燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池
【課題】カーボンナノチューブ等のカーボン担体の凝集を抑えるのに有利であり、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利な燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体(例えばCNT)と芳香族環を有する電解質成分と触媒成分とを含む。燃料電池電極用触媒の製造方法。溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体(例えばCNT)と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことができる。
【解決手段】燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体(例えばCNT)と芳香族環を有する電解質成分と触媒成分とを含む。燃料電池電極用触媒の製造方法。溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体(例えばCNT)と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン担体を有する燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、膜電極接合体と、膜電極接合体の一方の外側に配置され燃料を供給する燃料用配流部材と、膜電極接合体の他方の外側に配置され酸化剤を供給する酸化剤用配流部材とを有する。膜電極接合体は、イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、電解質成分膜の両側に配置された触媒層と、触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む。燃料電池の発電出力を向上させるためには、電子伝導体であるカーボン担体と、燃料および酸化剤の反応性を高める触媒成分と、イオン伝導体である電解質成分との3者(いわゆる三相界面)を、互いに密接させることが要請されている。
【0003】
しかしながら燃料電池電極用の触媒で使用されるカーボン担体は、条件によっては、凝集し易い性質をもつことがある。従って、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるには限界がある。よって三相界面の形成が充分であるとはいえないことがある。
【0004】
殊に、近年、カーボン材料として開発されているカーボンナノチューブ(非特許文献1)は、凝集し易い性質をもつ。カーボンナノチューブは多数のチューブが束になったバンドル構造を呈し易く、且つ、溶媒に不溶である。このため、カーボンナノチューブを燃料電池電極用のカーボン担体として用いると、カーボンナノチューブの分散度が悪く、カーボンナノチューブが凝集したままとなり易く、カーボンナノチューブの表面に触媒成分および電解質成分が存在しにくい。従って、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるには限界がある。よって三相界面の形成が不充分であり、燃料電池の性能向上には限界がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、カーボンナノチューブ(以下、CNTと略称することがある)を硝酸、または、硝酸と硫酸とで処理することにより、カーボンナノチューブの外表面に反応性部位を導入させた燃料電池用電極が開示されている。これによりカーボンナノチューブの凝集を抑制し、触媒成分とカーボンナノチューブと電解質成分との3者を密接させるのに有利となる。
【非特許文献1】S. Iijima, Nature, 354, 56(1991)
【特許文献1】特開2004−253224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ等のカーボン担体と電解質成分との親和性を高めることにより、カーボンナノチューブ等のカーボン担体の凝集を抑えるのに有利であり、カーボンナノチューブ等のカーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利な燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
様相1に係る燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を含むことを特徴とする。
【0008】
様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、燃料電池電極用触媒の製造方法。溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことを特徴とする。
【0009】
様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分修飾を行う修飾工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
様相1に係る燃料電池電極用触媒によれば、カーボン担体はパイ電子を有する。そしてカーボン担体のパイ電子と、電解質成分の芳香族環のパイ電子との親和力により、即ち、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よってカーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体の付近に触媒成分および電解質成分を存在させ易くなる。故に、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【0011】
様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法によれば、溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾と触媒成分の担持とを行う。この場合、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、電解質成分はカーボン担体を分散させる分散剤として機能でき、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よってカーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【0012】
更に、様相2の製造方法によれば、触媒調製時において三相界面を形成できるので、プロセスの簡略化、コスト低減が図られる。
【0013】
様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾を行う工程とを含むことを特徴とする。この場合、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させ、カーボン担体に触媒成分を担持させる。その後、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分を修飾させる。修飾とは、カーボン担体と電解質成分とが親和的に保持されることをいう。この場合、パイ電子に基づくパイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よって、カーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)様相1に係る燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分とを含む。カーボン担体はパイ電子をもつ。パイ電子はπ結合を形成できる電子をいう。電解質成分はイオン伝導性(プロトン伝導性)を発揮することができる。電解質成分の芳香族環はパイ電子をもつ。電解質成分としては全芳香族ポリイミドで形成することができる。特に、電解質成分としては、上記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドで形成することができる。
【0015】
カーボン担体のパイ電子と、芳香族環を有する電解質成分のパイ電子との親和力により、即ち、パイ電子に基づくパイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが接近した状態に存在することができ、カーボン担体の凝集が抑制される。このため、カーボン担体同士の集団の間に電解質成分および触媒成分が存在する頻度が高まる。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって、いわゆる三相界面が良好に形成される。
【0016】
なお、カーボン担体の間に電解質成分を効率よく存在させるためには、カーボン担体と電解質成分とを接近させる頻度を高める物理的接近手段を、カーボン担体と電解質成分との共存状態(例えば、溶媒などの液状物にカーボン担体および電解質成分を共存させた状態)に付加させることが好ましい。物理的接近手段としては、カーボン担体と電解質成分とが共存する共存物に超音波等の音波を印加する手段が挙げられる。あるいは、カーボン担体と電解質成分とが共存する共存物をミル等で機械的に攪拌する手段なども期待できる。凝集しているカーボン担体同士が離間すれば、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体間に電解質成分が存在する確率が高まる。
【0017】
ここで、溶媒などの液状物にカーボン担体および電解質成分を共存させた状態に超音波などの物理的接近手段を付加させたときには、その後、その液状物を遠心分離等で固形分と液分とを分離させることができる。固形分には、カーボンナノチューブなどのカーボン担体が凝集し易い。液分には、カーボンナノチューブなどのカーボン担体が可溶状態で分散している。
【0018】
(2)様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことにより、様相1に係る燃料電池電極用触媒を形成することができる。電解質成分の芳香族環はパイ電子をもつ。カーボン担体のパイ電子と、芳香族環を有する電解質成分のパイ電子との親和力により、即ち、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが接近して存在することができ、カーボン担体同士の凝集が抑制される。この場合、カーボン担体と電解質成分とが共存した状態において、カーボン担体と電解質成分とを接近させ得る上記した物理的接近手段を与えることが好ましい。
【0019】
よって、カーボン担体同士の集団の間に電解質成分および触媒成分が存在する頻度が高まる。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【0020】
様相2に係る製造方法の一形態によれば、図9に示すフローチャートのように、先ず、溶媒に電解質成分を溶解すると共に、カーボンナノチューブなどのカーボン担体を添加し、懸濁液を形成する(ステップS1)。溶媒としては、電解質成分を溶解できるものであれば良く、有機溶媒でも無機溶媒でもよい。例えば、DMSO、THF、アルコール類が例示される。電解質成分が水に溶解すれば、水でも良い。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加する(ステップS2)。これによりカーボンナノチューブ等のカーボン担体を懸濁液において超分散させると共に、電解質成分をカーボン担体に修飾させ、調製溶液とする。この場合、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができ、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。超音波の出力としては特に制限はないが、均一に分散させることが好ましい。この場合、各材料の必要機能の破壊を抑制しつつ行うことが好ましい。
【0021】
次に、この調製溶液に触媒成分の原料を加え、超音波を充分に印加し、カーボン担体、電解質成分、触媒成分を充分に混合させる(ステップS3)。触媒成分は特に限定されない。更に、カーボンナノチューブ等のカーボン担体の表面に触媒成分を担持させる(ステップS4)。担持方法としては、公知の方法を採用でき、特に制限されない。例えば熱分解法、コロイド法、含浸法、吸着法、還元法が挙げられる。還元法としては、気相還元、液相還元、固相還元があるが、好ましくは、液相還元である。例えば、還元剤としては、アルコール類、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、水素ガス等が例示される。場合に応じて、還元剤と同時に熱などの外力を加えることも有効である。
