説明

燐含有ゼオライトIM−5を含む触媒組成物を用いる接触クラッキング方法

【課題】燐含有ゼオライトIM−5−Pを含む触媒組成物を用いる炭化水素仕込原料の接触クラッキング方法を提供する。
【解決手段】a)フォージャサイト構造型ゼオライトY 0.1〜60重量%、b)窒素含有有機カチオンと、酸化ケイ素またはゲルマニウムと、Al、Fe、Ga、TiおよびBからなる群から選ばれる金属Tの酸化物と、燐化合物と、場合によってはアルカリ金属Mの酸化物および/またはアンモニウムと、あるいはそれらの前駆体とを接触させることにより調製された燐含有ゼオライトIM−5−Pであって、ケイ素またはゲルマニウムと、元素Tとを含み、かつ多くとも燐10重量%を含み、水素型である少なくとも1つの燐含有ゼオライトIM−5−P 0.01〜97重量%、c)少なくとも1つのマトリックス 少なくとも3重量%を含む触媒組成物の存在下に行われる、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場合によっては金属Ti、B、Fe、GaまたはAlを一部除去された、燐の添加により改質されたIM−5と呼ばれるゼオライトと、このゼオライトを含む触媒組成物と、その調製法と、特に炭化水素仕込原料の接触クラッキング方法におけるその使用法とに関する。より正確には、本発明は、少なくとも1つの燐含有化合物により安定化されたアルミノシリケート・モレキュラーシーブに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術は、特許文献1により証明される。この特許には、ゼオライトREYのホスフェート(燐酸塩)を用いる処理が記載されている。
【0003】
ゼオライト質のモレキュラーシーブは、例えばSi、Al、B、P、Ge、Ti、GaおよびFeであるT’を有する4面体T’O の3次元結晶格子を含む結晶性物質である。この結晶格子により、有機分子平均値を有する小程度のサイズに匹敵するサイズの結晶内極微細孔質結晶格子が定義される。この極微細孔質結晶格子は、結晶格子により作製された、孔路および/または空洞の系であってよい。この結晶格子は、X線回折の特別な、かつ特殊な図表により同定されるものである。
【0004】
(例えば触媒反応方法、吸着方法、カチオン交換方法および精製方法における)ゼオライトの潜在的な適用は、主としてその極微細孔質結晶格子のサイズ、形態および特徴(一次元、多次元)と、その化学組成とに依存する。例えばアルミノシリケート型ゼオライトにおいて、4面体SiOのマトリックス中での隔離された4面体AlOの存在は、結晶格子の負荷に釣り合いをもたらすために補償カチオンの存在を必要とする。典型的には、これらのカチオンは、大きな移動度を有しかつ他のカチオン、例えばHまたはNHにより交換されてよい。後者は、焼成によりH に変換されるものである。これにより、酸性極微細孔質固体が生じる。従って、ゼオライトは、水素型とさらに呼ばれる酸形態である。あらゆる補償カチオンが、有機アンモニウムカチオンまたは有機アルキルアンモニウムカチオンである場合、焼成により、直接ゼオライトの酸形態が生じる。これらの極微細孔質酸性固体は、酸触媒反応方法において使用されてよい。その活性および選択性は、同時に酸の強度と、酸性部位の密度と、酸性部位が局在する結晶格子内で境界を画定された空間の寸法特徴とに依存する。
【0005】
孔路のサイズは、細孔の窓部の境界を画定するリング内に存在する4面体T’Oの数により記載されてよい。このサイズは、分子の分散を調節する要素である。従って、孔路は、カテゴリー(種類)に分類される。すなわち、最も小さい細孔(8個の4面体T’O(8MR)の連鎖により境界を画定された環状細孔の窓部)と、平均的な細孔(10MR)と、大きな細孔(12MR)とである。MRは英語のmembered ring (員環)を意味する。
【0006】
この構造的特徴は、不均一触媒反応におけるこれらの物質に形状選択性の有益な特性をもたらすものである。形状選択性の用語は、一般に立体抑止作用(フランス語でcontraintes steriques )に因る特殊な触媒の選択性を説明するために使用される。これらの立体抑止作用は、ゼオライト性極微細孔質系の内部に存在する。これらの抑止作用は、反応体(ゼオライト中の反応体の分散)に対して、反応物質(ゼオライトの外部で生成される物質の形成および分散)に対して、反応性中間体に対して、あるいは反応の間のゼオライトの極微細孔隙中に形成される反応性遷移状態に対して影響を及ぼすものである。