燃料電池
【目的】高分子電解質燃料電池におけるカソード側の湿潤の具合をより均一にすることができ、より高負荷での運転が可能な燃料電池を提供する。
【構成】高分子電解質膜11が反応層12a、12bによって挟持され、反応層12a、12bがカソード側拡散層13とアノード側拡散層14とによって挟持され、さらにカソード側拡散層13及びアノード側拡散層14がセパレータ17、18で挟持されている。カソード側拡散層13は、拡散層基材13aの両面にマイクロポーラス層13b、13c、13dが形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層13c、13dは上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされている
【構成】高分子電解質膜11が反応層12a、12bによって挟持され、反応層12a、12bがカソード側拡散層13とアノード側拡散層14とによって挟持され、さらにカソード側拡散層13及びアノード側拡散層14がセパレータ17、18で挟持されている。カソード側拡散層13は、拡散層基材13aの両面にマイクロポーラス層13b、13c、13dが形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層13c、13dは上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされている
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、加湿器を有しない固体高分子型燃料電池システムに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質からなる膜が反応層で挟まれ、さらにその反応層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体を備えている。反応層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))等の高分子固体電解質が混合されている。そして、膜−電極接合体の両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されたスタックが形成されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では以下の電気化学反応が行われる。
アノード側:H2 → 2H++2e−
カソード側:1/2O2+2H++2e− → H2O
全反応 :H2+1/2O2 → H2O
すなわち、水素がアノード側のセパレータのガス流路に供給され、拡散層を通って反応層に供給される。そして、反応層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、オキソニウムイオンの形態で水を引き連れながら反応層および高分子固体電解質内を移動し、カソード側に達する。一方、カソード側に供給された酸素は、オキソニウムイオンと結合し、水が生成する。
【0004】
以上のように、固体高分子型燃料電池では、カソード側で水が発生し、さらには、アノード側からカソード側に向かって水が移動するため、カソード側の拡散層が水浸しの状態となるフラッディング現象が生じて、拡散層におけるガスの透過が困難となるおそれがある。
【0005】
その一方において、特に空冷式の固体高分子型燃料電池では、ストイキ比(すなわち、供給している水素ガスとの反応に必要な空気量に対する供給する空気量の比率)を大きくすることによって膜−電極接合体を冷却するため、カソード側に供給される空気によって持ち去られる水の量が増加し、膜−電極接合体が乾燥状態となりやすい。
【0006】
このため、カソード側の拡散層の両面に、拡散層よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層を形成し、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことが行なわれている(特許文献1及び特許文献2)
【特許文献1】特開平9−245800号公報
【特許文献2】特開平2005−174607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、高分子電解質燃料電池におけるカソード側の湿潤の具合は、場所によって異なるため、例えカソード側の拡散層の両面に、拡散層よりも緻密で撥水性を有する均一なマイクロポーラス層を形成したとしても、全ての場所を適切な湿潤状態にすることが困難であった。なぜならば、同じカソード側であっても、ガス流路の上流側は湿度の低い酸化ガスが流れるため乾燥しやすく、下流側はカソード側に存在する水分を含んで湿度の高い状態の酸化ガスとなっているため、上流側と比べて水分が蒸発し難く、湿潤状態となりやすいからである。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高分子電解質燃料電池におけるカソード側の湿潤の具合をより均一にすることができ、より高負荷での運転が可能な燃料電池及び燃料電池システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面の燃料電池は、固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池において、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層の拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されているため、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことができる。
また、ガス流路側のマイクロポーラス層は乾燥状態となりやすい上流側よりも、湿潤状態となりやすい下流側のほうがよりガス透過しやすくされているため、湿潤状態をより均質化することができる。このため、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が過乾燥状態となったり、下流側が過湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。
【0011】
拡散層基材の表面に、場所によって異なったガス透過能を有するマイクロポーラス層を形成する方法としては、例えばカーボンの細孔径を場所によって変えたり、カーボンや撥水剤の含有量を変えたりすること等が挙げられる。