【0022】
次に、調製溶液の溶媒と固形成分とを分離し、触媒(固形成分)を分取する(ステップS5)。触媒を分取するには、特に制限されないが、例えば濾過法、濃縮乾固等が挙げられる。次に、分取した材料を所定温度で所定時間乾燥し、本発明に係る触媒を得る(ステップS6)。
【0023】
次に、この触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面またはガス拡散層の表面に塗布し、膜電極接合体(以下、MEAともいう)を作製する(ステップS7)。この場合、本発明の触媒を適当な溶媒に分散させて塗布することができる。あるいは、本発明の触媒を適当なバインダに分散させて塗布することができる。バインダとしては、ナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成製)、フレミオン(旭硝子製)等のイオン伝導性をもつ電解質成分が例示される。あるいは、フッ素樹脂(PTFE等)等の絶縁性をもつ樹脂が例示される。そして、電解質成分膜の両側をガス拡散層で挟んで積層体を形成する。積層体を積層方向にプレス成形またはホットプレス成形を行って接合性を高める。これによりMEAを作製する。MEAは、イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、電解質成分膜の厚み方向の両側に配置された触媒層と、触媒層の厚味方向の外側に配置されたガス拡散層とを含む。ガス拡散層は通気性を有するシート状をなしており、一般的には、カーボン繊維等のカーボン材料の集積層で形成されている。
【0024】
なお、ステップS2およびステップS3の順序は問わない。ステップS1においてステップS3を同時に実行しても良い。特に必要がなければ、ステップS5およびステップS6は無くても良い。この場合、ステップS4が終了した時点の溶液をそのまま電解質成分膜の表面またはガス拡散層の表面に塗布しても良い。ステップS4は、場合によっては、ステップS5の後,ステップS6の後,ステップS7の後で実行しても良い。
【0025】
(3)様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分修飾を行う修飾工程とを含むことにより、様相1に係る燃料電池電極用触媒を形成することができる。分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させ、カーボン担体に触媒成分を担持させる。その後、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾を行う。修飾工程において、カーボン担体と電解質成分とを接近させ得る上記した物理的接近手段を、カーボン担体および電解質成分の共存状態に与えることが好ましい。
【0026】
様相3に係る製造方法の一形態によれば、図10に示すフローチャートのように、先ず、分散剤を含む溶液を形成する。分散剤としては公知の界面活性剤を採用できる。溶媒としては、電解質成分を溶解できるものであれば良く、有機溶媒でも無機溶媒でもよく、水でも良い。水であれば、後処理、コストの面で有利である。更に、カーボンナノチューブ等のカーボン担体をその溶液に添加し、懸濁液を作製する(ステップSB1)。界面活性剤によりカーボン担体が分散され易くなる。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加し、カーボン担体を超分散させる(ステップSB2)。次に、触媒成分の原料をこの溶液に添加し、更に、超音波もしくは攪拌により溶液を充分に混合する(ステップSB3)。次に、カーボン担体に担持された触媒成分を還元する(ステップSB4)。
【0027】
次に、電解質成分を溶解した溶液を用意する。この溶液に触媒を添加して懸濁させて懸濁液を作製する。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加することにより、カーボン担体を超分散させながら、カーボン担体に電解質成分を修飾する(ステップSB6)。このように形成した溶液において、溶液の溶媒と固形成分とを分離し、合成物を分取する(ステップSB7)。次に、合成物を所定温度で所定時間乾燥する(ステップSB8)。これにより本発明の触媒を得る。
【0028】
次に、本発明の触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面またはガス拡散層の表面に塗布し、MEAを作製する(ステップSB9)。この場合、本発明の触媒を適当な溶媒に分散させて塗布することができる。あるいは、本発明の触媒を適当なバインダに分散させて塗布することができる。バインダとしては、ナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成製)、フレミオン(旭硝子製)等のイオン伝導性をもつ電解質成分が例示される。あるいは、フッ素樹脂(PTFE等)等の絶縁性をもつ樹脂が例示される。そして、電解質成分膜の両側をガス拡散層で挟んで積層体を形成する。積層体を積層方向にプレス成形またはホットプレス成形を行って接合性を高める。これにより膜電極接合体(以下、MEAともいう)を作製する。
【0029】
なお、ステップSB4、SB5、SB6の順序は問わない。ステップSB7、SB8は場合によってはなくても良い。ステップSB6を終えた溶液をそのまま電解質成分膜の表面またはガス拡散層の表面に塗布しても良い。
【0030】
(4)本発明について更に説明を加える。上記したカーボン担体としては、電子伝導性を有すると共に、グラフェンシートのようなπ共役系を有するカーボン材料であれば良い。カーボン担体としては、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上である形態が例示される。カーボンナノチューブとしては、特定のカイラルベクトルを有するものでも良い。
【0031】
上記した触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re等の遷移金属,Al,Mg等の典型金属、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されている形態が例示される。化合物としては、酸化物、塩化物、炭化物、硫化物、窒化物等が挙げられる。あるいは、1核以上の金属錯体でも良い、例えば、ポルフィリン、フタロシアニン、テトラアザアヌレン等のN4環状錯体等がある。触媒成分源としては特に制限されない。触媒成分源としては、例えば、塩化物、硝酸塩、金属錯体類等があるが、基本的には、使用する溶媒に溶解するものである方が好ましい。担持する触媒成分の量も特に制限されないが、触媒成分およびカーボン担体の質量の和を100質量%とするとき、一般的には10〜70質量%程度、20〜60質量%程度とすることができる。
【0032】
(5)本発明に係る電解質成分について説明を加える。本発明に係る電解質成分はイオン伝導性(プロトン伝導性)を発揮することができる。電解質成分は、その主鎖また側鎖にベンゼン環やナフタレン環等の芳香族環を有する。電解質成分は、カーボン担体に対して親和性を有するものが好ましい。従って電解質成分は、その主構造に、プロトンを伝導する置換基を1つ以上ものもの、あるいは、後工程で置換できるサイトをもつものが採用できる。その例としては、NTDA−ODADS−1,5-ジアミノナフタレンポリマーが挙げられる(図14参照)。
【0033】
プロトンを伝導する官能基も、公知のものであればよい。例えば、スルホン酸、ホスホン酸、イミダゾール等が挙げられ。プロトン伝導基としては、カーボン担体を分散する時点では必ずしも必要ではなく、場合によっては後工程において修飾させることも可能である。
【0034】
(6)上記した電解質成分としては、下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含む形態が例示される。
【0035】
【化1】
【0036】
ここで、式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。
【0037】
既述のように、本発明の電解質成分を構成するポリイミドの繰り返し単位を表わす式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。このうち、ARで表される多核芳香族基の好ましい例としては、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、ペリレン環、ナフタセン環などから成る4価の官能基(置換されていてもよい)が挙げられる。
【0038】
また、上記した式[I]中、Zで表される極性置換基とは、極性溶媒に対する可溶性を当該ポリイミドに付与する官能基であり、好ましい例として、スルホン酸基、リン酸基もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、トリアルキルアミン塩のアルキルは炭素数1から18のものであり、特に炭素数1から12のものが好ましい。このような極性置換基を有する式[I]のポリイミドは、極性溶媒に可溶性である。極性溶媒としては、非プロトン性溶媒に限らず、プロトン性極性溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)でもよいが、一般的には、非プロトン性極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、m−クレゾール、アセトニトリル)が好ましい。
【0039】
上記した式[I]で表わされる全芳香族ポリイミドは、Zとして非極性置換基を有するものであってもよい。非極性置換基として好ましい例は、炭素数8から18の長鎖アルキル基(分岐してもよい)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような極性置換基を式[I]のポリイミドは、極性溶媒(例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルムなど)に溶解性である。かくして、本発明の電解質成分を構成する好ましいポリイミドとして、下記の式[P1]、[P2]、[P3]または[P4]で表わされる繰り返し単位を有するものがある。但し、これらに限定されるものではない。
【0040】
【化2】
【0041】
【化3】
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
なお、式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。
【0045】
上記した式[I]で表わされる繰り返し単位から成る全芳香族ポリイミドは、各種の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、上記式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]で表される繰り返し単位から成る全芳香族ポリイミドの合成スキームを示す。図1に示されるように、一般に、m−クレゾールを溶媒とし、原料である、酸二無水物とジアミンを、トリエチルアミンおよび安息香酸存在下において、80℃で4時間、180℃で20時間加熱し、アセトン中で再沈殿を行って回収することにより、所望の全芳香族ポリイミドが得られる(下記の文献参照)。
文献:J. Fang他、Macromolecules, 35, 9022(2002)
【0046】
上記した式[I]で表される全芳香族ポリイミドは、室温において溶解性を有し、この特性を利用して、次のようにしてカーボンナノチューブを可溶化することができる。即ち、先ず、全芳香族ポリイミドを上述したような極性または非極性溶媒に溶解させる。次に、このようにして得られた全芳香族ポリイミドの溶媒溶液にカーボンナノチューブを添加する。更に、得られた全芳香族ポリイミドとカーボンナノチューブの溶媒溶液に超音波照射を行う。必要に応じて、超音波照射後の溶液を遠心分離に供し、これによってバンドル化しているカーボンナノチューブが確実に除去される。なお、上記した式[I]で表わされるような繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドであっても、Zに相当する部位が水素原子であるようなポリイミドは、いずれの有機溶媒においても溶解しない。
【0047】
