲気下でのプロトン伝導度を測定した。この結果を表1に示す。
【0155】
本発明の範囲内にある実施例1〜14で得られた電解質膜については、1.0×10−4S/cm以上のプロトン伝導度を示し、いずれの電解質膜についても電解質膜として使用可能な性能を持つことを確認した。これに対して、比較例1〜8で得られた電解質膜は、実施例1〜14と比較すると、基材から剥離して自立膜化せず、プロトン伝導度を測定することが困難であることを確認した。
【0156】
(起電力の測定)
実施例1で得られたセルについて、120℃、無加湿ガスを用いてIV測定を行い、100mA/cmにおける起電力を調べた。本発明の範囲内にある実施例1では、100mA/cmにおいて0.52Vであり、良好な起電力を示した。また実施例9で得られたセルについて、室温、無加湿ガスを用いてIV測定を行い、100mA/cmにおける起電力を調べた。本発明の範囲内にある実施例9では、100mA/cmにおいて0.6Vであり、良好な起電力を示した。
【0157】
以上のことから、本発明によるプロトン伝導性を有する電解質膜1は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0158】
1 燃料電池用電解質膜
2 触媒層(カソード極側)
3 触媒層(アノード極側)
4 ガス拡散層(カソード極側)
5 ガス拡散層(アノード極側)
6 セパレータ(アノード極側)
7 セパレータ(カソード極側)
8 燃料流路
9 酸化剤ガス流路
10 燃料電池用触媒層・電解質膜積層体
11 触媒層付電極(カソード極側)
12 触媒層付電極(アノード極側)
13 燃料電池用膜・電極接合体
21 燃料電池
30 外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸により構成される電解質と、下記(A)の条件を満たす架橋構造を含み、主鎖に芳香族基を有する高分子電解質(以下バインダーZ)を少なくとも含んだ材料で構成された室温から200℃までの温度範囲、かつ無加湿雰囲気下で使用する燃料電池用電解質膜。
(A)下記一般式(1)の構造を3つ以上有し、これらの構造のうち少なくとも2つが同一の芳香族基に結合している芳香族化合物から導かれる架橋構造
−CH−O−R ・・・・(1)
(式中Rは水素またはアルキル基またはアシル基を表し、1種類の化合物に含まれるRはそれぞれ独立で、互いに同一であっても異なってもよい。)
【請求項2】
前記架橋構造が、下記化学式に記載の構造を持つ化合物から導かれる構造であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【化4】

【請求項3】
前記バインダーZが、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを含む構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
前記バインダーZのイオン交換容量が1.6〜2.4 meq/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
前記固体酸が無機固体酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項6】
前記無機固体酸が金属リン酸塩からなり、前記金属リン酸塩は下記式(2)で表される化合物からなることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜。
1−X ・・・(2)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MがZr,Cs,Sn,Ti ,Si,Ge,Pb,Ca,Mg, W及びAlの群から選ばれる1種であり、NがAl,In ,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【請求項7】
前記金属リン酸塩がスズリン酸であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項8】
前記無機固体酸がヘテロポリ酸と無機塩の複合体からなることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項9】
前記無機固体酸が、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体、タングステンリン酸と硫酸水素セシウムの複合体、タングステンリン酸と硫酸セシウムの複合体のいずれかの複合体であることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項10】
プロトン伝導度が、160℃及び無加湿雰囲気下において、1.0×10−3S/cm以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項11】
引張破断強度が0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項12】
固体酸とバインダーZあるいはバインダーZの前駆体とを混合してペーストを作成する第1の工程と、
前記ペーストをキャスト基材上に塗布して成形する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記ペーストを乾燥させる第3の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、
一対の触媒層とを備え、
前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層に挟持されたことを特徴とする燃料電池用触媒層・電解質膜積層体。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、
一対の触媒層付電極とを備え、
前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層付電極に挟持されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項15】
請求項14に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、
1対のセパレータとを備え、
前記燃料電池用膜・電極接合体が前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−38619(P2012−38619A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178669(P2010−178669)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】