【0012】
本発明の第2の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層基材の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層には一次粒子間に生じる隙間によって細孔径が制御されたカーボンと撥水性樹脂とが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされていることとした。
【0013】
カーボンは、その製造方法により、一次粒子間に生じる隙間が異なり、これによって細孔径を制御することができる。そして、カーボンの細孔径を変えることによって、容易にガス透過能を制御することができる。また、水が連通する細孔を通過する場合に必要とされる水圧ΔPは、次式(1)で示されることが知られている。
【数1】
一方、反応ガスは極めて小さな径の通路であっても水よりも容易に通過することができる。本発明の第2の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層にはカーボンが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされている。このため、上流側のマイクロポーラス層は水が透過し難くなり、反応層及び固体高分子電解質層の乾燥を防ぐことができる。また、下流側のマイクロポーラス層は、ガスも液体も通しやすくなるため、酸化ガスによる水の持ち去り量が増えるため、湿潤過多となりやすい下流側拡散層が水浸しの状態になることを防ぐことができる。
【0014】
細孔径の選択については、カソード側に流す空気のストイキ比、燃料電池の運転温度、空気の湿度等の条件によって最適な細孔径は変化するため、それらを考慮して適宜選択すればよいが、通常、空冷式の燃料電池で運転する場合には、ストイキ比10〜200おいて、上流側の細孔径を0.005〜0.03μm、下流側の細孔径を0.05〜0.3μmとすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の第2の局面の燃料電池では、マイクロポーラス層に撥水性樹脂が添加されているため、マイクロポーラス層の水濡性が低下し、ガス透過性を妨げることなく、水の透過を防止することができる。このため、反応層への酸素ガスの供給を妨げることなく、膜−電極接合体の乾燥を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る燃料電池を具体化した実施形態について説明する。
(実施形態)
実施形態の燃料電池は、図1に示す燃料電池単層セル10が複数個積層されて構成されている。この燃料電池単層セル10は、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜11が白金触媒を含有する反応層12a、12bによって両側から挟持され、反応層12a、12bの外側からカソード側拡散層13と、アノード側拡散層14とによって挟持され、さらにカソード側拡散層13及びアノード側拡散層14の外側からガス流路15、16を形成するセパレータ17、18で挟持されている。
【0017】
カソード側拡散層13は、ガス拡散が可能なカーボン製の織物やカーボン製の紙等からなる拡散層基材13aの反応層12a側に、カーボン粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層13bが形成されている。また、拡散層基材13aのガス流路15側の上流側表面には、細孔径が小さいカーボンを含有する小細孔径マイクロポーラス層13cが形成されており、ガス流路15側の下流側表面には、細孔径が大きいカーボンを含有する大細孔径マイクロポーラス層13dが形成されている。カーボン粒子は通常、細かい粒子が凝集して2次粒子を形成しており、この2次粒子には外部と連通する細孔(すなわち、カーボン粒子問に生じる隙間)が存在しており、この連通する細孔の径が小さいほど、マイクロポーラス層を水が通過しにくくなる。このため、マイクロポーラス層の原料に用いたカーボンの細孔径は、マイクロポーラス層の細孔径とほぼ一致する。したがって、カーボン粒子問に生じる隙間で細孔径をすれば、マイクロポーラス層の細孔径を制御することができる。
【0018】
また、アノード側拡散層14は拡散層基材14aの両側に、カーボン粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層14b、14cが形成されている。
【0019】
拡散層基材13a、14aとしては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン繊維からなる不織布等を用いることができる。また、マイクロポーラス層12b、12cとしては、撥水性樹脂粉末と、カーボン粉末とを混合して用いることができる。撥水性樹脂粉末として具体的には、フルオロカーボン系ポリマー(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等)とが挙げられる。また、カーボン粉末としては、例えばカーボンブラック、黒鉛粉、カーボンナノファイバー、ファーネスブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0020】
以上のように構成された実施形態1の燃料電池単層セル10では、カソード側の拡散層13における拡散層基材13aの両面に、拡散層基材13aよりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層13b、13c、13dが形成されているため、撥水性によって拡散層基材13a内が水浸しになるのを防ぐとともに、反応層12bから拡散層13側への水の移動が阻止され、高分子電解質膜11の乾燥を防ぐことができる。
【0021】
さらには、カソード側の拡散層13における拡散層基材13aのマイクロポーラス層13c、13dは、乾燥しやすい上流側に細孔径が小さいカーボンを含有する小細孔径マイクロポーラス層13cが形成されており、湿潤状態となりやすいガス流路15側の下流側には、細孔径が大きいカーボンを含有する大細孔径マイクロポーラス層13dが形成されている。このため、湿潤状態をより均質化することができ、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が乾燥状態となったり、下流側が過剰な湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。