適当な立体抑止作用の存在により、いくつかの場合には、遷移状態と所望でない物質の生成に至る反応中間体との形成を回避することが可能になり、かついくつかの場合には選択性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許US−A−5110776号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の対象は、単独または従来の接触クラッキング触媒との混合物状で、接触クラッキングにおいて一部脱アルミニウムされる際に、場合によっては金属Tを一部除去された、燐を含むゼオライトIM−5と、その使用法とに関する。本発明の触媒は、1分子当たり炭素原子数3および/または4を有する化合物、より詳しくはプロピレンおよびブテンを大量に製造するために石油フラクションのクラッキングに特に適合される。本発明の触媒は、重質石油フラクションのクラッキングに特に適合される。
【0009】
さらに本発明は、先に定義された触媒の存在下での重質石油仕込原料のクラッキング方法および前記触媒の調製方法にも関する。炭化水素仕込原料のクラッキングは、非常に高品質の自動車用ガソリンにおける高収率の獲得を可能にするものであり、1930年代の末以来石油工業において是非とも必要なものであった。反応帯域と、酸素含有ガスの存在下での燃焼によりコークスが触媒から除去される再生器との間を、触媒が常時流通する流動床(FCCすなわちFluid Catalytic Cracking) あるいは移動床(例えばTCC)において作用する方法を導入することにより、固定床技術に比して大きな進歩がもたらされた。
【0010】
クラッキング装置において最も使用される触媒は、1960年代の初期以来、通常フォージャサイト構造(FAU)ゼオライトである。これらのゼオライトは、例えば非晶質シリカ・アルミナからなる非晶質マトリックス中に組み込まれて、粘土を種々な割合で含むものであり、炭化水素に対するクラッキング性(分解性)活性により特徴付けられる。これらの活性は、1950年代の末頃まで使用された、シリカに富むシリカ・アルミナ触媒の活性よりも1000〜10000倍優れたものである。
【0011】
1970年代の末頃、原油の使用権(自由処分)の欠如および高オクタン価ガソリンの需要の増大は、精油業者に次第に重質になる粗油の処理を行わせるに至った。これら後者の処理は、触媒毒、特に金属化合物(特にニッケルおよびバナジウム)の高含有量、並びにコンラドソン炭素、特にアスファルテン系化合物の尋常でない値が理由で精油業者にとっては困難な問題を形成するものである。
【0012】
さらに重質仕込原料と、例えば鉛をベースとする添加剤のガソリン中での漸進的ではあるが一般的な廃止、並びにいくつかの国における中間留分(ケロシンおよびガスオイル)の需要の緩慢ではあるが実質的な進展のような最近における他の問題とを処理する必要性によって、さらに精油業者において特に次の目的を達成しうる改善された触媒の探求が促進された:すなわち・優れた熱安定性および水素化熱安定性、並びに優れた金属耐性、・同一転換率でのコークスのより少ない生産量、・ガソリンの優れたオクタン価、および・中間留分の改善された選択性である。
【0013】
大半の場合、1分子当たり炭素原子数1〜4を有する化合物を含む軽質ガスの製造を最小限にすることに努力が払われる。従って、そのような軽質ガスの製造を制限するために触媒が考案される。
【0014】
しかしながら、いくつかの特別な場合において、1分子当たり炭素原子数2〜4の軽質炭化水素、あるいはそれらのうちのいくつかのもの、例えばC および/またはC 炭化水素、より詳しくはプロピレンおよびブテンの大きな需要が判明する。
【0015】
大量のブテンの製造は、特に高オクタン価ガソリンの補足的な量を生成するための、例えばオレフィンを含むC 〜C 留分のアルキル化装置が精油業者によって使用される場合に特に有益である。従って、出発炭化水素留分から得られる高品質ガソリンの全体収率は、実質的に増加される。
【0016】
プロピレンの製造は、この物質の大きな需要が明らかであるいくつかの発展途上国において特に望まれる。
【0017】
接触クラッキング方法は、そのような需要のある種の範囲において、この製造のために特に触媒を適合させる条件に応じるものである。触媒を適合させる効果的な方法は、次の2つの優れた性質(長所)を有する活性剤を触媒物質に添加することからなる:すなわち・高選択率を伴って重質分子を炭素原子数3および/または4を有する炭化水素、特にプロピレンおよびブテンに分解すること、および・工業用分解装置(クラッキング装置)の再生器内を占める水蒸気分圧および温度の苛酷な条件に対して十分に耐性であること。
