説明

燻煙剤組成物、燻煙装置及び燻煙方法

【課題】燻煙後の臭気の残留が少なく、かつ、微生物抑制効果及び消臭効果に優れる燻煙剤組成物、燻煙装置及び燻煙方法を提供する。
【解決手段】銀を含有する薬剤と、有機発泡剤とを含有することよりなる。前記薬剤は、体積平均粒子径0.01〜1000μmであることが好ましく、前記有機発泡剤は、アゾジカルボンアミドであることが好ましく、発泡助剤として酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムからなる群から選択される1種以上を含有することがより好ましい。本発明の燻煙装置10は、前記燻煙剤組成物を充填した燻煙剤部32と、加熱部20と、該加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部とを設けることよりなる。本発明の燻煙方法は、前記燻煙剤組成物を間接的に加熱することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙剤組成物、燻煙装置及び燻煙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般家庭では、住宅の気密性向上に伴い、細菌、カビ等の微生物が生活空間に繁殖しやすくなっている。微生物の繁殖は、美観を損ねるだけでなく、感染症リスクとなる等の衛生上の大きな問題となる。特に、湿気の多い浴室は、細菌、カビ等の微生物が繁殖しやすい環境である。浴室の天井や壁の上部等の高い部分は、カビ取り剤の吸引を防止する観点から手入れがしにくく、このため微生物が繁殖しやすい場所である。加えて、換気口等、奥深くまで手が届かないような複雑な構造物の内部等は、さらに手入れが困難である。このような場所に微生物が繁殖すると、不快な臭いの発生源となる。浴室の臭いに対しては、その発生源を取り除くことが主な対処法であるが、発生源が不明であることも多く、対処が困難であった。
【0003】
こうした問題に対し、有害生物駆除用薬剤と、有機発泡剤(有機揮散剤)とを含有する燻煙剤組成物を加熱し、屋内を燻煙する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3)。このような燻煙による手入れは、浴室における微生物繁殖や臭気発生を容易に予防できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−127299号公報
【特許文献2】特開2005−89453号公報
【特許文献3】特開昭56−77202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、浴室に使用する燻煙剤組成物は、手軽に浴室を手入れできるものであるが、燻煙後に特有の臭気が残りやすい。加えて、燻煙剤組成物には、さらなる抗菌、殺菌、防カビ、抗カビ等の微生物抑制効果、消臭効果の向上が望まれている。
そこで、本発明は、燻煙後の臭気の残留が少なく、かつ、微生物抑制効果及び消臭効果に優れる燻煙剤組成物、燻煙装置及び燻煙方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燻煙剤組成物は、銀を含有する薬剤と、有機発泡剤とを含有することを特徴とする。
前記薬剤は、体積平均粒子径0.01〜1000μmであることが好ましく、前記有機発泡剤は、アゾジカルボンアミドであることが好ましく、さらに、発泡助剤として酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムからなる群から選択される1種以上を含有することがより好ましい。
【0007】
本発明の燻煙装置は、前記燻煙剤組成物を充填した燻煙剤部と、加熱部と、該加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の燻煙方法は、前記燻煙剤組成物を間接的に加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燻煙後の臭気の残留を少なくし、かつ、微生物抑制効果及び消臭効果の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の燻煙装置の一例を示す断面図である。
【図2】微生物抑制効果の評価に用いた実験系を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(燻煙剤組成物)
本発明の燻煙剤組成物(以下、単に燻煙剤という)は、銀を含有する薬剤(以下、(A)成分という)と、有機発泡剤(以下、(B)成分という)とを含有するものである。
【0012】
