説明

燃料電池

【課題】出力の向上が図れるとともに、アノード(燃料極)における反応に必要な水を燃料から生成し、アノード(燃料極)に安定して水および燃料を供給することができる燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池1は、アノード触媒層11およびアノードガス拡散層12を備えるアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14およびカソードガス拡散層15を備えるカソード(空気極)16と、アノード(燃料極)13とカソード(空気極)16とに挟持された電解質膜17と、アノード(燃料極)側に配置され、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料を収容する燃料収容部41と、アノード触媒層11と燃料収容部41との間に配置され、主として第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層80とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができるシステムである。特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料に用い、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出せるため、改質器も不要なことから小型機器用電源として有望である。
【0003】
DMFCにおける燃料の供給方法として、液体燃料を気化させてからブロア等で燃料電池内に送り込む気体供給型DMFCと、50mol%以下の濃度の液体燃料をそのままポンプ等で燃料電池内に送り込む液体供給型DMFC、更に、燃料電池内部で50mol%以上の濃度の液体燃料を気化させる内部気化型DMFC等が知られている。
【0004】
内部気化型DMFCは、液体燃料を保持する燃料浸透層と、燃料浸透層中に保持された液体燃料のうち気化成分を拡散させるための気液分離膜とを備えるもので、気化した液体燃料が気液分離膜からアノード(燃料極)に供給される。
【0005】
アノード(燃料極)では、式(1)に示すように、気化したメタノールと水とがアノード触媒層で反応して二酸化炭素および水素イオンを生成する。
CHOH+HO → CO+6H++6e- …式(1)
【0006】
また、カソード(空気極)では、アノード(燃料極)側からカソード(空気極)側へ拡散したメタノールが、式(2)に示すように、カソード触媒層で直接酸化されることで水を生成する。この水は、自己拡散することによってアノード(燃料極)側へ供給され、アノード(燃料極)における上記した式(1)の反応に必要な水として利用される。
CHOH+(3/2)O → CO+2HO …式(2)
【0007】
また、アノード(燃料極)に水を供給する他の方法として、水を含むメタノール燃料を使用し、水と燃料とを一緒に直接アノード触媒層へ供給する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−149687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の燃料電池のように、カソード(空気極)側で生成する水を自己拡散によってアノード(燃料極)側へ供給する場合、メタノールクロスオーバーによってカソード(空気極)側へメタノールが供給されるが、このメタノールクロスオーバーは、燃料電池の性能を減少させる原因となる。
【0009】
また、水で希釈したメタノール燃料を使用する場合、液体燃料の単位体積当たりのエネルギー密度が減少するため、供給すべき水を含む燃料の流量を増加させなければならないという課題や、発電効率が減少するといった問題を有していた。
【0010】
また、アノード触媒層へはメタノールを気体の状態で供給する必要がある。そのため、液体のメタノールが気体のメタノールとなる際に蒸発熱として熱量が利用されるため、アノード(燃料極)の温度が低下し、低温時の作動に不具合を生じたり、アノード(燃料極)への十分なメタノール燃料の供給が行えない等の問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、出力の向上が図れるとともに、アノード(燃料極)における反応に必要な水を燃料から生成し、アノード(燃料極)に安定して水および燃料を供給することができる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、アノード触媒層およびアノードガス拡散層を備える燃料極と、カソード触媒層およびカソードガス拡散層を備える空気極と、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜と、前記燃料極側に配置され、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料を収容する燃料収容部と、前記アノード触媒層と前記燃料収容部との間に配置され、主として前記第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層とを具備することを特徴とする燃料電池が提供される。