説明

燃料電池車両の排気装置

【課題】この発明は、排気通路の通気抵抗を低減することによって燃料電池内に空気を円滑に吸入でき、かつ排気ダクト内への水の侵入を防止することを目的とする。
【解決手段】この発明は、燃料電池車両の排気装置において、フロントフードの下面に排気チャンバを取り付け、排気ダクトを燃料電池ケースの後部から鉛直方向上方へ延ばし、その上端の排気口を排気チャンバ内に開口させ、フロントフードには車両前後方向で排気口よりも前側の部分に排気チャンバ内を外部の空間と連通させる貫通孔を形成し、貫通孔をカバーで覆うとともにこのカバーにフロントフードの上面から上方に離れかつ車両後方に向かって開口する開口部を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池車両の排気装置に係り、特に、燃料電池の吸排気の円滑化と水の侵入防止を図った燃料電池車両の排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の燃料電池セルを積層した燃料電池スタックからなる燃料電池を駆動用エネルギ源とする燃料電池車両においては、燃料電池ケースに収納した燃料電池に吸気ダクトにより反応用ガスとしての空気を供給して水素と反応させ、燃料電池から排出される余剰の空気と余剰の水素ガスとを排気装置の排気ダクトを含む排気通路により車外に排出している。
排気装置により排出される空冷式の燃料電池の排気は、外気より温度が高い空気と余剰の水素を含むため、常温の空気より軽い。よって、排気ダクトの排気口は、上を向いているほうが排気を流し易い。また、排気装置は、通気抵抗を軽減するために、排気ダクトの排気通路は曲がりが少なく、短い方が良い。しかし、排気口を上向きに開口させると、水が侵入し易い。
燃料電池車両の排気装置については、以下のような技術が開示されている。
特開2003−34267には、燃料電池車両のフードに水素換気ダクトを設けることが記載されている。また、特開2001−229948には、燃料電池ユニットの冷却用ダクトに複数の吸排気ダクトを接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−34267
【特許文献2】特開2001−229948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特開2003−34267に記載の排気装置は、水素換気ダクトがフードのアウターパネルとインナーパネルに挟まれているので、内部の空間の容積が小さく、余剰の空気を流す排気通路としては機能が不十分である。また、水素換気ダクトは、内部の空間に複数の筒部、案内板などがあるため、構造が複雑になり、圧力損失が増加する。
また、前記特開2001−229948に記載の排気装置は、冷却用ダクトに、冷却風路を切り換える複数の切換弁およびファン、温度検出手段、前記切換弁およびファンの制御手段を備えており、構造が複雑である。また、冷却用ダクトおよび吸排気ダクトによる排気経路が長く、排気による圧力損失が大きい。
【0005】
この発明は、排気通路の通気抵抗を低減することによって燃料電池内に空気を円滑に吸入でき、かつ排気ダクト内への水の侵入を防止できる燃料電池車両の排気装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、車両前部かつフロントフードによって上方を覆われる空間に燃料電池を収納した燃料電池ケースを配置し、前記燃料電池ケースに吸気ダクトと排気ダクトを連結し、前記吸気ダクトと前記排気ダクトとを前記燃料電池内の空気通路によって連通させ、前記燃料電池から排出される余剰の空気と余剰の水素ガスとを前記排気ダクトを含む排気通路によって車外に排出する燃料電池車両の排気装置において、前記フロントフードの下面に排気チャンバを取り付け、前記排気ダクトを前記燃料電池ケースの後部から鉛直方向上方へ延ばし、その上端の排気口を前記排気チャンバ内に開口させ、前記フロントフードには車両前後方向で前記排気口よりも前側の部分に前記排気チャンバ内を外部の空間と連通させる貫通孔を形成し、前記貫通孔をカバーで覆うとともにこのカバーに前記フロントフードの上面から上方に離れかつ車両後方に向かって開口する開口部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の燃料電池車両の排気装置は、排気通路の下流端部をフロントフードの上方に開口させているため、排気ダクトを含めた排気通路の長さを短縮して排気通路の通気抵抗を低減できる。このため、燃料電池から余剰の空気と余剰の水素を円滑に車外へ排出でき、それと入れ替わりに吸気ダクトに空気を円滑に吸入できる。
