説明

燃料電池

【課題】出力を向上することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 アノードとカソードとの間に電解質膜を挟持した構成の膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持するとともにベース絶縁層上にアノードに電流を流すアノード集電部及びカソードに電流を流すカソード集電部を有する集電体と、アノードとアノード集電部との間及びカソードとカソード集電部との間の少なくとも一方に配置され導電性を有するとともに、JIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が60以下の導電層と、を備えたことを特徴とする燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体燃料を用いた燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を充電なしで長時間使用可能とするために、これらの携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。このような燃料電池は、燃料と空気(特に酸素)を供給するだけで発電することができ、燃料を補給することにより連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池は、小型化により携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムとなりえる。
【0003】
特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。
【0004】
例えば、特許文献1によれば、燃料電池に適用される配線回路基板として、ベース絶縁層上に設けられた導体層の表面を、炭素を含有した樹脂組成物からなる被覆層によって被覆する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2によれば、燃料電池に適用される配線回路基板として、ベース絶縁層上に設けられた導体層とこの導体層を覆うように形成された金属層との界面をカバー絶縁層によって覆う技術が開示されている。
【0006】
いずれの配線回路基板も、導体層は一対の集電部を備えており、これらの一対の集電部の間には、燃料極、空気極、及び、電解質膜からなる電極膜(膜電極接合体)が配置されている。
【0007】
膜電極接合体と集電部との間の電気的な接続は、通常、導電性物質同士の平面的な接触によって行なわれる。この電気的な接触を確保するためには、集電部が膜電極接合体に対して一定以上の圧力で押さえられている必要がある。
【0008】
ところが、膜電極接合体において発電反応を行なうと、膜電極接合体の温度が上昇するために、燃料電池を構成する部材が熱膨張したり、或いは発電反応によって二酸化炭素(CO)等のガスが発生するために燃料電池内の圧力が高まったりすることにより、膜電極接合体を押さえる圧力が減少し、膜電極接合体と集電部との間の接触抵抗が増加するおそれがある。この接触抵抗が増加すると、オーム損のために燃料電池から得られる電力が減少することになる。
【0009】
このような問題を解決するために、燃料電池を構成する部材の厚さや強度を増加し、部材の熱膨張やガス圧力の増加を生じても部材の変形を生じにくくすることにより、膜電極接合体を押さえる圧力の減少を最小限にすることも提案されているが、燃料電池全体の重量や体積が増加することとなり、燃料電池を携帯機器の電源として用いるためには必ずしも好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−300238号公報
【特許文献2】特開2008−270420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の目的は、出力を向上することが可能な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の一態様によれば、
アノードとカソードとの間に電解質膜を挟持した構成の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟持するとともに、ベース絶縁層上に、前記アノードに電流を流すアノード集電部及び前記カソードに電流を流すカソード集電部を有する集電体と、
前記アノードと前記アノード集電部との間、及び、前記カソードと前記カソード集電部との間の少なくとも一方に配置され、導電性を有するとともに、JIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が60以下の導電層と、
を備えたことを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、出力を向上することが可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態に係る燃料電池のカソード側の外観を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した燃料電池を第1方向に沿って切断した断面構造を概略的に示す図である。
【図3】図3は、図1に示した燃料電池を第2方向に沿って切断した断面構造を概略的に示す図である。
【図4】図4は、図1に示した燃料電池に適用可能な集電体の構成を概略的に示す平面図である。
【図5】図5は、カソード、カソード集電部、及び、導電層を概略的に示す分解斜視図である。