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、アノード触媒層およびアノードガス拡散層を備える燃料極と、カソード触媒層およびカソードガス拡散層を備える空気極と、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜と、前記燃料極側に配置され、前記燃料極に燃料を供給する燃料供給部と、前記燃料供給部に供給する、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料を収容する燃料収容部と、前記アノード触媒層と前記燃料供給部との間に配置され、主として前記第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層とを具備することを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る燃料電池によれば、出力の向上が図れるとともに、アノード(燃料極)における反応に必要な水を燃料から生成し、アノード(燃料極)に安定して水および燃料を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る一実施形態の燃料電池1の構成を示す断面図である。図2は、本発明に係る一実施形態の燃料電池においてポンプ90を備えた場合の燃料電池1の構成を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、燃料電池1は、起電部を構成する燃料電池セル10と、この燃料電池セル10のアノード(燃料極)側およびカソード(空気極)側にそれぞれ設けられたアノード導電層18、カソード導電層19と、このアノード導電層18に積層して設けられた気液分離膜70と、この気液分離膜70に積層して設けられた第2燃料用触媒層80と、この第2燃料用触媒層80に対向させて設けられた複数の開口部31を有する燃料分配層30と、この燃料分配層30の燃料電池セル10側とは異なる側に配置され、燃料分配層30に液体燃料Fを供給する燃料供給機構40と、カソード導電層19に積層された保湿層50と、この保湿層50に積層された、複数の空気導入口61を有する表面カバー60とを備える。
【0018】
燃料電池セル10は、いわゆる膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)であり、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性を有する電解質膜17とから構成される。
【0019】
アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11として、例えば、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14として、例えば、Pt、Pt−Ni、Pt−Co等を用いることが好ましい。ただし、触媒は、これらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は、炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0020】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。電解質膜17は、具体的には、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成工業社製)等により構成される。なお、プロトン伝導性の電解質膜17は、これらに限られるものではなく、例えば、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、あるいは脂肪族炭化水素系樹脂獏などのプロトンを輸送可能な電解質膜で構成することができる。
【0021】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層11の集電体としても機能している。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層14の集電体としても機能している。また、アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15は、カーボンペーパ、カーボンクロス、カーボンシルク等の多孔性炭素質材、チタン、チタン合金、ステンレス、金などの金属材料からなる多孔質体またはメッシュなどで構成される。
【0022】
アノードガス拡散層12の表面に積層されたアノード導電層18、およびカソードガス拡散層15の表面に積層されたカソード導電層19は、例えば、Au、Niなどのような電気特性および化学安定性に優れた導電金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材等で構成される。これらの中でも、アノード導電層18やカソード導電層19は、燃料電池セル10に対応して開口された複数の開口部を有する薄膜で構成されることが好ましく、この開口部を介して、燃料を燃料電池セル側に導く。なお、アノード導電層18およびカソード導電層19は、それらの周縁から燃料や酸化剤が漏れないように構成されている。また、電解質膜17とアノード導電層18およびカソード導電層19との間には、それぞれゴム製のOリング20が介在されており、これらによって燃料電池セル10からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。なお、ここでは、アノード導電層18およびカソード導電層19を備えた燃料電池2を示しているが、アノード導電層18およびカソード導電層19を設けずに、上記したようにアノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15を拡散層として機能させるとともに、導電層として機能させてもよい。
【0023】
保湿層50は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸して、水の蒸散を抑制するとともに、カソード触媒層14への空気の均一拡散を促進するものである。この保湿層50は、例えば、ポリエチレン多孔質膜等からなる平板で構成される。