上記した全芳香族ポリイミドを用いて、上記したようにCNTの可溶化を行うと、CNTの広い濃度範囲にわたって、個々のカーボンナノチューブが独立して(孤立して)溶解していることが可視−近赤外吸収スペクトルの測定などによって確認されている。すなわち、CNTの濃度が増大するにしたがい溶液は、次第に粘度を増し最終的にはゲルを形成するが、低濃度溶液から粘稠溶液、更にはゲルを形成するいずれの領域においても、バンドル構造がほどけた状態を維持していることが認められる(後述の実施例2,3参照)。
【0048】
多核芳香族部位を有する全芳香族ポリイミドを用いる本発明の可溶化方法の別の特徴は、特定のカイラルベクトルを持つ幾つかの構造のナノチューブを選択的に可溶化し得ることである。例えば、既述の式[P2]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを用いた場合、通常の界面活性剤を用いた場合と異なり、(8,6)のカイラル指標をもつ単層カーボンナノチューブを特に可溶化することができる(後述の実施例4参照)。これは、界面活性剤を用いミセル水溶液を形成させる可溶化方式(下記の文献参照)における場合とは可溶化のメカニズムが異なるためと推測される。
文献:R. E. Smalley他、Science 298, 2361(2002)
【0049】
以上のような可溶化方法を実施することにより、全芳香族ポリイミドとカーボンナノチューブとから構成される複合体を含有する溶液またはゲルが得られる。このような溶液やゲルは、そのまま、当該全芳香族ポリイミド/CNT複合体から成る材料を成形するための製膜工程や押出し成形工程などに供することができる。
【0050】
更に、上記した可溶化操作により一旦、CNTが可溶化されて得られた全芳香族ポリイミド/CNT溶液は、他の溶媒、特に、水、エタノール、アセトニトリルのような極性溶媒と混合されることができ、更に、それらの溶媒で稀釈されても、個々のCNTは独立して溶解された状態を保持したままである(後述の実施例5参照)。したがって、この特性を利用して、例えば、それらの溶媒に溶解性の成分を加えた複合系を調製することも可能である。
【0051】
なお、よく知られているように、カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNTまたはSWNTと略記される)と、多層ナノチューブ(MWCNTまたはMWNTと略記される)とがある。上記した可溶化の原理は、多層ナノチューブにも適用され得るが、特に、単層カーボンナノチューブに好適に用いられる。本明細書にて用いている「カーボンナノチューブ」または「CNT」とは、主として単層カーボンナノチューブについて言及しているものとする。
【0052】
以下に本発明の特徴を更に具体的に示すために実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0053】
なお、実施例において用いた材料、測定装置は下記のとおりである。
カーボンナノチューブ:精製SWNT(HiPco)Carbon Nanotechnologies Co.から購入。
紫外−可視−近赤外吸収スペクトルの測定:分光光度計JASCO, V-570。
近赤外蛍光スペクトルの測定:蛍光分光計Horiba Spex Fluorolog:NIR。
分子間力顕微鏡:Nanoscope IIIa (Veeco Instruments社製)。
【実施例1】
【0054】
全芳香族ポリイミドの合成
図1に示す(A)、(B)および(C)の反応スキームに従って、既述の式[P1]、[P2]および[P3]の繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミド〔以下、P1、P2、P3の(全芳香族)ポリイミド、または、単にP1、P2、P3のように表記する〕を合成した。生成物の同定は1H−NMRおよびFT−IR測定により行った。
【0055】
同定データとして、図6aにP1のFT−IRの測定結果を示す。図6bにP1の1H−NMRの測定結果を示す。図7aにP2のFT−IRの測定結果を示す。図7bにP2の1H−NMRの測定結果を示す。図8にP3のFT−IRの測定結果を示す。
【実施例2】
【0056】
可溶化試験
上記した実施例1で合成した全芳香族ポリイミドを用いてカーボンナノチューブの可溶化試験を行った。各全芳香族ポリイミドをDMSOに溶解させて、それぞれの全芳香族ポリイミドの濃度が1mg/mLのDMSO溶液を調製した。このDMSO溶液に精製SWNTを加えて15分間超音波処理して、目視観察するとともに吸収スペクトルの測定を行った後、SWNTの濃度を増加させて同様の操作を行うことを繰り返した。SWNTの濃度は0.1〜約3mg/mL(対ポリイミド重量比0.1〜3)の範囲とした。
【0057】
いずれの場合においても、SWNTの濃度が増大するのにしたがって溶液は次第に粘度を増し、ある濃度を超えるとゲルを形成することが認められた。すなわち、P1のポリイミドではSWNT濃度の対ポリイミド重量比が0.98近傍から溶液が粘稠になり始め、同比が約1.7を超えるとゲル形成が認められた。また、P2のポリイミドを用いた場合では、対ポリイミド重量比が約1.4から溶液に粘度が出始め、約1.8を超えるとゲルが形成した。同様に、P3のポリイミドを使用した場合は、対ポリイミド重量比が1.7付近から粘度が出始め、約2.5を超えるとゲルの形成が認められた。
【0058】
上記した可溶化試験中に行った可視−近赤外吸収スペクトルの測定から、いずれの場合においても、バンドル構造がほどけた状態が保持されていることが確認された。代表例として、P2のポリイミドを用いて行った可溶化試験中に測定した可視−近赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0059】
近赤外吸収スペクトルの測定は、溶液または分散系においてバンドル構造がほどけて個々に溶解しているカーボンナノチューブが存在することを示す手段の一つである(下記の文献参照)。
文献:R. E. Smalley他、Science 297, 593(2002)
【0060】
図2に示されるように、本発明に係る電解質成分に相当する全芳香族ポリイミドを用いてカーボンナノチューブの可溶化を行うと、SWNTの広い濃度範囲にわたって、SWNTが個々に溶解していることに因る特徴的なスペクトルが近赤外領域において認められる。すなわち、粘稠な溶液(図2のスペクトルb)およびゲル(図2のスペクトルc)について測定されたスペクトルの波形およびピーク位置は、SWNTの濃度が低い溶液(図2のスペクトルa)、および当該DMSO溶液を遠心分離(10000g)に供して得られたサンプル(図2のスペクトルd)について測定されたものと実質的に同じである。このことは、SWNTの粘稠溶液およびゲルは、個々に溶解されたSWNTから形成されたものであり、粘稠溶液やゲルにおいてもバンドル構造がほどけた状態が保持されていることを裏付けている。
【実施例3】
【0061】
AFM観察
上記した実施例2で得られたSWNT/全芳香族ポリイミド複合体のDMSO溶液のAFM(原子間力顕微鏡)観察を行った。サンプルの調製は、当該溶液中にマイカ基質を浸漬した後、洗浄、次いで真空乾燥することにより行った。
【0062】
図3に代表例として、P2の全芳香族ポリイミドを用いた場合のAFM像を示す。SWNTの95%以上の直径が0.7〜2.0ナノメートルの範囲にあり、大部分のSWNTが個々に溶解した状態で存在していることが示されており、実施例2の近赤外吸収スペクトルによる結果と一致している。
【実施例4】
【0063】
3次元蛍光スペクトル測定
溶液中でバンドル構造がほどけて個々のSWNTが溶解していることは近赤外領域で蛍光を発することによっても確認でき、そして、文献上、発光スペクトルの波長に対して励起スペクトルの波長をマッピングすることによりSWNTのカイラルベクトルを決定できることが知られている。
【0064】
そこで、上記した実施例2で得られたSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液について3次元蛍光スペクトルの測定を行った。代表例として、図4に、P2の全芳香族ポリイミドを用いた場合の結果を示す。サンプルは当該溶液を3時間、10000gの遠心分離に供することにより調製した。
【0065】
図4に示されるように、(8,6)、(9,5)、(12,1)(14,0)および(14,9)SWNTの存在が認められ、(8,6)SWNTの強度が特に大きい。これは、界面活性剤SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を用いた場合にミセル水溶液中に存在するSWNTとは異なっており、本発明によるカーボンナノチューブは特異なメカニズムで進むものと推測される。
【実施例5】
【0066】
他の溶媒との混合試験
実施例2の操作で得られたSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液に水、アセトニトリルまたはエタノールを混合した。代表例として、図5に、P1の全芳香族ポリイミドを用いたSWNT/ポリイミドのDMSO溶液に水を混合した場合の吸収スペクトル測定の結果を示す。図中、(a)は、混ぜる前の原液、(b)は水:DMSO溶液=1:1、また、(c)は水:DMSO溶液=9:1の場合である。いずれの場合においても、吸収スペクトルの実質的な変化は認められず、水で可溶化溶液を稀釈してもSWNTが個々に溶解された状態にあることが確認された。目視観察によっても均一にSWNTが可溶化したままであった。アセトニトリルまたはエタノールで稀釈した場合においても同様の結果が得られた。
【実施例6】
【0067】
ポリイミドのプロトン化
上記した実施例1で合成した全芳香族ポリイミドをプロトン化してトリエチルアミン塩部分をスルホン酸基に転換した。プロトン化は、熱したメタノール中で洗浄したP1およびP2の膜を、1規定の塩酸中に8〜12時間浸漬し、超純水で洗浄し、乾燥することにより行った。
【0068】
このようにP1およびP2をプロトン化して得られたポリイミドは、依然としてDMSOに対する溶解性を保っていた。そこで、プロトン化したP1及びP2のDMSO溶液で、実施例2と同様の手法に従いSWNTの可溶化試験を行い、可視−近赤外吸収スペクトルを測定した。プロトン化したポリイミドを用いた場合でも、P1およびP2を用いた場合と同様にSWNTを可溶化することができ、実質的に同じ吸収スペクトルが得られ、P1およびP2のトリエチルアミン塩構造は可溶化に影響しないことが理解された。
【実施例7】
【0069】
実施例7を説明する。本実施例は様相2に係る製造方法に相当しており、上記した電解質成分を用いてMEAを作製する例である。本実施例の基本工程は、図9に示すフローチャートに基づく。先ず、溶媒(DMSO,50ml)に、電解質成分(22.5mg)を溶解すると共に、カーボンナノチューブ(15mg)を添加し、懸濁液を形成した(ステップS1)。電解質成分は上記した全芳香族ポリイミドで形成されているポリマーである。
【0070】
次に、この懸濁液に超音波を1時間印加した。この場合、電解質成分はカーボンナノチューブの分散を促進させる分散剤として機能できる。これによりカーボンナノチューブを分散させると共に、電解質成分をカーボンナノチューブに修飾させた(ステップS2)。
【0071】
次に、26.6mg白金アセチルアセトナートを溶解した溶媒(DMSO,50ml)を1時間でこの懸濁液に滴下した。この懸濁液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブ、電解質成分、触媒成分を充分に混合させた(ステップS3)。
【0072】
更に、NaBH4(40mg)を懸濁液に加えて所定温度(80℃)で所定時間(12時間)攪拌し、Ptを還元担持させた(ステップS4)。40℃において減圧乾燥することによりこの調製溶液の溶媒を除去した後、水で洗浄処理を行い、再び80℃で真空乾燥し、触媒を分取した(ステップS5)。次に、分取した触媒を所定温度(45℃)で減圧乾燥し、本発明に係る触媒を形成した(ステップS6)。次に、本発明に係る触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面に塗布し、MEAを作製した(ステップS7)。
【0073】
図11は、従来例に係る燃料電池電極用触媒の概念を模式的に示す。図12は、本発明に係る燃料電池電極用触媒の概念を模式的に示す。図12に模式的に示すように、従来例では、カーボン担体である複数のカーボンナノチューブ(CNT)がバンドル化して凝集している。これに対して本実施例では、図12に模式的に示すように、カーボン担体であるカーボンナノチューブの分散性が向上しており、カーボンナノチューブ間には電解質成分が存在している。パイ−パイスタッキングにより、カーボンナノチューブと電解質成分とがかなり接近することができる。このため、カーボンナノチューブ同士の凝集が抑制され、束の内部が利用できる。この結果、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【実施例8】