<(A)成分:銀を含有する薬剤>
本発明の(A)成分は、銀を含有する薬剤である。このような(A)成分を用いることで、(A)成分を気化させずに、燻煙対象である室内(対象空間)に拡散することができる。加えて、銀は、殺菌、抗菌、防カビ又は抗カビ等の微生物抑制効果、消臭効果に優れるためである。
(A)成分は、燻煙剤の目的に応じ、従来用いられている銀を含有する無機化合物等を使用することができる。薬剤としては、例えば、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、消臭剤、殺虫剤等として作用する薬剤が挙げられ、中でも、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、消臭剤を好適に用いることができる。
【0013】
(A)成分の気化温度は、後述する(B)成分の気化温度よりも高いことが好ましい。このような(A)成分を用いることで、燻煙処理の際に(A)成分の気化に由来する臭気を防止できる。ここで気化とは、(A)成分が溶液である場合の水等の溶媒の蒸発や、(A)成分が酸化物である場合の酸素が離脱する等の分解反応は含まない。なお、気化温度(沸点)は、熱分析を用いて測定できる。
【0014】
(A)成分としては、例えば、有効成分として、抗菌・殺菌・防カビ・抗カビ・消臭作用を持つ銀単体、銀の酸化物、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩等の無機銀塩、蟻酸塩、酢酸塩等の有機銀塩等の銀化合物が挙げられる。
【0015】
また、(A)成分は、これらの有効成分をゼオライト、シリカゲル、低分子ガラス、リン酸カルシウム、ケイ酸塩、酸化チタン等の物質(以下、担体ということがある)に担持させたもの等が挙げられ、例えば、銀単体、酸化銀、硝酸銀等の無機銀塩、有機銀塩等の銀化合物を担持したゼオライト系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、ケイ酸塩系抗菌剤等が挙げられる。このような(A)成分を用いることで、燻煙処理した後の臭気の残留を防止できる。
中でも、(A)成分としては、臭気の残留をより低減する観点から、銀単体、酸化銀、硝酸銀等の無機銀塩又はこれらを担体に担持させた無機系薬剤が好ましい。
また、(A)成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
(A)成分の形態は特に限定されないが、燻煙の処理対象とする空間の広さ等を勘案して決定できる。(A)成分は、粒子が微細であるほど煙化率を向上できると共に、広域に拡散できる。一方、(A)成分の粒子は、小さすぎると拡散した後に落下しにくくなり、処理対象とする空間の下方への薬剤効果の発現までに時間を要する。例えば、(A)成分の体積平均粒子径は、0.01〜1000μmが好ましく、0.5〜100μmがより好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。本発明の燻煙剤組成物においては、このような比較的大きな粒子径の(A)成分であっても、煙化して拡散することができる。ここで、「煙化」とは、(A)成分を対象空間に拡散できる状態にすることを意味する。
なお、体積平均粒子径は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(LA910、株式会社堀場製作所製)により求められる値をいい、次のようにして測定できる。(A)成分を固形分1質量%となるように蒸留水に分散して試料とする。この試料をレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置に投入し、装置内で超音波による分散後レーザーを照射して粒度分布を測定する。体積頻度の累積が50%(体積)となる径を平均粒子径とする。
【0017】
燻煙剤における(A)成分の配合量は、(A)成分の種類や有効成分濃度、燻煙剤に求める機能に応じて決定することができる。例えば、銀又はその化合物を有効成分とする(A)成分は、燻煙剤中の銀濃度を0.0001〜1質量%とすることが好ましく、0.01〜0.1質量%とすることがより好ましい。上記下限値未満であると、所望する薬剤効果が発揮されにくく、上記上限値を超えて配合しても薬剤の効果が飽和し、さらなる効果の向上が望めないためである。
【0018】
<(B)成分:有機発泡剤>
有機発泡剤である(B)成分は、特に限定されず、従来公知のものを利用できる。
