説明

片末端に芳香環を有するオレフィン重合体及びその用途

【課題】重合体の片末端部位に芳香環を有する重合体、及びそれを用いた樹脂添加剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式などで示される片末端に芳香環を有するオレフィン重合体。


(式中、Aは、炭素数2〜20のオレフィンの重合体である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香環含有重合体とその用途に関する。さらに詳細には、重量平均分子量が400〜500000であり、かつ片末端部位に芳香環を有する新規な重合体、ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系重合体あるいはα−オレフィン重合体は、コスト的、機械的特性に優れ、様々な樹脂製品の原料として最も幅広く使用されている。しかしながら、分子構造が非極性であり、他物質との親和性に乏しいため、各種の官能基を導入することが試みられている。
【0003】
例えば、片末端に二重結合を含有するα−オレフィン重合体の末端をヒドロキシル化、エポキシ化、マレイン化、スルホン化、シリル化、ハロゲン化変性した重合体などが報告されている(例えば特許文献1、2)。
【0004】
一方芳香環を導入した重合体は、持続性や樹脂との相溶性に優れた芳香環を有する様々な樹脂添加剤を提供できることが期待されるが、特許文献3で片末端に二重結合を含有する低分子量ポリエチレンのアルキルフェノール化も報告があるのみで、芳香環を導入する一般的な手法を確立した報告例はない。また特許文献3の重合体群は、原料である片末端に二重結合を含有する重合体の分子量が低く、生成する重合体の官能基含有率が低いことなどから使用できる用途の範囲が限られていた。
【0005】
【特許文献1】特公平7−91338号公報
【特許文献2】特開2003−73412号公報
【特許文献3】特開昭56−95969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、重合体の片末端部位に芳香環を有する重合体、及びそれを用いた樹脂添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、オレフィン重合体の片末端にフェノール誘導体を導入した重合体により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 一般式(I)又は(II)で示される片末端に芳香環を有するオレフィン重合体、
【0009】
【化1】

(I)
【0010】
(式中、Aは、炭素数2〜20のオレフィンの重合体であり、重量平均分子量が400〜500,000のものを表し、R、Rは同一または相異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表し、Zはハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、窒素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、またはヘテロ環式化合物残基を表し、iはZの個数であって0〜4の整数を表し、iが2以上の場合には複数あるZは互いに同一でも相異なっていてもよい。)
【0011】
【化2】

(II)
【0012】
(式中、A、R、RおよびZは一般式(I)で定義した通りであり、iはZの個数であって0〜5の整数を表す。)
【0013】
(2) 一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体と一般式(IV)で示されるフェノール誘導体との反応で得られる、片末端に芳香環を有するオレフィン重合体、
【0014】
【化3】

(III)
【0015】
(式中、A、R、RおよびZはA、R、RおよびZは一般式(I)で定義した通りであり、二重結合の幾何異性はシス、トランスのどちらの配置でもよい。)
【0016】
【化4】