また、この発明の燃料電池車両の排気装置は、排気ダクトの排気口からカバーの開口部に至る排気通路を湾曲させ、かつ開口部をフロントフードの上面から上方へ離したことによって、外部から排気ダクト内への水の侵入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は燃料電池車両の前部の右側面図である。(実施例)
【図2】図2はフロントフードを開いた燃料電池車両の排気装置の右前上方からの斜視図である。(実施例)
【図3】図3はフロントフードの平面図である。(実施例)
【図4】図4は図3のA−A線による断面図である。(実施例)
【図5】図5はフロントフードの左後上方からの斜視図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図5は、この発明の実施例を示すものである。図1・図2において、1は燃料電池車両、2はフロントバンパ、3はフロントグリル、4は右サイドパネル、5は左サイドパネル、6はダッシュパネル、7はフロントフード、8はフロントルームである。燃料電池車両1は四輪車であり、フロントバンパ2とフロントグリル3と右サイドパネル4と左サイドパネル5とダッシュパネル6とによって囲まれ、フロントフード7によって上方を覆われる車両前部の空間に、フロントルーム8を設けている。フロントルーム8には、燃料電池9を収納した燃料電池ケース10を配置している。
前記燃料電池ケース10は、前後方向に薄く、左右方向よりも上下方向に長い略四角箱形状に形成され、内部にケース空間11を有している。燃料電池ケース10は、前部12を車両前方に向けるとともに後部13を車両後方に向けて、フロントルーム8に配置している。前記燃料電池9は、複数の燃料電池セルを積層して燃料電池スタックを構成している。燃料電池9は、前後方向に薄く、上下方向よりも左右方向に長い略四角箱形状に形成され、内部に空気通路14(図4参照)を有している。燃料電池9は、空気取入面15を車両前方に向けるとともに空気排出面16を車両後方に向け、燃料電池ケース9のケース空間11内に車両上下方向に2個重ねて設置している。
【0011】
この燃料電池車両1は、吸気装置17と排気装置18を備える。吸気装置17は、図2に示すように、燃料電池ケース10の前部12に吸気ダクト19を車両上下方向に2個重ねて取り付けている。吸気ダクト19は、内部に燃料電池ケース9のケース空間11に連通する吸気ダクト空間20を有し、吸気ダクト空間20の下部に車両下方に向けて開口する空気取入口21を設けている。吸気ダクト19は、フロントグリル3からフロントルーム8に流入した空気を空気取入口21から取り入れ、吸気ダクト空間20により燃料電池ケース10のケース空間11に導く。車外の空気は、吸気ダクト19の吸気ダクト空間20と燃料電池ケース10のケース空間11からなる吸気通路22によって、燃料電池9の空気取入面15に反応用ガス兼冷却用の空気として供給される。
燃料電池9の空気取入面15に供給された空気は、内部の空気通路14からカソードへ送られ、アノードの水素と反応して電力を発生する。水素と反応しない余剰の空気は、空気通路14を流れる間に燃料電池9を冷却する。余剰の空気には余剰の水素が混合されて、空気排出面16から排出される。よって、燃料電池9は、空冷式燃料電池である。
燃料電池ケース10の後部13には、排気装置18が配設されている。排気装置18は、図1・図2に示すように、燃料電池9の空気排出面16に対向するように排気用ファン23を設け、この排気用ファン23を覆うように、燃料電池ケース10の後部13に排気ダクト24を車両幅方向に2個並べて取り付けている。排気ダクト24は、鉛直方向に延びる筒形状に形成され、内部に燃料電池9の空気排出面16に連通する排気ダクト空間25を有し、上端に上方に開口する排気口26を設けている。排気ダクト24は、燃料電池9の空気排出面16から排出される余剰の空気と余剰の水素を、上方のフロントフード7の下面側に導く。