(B)成分としては、加熱により熱分解して多量の熱を発生すると共に、炭酸ガスや窒素ガス等(以下、総じて発泡ガスという)を発生するものが用いられ、例えば、アゾジカルボンアミド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。中でも、分解温度、発泡ガスの発生量等の観点から、アゾジカルボンアミドが好ましい。
これらの(B)成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これら(B)成分は加熱により(A)成分と発泡溶融し(B)成分の熱分解ガスの作用により、(A)成分を有効に煙化させることができる。
【0019】
燻煙剤中の(B)成分の配合量は、(B)成分の種類や(A)成分の粒子径等を勘案して決定することができ、例えば、50〜80質量%が好ましく、60〜70質量%がより好ましい。上記下限値未満であると(A)成分を効率よく拡散できず、上記上限値を超えると(B)成分の多くの分解物(残渣)が飛散して対象空間を汚す傾向にある。
【0020】
<(C)成分:発泡助剤>
本発明の燻煙剤には、発泡助剤である(C)成分を配合できる。(C)成分を配合することで、(B)成分の異常分解を抑制し、発泡ガス以外の物質の発生を抑制することができる。加えて、(C)成分は、(B)成分の発泡温度を低下、即ちより低温で(B)成分を発泡することで、(A)成分の煙化・拡散力を高め、対象空間の隅々まで(A)成分を拡散できる。(C)成分は、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムからなる群から選択される1種以上であり、中でも酸化亜鉛、炭酸カルシウムが好ましく、酸化亜鉛がさらに好ましい。酸化亜鉛は、(B)成分の分解を促進し、(A)成分を速やかに煙化すると共に、広範囲に拡散できる。また、炭酸カルシウムは、(B)成分の異常分解を抑制する効果に優れ、燻煙剤を設置した床等の汚染を抑制できる。
燻煙剤中の(C)成分の配合量は、例えば、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が最も好ましい。
0.1質量%未満では発泡助剤(揮散助剤)としての効果が小さく、20質量%を超えると不安定な発泡となる場合がある。また、(B)成分と(C)成分との質量比は、(B)/(C)=1〜700であることが好ましく、10〜150であることがより好ましい。上記範囲とすることで、(B)成分の発泡性が向上し、(A)成分の煙化・拡散が良好となり、微生物抑制効果をより向上させることができる。
【0021】
<任意成分>
燻煙剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で(A)成分、(B)成分、(C)成分以外の任意成分を配合できる。任意成分としては、例えば、安定剤、結合剤、賦形剤、香料、色素等の添加剤が挙げられる。これらのうち、特に、安定剤、結合剤及び賦形剤のいずれか1種又は2種以上を含有することが好ましい。
【0022】
安定化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドキシアニソール、没食子酸プロピル、エポキシ化合物(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等)等が挙げられる。
結合剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
賦形剤としては、クレー(含水ケイ酸アルミニウム)、タルク、珪藻土、カオリン、ベントナイト、ホワイトカーボン等が挙げられる。
【0023】
<製造方法>
本発明の燻煙剤は、粉状、粒状、錠剤等の固形製剤として調製される。固形製剤は、目的とする剤形に応じて、公知の製造方法を用いて調製することができる。例えば、粒状の製剤とする場合は、押出し造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等、公知の造粒物の製造方法により製造できる。
押出し造粒法による製造方法の具体例としては、燻煙剤の各成分を、ニーダー等により混合し、さらに適量の水を加えて混合し、得られた混合物を一定面積の開孔を有するダイスを用い、前押し出しあるいは横押し出し造粒機を用い造粒する。該造粒物は、さらにカッター等を用いて一定の大きさに切断し乾燥してもよい。
【0024】
<燻煙方法>
本発明の燻煙方法は、本発明の燻煙剤を間接的に加熱するものである。間接的にとは、燻煙剤を燃焼させることなく、(B)成分を熱分解して得られる温度(熱エネルギー)を容器や伝熱面等を介して供給する方法である。例えば、任意の金属製容器、セラミック製容器等の容器に燻煙剤を収容して、前記容器を加熱することによって燻煙できる。燻煙剤を間接的に加熱することで、燻煙剤の燃えカス等による屋内汚染を低減できる。また、後述する燻煙装置に組み込んで、対象空間を燻煙してもよい。対象空間としては、特に限定されず、浴室、居間、押入れ等が挙げられる。