【0024】
表面カバー60は、空気の取入れ量を調整するものであり、その調整は、空気導入口61の個数や大きさ等を変更することで行われる。表面カバー60は、例えば、SUS304のような金属で構成することができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
アノード導電層18の燃料供給機構40側に配置された気液分離膜70は、液体燃料Fの気化成分と液体燃料Fとを分離し、その気化成分をアノード(燃料極)側に通過させるものである。この気液分離膜70は、液体燃料Fに対して不活性で溶解しない材料でシート状に構成され、具体的には、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などの材料で構成される。また、気液分離膜70は、周縁から燃料などが漏れないように構成されている。
【0026】
なお、気液分離膜70とアノード導電層18との間に、樹脂製のフレーム(図示しない)を設けてもよい。フレームで囲まれた空間は、気液分離膜70を拡散してきた気化燃料を一時的に収容する気化燃料収容室(いわゆる蒸気だまり)として機能するとともに、燃料電池セル10とアノード導電層18を密着させる補強板としても機能する。この気化燃料収容室および気液分離膜70の透過メタノール量抑制効果により、一度に多量の気化燃料がアノード触媒層に供給されるのを回避することができる。なお、フレームは、短形のフレームで、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐薬性の高いエンジニアリングプラスチックで構成される。
【0027】
気液分離膜70の燃料供給機構40側に配置された第2燃料用触媒層80は、燃料供給機構40によって供給される燃料のうちの、主に第2燃料の触媒として機能するものである。第2燃料用触媒層80は、少なくとも一元素以上の貴金属またはこの貴金属を含有する合金で構成されることが好ましい。使用される貴金属としては、例えば白金族元素の金属(Pt、Ir、Os、Pd等)が挙げられる。また、第2燃料用触媒層80は、炭素系担体または無機金属を含む担体に担持されることが好ましい。
【0028】
燃料供給機構40は、燃料収容部41と、燃料供給部本体42と、流路44とを主に備える。
【0029】
燃料収容部41には、燃料電池セル10に対応した液体燃料Fが収容されている。この液体燃料Fは、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料から構成される燃料である。
【0030】
第1燃料は、炭化水素を含むアルコール、カルボン酸およびアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることが好ましい。第1燃料として、具板的には、例えばメタノール、エタノール、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることが好ましい。これらの液体燃料の中でも、メタノール水溶液は、炭素原子数が1で反応の際に発生するのが二酸化炭素であり、低温での発電反応が可能であり、産業廃棄物から比較的容易に製造することができる。そのため、第1燃料としてメタノール水溶液を使用するのが好ましい。また、第1燃料の含有量は、0.1〜24.5Mであることが好ましい。この範囲の含有量が好ましいのは、第1燃料の含有量が0.1Mよりも小さい場合には、水素イオンと電子の生成量が少なく、燃料電池の発電性能が低下してしまうためであり、24.5Mよりも大きい場合には、第2燃料の効率が低下するからである。なお、Mは、体積モル濃度(mol/L)を意味する。
【0031】
また、第2燃料は、第2燃料用触媒層80において、水を生成し、熱を発生するものであり、炭素原子、水素原子および金属原子のうちの少なくとも1種を有する過酸化物からなる群から選択された一つ以上の物質の溶液で構成されることが好ましい。第2燃料における過酸化物の含有量は、過酸化物が次に示す化学式1で示され、Rが水素原子である場合、すなわち過酸化水素である場合には、0.1〜20mol%であることが好ましく、Rが炭化水素からなる化合物である場合には、0.1〜33.3mol%であることが好ましい。炭化水素からなる化合物としては、例えばアルキル基、シクロ環、ベンゼン環などを有する環状炭化水素系化合物等が挙げられる。また、アルキル基としては、例えば、メチル、エチル等が挙げられる。また、環状炭化水素系化合物としては、シクロヘキサン、ベンゼン等が挙げられる。
R−O−O−R …(化学式1)
【0032】
ここで、Rが水素原子である場合、Rが炭化水素からなる化合物である場合における過酸化物の含有量を上記各範囲とすることが好ましいのは、メタノールの内部改質反応(上記式(1)または式(5)参照)を促進させるための水の生成および熱の発生を維持できるからである。
【0033】
また、第2燃料における過酸化物は、無機金属過酸化物であってもよい。この場合には、第2燃料におけるこの過酸化物の含有量は、0.1〜50mol%であることが好ましい。無機金属過酸化物としては、例えば過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム等が挙げられる。ここで、無機金属過酸化物の含有量を上記範囲とすることが好ましいのは、メタノールの内部改質反応(上記式(1)または式(5)参照)を促進させるための水の生成および熱の発生を維持できるからである。
【0034】