(IV)
【0017】
(式中、Zは一般式(I)で定義した通りであり、iはZの個数であって0〜5の整数を表し、iが2以上の場合には複数あるZは互いに同一でも相異なっていてもよい。)
【0018】
(3) 前記(1)又は(2)に記載の芳香環を有する重合体を含む酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤に関するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により重合体の片末端部位に芳香環を有する重合体を提供することができる。該芳香環含有重合体は高価なモノマー原料を使用しないため経済性の面においても有利である。また、本発明の新規な芳香環含有重合体により、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌・抗カビ剤等に適した材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の片末端部位に芳香環を含有する重合体は、前記一般式(I)又は(II)で示される重合体である。
【0021】
一般式中、Aで表される基を形成する炭素数2〜20のオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどのオレフィンが挙げられ、重合体としては、これらのオレフィンの単独あるいは相互の重合体あるいは、特性を損なわない範囲で他の重合性の不飽和化合物と共重合したものであっても良い。この中でも特にエチレン、プロピレン、ブテンが好ましい。
【0022】
一般式において、Aで表される基のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略す)により測定した重量平均分子量(Mw)は400〜500000であり、好ましくは800〜200000,更に好ましくは1000〜100000である。
【0023】
一般式においてAで表される基のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)は、1.0〜4.0が好ましく、より好ましくは1.0〜3.0、更に好ましくは1.0〜2.5の範囲である。
【0024】
重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ミリポア社製GPC−150を用い以下のようにして測定した。すなわち、分離カラムは、TSK GNH HTであり、カラムサイズは直径7.5mm、長さ300mmのものを使用した。カラム温度は140℃とし、移動相にはオルトジクロルベンゼン(和光純薬)及び酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025質量%を用い、1.0ml/分で移動させた。試料濃度は0.1質量%とし、試料注入量は500マイクロリットルとした。検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは東ソー社製を用いた。
【0025】
一般式中、R、Rとしては、Aを構成するオレフィンの二重結合に結合した置換基である水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素残基であり、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基などである。
【0026】
一般式中、Zは、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、窒素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、またはヘテロ環式化合物残基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して芳香族環、脂肪族環またはヘテロ原子を含む炭化水素環を形成していてもよく、これらの環はさらに置換基を有していてもよく、iが2以上の場合には、Zで示される複数の基は互いに同一でも相異なっていてもよく、またZで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0027】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0028】
炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基などの炭素原子数が1〜30、好ましくは1〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素原子数が2〜30、好ましくは2〜20の直鎖状または分岐状のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基など炭素原子数が2〜30、好ましくは2〜20の直鎖状または分岐状のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素原子数が3〜30、好ましくは3〜20の環状飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素数5〜30の環状不飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数が6〜30、好ましくは6〜20のアリール基;トリル基、イソプロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基などのアルキル置換アリール基などが挙げられる。
【0029】
上記炭化水素基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよく、たとえば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、クロロフェニル基などの炭素原子数1〜30、好ましくは1〜20のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、他の炭化水素基で置換されていてもよく、たとえば、ベンジル基、クミル基などのアリール基置換アルキル基などが挙げられる。
【0030】
さらにまた、上記炭化水素基は、ヘテロ環式化合物残基;アルコシキ基、アリーロキシ基、エステル基、エーテル基、アシル基、カルボキシル基、カルボナート基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、カルボン酸無水物基などの酸素含有基;アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基、アミノ基がアンモニウム塩となったものなどの窒素含有基;メルカプト基、チオエステル基、ジチオエステル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオアシル基、チオエーテル基、チオシアン酸エステル基、イソチアン酸エステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフェニル基などのイオウ含有基;ホスフィド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスファト基などのリン含有基;またはシリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基などのケイ素含有基を有していてもよい。
【0031】
酸素含有基、窒素含有基、イオウ含有基、リン含有基としては、上記例示したものと同様のものが挙げられる。ヘテロ環式化合物残基としては、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含硫黄化合物などの残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に炭素原子数が1〜30、好ましくは1〜20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基などが挙げられる。
【0032】
ケイ素含有基としては、シリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基など、具体的には、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチル-t-ブチルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基などが挙げられる。これらの中では、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基などが好ましい。特にトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基が好ましい。炭化水素置換シロキシ基として具体的には、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
【0033】
次に上記で説明したZの例について、より具体的に説明する。アルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
【0034】
アルキルチオ基として具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。アリーロキシ基として具体的には、フェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、トリメチルフェノキシ基などが挙げられる。アリールチオ基として具体的には、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0035】
アシル基として具体的には、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、クロロベンゾイル基、メトキシベンゾイル基などが挙げられる。エステル基として具体的には、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、クロロフェノキシカルボニル基などが挙げられる。
【0036】
チオエステル基として具体的には、アセチルチオ基、ベンゾイルチオ基、メチルチオカルボニル基、フェニルチオカルボニル基などが挙げられる。アミド基として具体的には、アセトアミド基、N-メチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基などが挙げられる。イミド基として具体的には、アセトイミド基、ベンズイミド基などが挙げられる。アミノ基として具体的には、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
【0037】
イミノ基として具体的には、メチルイミノ基、エチルイミノ基、プロピルイミノ基、ブチルイミノ基、フェニルイミノ基などが挙げられる。スルホンエステル基として具体的には、スルホン酸メチル基、スルホン酸エチル基、スルホン酸フェニル基などが挙げられる。スルホンアミド基として具体的には、フェニルスルホンアミド基、N-メチルスルホンアミド基、N-メチルトルエンスルホンアミド基などが挙げられる。
【0038】
炭化水素置換シリル基として具体的には、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチルブチルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基などが挙げられる。炭化水素置換シロキシ基として具体的には、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
さらにZは、これらのうちの2個以上の基、好ましくは隣接する基が互いに連結して脂肪環、芳香環または、窒素原子などの異原子を含む炭化水素環を形成していてもよく、これらの環はさらに置換基を有していてもよい。
【0039】
<片末端部位に芳香環を有するオレフィン重合体の製造方法>
一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、以下の方法を例示することができる。
【0040】
【化5】