【0022】
以下実施形態をさらに具体的に記載した、実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
<マイクロポーラス層の調製>
ポリテトラフルオロエチレンの微粉末をカーボンブラック粉末(一次粒子径16nm)に対して35重量部%となるように混合し、溶着によって自立した小細孔径マイクロポーラス層を調製した。
同様の方法で、一次粒子径が35nmのカーボンブラックを用いて自立した大細孔径マイクロポーラス層を調製した。
【0023】
こうして得られた、小細孔径マイクロポーラス層及び大細孔径マイクロポーラス層の細孔分布をポロシメータで測定した結果を図2に示す。この図から、小細孔径マイクロポーラス層は細孔径が0.015μmに中心ピークが存在し、大細孔径マイクロポーラス層では0.15μmに中心ピークが存在することが分かった。
【0024】
<反応層付拡散膜の調整>
所定の大きさの矩形に裁断された平織りのカーボンクロスを用意し、一面側に小細孔径マイクロポーラス層を重ね、さらに他面側の半分に小細孔径マイクロポーラス層を重ね、残りの半分に大細孔径マイクロポーラス層を重ねる。そして、345°Cで熱圧着させて一体化する。
【0025】
次に、市販の白金担持カーボン(白金含有量60wt%)1gに、ナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)2g〜200gを加え、ハイブリッドミキサーで撹拌し、触媒ペーストとし、上記の方法によって一体化した膜の表面にPt担持量が0.01〜2mg/cm2となるように印刷して、乾燥して反応層付の拡散層を得た。
なお、拡散層の上に印刷して反応層を形成する替わりに、ポリテトラフルオロエチレン製のシート上に上記触媒ペーストで印刷し、乾燥後、剥離させて自立した反応層膜を作製し、これを拡散層と熱圧着させて反応層を形成してもよい。
【0026】
以上のようにして作製したカソード側反応層付拡散層と、反応層側のみ小細孔径マイクロポーラス層を圧着させたアノード側反応層付拡散層とを用意し、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜の両側から反応層で挟み、ホットプレスによって圧着した。さらに、その外側に酸素及び水素のガス供給路を形成して燃料電池単層セルを作製した。
【0027】
(比較例1)
実施例2では、アノード側反応層付拡散層作製において、大細孔径マイクロポーラス層は用いず、拡散層の両面ともすべて小細孔径マイクロポーラス層を接合させた。その他は実施例1の燃料電池単層セルと同様であり、説明を省略する。
【0028】
<評価>
こうして作製した実施例及び比較例1の燃料電池単層セルについて、
アノード側セパレータのガス流路に、乾燥した水素ガスを0.1MPa導入するとともに、カソード側のセパレータのガス流路に、供給空気のストイキ比が所定の値となるように制御装置で制御しながら供給し、電流とセル電圧との関係を測定した。なお、セル温度は温度調節器で50°Cに調節した。
【0029】
その結果、図3〜図6に示すように、ストイキ比が大きくなるにつれて、実施例の燃料電池単層セルは比較例よりも、より高い電流まで高いセル電圧が維持されていることが分かり、高負荷における発電が可能であることが分かった。この理由は、次のように説明される。
【0030】
すなわち、ストイキ比が10未満の場合には、カソード側反応層への空気の供給量が少ないため、反応層内に大きな圧力は生じない。そのため、マイクロポーラス層の細孔径サイズによらず、フラッディング現象が生じてセル電圧が大きく低下する。
これに対して、ストイキ比が10以上になると、カソード側反応層への空気供給量が増え、反応層内の圧力が高くなる。この場合、比較例の燃料電池単体セルでは、カソード側拡散層に接合されたガス流路側のマイクロポーラス層の細孔径が0.015μmと小さいため、圧力が高くなっても水が排出され難く、フラッディング現象が総じてセル電圧が低下する。一方、実施例の燃料電池単体セルでは、ガス流路側のマイクロポーラス層の細孔径は0.15μmと大きいため、圧力が高くなると下流側から水が排出されやすいため、フラッディング現象を緩和できる。
【0031】
上記電流−セル電圧の測定において、同時に空気の入り口と出口における湿度を測定し、図3〜図6の結果から電流と電極内水分量との関係を計算により求めた。その結果、図7〜図10に示すように、ストイキ比が大きくなるにつれて、実施例の燃料電池単層セルの方が、比較例よりも水分量が少ないことが分かった。この結果からも、実施例の燃料電池単層セルのカソード側では、水が排出されやすく、電流が大きくなってもフラッディング現象が生じ難いことが分かる。
【0032】
<燃料電池システム>
上述したように、本発明の燃料電池は、ストイキ比を高めてもカソード側で乾燥状態やフラッディングを生じ難いことから、カソード側に空気を流して燃料電池を冷却するという、空冷式の燃料電池システムに好適に利用することができる。
このような空冷式の燃料電池システムとしては、次のシステムが考えられる。すなわち、
(1)固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池と、該燃料電池のアノード極側のガス流路に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手投と、該燃料電池のカソード極側のガス流路に酸化ガス及び冷媒ガスとしての空気を供給する空気供給手段と、空気供給量を制御して該燃料電池の温度を制御する制御手段とを備えた燃料電池システムにおいて、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされており、前記制御手段は、供給空気のストイキ比を10から200の範囲となるように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0033】
上記実施例からも明らかなように、この燃料電池システムでは特に10以上という高いストイキ比において、高負荷において高電圧という特性を奏することができる。ただしストイキ比が200を超えると、乾燥によって膜電極接合体が乾燥して電圧低下のおそれを生ずる。空気供給手段としては、シロッコファン、ターボファン等の各種の送風機を用いることができる。さらには、空冷式固体高分子型燃料電池において、メタノール改質器がなくても駆動可能とすることができる。
【0034】