また、第2燃料は、炭素原子および水素原子のうちの少なくとも一方を有する、過カルボン酸およびペルオキソ酸からなる群から選択された一つ以上の物質の溶液で構成されてもよい。この場合、第2燃料における過カルボン酸およびペルオキソ酸の含有量は、0.1〜50mol%であることが好ましい。炭素原子または水素原子を有する過カルボン酸として、例えば過酢酸、安息香酸等が挙げられ、炭素原子または水素原子を有するペルオキソ酸として、例えばジペルオキシコハク酸等が挙げられる。ここで、過カルボン酸およびペルオキソ酸の含有量を上記範囲とすることが好ましいのは、メタノールの内部改質反応(式(1)または式(5)参照)を促進させるための水の生成および熱の発生を維持できるからである。
【0035】
燃料供給部本体42は、供給された液体燃料Fを燃料分配層30に対して均一に供給するために、液体燃料Fを平坦に分散させるための凹部からなる燃料供給部43を備えている。この燃料供給部43は、配管等で構成される液体燃料Fの流路44を介して燃料収容部41と接続されている。燃料供給部43には、燃料収容部41から流路44を介して液体燃料Fが導入される。流路44は、燃料供給部43や燃料収容部41と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料供給部43や燃料収容部41を積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料Fの流路であってもよい。すなわち、燃料供給部43は、流路等を介して燃料収容部41と連通されていればよい。
【0036】
燃料収容部41に収容された液体燃料Fは、重力を利用して流路44を介して燃料供給部43まで落下させて送液することができる。また、流路44に多孔体等を充填して、毛細管現象により燃料収容部41に収容された液体燃料Fを燃料供給部43まで送液してもよい。さらに、図2に示すように、流路44の一部に、ポンプ90を介在させて、燃料収容部41に収容された液体燃料Fを燃料供給部43まで強制的に送液してもよい。
【0037】
このポンプ90は、燃料収容部41から燃料供給部43に液体燃料Fを単に送液する供給ポンプとして機能するものであり、燃料電池セル10に供給された過剰な液体燃料Fを循環する循環ポンプとしての機能を備えるものではない。このポンプ90を備えた燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは構成が異なり、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも構成が異なる、いわゆるセミパッシブ型と呼ばれる方式に該当する。なお、ポンプ90の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料Fを制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。上記したようにポンプ90を設ける場合、ポンプ90は、制御手段(図示しない)と電気的に接続され、この制御手段によって、燃料供給部43に供給される液体燃料Fの供給量が制御される。
【0038】
ここで、ポンプ90の送液量は、燃料電池1の主たる対象物が小型電子機器であることから、10μL/分〜1mL/分の範囲とすることが好ましい。送液量が1mL/分を超えると一度に送液される液体燃料Fの量が多くなりすぎて、全運転期間に占めるポンプ90の停止時間が長くなる。このため、燃料電池セル10への燃料の供給量の変動が大きくなり、その結果として出力の変動が大きくなる。これを防止するためのリザーバをポンプ90の下流側に設けてもよいが、そのような構成を適用しても燃料供給量の変動を十分に抑制することはできず、さらに装置サイズの大型化等を招いてしまう。
【0039】
一方、ポンプ90の送液量が10μL/分未満であると、装置立ち上げ時のように燃料の消費量が増える際に供給能力不足を招くおそれがある。これによって、燃料電池1の起動特性等が低下する。このような点から、10μL/分〜1mL/分の範囲の送液能力を有するポンプ90を使用することが好ましい。ポンプ90の送液量は10〜200μL/分の範囲とすることがより好ましい。このような送液量を安定して実現する上でも、ポンプ90には電気浸透流ポンプやダイアフラムポンプを適用することが好ましい。
【0040】
燃料分配層30は、例えば、複数の開口部31が形成された平板で構成され、第2燃料用触媒層80と燃料供給部43との間に挟持される。この燃料分配層30は、液体燃料Fの気化成分や液体燃料Fを透過させない材料で構成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で構成される。ここで、燃料電池1において、燃料供給部43に導入された液体燃料は、燃料分配層30の複数の開口部31から第2燃料用触媒層80に導かれ、気液分離膜70を介して液体燃料Fの気化成分がアノード(燃料極)13の全面に対して供給される。このように、燃料分配層30によって、アノード(燃料極)13に供給される燃料供給量を均一化することが可能となる。
【0041】
次に、上記した燃料電池1における作用について説明する。
【0042】
燃料収容部41から流路44を介して燃料供給部43に供給された液体燃料Fは、燃料分配層30で均一に分配され、第2燃料用触媒層80に導かれる。なお、ここでは、第1燃料としてメタノール、第2燃料として過酸化水素を用いた場合について説明する。
【0043】
第2燃料用触媒層80に導かれた液体燃料Fは、次に示す式(3)および式(4)の反応を生じる。
2H → 2HO+O …式(3)
CHOH+3/2O → 2HO+CO …式(4)
【0044】
過酸化水素は、第2燃料用触媒層80の存在下で、容易に上記した式(3)の反応を生じ、水と酸素を生成し、さらにこの反応に伴って熱を発生する。この発生した熱は、液体燃料Fのメタノールと式(3)の反応において生成した水の気化熱として用いられ、自発的な気化を促進させる。なお、副産物である酸素は、液体燃料Fの気化成分とともに気液分離膜70を介して燃料電池セル10に供給される、もしくは第一燃料であるメタノールと、上記した式(4)の反応によって水と熱を発生するが、少量である場合には性能に大きな影響を与えない。また、酸素が燃料電池1の出力などに影響を及ぼす場合には、例えば酸素を除去する酸素除去膜等を備えればよい。