加熱方法は、特に限定されず、従来、間接加熱方式として知られているものを用いることができる。例えば、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法、鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等)との混合、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを混合し酸化反応を利用する方法等が挙げられる。水と接触して発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。中でも、実用性の観点から、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法が好ましく、酸化カルシウムと水との反応熱を利用する方法がより好ましい。
【0025】
本発明の燻煙剤の使用量は、対象空間の容積に応じて適宜設定すればよく、通常、1m当たり、0.1〜2.4gが好ましく、0.4g〜2.0gがより好ましい。
燻煙処理時間(燻煙開始後、対象空間を密閉する時間)は、特に限定されず、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましい。
【0026】
(燻煙装置)
本発明の燻煙装置は、上述した燻煙剤が充填された燻煙剤部と、前記燻煙剤部を加熱する加熱部と、該加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部とを有する。
【0027】
燻煙装置について、一例を挙げて説明する。図1は、本発明の燻煙装置10の断面図である。燻煙装置10は、筐体12と、筐体12の内部に設けられた加熱部20と、筐体12の内部に設けられた燻煙剤部32とで概略構成されている。筐体12は略円筒状の本体14と、底部16と、蓋部18とで構成されている。筐体12内には、燻煙剤容器30が設けられ、燻煙剤容器30には燻煙剤が充填され燻煙剤部32が形成されている。
【0028】
蓋部18は、孔を有するものであり、メッシュ、パンチングメタル、格子状の枠体等が挙げられる。蓋部18の材質は、例えば、金属、セラミック等が挙げられる。
本体14の材質は蓋部18と同じである。
【0029】
燻煙剤容器30は、燻煙剤部32を充填する容器として機能すると共に、加熱部20で生じた熱エネルギーを燻煙剤部32に伝える伝熱部として機能するものである。燻煙剤容器30は、例えば金属製の容器等が挙げられる。
【0030】
加熱部20は、特に限定されず、燻煙剤部32の煙化に必要な熱量を考慮して決定することができ、例えば、水と接触して発熱する物質(例えば、酸化カルシウム等)を充填しておいてもよいし、鉄粉と酸化剤とを仕切り材で仕切って充填しておいてもよいし、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを仕切り材で仕切って充填しておいてもよい。中でも、水と接触して発熱する物質を充填しておくことが好ましく、酸化カルシウムを充填しておくことが好ましい。
【0031】
底部16は、加熱部20の機構に応じて決定することができ、例えば、加熱部20が水と接触して発熱する物質(酸化カルシウム等)により構成されている場合、底部16には不織布や金属製のメッシュ等を用いることができる。底部16を不織布やメッシュとすることで、底部16から水を加熱部20内に浸入させ加熱することができる。
【0032】
燻煙装置10を用いた燻煙方法について説明する。まず、燻煙装置10を対象空間内に設置する。次いで、加熱部20の機構に応じて加熱部20を発熱させる。例えば、酸化カルシウムを充填した加熱部20が設けられている場合、底部16を水に浸漬する。加熱部20が発熱すると、燻煙剤容器30を介して燻煙剤部32が加熱される。加熱された燻煙剤部32の燻煙剤は、その(B)成分の分解によりガスを生じ、生じたガスと共に(A)成分が煙化し、蓋部18の孔を通過して拡散する。こうして、対象空間内に(A)成分が拡散することで、微生物抑制効果や消臭効果を得ることができる。
【0033】
