説明

版胴、印刷装置及び版胴の成形方法

【課題】製造コストの高騰を来すことなく精密な印刷パターンを形成する。
【解決手段】円筒部材4と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板5とを設け、パターン形成板が屈曲され円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより版胴2を構成した。これにより円筒状の母材の外周面に印刷用のパターンを形成する必要がないため、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は版胴、印刷装置及び版胴の成形方法についての技術分野に関する。詳しくは、微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されたパターン形成板を円筒部材の外周面に巻き付けて接合し、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD )、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:PDP)、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(ガラス基板)に対して微細な配線パターンを形成する装置がある。
【0003】
このような装置には、半導体の製造工程であるフォトリソグラフィー技術やエッチング技術を応用したものがあるが、これらの装置は高度な露光部を備えたり真空技術を使用するため複雑な構成とされている。
【0004】
そこで、近年、印刷により微細な配線パターンを形成するプリンタブルエレクトロニクス技術を用いた印刷装置が開発されている。
【0005】
プリンタブルエレクトロニクス技術を用いた印刷装置には、例えば、グラビアオフセット印刷を行う装置があり、このような印刷装置においては、外周面に所定のパターンが形成された円筒状の版胴が回転されブランケットロールを介して被印刷物に対してインクが転写されて印刷が行われる。
【0006】
版胴は、一般に、円筒状のガラス部材の外周面に配線パターンを形成するための印刷用の所定のパターンが形成されて成る(例えば、特許文献1参照)。版胴のパターンは、版胴となる円筒状の母材の外周面にレジストを塗布し、塗布したレジストを露光、現像、加熱硬化することにより形成される。
【0007】
【特許文献1】特開2004−223724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、液晶ディスプレイ等に用いられるガラス基板は大型化の傾向にあるが、配線パターンの印刷精度として1μm〜数μm程度の高い印刷精度が要求される。
【0009】
ところが、上記したように、版胴となる円筒状の母材の外周面にレジストを塗布して露光等を行うことにより配線パターンを形成する方法にあっては、レジストを円周状の表面に塗布するため、レジストの均一性を確保することが容易ではなく、パターンの加工精度が低下し易いと言う問題がある。
【0010】
また、円筒状の表面に対して露光や現像を行うことも困難な作業であり、製造コストも高くなってしまうと言う問題もある。
【0011】
そこで、本発明版胴、印刷装置及び版胴の成形方法は、上記した問題点を克服し、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
版胴は、上記した課題を解決するために、円筒部材と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを備え、前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成されたものである。
【0013】
従って、版胴にあっては、印刷用のパターンが平板状の基板に微細加工によって形成される。
【0014】
上記した版胴においては、前記円筒部材と前記パターン形成板がガラス材料によって形成されることが望ましい。
【0015】
円筒部材とパターン形成板がガラス材料によって形成されることにより、円筒部材とパターン形成板の熱膨張係数が小さくなる。
【0016】
上記した版胴においては、前記円筒部材と前記パターン形成板が同じ材料によって形成されることが望ましい。
【0017】
円筒部材とパターン形成板が同じ材料によって形成されることにより、円筒部材とパターン形成板の熱膨張係数が同じになる。
【0018】
上記した版胴においては、前記基板をエッチングすることにより厚みを薄くして前記パターン形成板を成形することが望ましい。
【0019】
基板をエッチングすることにより厚みを薄くしてパターン形成板を成形することにより、基板がエッチングされて薄型化される。
【0020】
上記した版胴においては、前記パターン形成板を、剥離剤の添加、紫外線の照射又は加熱若しくは冷却により接着力が低下する接着剤によって前記円筒部材の外周面に接合することが望ましい。
【0021】
パターン形成板を、剥離剤の添加、紫外線の照射又は加熱若しくは冷却により接着力が低下する接着剤によって前記円筒部材の外周面に接合することにより、接着剤に対して剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却を行うことによりパターン形成板が円筒部材から剥離可能とされる。
【0022】
上記した版胴においては、前記所定のパターンが前記円筒部材の外周面に連通された複数の凹部によって形成され、前記凹部に充填されるインクに対して前記パターン形成板の付着力が前記円筒部材の付着力より小さくされることが望ましい。
【0023】
所定のパターンの凹部に充填されるインクに対してパターン形成板の付着力が円筒部材の付着力より小さくされることにより、版胴からのインクの転写性が向上する。
【0024】
印刷装置は、上記した課題を解決するために、円筒部材と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを有し、前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成された版胴を備え、前記版胴が回転されることにより被印刷物に対して印刷を行ったものである。
【0025】