【0045】
なお、過酸化物として、例えば、過メタノールを用いた場合には、上記式(3)に相当する反応式は「CHOOH → CO+HO+H」となる。また、過酸化物として、例えば、過酸化マグネシウムを用いた場合には、上記式(3)に相当する反応式は「MgO → Mg+O」となる。また、過酸化物として、例えば、過ギ酸を用いた場合には、上記式(3)に相当する反応式は「HC(=O)OOH → CO+HO」となる。上記したいずれの過酸化物を使用した場合においても、水が生成され、各反応に伴って熱が発生する。
【0046】
第2燃料用触媒層80で気化したメタノールと水は、気液分離膜70を通過し、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給され、次の式(5)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
CHOH+HO → CO+6H++6e- …式(5)
【0047】
この反応で生成した電子(e-)は、集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、カソード(空気極)16に導かれる。また、式(5)の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード(空気極)16に導かれる。カソード(空気極)16には酸化剤として空気が供給される。カソード(空気極)16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と次の式(6)に示す反応を生じ、この発電反応に伴って水が生成する。
(3/2)O+6e-+6H+ → 3HO …式(6)
【0048】
このように燃料電池1では、上記した内部改質反応が円滑に行なわれ、高出力で安定した出力が得られる。
【0049】
上記した本発明に係る一実施の形態の燃料電池1によれば、液体燃料Fを、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料で構成し、主として第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層80を備えることで、第2燃料用触媒層80における過酸化物の反応によって、水が得られ、それに伴って熱が得られる。この水をアノード触媒層11におけるメタノールの内部改質反応に利用することができ、さらに、発生した熱を、液体燃料Fのメタノールと過酸化物の反応において生成した水の気化熱として利用することができる。また、この発生した熱によって、液体燃料Fのメタノールと過酸化物の反応において生成した水の気化を促進することができる。これによって、燃料電池1の出力を向上させることができ、特に、発電開始初期における出力の向上および出力の安定を図ることができる。
【0050】
例えば、純メタノールを燃料として用いた従来の内部気化形燃料電池では、次の式(7)で示される、クロスオーバーしてきたメタノールの燃焼反応によって生成する水をアノード(燃料極)に移動し、メタノールの内部改質反応に利用していた。
CHOH+3/2O → CO+2HO …式(7)
【0051】
しかしながら、この式(7)における反応が促進されると燃料電池における出力が低下し、さらに、式(7)における反応は、発熱反応であるため、燃料電池において放熱性を向上させる対策を施さなければならなかった。
【0052】
これに対して、本発明に係る一実施の形態の燃料電池1によれば、アノード触媒層11におけるメタノールの内部改質反応に必要な水を液体燃料Fに第2燃料を含有することで得られる。これによって、上記した従来の燃料電池とは異なる方法でアノード(燃料極)に水を供給できるため、上記した従来の燃料電池における問題が生じることなく、燃料電池1の出力を向上させることができる。
【0053】
なお、本発明に係る一実施の形態の燃料電池1の構成は、上記した構成に特に限定されるものではなく、例えば、燃料電池1において気液分離膜70を備えずに燃料電池1を構成してもよい。また、上記した燃料電池1において、第2燃料用触媒層80の配置位置はこれに限定されるものではなく、例えば、アノード導電層18と気液分離膜70との間に配置されてもよい。また、第2燃料用触媒層80は、アノード触媒層11の燃料供給機構側に面して、すなわちアノード触媒層11とアノードガス拡散層12との間に配置されてもよい。この第2燃料用触媒層80をアノード触媒層11とアノードガス拡散層12との間に配置する場合においても、燃料分配層30とアノード導電層18との間に気液分離膜70を備えずに燃料電池1を構成してもよい。なお、これらの燃料電池の構成においても、上記した一実施の形態の燃料電池1における作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0054】
次に、本発明に係る燃料電池が優れた出力特性を有することを実施例および比較例に基づいて説明する。
【0055】
(実施例1〜実施例3)
実施例1〜実施例3で使用した燃料電池は、図2に示した燃料電池1と同一の構成を備えるものであるので、図2を参照して説明する。
【0056】
まず、燃料電池セル10の作製方法について説明する。
【0057】
アノード用触媒粒子(Pt:Ru=1:1)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、アノード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層12としての多孔質カーボンペーパ(30mm×40mmの長方形)に塗布することにより、厚さが100μmのアノード触媒層11を得た。