【0074】
実施例8を説明する。本実施例は様相3に係る製造方法に相当しており、上記した電解質成分を用いてMEAを作製する例である。本実施例の基本工程は、図10に示すフローチャートに基づく。先ず、分散剤(コール酸ナトリウム)1wt%を溶解させた水溶液(45ml)に、カーボンナノチューブ(16.5mg)を添加し、懸濁液を作製した(ステップSB1)。次に、この懸濁液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブを分散させた(ステップSB2)。
【0075】
触媒成分の原料として機能する塩化白金酸(35.9mg)を水(90ml)に溶解して白金溶液を用意した。この白金溶液を1時間で上記懸濁液に滴下し、調製溶液を形成した。そして超音波を調製溶液に1時間印加して充分に混合した(ステップSB3)。
【0076】
次に、NaBH4(37.5mg)を調製溶液に加えて所定温度(80℃)でPtを還元担持させた(ステップSB4)。80℃において減圧乾燥することによりこの調製溶液の溶媒を除去した後、純水で洗浄処理を行い、再び80℃で真空乾燥して、触媒を分取した。
【0077】
次に、電解質成分(24.75mg)を溶解した溶媒(有機溶媒,DMSO,50ml)に分取物を添加し、溶液を形成した。電解質成分は上記した全芳香族ポリイミドで形成されているポリマーである。次に、この溶液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブを超分散させながら、触媒に電解質成分を修飾させた(ステップSB6)。その後、このように形成した溶液において液分と固形分とを分離し、合成物を分取した(ステップSB7)。次に、この合成物を乾燥した(ステップSB8)。これにより本発明の触媒が形成される。その後、前述同様にMEAを形成した(ステップSB9)。
【0078】
本実施例では、カーボンナノチューブの分散性が向上しており、カーボンナノチューブ間には電解質成分が存在している。このためパイ−パイスタッキングにより、カーボンナノチューブと電解質成分とがかなり接近することができる。このため、カーボンナノチューブ同士の凝集が抑制される。この結果、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【実施例9】
【0079】
実施例9を説明する。図13は燃料電池を分解した状態の断面の概念を模式的に示す。図13に示すように、MEA100は、イオン伝導性をもつ電解質成分膜(ナフィオン膜)101と、電解質成分膜101の厚み方向の一方側に配置された燃料用の触媒層102fと、燃料用の触媒層102fの厚み方向の外側に配置された燃料用のガス拡散層103fと、電解質成分膜101の厚み方向の他方側に配置された酸化剤用の触媒層102oと、酸化剤用の触媒層102oの厚み方向の外側に配置された酸化剤用のガス拡散層103oとを含む。ガス拡散層103fおよびガス拡散層103oはシート状をなしており、流体としてのガスを透過させ得るようにカーボン繊維の集積層で形成されている。
【0080】
図13に示すように、燃料電池は、MEA100と、MEA100のうち燃料用のガス拡散層103fの外側に配置され燃料を供給する燃料流路202を形成する燃料用配流部材201と、MEA100のうち酸化剤用のガス拡散層103oの外側に配置され酸化剤ガス(一般的には、酸素ガスまたは空気)を供給する酸化剤流路302を形成する酸化剤用配流部材301とを備えている。燃料用配流部材201、酸化剤用配流部材301は、カーボン材料または耐食性が良好な金属材料で形成されている。MEA100の触媒層102f,102oは、上記した本発明に係る触媒を含み、カーボンナノチューブの凝集が抑制されている。酸化剤としては一般的には、酸素ガスまたは空気が挙げられる。燃料としては一般的には、水素ガスまたは水素含有ガスが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明で用いられる全芳香族ポリイミドの例を合成するための反応スキームを示す。
【図2】本発明に従うカーボンナノチューブの可溶化試験において測定したSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液の可視−近赤外吸収スペクトルを例示する。
【図3】本発明によって得られるSWNT/ポリイミドのAFM像を例示する。
【図4】本発明に従うSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液について測定した3次元蛍光スペクトルを例示する。
【図5】本発明に従うSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液に他の溶媒を混合して測定した吸収スペクトルを例示する。
【図6a】本発明で用いられるポリイミドの1例のFT−IRの測定結果を示す。
【図6b】本発明で用いられるポリイミドの1例の1H−NMRの測定結果を示す。
【図7a】本発明で用いられるポリイミドの別の例のFT−IRの測定結果を示す
【図7b】本発明で用いられるポリイミドの別の例の1H−NMRの測定結果を示す。
【図8】本発明で用いられる更に別の例のFT−IRの測定結果を示す。
【図9】様相2に係る製造方法の一形態を示すフローチャートである。
【図10】様相3に係る製造方法の一形態を示すフローチャートである。
【図11】従来例に係る燃料電池電極用触媒を模式的に示す構成図である。
【図12】本発明に係る燃料電池電極用触媒を模式的に示す構成図である。
【図13】燃料電池を分解した状態を模式的に示す断面図である。
【図14】電解質成分ポリマーの一例の化学構造を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
図中、100はMEA、101は電解質成分膜、102fは燃料用の触媒層、103fは燃料用のガス拡散層、102oは酸化剤用の触媒層、103oは酸化剤用のガス拡散層、201は燃料用配流部材、202は燃料流路、301は酸化剤用配流部材、302は酸化剤流路を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン担体を有する燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、膜電極接合体と、膜電極接合体の一方の外側に配置され燃料を供給する燃料用配流部材と、膜電極接合体の他方の外側に配置され酸化剤を供給する酸化剤用配流部材とを有する。膜電極接合体は、イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、電解質成分膜の両側に配置された触媒層と、触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む。燃料電池の発電出力を向上させるためには、電子伝導体であるカーボン担体と、燃料および酸化剤の反応性を高める触媒成分と、イオン伝導体である電解質成分との3者(いわゆる三相界面)を、互いに密接させることが要請されている。
【0003】
しかしながら燃料電池電極用の触媒で使用されるカーボン担体は、条件によっては、凝集し易い性質をもつことがある。従って、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるには限界がある。よって三相界面の形成が充分であるとはいえないことがある。
【0004】
殊に、近年、カーボン材料として開発されているカーボンナノチューブ(非特許文献1)は、凝集し易い性質をもつ。カーボンナノチューブは多数のチューブが束になったバンドル構造を呈し易く、且つ、溶媒に不溶である。このため、カーボンナノチューブを燃料電池電極用のカーボン担体として用いると、カーボンナノチューブの分散度が悪く、カーボンナノチューブが凝集したままとなり易く、カーボンナノチューブの表面に触媒成分および電解質成分が存在しにくい。従って、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるには限界がある。よって三相界面の形成が不充分であり、燃料電池の性能向上には限界がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、カーボンナノチューブ(以下、CNTと略称することがある)を硝酸、または、硝酸と硫酸とで処理することにより、カーボンナノチューブの外表面に反応性部位を導入させた燃料電池用電極が開示されている。これによりカーボンナノチューブの凝集を抑制し、触媒成分とカーボンナノチューブと電解質成分との3者を密接させるのに有利となる。
【非特許文献1】S. Iijima, Nature, 354, 56(1991)
【特許文献1】特開2004−253224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ等のカーボン担体と電解質成分との親和性を高めることにより、カーボンナノチューブ等のカーボン担体の凝集を抑えるのに有利であり、カーボンナノチューブ等のカーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利な燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
様相1に係る燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を含むことを特徴とする。
【0008】
様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、燃料電池電極用触媒の製造方法。溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことを特徴とする。
【0009】
様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分修飾を行う修飾工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
様相1に係る燃料電池電極用触媒によれば、カーボン担体はパイ電子を有する。そしてカーボン担体のパイ電子と、電解質成分の芳香族環のパイ電子との親和力により、即ち、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よってカーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体の付近に触媒成分および電解質成分を存在させ易くなる。故に、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【0011】
様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法によれば、溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾と触媒成分の担持とを行う。この場合、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、電解質成分はカーボン担体を分散させる分散剤として機能でき、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よってカーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【0012】
更に、様相2の製造方法によれば、触媒調製時において三相界面を形成できるので、プロセスの簡略化、コスト低減が図られる。
【0013】