(III)
【0041】
(i)特開2000−239312号公報、特開2001−2731号公報、特開2003−73412号公報などに示されているようなサリチルアルドイミン配位子を有する遷移金属化合物を重合触媒として用いる重合方法。
(ii)チタン化合物と有機アルミニウム化合物とからなるチタン系触媒を用いる重合方法。
(iii)バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒を用いる重合方法。
(iv)ジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)とからなるチーグラー型触媒を用いる重合方法。
【0042】
上記(i)〜(iv)の方法の中でも、特に(i)の方法によれば、上記オレフィン重合体を収率よく製造することができる。(i)の方法では、上記サリチルアルドイミン配位子を有する遷移金属化合物の存在下で、前述したオレフィンを重合又は共重合することで上記片末端二重結合含有重合体を製造することができる。
【0043】
(i)の方法によるオレフィンの重合は、溶解重合、懸濁重合などの液相重合法又は気相重合法のいずれによっても実施できる。詳細な条件などは既に公知であり上記特許文献を参照することができる。
【0044】
本発明の樹脂中の、1H-NMRで測定されたビニル、ビニレン又はビニリデン型の二重結合の割合(以下の説明では、この割合を「片末端二重結合基含有率」と称する)は、全片末端の50%以上であり、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。1H-NMRについては、測定サンプル管中で樹脂を、ロック溶媒と溶媒を兼ねた重水素化-1,1,2,2-テトラクロロエタンに完全に溶解させた後、120℃において測定した。ケミカルシフトは、重水素化-1,1,2,2-テトラクロロエタンのピークを5.92ppmとして、他のピークのケミカルシフト値を決定した。
【0045】
例えば、エチレンのみからなる低分子量重合体中の片末端二重結合基含有率は、1H-NMRによって以下のように決定される。該重合体の各プロトンのピークは、末端の飽和メチル基に基づく3プロトン分のピーク(A)が0.65〜0.85ppm、ビニル基に基づく3プロトン分のピーク(B)が4.70〜5.0ppmと5.5〜5.8ppmに観測される。各ピーク(A)および(B)のピーク面積を各々SおよびSとすれば、二重結合含有率(U%)は、下記式にて算出される。

U(%)=S×200/(S+S
【0046】
(i)の方法によって得られるポリオレフィンの分子量は、重合系に水素を存在させるか、重合温度を変化させるか、又は使用する触媒の種類を変えることによって調節することができる。
【0047】
次に、一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体すなわち上記片末端二重結合含有重合体と一般式(IV)で示されるフェノール誘導体との反応で得られる、片末端部位に芳香環を有するオレフィン重合体の製造方法について以下に示す。
【0048】
かかる重合体の製造方法は特に限定されるものではないが、以下の方法を例示することができる。
【0049】
一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体と一般式(IV)で示されるフェノール誘導体とを酸触媒の存在下に反応させることで得られる。
【0050】
酸触媒としては例えば、アルミニウムなどの金属類、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸類、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類、アンバーリスト-15(登録商標)等の固体酸類、三フッ化ホウ素エーテル錯体、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズ、二塩化亜鉛等のルイス酸を挙げることができる。
【0051】
触媒の使用量は、片末端二重結合含有重合体に対して、0.01〜10質量倍が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量倍、最も好ましくは0.5〜2質量倍である。これらの触媒は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いても構わない。
【0052】
本反応は、溶媒の非存在下に実施することもできるし、また溶媒の存在下に実施することもできる。用いる場合の溶媒としては特に限定されないが、例えばn-ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロルエタン、トリクロルエタン、パークロルエタン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。原料の片末端二重結合基含有重合体がその溶媒に対して不溶でない限り、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。溶媒の使用量は原料の溶解性に作用するが、片末端二重結合基含有重合体に対し0〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍、更に好ましくは2〜20質量倍である。
【0053】
反応させる片末端二重結合基含有重合体とフェノール誘導体との比は特に限定されないが、通常はフェノール誘導体過剰の条件下に行われ、過剰のフェノール誘導体を溶媒として用いることもでき、片末端二重結合基含有重合体に対し1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍、更に好ましくは2〜30質量倍である。
【0054】
反応温度は、25〜300℃が好ましく、より好ましくは50〜250℃、更に好ましくは80〜200℃である。使用する化合物、溶媒によっては反応温度が沸点を超える場合があるためオートクレーブ等適切な反応装置を選択する。反応時間は使用する触媒の量、反応温度、重合体類の反応性等の反応条件により変わるが、通常数分から50時間である。
【0055】
反応後は晶析操作、洗浄等の簡単な操作により、触媒、過剰のフェノール誘導体および反応溶媒を除去して目的とする芳香環含有重合体を得ることができる。
【0056】
製造される重合体の構造としては、具体的には一般式(I)または(II)で示される構造などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、製造中に一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体の二重結合の位置が内部へと異性化して得られる重合体との反応によって得られる構造等も含む。すなわち、重合体に対しての芳香環の結合位置は、一般式(I)または(II)で示される位置に限定されない。また、(IV)で示されるフェノール誘導体における重合体基の結合位置は水酸基(−OH基)に対して芳香環のオルト、メタ、パラ位のいずれであってもよい。
【0057】
【化6】

