説明

燃料電池

【課題】燃料電池のガス供給用流路の下流端部に水が滞留することを抑制する。
【解決手段】発明の燃料電池は、電解質膜の両面にそれぞれ触媒電極層とガス拡散層とガス流路形成部と、を備える。少なくとも一方のガス流路形成部には、ガス拡散層に接する側に、ガス拡散層の面に沿って、その下流端が閉塞されたガス供給用流路およびその上流端が閉塞されたガス排出用流路が閉塞部を挟んで交互に配列された分離構造のガス流路が形成されている。この燃料電池はガス供給用流路の下流端部の温度を、下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接する排出流路部分の温度よりも高温とする温度差発生構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子電解質型の燃料電池に関し、特に、反応ガスの流路が供給用と排出用とに分離された構造を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスとしての水素と酸化ガスとしての酸素(O)との電気化学反応によって発電する装置である。なお、以下では、燃料ガスや酸化ガスを、特に区別することなく単に「反応ガス」あるいは「ガス」と呼ぶ場合もある。この燃料電池は、プロトン(H)伝導性を有する固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ)の両面に、それぞれ触媒電極層を接合し、さらに、それぞれガス拡散層を配置した膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)を有しており、ガス拡散層に当接する面に反応ガスの流路としての溝が形成されたセパレータにより挟持した燃料電池セル(単に「セル」とも呼ぶ)により構成される。なお、このセパレータは発電した電気の集電体としても機能する。
【0003】
上記燃料電池の一例として、セパレータに形成された反応ガスの流路をガス供給用流路とガス排出用流路とに分離し、ガス供給用流路を経て供給される反応ガスが上記したガス拡散層や触媒電極層を介してガス排出用流路から排出される構造の燃料電池が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−079457号公報
【特許文献2】特開2006−127770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ガス供給用流路とガス排出用流路とが分離された構造のガス流路では、ガス供給用流路の下流端部が閉塞状態となるため、電気化学反応によって生成された水が排水されずに下流端部(閉塞部)に滞留してしまい、燃料電池セルにフラッディングが発生しやすいという問題がある。なお、通常、電気化学反応により、水が生成されるのはカソード側であるため、カソード側のガス流路が上記分離構造であれば、閉塞部に水が滞留し易くなる。また、カソード側で生成された水は電解質膜を介してアノード側にも移動するため、アノード側のガス流路が、上記分離構造である場合にも、閉塞部に水が滞留し易くなる。
【0006】
そこで、本発明は、ガス供給用流路の下流端部(閉塞部)に水が滞留することを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
電解質膜の両面にそれぞれ触媒電極層とガス拡散層とガス流路形成部と、を備える燃料電池であって、
少なくとも一方の前記ガス流路形成部には、前記ガス拡散層に接する側に、前記ガス拡散層の面に沿って、その下流端が閉塞されたガス供給用流路およびその上流端が閉塞されたガス排出用流路が閉塞部を挟んで交互に配列された分離構造のガス流路が形成されており、
前記燃料電池は前記ガス供給用流路の下流端部の温度を、前記下流端部より上流の前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度よりも高温とする温度差発生構造を有することを特徴とする燃料電池。
この燃料電池によれば、温度差発生構造を有することにより、ガス流路全体での圧力損失の増加を抑制しつつ、ガス供給用流路の下流端部分に隣接するガス排出用流路部分のガスの圧力に対するガス供給用流路の下流端部分のガスの差圧のみを拡大し、ガス供給用流路の下流端部分に滞留する水が、ガス拡散層および触媒電極層を介してガス排出用流路側に押し出されるようになる。これにより、ガス供給用流路の下流端部に溜まった水を排出することが可能となる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス供給用流路の下流端部の温度を前記下流端部より上流の前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度よりも高温にする高温化構造を含むことを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、高温化構造により、ガス流路全体での圧力損失の増加を抑制しつつ、ガス供給用流路の下流端部分のガス体積のみを膨張させて、ガス供給用流路の下流端部分に隣接するガス排出用流路部分のガスとの間での差圧のみを拡大させて、ガス供給用流路の下流端部分に滞留する水を、ガス拡散層および触媒電極層を介してガス排出用流路側に押し出すことができる。これにより、ガス供給用流路の下流端部に溜まった水を排出することが可能となる。
【0010】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記触媒電極層のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の触媒の量を他の領域よりも多くすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス供給用流路の下流端部分における電気化学反応が他の部分に比べて活発に起こって反応熱が多く発生することになるので、ガス供給用流路の下流端部の温度を下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接する排出流路部分の温度よりも高温とすることができる。