【0058】
カソード用触媒粒子(Pt)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、カソード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをカソードガス拡散層15としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより、厚さが100μmのカソード触媒層14を得た。なお、アノードガス拡散層12と、カソードガス拡散層15とは、同形同大であり、これらのガス拡散層に塗布されたアノード触媒層11およびカソード触媒層14も同形同大である。
【0059】
また、第2燃料用触媒粒子(Pt)を担持したカーボンブラックに、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、第2燃料用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストを多孔質カーボンペーパに塗布することにより、厚さが100μmの第2燃料用触媒層80を得た。なお、第2燃料用触媒層80は、アノード触媒層11と同形同大とした。
【0060】
上記したように作製したアノード触媒層11とカソード触媒層14との間に、電解質膜17として厚さが30μmで、含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(商品名:nafion膜、デュポン社製)を配置し、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向するように位置を合わせた状態でホットプレスを施すことにより、燃料電池セル10を得た。なお、電極面積は、アノード(燃料極)13、カソード(空気極)16ともに12cmとした。
【0061】
続いて、この燃料電池セル10を、複数の開孔を有する金箔で挟み、アノード導電層18およびカソード導電層19を形成した。なお、電解質膜17とアノード導電層18との間、電解質膜17とカソード導電層19との間には、それぞれゴム製のOリング20を挟持してシールを施した。さらに、アノード導電層18と燃料供給機構40である燃料供給部本体42との間に、アノード導電層18側からポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなるフレーム、気液分離膜70および第2燃料用触媒層80の順に積層したものを挟持した。
【0062】
また、保湿層50として、厚さが500μmで、透気度が2秒/100cm(JIS P−8117に規定の測定方法による)で、透湿度が4000g/(m・24h)(JIS L−1099 A−1に規定の測定方法による)のポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。
【0063】
この保湿層50の上に、空気取り入れのための空気導入口61(直径3mm、口数60個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置して表面カバー60とした。
【0064】
また、ポンプ90としてしごきポンプを使用し、流路44の一部を一定方向にしごいて、圧力を生じさせて、燃料収容部41に収容された液体燃料Fを燃料供給部43に送液した。ここで、しごきポンプの回転数を、燃料電池1に流れる電流によって制御する制御回路を構成し、燃料電池1で電気化学反応を生じるのに必要な燃料供給量(電流1Aにつき、1分間当りのメタノールの供給量3.3mg)の1.2倍の燃料が常に供給されるように制御した。
【0065】
また、液体燃料Fとして、純メタノールに過酸化水素を添加し、過酸化水素のモル濃度が1mol%、10mol%、20mol%となる3種類の燃料を用意し、それぞれの液体燃料Fを上記した燃料電池の燃料収容部41に収容し、出力特性の測定を行った。なお、過酸化水素のモル濃度が1mol%の場合が実施例1、10mol%の場合が実施例2、20mol%の場合が実施例3である。
【0066】
出力特性の測定では、温度が25℃、相対湿度が50%の環境の下、発電開始から10分後および50時間後の出力を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1では、後述する比較例1における発電開始から10分後および50時間後の出力をそれぞれ100とし、その100に対する出力の割合、すなわち出力率で各測定結果を示している。
【0067】
【表1】

【0068】
また、実施例1においては、発電時間に対する出力の変化を測定した。図3には、実施例1における発電時間に対する出力の変化を示している。
【0069】
(実施例4〜実施例6)
実施例4〜実施例6で使用した燃料電池は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池と第2燃料用触媒層80の配置位置が異なる以外は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池の構成と同じとした。実施例4〜実施例6で使用した燃料電池では、第2燃料用触媒層80をアノード導電層18と気液分離膜70との間に配置した。
【0070】
上記した以外の構成や設定値については、実施例1で使用された燃料電池と同様とした。また、液体燃料Fとして、純メタノールに過酸化水素を添加し、過酸化水素のモル濃度が1mol%、10mol%、20mol%となる3種類の燃料を用意し、それぞれの液体燃料Fを燃料電池の燃料収容部41に収容し、出力特性の測定を行った。なお、過酸化水素のモル濃度が1mol%の場合が実施例4、10mol%の場合が実施例5、20mol%の場合が実施例6である。また、出力特性の測定方法および測定条件等は、実施例1におけるものと同じとした。測定結果を表1に示す。