(I)
【0058】
【化7】

(II)
【0059】
<片末端部位に芳香環を有するオレフィン重合体の用途>
本発明の片末端部位に芳香環を含有する重合体は、樹脂との相溶性に優れ、樹脂表面へのブリードアウトを抑制することができるので、例えば酸化防止性、紫外線吸収性、抗菌性、防曇性、感光性、発色性、キレート性等を有する各種化合物を導入することによって従来よりも持続性のよい樹脂添加剤として用いることが可能である。
【0060】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体は、ワックスなどの公知の低分子量ポリエチレンが用いられる用途に広く利用することができる。この際には、必要に応じて種々の添加剤を添加して用いることもできる。
【0061】
たとえば本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体を塗料改質剤として用いると、塗膜表面を改質することができる。たとえば艶消し効果に優れ、塗膜の耐摩耗性を向上させることができ、木工塗料に高級感を付与することができ、耐久性を向上させることができる。
【0062】
また本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体をカーワックス、フロアーポリッシュなどの艶出し剤として用いると、光沢に優れ、塗膜物性を向上させることができる。
【0063】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体はクレヨン、ローソクなどの天然ワックスへの配合剤として好適であり、表面硬度および軟化点を向上させることができる。
【0064】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体は樹脂成形用離型剤として好適であり、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂に離型性を付与して成形サイクルを向上させることができる。
【0065】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体はゴムとの相溶性に優れており、ゴムに離型性を付与し、粘度調整をするゴム加工助剤として好適である。ゴム加工助剤として用いたときにはフィラーおよび顔料の分散性を向上させ、ゴムに離型性、流動性を付与するのでゴム成形時の成形サイクル、押出特性を向上させることができる。
【0066】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体は紙の滑性、表面改質を改良する紙質向上剤として好適であり、紙質向上剤として用いたときには、防湿性、光沢、表面硬度、耐ブロッキング性、耐摩耗性を向上させることができ、紙に高級感を付与し、耐久性を向上させることができる。
【0067】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体はインキ用耐摩耗性向上剤として好適であり、耐摩耗性向上剤として用いたときには、インキ表面の耐摩耗性、耐熱性を向上させることができる。
【0068】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体は繊維加工助剤として好適であり、繊維を樹脂加工する際に繊維加工助剤として用いたときには、繊維に柔軟性、滑性を付与することができる。
【0069】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体はホットメルト添加剤として好適であり、ホットメルト接着剤に耐熱性、流動性を付与することができる。自動車、建材などの耐熱性が要求される分野でのホットメルト接着剤の品質を向上させることができる。
【0070】
本発明に係る片末端部位に芳香環を含有する重合体は電気絶縁剤として好適であり、たとえばフィルムコンデンサーの電気絶縁性、耐熱性を向上させることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0072】
[製造例1]
原料の片末端二重結合含有エチレン重合体は以下のように製造した。
【0073】
触媒は下記式(V)で示される触媒をWO02/49995号公報のExample 1 に従って合成した。
【0074】
【化8】