【0011】
[適用例4]
適用例2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス流路形成部の外側の前記ガス供給用流路の下流端部に対応する位置に加熱用ヒーターを備えることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス供給用流路の下流端部の温度を下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接する排出流路部分の温度よりも高温とすることができる。
【0012】
[適用例5]
適用例2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス流路形成部のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗が他の部分に対応する領域の電気抵抗よりも大きくすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス流路形成部のうち、ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗により発生する熱損失を、他の部分に対応する領域の電気抵抗により発生する熱損失に比べて大きくすることができるので、ガス供給用流路の下流端部分の温度を下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接する排出流路部分の温度よりも高温とすることができる。
【0013】
[適用例6]
適用例2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス拡散層のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗が他の部分に対応する領域の電気抵抗よりも大きくすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス拡散層のうち、ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗により発生する熱損失を、他の部分に対応する領域の電気抵抗より発生する熱損失に比べて大きくすることができるので、ガス供給用流路の下流端部の温度を下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接する排出流路部分の温度よりも高温とすることができる。
【0014】
[適用例7]
適用例1または適用例2記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス供給用流路の下流端部の温度が前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度より低温にならないようにする低温化抑制構造を含むことを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、低温化抑制構造により、ガス流路全体での圧力損失の増加を抑制しつつ、ガス供給用流路の下流端部に隣接するガス排出用流路部分のガスの体積を小さくすることにより、ガス供給用流路の下流端部のガス体積を大きくして、ガス供給用流路の下流端部分に隣接するガス排出用流路部分のガスに対するガス供給用流路の下流端部のガスの差圧のみを拡大させて、ガス供給用流路の下流端部に滞留する水を、ガス拡散層および触媒電極層を介してガス排出用流路側に押し出すことができる。これにより、ガス供給用流路の下流端部に溜まった水を排出することが可能となる。
【0015】
[適用例8]
適用例7記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の前記ガス流路が形成される側とは反対側に冷媒流路が形成される冷媒流路形成部を備えており、
前記低温化抑制構造は、冷媒が前記ガス供給用流路の上流側から下流端部分へ順に流れるように形成されている前記冷媒流路により構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス供給用流路の下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接するガス排出用流路部分の温度をガス供給用流路の下流端部よりも低温にすることが可能である。
【0016】
[適用例9]
適用例7記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の前記ガス流路が形成される側とは反対側に冷媒流路が形成される冷媒流路形成部を備えており、
前記低温化抑制構造は、冷媒が前記ガス供給用流路の下流端部には流れないように形成されている前記冷媒流路により構成されることを特徴とする燃料電池。
【0017】
[適用例10]
適用例7記載の燃料電池であって、
前記低温化抑制構造は、前記ガス供給用流路の下流端部に設けられた断熱材により構成されることを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス供給用流路の下流端部からの放熱を抑制することができるので、ガス供給用流路の下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接するガス排出用流路部分の温度をガス供給用流路の下流端部分よりも低温にすることが可能である。
【0018】
[適用例11]
適用例1ないし適用例10のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、カーボンと樹脂を含む部材で構成されており、