【図6】図6は、膜電極接合体、導電層、及び、集電体が互いに密着した状態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施の形態に係る燃料電池について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、この実施の形態に係る燃料電池(DMFC)1のカソード側の外観を示す平面図である。
【0017】
この燃料電池1は、略矩形平板状に形成されている。図1に示す平面図では、燃料電池1は、長方形状であり、第1方向Xに沿って延びた一対の長辺L1及び長辺L2と、第1方向Xに直交する第2方向Yに沿って延びた一対の短辺S1及び短辺S2と、を有している。
【0018】
また、燃料電池1のカソード側の表面には、カバープレート21が配置されている。カバープレート21は、外観が略矩形状であり、例えばステンレス鋼(SUS)によって形成されている。このカバープレート21には、主として酸化剤である空気、特に酸素の取り込みを可能とする複数の開口部21Aが形成されている。
【0019】
図2は、図1に示した燃料電池1を第1方向Xに沿って切断した断面を示す図であり、図3は、図1に示した燃料電池1を第2方向Yに沿って切断した断面を示す図である。
【0020】
燃料電池1は、起電部を構成する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)2、及び、膜電極接合体2に燃料を供給する燃料供給機構3を備えている。
【0021】
すなわち、膜電極接合体2は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とが積層されたアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とが積層されたカソード(空気極あるいは酸化剤極)16と、アノード13のアノード触媒層11とカソード16のカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17と、を備えて構成されている。
【0022】
この実施の形態においては、図3に示すように、膜電極接合体2は、単一の電解質膜17における一方の面17Aの上に間隔をおいて配置された複数のアノード13と、電解質膜17における他方の面17Bの上に間隔をおいて配置された複数のカソード16とを有している。
【0023】
アノード13とカソード16とのそれぞれは、電解質膜17を挟んで互いに対向している。これらのアノード13とカソード16との各組み合わせは、単セルを構成している。ここでは、単セルのそれぞれは、同一平面上において、第1方向Xに沿って延在し、第2方向Yに間隔をおいて並んで配置されている。なお、膜電極接合体2の構造は、この例に限らず他の構造であっても良い。
【0024】
ここに示した例では、膜電極接合体2は、単一の電解質膜17の一方の面17Aの上に配置された4個のアノード131〜134と、電解質膜17の他方の面17Bに配置された4個のカソード161〜164と、を有している。アノード131とカソード161とが対向するように配置されており、1組の単セルを構成している。同様に、アノード132とカソード162とが対向するように配置され、アノード133とカソード163とが対向するように配置され、アノード134とカソード164とが対向するように配置されており、4組の単セルが同一平面上に配列されている。
【0025】
膜電極接合体2は、集電体18によって挟持されている。各単セルは、集電体18によって電気的に直列に接続されている。集電体18は、ベース絶縁層BF、膜電極接合体2のアノード13の側に配置された複数のアノード集電部A、及び、膜電極接合体2のカソード16の側に配置された複数のカソード集電部Cを有している。アノード集電部Aとカソード集電部Cは、同数である。ここに示した例では、集電体18は、4つのアノード集電部A1〜A4、及び、4つのカソード集電部C1〜C4を有している。
【0026】
これらのアノード集電部A及びカソード集電部Cは、例えば、金、銅、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などをそれぞれ使用して形成可能であり、さらには、金属材料などからなる導体層を被覆層によって被覆しても良い。被覆層は、導電性を有するとともに導体層の腐食を抑制する材料、例えば炭素を含有した樹脂組成物などによって形成可能である。なお、ベース絶縁層BFは、例えばポリイミド(PI)によって形成されている。
【0027】
膜電極接合体2が集電体18によって挟持されている状態では、アノード集電部A1は、アノード131のアノードガス拡散層12と対向している。同様に、アノード集電部A2はアノード132のアノードガス拡散層12に対向し、アノード集電部A3はアノード133のアノードガス拡散層12に対向し、アノード集電部A4はアノード134のアノードガス拡散層12に対向している。
【0028】
また、カソード集電部C1は、カソード161のカソードガス拡散層15に対向している。同様に、カソード集電部C2はカソード162のカソードガス拡散層15に対向し、カソード集電部C3はカソード163のカソードガス拡散層15に対向し、カソード集電部C4はカソード164のカソードガス拡散層15に対向している。
【0029】
アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間のうちの少なくとも一方には、柔軟性を有するとともに導電性を有する導電層40が配置されている。ここに示した例では、導電層40は、アノード集電部A1〜A4とアノード131〜134のそれぞれのアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部C1〜C4とカソード161〜164のそれぞれのカソードガス拡散層15との間に配置されている。
