説明

燃料電池

【課題】燃料ガス流路および酸化剤ガス流路の両方におけるフラッディングを抑制して、燃料電池スタックにおける単セルごとの発電効率のバラつきを小さくする技術を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池スタック10Aにおけるアノード側エンドプレート22には、電気ヒーター222が内蔵されている。例えば、鋼等の金属からなるアノード側エンドプレート22に溝を設け、その溝に電熱線を通して、ヒーター用電源224から電力を供給することにより、アノード側エンドプレート22を加熱することができる。これにより、燃料電池スタック10Aの一端から他端に向かって単セル100の温度が高くなるように、温度勾配を設けている。すなわち、全ての単セル100において、カソード側セパレータ110→MEA108→アノード側セパレータ112の順に温度が高くなるように温度勾配がついている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものであり、特に、単電池を1対のセパレータで挟持した単セルを、複数積層したスタック構造を有する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜の両側にアノードとカソードを設け、水素を含む燃料ガスおよび酸素を含む酸化剤ガスを供給して電気化学反応により起電力を得る燃料電池において、各電極では、以下の電気化学反応がそれぞれ行われる。
アノード:H2→2H++2e-
カソード:(1/2)O2+2H++2e-→H2
すなわち、アノードでは水素分子を水素イオンと電子に分解する電気化学反応が行われ、カソードでは、酸素と水素イオンと電子から水を生成する電気化学反応が行われる。したがって、アノードからカソードに向かって外部回路を移動する電子により起電力が生じると共に、カソード側に水が生成される。
【0003】
また、固体高分子電解質膜は、含水状態を適正に保持することによって、導電性を発揮するため、反応ガス(燃料ガス及び/又は酸化剤ガス)は加湿して供給され、この加湿された反応ガスによって、高分子電解質膜の水分管理を行っている。
【0004】
ところで、燃料電池において、大きな起電力を得るために、上述したように、電解質膜の両面に電極を配置し、その両側から、反応ガス流路が形成された1対のセパレータで狭持した単セルを、複数積層した積層体を有する燃料電池スタックを構成する場合がある。
【0005】
このような燃料電池スタックの場合、積層体の両端に1対のエンドプレートを配置し、1対のエンドプレートをテンションロッド等で締結することにより、積層状態を保持することが多い。ここで、エンドプレートは、大気に触れているため、放熱して自然に冷却される。すると、積層体の端部に位置するいくつかの単セルは、熱伝導により、冷却される。
【0006】
このように、燃料電池スタックの端部に位置するいくつかの単セルにおいて、単セルの温度が低下することにより、飽和水蒸気圧が低下する。そのため、カソードで生成した水(以下、「生成水」ともいう。)や、加湿された反応ガス中の水分(以下、「加湿水」ともいう。)の水蒸気が凝縮(液化)することがある。なお、「生成水」および「加湿水」が凝縮(液化)した状態のものを「凝縮水」という。
そうすると、反応ガス流路に凝縮水が滞留し(以下、「フラッディング」ともいう。)、反応ガスの流れが滞ることがあった。その結果、温度が低下した単セルにおける発電効率が低下することがあった。
【0007】
そこで、従来は、エンドプレート内に燃料電池スタック内を循環した後の冷却水を流して端部に位置する単セルを温めたり(下記の特許文献1)、単セルごとに触媒の種類等を変えたり(下記の特許文献2)することにより、燃料電池スタック内の温度を均一にする技術が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−68141号公報
【特許文献2】特開2005−142001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、燃料電池において、燃料ガスとして純水素、酸化剤ガスとして空気を用いることが多い。このような場合に、上述のように、温度が低下した単セルにおいて、特に、燃料ガスが流れる燃料ガス流路においてフラッディングが生じやすい傾向があった。一方、例えば、燃料ガスとして、メタンの改質反応により生成された水素を含む改質ガスを用い、酸化剤ガスとして純酸素を用いた場合は、逆に、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路においてフラッディングが生じやすい傾向があった。
本発明は、上述の従来技術の問題点を解決し、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路の両方におけるフラッディングを抑制して、燃料電池スタックにおける単セルごとの発電効率のバラつきを小さくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題の少なくとも一部を解決するために、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に配置されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置されたカソードと、前記アノード側に配置され、前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路が形成される燃料ガス流路形成部と、前記カソード側に配置され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成される酸化剤ガス流路形成部と、を備える単電池が、複数積層され、前記アノードと前記カソードが交互に配置されている積層体を有する燃料電池であって、
前記積層体の中央部と、前記積層体の一方の端部である第1の端部と、の間に位置する複数の前記単電池のうち、少なくとも1つの特定の前記単電池は、
前記積層方向における温度勾配として、前記中央部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有することを要旨とする。
【0011】
なお、本発明の燃料電池において、燃料ガスとしては、例えば、純水素、改質ガス等、水素を含む種々のガスを用いることができる。ここで、メタノール、メタン、プロパン、ブタン等の燃料から水素ガスを製造することを、改質といい、それらの燃料を改質した後のガスを改質ガスという。改質ガスには、水素以外に二酸化炭素や窒素等が含まれる。一方、酸化剤ガスとしては、例えば、空気、純酸素等を含む種々のガスを用いることができる。
【0012】
本発明の燃料電池において、例えば、第1の端部に燃料ガス流路が配置されているとすると、特定の単電池は、酸化剤ガス流路から燃料ガス流路に向かって温度が高くなるような温度勾配を有することになる。
【0013】
従って、特定の単電池では、燃料ガス流路は温度が高く、アノード側では、飽和水蒸気圧が高くなるため、生成水および加湿水の水蒸気は、凝縮(液化)しにくい。そのため、燃料ガス流路におけるフラッディングを抑制することができる。
【0014】
一方、酸化剤ガス流路では、燃料ガス流路に比較して温度が低いため、カソード側では飽和水蒸気圧が低くなり、生成水および加湿水の水蒸気は、凝縮(液化)しやすくなる。しかしながら、酸化剤ガスとして、運動量の大きいガスを用いれば、凝縮水を酸化剤ガスによって酸化剤ガス流路から流し出すことができるため、酸化剤ガス流路においても、フラッディングを抑制することができる。ここで、運動量とは、反応ガスとして用いる気体の分子量と流速の積であり、運動量の大きいガスを用いると、ガス流路内の凝縮水を流し出しやすいやすいと考えられる。
【0015】
従って、フラッディングが生じやすい単電池において、上述のように温度勾配を設けることによりフラッディングを抑制することができる。
【0016】
また、本発明の燃料電池において、特定の前記単電池を、前記固体高分子電解質膜を境にして前記中央部寄りと第1の端部寄りに分けた場合に、前記アノードおよび前記燃料ガス流路形成部は、前記第1の端部寄りに配置され、前記カソードおよび前記酸化剤ガス流路形成部は、前記中央部寄りに配置されるとともに、
前記燃料ガスとして純水素が供給され、前記酸化剤ガスとして酸素と酸素以外の気体を含む混合ガスが供給されるものであってもよい。
【0017】
本発明の燃料電池では、特定の単電池において、酸化剤ガス流路から燃料ガス流路に向かって温度が高くなるように温度勾配が設けられているため、アノード側では、飽和水蒸気圧が高くなり、生成水や加湿水の水蒸気は凝縮しにくくなる。そのため、燃料ガス流路におけるフラッディングを抑制することができる。一方、カソード側では、飽和水蒸気圧が低くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しやすくなる。しかしながら、上述したように、酸化剤ガスとして運動量の大きい混合ガス用いると、混合ガスによって凝縮水を酸化剤ガス流路から流し出すことができるため、酸化剤ガス流路におけるフラッディングも抑制することができる。したがって、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路のいずれにおいても、フラッディングを抑制することができる。