【0012】
前記燃料電池車両1の排気装置18は、図2・図4に示すように、車両上下方向の高さが車両前側に向かうにつれて低くなる形状のフロントフード7の下面に、排気チャンバ27を取り付けている。排気チャンバ27は、フロントフード7の下面に沿い車両上下方向の高さが車両前側に向かうにつれて低くなる板状の底面部28と、この底面部28の外周を囲んでフロントフード7の下面に取り付けられる環状の周壁部29とにより箱形状に形成され、内部に排気口26に連通するチャンバ空間30を有している。排気チャンバ27の底面部28には、前記排気ダクト24の排気口26を挿入する2つの挿入孔部31を形成している。2個の排気ダクト24は、図4に示すように、燃料電池ケース10の後部13から鉛直方向上方へ直線的に延ばされ、その上端を挿入孔部31から排気チャンバ27内へ挿入して排気口26を排気チャンバ27のチャンバ空間30内に開口させている。
前記フロントフード7には、図3・図4に示すように、車両前後方向で排気ダクト24の排気口26よりも前側の部分に、排気チャンバ27内を車両外部の空間と連通させる複数の貫通孔32を形成している。4つの貫通孔32は、フロントフード7を上方から見た場合、排気ダクト24の排気口26に対して、車両前方で車両幅方向にずれた位置に形成している。排気チャンバ27内に流入した余剰の空気と余剰の水素は、車両前方の貫通孔32に導かれる。
前記フロントフード7の上面には、図4・図5に示すように、貫通孔32を覆うカバー33を設けている。このカバー33は、フロントフード7の上面との間に貫通孔32に連通するカバー空間34を有し、車両後側の端部にフロントフード7の上面から上方に離れ、かつ車両後方に向かって開口する開口部35を形成している。開口部35下部のフロントフード7の上面には、開口部35をフロントフード7の上面から上方に離れさせるために、開口部35の全幅にわたり上方に突出する縦壁部36を設けている。貫通孔32からカバー33のカバー空間34内に入った余剰の空気と余剰の水素は、開口部35から車両後方に向かって排出される。燃料電池9から排出される余剰の空気と余剰の水素とは、排気ダクト24の排気ダクト空間25と、排気チャンバ27のチャンバ空間30と、カバー33のカバー空間34からなる排気通路37によって、車外に排出される。
【0013】
この燃料電池車両1の排気装置18は、カバー33の開口部35が車両後方に向かって開口するとともにフロントフード7の上面から上方に離れ、排気ダクト24の排気口26とフロントフード7の貫通孔32が上方から見た場合に車両前後方向と車両幅方向にずれているため、水が排気ダクト24に入り難くなっている。
これにより、排気装置18は、水の浸入を防ぐために排気ダクト24を曲げて迷路状にする構造と比べて排気通路37が短くなるので、排気ダクト24を含めた排気通路37の長さを短縮して排気通路37の通気抵抗を低減できる。このため、排気装置18は、燃料電池9から余剰の空気と余剰の水素を円滑に車外へ排出でき、それと入れ替わりに吸気ダクト19に空気を円滑に吸入できる。
また、この燃料電池車両1の排気装置18は、排気ダクト24の排気口26から排気チャンバ27、フロントフード7の貫通孔32、カバー33の開口部35に至る排気通路37を湾曲させ、かつフロントフード7の上面から上方へ延びる縦壁部36により開口部35の下縁部をフロントフード7の上面から離したことによって、図5に矢印で示すように、外部から排気ダクト24内への水の侵入を防止できる。
【0014】
前記燃料電池車両1の排気装置18は、図3〜図5に示すように、フロントフード7の上面の、カバー33の開口部35よりも車両後方に水素ガス排出部38を設けている。水素ガス排出部38は、フロントフード7を貫通して排気チャンバ27内の後方と外部の空間とを連通する水素ガス排出口39を形成している。排気装置18は、フロントフード7を上方から見た場合、このフロントフード7を貫通して排気チャンバ27内と外部の空間とを連通する水素ガス排出口39を、排気ダクト24の排気口26の位置から車両幅方向にずらした位置に、後方に向けて開口するように形成している。
これにより、排気装置18は、燃料電池9の非作動時に排気チャンバ27内のチャンバ空間30後側の高い位置に溜まる水素ガスを、水素ガス排出口39から車外の後方に向けて排出することができる。