【0030】
アノード13の側に配置された導電層40は、アノード集電部A及びアノードガス拡散層12に密着し、両者を電気的に接続している。このような導電層40は、アノード集電部Aまたはアノードガス拡散層12に貼り付けられていることが望ましい。また、カソード16の側に配置された導電層40は、カソード集電部C及びカソードガス拡散層15に密着し、両者を電気的に接続している。このような導電層40は、カソード集電部Cまたはカソードガス拡散層15に貼り付けられていることが望ましい。
【0031】
この導電層40としては、燃料電池1に適用される液体燃料や水、酸素、反応生成物等によって溶解や腐食、酸化等を生じることがない安定性を有し、体積抵抗率が低く、且つJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が60以下の物質で構成されることが望ましい。具体的には、導電層40としては、グラファイト(黒鉛)等の炭素質の材料が使用でき、特に、粉砕した黒鉛をシート状に圧延したグラファイトシート等が適している。また、導電層40の他の例としては、導電性ゴムなども使用可能である。
【0032】
膜電極接合体2は、電解質膜17と集電体18との間のアノード13の側及びカソード16の側にそれぞれ配置されたゴム製のOリング等のシール部材19によってシールされている。これにより、膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0033】
なお、膜電極接合体2において、電解質膜17のうち、アノード触媒層11とカソード触媒層14にともに接しておらず、且つシール部材19の内側に相当する位置に、1個乃至複数個のガス排出孔(図示せず)を設けても良い。このようなガス排出孔は、電解質膜17の一方の面17Aから他方の面17Bまで貫通し、アノード13の側とカソード16の側とを連通している。
【0034】
膜電極接合体2のカソード16の側において、集電体18とカバープレート21との間には、通気性を有する絶縁材料によって形成された板状体20が配置されている。この板状体20は、主に保湿層として機能する。すなわち、この板状体20は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カバープレート21の開口部21Aから取り込んだ空気のカソード触媒層14への取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。このような板状体20は、例えば、ポリエチレン製多孔質フィルム等からなる平板で構成可能である。
【0035】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13の側に配置されている。つまり、膜電極接合体2は、アノード13の側に配置された燃料供給機構3とカソード16の側に配置されたカバープレート21との間に配置されている。カバープレート21は、燃料供給機構3との間に膜電極接合体2を保持した状態で、燃料供給機構3に対してカシメ、ネジ止め、リベット継手などの手法により固定されている。
【0036】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13に対して燃料を供給するように構成されているが、特に、特定の構成に限定されるものではない。このような燃料供給機構3は、液体燃料Fを収容する燃料収容部4と流路5を介して接続されている。
【0037】
以下に、燃料供給機構3の一例について説明する。
【0038】
燃料供給機構3は、箱状に形成された容器30、及び、膜電極接合体2のアノード13の面方向に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料供給部31を備えている。容器30は、燃料導入口30Aを有しており、この燃料導入口30Aと流路5とが接続されている。燃料供給部31は、例えば、1つの燃料注入口32と、複数の燃料排出口33とを有する平板で構成されている。燃料注入口32と燃料排出口33とは、細管あるいは溝のような燃料通路34を介して接続されている。燃料注入口32は、燃料導入口30Aと直接接続されているが、他の燃料通路を介して接続されていても良い。燃料排出口33は、膜電極接合体2のアノード13に対向している。
【0039】
このような燃料供給部31は、容器30の底部35とアノードガス拡散層12との間に配置されている。この燃料供給部31は、液体燃料Fの気化成分や液体燃料Fを透過させない材料で形成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で形成される。また、燃料供給部31は、例えば、液体燃料Fの気化成分と液体燃料Fとを分離し、その気化成分を膜電極接合体2の側へ透過させる気液分離膜で構成されてもよい。気液分離膜には、例えば、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などが適用可能である。
【0040】
流路5は、配管などで構成されているが、燃料供給部31や燃料収容部4と独立した配管に限られるものではない。例えば、流路5は、燃料供給部31や燃料収容部4を積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料Fの燃料流路であってもよい。すなわち、燃料供給部31は、種々の形態の燃料流路等を介して燃料収容部4と連通されていればよい。
【0041】
燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。なお、液体燃料Fは、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料Fは、例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料Fであってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料Fが収容される。
【0042】
燃料収容部4に収容された液体燃料Fは、重力を利用して流路5を介して燃料供給部31で落下させて送液することができる。また、流路5に多孔体等を充填して、毛細管現象により燃料収容部4に収容された液体燃料Fを燃料供給部31まで送液してもよい。
【0043】
さらに、燃料供給機構3と燃料収容部4とを繋げる流路5、あるいは、燃料導入口30Aと燃料注入口32との間の燃料通路にポンプ6を介在させて、燃料収容部4に収容された液体燃料Fを燃料供給部31まで強制的に送液してもよい。ポンプ6は、燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。燃料供給部31から膜電極接合体2に供給された燃料は、発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部4に戻されることはない。ポンプ6の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能なものが好ましい。
【0044】
この実施の形態の燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ6を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。図1に示す燃料電池1は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0045】
また、燃料供給機構3において、ポンプ6と直列に燃料遮断バルブを配置してもよい。また、燃料収容部4や流路5には、燃料収容部4内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着してもよい。
【0046】
上述した燃料電池1においては、燃料収容部4から流路5を介して燃料供給部31に導入された液体燃料Fは、液体燃料Fのまま、もしくは液体燃料Fと液体燃料Fが気化した気化成分とが混在する状態で、燃料供給部31の燃料排出口33から集電体18のアノード集電部Aを介して膜電極接合体2のアノード13に供給される。
【0047】
アノード13に供給された燃料は、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料Fとしてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる、あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0048】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は、集電体18を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体18を経由してカソード16に導かれる。(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には、酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0049】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
上述した燃料電池1の発電反応において、発電する電力を増大させるためには触媒反応を円滑に行わせるとともに、膜電極接合体2の電極全体に均一に燃料を供給し、電極全体をより有効に発電に寄与させることが重要となる。
【0050】
図4は、集電体18の形状を説明するための平面図である。
【0051】
集電体18のベース絶縁層BFは、膜電極接合体2の外形寸法の概ね2倍の面積を有しており、膜電極接合体2における単セルの並び方向(つまり第2方向Y)とは直交する第1方向Xに延出している。このような集電体18は、図中の位置(折り曲げ線)Bに沿って2つに折り曲げられ、膜電極接合体2を挟持する。
【0052】
アノード集電部A及びカソード集電部Cは、ベース絶縁層BFの同一面に形成されている。アノード集電部Aは、膜電極接合体2のアノード13と同数であり、4個のアノード集電部A1乃至A4からなる。また、カソード集電部Cは、膜電極接合体2のカソード16と同数であり、4個のカソード集電部C1乃至C4からなる。
【0053】
アノード集電部A1乃至A4は、それぞれ第1方向Xに沿って延出し、第2方向Yに所定の間隔をおいて平行に配置されている。これらのアノード集電部A1乃至A4の第2方向Yに沿った間隔は、膜電極接合体2におけるアノード131乃至134の第2方向Yに沿った間隔と略同等である。
【0054】
カソード集電部C1乃至C4は、それぞれ第1方向Xに沿って延出し、第2方向Yに所定の間隔をおいて平行に配置されている。これらのカソード集電部C1乃至C4の第2方向Yに沿った間隔は、膜電極接合体2におけるカソード161乃至164の第2方向Yに沿った間隔と略同等である。
【0055】
このようなアノード集電部A及びカソード集電部Cは、それぞれ複数の貫通孔Hを有している。なお、これらの貫通孔Hは、ベース絶縁層BFも貫通している。アノード集電部Aでは、貫通孔Hを介して燃料供給機構3から供給された燃料をアノード触媒層11に供給することが可能となる。また、カソード集電部Cでは、貫通孔Hを介してカソード触媒層14に酸素を供給するが可能となるとともに外部に二酸化炭素や過剰な水蒸気などの気体を排出することが可能となる。