このような燃料電池システムの実施例を図11に示す。この燃料電池システムは空冷式であり、燃料電池スタック40と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック40に供給するための水素ガス供給系50と、酸化ガスとしての空気を燃料電池スタック40に供給するための空気供給系60と、空気供給系60に設けられた送風機61を制御するための制御装置70とを備えている。
【0035】
燃料電池スタック40は、上述の実施例の燃料電池用単層セルを積層した構成とされており、図示しない空気流路の上流側に空気を燃料電池スタック40の空気流路内に導入するための空気マニホールド41が設けられており、空気流路の下流側には空気を排気するための空気ダクト42が設けられている。空気ダクト42には排気の温度を測定するための温度センサ43が設けられており、温度センサ43は制御装置70に接続されており、温度センサ43からの温度に関する信号を受けて、送風機61を制御可能とされている。
【0036】
また、空気供給系60には外気を取り入れるための送風機61が設けられており、供給管62を介して空気マニホールド41に接続されている。送風機61は全圧30kPaの能力を有している。なお、空気供給系30に加湿器は備えられていない。
【0037】
水素供給系50には、水素源となる水素ボンベ51が調整弁52〜57を介して水素ポンプ58に接続されており、水素ポンプ58からさらに燃料電池スタック40の図示しない水素ガス流路へ接続されている。
【0038】
以上のように構成された燃料電池システムを駆動させる場合、水素供給系50の調整弁52〜57を調整して所定の圧力とし、水素ポンプ58へ供給し、さらに水素ポンプ58を駆動することにより、燃料電池スタック40の水素ガス流路に水素ガスを所定の流量となるように供給する。
また、空気供給系60の送風機61を駆動して、空気を空気マニホールド41から燃料電池スタック40の空気流路に供給する。これにより、燃料電池スタック40内で水素ガスの電気化学的酸化反応及び酸素の電気化学的還元反応が行われ、電流が負荷80に流れる。
空気流路の供給された過剰空気は空気ダクト42から排気されるが、その排気された空気の温度を温度センサ43が感知し、制御装置70に温度に関する信号を伝える。さらに制御装置70では、温度センサ43が感知した温度と設定温度とを比較し、感知温度が設定温度よりも高い場合には送風機61の出力を上げてさらに多くの空気を送り、燃料電池スタック40を空冷する。また、感知温度が設定温度よりも低い場合には送風機61の出力を下げて、空気の流量を下げる。これにより、燃料電池スタック40の温度が上昇する。こうして、制御装置70によって、ストイキ比の調整を行うことができる。
【0039】
実施例の燃料電池システムでは、カソード側の拡散層の拡散層基材の両面に、拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されているため、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことができる。また、ガス流路側のマイクロポーラス層は乾燥状態となりやすい上流側よりも、湿潤状態となりやすい下流側のほうがよりガス透過しやすくされているため、湿潤状態をより均質化することができる。このため、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が過乾燥状態となったり、下流側が過湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。このため、大きなストイキ比で駆動される空冷式燃料電池であるにもかかわらず、燃料電池システムの出力の低下が防止される。
【0040】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態の燃料電池用単層セルの模式断面図である。
【図2】実施例で調製したマイクロポーラス層の細孔分布の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比2における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図4】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比3における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図5】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比5における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図6】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比10における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図7】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比2における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図8】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比3における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図9】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比5における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図10】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比10における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図11】燃料電池システムの系統図である。
【符号の説明】
【0042】
11…固体高分子電解質膜
12a、12b…反応層
13、14…拡散層
13a、14a…拡散層基材
13b、13c、13d、14b、14c…マイクロポーラス層
13b、13c、14b、14c…小細孔径マイクロポーラス層
13d…大細孔径マイクロポーラス層