【0015】
また、燃料電池車両1の排気装置18は、図2・図4に示すように、排気チャンバ27の底面部28を車両上下方向の高さが車両前側に向かうにつれて低くなる形状とし、その底面部28の最も低くなる前側部に下方に突出する排水部40により排水口41を形成している。配水口41の下方には、この排水口41から流出した水を下方へ導くドレン配管42を設けている。ドレン配管42は、上端に上方に向かって拡開する漏斗状の受部43を備え、フロントフード7より下方に配置される部品である燃料電池ケース10の前部12に取り付けている。排気チャンバ27の排水部40は、フロントフード7の開放時にドレン配管42の受部43から離間され、フロントフード7の閉鎖時にドレン配管42の受部43内に挿入される。
これにより、排気装置18は、排気チャンバ27内に水が浸入した場合、その水を車両前側に向かい低くなる形状の底面部28により前側に導いて排水口41から流出させ、ドレン配管42の受部43で受けて下方に導くことができ、排気ダクト24内への水の侵入を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明は、排気通路の通気抵抗を低減することによって燃料電池内に空気を円滑に吸入でき、かつ排気ダクト内への水の侵入を防止できる燃料電池車両の排気装置であり、燃料電池車両以外でも自動車のフード上面から排出する冷却用排気ダクトとして応用が可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 燃料電池車両
7 フロントフード
8 フロントルーム
9 燃料電池
10 燃料電池ケース
14 空気通路
17 吸気装置
18 排気装置
19 吸気ダクト
21 空気取入口
22 吸気通路
23 排気用ファン
24 排気ダクト
26 排気口
27 排気チャンバ
28 底面部
32 貫通孔
33 カバー
35 開口部
36 縦壁部
37 排気通路
39 水素ガス排出口
41 排水口
42 ドレン配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部かつフロントフードによって上方を覆われる空間に燃料電池を収納した燃料電池ケースを配置し、前記燃料電池ケースに吸気ダクトと排気ダクトを連結し、前記吸気ダクトと前記排気ダクトとを前記燃料電池内の空気通路によって連通させ、前記燃料電池から排出される余剰の空気と余剰の水素ガスとを前記排気ダクトを含む排気通路によって車外に排出する燃料電池車両の排気装置において、前記フロントフードの下面に排気チャンバを取り付け、前記排気ダクトを前記燃料電池ケースの後部から鉛直方向上方へ延ばし、その上端の排気口を前記排気チャンバ内に開口させ、前記フロントフードには車両前後方向で前記排気口よりも前側の部分に前記排気チャンバ内を外部の空間と連通させる貫通孔を形成し、前記貫通孔をカバーで覆うとともにこのカバーに前記フロントフードの上面から上方に離れかつ車両後方に向かって開口する開口部を形成したことを特徴とする燃料電池車両の排気装置。
【請求項2】
前記フロントフードを上方から見た場合、このフロントフードを貫通して前記排気チャンバ内と外部の空間とを連通する水素ガス排出口を前記排気ダクトの排気口の位置から車両幅方向にずらした位置に形成したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両の排気装置。
【請求項3】
前記排気チャンバの底面部を車両上下方向の高さが車両前側に向かうにつれて低くなる形状とし、その底面部の前側部に排水口を形成し、この排水口から流出した水を下方へ導くドレン配管を前記フロントフードより下方に配置される部品に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両の排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218510(P2012−218510A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84160(P2011−84160)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】