【0018】
また、本発明の燃料電池において特定の前記単電池を、前記固体高分子電解質膜を境にして前記中央部寄りと前記第1の端部寄りに分けた場合に、前記アノードおよび前記燃料ガス流路形成部は、前記中央部寄りに配置され、前記カソードおよび前記酸化剤ガス流路形成部は、前記第1の端部寄りに配置されるとともに、
前記燃料ガスとして水素と水素以外の気体を含む混合ガスが供給され、前記酸化剤ガスとして純酸素が供給されるものであってもよい。
【0019】
本発明の燃料電池では、特定の単電池において、上記した燃料電池とは逆に、燃料ガス流路から酸化剤ガス流路に向かって温度が高くなるように温度勾配が設けられているため、カソード側では、飽和水蒸気圧が高くなり、生成水や加湿水の水蒸気は凝縮しにくくなる。そのため、酸化剤ガス流路におけるフラッディングを抑制することができる。一方、アノード側では、飽和水蒸気圧が低くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しやすくなる。しかしながら、燃料ガスとして運動量の大きい改質ガスを用いると、改質ガスによって凝縮水を燃料ガス流路から流し出すことができるため、燃料ガス流路においても、フラッディングを抑制することができる。したがって、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路のいずれにおいても、フラッディングを抑制できる。
【0020】
また、本発明の燃料電池において、前記中央部と前記第1の端部との間に位置する全ての前記単電池は、前記積層方向における温度勾配として、前記中央部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有すると共に、前記中央部と前記積層体の他方の端部である第2の端部との間に位置する全ての前記単電池は、前記積層方向における温度勾配として、前記第2の端部から前記中央部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有し、前記積層体の全体として、前記積層方向において前記第2の端部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有するようにしてもよい。
【0021】
例えば、本発明の燃料電池において、第1の端部に燃料ガス流路が配置され、第2の端部に酸化剤ガス流路が配置されているものとすると、積層体を構成する全ての単電池において、それぞれ、酸化剤ガス流路から燃料ガス流路に向かって温度が高くなるような温度勾配を有するとともに、積層体全体として、第2の端部から第1の端部に向かって温度が高くなるような温度勾配を有することになる。
【0022】
すなわち、全ての単電池において、アノード側では温度が高いため飽和水蒸気圧が高く、生成水や加湿水の水蒸気は凝縮しにくくなる。そのため、燃料ガス流路におけるフラッディングを抑制することができる。一方、カソード側では、温度が低いため飽和水蒸気圧が低く、生成水や加湿水の水蒸気は凝縮しやすい。ここで、酸化剤ガスとして運動量の大きいガスを用いると、上述したとおり、酸化剤ガスによって、凝縮水を酸化剤ガス流路から流し出すことができるため、酸化剤ガス流路におけるフラッディングも抑制することができる。
したがって、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0023】
また、上記した燃料電池において、前記積層体の両端に配置され、前記積層体の積層状態を維持するための1対の固定部材と、1対の前記固定部材のうち、前記第1の端部側に配置されている前記固定部材を加熱する加熱部と、を、さらに備えるようにしてもよい。
【0024】
なお、本発明の燃料電池において、加熱部としては、例えば、電気ヒーター、燃焼ヒーター等を含む種々の加熱手段を用いることができる。また、例えば、排出された冷却媒体、反応後の酸化剤ガス、反応後の燃料ガス等を、固定部材を加熱するための加熱媒体として利用し、固定部材内に加熱媒体を流すことによって、固定部材を加熱することも可能である。このような場合、固定部材内に形成された加熱媒体を流すための加熱媒体流路、および加熱媒体が、加熱部に相当する。
【0025】
本発明の燃料電池では、第1の端部側に配置されている固定部材のみを加熱している。すなわち、第2の端部側に配置されている固定部材は、大気に接しているため、放熱して冷却される。そのため、第1の端部側に配置される固定部材付近に位置するいくつかの単電池は、温度が高くなり、第2の端部側に配置される固定部材付近に位置するいくつかの単電池は、放熱により温度が低くなる。したがって、積層体の第2の端部から第1の端部に向かって温度が高くなるような温度勾配を形成することができる。
したがって、上記した燃料電池と同様に、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0026】
また、本発明の燃料電池は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に配置されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置されたカソードと、前記アノード側に配置され、前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路が形成される燃料ガス流路形成部と、前記カソード側に配置され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成される酸化剤ガス流路形成部と、を備える単電池が、複数積層されて成る燃料電池において、積層された複数の前記単電池のうち、隣り合う一組の前記単電池の前記燃料ガス流路形成部同士、または前記酸化剤ガス流路形成部同士が隣り合うと共に、隣り合う前記ガス流路形成部を境に、前記燃料電池の両端に向かって、アノードとカソードが交互に配置されることを要旨とする。
【0027】
燃料電池の運転時、それぞれの単電池は、自己発熱により温度が高くなる。しかしながら、両端部に位置するいくつかの単電池は、大気への放熱により温度が低くなる。したがって、本発明の燃料電池では、積層方向の両端部から中央部に向かって温度が高くなるような温度分布となる。
ここで、例えば、燃料電池の中央に配置される一組の単電池において、その燃料ガス流路同士が隣り合うように配置されているものとすると、本発明の燃料電池において、積層方向の最端部に位置する2枚の反応ガス流路は共に、酸化剤ガス流路となる。すなわち、本発明の燃料電池は、一端から中央まではカソード、アノードの順に積層され、中央から他端まではアノード、カソードの順に積層されていることになる。
【0028】
したがって、本発明の燃料電池における全ての単電池の温度分布を見ると、それぞれ、酸化剤ガス流路から燃料ガス流路に向かって温度が高くなるような温度勾配を有する。すなわち、アノード側においては、飽和水蒸気圧が高くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しにくくなり、燃料ガス流路におけるフラッディングを抑制することができる。一方、カソード側においては、飽和水蒸気圧が低くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しやすくなる。このような場合に、酸化剤ガスとして運動量の大きいガスを用いるものとすると、酸化剤ガスによって、酸化剤ガス流路内の凝縮水を押し出すことができる。したがって、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0029】
逆に、例えば、燃料電池の中央に配置される一組の単電池において、その酸化剤ガス流路同士が隣り合うように配置されている場合は、燃料ガスとして、運動量の大きいガスを用いることによって、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0030】
すなわち、本発明の燃料電池によれば、電気ヒーター等の加熱手段を用いなくても、燃料電池の積層方向に温度勾配を設けることができる。したがって、加熱手段を設けることなく、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0031】
また、上記した燃料電池において、隣り合う2つの前記燃料ガス流路形成部の間、または隣り合う2つの前記酸化剤ガス流路形成部の間に、絶縁部材が配置されるようにしてもよい。
【0032】