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、加湿器を有しない固体高分子型燃料電池システムに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質からなる膜が反応層で挟まれ、さらにその反応層の外側を集電及びガス拡散の役割を果たす拡散層で挟まれた膜−電極接合体を備えている。反応層は、白金等の触媒を担持してなるカーボン粒子と、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupont社製))等の高分子固体電解質が混合されている。そして、膜−電極接合体の両面は、空気や水素のガス流路を備えたセパレータで挟持されて単位セルが構成され、さらにこの単位セルが複数積層されたスタックが形成されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池では以下の電気化学反応が行われる。
アノード側:H2 → 2H++2e−
カソード側:1/2O2+2H++2e− → H2O
全反応 :H2+1/2O2 → H2O
すなわち、水素がアノード側のセパレータのガス流路に供給され、拡散層を通って反応層に供給される。そして、反応層での電気化学反応によって水素が酸化されてプロトンと電子とが生成する。こうして生成したプロトンは、オキソニウムイオンの形態で水を引き連れながら反応層および高分子固体電解質内を移動し、カソード側に達する。一方、カソード側に供給された酸素は、オキソニウムイオンと結合し、水が生成する。
【0004】
以上のように、固体高分子型燃料電池では、カソード側で水が発生し、さらには、アノード側からカソード側に向かって水が移動するため、カソード側の拡散層が水浸しの状態となるフラッディング現象が生じて、拡散層におけるガスの透過が困難となるおそれがある。
【0005】
その一方において、特に空冷式の固体高分子型燃料電池では、ストイキ比(すなわち、供給している水素ガスとの反応に必要な空気量に対する供給する空気量の比率)を大きくすることによって膜−電極接合体を冷却するため、カソード側に供給される空気によって持ち去られる水の量が増加し、膜−電極接合体が乾燥状態となりやすい。
【0006】
このため、カソード側の拡散層の両面に、拡散層よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層を形成し、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことが行なわれている(特許文献1及び特許文献2)
【特許文献1】特開平9−245800号公報
【特許文献2】特開平2005−174607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、高分子電解質燃料電池におけるカソード側の湿潤の具合は、場所によって異なるため、例えカソード側の拡散層の両面に、拡散層よりも緻密で撥水性を有する均一なマイクロポーラス層を形成したとしても、全ての場所を適切な湿潤状態にすることが困難であった。なぜならば、同じカソード側であっても、ガス流路の上流側は湿度の低い酸化ガスが流れるため乾燥しやすく、下流側はカソード側に存在する水分を含んで湿度の高い状態の酸化ガスとなっているため、上流側と比べて水分が蒸発し難く、湿潤状態となりやすいからである。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高分子電解質燃料電池におけるカソード側の湿潤の具合をより均一にすることができ、より高負荷での運転が可能な燃料電池及び燃料電池システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面の燃料電池は、固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池において、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層の拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されているため、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことができる。
また、ガス流路側のマイクロポーラス層は乾燥状態となりやすい上流側よりも、湿潤状態となりやすい下流側のほうがよりガス透過しやすくされているため、湿潤状態をより均質化することができる。このため、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が過乾燥状態となったり、下流側が過湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。
【0011】
拡散層基材の表面に、場所によって異なったガス透過能を有するマイクロポーラス層を形成する方法としては、例えばカーボンの細孔径を場所によって変えたり、カーボンや撥水剤の含有量を変えたりすること等が挙げられる。
【0012】
本発明の第2の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層基材の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層には一次粒子間に生じる隙間によって細孔径が制御されたカーボンと撥水性樹脂とが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされていることとした。
【0013】
カーボンは、その製造方法により、一次粒子間に生じる隙間が異なり、これによって細孔径を制御することができる。そして、カーボンの細孔径を変えることによって、容易にガス透過能を制御することができる。また、水が連通する細孔を通過する場合に必要とされる水圧ΔPは、次式(1)で示されることが知られている。
【数1】
一方、反応ガスは極めて小さな径の通路であっても水よりも容易に通過することができる。本発明の第2の局面の燃料電池では、カソード側の拡散層の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層にはカーボンが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされている。このため、上流側のマイクロポーラス層は水が透過し難くなり、反応層及び固体高分子電解質層の乾燥を防ぐことができる。また、下流側のマイクロポーラス層は、ガスも液体も通しやすくなるため、酸化ガスによる水の持ち去り量が増えるため、湿潤過多となりやすい下流側拡散層が水浸しの状態になることを防ぐことができる。