【0071】
(実施例7〜実施例9)
実施例7〜実施例9で使用した燃料電池は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池と第2燃料用触媒層80の配置位置が異なる以外は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池の構成と同じとした。実施例7〜実施例9で使用した燃料電池では、第2燃料用触媒層80をアノード触媒層11とアノードガス拡散層12との間に配置した。
【0072】
上記した以外の構成や設定値については、実施例1で使用された燃料電池と同様とした。また、液体燃料Fとして、純メタノールに過酸化水素を添加し、過酸化水素のモル濃度が1mol%、10mol%、20mol%となる3種類の燃料を用意し、それぞれの液体燃料Fを燃料電池の燃料収容部41に収容し、出力特性の測定を行った。なお、過酸化水素のモル濃度が1mol%の場合が実施例7、10mol%の場合が実施例8、20mol%の場合が実施例9である。また、出力特性の測定方法および測定条件等は、実施例1におけるものと同じとした。測定結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
比較例1で使用した燃料電池は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池において第2燃料用触媒層80を設けない構成である以外は、実施例1〜実施例3で使用した燃料電池の構成と同じとした。すなわち、比較例1で使用した燃料電池では、第2燃料用触媒層80を備えない構成とした。
【0074】
上記した以外の構成や設定値については、実施例1で使用された燃料電池と同様とした。また、液体燃料Fとして、純メタノールを使用した。また、出力特性の測定方法および測定条件等は、実施例1におけるものと同じとした。測定結果を表1に示す。なお、上記したように、表1では、この比較例1における発電開始から10分後および50時間後の出力をそれぞれ100として示している。
【0075】
また、比較例1においては、発電時間に対する出力の変化を測定した。図3には、比較例1における発電時間に対する出力の変化を示している。
【0076】
(比較例2〜比較例4)
比較例2〜比較例4で使用した燃料電池は、比較例1で使用した燃料電池と同じ構成とした。また、液体燃料Fとして、純メタノールに過酸化水素を添加し、過酸化水素のモル濃度が1mol%、10mol%、20mol%となる3種類の燃料を用意し、それぞれの液体燃料Fを燃料電池の燃料収容部41に収容し、出力特性の測定を行った。なお、過酸化水素のモル濃度が1mol%の場合が比較例2、10mol%の場合が比較例3、20mol%の場合が比較例4である。また、出力特性の測定方法および測定条件等は、実施例1におけるものと同じとした。測定結果を表1に示す。
【0077】
(比較例5)
比較例5で使用した燃料電池は、実施例1で使用した燃料電池と同じ構成とした。また、液体燃料Fとして、純メタノールを使用した。また、出力特性の測定方法および測定条件等は、実施例1におけるものと同じとした。測定結果を表1に示す。
【0078】
(実施例1〜実施例9、比較例1〜比較例5のまとめ)
表1に示す、実施例1〜実施例3、比較例1における燃料電池の発電開始から10分後および50時間後の出力を比較すると、実施例1〜実施例3の方が両出力とも高かった。また、実施例1〜実施例3における燃料電池は、比較例1における燃料電池に比べて、特に、発電開始から10分後の出力が向上されることがわかった。また、このことは図1に示した測定結果からも明らかであり、実施例1における燃料電池は、比較例1における燃料電池に比べて、発電開始後の出力の立ち上がりが早く、その値も高いことがわかった。
【0079】
この発電開始後の出力の立ち上がりが向上した理由として、実施例1〜実施例3の燃料電池が、第2燃料用触媒層80を備え、燃料に過酸化水素を含有し、前述した式(3)の反応によって、水を生成し、熱を発生することで、液体燃料Fの気化が促進され、さらに式(5)に示すメタノールの内部改質反応に必要な水が供給されたためであると考えられる。
【0080】
また、実施例4〜実施例6における燃料電池においても、比較例1における燃料電池に比べて、発電開始から10分後および50時間後の出力が双方とも高いことがわかった。
【0081】
次に、実施例1〜実施例3、比較例2〜比較例3における燃料電池の発電開始から10分後および50時間後の出力を比較すると、実施例1〜実施例3の方が両出力とも高かった。比較例2〜比較例3における燃料電池では、燃料に過酸化水素を含有しているが、第2燃料用触媒層80を備えていないので、出力の向上が図れなかったものと考えられる。
【0082】
次に、実施例1および比較例5における燃料電池の発電開始から10分後および50時間後の出力を比較すると、実施例1の方が両出力とも高かった。比較例5における燃料電池では、第2燃料用触媒層80を備えているが、燃料に過酸化水素を含有していないので、出力の向上が図れなかったものと考えられる。
【0083】
なお、上記した実施例では、液体燃料Fとして純メタノールに過酸化水素を添加した一例について示したが、前述した第1燃料および第2燃料からなる他の液体燃料Fを用いた場合においても、第2燃料用触媒層80を備えた燃料電池においては、第2燃料用触媒層80を備えず、液体燃料Fに第2燃料を含まない燃料電池よりも出力の向上し、特に発電開始初期における出力が向上した。