【0018】
本出願人により行われた多数のゼオライトに関する研究成果により、予期しないことではあるが、IM5−Pと呼ばれる、燐を添加することにより改質された、IM−5ゼオライトにより、卓越した活性を有しかつ1分子当たり炭素原子数3および/または4を有する炭化水素の製造に対して高選択率を有する触媒を得ることが可能になるのが見出されるに至った。本発明によるそのようなゼオライトを使用することにより、ガス、特にプロピレンおよびブテンの獲得を大きな割合で生じさせるクラッキング触媒を得ることが可能になる。
【0019】
ゼオライトIM5−Pの燐含有量は、一般に多くとも10重量%、有利には重量で表示されて多くとも5%、例えば2〜4%である。
【0020】
本発明は、燐を添加することにより改質されるゼオライトIM−5の調製方法にも関する。
【0021】
燐は、種々の機会に添加されてよい:すなわち構造化剤(鋳型剤テンプレート)の存在下に、合成の際、溶液状で直接的にである。これは種々の化学形態:すなわち燐酸、燐酸塩、有機燐酸塩および塩化燐形態で行われる。より正確には、第一変形例によれば、少なくとも1つの窒素含有有機カチオンと、少なくとも1つの酸化ケイ素またはゲルマニウムと、Al、Fe、Ga、TiおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属Tの酸化物と、少なくとも1つの燐化合物と、場合によってはアルカリ金属Mの酸化物および/またはアンモニウムと、あるいはそれらの前駆体とを接触させて、ゼオライトIM5−Pを調製する。混合物は、一般に次のモル組成:
XO /T : 少なくとも10
(R1/n )OH/XO : 0.01〜2
O/XO : 1〜500
Q/XO : 0.005〜1
ZO : 0〜5
(ここにおいて、Xはケイ素および/またはゲルマニウムであり、Tは、次の元素:アルミニウム、鉄、ガリウム、チタンおよびホウ素からなる群から選ばれ、
Rは、M(アルカリ金属カチオンおよび/またはアンモニウムカチオン)、および/またはQ(窒素含有有機カチオンまたはこのカチオンの前駆体またはこのカチオンの分解物質)を含むn価のカチオンであり、
Zは、塩であり、Zは、q価のアニオンであり、Lは、アニオンZを平衡状態に置くために必要なMに類似するアルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオン、あるいはMと、別のアルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンとの混合物であり、Zは、例えばLの塩またはアルミニウムの塩の形態で添加される酸基を含むものである)を有する。
【0022】
好ましくは、Xはケイ素であり、Yはアルミニウムである。
【0023】
好ましい第二変形例によれば、場合によっては焼成されたゼオライトIM−5を、H PO 、(NH PO 、(NH HPOおよび(NH )H PO からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸の水溶液、あるいはそれらの塩のうちの1つの塩の水溶液を用いて含浸してもよい。得られた物質は、一般に温度350〜1000℃で、使用される焼成温度に依存する期間、例えば0.1秒〜10時間に変化しうる期間焼成される。
【0024】
アルカリ・イオンの不存在により、例えばアンモニウムイオン溶液による少なくとも1つのイオン交換工程と、酸形態を得るための焼成工程とが回避されるので、これらの2つの実施の形態は特に有利である。
【0025】
本発明による少なくとも一部水素型のゼオライトIM5−Pは、未だに解明されていない構造であるが、フランス特許出願FR−2754809に記載されている燐を含まないゼオライトIM−5の構造と同一である構造を有する。
【0026】
粗合成形態のゼオライトIM−5−Pは、表1に示されるスペクトル線を有するX線回折図表を示すことにより特徴付けられる。
【0027】
H−IM−5−Pで指定される、水素型ゼオライトIM−5−Pは、焼成により得られて、表2に示されるスペクトル線を有するX線回折図表を示す。
【表1】

【表2】

【0028】
これらの図表は、銅のKα放射線を用いる従来の粉末法を使用して、回折計により得られる。2θ角により表される回折のピークの位置から、ブラッグの式により試料の特徴的な結晶格子間等距離dhkl が計算される。強度の計算は、相対強度段階に基づいて行われる。この相対強度段階について、X線回折図表上で最も高い強度を示すスペクトル線に100の値を割り当てる:すなわち*非常に弱い(tf)は、10未満を意味する。