前記温度差発生構造は、前記ガス流路形成部において、前記ガス供給用流路の下流端部の樹脂比率を他の部分に比べて樹高くした構造を含むことを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス供給用流路の下流端部の熱伝導率が低くなるため、ガス供給用流路の下流端部の温度が下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接するガス排出用流路部分の温度よりもより高温となり易くすることが可能である。
【0019】
[適用例12]
適用例1ないし適用例10記載のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス流路形成部または前記ガス拡散層において、前記ガス供給用流路の下流端部分を覆うように中空部を形成する構造を含むことを特徴とする燃料電池。
このようにすれば、ガス流路形成部またはガス拡散層に設けられた中空部が放熱を遮断するように働くので、ガス供給用流路の下流端部の温度が下流端部より上流のガス供給用流路部分およびガス供給用流路の下流端部に隣接するガス排出用流路部分の温度よりもより高温となり易くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した燃料電池を構成する燃料電池セルの概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態の基本概念について示す説明図である。
【図3】第1の手法の第1実施例を示すアノード側の触媒電極層14Aをアノード側のセパレータ20Aの側から見た概略構造図である。
【図4】第1の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Aのガス流路30とは反対側を見た概略構造図である。
【図5】第1の手法の第3実施例を示すアノード側のガス拡散層16Aをアノード側のセパレータ20Aの側から見た概略構造図である。
【図6】第1の手法の第4実施例を示すアノード側のセパレータ20Aを外側から見た概略構造図である。
【図7】第2の手法の第1実施例を示すアノード側のセパレータ20Aの外側に設けられた冷媒流路形成部60Aの概略構造図である。
【図8】第2の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Aの外側に設けられた冷媒流路形成部60Aaの概略構造図である。
【図9】第2の手法の第3実施例を示すアノード側のセパレータ20Aaのガス流路30側を見た概略構造図である。
【図10】第3の手法の第1実施例を示すアノード側のセパレータ20Abのガス流路30側の一部を示す概略構成図である。
【図11】第3の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Acのガス流路30側の一部を示す概略構成図である。
【図12】第3の手法の第3実施例を示すアノード側のガス拡散層16Acの一部を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.燃料電池の構成概要:
図1は、本発明を適用した燃料電池を構成する燃料電池セルの概略構成を表わす断面模式図である。この燃料電池セル100は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を両面から挟持するアノード側のセパレータ20Aおよびカソード側のセパレータ20Cと、を備えている。膜電極接合体10は、電解質層12と、電解質層12のそれぞれの面上に形成されるアノード側の触媒電極層14Aおよびカソード側の触媒電極層14Cと、上記各触媒電極層に隣接して設けられたアノード側のガス拡散層16Aおよびカソード側のガス拡散層16Cと、で構成されている。なお、触媒電極層およびガス拡散層を纏めてガス拡散電極あるいはガス拡散電極層とも呼ぶ。
【0022】
電解質層12は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。この電解質層12としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)が利用される。
【0023】
アノード側の触媒電極層14Aおよびカソード側の触媒電極層14Cは、電気化学反応を促進する触媒金属と、プロトン伝導性を有する電解質と、電子伝導性を有するカーボン粒子と、を備える。触媒金属としては、例えば、白金(Pt)、あるいはPtと他の金属とから成る合金(例えばコバルトやニッケルを混合したPt合金)を用いることができる。また、電解質としては、電解質層12と同様に、スルホン酸基を介して水和プロトンを伝導するフッ素系樹脂、例えば、ナフィオン溶液を用いている。上記触媒金属はカーボン粒子上に担持されており、各触媒電極層では、触媒金属を担持したカーボン粒子(触媒粒子)と電解質とが混在している。触媒金属を担持するためのカーボン粒子(以下、「担持用カーボン粒子」と呼ぶ。)は、一般に市販されているカーボン粒子(カーボン粉末)を加熱処理することにより自身の撥水性が高められた撥水化カーボン粒子が用いられる。
【0024】
ガス拡散層16A,16Cは、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、あるいは、金属メッシュや発泡金属などの金属多孔質体によって構成することができる。
【0025】