様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾を行う工程とを含むことを特徴とする。この場合、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させ、カーボン担体に触媒成分を担持させる。その後、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分を修飾させる。修飾とは、カーボン担体と電解質成分とが親和的に保持されることをいう。この場合、パイ電子に基づくパイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができる。このため、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。よって、カーボン担体同士の凝集が抑制される。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成され、燃料電池の触媒層における発電反応の効率を向上させるのに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)様相1に係る燃料電池電極用触媒は、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分とを含む。カーボン担体はパイ電子をもつ。パイ電子はπ結合を形成できる電子をいう。電解質成分はイオン伝導性(プロトン伝導性)を発揮することができる。電解質成分の芳香族環はパイ電子をもつ。電解質成分としては全芳香族ポリイミドで形成することができる。特に、電解質成分としては、上記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドで形成することができる。
【0015】
カーボン担体のパイ電子と、芳香族環を有する電解質成分のパイ電子との親和力により、即ち、パイ電子に基づくパイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが接近した状態に存在することができ、カーボン担体の凝集が抑制される。このため、カーボン担体同士の集団の間に電解質成分および触媒成分が存在する頻度が高まる。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって、いわゆる三相界面が良好に形成される。
【0016】
なお、カーボン担体の間に電解質成分を効率よく存在させるためには、カーボン担体と電解質成分とを接近させる頻度を高める物理的接近手段を、カーボン担体と電解質成分との共存状態(例えば、溶媒などの液状物にカーボン担体および電解質成分を共存させた状態)に付加させることが好ましい。物理的接近手段としては、カーボン担体と電解質成分とが共存する共存物に超音波等の音波を印加する手段が挙げられる。あるいは、カーボン担体と電解質成分とが共存する共存物をミル等で機械的に攪拌する手段なども期待できる。凝集しているカーボン担体同士が離間すれば、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体間に電解質成分が存在する確率が高まる。
【0017】
ここで、溶媒などの液状物にカーボン担体および電解質成分を共存させた状態に超音波などの物理的接近手段を付加させたときには、その後、その液状物を遠心分離等で固形分と液分とを分離させることができる。固形分には、カーボンナノチューブなどのカーボン担体が凝集し易い。液分には、カーボンナノチューブなどのカーボン担体が可溶状態で分散している。
【0018】
(2)様相2に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、カーボン担体への電解質成分修飾と触媒成分の担持とを行うことにより、様相1に係る燃料電池電極用触媒を形成することができる。電解質成分の芳香族環はパイ電子をもつ。カーボン担体のパイ電子と、芳香族環を有する電解質成分のパイ電子との親和力により、即ち、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが接近して存在することができ、カーボン担体同士の凝集が抑制される。この場合、カーボン担体と電解質成分とが共存した状態において、カーボン担体と電解質成分とを接近させ得る上記した物理的接近手段を与えることが好ましい。
【0019】
よって、カーボン担体同士の集団の間に電解質成分および触媒成分が存在する頻度が高まる。この結果、カーボン担体と触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【0020】
様相2に係る製造方法の一形態によれば、図9に示すフローチャートのように、先ず、溶媒に電解質成分を溶解すると共に、カーボンナノチューブなどのカーボン担体を添加し、懸濁液を形成する(ステップS1)。溶媒としては、電解質成分を溶解できるものであれば良く、有機溶媒でも無機溶媒でもよい。例えば、DMSO、THF、アルコール類が例示される。電解質成分が水に溶解すれば、水でも良い。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加する(ステップS2)。これによりカーボンナノチューブ等のカーボン担体を懸濁液において超分散させると共に、電解質成分をカーボン担体に修飾させ、調製溶液とする。この場合、パイ−パイスタッキングにより、カーボン担体と電解質成分とが親和的に接近することができ、カーボン担体同士の間に電解質成分が存在し易くなる。超音波の出力としては特に制限はないが、均一に分散させることが好ましい。この場合、各材料の必要機能の破壊を抑制しつつ行うことが好ましい。
【0021】
次に、この調製溶液に触媒成分の原料を加え、超音波を充分に印加し、カーボン担体、電解質成分、触媒成分を充分に混合させる(ステップS3)。触媒成分は特に限定されない。更に、カーボンナノチューブ等のカーボン担体の表面に触媒成分を担持させる(ステップS4)。担持方法としては、公知の方法を採用でき、特に制限されない。例えば熱分解法、コロイド法、含浸法、吸着法、還元法が挙げられる。還元法としては、気相還元、液相還元、固相還元があるが、好ましくは、液相還元である。例えば、還元剤としては、アルコール類、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、水素ガス等が例示される。場合に応じて、還元剤と同時に熱などの外力を加えることも有効である。
【0022】
次に、調製溶液の溶媒と固形成分とを分離し、触媒(固形成分)を分取する(ステップS5)。触媒を分取するには、特に制限されないが、例えば濾過法、濃縮乾固等が挙げられる。次に、分取した材料を所定温度で所定時間乾燥し、本発明に係る触媒を得る(ステップS6)。
【0023】
次に、この触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面またはガス拡散層の表面に塗布し、膜電極接合体(以下、MEAともいう)を作製する(ステップS7)。この場合、本発明の触媒を適当な溶媒に分散させて塗布することができる。あるいは、本発明の触媒を適当なバインダに分散させて塗布することができる。バインダとしては、ナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成製)、フレミオン(旭硝子製)等のイオン伝導性をもつ電解質成分が例示される。あるいは、フッ素樹脂(PTFE等)等の絶縁性をもつ樹脂が例示される。そして、電解質成分膜の両側をガス拡散層で挟んで積層体を形成する。積層体を積層方向にプレス成形またはホットプレス成形を行って接合性を高める。これによりMEAを作製する。MEAは、イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、電解質成分膜の厚み方向の両側に配置された触媒層と、触媒層の厚味方向の外側に配置されたガス拡散層とを含む。ガス拡散層は通気性を有するシート状をなしており、一般的には、カーボン繊維等のカーボン材料の集積層で形成されている。
【0024】
なお、ステップS2およびステップS3の順序は問わない。ステップS1においてステップS3を同時に実行しても良い。特に必要がなければ、ステップS5およびステップS6は無くても良い。この場合、ステップS4が終了した時点の溶液をそのまま電解質成分膜の表面またはガス拡散層の表面に塗布しても良い。ステップS4は、場合によっては、ステップS5の後,ステップS6の後,ステップS7の後で実行しても良い。
【0025】
(3)様相3に係る燃料電池電極用触媒の製造方法は、分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体に電解質成分修飾を行う修飾工程とを含むことにより、様相1に係る燃料電池電極用触媒を形成することができる。分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させ、カーボン担体に触媒成分を担持させる。その後、触媒成分を担持したカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、カーボン担体への電解質成分の修飾を行う。修飾工程において、カーボン担体と電解質成分とを接近させ得る上記した物理的接近手段を、カーボン担体および電解質成分の共存状態に与えることが好ましい。
【0026】
様相3に係る製造方法の一形態によれば、図10に示すフローチャートのように、先ず、分散剤を含む溶液を形成する。分散剤としては公知の界面活性剤を採用できる。溶媒としては、電解質成分を溶解できるものであれば良く、有機溶媒でも無機溶媒でもよく、水でも良い。水であれば、後処理、コストの面で有利である。更に、カーボンナノチューブ等のカーボン担体をその溶液に添加し、懸濁液を作製する(ステップSB1)。界面活性剤によりカーボン担体が分散され易くなる。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加し、カーボン担体を超分散させる(ステップSB2)。次に、触媒成分の原料をこの溶液に添加し、更に、超音波もしくは攪拌により溶液を充分に混合する(ステップSB3)。次に、カーボン担体に担持された触媒成分を還元する(ステップSB4)。
【0027】
次に、電解質成分を溶解した溶液を用意する。この溶液に触媒を添加して懸濁させて懸濁液を作製する。次に、この懸濁液に超音波を充分に印加することにより、カーボン担体を超分散させながら、カーボン担体に電解質成分を修飾する(ステップSB6)。このように形成した溶液において、溶液の溶媒と固形成分とを分離し、合成物を分取する(ステップSB7)。次に、合成物を所定温度で所定時間乾燥する(ステップSB8)。これにより本発明の触媒を得る。
【0028】
次に、本発明の触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面またはガス拡散層の表面に塗布し、MEAを作製する(ステップSB9)。この場合、本発明の触媒を適当な溶媒に分散させて塗布することができる。あるいは、本発明の触媒を適当なバインダに分散させて塗布することができる。バインダとしては、ナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成製)、フレミオン(旭硝子製)等のイオン伝導性をもつ電解質成分が例示される。あるいは、フッ素樹脂(PTFE等)等の絶縁性をもつ樹脂が例示される。そして、電解質成分膜の両側をガス拡散層で挟んで積層体を形成する。積層体を積層方向にプレス成形またはホットプレス成形を行って接合性を高める。これにより膜電極接合体(以下、MEAともいう)を作製する。
【0029】
なお、ステップSB4、SB5、SB6の順序は問わない。ステップSB7、SB8は場合によってはなくても良い。ステップSB6を終えた溶液をそのまま電解質成分膜の表面またはガス拡散層の表面に塗布しても良い。
【0030】
(4)本発明について更に説明を加える。上記したカーボン担体としては、電子伝導性を有すると共に、グラフェンシートのようなπ共役系を有するカーボン材料であれば良い。カーボン担体としては、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上である形態が例示される。カーボンナノチューブとしては、特定のカイラルベクトルを有するものでも良い。
【0031】
上記した触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re等の遷移金属,Al,Mg等の典型金属、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されている形態が例示される。化合物としては、酸化物、塩化物、炭化物、硫化物、窒化物等が挙げられる。あるいは、1核以上の金属錯体でも良い、例えば、ポルフィリン、フタロシアニン、テトラアザアヌレン等のN4環状錯体等がある。触媒成分源としては特に制限されない。触媒成分源としては、例えば、塩化物、硝酸塩、金属錯体類等があるが、基本的には、使用する溶媒に溶解するものである方が好ましい。担持する触媒成分の量も特に制限されないが、触媒成分およびカーボン担体の質量の和を100質量%とするとき、一般的には10〜70質量%程度、20〜60質量%程度とすることができる。
【0032】