【0014】
細孔径の選択については、カソード側に流す空気のストイキ比、燃料電池の運転温度、空気の湿度等の条件によって最適な細孔径は変化するため、それらを考慮して適宜選択すればよいが、通常、空冷式の燃料電池で運転する場合には、ストイキ比10〜200おいて、上流側の細孔径を0.005〜0.03μm、下流側の細孔径を0.05〜0.3μmとすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の第2の局面の燃料電池では、マイクロポーラス層に撥水性樹脂が添加されているため、マイクロポーラス層の水濡性が低下し、ガス透過性を妨げることなく、水の透過を防止することができる。このため、反応層への酸素ガスの供給を妨げることなく、膜−電極接合体の乾燥を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る燃料電池を具体化した実施形態について説明する。
(実施形態)
実施形態の燃料電池は、図1に示す燃料電池単層セル10が複数個積層されて構成されている。この燃料電池単層セル10は、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜11が白金触媒を含有する反応層12a、12bによって両側から挟持され、反応層12a、12bの外側からカソード側拡散層13と、アノード側拡散層14とによって挟持され、さらにカソード側拡散層13及びアノード側拡散層14の外側からガス流路15、16を形成するセパレータ17、18で挟持されている。
【0017】
カソード側拡散層13は、ガス拡散が可能なカーボン製の織物やカーボン製の紙等からなる拡散層基材13aの反応層12a側に、カーボン粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層13bが形成されている。また、拡散層基材13aのガス流路15側の上流側表面には、細孔径が小さいカーボンを含有する小細孔径マイクロポーラス層13cが形成されており、ガス流路15側の下流側表面には、細孔径が大きいカーボンを含有する大細孔径マイクロポーラス層13dが形成されている。カーボン粒子は通常、細かい粒子が凝集して2次粒子を形成しており、この2次粒子には外部と連通する細孔(すなわち、カーボン粒子問に生じる隙間)が存在しており、この連通する細孔の径が小さいほど、マイクロポーラス層を水が通過しにくくなる。このため、マイクロポーラス層の原料に用いたカーボンの細孔径は、マイクロポーラス層の細孔径とほぼ一致する。したがって、カーボン粒子問に生じる隙間で細孔径をすれば、マイクロポーラス層の細孔径を制御することができる。
【0018】
また、アノード側拡散層14は拡散層基材14aの両側に、カーボン粉末と撥水性樹脂とを含む多孔性のマイクロポーラス層14b、14cが形成されている。
【0019】
拡散層基材13a、14aとしては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン繊維からなる不織布等を用いることができる。また、マイクロポーラス層12b、12cとしては、撥水性樹脂粉末と、カーボン粉末とを混合して用いることができる。撥水性樹脂粉末として具体的には、フルオロカーボン系ポリマー(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等)とが挙げられる。また、カーボン粉末としては、例えばカーボンブラック、黒鉛粉、カーボンナノファイバー、ファーネスブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0020】
以上のように構成された実施形態1の燃料電池単層セル10では、カソード側の拡散層13における拡散層基材13aの両面に、拡散層基材13aよりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層13b、13c、13dが形成されているため、撥水性によって拡散層基材13a内が水浸しになるのを防ぐとともに、反応層12bから拡散層13側への水の移動が阻止され、高分子電解質膜11の乾燥を防ぐことができる。
【0021】
さらには、カソード側の拡散層13における拡散層基材13aのマイクロポーラス層13c、13dは、乾燥しやすい上流側に細孔径が小さいカーボンを含有する小細孔径マイクロポーラス層13cが形成されており、湿潤状態となりやすいガス流路15側の下流側には、細孔径が大きいカーボンを含有する大細孔径マイクロポーラス層13dが形成されている。このため、湿潤状態をより均質化することができ、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が乾燥状態となったり、下流側が過剰な湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。
【0022】
以下実施形態をさらに具体的に記載した、実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
<マイクロポーラス層の調製>
ポリテトラフルオロエチレンの微粉末をカーボンブラック粉末(一次粒子径16nm)に対して35重量部%となるように混合し、溶着によって自立した小細孔径マイクロポーラス層を調製した。
同様の方法で、一次粒子径が35nmのカーボンブラックを用いて自立した大細孔径マイクロポーラス層を調製した。
【0023】
こうして得られた、小細孔径マイクロポーラス層及び大細孔径マイクロポーラス層の細孔分布をポロシメータで測定した結果を図2に示す。この図から、小細孔径マイクロポーラス層は細孔径が0.015μmに中心ピークが存在し、大細孔径マイクロポーラス層では0.15μmに中心ピークが存在することが分かった。
【0024】
<反応層付拡散膜の調整>
所定の大きさの矩形に裁断された平織りのカーボンクロスを用意し、一面側に小細孔径マイクロポーラス層を重ね、さらに他面側の半分に小細孔径マイクロポーラス層を重ね、残りの半分に大細孔径マイクロポーラス層を重ねる。そして、345°Cで熱圧着させて一体化する。
【0025】
次に、市販の白金担持カーボン(白金含有量60wt%)1gに、ナフィオン(登録商標)溶液(5wt%水/イソプロパノール溶液)2g〜200gを加え、ハイブリッドミキサーで撹拌し、触媒ペーストとし、上記の方法によって一体化した膜の表面にPt担持量が0.01〜2mg/cm2となるように印刷して、乾燥して反応層付の拡散層を得た。