セパレータ20A,20Cは、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成形した金属板によって形成することができる。セパレータ20A,20Cのガス拡散層16A,16C側の表面には、燃料電池セル100に供給される反応ガスとしての燃料ガスである水素(H)あるいは酸化ガスである酸素(より具体的に空気)の流路を形成するための凹凸形状が形成されている。すなわち、ガス拡散層16A、16Cとセパレータ20A、20Cとの間には、電気化学反応に供される反応ガスが通過するガス流路30が形成されている。具体的には、図示しないガス供給マニホールドに連通するガス供給用流路30iと、燃料電池から流出する未反応ガスを排出するガス排出マニホールドに連通するガス排出用流路30oとが形成されている。ガス供給用流路30iとガス排出用流路30oは互いに分離された構造となっている。すなわち、ガス供給用流路30iの下流端部およびガス排出用流路30oの上流端部は閉塞状態となっている。そして、ガス供給用流路30iおよびガス排出用流路30oは、ガス排出用流路30oがガス供給用流路30iの下流端部(閉塞部)を挟んで交互に配列されている。なお、これらのセパレータ20A,20Cが本発明におけるガス流路形成部に相当する。
【0026】
燃料電池セル100の外周部には、反応ガスのガスシール性を確保するための図示しないシール部材が配設されている。なお、通常燃料電池は、燃料電池セル100を複数積層したスタック構造を有しており、このスタック構造の外周部には、燃料電池セル100の積層方向と平行であって反応ガス(燃料ガスあるいは酸化ガス)や冷媒が流通する複数のマニホールドが設けられている(図示せず)。これら複数のマニホールドのうちの燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各燃料電池セル100に分配され、電気化学反応に供されつつ各燃料電池セルの燃料ガス用のガス流路を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。同様に、酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各燃料電池セル100に分配され、電気化学反応に供されつつ各燃料電池セルの酸化ガス用のガス流路を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。
【0027】
なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各燃料電池セル間に、冷媒の通過する冷媒流路が形成された冷媒流路形成部が設けられている。冷媒流路形成部は、隣り合う燃料電池セルの間において、一方の燃料電池セルが備えるセパレータ20A、20Cと、これに隣接して設けられる他方の燃料電池セルのセパレータ20C,20Aとの間に設ければよい。
【0028】
上記燃料電池セル100では、アノード側のセパレータ20Aのガス供給用流路30iに供給された燃料ガスとしての水素は、ガス拡散層16Aを介して触媒電極層14Aに供給されて触媒電極層14Aによる電気化学反応に寄与した後、ガス排出用流路30oを介して排出される。同様に、カソード側のセパレータ20Cのガス供給用流路30iに供給された酸化ガスとしての酸素も、ガス拡散層16Cを介して触媒電極層14Cに供給されて触媒電極層14Cによる電気化学反応に寄与した後、ガス排出用流路30oを介して排出される。燃料電池セル100は、以上のように、アノード側およびカソード側に供給された反応ガスが電気化学反応に供され、その結果として電力を発生するとともに、その副産物として水を生成する。
【0029】
B.実施形態の基本概念:
図2は、本発明の実施形態の基本概念について示す説明図である。図は、ガス供給用流路30iの下流端部分(閉塞部)及びこれに隣接するガス排出用流路30oの部分の概略断面を拡大して示している。
【0030】
本発明の実施形態の基本的な概念は、ガス供給用流路30iの下流端部分の反応ガスの圧力P1と、隣接するガス排出用流路30oの反応ガスの圧力P2とを比較して、P1>>P2として差圧を発生させることにある。そして、このように差圧を発生させることにより、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留している水がガス拡散電極層(ガス拡散層16A(16C)および触媒電極層14A(14C))を介してガス排出用流路30oに押し出されて、排水が可能になり、フラッディングの発生を抑制するものである。
【0031】
上記のように差圧を発生させる手法としては、ガス供給用流路30iの下流端部分とこれに隣接するガス排出用流路30oとの間に温度差を発生させるために、温度差発生構造を設けることが考えられる。そして、この温度差発生構造の実現手法として、大きく3種類の手法がある。
[1]第1の手法:ガス供給用流路30iの下流端部分のみを加熱する構造(高温化構造)を有する手法。
[2]第2の手法:ガス供給用流路30iの下流端部分のみを他の流路部分より冷却しない構造(低温化抑制構造)を有する手法。
[3]第3の手法:第1の手法か第2の手法、または、第1の手法かつ第2の手法に加えて、ガス供給用流路の30iの下流端部分の壁面から熱が逃げないように、熱を遮断する構造を有する手法。
以下では、第1の手法の実施形態、第2の手法の実施形態、第3の手法の実施形態の順に説明する。
【0032】
C.第1の手法の実施形態:
第1の手法は、上記したように、ガス供給用流路30iの下流端部分のみを加熱する構造(高温化構造)を有することにより、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を排出するものである。その実施例として以下の4つの実施例について示す。
【0033】
C1.第1の手法の第1実施例:
図3は、第1の手法の第1実施例を示すアノード側の触媒電極層14Aを、アノード側のセパレータ20Aの側から見た概略構造図である。図のドットハッチングで示した略矩形状の領域が触媒電極層14Aの領域を示している。また、破線は、燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0034】