以上、説明したとおり、(A)成分は、抗菌、殺菌、防カビ、抗カビ、消臭等の微生物抑制効果に優れるため、対象空間の臭気発生源となる微生物を減少させ、また、微生物の増殖を防止できる。(A)成分は、カビ等の微生物と接触すると短時間で微生物抑制効果を発揮する。一方、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメイト(IPBC)や2−イソプロピル−5−メチルフェノール(IPMP)等の有機系薬剤は、殺菌等の処理対象となる部分(例えば、天井等)に長時間滞留することで殺菌作用を示す。このように、本発明の燻煙剤は、浴室のように、湿気が多く、薬剤が長時間滞留しにくいような場所においても、従来の燻煙剤に比べ、高い微生物抑制効果及び消臭効果を発揮できる。
加えて、(B)成分の一般的な気化温度(200〜300℃)では気化しない(A)成分を有効成分とすることで、(A)成分を気化させずに対象空間に拡散できる。(A)成分は、元来、臭気が低い。また、(A)成分自体は熱分解しにくいため、刺激性の高い副生物や、異臭を発する副生物を生じない。このため、従来の燻煙剤の有効成分として用いられていた有機物のように、燻煙処理時の有効成分の気化による臭気の発生を抑制できる。
さらに(B)成分に(C)成分を組み合わせることにより、(B)成分をより低い温度で安定的に気化すること可能となり(A)成分を対象空間の隅々まで効率的に燻煙しやすくなる。
(A)成分を無機銀塩や無機銀塩を担体に担持した無機系薬剤とすることで、有効成分が分解されず、細菌やカビと接触した後も長期にわたってその効力を維持することができる。
【0034】
本発明の燻煙装置は、燻煙剤を間接的に加熱するものであり、すり板式燻煙剤のように燻煙剤自体を燃焼させる炎の発生がない。また、エアゾールのように可燃性ガス等を用いない。従って、ガスを用いた風呂釜が設置されている環境下においても、取り扱いが容易である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(使用原料)
<(A)成分:銀を含有する薬剤>
A−1:銀担持シリカ・アルミナ系無機抗菌剤(商品名:ATOMY BALL−(UA)、体積平均粒子径15nm、銀含量0.07質量%、日揮触媒化成株式会社製)
A−2:銀担持ケイ酸塩系無機抗菌剤(商品名:AIS−NAZ320、体積平均粒子径2μm、銀含量1.2質量%、日揮触媒化成株式会社製)
A−3:銀担持ゼオライト系無機抗菌剤(商品名:セラメディックCW、体積平均粒子径2μm、真比重2g/cm(20℃)、嵩比重0.4g/cm(20℃)、銀含量0.6質量%、株式会社シナネンゼオミック製)
A−4:酸化銀(特級、体積平均粒子径0.1μm、和光純薬工業株式会社製)
A−5:銀担持ゼオライト系無機抗菌剤(商品名:ゼオミックAJ10N、体積平均粒子径2.5μm、真比重2g/cm(20℃)、嵩比重0.4g/cm(20℃)、銀含量2.5質量%、株式会社シナネンゼオミック製)
【0036】
<(A’)成分:(A)成分の比較品>
A’−1:3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメイト(IPBC)(商品名:Glycacil 2000、ロンザジャパン株式会社製)
A’−2:2−イソプロピル−5−メチルフェノール(IPMP)(試薬鹿特級、関東化学株式会社製)
【0037】
<(B)成分:有機発泡剤>
B−1:アゾジカルボンアミド(ADCA)(商品名:ダイブローAC.2040(C)、大日精化工業株式会社製)
【0038】
<(C)成分:発泡助剤>
C−1:酸化亜鉛(日本薬局方 酸化亜鉛、平均粒径0.6μm、真比重5.6g/cm(20℃)、堺化学工業株式会社製)
C−2:炭酸カルシウム(試薬鹿1級、関東化学株式会社製)
C−3:リン酸三カルシウム(食品添加物、関東化学株式会社製)
【0039】
<その他成分>
結合剤:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(商品名:メトローズ60SH−50、信越化学工業株式会社製)
賦形剤:クレー(商品名:NK−300、昭和KDE株式会社製)
【0040】
(評価方法)
<微生物抑制効果の評価>
≪対カビ評価≫
[暴露試験]
図2に示す実験系100を用い、暴露試験を行った。図2に示すように、1818mmタイプ(メーターモジュール用)の浴室と同体積で、密閉可能な評価室102を対象空間として用意した。評価室102の床104の略中央部に、加熱装置110を設置した。加熱装置110は、ホットプレート上にアルミニウム箔を敷いて作製した。評価室102の天井106には、カビ付き平板培地120、130を設置し、評価室102の床104には、カビ付き平板培地140を設置した。カビ付き平板培地120は、加熱装置110の略真上に位置するものとし、カビ付き平板培地130は、天井106の隅部に位置するものとした。
【0041】