このようにすると、絶縁部材を境に、2つの燃料電池が電気的に直列に接続されるような配置にすることができるため、出力電圧を大きくすることができる。
【0033】
また、上記した燃料電池において隣り合う前記単電池の前記燃料ガス流路形成部同士が隣り合う場合に、前記燃料ガスとして純水素が供給され、前記酸化剤ガスとして酸素と酸素以外の気体を含む混合ガスが供給されるものであってもよい。
【0034】
本発明の燃料電池では、例えば、燃料電池の中央部に配置される一組の単電池の燃料ガス流路同士が隣り合うように配置されているとすると、積層方向の両端に酸化剤ガス流路が配置され、一端から中央まではカソード、アノードの順に電極が交互になるように積層され、中央から他端まではアノード、カソードの順に電極が交互になるように積層されている。そして、単電池それぞれの温度分布を見ると、上述したように、酸化剤ガス流路から燃料ガス流路に向かって温度が高くなっている。そのため、全ての単電池において、アノード側では、飽和水蒸気圧が高くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しにくくなり、一方、カソード側においては、飽和水蒸気圧が低くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しやすくなる。しかしながら、上述したように、酸化剤ガスとして運動量の大きい混合ガスを用いるため、凝縮水を酸化剤ガス流路から流しだすことができる。したがって、本発明の燃料電池によれば、上記した燃料電池と同様に、加熱手段を用いずに、全ての単電池において、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0035】
また、本発明の燃料電池は、隣り合う前記単電池の前記酸化剤ガス流路形成部同士が隣り合う場合に、前記燃料ガスとして水素と水素以外の気体を含む混合ガスが供給され、前記酸化剤ガスとして純酸素が供給されるものであってもよい。
【0036】
本発明の燃料電池では、単電池における温度分布を見ると、上記した燃料電池とは逆に、燃料ガス流路から酸化剤ガス流路に向かって温度が高くなっている。そのため、全ての単電池において、カソード側では、飽和水蒸気圧が高くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しにくく、一方、アノード側では、飽和水蒸気圧が低くなるため、生成水や加湿水の水蒸気が凝縮しやすくなる。しかしながら、上述したように、燃料ガスとして運動量が大きい混合ガスを用いる場合は、燃料ガス流路内の凝縮水を、燃料ガスによって流しだすことができる。したがって、本発明の燃料電池によれば、上記した燃料電池と同様に、加熱手段を用いずに、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路、両方におけるフラッディングを抑制することができる。
【0037】
また、上記した燃料電池において、前記単電池は、セパレータを介して積層されると共に、前記セパレータは、前記燃料ガス流路と連通するように形成される燃料ガス用貫通孔と、前記酸化剤ガス流路と連通するように形成される酸化剤ガス用貫通孔と、を備え、隣り合う前記ガス流路形成部を境に、前記燃料電池の一方の端までの間に配置される前記セパレータと、前記燃料電池の他方の端までの間に配置される前記セパレータとは、前記燃料ガス用貫通孔および前記酸化剤ガス用貫通孔の配置が、互いに鏡像の関係になるように、形成されるようにしてもよい。
【0038】
このようにすると、燃料電池を構成した際に、隣り合う前記ガス流路形成部を境に、燃料電池の一方の端までの間に配置されるセパレータに形成される燃料ガス用貫通孔と、燃料電池の他方の端までの間に配置されるセパレータに形成される燃料ガス用貫通孔が連なって、燃料電池を積層方向に沿って貫通する燃料ガスマニホールドが形成される。また、隣り合う前記ガス流路形成部を境に、燃料電池の一方の端までの間に配置されるセパレータに形成される酸化剤ガス用貫通孔と、燃料電池の他方の端までの間に配置されるセパレータに形成される酸化剤ガス用貫通孔が連なって、燃料電池を積層方向に沿って貫通する酸化剤ガスマニホールドが形成される。
【0039】
したがって、燃料電池の片方の端部側からのみ、反応ガスを供給すれば、供給されたガスは、燃料電池を積層方向に沿って流れるため、燃料電池内の全ての単電池に、反応ガスがそれぞれ供給される。そのため、例えば、水素ボンベ等の燃料ガス供給源を二つ用意したり、燃料電池の両側から燃料ガスを供給するために配管をしたりすることなく、簡単な構成で、本発明の燃料電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1の実施例:
B.第2の実施例:
C.第3の実施例:
D.変形例:
【0041】
A.第1の実施例
A1.燃料電池スタック10Aの構成:
まず、本発明の第1の実施例としての燃料電池スタック10Aについて、図に基づいて説明する。図1は、本実施例の燃料電池スタック10Aの外観を示す斜視図である。この燃料電池スタック10Aは、燃料ガスとしての純水素と、酸化剤ガスとしての空気中の酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。燃料電池スタック10Aは、図示する通り、単セル100を所定数積層して形成される。単セル100の積層数は、燃料電池スタック10Aに要求される出力に応じて任意に設定可能である。各単セル100は、それぞれ固体高分子型燃料電池として形成されている。単セル100は、1対のセパレータでカソード、電解質膜、アノードをこの順序に挟んだ構造をなしている。単セル100の詳細構造については後述する。
【0042】
図1に示すように、燃料電池スタック10Aは、一端からカソード側エンドプレート12、絶縁板14、集電板16、複数の単セル100、集電板18、絶縁板20、アノード側エンドプレート22の順に積層されて構成される。ここで、エンドプレート12、22は、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。また、集電板16、18は、緻密質カーボンや銅板などガス不透過な導電性部材によって形成されている。絶縁板14、20は、ゴムや樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板16、18には、それぞれ出力端子16o、18oが設けられており、燃料電池スタック10Aで発電した電力を出力可能となっている。なお、燃料電池スタック10Aは、図示を省略したが、テンションプレート等により、積層方向に所定の押圧力がかかった状態で締結されて保持されている。なお、図1において、集電板16、18の間に配置される複数の単セル100のうち、一部について、符号を記載している。
【0043】
そして、図2は燃料電池スタック10Aの概略構成を示す説明図である。図2に示すように、アノード側エンドプレート22には、電気ヒーター222が内蔵されている。例えば、鋼等の金属からなるアノード側エンドプレート22に溝を設け、その溝に電熱線を通して、ヒーター用電源224から電力を供給することにより、アノード側エンドプレート22を加熱することができる。なお、本実施例において、燃料電池スタック10Aの運転時、集電板18、絶縁板20を介してアノード側エンドプレート22に接する単セル100(図2におけるBに位置する単セル)の温度が、積層方向中央に位置する単セル100の温度よりも、約5℃高くなるように、電気ヒーター222は制御されている。本実施例におけるカソード側エンドプレート12、およびアノード側エンドプレート22が、請求項における固定部材に、電気ヒーター222が、請求項における加熱部に相当する。
【0044】
ここで、反応ガス(燃料ガスおよび酸化剤ガス)の流れについて、簡単に説明する。
図2に示すように、燃料ガスとしての純水素は、水素タンク300から配管320を介して、燃料電池スタック10Aに供給される。配管320の一端は、カソード側エンドプレート12に形成された燃料ガス供給口122(図1)に接続され、供給された純水素は、水素供給マニホールド(図示しない)を通って、各単セル100内の燃料ガス流路122pに分配され、各単セル100のアノードに供給される。以上のように、燃料ガスとしての純水素が、アノードに供給されると、アノードでは、H2→2H++2e-という電極反応が起こる。
そして、アノードに供給されたが電極反応に使用されなかった残りの水素は、水素排出マニホールド(図示しない)を通って、燃料電池スタック10Aから排出される。燃料電池スタック10Aから排出された水素は、カソード側エンドプレート12に形成された燃料ガス排出口124(図1)に接続された配管340を介して配管320に戻され、再び燃料電池スタック10Aに循環される。なお、配管320には、シャットバルブ(図示しない)や調圧バルブ(図示しない)が設けられており、水素の供給量を調整している。また、配管340には、循環ポンプ(図示しない)が設けられ、燃料ガスを循環させている。