本実施例では、図に示すように、アノード側の触媒電極層14Aのガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域14Astpのみ、触媒を多くするように構成されている。この領域14AStpは、例えば、この14AStpの領域のみ、他の領域に塗布する触媒インクとは異なり、触媒濃度を濃くした触媒インクを塗布することにより形成することができる。
【0035】
上記のように、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域14Astpのみ、触媒を多くするように構成すれば、領域14Astpにおける触媒反応が他の領域に比べて多くなり、領域14Astpに対応するガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0036】
なお、上記実施例は、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0037】
C2.第1の手法の第2実施例:
図4は、第1の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Aのガス流路30とは反対側を見た概略構造図である。図中破線は、図3で説明したのと同様に、セパレータ20Aのガス拡散層16Aと接する側に形成されている燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0038】
本実施例では、図に示すように、アノード側のガス供給用流路30iに対応するセパレータ20Aの外側の部分にヒーター50hを設ける構造としている。なお、ヒーター50hへの電力の供給線は図示を省略している。
【0039】
上記のように、ガス供給用流路30iに対応するセパレータ20Aの外側の部分にヒーター50hを設けるようにすれば、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0040】
なお、上記実施例も、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0041】
C3.第1の手法の第3実施例:
図5は、第1の手法の第3実施例を示すアノード側のガス拡散層16Aを、アノード側のセパレータ20Aの側から見た概略構造図である。図のドクロスハッチングで示した略矩形状の領域がガス拡散層16Aの領域を示している。また、破線は、燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0042】
本実施例では、図に示すように、アノード側のガス拡散層16Aのガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域16Astpの電気抵抗が、他の領域に比べて高くなるように構成されている。この領域16Astpは、例えば、ガス拡散層としてカーボン多孔質体を用いている場合において、他の領域に比べて電気抵抗の高いカーボン多孔質体を用いることにより形成することができる。
【0043】
上記のように、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域16Astpのみ、電気抵抗を高くするように構成すれば、領域16Astpにおける熱損失が大きくなって発熱し、領域16Astpに対応するガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0044】
なお、上記実施例は、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0045】
C4.第1の手法の第4実施例:
図6は、第1の手法の第4実施例を示すアノード側のセパレータ20Aを外側から見た概略構造図である。図中破線は、図3で説明したのと同様に、セパレータ20Aのガス拡散層16Aと接する側に形成されている燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0046】
本実施例では、図に示すように、セパレータ20Aのガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域20Astpの電気抵抗が、他の領域に比べて高くなるように構成されている。この領域20Astpは、例えば、セパレータ20Aとしてガス拡散層として緻密質カーボンを用いている場合において、他の領域に比べて電気抵抗の高い緻密質カーボンを用いることにより形成することができる。
【0047】
上記のように、セパレータ20Aのガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域20Astpのみ、電気抵抗を高くするように構成すれば、領域20Astpにおける熱損失が大きくなって発熱し、領域20Astpに対応するガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0048】
なお、上記実施例は、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
D.第2の手法の実施形態:
第2の手法は、上記したように、ガス供給用流路30iの下流端部分のみを他の流路部分より冷却しない構造(低温化抑制構造)を有することにより、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を排出するものである。その実施例として以下の3つの実施例について示す。
【0049】
D1.第2の手法の第1実施例:
図7は、第2の手法の第1実施例を示すアノード側のセパレータ20Aの外側に設けられた冷媒流路形成部60Aの概略構造図である。冷媒流路形成部60Aには、セパレータ20Aと同様に、例えば、緻密性カーボンや金僕板が用いられる。図中破線は、図3で説明したのと同様に、セパレータ20Aのガス拡散層16Aと接する側に形成されている燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0050】