なお、拡散層の上に印刷して反応層を形成する替わりに、ポリテトラフルオロエチレン製のシート上に上記触媒ペーストで印刷し、乾燥後、剥離させて自立した反応層膜を作製し、これを拡散層と熱圧着させて反応層を形成してもよい。
【0026】
以上のようにして作製したカソード側反応層付拡散層と、反応層側のみ小細孔径マイクロポーラス層を圧着させたアノード側反応層付拡散層とを用意し、ナフィオン(登録商標)からなる高分子電解質膜の両側から反応層で挟み、ホットプレスによって圧着した。さらに、その外側に酸素及び水素のガス供給路を形成して燃料電池単層セルを作製した。
【0027】
(比較例1)
実施例2では、アノード側反応層付拡散層作製において、大細孔径マイクロポーラス層は用いず、拡散層の両面ともすべて小細孔径マイクロポーラス層を接合させた。その他は実施例1の燃料電池単層セルと同様であり、説明を省略する。
【0028】
<評価>
こうして作製した実施例及び比較例1の燃料電池単層セルについて、
アノード側セパレータのガス流路に、乾燥した水素ガスを0.1MPa導入するとともに、カソード側のセパレータのガス流路に、供給空気のストイキ比が所定の値となるように制御装置で制御しながら供給し、電流とセル電圧との関係を測定した。なお、セル温度は温度調節器で50°Cに調節した。
【0029】
その結果、図3〜図6に示すように、ストイキ比が大きくなるにつれて、実施例の燃料電池単層セルは比較例よりも、より高い電流まで高いセル電圧が維持されていることが分かり、高負荷における発電が可能であることが分かった。この理由は、次のように説明される。
【0030】
すなわち、ストイキ比が10未満の場合には、カソード側反応層への空気の供給量が少ないため、反応層内に大きな圧力は生じない。そのため、マイクロポーラス層の細孔径サイズによらず、フラッディング現象が生じてセル電圧が大きく低下する。
これに対して、ストイキ比が10以上になると、カソード側反応層への空気供給量が増え、反応層内の圧力が高くなる。この場合、比較例の燃料電池単体セルでは、カソード側拡散層に接合されたガス流路側のマイクロポーラス層の細孔径が0.015μmと小さいため、圧力が高くなっても水が排出され難く、フラッディング現象が総じてセル電圧が低下する。一方、実施例の燃料電池単体セルでは、ガス流路側のマイクロポーラス層の細孔径は0.15μmと大きいため、圧力が高くなると下流側から水が排出されやすいため、フラッディング現象を緩和できる。
【0031】
上記電流−セル電圧の測定において、同時に空気の入り口と出口における湿度を測定し、図3〜図6の結果から電流と電極内水分量との関係を計算により求めた。その結果、図7〜図10に示すように、ストイキ比が大きくなるにつれて、実施例の燃料電池単層セルの方が、比較例よりも水分量が少ないことが分かった。この結果からも、実施例の燃料電池単層セルのカソード側では、水が排出されやすく、電流が大きくなってもフラッディング現象が生じ難いことが分かる。
【0032】
<燃料電池システム>
上述したように、本発明の燃料電池は、ストイキ比を高めてもカソード側で乾燥状態やフラッディングを生じ難いことから、カソード側に空気を流して燃料電池を冷却するという、空冷式の燃料電池システムに好適に利用することができる。
このような空冷式の燃料電池システムとしては、次のシステムが考えられる。すなわち、
(1)固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池と、該燃料電池のアノード極側のガス流路に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手投と、該燃料電池のカソード極側のガス流路に酸化ガス及び冷媒ガスとしての空気を供給する空気供給手段と、空気供給量を制御して該燃料電池の温度を制御する制御手段とを備えた燃料電池システムにおいて、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされており、前記制御手段は、供給空気のストイキ比を10から200の範囲となるように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0033】
上記実施例からも明らかなように、この燃料電池システムでは特に10以上という高いストイキ比において、高負荷において高電圧という特性を奏することができる。ただしストイキ比が200を超えると、乾燥によって膜電極接合体が乾燥して電圧低下のおそれを生ずる。空気供給手段としては、シロッコファン、ターボファン等の各種の送風機を用いることができる。さらには、空冷式固体高分子型燃料電池において、メタノール改質器がなくても駆動可能とすることができる。
【0034】
このような燃料電池システムの実施例を図11に示す。この燃料電池システムは空冷式であり、燃料電池スタック40と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック40に供給するための水素ガス供給系50と、酸化ガスとしての空気を燃料電池スタック40に供給するための空気供給系60と、空気供給系60に設けられた送風機61を制御するための制御装置70とを備えている。
【0035】
燃料電池スタック40は、上述の実施例の燃料電池用単層セルを積層した構成とされており、図示しない空気流路の上流側に空気を燃料電池スタック40の空気流路内に導入するための空気マニホールド41が設けられており、空気流路の下流側には空気を排気するための空気ダクト42が設けられている。空気ダクト42には排気の温度を測定するための温度センサ43が設けられており、温度センサ43は制御装置70に接続されており、温度センサ43からの温度に関する信号を受けて、送風機61を制御可能とされている。
【0036】
また、空気供給系60には外気を取り入れるための送風機61が設けられており、供給管62を介して空気マニホールド41に接続されている。送風機61は全圧30kPaの能力を有している。なお、空気供給系30に加湿器は備えられていない。
【0037】
水素供給系50には、水素源となる水素ボンベ51が調整弁52〜57を介して水素ポンプ58に接続されており、水素ポンプ58からさらに燃料電池スタック40の図示しない水素ガス流路へ接続されている。
【0038】
以上のように構成された燃料電池システムを駆動させる場合、水素供給系50の調整弁52〜57を調整して所定の圧力とし、水素ポンプ58へ供給し、さらに水素ポンプ58を駆動することにより、燃料電池スタック40の水素ガス流路に水素ガスを所定の流量となるように供給する。