【0045】
一方、酸化剤ガスとしての空気は、エアポンプ400から配管420を介して、燃料電池スタック10Aに供給される。配管420の一端は、カソード側エンドプレート12に形成された酸化剤ガス供給口126(図1)に接続され、供給された空気は、空気供給マニホールド(図示しない)を通って、各単セル100の酸化剤ガス流路126pに分配され、各単セル100のカソードに供給される。以上のように、酸化剤ガスとしての空気が、カソードに供給されると、カソードでは、2H++1/2O2+2e-→H2Oという電極反応が起こる。すなわち、カソードでは、電極反応によって水が生成される。
そして、カソードに供給されたが電極反応に使用されなかった残りの空気は、空気排出マニホールド(図示しない)を通って、燃料電池スタック10Aから排出される。排出された空気は、カソード側エンドプレート12に形成された酸化剤ガス排出口128(図1)に接続された配管440を介して大気中に放出される。
【0046】
また、燃料電池スタック10Aの運転時、各単セル100において、上記の電気化学反応が起こる際に熱が発生し、各単セル100は自己発熱により温度が上昇する。ここで、カソード側エンドプレート12は、大気に触れているため、放熱して温度が低下する。そのため、カソード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セル100も、熱伝導により放熱し、温度が低くなる。一方、アノード側エンドプレート22は、電気ヒーター222により加熱されているため、温度が上昇する。そのため、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セル100も、熱伝導により吸熱し、温度が高くなる。従って、燃料電池スタック10Aは、積層方向に、カソード側エンドプレート12からアノード側エンドプレート22に向かって温度が高くなるような温度分布になる。なお、この効果については、後ほど詳しく説明する。
【0047】
図3は、単セル100の構造を示す分解斜視図である。単セル100は、固体高分子型燃料電池として構成されている。単セル100は、電解質膜102の両面に、カソード104と、アノード106とをそれぞれ配置したMEA108(Membrance Electrode Assembly:膜電極接合体)をカソード側セパレータ110、アノード側セパレータ112で挟んだ構造を有している。図示の都合上、アノード106は、電解質膜102に隠れた位置に存在する。カソード104、および、アノード106は、触媒層とガス拡散層とを積層させたガス拡散電極である。カソード側セパレータ110には、カソード104と対向する面に複数の凹凸状の酸化剤ガス流路126pが形成されている。同様に、アノード側セパレータ112には、アノード106と対向する面に複数の凹凸状の燃料ガス流路122pが形成されている。セパレータ110、112は、ガス拡散電極との間でガス流路を形成するとともに、隣接するセル間で燃料ガスと酸化剤ガスの流れを分離する役割を果たしている。電解質膜102は、固体高分子材料、例えば、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例におけるアノード側セパレータ112が、請求項における燃料ガス流路形成部、カソード側セパレータ110が、請求項における酸化剤ガス流路形成部に相当する。
【0048】
また、セパレータ110、112の各辺付近には、それぞれの辺に沿う細長い形状の水素供給用貫通孔122h、水素排出用貫通孔124h、および、空気供給用貫通孔126h、空気排出用貫通孔128hが形成されている。水素供給用貫通孔122h、水素排出用貫通孔124h、および、空気供給用貫通孔126h、空気排出用貫通孔128hは、単セル100を積層することによって燃料電池スタック10Aを形成した際に、燃料電池スタック10Aを積層方向に貫通する水素供給マニホールド、水素排出マニホールド、空気供給マニホールド、および空気排出マニホールド(図示しない)を形成する。
【0049】
A2.効果:
図4は、本実施例における燃料電池スタック10Aの積層方向の温度分布を示している。併せて、従来の燃料電池スタックの積層方向の温度分布を破線で示している。従来の燃料電池スタックとは、エンドプレートに加熱手段を有さないものであり、アノード側エンドプレート22以外は、燃料電池スタック10Aと同一の構成のものである。
【0050】
従来の燃料電池スタックにおいて、積層体の両端に配置されたエンドプレートは、大気と接触して放熱し、温度が下がる。そのため、エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルは、熱伝導により放熱し、積層方向中央付近に位置する単セルに比べて温度が低くなるため、図4に破線で示すような温度分布になっていた。
すなわち、燃料電池スタックの積層方向の中央に位置する単セルと、アノード側エンドプレートとの間に位置する複数の単セル(図4における10A1)は、図4に破線で示すように、中央からアノード側エンドプレートに接する単セル(図4におけるBの位置)に向かって温度が低くなっていた。特に、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルにおいて、温度の低下が著しかった。
このため、燃料電池スタックの積層方向の中央に位置する単セルと、アノード側エンドプレートとの間に位置する複数の単セル(図4における10A1)において、それぞれの単セルについて見ると、カソード側セパレータ→MEA→アノード側セパレータの順に温度が低くなっていた。特に、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルにおいて、その温度勾配が大きくなっていた。
【0051】
ところで、燃料電池において、カソードでは、前述したとおり、電極反応により水が生成される(2H++1/2O2+2e-→H2O)。カソードで生成された生成水は、吸水性の高い固体高分子材料から成る電解質膜102に吸収され、カソード側からアノード側にも移動する。ここで、上記したように、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルにおいて、それぞれ、アノード側セパレータはカソード側セパレータより温度が低く、アノード側では飽和水蒸気圧が低いため、移動した生成水の水蒸気は凝縮(液化)しやすかった。
ここで、燃料ガスとして純水素を使用し、酸化剤ガスとして空気を使用する場合は、空気は酸素以外に窒素等を多量に含むため、純水素(燃料ガス)に比べて空気(酸化剤ガス)を大量に流す必要があった。すなわち、純水素(燃料ガス)の流量は、空気(酸化剤ガス)に比べて少なく、純水素の流速は空気に比べて小さかった。また、純水素は空気に比べ、分子量が小さい。そのため、純水素(燃料ガス)の運動量(流速と分子量の積)は、空気(酸化剤ガス)の運動量に比べて小さい。ここで、燃料ガスと酸化剤ガスの運動量が異なる場合、運動量の大きいガスの方が、反応ガス流路内の凝縮水を押し出しやすいと考えられる。そのため、アノード側で生成水の水蒸気が凝縮(液化)すると、その凝縮水を、運動量の小さい純水素によって押し出すことができない場合があった。
【0052】
上述したように、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルにおいて、カソード側セパレータ→MEA→アノード側セパレータの順に温度が低くなっていると、アノード側における飽和水蒸気圧が低いため、水蒸気が凝縮(液化)しやすく、かつ、アノード側セパレータに形成されている燃料ガス流路内を流通する純水素(燃料ガス)は、運動量が小さく、凝縮水を押し出しにくいため、凝縮水が燃料ガス流路内に滞留することがあった。したがって、アノード側エンドプレート付近に位置するいくつかの単セルにおいて、燃料ガスの流れが悪くなり、その結果、発電効率が悪くなることがあった。
【0053】
しかしながら、本実施例の燃料電池スタック10Aは、アノード側エンドプレート22を電気ヒーター222によって加熱することにより、図4に実線で示すように、燃料電池スタック10Aの一端から他端に向かって(位置AからBに向かって)単セル100の温度が高くなるように、燃料電池スタック10Aの積層方向に温度勾配を設けている。すなわち、全ての単セル100において、カソード側セパレータ110→MEA108→アノード側セパレータ112の順に温度が高くなるように温度勾配がついている。したがって、カソード104で生成された生成水が電解質膜102を通して、アノード側に移動しても、アノード側セパレータ112はカソード側セパレータ110より高温で、飽和水蒸気圧が高いため、生成水の水蒸気は、燃料ガス流路122p内で凝縮(液化)しにくい。そのため、燃料ガス流路122pにおいてフラッディングが生じるのを抑制することができる。一方、カソード側セパレータ110はアノード側セパレータ112より低温であり、飽和水蒸気圧が低いため、カソード側セパレータ110に形成された酸化剤ガス流路126pにおいて、生成水の水蒸気は、凝縮(液化)しやすい。しかしながら、上述したとおり、燃料ガスとして純水素を使用し、酸化剤ガスとして空気を使用する場合は、空気(酸化剤ガス)は純水素(燃料ガス)に比べて運動量が大きいため、凝縮水は空気の流れによって酸化剤ガス流路126pから押し出される。したがって、燃料電池スタック10Aによれば、燃料電池スタック10Aの積層方向に温度勾配を設けることにより、全ての単セル100においてフラッディングを抑制することができ、結果として、均一な発電を得ることができる。