【0029】
*弱い(f)は、20未満を意味する。
【0030】
*中程度(m)は、20〜40を意味する。
【0031】
*強い(F)は、40〜60を意味する。
【0032】
*非常に強い(TF)は、60を越えることを意味する。
【0033】
これらの資料(データ)(間隔dおよび相対強度)が得られるX線回折図表は、高い強度の他のピーク上にショルダーを形成する多数のピークを有する広範囲の反射により特徴付けられる。いくつかのショルダー、あるいはあらゆるショルダーが分解(解像resolve)されないということもありうる。このことは、弱結晶質試料について、あるいは内部において結晶がX線の明確な拡張を提供するには極めて少ない試料について生じるものである。さらに、このことは、図表を得るために使用される設備装置および条件が、本明細書において使用される設備装置および条件と異なるときの場合でもある。
【0034】
粗合成ゼオライトIM−5の焼成および/またはイオン交換により得られ、本発明による方法およびその合成様式(モード)において使用される、H−IM−5として指定される、水素型ゼオライトIM−5が、フランス特許出願FR−2754809に記載されている。
【0035】
IM−5と呼ばれるゼオライト構造は、酸化物のモル比として、下記式:
100XO ,mT ,pR2/n O,
(式中、mは、10以下であり、pは、0(含まれない)〜20であり、Rは、n価の1つまたは複数のカチオンであり、Xは、ケイ素および/またはゲルマニウム、好ましくはケイ素であり、Tは、次の元素:アルミニウム、鉄、ガリウム、ホウ素およびチタンからなる群から選ばれ、好ましくはアルミニウムである)により、無水塩基について表示される化学組成を有する。
【0036】
本発明によるゼオライト構造IM−5−Pは、ほぼ同じ化学組成を有する。
【0037】
ゼオライトIM−5−Pは、Si/T原子比5〜600、特に10〜300を有する。
【0038】
ゼオライトのSi/T全体比と試料の化学組成とは、蛍光X線および原子吸着により測定される。
【0039】
本発明によるゼオライトIM−5−Pは、合成への本発明による触媒の直接的な適用に関して合成の操作条件を調整することにより、所望のSi/T比を伴って得られうる。次いでゼオライトは、焼成され、少なくとも1つのアンモニウム塩の溶液による少なくとも1回の処理により交換されて、ゼオライトのアンモニウム型を得るようにする。このアンモニウム型ゼオライトは、一度焼成されると、ゼオライトの水素型を生じる。
【0040】
さらに、いくつかの触媒的適用は、考えられる反応に対するゼオライトの熱安定性と酸度との調整を必要とする。ゼオライトの酸度を最適化させるための手段のうちの1つは、その骨格内に存在する金属Tの量を減少させることである。骨格のSi/T比は、合成の際か、あるいは合成の後に決定されてよい。後者の場合、金属除去と呼ばれる操作は、特にゼオライトの結晶構造の破壊をできるだけ少なくすることにより行われねばならない。従って、Si/T原子比5〜600を有しかつ調節されうる酸度を有するゼオライトが利用される。
【0041】
ゼオライトの骨格の部分脱アルミニウム、より一般には金属Tの部分除去により、熱的により安定性のある固体が生じることは当業者に公知である。しかしながら、ゼオライトが受ける脱アルミニウム処理により、骨格外アルミニック(aluminic)種の形成が導かれる。これらのアルミニック種が除去されない場合、ゼオライトの極微細孔隙を詰まらせることになる。これは、例えばオレフィンの製造におけるFCC装置内での接触クラッキング触媒への添加剤として使用されるゼオライトの場合である。すなわち、クラッキング装置の再生器内は、600℃を越える高温と、水蒸気の無視できない圧力とで占められる。これら高温と水蒸気圧とにより、ゼオライトの骨格の脱アルミニウムが生じ、その結果、酸性部位の損失が生じ、かつ極微細孔隙の詰まりが生じるものである。これら2つの現象は、活性つまりゼオライト添加剤の効能の低下を招くことになる。
【0042】