(V)
【0075】
充分に窒素置換した内容積1000mLのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン500mlを装入し、室温でエチレン100リットル/hrで15分間、液相及び気相を飽和させた。続いて80℃に昇温した後、エチレン8kg/cm2Gに昇圧し、温度を維持した。MMAO(東ソーファインケム社製)のヘキサン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/mL)0.5mL(0.5mmol)を圧入し、ついで化合物(V)のトルエン溶液(0.0002mmol/mL)1mL(0.0002mmol)を圧入し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、80℃で15分間重合を行った後、5mLのメタノールを圧入することにより重合を停止した。得られたポリマー溶液から溶媒を留去し、130℃にて10時間減圧乾燥した。
【0076】
得られた片末端二重結合含有エチレン重合体は16.0gであり、物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C6D6) 0.81(t, 3H, J = 6.9 Hz), 1.10 - 1.45 (m), 1.95 (m, 2H), 4.84 (dd, 1H, J = 9.2, 1.6 Hz), 4.91 (dd,1H, J = 17.2, 1.6 Hz), 5.67 - 5.78 (m, 1H)
融点(Tm)116℃(DSC)
Mw=1490,Mw/Mn=2.5(GPC)
片末端ビニル化率=94%(H−NMRから計算)
【0077】
[製造例2]
充分に窒素置換した内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン500mlを装入し、室温でエチレン100リットル/hrで15分間、液相及び気相を飽和させた。続いて50℃に昇温した後、エチレン8kg/cm2Gに昇圧し、温度を維持した。MMAO(東ソーファインケム社製)のヘキサン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/ml)0.25ml(0.25mmol)を圧入し、ついで特開2003−73412号公報の合成例2に記載の方法で合成した化学式(VI)
【0078】
【化9】

(VI)
【0079】
で表される化合物1のトルエン溶液(0.0005mmol/ml)0.4ml(0.0002mmol)を圧入し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、50℃で15分間重合を行った後、5mlのメタノールを圧入することにより重合を停止した。得られたポリマー溶液から溶媒を留去し、80℃にて10時間減圧乾燥した。
【0080】
得られた末端不飽和ポリエチレンは21.82gであり、物性は以下の通りである。
Mw=4820、Mw/Mn=2.07(GPC)
片末端ビニル化率=94.2%(H−NMRから計算)
【0081】
[実施例1]
200 mLセパラブルフラスコに、製造例1で製造した片末端二重結合含有エチレン重合体19.0 g、フェノール40 g、トルエン50 gを仕込み、110℃で撹拌しながら重合体を完全に溶解させた。ついで、硫酸30 mgを添加して、110℃で10時間撹拌した。その後アセトン水溶液を加え、反応生成物を晶析させ、固体をろ取した。得られた固体をメタノール水溶液で2回、メタノールで2回、最後にアセトンで1回撹拌洗浄した後、固体をろ取した。その後、室温にて減圧下乾燥させることにより、反応生成物の固体18.7 gを得た。生成物は一般式(I)で示される重合体(一般式(I)においてA:エチレンの重合により形成される基(Mw=1490)、R、RおよびZ:水素原子、i=4、芳香環はオルト-2置換ベンゼン)と一般式(II)で示される重合体(一般式(II)においてA:エチレンの重合により形成される基(Mw=1490)、R、RおよびZ:水素原子、i=5)の1:10の混合物であった。主生成物(一般式(II)で示される重合体)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.95 (m, 6H), 0.95-1.80 (m), 4.25-4.33 (m, 1H), 6.80-6.89 (m, 3H), 7.16-7.24 (m, 2H)
【0082】
[実施例2]
実施例1において、硫酸の代わりにp−トルエンスルホン酸一水和物を用いた以外は実施例1と同様の方法により反応を行い、同様の重合体を得た。
【0083】
[実施例3]
実施例1において、フェノールの代わりに2−ter−ブチル−4−メチルフェノールを用いた以外は実施例1と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例1に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.90 (m, 6H), 0.90-1.75 (m), 2.09 (s, 9H), 2.23 (s, 3H), 4.25-4.36 (m, 1H), 6.56-6.64 (m, 1H), 6.76-6.96 (m, 2H)
【0084】
[実施例4]
実施例1において、フェノールの代わりにヒドロキノンを用いた以外は実施例1と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例1に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.95 (m, 6H), 0.95-1.80 (m), 4.05-4.45 (m, 1H), 6.40-7.00 (m, 4H)
【0085】
[実施例5]
実施例1において、フェノールの代わりに4,4’―イソプロピリデンジフェノールを用いた以外は実施例1と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例1に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.68-0.90 (m, 6H), 0.95-1.80 (m), 4.42-4.60 (m, 1H), 6.60-7.20 (m, 8H)
【0086】
[実施例6]
実施例1において、フェノールの代わりに2,2’―メチレンビス(4−クロロフェノール)を用いた以外は実施例1と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例1に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.78-0.95 (m, 6H), 0.95-1.80 (m), 3.72-3.90 (m, 3H), 6.65-7.20 (m, 6H)
【0087】
[実施例7]
50 mLフラスコにアルミニウム粉末48 mg、フェノール2.5 gを仕込み、130℃で1.5時間撹拌した。ついで、この溶液に1,2,4−トリクロロベンゼン2.5 gおよび、製造例1で製造した片末端二重結合含有エチレン重合体1.51 gを加え、180℃にて7時間撹拌した。その後、1モル/L塩酸水溶液を添加し反応を停止させ、更にアセトンを加えて反応生成物を晶析させた後、固体をろ取した。得られた固体を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とメタノールの混合溶液で撹拌洗浄し、更にメタノール水溶液、メタノール、アセトンで順次撹拌洗浄した後、固体をろ取した。その後、室温にて減圧下乾燥させることにより、反応生成物の固体1.61 gを得た。生成物は一般式(I)で示される重合体(一般式(I)においてA:エチレンの重合により形成される基(Mw=1490)、R、RおよびZ:水素原子、i=4)と一般式(II)で示される重合体(一般式(II)においてA:エチレンの重合により形成される基(Mw=1490)、R、RおよびZ:水素原子、i=5)の5:1の混合物であった。主生成物(一般式(I)で示される重合体)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.78-0.93 (m, 6H), 0.95-1.70 (m), 2.94-3.03 (m, 1H), 6.69 (dd, 1H, J = 0.99, 7.58 Hz), 6.85 (dt, 1H, J = 0.99, 7.58 Hz), 7.00 (dt, 1H, J = 1.65, 7.58 Hz), 7.10 (dd, 1H, J = 1.65, 7.58 Hz)
【0088】
[実施例8]
実施例7において、製造例1で製造した片末端二重結合含有エチレン重合体の代わりに製造例2で製造した片末端二重結合含有エチレン重合体を用いた以外は実施例7と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例7に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.95 (m), 0.95-1.80 (m), 2.95-3.04 (m), 4.25-4.33 (m), 6.67-7.23 (m)
【0089】
[実施例9]
実施例7において、フェノールの代わりにp−ter−ブチルフェノールを用いた以外は実施例7と同様の方法により反応を行い、片末端部位に芳香環を有するポリオレフィン重合体を得た。主生成物(実施例7に準ずる)の物性は以下の通り。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.95 (m), 0.95-1.80 (m), 2.90-3.08 (m), 4.20-4.40 (m), 6.57-7.24 (m)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)又は(II)で示される構造を有する片末端に芳香環を有するオレフィン重合体。
【化1】