冷媒流路形成部60Aには、セパレータ20Aのガス流路30(ガス供給用流路30i,ガス排出用流路30o、連通路30si,30so)や、膜電極接合体10を覆うように、冷媒流路部80が形成されている。冷媒流路部80は、冷媒供給マニホールド70iおよび冷媒排出マニホールド70oに接続されている。
【0051】
冷媒流路部80内には、複数の流路壁80wおよび80stpgが形成されている。流路壁80wは、冷媒供給マニホールド70iから供給される冷媒が冷媒排出マニホールド70oへ向けて直線的にきれいに流れるように、形成されている。一方、複数の流路壁80stpは、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域に冷媒が流れないように、ガス供給用流路30iの下流端部分を覆うように形成されている。
【0052】
上記のように、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域に冷媒が流れないように、複数の流路壁80stpがガス供給用流路30iの下流端部分を覆うように形成されていることにより、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度が他の部分に比べて低下することを抑制することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0053】
なお、上記実施例も、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0054】
D2.第2の手法の第2実施例:
図8は、第2の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Aの外側に設けられた冷媒流路形成部60Aaの概略構造図である。第1実施例と同様に、冷媒流路形成部60Aaには、例えば、緻密性カーボンや金僕板が用いられる。図中破線は、図3で説明したのと同様に、セパレータ20Aのガス拡散層16Aと接する側に形成されている燃料ガスのガス供給マニホールド40iに接続されている連通路30siおよび連通路30siに接続されているガス供給用流路30iと、ガス排出マニホールド40oに接続されている連通路30soおよび連通路30soに接続されているガス排出用流路30oと、を示している。
【0055】
冷媒流路形成部60Aaには、セパレータ20Aのガス流路30(ガス供給用流路30i,ガス排出用流路30o、連通路30si,30so)や、膜電極接合体10を覆うように、冷媒流路部80が形成されている。冷媒流路部80は、冷媒供給マニホールド70iおよび冷媒排出マニホールド70oに接続されている。
【0056】
冷媒流路部80内には、複数の流路壁80wが形成されている。流路壁80wは、冷媒供給マニホールド70iから供給される冷媒が冷媒排出マニホールド70oへ向けて直線的に流れるように形成されている。
【0057】
上記のように、冷媒供給マニホールド70iから供給される冷媒が冷媒排出マニホールド70oへ向けて直線的に流れるように、流路壁80wが形成されているので、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域に冷媒が流れるのは、冷媒が冷媒排出マニホールド70oから排出される直前となる。この場合、ガス供給用流路30iの下流端部分を通過する冷媒は、上流部を通過する際に発電により発生した反応熱を吸収して暖められることになる。このため、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度が他の部分に比べて低下することを抑制することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0058】
なお、上記実施例も、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0059】
D3.第2の手法の第3実施例:
図9は、第2の手法の第3実施例を示すアノード側のセパレータ20Aaのガス流路30側を見た概略構造図である。このセパレータ20Aaは、ガス供給用流路30iの下流端部分の壁面30ijに断熱材を設けている。断熱材としては、熱伝導率の低い樹脂材を用いることができる。
【0060】
上記のように、ガス供給用流路30iの下流端部分の壁面30ijに断熱材を設ける場合には、この部分の熱の放熱を遮断することができるので、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度が他の部分に比べて低下することを抑制することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0061】
なお、上記実施例も、アノード側を例に説明したがカソード側も同様である。
【0062】
E.第3の手法の実施形態:
第3の手法は、上記したように、第1の手法か第2の手法、または、第1の手法かつ第2の手法に加えて、ガス供給用流路の30iの下流端部分の壁面から熱が逃げないように、熱を遮断する構造を有することにより、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を排出するものである。その実施例として以下の3つの実施例について示す。
【0063】
E1.第3の手法の第1実施例:
図10は、第3の手法の第1実施例を示すアノード側のセパレータ20Abのガス流路30側の一部を示す概略構成図である。このセパレータ20Abは、緻密性カーボンと樹脂の合成部材を用いることとする。そして、ガス供給用流路30iの下流端部分30irについて、他の部分と比べて樹脂の比率が高い合成部材を用いて構成している。
【0064】