これに対して、装置外で調節されて行われる脱アルミニウムにより、ゼオライト骨格の脱アルミニウム割合を正確に調整することが可能になりかつ先のパラグラフにおいて説明されていたように、クラッキング装置内で起こることとは反対に極微細孔隙を詰まらせる骨格外アルミニック種を特に除去することも可能になる。金属の部分除去工程、特に後合成・脱アルミニウム工程は、当業者に公知のあらゆる技術により行われてよい。限定されない例として、場合によっては水蒸気の存在下でのあらゆる熱処理、その後に行われる無機酸または有機酸の少なくとも1つの溶液による少なくとも1つの酸攻撃か、あるいは無機酸または有機酸の少なくとも1つの溶液による少なくとも1つの酸攻撃によるあらゆる脱アルミニウムが行われる。この金属除去により、5を越える、有利には10を越える、好ましくは15を越える、より詳しくは20〜400のSi/T原子比を有する燐含有ゼオライトIM−5−Pが生じる。このことにより、本発明によるゼオライトに活性と耐性とが同時に付与される。
【0043】
・金属除去工程の第一変形例によれば、直接酸攻撃と呼ばれる第一方法は、温度一般に約450〜550℃での乾燥空気流下での第一焼成工程を含む。この第一焼成工程は、ゼオライトの極微細孔隙内に存在する有機構造化剤の除去を目的とする。この第一焼成工程の後に、HNO またはHClのような無機酸、あるいはCH CO Hのような有機酸の水溶液による処理工程が行われる。この後者の工程は、所望の脱アルミニウム水準を得るために必要な回数だけ繰り返されてよい。これら2つの工程の間に、少なくとも1つのNH NO 溶液による1回または数回のイオン交換を行って、アルカリ・カチオン、特にナトリウムの少なくとも一部、好ましくは実質上全部を除去するようにする。同様に直接酸攻撃による脱アルミニウム処理の終わりに、少なくとも1つのNH NO 溶液による1回または数回のイオン交換を行って、残留アルカリ・カチオン、特にナトリウムを除去するようにする。
【0044】
例えば所期のSi/Al比に到達するために、操作条件を選択する必要がある:この見地から、最も決定的なパラメータは、酸水溶液による処理温度、後者の濃度、その種類、酸溶液量と処理済みゼオライト重量との比、処理時間および実施される処理の回数である。
【0045】
・金属除去工程の第二変形例によれば、(特に水蒸気での、すなわち《steaming》)熱処理+酸攻撃と呼ばれる第二方法は、初めの段階において温度一般に約450〜550℃での乾燥空気流下での焼成を含む。この焼成は、ゼオライトの極微細孔隙内に閉塞された有機構造化剤を除去することを目的とする。次いで、こうして得られた固体は、少なくとも1つのNH NO 溶液による1回または数回のイオン交換に付されて、ゼオライト中のカチオン位置に存在するアルカリ・カチオン、特にナトリウムを少なくとも一部、好ましくは実質上全部除去するようにする。こうして得られたゼオライトは、温度一般に500〜900℃で場合によっては好ましくは水蒸気の存在下に行われる、少なくとも1つの熱処理と、その後の場合によっては行われる、無機酸または有機酸の水溶液による少なくとも1つの酸攻撃とを含む骨格の脱アルミニウムの少なくとも1つのサイクルに付される。水蒸気の存在下での焼成条件(温度、水蒸気の圧力および処理期間)、並びに後焼成・酸攻撃条件(攻撃期間、酸濃度、使用される酸の種類、および酸容積とゼオライト重量との比)は、所期の脱アルミニウム水準を得るように適合される。同目的において、実施される熱処理・酸攻撃サイクル数を見込むことも可能である。
【0046】
TがAlである好ましい場合において、場合によっては好ましくは水蒸気の存在下に行われる、少なくとも1つの熱処理工程と、ゼオライトIM−5の酸媒質中での少なくとも1つの攻撃工程とを含む、骨格の脱アルミニウムサイクルは、所期の特徴を有する脱アルミニウムゼオライトIM−5を得るために必要な回数だけ繰り返されてよい。同様に、場合によっては好ましくは水蒸気の存在下に行われる熱処理(工程)に続いて、異なる濃度の酸溶液を用いるいくつかの連続的酸攻撃が行われてもよい。
【0047】
この第二焼成方法の変形例は、場合によっては好ましくは水蒸気の存在下に温度一般に500〜850℃で有機構造化剤を含むゼオライトIM−5−Pの熱処理を行うことからなる。この場合、有機構造化剤の焼成工程と、骨格の脱アルミニウム工程とは、同時に行われる。次いで、ゼオライトは、場合によっては無機酸(例えばHNO またはHCl)あるいは有機酸(例えばCH COH)の少なくとも1つの水溶液により場合によっては処理される。最後に、こうして得られた固体は、場合によっては少なくとも1つのNH NO 溶液による少なくとも1回のイオン交換に付されて、ゼオライト中のカチオン位置に存在するアルカリ・カチオン、特にナトリウムを実質上全部除去するようにする。
【0048】