【0056】
集電体18には、アノード端子TA及びカソード端子TCが接続されている。アノード端子TAは、アノード集電部A1に接続されている。カソード端子TCは、カソード集電部C4に接続されている。これらのアノード端子TA及びカソード端子TCは、それぞれ集電した電子を外部に取り出す出力端子として機能する。
【0057】
アノード端子TA及びカソード端子TCに接続されていないアノード集電部A及びカソード集電部Cは、それぞれ接続体Jによって電気的に接続されている。図4に示した例では、アノード集電部A2及びカソード集電部C1は、接続体J1によって接続されている。同様に、アノード集電部A3及びカソード集電部C2は、接続体J2によって接続され、アノード集電部A4及びカソード集電部C3は、接続体J3によって接続されている。
【0058】
図5は、カソード16、導電層40、及び、カソード集電部Cを概略的に示す分解斜視図である。
【0059】
カソード16とカソード集電部Cとの間に配置される導電層40は、カソード集電部Cと略同一形状であり、カソード集電部Cに形成された貫通孔Hと同等の開口部40Hを有している。これにより、たとえ導電層40が通気性の低い材料によって形成された場合であっても、カソード集電部Cを介して供給された酸素のカソード触媒層14への供給が可能となるとともに膜電極接合体2から外部への気体の排出が可能となる。図5では、カソード側について説明したが、アノード側についても同様であり、導電層40はアノード集電部Aと略同一形状であり、貫通孔を有している。
【0060】
図6は、膜電極接合体2、導電層40、及び、集電体18が互いに密着した状態を概略的に示す断面図である。
【0061】
膜電極接合体2において、アノード13は、電解質膜17の上に配置されたアノード触媒層11及びアノード触媒層11の上に配置されたアノードガス拡散層12を備えている。また、カソード16は、電解質膜17の上に配置されたカソード触媒層14及びカソード触媒層14の上に配置されたカソードガス拡散層15を備えている。
【0062】
集電体18において、アノード集電部Aは、ベース絶縁層BFの上に配置された導体層51及び導体層51の全体を被覆する被覆層52を備えている。このようなアノード集電部A及びベース絶縁層BFには、貫通孔Hが形成されている。また、カソード集電部Cもアノード集電部Aと同様に、ベース絶縁層BFの上に配置された導体層51及び導体層51の全体を被覆する被覆層52を備えている。被覆層52は、導電性を有する材料によって形成されている。このようなカソード集電部C及びベース絶縁層BFには、貫通孔Hが形成されている。アノード集電部A及びカソード集電部Cは、ともに同一材料によって形成されている。
【0063】
アノード集電部Aの被覆層52とアノードガス拡散層12との間には、導電層40が配置されている。この導電層40には、アノード集電部Aに形成された貫通孔Hと連通する開口部40Hが形成されている。このような導電層40は、被覆層52及びアノードガス拡散層12の双方に密着している。
【0064】
同様に、カソード集電部Cの被覆層52とカソードガス拡散層15との間には、導電層40が配置されている。この導電層40には、カソード集電部Cに形成された貫通孔Hと連通する開口部40Hが形成されている。このような導電層40は、被覆層52及びカソードガス拡散層15の双方に密着している。
【0065】
導電層40は、膜電極接合体2及び集電体18の変形に追従するのに十分な柔軟性を有しており、集電体18のアノード集電部A及びカソード集電部Cや、膜電極接合体2のアノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15より柔軟性が高い(つまり、JIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が低い)。
【0066】
このような構成によれば、膜電極接合体2における発電反応にともなった温度上昇に起因して燃料電池1を構成する部材が熱膨張したり、発電反応にともなって発生したガスにより燃料電池1の内部の圧力が高まったりしても、膜電極接合体2と集電体18との間に両者の変形に追従する柔軟性を有する導電層40が介在しているため、膜電極接合体2と集電体18との間の接触抵抗の増加が抑制できる。したがって、燃料電池1の出力を向上することが可能となる。また、発電時間の経過に伴った出力の低下が抑制され、安定して高い出力を維持することが可能となる。
【0067】
導電層40の厚さについては、厚いほど膜電極接合体2及び集電体18の変形に追従しやすくなるが、装置全体の薄型化や軽量化が阻害され、また、カソード側については発電反応に伴って生成した水蒸気が結露しやすくなる。したがって、導電層40の厚さとしては、20μm〜500μmの範囲が望ましい。
【0068】
(実施例)
アノード用触媒粒子(Pt:Ru=1:1)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、アノード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層12としての多孔質カーボンペーパ(81mm×9.7mmの長方形)に塗布することにより、厚さが100μmのアノード触媒層11を得た。
【0069】