【0054】
B.第2の実施例:
B1.燃料電池スタックの構成
次に、本発明の第2の実施例としての燃料電池スタック10Bについて、図に基づいて説明する。図5は、本実施例の燃料電池スタック10Bの外観を示す斜視図である。
【0055】
図5に示すように、燃料電池スタック10Bは、第1の実施例における単セル100と同一の構成を有する単セル100を複数積層して、その両端に集電板16、18を配置して成る積層体10B1、10B2を、並べて配置して1つの燃料電池スタックを形成したものである。単セル100を複数積層すると、積層方向の一端にカソード側セパレータ、他端にアノード側セパレータが位置する。そして、積層体10B1および10B2において、カソード側セパレータが配置された端部には、カソード側集電板16が配置され、アノード側セパレータが配置された端部には、アノード側集電板18が配置されている。そして、それぞれの集電板16、18には、それぞれ出力端子16o1、16o2、18o1、18o2が設けられており、積層体10B1、10B2で発電した電力を出力可能となっている。そして、2つの積層体10B1、10B2は、それぞれのアノード側集電板18が互いに対向するように、絶縁板60を介して配置されている。そして、それらの両側から、絶縁板14を介してエンドプレート12、12Bで挟持されている。なお、燃料電池スタック10Bは、図示を省略したが、テンションプレート等により、積層方向に所定の押圧力がかかった状態で締結されて、積層状態が保持されている。図5において、斜線ハッチングが付されている1組の単セル100が、請求項における、隣り合う一組の単電池に相当する。
【0056】
また、本実施例における単セル100の構成は、第1の実施例における燃料電池スタック10Aにおける単セル100の構成と同一であるため、説明を省略する。
【0057】
第1の実施例において述べたように、セパレータ110、112の各辺付近には、それぞれの辺に沿う細長い形状の水素供給用貫通孔122h、水素排出用貫通孔124h、および、空気供給用貫通孔126h、空気排出用貫通孔128hが形成されている。積層体10B1と、積層体10B2とが、それぞれのアノード側集電板18が互いに対向するように配置されると、水素供給用貫通孔122hは、単セル100の積層方向に沿って、繋がるように連続して配置される。すなわち、セパレータ110、112に形成される水素供給用貫通孔122hによって、燃料電池スタック10Bを積層方向に貫通する水素供給マニホールドが形成される(図示しない。)。同様に、セパレータ110、112に形成される水素排出用貫通孔124hによって、燃料電池スタック10Bを積層方向に貫通する水素排出マニホールドが形成される(図示しない。)。
【0058】
一方、図5に、破線で示すように、積層体10B1の空気供給用貫通孔126hと、積層体10B2の空気排出用貫通孔128hとが、単セル100の積層方向に沿って、繋がるように配置される。また、積層体10B1の空気排出用貫通孔128hと、積層体10B2の空気供給用貫通孔126hとが、単セル100の積層方向に沿って、繋がるように配置される。本実施例において、空気供給用貫通孔126hと、空気排出用貫通孔128hとは、開口部の形状が同一であり、また、各セパレータの中心線に対して対称の位置に形成されているため、上記したように、空気供給用貫通孔126hと空気排出用貫通孔128hとが繋がるように配置されても、燃料電池スタック10Bを貫通する貫通孔が形成され、それぞれ、空気供給用マニホールド、空気排出用マニホールドとして機能することができる。エンドプレート12に形成されている燃料ガス供給口122から空気を供給すれば、空気は、積層体10B1の空気供給用貫通孔126hおよび積層体10B2の酸化剤ガス排出口128を通って、各単セル100に分配され、積層体10B1の積層体10B2の空気供給用貫通孔126hと、空気排出用貫通孔128hとを通って、燃料電池スタック10B外へ、排出される。なお、本実施例におけるカソード側セパレータ110が、請求項におけるセパレータおよび酸化剤ガス流路形成部に、アノード側セパレータ112が、請求項におけるセパレータおよび燃料ガス流路形成部に、それぞれ相当する。
【0059】
図6は燃料電池スタック10Bの概略構成を示す説明図である。本実施例において、第1の実施例と同様に、燃料ガスとして純水素、酸化剤ガスとして空気が、燃料電池スタック10Bに供給されている。
【0060】
ここで、反応ガス(燃料ガスおよび酸化剤ガス)の流れについて、簡単に説明する。
図6に示すように、燃料ガスとしての純水素は、水素タンク300から配管320を介して、燃料電池スタック10Bに供給される。配管320の一端は、エンドプレート12に形成された燃料ガス供給口122(図5)に接続され、供給された純水素は、燃料電池スタック10Bを積層方向に貫通する水素供給マニホールド(図示しない)を通って、各単セル100内の燃料ガス流路122pに分配され、各単セル100のアノードに供給される。以上のように、燃料ガスとしての純水素が、アノードに供給されると、アノードでは、H2→2H++2e-という電極反応が起こる。
【0061】
そして、アノードに供給されたが上記の電極反応に使用されなかった残りの水素は、水素排出マニホールド(図示しない)を通って、排出される。燃料電池スタック10Bから排出された水素は、エンドプレート12に形成された燃料ガス排出口124(図5)に接続された配管340を介して配管320に戻され、再び燃料電池スタック10Bに循環される。なお、配管320には、第1の実施例と同様に、シャットバルブ等が設けられ、純水素の供給量が調整されており、配管340には、循環ポンプが設けられ、燃料ガスを循環させている(図示しない)。
【0062】
一方、酸化剤ガスとしての空気は、エアポンプ400から配管420を介して、燃料電池スタック10Bに供給される。配管420の一端は、エンドプレート12に形成された酸化剤ガス供給口126(図5)に接続され、供給された空気は、空気供給マニホールド(積層体10B1の空気供給用貫通孔126hと、積層体10B2の空気排出用貫通孔128hとで構成される。)を通って、各単セル100の酸化剤ガス流路126pに分配され、各単セル100のカソードに供給される。以上のように、酸化剤ガスとしての空気が、カソードに供給されると、カソードでは、2H++(1/2)O2+2e-→H2Oという電極反応が起こる。すなわち、カソードでは、電極反応によって水が生成される。
そして、カソードに供給されたが、上記の電極反応に使用されなかった残りの空気は、空気排出マニホールド(積層体10B1の空気排出用貫通孔128hと、積層体10B2の空気供給用貫通孔126hとで構成される)を通って、燃料電池スタック10Bから排出される。排出された空気は、エンドプレート12に形成された酸化剤ガス排出口128(図5)に接続された配管440を介して大気中に放出される。
【0063】
また、燃料電池スタック10Bの運転時、各単セル100において、上記の電気化学反応が起こる際に熱が発生し、各単セル100は自己発熱により温度が上昇する。ここで、エンドプレート12、12Bは、大気に触れているため、放熱して温度が低下する。そのため、エンドプレート12、12Bの付近に位置する単セル100も熱伝導により放熱し、温度が低下する。一方、互いに対向する2枚のアノード側集電板18は、絶縁板60を介して接している。すなわち、2枚のアノード側集電板18は、大気に触れないため、エンドプレート12、12Bに比べると、あまり放熱しない。また、絶縁板60は、電気伝導性を有しないが、熱伝導性を有するものを用いている。そのため、2枚のアノード側集電板18および絶縁板60は、アノード側集電板18に接する単セル100の熱を吸収して、温度が上昇する。従って、燃料電池スタック10Bは、両端(図6におけるA、C)から積層方向の中央(図6におけるB)に向かって温度が高くなるような温度分布になる。
【0064】
B2.実施例の効果:
図7は、本実施例における燃料電池スタック10Bの積層方向の温度分布を示している。本実施例の燃料電池スタック10Bでは、積層体10B1、10B2それぞれの積層体の端部に配置されたアノード側集電板18が互いに対向するように配置されている。そのため、上述したように、アノード側集電板18は、あまり放熱しない。一方、エンドプレート12、12Bは大気に触れて放熱する。そのため、燃料電池スタック10Bの積層方向において、両端(図6におけるA、C)から積層方向の中央(図6におけるB)に向かって温度が高くなるような温度分布になっている(図7)。すなわち、全ての単セル100において、カソード側セパレータ110→MEA108→アノード側セパレータ112の順に温度が高くなるように温度勾配がついている。
【0065】
したがって、第1の実施例と同様に、電極反応によりカソードで生成された生成水は、電解質膜に吸収されてアノード側に移動しても、アノード側セパレータ112に形成された燃料ガス流路122p内では、飽和水蒸気圧が高いため、生成水の水蒸気は凝縮(液化)しにくい。そのため、燃料ガス流路122pにおいてフラッディングを抑制することができる。一方、カソード側セパレータ110に形成された酸化剤ガス流路126p内では、飽和水蒸気圧が低いため水蒸気は凝縮(液化)しやすいが、凝縮水は、運動量の大きい空気によって酸化剤ガス流路126pから押し出される。したがって、燃料電池スタック10Bによれば、全ての単セル100においてフラッディングを抑制することができ、結果として、均一な発電を得ることができる。
【0066】
さらに、燃料電池スタック10Bは、同一の構成を有する積層体10B1、10B2を用意して、それらのアノード側集電板18が隣り合うように配置することにより燃料電池スタックの積層方向に温度勾配を設けている。そのため、第1の実施例のように、電気ヒーターを用いてアノード側エンドプレート22を加熱する必要がなく、簡単にフラッディングを解消することができる。
【0067】
また、燃料電池スタック10Bにおいて、積層体10B1、10B2を、絶縁板60を介して配置している。そして、図5に示す出力端子16o1と、出力端子18o2とを電気的に接続し、出力端子18o1と、出力端子16o2とから出力を得ることにより、積層体10B1と10B2とが、電気的に直列に配置されるため、高電圧の出力を得ることができる。例えば、積層体10B1、10B2がそれぞれ出力100Vの燃料電池スタックである場合、燃料電池スタック10Bからは、200Vの出力を得ることができる。
【0068】
C.第3の実施例:
C1.燃料電池スタックの構成
本発明の第3の実施例としての燃料電池スタックについて、図に基づいて説明する。図8は、本実施例の燃料電池スタック10Cの外観を示す斜視図である。
【0069】
図8に示すように、燃料電池スタック10Cは、後述する単セル100C1を複数積層して、その両端に集電板16、18を配置して成る積層体10C1、後述する単セル100C2を複数積層して、その両端に集電板16、18を配置して成る積層体10C2を、アノード側集電板18が絶縁板60を介して隣り合うように配置して1つの燃料電池スタックを形成したものである。そして、それらの両側から、絶縁板14を介してエンドプレート12、12Bで挟持されている。エンドプレート12、12B、絶縁板14、集電板16、18は、第2の実施例と同様の部品であるため、詳しい説明を省略する。
【0070】
C2.単セルの構成:
図9は、積層体10C1を構成する単セル100C1の構造を示す説明図である。図9に示すように、単セル100C1は、第2の実施例と同様に、固体高分子型燃料電池として構成されている。単セル100C1は、電解質膜102の両面に、カソード104と、アノード106とをそれぞれ配置したMEA108を、カソード側セパレータ110C1、アノード側セパレータ112C1で挟んだ構造を有している。セパレータ110C1、112C1は、外形が略長方形の、平板状を成す。
【0071】
カソード側セパレータ110C1の4隅には、水素供給用貫通孔122h1、水素排出用貫通孔124h1、空気供給用貫通孔126h1、空気排出用貫通孔128h1が、それぞれ、形成されている。水素供給用貫通孔122h1と、水素排出用貫通孔124h1とが、対角に配置され、空気供給用貫通孔126h1と、空気排出用貫通孔128h1とが、対角に配置されている。
【0072】
カソード側セパレータ110C1の、カソード104と対向する対向面には、酸化剤ガス流路126p1が形成されている。酸化剤ガス流路126p1は、空気供給用貫通孔126h1から導入された空気を、カソードに拡散して供給するために、対向面内を蛇行して、空気排出用貫通孔128h1に案内するように、空気供給用貫通孔126h1と、空気排出用貫通孔128h1とを繋いでいる。
【0073】
同様に、アノード側セパレータ112C1の隅にも、水素供給用貫通孔122h1、水素排出用貫通孔124h1、空気供給用貫通孔126h1、空気排出用貫通孔128h1が、それぞれ、形成されている。そして、アノード106と対向する対向面には、燃料ガス流路122pが形成されている。燃料ガス流路122p1は、酸化剤ガス流路126p1と同様に、水素供給用貫通孔122h1から導入された水素を、アノードに拡散して供給するために、対向面内を蛇行して、水素排出用貫通孔124h1に案内するように、水素供給用貫通孔122h1と、水素排出用貫通孔124h1とを繋いでいる。
【0074】
図10は、積層体10C2を構成する単セル100C2の構造を示す説明図である。図10に示すように、単セル100C2も、単セル100C1と同様に、電解質膜102の両面に、カソード104と、アノード106とをそれぞれ配置したMEA108を、カソード側セパレータ110C2、アノード側セパレータ112C2で挟んだ構造を有している。セパレータ110C2、112C2は、外形が略長方形の、平板状を成す。
【0075】
アノード側セパレータ112C2の4隅には、水素供給用貫通孔122h2、水素排出用貫通孔124h2、空気供給用貫通孔126h2、空気排出用貫通孔128h2が、それぞれ、形成されている。そして、アノード106と対向する対向面には、燃料ガス流路122p1と同様に、対向面内を蛇行して、水素供給用貫通孔122h1と、水素排出用貫通孔124h1とを繋ぐ、燃料ガス流路122p2が形成されている。
【0076】
図11は、アノード側セパレータ112C1、アノード側セパレータ112C2のアノードと対向する対向面(燃料ガス流路122p1、122p2が形成されている面)を示す説明図である。図11に示すように、アノード側セパレータ112C2は、アノード側セパレータ112C1の鏡像(図11の鏡面に対して対称な像)になるように形成されている。
【0077】
カソード側セパレータ110C2の4隅にも、水素供給用貫通孔122h2、水素排出用貫通孔124h2、空気供給用貫通孔126h2、空気排出用貫通孔128h2が、それぞれ、形成されている。そして、カソード104と対向する対向面には、燃料ガス流路122p2と同様に、対向面内を蛇行して、水素供給用貫通孔122h1と、水素排出用貫通孔124h1とを繋ぐ酸化剤ガス流路126p2が形成されている。カソード側セパレータ110C2も、カソード側セパレータ110C2と鏡像になるように形成されている。
【0078】
図12は、隣り合うアノード側セパレータ112C1、アノード側セパレータ112C2を示す説明図である。図8に斜線ハッチングを付して示した、一組の隣り合う単セル100C1、単セル100C2の、隣り合うアノード側セパレータ112C1、アノード側セパレータ112C2を抜き出して、示している。上記したように、アノード側セパレータ112C1と、アノード側セパレータ112C2とは、互いに鏡像になるように形成されている。
【0079】
そのため、積層体10C1と、積層体10C2の、アノード側集電板18が隣り合うように、積層体10C1と、積層体10C2とが配置されると、図12に示すように、アノード側セパレータ112C1の水素供給用貫通孔122h1と、アノード側セパレータ112C2の水素供給用貫通孔122h2とが、繋がるように配置される。また、アノード側セパレータ112C1の水素排出用貫通孔124h1と、アノード側セパレータ112C2の水素排出用貫通孔124h2とが繋がるように配置される。図8に破線で示すように、積層体10C1、積層体10C2それぞれにおいて、水素供給用貫通孔122h1が繋がるように配置され、水素供給用貫通孔122h2が繋がるように配置されているため、積層体10C1の水素供給用貫通孔122h1、積層体10C2の水素供給用貫通孔122h2によって、燃料電池スタック10Cを積層方向に沿って貫通する水素供給用マニホールドが形成される。同様に、積層体10C1の水素排出用貫通孔124h1、積層体10C2の水素排出用貫通孔124h2によって、燃料電池スタック10Cを積層方向に沿って貫通する水素排出用マニホールドが形成される(図12に水素の流れを、一点鎖線で示す)。
【0080】