本発明によるゼオライトIM−5−Pは、少なくとも一部、好ましくは実質上全部酸形態、すなわち水素型(H )である。Na/T原子比は、一般に10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満である。
【0049】
本発明は、触媒組成物にも関する。この組成物は、下記:
a) 本発明による燐含有ゼオライト以外の少なくとも1つのゼオライト、好ましくはフォージャサイト構造型ゼオライトY 0〜60重量%、例えば0.1〜60重量%、好ましくは4〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%と、
b) 先に記載された特徴を有する、少なくとも一部水素型の少なくとも1つのゼオライトIM−5−P 0.01〜97重量%、好ましくは0.05〜40重量%、より好ましくは0.1〜20重量%と、
c) 少なくとも1つのマトリックス少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも20重量%、例えば40〜70重量%とを含むものである。
【0050】
第一変形例によれば、この組成物は、無機酸化物の少なくとも1つのマトリックスと組み合わされる本発明によるゼオライトを含むものである。
【0051】
第二変形例によれば、この組成物は、少なくとも1つのゼオライトIM−5−Pと、既述の少なくとも1つのマトリックスと、ゼオライトIM−5−P以外の少なくとも1つのゼオライトとを
含むものである。
【0052】
例えば流動床接触クラッキングにおける触媒組成物の使用の場合には、このゼオライトは、(改質されかつ蒸気で安定化された)超安定性ゼオライトYを含むゼオライトY、ゼオライトX、ゼオライト・ベータ、ZSM−5型ゼオライト、シリカライトおよびLZ210型ゼオライトのようなクラッキング用ゼオライトである。
【0053】
この通常非晶質または不完全結晶化(低結晶度)マトリックスは、例えばアルミナ、シリカ・アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、粘土、酸化チタン、酸化ジルコニウム、これら化合物のうちの少なくとも2つの化合物の組み合わせ、およびアルミナ・酸化ホウ素の組み合わせからなる群から選ばれる。
【0054】
マトリックスは、好ましくはシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ・アルミナ混合物、シリカ・酸化マグネシウム混合物および粘土(そのうちカオリンおよびメタカオリン)からなる群から選ばれる。
【0055】
特に炭化水素仕込原料の接触クラッキングにおいて使用される触媒組成物は、当業者に公知のあらゆる方法により調製されてよい。
【0056】
従って、組成物は、例えば少なくとも一部水素型の、燐により改質されたゼオライトIM−5と、ゼオライトを含むクラッキング触媒の従来の調製方法によるゼオライトYとの同時組み込みにより得られてよい。ゼオライトIM−5−Pは、少なくとも一部脱アルミニウムされるか、あるいは少なくとも一部金属Tを除去されてよい。
【0057】
さらに組成物は、マトリックスおよび別のゼオライト、例えばゼオライトYを含む第一物質と、先に記載された少なくとも一部水素型形態の、燐を添加することにより改質されたゼオライトIM−5を含む第二物質と、マトリックスとの機械的混合により得られてよい。このマトリックスは、前記第一物質中に含まれるマトリックスと同一であってよいし、あるいは異なってもよい。この機械的混合は、通常乾燥物質と共に行われる。物質の乾燥は、好ましくは、例えば温度100〜500℃で、通常0.1〜30秒の間、噴霧(Spray-drying噴霧乾燥)により行われる。
【0058】
噴霧による乾燥後、これらの物質は、なお揮発性物質(水およびアンモニア)を約1〜30重量%含むものである。
【0059】
このように調製されかつクラッキングにおいて使用される触媒組成物は、下記:
a) 本発明による燐含有ゼオライト以外の少なくとも1つのゼオライト、好ましくはフォージャサイト構造型ゼオライトY 0〜60重量%、例えば0.1〜60重量%、好ましくは4〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%と、
b) 先に記載された特徴を有する、少なくとも一部水素型の少なくとも1つのゼオライトIM−5−P 0.01〜97重量%、好ましくは0.05〜40重量%、より好ましくは0.1〜20重量%と、
c) 少なくとも1つのマトリックス少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも20重量%、例えば40〜70重量%とを