(5)本発明に係る電解質成分について説明を加える。本発明に係る電解質成分はイオン伝導性(プロトン伝導性)を発揮することができる。電解質成分は、その主鎖また側鎖にベンゼン環やナフタレン環等の芳香族環を有する。電解質成分は、カーボン担体に対して親和性を有するものが好ましい。従って電解質成分は、その主構造に、プロトンを伝導する置換基を1つ以上ものもの、あるいは、後工程で置換できるサイトをもつものが採用できる。その例としては、NTDA−ODADS−1,5-ジアミノナフタレンポリマーが挙げられる(図14参照)。
【0033】
プロトンを伝導する官能基も、公知のものであればよい。例えば、スルホン酸、ホスホン酸、イミダゾール等が挙げられ。プロトン伝導基としては、カーボン担体を分散する時点では必ずしも必要ではなく、場合によっては後工程において修飾させることも可能である。
【0034】
(6)上記した電解質成分としては、下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含む形態が例示される。
【0035】
【化1】
【0036】
ここで、式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。
【0037】
既述のように、本発明の電解質成分を構成するポリイミドの繰り返し単位を表わす式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。このうち、ARで表される多核芳香族基の好ましい例としては、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、ペリレン環、ナフタセン環などから成る4価の官能基(置換されていてもよい)が挙げられる。
【0038】
また、上記した式[I]中、Zで表される極性置換基とは、極性溶媒に対する可溶性を当該ポリイミドに付与する官能基であり、好ましい例として、スルホン酸基、リン酸基もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、トリアルキルアミン塩のアルキルは炭素数1から18のものであり、特に炭素数1から12のものが好ましい。このような極性置換基を有する式[I]のポリイミドは、極性溶媒に可溶性である。極性溶媒としては、非プロトン性溶媒に限らず、プロトン性極性溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)でもよいが、一般的には、非プロトン性極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、m−クレゾール、アセトニトリル)が好ましい。
【0039】
上記した式[I]で表わされる全芳香族ポリイミドは、Zとして非極性置換基を有するものであってもよい。非極性置換基として好ましい例は、炭素数8から18の長鎖アルキル基(分岐してもよい)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような極性置換基を式[I]のポリイミドは、極性溶媒(例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルムなど)に溶解性である。かくして、本発明の電解質成分を構成する好ましいポリイミドとして、下記の式[P1]、[P2]、[P3]または[P4]で表わされる繰り返し単位を有するものがある。但し、これらに限定されるものではない。
【0040】
【化2】
【0041】
【化3】
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
なお、式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。
【0045】
上記した式[I]で表わされる繰り返し単位から成る全芳香族ポリイミドは、各種の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、上記式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]で表される繰り返し単位から成る全芳香族ポリイミドの合成スキームを示す。図1に示されるように、一般に、m−クレゾールを溶媒とし、原料である、酸二無水物とジアミンを、トリエチルアミンおよび安息香酸存在下において、80℃で4時間、180℃で20時間加熱し、アセトン中で再沈殿を行って回収することにより、所望の全芳香族ポリイミドが得られる(下記の文献参照)。
文献:J. Fang他、Macromolecules, 35, 9022(2002)
【0046】
上記した式[I]で表される全芳香族ポリイミドは、室温において溶解性を有し、この特性を利用して、次のようにしてカーボンナノチューブを可溶化することができる。即ち、先ず、全芳香族ポリイミドを上述したような極性または非極性溶媒に溶解させる。次に、このようにして得られた全芳香族ポリイミドの溶媒溶液にカーボンナノチューブを添加する。更に、得られた全芳香族ポリイミドとカーボンナノチューブの溶媒溶液に超音波照射を行う。必要に応じて、超音波照射後の溶液を遠心分離に供し、これによってバンドル化しているカーボンナノチューブが確実に除去される。なお、上記した式[I]で表わされるような繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドであっても、Zに相当する部位が水素原子であるようなポリイミドは、いずれの有機溶媒においても溶解しない。
【0047】
上記した全芳香族ポリイミドを用いて、上記したようにCNTの可溶化を行うと、CNTの広い濃度範囲にわたって、個々のカーボンナノチューブが独立して(孤立して)溶解していることが可視−近赤外吸収スペクトルの測定などによって確認されている。すなわち、CNTの濃度が増大するにしたがい溶液は、次第に粘度を増し最終的にはゲルを形成するが、低濃度溶液から粘稠溶液、更にはゲルを形成するいずれの領域においても、バンドル構造がほどけた状態を維持していることが認められる(後述の実施例2,3参照)。
【0048】
多核芳香族部位を有する全芳香族ポリイミドを用いる本発明の可溶化方法の別の特徴は、特定のカイラルベクトルを持つ幾つかの構造のナノチューブを選択的に可溶化し得ることである。例えば、既述の式[P2]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを用いた場合、通常の界面活性剤を用いた場合と異なり、(8,6)のカイラル指標をもつ単層カーボンナノチューブを特に可溶化することができる(後述の実施例4参照)。これは、界面活性剤を用いミセル水溶液を形成させる可溶化方式(下記の文献参照)における場合とは可溶化のメカニズムが異なるためと推測される。
文献:R. E. Smalley他、Science 298, 2361(2002)
【0049】
以上のような可溶化方法を実施することにより、全芳香族ポリイミドとカーボンナノチューブとから構成される複合体を含有する溶液またはゲルが得られる。このような溶液やゲルは、そのまま、当該全芳香族ポリイミド/CNT複合体から成る材料を成形するための製膜工程や押出し成形工程などに供することができる。
【0050】
更に、上記した可溶化操作により一旦、CNTが可溶化されて得られた全芳香族ポリイミド/CNT溶液は、他の溶媒、特に、水、エタノール、アセトニトリルのような極性溶媒と混合されることができ、更に、それらの溶媒で稀釈されても、個々のCNTは独立して溶解された状態を保持したままである(後述の実施例5参照)。したがって、この特性を利用して、例えば、それらの溶媒に溶解性の成分を加えた複合系を調製することも可能である。
【0051】
なお、よく知られているように、カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNTまたはSWNTと略記される)と、多層ナノチューブ(MWCNTまたはMWNTと略記される)とがある。上記した可溶化の原理は、多層ナノチューブにも適用され得るが、特に、単層カーボンナノチューブに好適に用いられる。本明細書にて用いている「カーボンナノチューブ」または「CNT」とは、主として単層カーボンナノチューブについて言及しているものとする。
【0052】
以下に本発明の特徴を更に具体的に示すために実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0053】
なお、実施例において用いた材料、測定装置は下記のとおりである。
カーボンナノチューブ:精製SWNT(HiPco)Carbon Nanotechnologies Co.から購入。
紫外−可視−近赤外吸収スペクトルの測定:分光光度計JASCO, V-570。
近赤外蛍光スペクトルの測定:蛍光分光計Horiba Spex Fluorolog:NIR。
分子間力顕微鏡:Nanoscope IIIa (Veeco Instruments社製)。
【実施例1】
【0054】
全芳香族ポリイミドの合成
図1に示す(A)、(B)および(C)の反応スキームに従って、既述の式[P1]、[P2]および[P3]の繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミド〔以下、P1、P2、P3の(全芳香族)ポリイミド、または、単にP1、P2、P3のように表記する〕を合成した。生成物の同定は1H−NMRおよびFT−IR測定により行った。
【0055】
同定データとして、図6aにP1のFT−IRの測定結果を示す。図6bにP1の1H−NMRの測定結果を示す。図7aにP2のFT−IRの測定結果を示す。図7bにP2の1H−NMRの測定結果を示す。図8にP3のFT−IRの測定結果を示す。
【実施例2】
【0056】
可溶化試験
上記した実施例1で合成した全芳香族ポリイミドを用いてカーボンナノチューブの可溶化試験を行った。各全芳香族ポリイミドをDMSOに溶解させて、それぞれの全芳香族ポリイミドの濃度が1mg/mLのDMSO溶液を調製した。このDMSO溶液に精製SWNTを加えて15分間超音波処理して、目視観察するとともに吸収スペクトルの測定を行った後、SWNTの濃度を増加させて同様の操作を行うことを繰り返した。SWNTの濃度は0.1〜約3mg/mL(対ポリイミド重量比0.1〜3)の範囲とした。
【0057】
いずれの場合においても、SWNTの濃度が増大するのにしたがって溶液は次第に粘度を増し、ある濃度を超えるとゲルを形成することが認められた。すなわち、P1のポリイミドではSWNT濃度の対ポリイミド重量比が0.98近傍から溶液が粘稠になり始め、同比が約1.7を超えるとゲル形成が認められた。また、P2のポリイミドを用いた場合では、対ポリイミド重量比が約1.4から溶液に粘度が出始め、約1.8を超えるとゲルが形成した。同様に、P3のポリイミドを使用した場合は、対ポリイミド重量比が1.7付近から粘度が出始め、約2.5を超えるとゲルの形成が認められた。
【0058】
上記した可溶化試験中に行った可視−近赤外吸収スペクトルの測定から、いずれの場合においても、バンドル構造がほどけた状態が保持されていることが確認された。代表例として、P2のポリイミドを用いて行った可溶化試験中に測定した可視−近赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0059】
近赤外吸収スペクトルの測定は、溶液または分散系においてバンドル構造がほどけて個々に溶解しているカーボンナノチューブが存在することを示す手段の一つである(下記の文献参照)。
文献:R. E. Smalley他、Science 297, 593(2002)
【0060】
図2に示されるように、本発明に係る電解質成分に相当する全芳香族ポリイミドを用いてカーボンナノチューブの可溶化を行うと、SWNTの広い濃度範囲にわたって、SWNTが個々に溶解していることに因る特徴的なスペクトルが近赤外領域において認められる。すなわち、粘稠な溶液(図2のスペクトルb)およびゲル(図2のスペクトルc)について測定されたスペクトルの波形およびピーク位置は、SWNTの濃度が低い溶液(図2のスペクトルa)、および当該DMSO溶液を遠心分離(10000g)に供して得られたサンプル(図2のスペクトルd)について測定されたものと実質的に同じである。このことは、SWNTの粘稠溶液およびゲルは、個々に溶解されたSWNTから形成されたものであり、粘稠溶液やゲルにおいてもバンドル構造がほどけた状態が保持されていることを裏付けている。
【実施例3】
【0061】
AFM観察
上記した実施例2で得られたSWNT/全芳香族ポリイミド複合体のDMSO溶液のAFM(原子間力顕微鏡)観察を行った。サンプルの調製は、当該溶液中にマイカ基質を浸漬した後、洗浄、次いで真空乾燥することにより行った。
【0062】