同様に、図8に破線で示すように、積層体10C1の空気供給用貫通孔126h1、積層体10C2の空気供給用貫通孔126h2によって、燃料電池スタック10Cを積層方向に沿って貫通する空気供給用マニホールドが形成され、積層体10C1の空気排出用貫通孔128h1、積層体10C2の空気排出用貫通孔128h2によって、燃料電池スタック10Cを積層方向に沿って貫通する空気排出用マニホールドが形成される。なお、アノード側集電板18および絶縁板60にも、アノード側セパレータ112C1と同様に、4隅に、水素供給用貫通孔、水素排出用貫通孔、空気供給用貫通孔、および空気排出用貫通孔が、それぞれ、形成されている。
【0081】
C3.実施例の効果:
本実施例における燃料電池スタック10Cでは、積層体10C1、10C2それぞれのアノード側集電板18が隣り合うように配置されている。そのため、第2の実施例と同様に、燃料電池スタック10Cの積層方向において、両端から積層方向の中央に向かって温度が高くなるような温度分布になる。したがって、第2の実施例と同様に、全ての単セル100C1、単セル100C2において、フラッディングを抑制する効果を得ることができる。
【0082】
図13は、本実施例のセパレータの形状の効果を説明するための比較例を示す説明図である。比較例の隣り合うアノード側セパレータ112C1‘とアノード側セパレータ112C2’とを示している。比較例の燃料電池スタックは、第3の実施例の燃料電池スタックにおいて、積層体10C2に用いられるセパレータを変更したものである。積層体10C2に用いられるカソード側セパレータ110C2’は、カソード側セパレータ110C1と同じ形状に、アノード側セパレータ112C2’はアノード側セパレータ112C1と同じ形状に形成されている。
【0083】
上記したように、積層体10C1において、水素供給用貫通孔122h1は、繋がるように配置されており、同様に、積層体10C2’においても、水素供給用貫通孔122h2’は、繋がるように配置されている。しかしながら、図13に示すように、アノード側セパレータ112C1の水素供給用貫通孔122h1と、アノード側セパレータ112C2’の水素供給用貫通孔122h2とは、繋がらない。そのため、燃料電池スタック10Cを積層方向に貫通する水素供給マニホールドが形成されない。同様に、水素排出マニホールド、空気供給マニホールド、空気排出マニホールドも、燃料電池スタック10Cを積層方向に貫通するようには形成されない。
【0084】
したがって、このような場合には、例えば、図13に示すように、積層体10C1には、エンドプレート12側から、水素および酸素を給排し、積層体10C2にはエンドプレート12B側から水素および酸素を給排する。
【0085】
本実施例では、上記したように、単セル100C1に用いられるアノード側セパレータ112C1と、単セル100C2に用いられるアノード側セパレータ112C2とが、互いに鏡像になるように形成されている。また、単セル100C1に用いられるカソード側セパレータ110C1と、単セル100C2に用いられるカソード側セパレータ110C2とも、互いに鏡像になるように形成されている。したがって、燃料電池スタック10Cを構成した場合に、燃料電池スタック10Cを積層方向に貫通する反応ガス給排用マニホールドがそれぞれ形成される。したがって、第2の実施例と同様に、エンドプレート12側からのみ、水素および空気を給排すれば、燃料電池スタック10Cを構成する単セル100C1、100C2に、水素および空気を供給することができるため、構成を簡単にすることができる。
【0086】
D.変形例:
(1)上記した実施例において、燃料ガスとして純水素、酸化剤ガスとして空気を用いるものを示したが、本発明は、これに限定されない。例えば、燃料ガスとして、アルコールや炭化水素の改質反応によって得られる改質ガスを用いることも可能である。この場合、改質ガスには、窒素や二酸化炭素等の水素以外の気体が含まれる。また、酸化剤ガスとして、純酸素を用いることも可能である。
【0087】
例えば、燃料ガスとして改質ガス、酸化剤ガスとして純酸素を用いる場合、改質ガスは窒素や二酸化炭素等の水素以外の気体を含むため、水素と酸素を効率よく反応させるためには、純酸素に対して改質ガスを大量に流す必要がある。すなわち、流速を大きくする。そのため、燃料ガス流路122pにおいて、生成水等が凝縮しても、改質ガスは純酸素に対して運動量が大きいため、燃料ガス流路122pから押し出すことができる。
【0088】
したがって、燃料ガスとして改質ガス、酸化剤ガスとして純酸素を用いる場合は、上記した実施例の場合とは反対に、単セル100において、アノード側セパレータ112→MEA108→カソード側セパレータ110の順に、温度が高くなるように温度勾配を設けるようにする。そのため、第1の実施例のような構成の場合は、電気ヒーター222を、カソード側エンドプレートに内蔵するようにし、また、第2の実施例のような構成の場合は、積層体10B1、10B2のカソード側集電板16が互いに対向するように配置するようにする。
【0089】
このような構成にすると、カソード側セパレータ110に形成された酸化剤ガス流路126pの飽和水蒸気圧は高くなるため、カソード104の電極反応により生成される生成水の水蒸気は凝縮(液化)しにくくなる。一方、アノード側セパレータ112に形成された燃料ガス流路122pの飽和水蒸気圧は低くなるため、電解質膜102に吸収されアノード側に移動してきた生成水は、凝縮(液化)しやすくなる。しかしながら、上述したように、改質ガスは純酸素に対して運動量が大きいため、凝縮水は改質ガスによって燃料ガス流路122pから押し出される。 したがって、燃料電池スタックにおける全ての単セルにおいて、フラッディングを抑制することができ、結果として、均一な発電を得ることができる。
【0090】
(2)上記した第1の実施例において、アノード側エンドプレート22を加熱する手段として、電気ヒーター222を用いるものを示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃焼ヒーターを用いたり、アノード側エンドプレート22を加熱可能な加熱媒体をアノード側エンドプレート22内に流すようにしてもよい。ここで、加熱媒体としては、例えば、燃料電池スタックから排出された冷却水、反応後の酸化剤ガス、反応後の燃料ガス等を用いることができる。燃料電池スタックから排出された冷却水は、燃料電池スタック内を循環して、単セルの熱を吸収し高温になっており、反応後の酸化剤ガスおよび燃料ガスは、電極反応による発熱により高温になっているため、アノード側エンドプレートを加熱するための加熱媒体となりうるからである。
【0091】
(3)上記した第2、第3の実施例において、隣り合う2枚のアノード側集電板18は、絶縁板60を介して配置されていたが、絶縁板60はなくてもよい。すなわち、隣り合う2枚のアノード側集電板18が、接触するように配置されてもよい。このようにすると、積層体10B1、10B2(積層体10C1、10C2)が並列に接続された状態になる。さらに、積層体10B1、10B2(積層体10C1、10C2)で、1枚の集電板を共有してもよい。この場合も、上記と同様に、積層体10B1、10B2が並列に接続された状態になる。
【0092】
(4)上記した第2の実施例において、積層体10B1と積層体10B2とは、単セル100の積層数が等しいものを示したが、各積層体の単セル100の積層数は、同じでなくても良い。図4の従来例として示すように、燃料電池スタックの端部付近の単セルでは、エンドプレートからの放熱の影響を受けるため、温度低下が著しい。したがって、積層体10B2は、放熱の影響を受ける枚数以上は積層されていることが好ましい。例えば、単セルを100枚積層して成る、従来の燃料電池スタックにおいて、端部よりの10枚の単セルの温度低下が著しいものとすると、90枚の単セル100を積層して成る積層体10B1と、10枚の単セル100を積層して成る積層体10B2とを、用いて、燃料電池スタック10Bを構成してもよい。このようにしても、積層体10B2において、単セル内において、カソード104→電解質膜102→アノード106の順に、温度が高くなるような温度勾配ができるため、上記したように、フラッディングを抑制することができる。
【0093】
(5)上記した実施例において、溝状の反応ガス流路が形成されたセパレータを示したが、セパレータおよび反応ガス流路形成部の形状は、上記した実施例の形状に限定されない。例えば、互いに連通する複数の孔が形成されている多孔体を反応ガス流路形成部に、マニホールドを構成する貫通孔とマニホールドと反応ガス流路形成部との間で反応ガスを給排するための反応ガス給排路が形成されたセパレータを、それぞれ用いてもよい。このようにしても、上記した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0094】