含むものである。
【0060】
接触クラッキング反応の一般的条件は、本発明の枠内においてこの明細書では繰り返されないが、公知である(例えば米国特許US−A−3293192、3449070、4415438、3518051および3607043を参照)。
【0061】
1分子当たり炭素原子数3および/または4を有するガス炭化水素、特にプロピレンおよびブテンを可能な限り大量に製造する目的において、クラッキングが行われる温度、例えば10〜50℃を僅かに上昇させることが時として有利である。しかしながら、本発明の触媒は、大半の場合、そのような温度上昇を必要とせずに十分に活性である。プロピレンの製造を最大限にするための非常に苛酷な使用条件において、接触時間は、延長されてよい:すなわち約10000〜60000ミリ秒である。
【0062】
従って、接触クラッキング条件は、次のようになる:
・接触時間10〜60000ミリ秒
・仕込原料に対する触媒(C/O)の重量比0.5〜50
・反応温度400〜800℃
・圧力0.5〜10バール(1バール=10 Pa)
【発明を実施するための形態】
【0063】
次の実施例は、本発明を例証するが、何らその範囲を限定するものではない。
【0064】
[実施例1: ゼオライトIM−5−Pの調製およびn−デカンのクラッキング]
出発試料IM−5を、酸形態で構造化剤を用いないで使用した。
【0065】
調製を5工程で行った:
1.粉末形態のゼオライトを、下記を含む容器内での水溶液中に分散した:
*液体/固体重量比=10g/gの(脱イオン)水
*化学式NH PO の燐酸アンモニウム形態での燐のX重量%であり、Xは燐の目指す百分率である。例えばゼオライト1gに対して、
・水10g
・ NH PO (純度99%)0.0375×Xg
2.分散された混合物を、温度80℃で維持される減圧回転エバポレータ内に配置した。圧力を調整して、非常に急速な沸騰を避けるようにした:すなわち混合物は、約1時間経過時に乾燥されねばならない。
【0066】
3.炉での100℃での一晩乾燥。
【0067】
4.乾燥試料をペレット化し、粉砕し、0.59〜0.84mmに篩い分けた。
【0068】
5.燐を0、0.5、1、2、3および4重量%含むゼオライトIM−5の5つの試料を、100%の水蒸気下に750℃で5時間最終的に焼成した(スチーミングとも呼ばれる水熱工程)。
【0069】
IM−5−Pの物理・化学的特徴:
X線回折(DRX)により測定される結晶化度と、5工程後に得られる5試料の比表面積(BET)と、出発試料(新品)とを次の表にまとめた:
【表3】

【0070】
6試料のX線回折(DRX)スペクトルは、非常に類似しておりかつフランス特許出願FR−2754809に記載されているIM−5の試料の特徴的なスペクトル線を有していた。特に燐を含む試料は、燐の添加に対応する特徴的なスペクトル線を示さなかった。
【0071】
BET比表面積により、燐含有量が増加する場合には、あらゆる試料が、僅かに減少する非常に高い結晶化度を有することが証明された。
【0072】
[実施例2: 燐を含むか、あるいは燐を含まない6触媒の調製、およびn−デカンのクラッキング]
触媒を、燐を含むか、あるいは燐を含まないゼオライト0.5gと、シリカSiO (BASF D−11−11)2.5gとを混合させて調製した。このシリカを、空気下に800℃で11時間予め焼成した。この場合、比表面積は97m /gであった。
【0073】
燐を0、0.5、1、2、3および4重量%含むゼオライトIM−5を用いて調製した6触媒を、テスト用マイクロ装置(MAT装置)内で500℃でのn−デカンのクラッキングテストにおいて評価した。注入時間は、60秒であった。
【0074】
各触媒について、注入されたデカンの重量を変化させることにより(n−デカン1.54g、0.906gおよび0.77g)、実験を3回行った。転換の結果により計算された一定の優れた反応速度を下記表にまとめた。
【表4】

【0075】
証明されうるように、優れた結果が、燐含有量2〜3重量%に関して得られた。
【0076】
[実施例3: 減圧ガスオイルのクラッキング]
3触媒を、ガスオイルのクラッキングにおける比較用に調製した。それらのうちの各々について、結晶パラメータ2.432nmの超安定性ゼオライトY(USY)を使用した。添加剤(マトリックスおよびゼオライト)の量(燐を含まないIM−5と、実施例1に従って調製した燐2重量%を含むIM−5との比較用ZSM−5)を、《ゼオライトY/添加剤》重量比=3であるように添加した。ZSM−5のSi/Al比と、IM−5−PのSi/Al比とは、各々20および12である。次いで、触媒を、100%の水蒸気(スチーミング)下に750℃で5時間焼成した。触媒の使用された全体重量は、各実験に対して3gであった。