図3に代表例として、P2の全芳香族ポリイミドを用いた場合のAFM像を示す。SWNTの95%以上の直径が0.7〜2.0ナノメートルの範囲にあり、大部分のSWNTが個々に溶解した状態で存在していることが示されており、実施例2の近赤外吸収スペクトルによる結果と一致している。
【実施例4】
【0063】
3次元蛍光スペクトル測定
溶液中でバンドル構造がほどけて個々のSWNTが溶解していることは近赤外領域で蛍光を発することによっても確認でき、そして、文献上、発光スペクトルの波長に対して励起スペクトルの波長をマッピングすることによりSWNTのカイラルベクトルを決定できることが知られている。
【0064】
そこで、上記した実施例2で得られたSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液について3次元蛍光スペクトルの測定を行った。代表例として、図4に、P2の全芳香族ポリイミドを用いた場合の結果を示す。サンプルは当該溶液を3時間、10000gの遠心分離に供することにより調製した。
【0065】
図4に示されるように、(8,6)、(9,5)、(12,1)(14,0)および(14,9)SWNTの存在が認められ、(8,6)SWNTの強度が特に大きい。これは、界面活性剤SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を用いた場合にミセル水溶液中に存在するSWNTとは異なっており、本発明によるカーボンナノチューブは特異なメカニズムで進むものと推測される。
【実施例5】
【0066】
他の溶媒との混合試験
実施例2の操作で得られたSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液に水、アセトニトリルまたはエタノールを混合した。代表例として、図5に、P1の全芳香族ポリイミドを用いたSWNT/ポリイミドのDMSO溶液に水を混合した場合の吸収スペクトル測定の結果を示す。図中、(a)は、混ぜる前の原液、(b)は水:DMSO溶液=1:1、また、(c)は水:DMSO溶液=9:1の場合である。いずれの場合においても、吸収スペクトルの実質的な変化は認められず、水で可溶化溶液を稀釈してもSWNTが個々に溶解された状態にあることが確認された。目視観察によっても均一にSWNTが可溶化したままであった。アセトニトリルまたはエタノールで稀釈した場合においても同様の結果が得られた。
【実施例6】
【0067】
ポリイミドのプロトン化
上記した実施例1で合成した全芳香族ポリイミドをプロトン化してトリエチルアミン塩部分をスルホン酸基に転換した。プロトン化は、熱したメタノール中で洗浄したP1およびP2の膜を、1規定の塩酸中に8〜12時間浸漬し、超純水で洗浄し、乾燥することにより行った。
【0068】
このようにP1およびP2をプロトン化して得られたポリイミドは、依然としてDMSOに対する溶解性を保っていた。そこで、プロトン化したP1及びP2のDMSO溶液で、実施例2と同様の手法に従いSWNTの可溶化試験を行い、可視−近赤外吸収スペクトルを測定した。プロトン化したポリイミドを用いた場合でも、P1およびP2を用いた場合と同様にSWNTを可溶化することができ、実質的に同じ吸収スペクトルが得られ、P1およびP2のトリエチルアミン塩構造は可溶化に影響しないことが理解された。
【実施例7】
【0069】
実施例7を説明する。本実施例は様相2に係る製造方法に相当しており、上記した電解質成分を用いてMEAを作製する例である。本実施例の基本工程は、図9に示すフローチャートに基づく。先ず、溶媒(DMSO,50ml)に、電解質成分(22.5mg)を溶解すると共に、カーボンナノチューブ(15mg)を添加し、懸濁液を形成した(ステップS1)。電解質成分は上記した全芳香族ポリイミドで形成されているポリマーである。
【0070】
次に、この懸濁液に超音波を1時間印加した。この場合、電解質成分はカーボンナノチューブの分散を促進させる分散剤として機能できる。これによりカーボンナノチューブを分散させると共に、電解質成分をカーボンナノチューブに修飾させた(ステップS2)。
【0071】
次に、26.6mg白金アセチルアセトナートを溶解した溶媒(DMSO,50ml)を1時間でこの懸濁液に滴下した。この懸濁液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブ、電解質成分、触媒成分を充分に混合させた(ステップS3)。
【0072】
更に、NaBH4(40mg)を懸濁液に加えて所定温度(80℃)で所定時間(12時間)攪拌し、Ptを還元担持させた(ステップS4)。40℃において減圧乾燥することによりこの調製溶液の溶媒を除去した後、水で洗浄処理を行い、再び80℃で真空乾燥し、触媒を分取した(ステップS5)。次に、分取した触媒を所定温度(45℃)で減圧乾燥し、本発明に係る触媒を形成した(ステップS6)。次に、本発明に係る触媒を電解質成分膜(例えばナフィオン膜)の表面に塗布し、MEAを作製した(ステップS7)。
【0073】
図11は、従来例に係る燃料電池電極用触媒の概念を模式的に示す。図12は、本発明に係る燃料電池電極用触媒の概念を模式的に示す。図12に模式的に示すように、従来例では、カーボン担体である複数のカーボンナノチューブ(CNT)がバンドル化して凝集している。これに対して本実施例では、図12に模式的に示すように、カーボン担体であるカーボンナノチューブの分散性が向上しており、カーボンナノチューブ間には電解質成分が存在している。パイ−パイスタッキングにより、カーボンナノチューブと電解質成分とがかなり接近することができる。このため、カーボンナノチューブ同士の凝集が抑制され、束の内部が利用できる。この結果、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【実施例8】
【0074】
実施例8を説明する。本実施例は様相3に係る製造方法に相当しており、上記した電解質成分を用いてMEAを作製する例である。本実施例の基本工程は、図10に示すフローチャートに基づく。先ず、分散剤(コール酸ナトリウム)1wt%を溶解させた水溶液(45ml)に、カーボンナノチューブ(16.5mg)を添加し、懸濁液を作製した(ステップSB1)。次に、この懸濁液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブを分散させた(ステップSB2)。
【0075】
触媒成分の原料として機能する塩化白金酸(35.9mg)を水(90ml)に溶解して白金溶液を用意した。この白金溶液を1時間で上記懸濁液に滴下し、調製溶液を形成した。そして超音波を調製溶液に1時間印加して充分に混合した(ステップSB3)。
【0076】
次に、NaBH4(37.5mg)を調製溶液に加えて所定温度(80℃)でPtを還元担持させた(ステップSB4)。80℃において減圧乾燥することによりこの調製溶液の溶媒を除去した後、純水で洗浄処理を行い、再び80℃で真空乾燥して、触媒を分取した。
【0077】
次に、電解質成分(24.75mg)を溶解した溶媒(有機溶媒,DMSO,50ml)に分取物を添加し、溶液を形成した。電解質成分は上記した全芳香族ポリイミドで形成されているポリマーである。次に、この溶液に超音波を1時間印加し、カーボンナノチューブを超分散させながら、触媒に電解質成分を修飾させた(ステップSB6)。その後、このように形成した溶液において液分と固形分とを分離し、合成物を分取した(ステップSB7)。次に、この合成物を乾燥した(ステップSB8)。これにより本発明の触媒が形成される。その後、前述同様にMEAを形成した(ステップSB9)。
【0078】
本実施例では、カーボンナノチューブの分散性が向上しており、カーボンナノチューブ間には電解質成分が存在している。このためパイ−パイスタッキングにより、カーボンナノチューブと電解質成分とがかなり接近することができる。このため、カーボンナノチューブ同士の凝集が抑制される。この結果、カーボンナノチューブと触媒成分と電解質成分との3者を互いに密接させるのに有利となる。よって三相界面が良好に形成される。
【実施例9】
【0079】
実施例9を説明する。図13は燃料電池を分解した状態の断面の概念を模式的に示す。図13に示すように、MEA100は、イオン伝導性をもつ電解質成分膜(ナフィオン膜)101と、電解質成分膜101の厚み方向の一方側に配置された燃料用の触媒層102fと、燃料用の触媒層102fの厚み方向の外側に配置された燃料用のガス拡散層103fと、電解質成分膜101の厚み方向の他方側に配置された酸化剤用の触媒層102oと、酸化剤用の触媒層102oの厚み方向の外側に配置された酸化剤用のガス拡散層103oとを含む。ガス拡散層103fおよびガス拡散層103oはシート状をなしており、流体としてのガスを透過させ得るようにカーボン繊維の集積層で形成されている。
【0080】
図13に示すように、燃料電池は、MEA100と、MEA100のうち燃料用のガス拡散層103fの外側に配置され燃料を供給する燃料流路202を形成する燃料用配流部材201と、MEA100のうち酸化剤用のガス拡散層103oの外側に配置され酸化剤ガス(一般的には、酸素ガスまたは空気)を供給する酸化剤流路302を形成する酸化剤用配流部材301とを備えている。燃料用配流部材201、酸化剤用配流部材301は、カーボン材料または耐食性が良好な金属材料で形成されている。MEA100の触媒層102f,102oは、上記した本発明に係る触媒を含み、カーボンナノチューブの凝集が抑制されている。酸化剤としては一般的には、酸素ガスまたは空気が挙げられる。燃料としては一般的には、水素ガスまたは水素含有ガスが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は燃料電池電極用触媒、燃料電池電極用触媒の製造方法、膜電極接合体、燃料電池を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明で用いられる全芳香族ポリイミドの例を合成するための反応スキームを示す。
【図2】本発明に従うカーボンナノチューブの可溶化試験において測定したSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液の可視−近赤外吸収スペクトルを例示する。
【図3】本発明によって得られるSWNT/ポリイミドのAFM像を例示する。
【図4】本発明に従うSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液について測定した3次元蛍光スペクトルを例示する。
【図5】本発明に従うSWNT/全芳香族ポリイミドのDMSO溶液に他の溶媒を混合して測定した吸収スペクトルを例示する。
【図6a】本発明で用いられるポリイミドの1例のFT−IRの測定結果を示す。
【図6b】本発明で用いられるポリイミドの1例の1H−NMRの測定結果を示す。
【図7a】本発明で用いられるポリイミドの別の例のFT−IRの測定結果を示す
【図7b】本発明で用いられるポリイミドの別の例の1H−NMRの測定結果を示す。
【図8】本発明で用いられる更に別の例のFT−IRの測定結果を示す。
【図9】様相2に係る製造方法の一形態を示すフローチャートである。
【図10】様相3に係る製造方法の一形態を示すフローチャートである。
【図11】従来例に係る燃料電池電極用触媒を模式的に示す構成図である。
【図12】本発明に係る燃料電池電極用触媒を模式的に示す構成図である。
【図13】燃料電池を分解した状態を模式的に示す断面図である。
【図14】電解質成分ポリマーの一例の化学構造を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
図中、100はMEA、101は電解質成分膜、102fは燃料用の触媒層、103fは燃料用のガス拡散層、102oは酸化剤用の触媒層、103oは酸化剤用のガス拡散層、201は燃料用配流部材、202は燃料流路、301は酸化剤用配流部材、302は酸化剤流路を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項2】
請求項1において、前記カーボン担体は、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項3】
請求項1または2において、前記触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re,Al,Mg、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、
下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【化1】
(式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。)