(6)上記した第1の実施例において、アノード側エンドプレート22に電気ヒーター222を設けて、燃料電池スタック10Aのカソード側エンドプレート12からアノード側エンドプレート22に向かって、温度が高くなるように、燃料電池スタック10Aの全体に温度勾配を設けているが、特定の単セルにおいて、カソード側セパレータ110→MEA108→アノード側セパレータ112の順に温度が高くなるように温度勾配を設けるようにしてもよい。例えば、特定の単セルにおいて、フラッディングが生じている場合には、その単セルにおいて、カソード側セパレータ110→MEA108→アノード側セパレータ112の順に温度が高くなるように温度勾配を設ければ、その単セルにおけるフラッディングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】第1の実施例の燃料電池スタック10Aの外観を示す斜視図である。
【図2】第1の実施例の燃料電池スタック10Aの概略構成を示す説明図である。
【図3】単セル100の構造を示す分解斜視図である。
【図4】第1の実施例における燃料電池スタック10Aの積層方向の温度分布を示している。
【図5】第2実施例の燃料電池スタック10Bの外観を示す斜視図である。
【図6】第2の実施例の燃料電池スタック10Bの概略構成を示す説明図である。
【図7】第2の実施例における燃料電池スタック10Bの積層方向の温度分布を示している。
【図8】第3の実施例の燃料電池スタック10Cの外観を示す斜視図である。
【図9】積層体10C1を構成する単セル100C1の構造を示す説明図である。
【図10】積層体10C2を構成する単セル100C2の構造を示す説明図である。
【図11】アノード側セパレータ112C1、アノード側セパレータ112C2のアノードと対抗する面を示す説明図である。
【図12】隣り合うアノード側セパレータ112C1、アノード側セパレータ112C2を示す説明図である。
【図13】第3実施例のセパレータの形状の効果を説明するための比較例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0096】
10A、10B、10C…燃料電池スタック
10B1、10B2、10C1、10C2…積層体
12、12B…エンドプレート
14…絶縁板
16…カソード側集電板
16o、16o1、16o2…出力端子
18…アノード側集電板
18o、18o1、18o2…出力端子
20…絶縁板
22…アノード側エンドプレート
60…絶縁板
100…単セル
102…電解質膜
104…カソード
106…アノード
110…カソード側セパレータ
112…アノード側セパレータ
122…燃料ガス供給口
122h…水素供給用貫通孔
122p…燃料ガス流路
124…燃料ガス排出口
124h…水素排出用貫通孔
126…酸化剤ガス供給口
126h…空気供給用貫通孔
126p…酸化剤ガス流路
128…酸化剤ガス排出口
128h…空気排出用貫通孔
222…電気ヒーター
224…ヒーター用電源
300…水素タンク
320、340、420、440…配管
400…エアポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に配置されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置されたカソードと、前記アノード側に配置され、前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路が形成される燃料ガス流路形成部と、前記カソード側に配置され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成される酸化剤ガス流路形成部と、を備える単電池が、複数積層され、前記アノードと前記カソードが交互に配置されている積層体を有する燃料電池であって、
前記積層体の中央部と、前記積層体の一方の端部である第1の端部と、の間に位置する複数の前記単電池のうち、少なくとも1つの特定の前記単電池は、
前記積層方向における温度勾配として、前記中央部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
特定の前記単電池を、前記固体高分子電解質膜を境にして前記中央部寄りと第1の端部寄りに分けた場合に、前記アノードおよび前記燃料ガス流路形成部は、前記第1の端部寄りに配置され、前記カソードおよび前記酸化剤ガス流路形成部は、前記中央部寄りに配置されるとともに、
前記燃料ガスとして純水素が供給され、前記酸化剤ガスとして酸素と酸素以外の気体を含む混合ガスが供給されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池であって、
特定の前記単電池を、前記固体高分子電解質膜を境にして前記中央部寄りと前記第1の端部寄りに分けた場合に、前記アノードおよび前記燃料ガス流路形成部は、前記中央部寄りに配置され、前記カソードおよび前記酸化剤ガス流路形成部は、前記第1の端部寄りに配置されるとともに、
前記燃料ガスとして水素と水素以外の気体を含む混合ガスが供給され、前記酸化剤ガスとして純酸素が供給されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちの任意のひとつに記載の燃料電池において、
前記中央部と前記第1の端部との間に位置する全ての前記単電池は、
前記積層方向における温度勾配として、前記中央部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有すると共に、
前記中央部と前記積層体の他方の端部である第2の端部との間に位置する全ての前記単電池は、
前記積層方向における温度勾配として、前記第2の端部から前記中央部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有し、
前記積層体の全体として、前記積層方向において前記第2の端部から前記第1の端部に向かう向きに温度が高くなるような温度勾配を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記積層体の両端に配置され、前記積層体の積層状態を維持するための1対の固定部材と、
1対の前記固定部材のうち、前記第1の端部側に配置されている前記固定部材を加熱する加熱部と、
を、さらに備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に配置されたアノードと、前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置されたカソードと、前記アノード側に配置され、前記アノードに燃料ガスを供給する燃料ガス流路が形成される燃料ガス流路形成部と、前記カソード側に配置され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成される酸化剤ガス流路形成部と、を備える単電池が、複数積層されて成る燃料電池において、
積層された複数の前記単電池のうち、隣り合う一組の前記単電池の前記燃料ガス流路形成部同士、または前記酸化剤ガス流路形成部同士が隣り合うと共に、隣り合う前記ガス流路形成部を境に、前記燃料電池の両端に向かって、アノードとカソードが交互に配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池において、
隣り合う2つの前記燃料ガス流路形成部の間、または隣り合う2つの前記酸化剤ガス流路形成部の間に、絶縁部材が配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項6または7に記載の燃料電池において、
隣り合う前記一組の単電池の前記燃料ガス流路形成部同士が隣り合う場合に、
前記燃料ガスとして純水素が供給され、前記酸化剤ガスとして酸素と酸素以外の気体を含む混合ガスが供給されることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項6または7に記載の燃料電池において、
隣り合う前記単電池の前記酸化剤ガス流路形成部同士が隣り合う場合に、
前記燃料ガスとして水素と水素以外の気体を含む混合ガスが供給され、前記酸化剤ガスとして純酸素が供給されることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記単電池は、セパレータを介して積層されると共に、
前記セパレータは、
前記燃料ガス流路と連通するように形成される燃料ガス用貫通孔と、前記酸化剤ガス流路と連通するように形成される酸化剤ガス用貫通孔と、を備え、
隣り合う前記ガス流路形成部を境に、前記燃料電池の一方の端までの間に配置される前記セパレータと、前記燃料電池の他方の端までの間に配置される前記セパレータとは、
前記燃料ガス用貫通孔および前記酸化剤ガス用貫通孔の配置が、互いに鏡像の関係になるように、形成されていることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−34381(P2008−34381A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175735(P2007−175735)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】