各例の燻煙剤を加熱装置110のアルミニウム箔上に載せ、350℃に設定したホットプレートで加熱した。ホットプレートでの加熱は、燻煙剤からの発煙開始10分後に停止した。燻煙試験1では発煙開始90分後、燻煙試験2では30分後に、評価室102内の空気を排気し暴露試験を終了した。
【0042】
[カビ付き平板培地の作製]
ポテトデキストロース寒天(Difco社製)の斜面培地にて25℃、1週間培養したCladosporium cladosporioides HMC1064(浴室分離菌、以下、評価用カビという)を用意した。別途、ポテトデキストロース寒天(Difco社製)をシャーレに充填し、初期平板培地を用意した。初期平板培地の中央に、鉤形にしたニクロム線を用いて、評価用カビを1点接種し、25℃で3日間培養した。こうして、培養により平板培地にカビのコロニーが形成されたカビ付き平板培地120(効果1用)、130(効果2用)、140(効果3用)を作製した。カビ付き平板培地120、130、140それぞれの暴露試験前のカビコロニーの直径を初期直径とした。
【0043】
[暴露試験の効果測定]
暴露試験後のカビ付き平板培地120、130、140を回収し、回収したカビ付き平板培地120(効果1:燻煙剤真上)、130(効果2:天井の隅部)、140(効果3:床)を25℃で5日間培養し、下記評価基準に従い、対カビ効果を評価した。
【0044】
[評価基準]
5日間培養した後、カビコロニーの直径(培養後直径)を測定し、下記(1)式により直径差を求めた。
求めた直径差を下記基準に従って分類し、対カビ評価とした。
A:直径差が0〜10mm
B:直径差が10mm超、15mm以下
C:直径差が15mm超
【0045】
直径差(mm)=培養後直径(mm)−初期直径(mm) ・・・(1)
【0046】
≪対酵母評価≫
[暴露試験]
カビ付き平板培地120(効果1:燻煙剤真上)、130(効果2:天井の隅部)、140(効果3:床)を下記の酵母付き平板培地に換えた以外は、対カビ評価と同様にして暴露試験を行った。
【0047】
[酵母付き平板培地の作製]
ポテトデキストロース寒天の平板培地にて25℃、2日間培養したRhodotorula rubra HIC3420(浴室分離菌、以下、評価用酵母という)を、滅菌した0.05質量%Tween80水溶液にて初発菌数が1×10〜3×10CFU/mLとなるように調整し菌液とした。別途、ポテトデキストロース寒天(Difco社製)をシャーレに充填し、初期平板培地を用意した。初期平板培地に前記菌液0.1mLを塗抹接種し、酵母付き平板培地を作製した。
【0048】
[暴露試験の効果測定]
暴露試験後の酵母付き平板培地を回収し、回収した酵母付き平板培地を25℃で5日間培養した。別途、暴露試験に供さない酵母付き平板培地を同様に培養した。培養後、発現したコロニーを計数し、下記評価基準に従い、対酵母効果を評価した。
【0049】
[評価基準]
培養後菌数を常用対数に変換し、下記(2)式によりΔlogを求めた。求めたΔlogを下記基準に従って分類し、対酵母評価とした。
A:Δlogが2以上
B:Δlogが1以上2未満
C:Δlogが1未満
【0050】
Δlog=log(暴露試験に供さない酵母付き平板培地の培養後菌数)−log(暴露試験に供した酵母付き平板培地の培養後菌数) ・・・(2)
【0051】
<消臭評価、基剤臭残留評価>
≪暴露試験≫
一般的な家庭で使用されている浴室(1818mmタイプ(メーターモジュール用)の浴室)内の床面の略中央部にホットプレートを設置し、該ホットプレートにアルミニウム箔を敷いた加熱装置を用意した。該加熱装置のアルミニウム箔上に各例の燻煙剤を載せ、350℃に設定したホットプレートで加熱した。ホットプレートでの加熱は、燻煙剤からの発煙開始10分後に停止した。発煙開始90分後に、浴室内の空気を排気し暴露試験を終了した。暴露試験終了後、3名のパネラーが6段階強度表示法により浴室内の臭気を確認した。
【0052】
≪消臭評価≫
消臭評価は、3名のパネラーが暴露後の浴室臭気(暴露後臭気)について、暴露試験前の浴室内の臭気(初期臭気)を対象とし、6段階強度表示法により採点し、3名の採点結果の平均点を下記評価基準に従って分類し、消臭評価とした。
【0053】
≪基剤臭残留評価≫
基剤臭残留評価は、3名のパネラーが暴露後臭気について、基剤臭(燻煙剤由来の臭気)を対象とし6段階強度表示法により採点した。3名の採点結果の平均点を下記評価基準に従って分類し、消臭評価とした。
【0054】
≪6段階強度表示法≫
0点:臭気は感じられない
1点:臭気をやっとかすかに感じる(検知閾値)
2点:対象とする臭気をらくに感じる(臭気の性質を想像しうる認知閾値)
3点:対象とする臭気を明らかに感じる
4点:対象とする臭気を強く感じる