上記のように、ガス供給用流路30iの他流端部分30irについて、他の部分と比べて樹脂の比率とすることにより、この部分の熱伝導率を低下させることができる。そして、第1の手法と組み合わせる場合には、第1の手法によって加熱した温度が低下することを抑制して、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0065】
また、第2の手法と組み合わせる場合には、第2の手法により、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度低下の抑制をより効果的に実行することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、より効果的に差圧を発生させることが可能になる。この結果、より効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0066】
さらにまた、第1〜第3の手法を組み合わせる場合には、上記第1の手法との組み合わせによる効果と第2の手法との組み合わせによる効果の両方の効果により、ガス供給用流路30iの下流端部分のガスの圧力と、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力との差圧を、より一層効果的に発生させることが可能になる。この結果、より一層効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0067】
E2.第3の手法の第2実施例:
図11は、第3の手法の第2実施例を示すアノード側のセパレータ20Acのガス流路30側の一部を示す概略構成図である。このセパレータ20Acは、ガス供給用流路30iの下流端の周囲部分に中空部30mを設けた構成を有している。
【0068】
上記のように、ガス供給用流路30iの下流端の周囲部分に中空部30mを設けることにより、この部分の熱伝導率を低下させることができる。そして、第1の手法と組み合わせる場合には、第1の手法によって加熱した温度が低下することを抑制して、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0069】
また、第2の手法と組み合わせる場合には、第2の手法により、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度低下の抑制をより効果的に実行することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、より効果的に差圧を発生させることが可能になる。この結果、より効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0070】
さらにまた、第1〜第3の手法を組み合わせる場合には、上記第1の手法との組み合わせによる効果と第2の手法との組み合わせによる効果の両方の効果により、ガス供給用流路30iの下流端部分のガスの圧力と、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力との差圧を、より一層効果的に発生させることが可能になる。この結果、より一層効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0071】
E3.第3の手法の第3実施例:
図12は、第3の手法の第3実施例を示すアノード側のガス拡散層16Acの一部を示す概略構成図である。図中破線は、セパレータ20Aのガス拡散層16Aと接する側に形成されているガス供給用流路30iおよびガス排出用流路30oの一部を示している。このガス拡散層16Acは、ガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域の周囲部分に中空部16Acmを設けた構成を有している。
【0072】
上記のように、ガス拡散層16Acのガス供給用流路30iの下流端部分に対応する領域の周囲部分に中空部16Acmを設けることにより、ガス供給用流路30iの下流端部分の熱伝導率を低下させることができる。そして、第1の手法と組み合わせる場合には、第1の手法によって加熱した温度が低下することを抑制して、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度を他の部分に比べて上昇させることが可能となる。これにより、その部分のガス体積を膨張させてガスの圧力を高めることができ、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して差圧を発生させることが可能になる。この結果、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0073】
また、第2の手法と組み合わせる場合には、第2の手法により、ガス供給用流路30iの下流端部分の温度低下の抑制をより効果的に実行することが可能となる。これにより、その部分のガスの圧力を、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力に対して高くして、より効果的に差圧を発生させることが可能になる。この結果、より効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0074】
さらにまた、第1〜第3の手法を組み合わせる場合には、上記第1の手法との組み合わせによる効果と第2の手法との組み合わせによる効果の両方の効果により、ガス供給用流路30iの下流端部分のガスの圧力と、ガス供給用流路30iの下流端部分に隣接するガス排出用流路30oのガスの圧力との差圧を、より一層効果的に発生させることが可能になる。この結果、より一層効果的に、ガス供給用流路30iの下流端部分に滞留する水を、ガス拡散電極層を介してガス排出用流路30oへ押し出して排出することが可能となる。
【0075】
F.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0076】