【0077】
下記表に、使用した減圧ガスオイルの主な特徴をまとめた:
60℃での密度 0.916
K−UOP 11.84
67℃での屈折率 1.4932
硫黄(重量%) 2.7
窒素(重量%) 0.15
コンラドソン炭素(重量%) 0.09
アニリン点(℃) 76
Na(ppm) <0.05
Cu(ppb) 30
Ni(ppb) 30
V (ppb) <25
Fe(ppm) 0.5
平均分子量 405
蒸留曲線(℃) ASTM D1160
10% 400
30% 411
50% 425
70% 449
90% 489
3触媒の性能を、520℃での減圧ガスオイル・クラッキングにおいて評価した。30秒の注入時間に対して、注入された減圧ガスオイルの重量が、4、3.5、3、2.5および2グラムである一方、触媒の重量は、一定の3.0グラムに留まった。転換率を、100−(LCO%+懸濁液%)として記載した。
【0078】
下記表にまとめた値は、重量%で表示される収率に相当した。これは、約60%の転換率について得られる一般化された値に相当した。
【表5】

【0079】
この表に基づいて証明できるように、燐の添加により、乾燥ガス(H 、C およびC )と、コークスとの収率を著しく低減させることが可能になる一方で、C およびC 軽質オレフィンの含有量が、明らかに改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンおよびブテンを製造するための重質石油フラクションの接触クラッキング方法であって、
a)少なくとも1つのフォージャサイト構造型ゼオライトY 0.1〜60重量%
b)少なくとも1つの窒素含有有機カチオンと、少なくとも1つの酸化ケイ素またはゲルマニウムと、Al、Fe、Ga、TiおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属Tの酸化物と、少なくとも1つの燐化合物と、場合によってはアルカリ金属Mの酸化物および/またはアンモニウムと、あるいはそれらの前駆体とを接触させることにより調製された燐含有ゼオライトIM−5−Pであって、ケイ素またはゲルマニウムと、元素Tとを含み、かつ多くとも燐10重量%を含み、水素型である少なくとも1つの燐含有ゼオライトIM−5−P 0.01〜97重量%
c)少なくとも1つのマトリックス 少なくとも3重量%
を含む触媒組成物の存在下に行われる、方法。
【請求項2】
接触クラッキング条件は、
・接触時間10〜60000ミリ秒
・仕込原料に対する触媒の重量比(C/O)0.5〜50
・反応温度400〜800℃
・圧力0.5〜10バール(1バール=10Pa)
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記燐含有ゼオライトIM−5−Pは、多くとも燐5重量%を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記燐含有ゼオライトIM−5−Pにおいて、元素TがAlであり、Si/Al原子比が、少なくとも5である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記燐含有ゼオライトIM−5−Pは、直接、酸攻撃法により金属Tを一部除去されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記燐含有ゼオライトIM−5−Pは、熱処理・酸攻撃法により金属Tを一部除去されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
熱処理が、水蒸気の存在下に行われる、請求項5または6記載の方法。

【公開番号】特開2011−214009(P2011−214009A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156185(P2011−156185)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2000−138022(P2000−138022)の分割
【原出願日】平成12年5月11日(2000.5.11)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】