5点:対象とする臭気を著しく強く感じる
【0055】
≪評価基準≫
A:1点未満
B:1点以上、2点未満
C:2点以上、3点未満
D:3点以上
【0056】
(実施例1〜29、比較例1〜4)
表1〜5に示す組成に従い、各成分をニーダー(S5−2G型、株式会社モリヤマ製)で攪拌混合した後、水を加えて混合し混合物を得た。得られた混合物を直径2mmの開孔を有するダイスの前押し出し造粒機(EXK−1、株式会社不二パウダル製)を用い造粒し造粒物を得た。得られた造粒物を長さ2〜5mmに切断し、70℃に設定した乾燥機(RT−120HL、アルプ株式会社製)により乾燥させ、顆粒状の燻煙剤を得た。得られた燻煙剤について、表1〜5に記載の使用量を用いて、微生物効力の評価、消臭評価、基剤臭残留評価を行い、その結果を表1〜5に示す。
表中の(A−1)〜(A−3)、(A−5)の組成(質量%)はAg量として記載した。また、表中、微生物効力の対カビ効果の欄には直径差の値、対酵母評価の欄にはΔlogの値、消臭評価及び基剤臭評価には平均点をそれぞれカッコ内に記載した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表1〜5の実施例1〜29の結果のとおり、本発明の燻煙剤は、カビ及び酵母に対して優れた微生物抑制効果を示した。加えて、本発明の燻煙剤は、浴室の消臭効果が高く、かつ基剤臭の残留が少なかった。
(A)成分、(B)成分に(C)成分を併用した実施例19〜29(表4〜5)は、(C)成分を配合しない実施例1〜18に比べ、カビに対する微生物抑制効果が向上した。中でも、(C)成分として酸化亜鉛を用いた実施例22は、(C)成分の種類を変えた実施例23、24に比べて微生物抑制効果の向上が見られた。加えて、(B)成分/(C)成分=10〜140(質量比)とした実施例19〜24、26、27、29には、微生物抑制効果のさらなる向上が見られた(燻煙試験1、カビ評価2)。
【0063】
一方、(A)成分に換えて有機系薬剤であるIPBCを用いた比較例1〜3は、カビに対する微生物抑制効果はあるものの、浴室の消臭効果が低く、かつ基剤臭が残留していた。また、(A)成分に換えて有機系薬剤であるIPMPを用いた比較例4は、カビ及び酵母に対する微生物抑制効果が低かった。加えて、比較例4は、浴室の消臭効果が低く、基剤臭が残留していた。
【0064】
実施例6及び8と、これらの実施例の(A)成分と同量の(A’)成分を配合した比較例3との比較において、本発明の燻煙剤は薬剤の配合量が同じであれば、より高い微生物抑制効果と消臭効果を奏していた。
【0065】
以上の結果から、(A)成分を用いることで、微生物抑制効果、消臭効果の向上が図れると共に、基剤臭の残留を抑制できることが判った。
【符号の説明】
【0066】
燻煙装置 10
加熱部 20
燻煙剤容器 30
燻煙剤部 32

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含有する薬剤と、有機発泡剤とを含有することを特徴とする燻煙剤組成物。
【請求項2】
前記薬剤は、体積平均粒子径0.01〜1000μmであることを特徴とする、請求項1に記載の燻煙剤組成物。
【請求項3】
前記有機発泡剤は、アゾジカルボンアミドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燻煙剤組成物。
【請求項4】
さらに、発泡助剤として酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムからなる群から選択される1種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燻煙剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燻煙剤組成物を充填した燻煙剤部と、加熱部と、該加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部とを有することを特徴とする、燻煙装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燻煙剤組成物を間接的に加熱することを特徴とする、燻煙方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12051(P2011−12051A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115502(P2010−115502)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】