例えば、上記各実施例では、アノード側の燃料ガス流路およびカソード側のガス流路がガス供給用流路とガス排出用流路とに分離された構造の場合を例に説明しているが、これに限定されるものではなく、いずれか一方のガス流路が、従来と同じで、ガス供給用流路とガス排出用流路とが共通である構造としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10…膜電極接合体
12…電解質層
14Astp…領域
14AStp…領域
14A…触媒電極層
14C…触媒電極層
16Astp…領域
16Acm…中空部
16A…ガス拡散層
16C…ガス拡散層
16Ac…ガス拡散層
20…セパレータ
20Astp…領域
20A…セパレータ
20C…セパレータ
20Aa…セパレータ
20Ab…セパレータ
20Ac…セパレータ
30…ガス流路
30i…ガス供給用流路
30m…中空部
30o…ガス排出用流路
30ij…壁面
30ir…他流端部分
30si…連通路
30so…連通路
40i…ガス供給マニホールド
40o…ガス排出マニホールド
50h…ヒーター
60A…冷媒流路形成部
60Aa…冷媒流路形成部
70i…冷媒供給マニホールド
70o…冷媒排出マニホールド
80…冷媒流路部
80stp…流路壁
80w…流路壁
100…燃料電池セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にそれぞれ触媒電極層とガス拡散層とガス流路形成部と、を備える燃料電池であって、
少なくとも一方の前記ガス流路形成部には、前記ガス拡散層に接する側に、前記ガス拡散層の面に沿って、その下流端が閉塞されたガス供給用流路およびその上流端が閉塞されたガス排出用流路が閉塞部を挟んで交互に配列された分離構造のガス流路が形成されており、
前記燃料電池は前記ガス供給用流路の下流端部の温度を、前記下流端部より上流の前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度よりも高温とする温度差発生構造を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス供給用流路の下流端部の温度を前記下流端部より上流の前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度よりも高温にする高温化構造を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記触媒電極層のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の触媒の量を他の領域よりも多くすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス流路形成部の外側の前記ガス供給用流路の下流端部に対応する位置に加熱用ヒーターを備えることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス流路形成部のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗が他の部分に対応する領域の電気抵抗よりも大きくすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記高温化構造は、前記ガス拡散層のうち、前記ガス供給用流路の下流端部に対応する領域の電気抵抗が他の部分に対応する領域の電気抵抗よりも大きくすることにより構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス供給用流路の下流端部の温度が前記ガス供給用流路部分および前記ガス供給用流路の下流端部に隣接する前記排出流路部分の温度より低温にならないようにする低温化抑制構造を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の前記ガス流路が形成される側とは反対側に冷媒流路が形成される冷媒流路形成部を備えており、
前記低温化抑制構造は、冷媒が前記ガス供給用流路の上流側から下流端部分へ順に流れるように形成されている前記冷媒流路により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項7記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の前記ガス流路が形成される側とは反対側に冷媒流路が形成される冷媒流路形成部を備えており、
前記低温化抑制構造は、冷媒が前記ガス供給用流路の下流端部には流れないように形成されている前記冷媒流路により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項7記載の燃料電池であって、
前記低温化抑制構造は、前記ガス供給用流路の下流端部に設けられた断熱材により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、カーボンと樹脂を含む部材で構成されており、
前記温度差発生構造は、前記ガス流路形成部において、前記ガス供給用流路の下流端部の樹脂比率を他の部分に比べて樹高くした構造を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記温度差発生構造は、前記ガス流路形成部または前記ガス拡散層において、前記ガス供給用流路の下流端部分を覆うように中空部を形成する構造を含むことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−171027(P2011−171027A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32014(P2010−32014)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】