カソード用触媒粒子(Pt)を担持したカーボンブラックに、プロトン伝導性樹脂としてパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と、分散媒として水およびメトキシプロパノールを添加し、カソード用触媒粒子を担持したカーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをカソードガス拡散層15としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより、厚さが100μmのカソード触媒層14を得た。
【0070】
なお、アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、同一形状かつ同一の大きさであり、厚さも等しく、それぞれのガス拡散層に塗布されたアノード触媒層11及びカソード触媒層14も同一形状かつ同一の大きさである。
【0071】
上記したように作製したアノード触媒層11とカソード触媒層14との間に、電解質膜17として厚さが30μmで、含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(商品名:nafion膜、デュポン社製)を、4つのアノードガス拡散層12および4つのカソードガス拡散層15が、それぞれの長手方向が略平行で、その間隔が1.2mmとなるように並んで配置されるように配置し、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向するように位置を合わせた状態で、ホットプレスを施すことにより、膜電極接合体2を得た。
【0072】
ポリイミドによって形成されたベース絶縁層BFの同一面上には、4つのアノード集電部A及び4つのカソード集電部Cを形成した。アノード集電部A及びカソード集電部Cのそれぞれは、厚さが0.01mmであって、外形が90mm×10mm(または12mm)の長方形であり、導体層51である銅箔に、被覆層52として炭素を含有する樹脂組成物で被覆することによって形成されている。カソード集電部Cの各々には、一辺の長さが3.5mmの正方形の30個の貫通孔Hがカバープレート21の開口部21Aと同じ位置に形成されている。アノード集電部Aの各々には、燃料供給部31の燃料排出口33に対応した位置に貫通孔Hが形成されている。これにより、集電体18を得た。
【0073】
なお、アノード集電部A及びカソード集電部CのそれぞれのJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度は120であった。
【0074】
このJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度の測定方法は、以下の通りである。
【0075】
すなわち、燃料電池を分解し、集電体18を取り出す、そして、その集電体18についてJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)試験を行う。
【0076】
膜電極接合体2は、集電体18によって挟持され、アノードガス拡散層12とアノード集電部Aとが対向するとともに、カソードガス拡散層15とカソード集電部Cとが対向している。
【0077】
本実施例においては、アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間には、導電層40として、厚さが50μmのグラファイトシート(グラフテック社製;型番SS400−0.05)が介在している。この導電層40のJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度は57であった。導電層40は、開口部40Hを有し、アノード集電部A及びカソード集電部Cと同一形状かつ同一の大きさに形成されている。
【0078】
膜電極接合体2の電解質膜17と集電体18との間には、アノード側及びカソード側の双方について、シール部材19として、それぞれ幅が2mmのゴム製のOリングを挟持してシールを施した。また、板状体20として、厚さが0.75mmであり、透気度が3.0秒/100cm(JIS P 8117:2009に規定の測定方法による)であり、透湿度が3000g/(m・24h)(JIS L 1099:2006 A−1に規定の測定方法による)のポリエチレン製多孔質フィルムを、長さ85mm、幅46.6mmの長方形に切り、集電体18とカバープレート21との間に積層した。外気からカソード16に供給される空気は、この板状体20を透過することとなる。カバープレート21は、外形が90mm×48mmの長方形であり、厚さが0.3mmのステンレス板(SUS304)を適用した。このカバープレート21には、一辺の長さが3.5mmの正方形の120個の開口部21Aが形成されている。
【0079】
温度が25℃、相対湿度が50%の環境の下、上記したように作成した燃料電池1に、純度99.9重量%の純メタノールを供給した。また、定電圧電源を接続して、燃料電池1の出力電圧が直列に接続した4対の単セルの中の1対あたり0.35Vで一定になるように、燃料電池1に流れる電流を制御し、このとき、燃料電池1から得られる出力密度を計測した。
【0080】
ここで、燃料電池1の出力密度(mW/cm)とは、燃料電池1に流れる電流密度(発電部の面積1cm当りの電流値(mA/cm))に燃料電池1の出力電圧を乗じたものである。また、発電部の面積とは、アノード触媒層11とカソード触媒層14とが対向している部分の面積である。本実施例では、アノード触媒層11とカソード触媒層14の面積が等しく、かつ完全に対向しているので、発電部の面積はこれらの触媒層の面積(81mm×9.7mm)に等しい。
【0081】