【請求項5】
請求項4において、前記極性置換基が、スルホン酸基、リン酸基、もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩(該アルキルの炭素数は1から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項6】
請求項4において、前記非極性置換基が長鎖アルキル基(該アルキル基の炭素数は8から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、下記の式[P1]、[P2]、または[P3]で表される繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから成ることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。)
【請求項8】
溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、
前記カーボン担体への前記電解質成分の修飾と前記触媒成分の担持とを行うことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記溶媒中において前記カーボン担体と前記電解質成分と前記触媒成分とを接触させるにあたり、超音波を前記溶媒に印加させることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項10】
分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、
前記触媒成分を担持した前記カーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、前記カーボン担体への前記電解質成分の修飾を行う修飾工程とを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記担持工程および/または修飾工程において、前記溶媒に超音波を印加させることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のうちのいずれか一項において、前記カーボン担体は、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のうちのいずれか一項において、前記触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re,Al,Mg、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、
下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【化1】
(式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。)
【請求項15】
請求項14において、前記極性置換基が、スルホン酸基、リン酸基、もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩(該アルキルの炭素数は1から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項14において、前記非極性置換基が長鎖アルキル基(該アルキル基の炭素数は8から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜16のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、下記の式[P1]、[P2]、または[P3]で表される繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから成ることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。)
【請求項18】
イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、前記電解質成分膜の外側に配置された触媒層と、前記触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む膜電極接合体において、
前記触媒層は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の燃料電池電極用触媒を含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項19】
イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、前記電解質成分膜の両側に配置された触媒層と、前記触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の一方の外側に配置され燃料を供給する燃料用配流部材と、
前記膜電極接合体の他方の外側に配置され酸化剤を供給する酸化剤用配流部材と、を具備する燃料電池において、
前記膜電極接合体の前記触媒層は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の燃料電池電極用触媒を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項2】
請求項1において、前記カーボン担体は、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項3】
請求項1または2において、前記触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re,Al,Mg、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、
下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【化1】
(式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。)
【請求項5】
請求項4において、前記極性置換基が、スルホン酸基、リン酸基、もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩(該アルキルの炭素数は1から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項6】
請求項4において、前記非極性置換基が長鎖アルキル基(該アルキル基の炭素数は8から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、下記の式[P1]、[P2]、または[P3]で表される繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから成ることを特徴とする燃料電池電極用触媒。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。)
【請求項8】
溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分と、触媒成分と、を接触させて、
前記カーボン担体への前記電解質成分の修飾と前記触媒成分の担持とを行うことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記溶媒中において前記カーボン担体と前記電解質成分と前記触媒成分とを接触させるにあたり、超音波を前記溶媒に印加させることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項10】
分散剤を含む溶媒中において、パイ共役系を有するカーボン担体と触媒成分とを接触させてカーボン担体に触媒成分を担持させる担持工程と、
前記触媒成分を担持した前記カーボン担体と、芳香族環を有する電解質成分とを接触させて、前記カーボン担体への前記電解質成分の修飾を行う修飾工程とを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記担持工程および/または修飾工程において、前記溶媒に超音波を印加させることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のうちのいずれか一項において、前記カーボン担体は、カーボンナノチューブ(カーボンナノホーンを含む)、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノウォール、カーボンファイバのうちの1種または2種以上であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のうちのいずれか一項において、前記触媒成分は、Pt,Rh,Pd,Au,Ru,Os,Ir,Co,Fe,Ni、Ti,Mn,Cr,V,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Tc,Re,Al,Mg、これらの元素を2種以上を含む合金、または、これらの元素を1種または2種以上を含む化合物のうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、
下記の一般式[I]で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドを含むことを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【化1】
(式[I]中、ARは芳香族基を表し、Xは存在しない場合もあり、Xは存在する場合は酸素原子または硫黄原子を表し、Zは溶媒可溶性を高めるための極性置換基または非極性置換基を表す。)
【請求項15】
請求項14において、前記極性置換基が、スルホン酸基、リン酸基、もしくは硫酸基、またはそれらのトリアルキルアミン塩(該アルキルの炭素数は1から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項14において、前記非極性置換基が長鎖アルキル基(該アルキル基の炭素数は8から18)であることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜16のうちのいずれか一項において、前記電解質成分は、下記の式[P1]、[P2]、または[P3]で表される繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから成ることを特徴とする燃料電池電極用触媒の製造方法。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式[P1]、[P2]、[P3]および[P4]において、Etはエチル基を表す。)
【請求項18】
イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、前記電解質成分膜の外側に配置された触媒層と、前記触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む膜電極接合体において、
前記触媒層は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の燃料電池電極用触媒を含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項19】
イオン伝導性をもつ電解質成分膜と、前記電解質成分膜の両側に配置された触媒層と、前記触媒層の外側に配置されたガス拡散層とを含む膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の一方の外側に配置され燃料を供給する燃料用配流部材と、
前記膜電極接合体の他方の外側に配置され酸化剤を供給する酸化剤用配流部材と、を具備する燃料電池において、
前記膜電極接合体の前記触媒層は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の燃料電池電極用触媒を含むことを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−179961(P2007−179961A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379512(P2005−379512)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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