【0084】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではない。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る一実施形態の燃料電池の構成を示す断面図。
【図2】本発明に係る一実施形態の燃料電池においてポンプを備えた場合の燃料電池1の構成を示す断面図。
【図3】実施例1および比較例1における発電時間に対する出力の変化を示す図。
【符号の説明】
【0086】
1…燃料電池、10…燃料電池セル、11…アノード触媒層、12…アノードガス拡散層、13…アノード(燃料極)、14…カソード触媒層、15…カソードガス拡散層、16…カソード(空気極)、17…電解質膜、18…アノード導電層、19…カソード導電層、20…Oリング、30…燃料分配層、31…開口部、40…燃料供給機構、41…燃料収容部、42…燃料供給部本体、43…燃料供給部、44…流路、50…保湿層、60…表面カバー、61…空気導入口、70…気液分離膜、80…第2燃料用触媒層、F…液体燃料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層およびアノードガス拡散層を備える燃料極と、
カソード触媒層およびカソードガス拡散層を備える空気極と、
前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜と、
前記燃料極側に配置され、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料を収容する燃料収容部と、
前記アノード触媒層と前記燃料収容部との間に配置され、主として前記第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層と
を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
アノード触媒層およびアノードガス拡散層を備える燃料極と、
カソード触媒層およびカソードガス拡散層を備える空気極と、
前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜と、
前記燃料極側に配置され、前記燃料極に燃料を供給する燃料供給部と、
前記燃料供給部に供給する、水素イオンと電子を生成する第1燃料および過酸化物を含有する第2燃料からなる燃料を収容する燃料収容部と、
前記アノード触媒層と前記燃料供給部との間に配置され、主として前記第2燃料の触媒として機能する第2燃料用触媒層と
を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
前記第2燃料用触媒層の前記燃料極側に、燃料の気化成分を前記燃料極側に通過させる気液分離膜が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第2燃料は、炭素原子、水素原子および金属原子のうちの少なくとも1種を有する過酸化物からなる群から選択された一つ以上の物質の溶液であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第2燃料における過酸化物の含有量は、前記過酸化物が下記化学式1で示され、Rが水素原子である場合には、0.1〜20mol%であり、Rが炭化水素からなる化合物である場合には、0.1〜33.3mol%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池。
R−O−O−R …(化学式1)
【請求項6】
前記第2燃料における過酸化物の含有量は、前記過酸化物が無機金属過酸化物である場合には、0.1〜50mol%であること特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第2燃料は、炭素原子および水素原子のうちの少なくとも一方を有する、過カルボン酸およびペルオキソ酸からなる群から選択された一つ以上の物質の溶液であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項8】
前記第2燃料における過カルボン酸およびペルオキソ酸の含有量は、0.1〜50mol%であることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
前記第1燃料は、炭化水素を含むアルコール、カルボン酸およびアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項10】
前記第1燃料は、メタノール、エタノール、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることを特徴とする請求項9記載の燃料電池。
【請求項11】
前記第1燃料の含有量は、0.1〜24.5Mであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項12】
前記第2燃料用触媒層における触媒は、少なくとも一元素以上の貴金属または該貴金属の合金であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項13】
前記第2燃料用触媒層における触媒は、炭素系担体または無機金属を含む担体に担持されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−146864(P2009−146864A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325984(P2007−325984)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】