(I)
(式中、Aは、炭素数2〜20のオレフィンの重合体であり、重量平均分子量が400〜500,000のものを表し、R、Rは同一または相異なり、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表し、Zはハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、窒素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、またはヘテロ環式化合物残基を表し、iはZの個数であって0〜4の整数を表し、iが2以上の場合には複数あるZは互いに同一でも相異なっていてもよい。)
【化2】

(II)
(式中、A、R、RおよびZは一般式(I)で定義した通りであり、iはZの個数であって0〜5の整数を表す。)
【請求項2】
一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体と一般式(IV)で示されるフェノール誘導体との反応で得られる、片末端に芳香環を有するオレフィン重合体。
【化3】

(III)
(式中、A、R、RおよびZはA、R、RおよびZは一般式(I)で定義した通りであり、二重結合の幾何異性はシス、トランスのどちらの配置でもよい。)
【化4】

(IV)
(式中、Zは一般式(I)で定義した通りであり、iはZの個数であって0〜5の整数を表し、iが2以上の場合には複数あるZは互いに同一でも相異なっていてもよい。)
【請求項3】
一般式(III)で示される片末端に二重結合を含有するオレフィン重合体と、一般式(IV)で示されるフェノール誘導体とを酸触媒存在下で反応させることを特徴とする、請求項1に記載の片末端に芳香環を有するオレフィン重合体の製造方法。
【化5】

(III)
(式中、A、R、RおよびZはA、R、RおよびZは一般式(I)で定義した通りであり、二重結合の幾何異性はシス、トランスのどちらの配置でもよい。)
【化6】

(IV)
(式中、Zは一般式(I)で定義した通りであり、iはZの個数であって0〜5の整数を表し、iが2以上の場合には複数あるZは互いに同一でも相異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の重合体を含有してなる酸化防止剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の重合体を含有してなる紫外線吸収剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の重合体を含有してなる抗菌剤。

【公開番号】特開2007−153981(P2007−153981A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349102(P2005−349102)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】