また、この燃料電池1の発電を24時間行った後のインピーダンスの値を測定した。インピーダンスの測定には、燃料電池1の発電を中断して定電圧電源との接続を外し、代わりにACミリオーム計(日置電機製のACミリオームハイテスタ、型番3560)を接続して、周波数1kHzでの交流抵抗を測定した。
【0082】
(比較例1)
この比較例1は、アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間に、導電層を設けない以外は、実施例と同様である。この比較例1においても、実施例と同様に出力密度及びインピーダンスを測定した。
【0083】
(比較例2)
この比較例2は、アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間に配置した導電層40のJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が80である以外は、実施例と同様である。この比較例2においても、実施例と同様に出力密度及びインピーダンスを測定した。
【0084】
実施例、比較例1、及び、比較例2における出力密度及びインピーダンスの測定結果について、比較例1の値を100とした場合の相対値で示すと以下の通りとなる。実施例における出力密度は113であり、実施例におけるインピーダンスは70であった。この測定結果から、アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間には導電層40を配置することが望ましいことが確認された。
【0085】
一方、比較例2における出力密度は103であり、比較例2におけるインピーダンスは90であった。この測定結果から、アノード集電部Aとアノードガス拡散層12との間、及び、カソード集電部Cとカソードガス拡散層15との間に配置される導電層40のJIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度は、60以下とすることが望ましいことが確認された。
【0086】
以上説明したように、この実施の形態によれば、出力を向上することを可能にした燃料電池を提供できる。
【0087】
上述した実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、燃料を面方向に分散させつつ供給する燃料供給部31は、特に燃料濃度が濃い場合に有効である。このため、実施形態の燃料電池1は、濃度が80wt%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。したがって、実施形態は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液や純メタノールを液体燃料として用いた燃料電池1に好適である。
【0088】
さらに、上述した実施形態は、本発明をセミパッシブ型の燃料電池1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、内部気化型の純パッシブ型の燃料電池に対しても適用可能である。
【0089】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、膜電極接合体に供給される燃料の全てが液体燃料Fの蒸気、全てが液体燃料F、または一部が液体状態で供給される液体燃料Fの蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除したりする等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
1…燃料電池
2…膜電極接合体
3…燃料供給機構
13…アノード 16…カソード 17…電解質膜
18…集電体 A…アノード集電部 C…カソード集電部
21…カバープレート
40…導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードとの間に電解質膜を挟持した構成の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟持するとともに、ベース絶縁層上に、前記アノードに電流を流すアノード集電部及び前記カソードに電流を流すカソード集電部を有する集電体と、
前記アノードと前記アノード集電部との間、及び、前記カソードと前記カソード集電部との間の少なくとも一方に配置され、導電性を有するとともに、JIS K 6253:2006で規定されるデューロメータ硬さ試験(タイプAデューロメータ)で得られた硬度が60以下の導電層と、
を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記導電層は、炭素質の材料を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記導電層は、グラファイトシートであることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記アノード集電部及び前記カソード集電部のそれぞれは、前記ベース絶縁層の同一面に形成された導体層と、前記導体層を被覆する導電性の被覆層と、を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記被覆層は、炭素を含有した樹脂組成物であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−277900(P2010−277900A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130401(P2009−130401)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】