また、空気供給系60の送風機61を駆動して、空気を空気マニホールド41から燃料電池スタック40の空気流路に供給する。これにより、燃料電池スタック40内で水素ガスの電気化学的酸化反応及び酸素の電気化学的還元反応が行われ、電流が負荷80に流れる。
空気流路の供給された過剰空気は空気ダクト42から排気されるが、その排気された空気の温度を温度センサ43が感知し、制御装置70に温度に関する信号を伝える。さらに制御装置70では、温度センサ43が感知した温度と設定温度とを比較し、感知温度が設定温度よりも高い場合には送風機61の出力を上げてさらに多くの空気を送り、燃料電池スタック40を空冷する。また、感知温度が設定温度よりも低い場合には送風機61の出力を下げて、空気の流量を下げる。これにより、燃料電池スタック40の温度が上昇する。こうして、制御装置70によって、ストイキ比の調整を行うことができる。
【0039】
実施例の燃料電池システムでは、カソード側の拡散層の拡散層基材の両面に、拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されているため、マイクロポーラス層の撥水性によって拡散層内が水浸しになるのを防ぐとともに、高分子電解質膜の乾燥を防ぐことができる。また、ガス流路側のマイクロポーラス層は乾燥状態となりやすい上流側よりも、湿潤状態となりやすい下流側のほうがよりガス透過しやすくされているため、湿潤状態をより均質化することができる。このため、高負荷運転において酸化ガスの流量を増やしても、上流側が過乾燥状態となったり、下流側が過湿潤状態となったりし難くなる。このため、より高負荷での運転が可能となる。このため、大きなストイキ比で駆動される空冷式燃料電池であるにもかかわらず、燃料電池システムの出力の低下が防止される。
【0040】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態の燃料電池用単層セルの模式断面図である。
【図2】実施例で調製したマイクロポーラス層の細孔分布の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比2における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図4】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比3における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図5】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比5における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図6】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比10における電流とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図7】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比2における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図8】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比3における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図9】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比5における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図10】実施例の燃料電池単層セルのストイキ比10における電流と電極内水分量の関係を示すグラフである。
【図11】燃料電池システムの系統図である。
【符号の説明】
【0042】
11…固体高分子電解質膜
12a、12b…反応層
13、14…拡散層
13a、14a…拡散層基材
13b、13c、13d、14b、14c…マイクロポーラス層
13b、13c、14b、14c…小細孔径マイクロポーラス層
13d…大細孔径マイクロポーラス層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池において、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
カソード側の拡散層基材の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層には一次粒子間に生じる隙間によって細孔径が制御されたカーボンと撥水性樹脂とが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項1】
固体高分子電解質膜が触媒を含有する反応層によって両側から挟持され、該反応層の外側からガス透過可能な拡散層で挟持され、さらに該拡散層の外側からガス流路を形成するセパレータで挟持された燃料電池において、
カソード側の拡散層は、拡散層基材の両面に該拡散層基材よりも緻密で撥水性を有するマイクロポーラス層が形成されており、ガス流路側のマイクロポーラス層は上流側よりも下流側のほうがよりガス透過しやすくされていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
カソード側の拡散層基材の表面に形成されているガス流路側のマイクロポーラス層には一次粒子間に生じる隙間によって細孔径が制御されたカーボンと撥水性樹脂とが含有されており、下流側のカーボンの細孔径は上流側のカーボンの細孔径よりも大きくされていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−238376(P2009−238376A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78913(P2008−78913)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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