従って、印刷装置にあっては、印刷用のパターンが平板状の基板に微細加工によって形成される。
【0026】
版胴の成形方法は、上記した課題を解決するために、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンを形成してパターン形成板を成形し、円筒部材の外周面に前記パターン形成板を屈曲させ巻き付けて接合して成形したものである。
【0027】
従って、版胴の成形方法にあっては、平板状の基板に微細加工によって形成された印刷用のパターンを有するパターン形成板が円筒部材の外周面に巻き付けられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明版胴は、円筒部材と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを備え、前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成されている。
【0029】
従って、平板状の基板に印刷用のパターンを形成すればよく、円筒状の母材の外周面に印刷用のパターンを形成する必要がないため、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成することができる。
【0030】
請求項2に記載した発明にあっては、前記円筒部材と前記パターン形成板がガラス材料によって形成されている。
【0031】
従って、温度変化による膨張及び収縮を抑制して加工精度の向上及びパターンの精密な精度を確保することができると共にパターン形成板の破損や割れの抑制を図ることができる。
【0032】
請求項3に記載した発明にあっては、前記円筒部材と前記パターン形成板が同じ材料によって形成されている。
【0033】
従って、円筒部材とパターン形成板の熱膨張係数が同じにされ、円筒部材とパターン形成板において温度変化による膨張率及び収縮率の差異が生じなくなるため、加工精度の向上及び歩留まりの低下を図ることができる。
【0034】
請求項4に記載した発明にあっては、前記基板をエッチングすることにより厚みを薄くして前記パターン形成板を成形している。
【0035】
従って、パターン形成板の成形及び薄型化を容易に行うことができる共にパターン形成板の厚みに関し設計の自由度の向上を図ることができる。
【0036】
請求項5に記載した発明にあっては、前記パターン形成板を、剥離剤の添加、紫外線の照射又は加熱若しくは冷却により接着力が低下する接着剤によって前記円筒部材の外周面に接合している。
【0037】
従って、パターン形成板に破損や損傷が生じたときに、版胴の交換を行う必要がなく、パターン形成板のみを交換すればよく、版胴による印刷作業におけるコストの低減を図ることができる。
【0038】
請求項6に記載した発明にあっては、前記所定のパターンが前記円筒部材の外周面に連通された複数の凹部によって形成され、前記凹部に充填されるインクに対して前記パターン形成板の付着力が前記円筒部材の付着力より小さくされている。
【0039】
従って、版胴からのインクの良好な転写性が確保され、被印刷物に対する良好な印刷精度を確保することができる。
【0040】
本発明印刷装置は、円筒部材と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを有し、前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成された版胴を備え、前記版胴が回転されることにより被印刷物に対して印刷を行っている。
【0041】
従って、平板状の基板に印刷用のパターンを形成すればよく、円筒状の母材の外周面に印刷用のパターンを形成する必要がないため、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成することができる。
【0042】
本発明版胴の成形方法は、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンを形成してパターン形成板を成形し、円筒部材の外周面に前記パターン形成板を屈曲させ巻き付けて接合して成形している。
【0043】
従って、平板状の基板に印刷用のパターンを形成すればよく、円筒状の母材の外周面に印刷用のパターンを形成する必要がないため、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、本発明版胴、印刷装置及び版胴の成形方法の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0045】
以下に示した最良の形態は、本発明印刷装置をグラビアオフセット印刷を行う印刷装置に適用し、本発明版胴をグラビアオフセット印刷を行う印刷装置に設けられる版胴に適用し、本発明版胴の成形方法をグラビアオフセット印刷を行う印刷装置に設けられる版胴の成形方法に適用したものである。
【0046】
尚、本発明版胴、印刷装置及び版胴の成形方法の適用範囲はそれぞれグラビアオフセット印刷を行う印刷装置、この印刷装置に設けられる版胴及びこの版胴の成形方法に限られることはない。本発明印刷装置、版胴及び版胴の成形方法は、版胴の回転により印刷を行う各種の印刷装置、これらの各種の印刷装置に設けられる版胴及びこれらの版胴の成形方法に広く適用することができる。
【0047】
以下の説明にあっては、例として、ガラス基板等の被印刷物が上下方向を向く向きで配置された状態で方向を示すが、本発明の実施に関しては、これらの方向に限定されることはない。
【0048】
[印刷装置の構成]
印刷装置1は、円筒状の版胴2と版胴2の回転に伴って回転されるブランケットロール3とを備えている(図1参照)。
【0049】
版胴2は円筒部材4と円筒部材4の外周面に巻き付けられて接着剤によって接合されたパターン形成板5とから成る(図1及び図2参照)。
【0050】
円筒部材4は、例えば、石英ガラス等のガラス材料によって形成されている。
【0051】
パターン形成板5は円筒部材と同じ材料、例えば、石英ガラス等のガラス材料によって形成されている。パターン形成板5は円筒部材4側に位置するベース部5aとベース部5aから外方へ突出された複数の突部5b、5b、・・・とによって構成され、突部5b、5b、・・・間の複数の凹部によって所定のパターン5cが形成される。
【0052】
パターン5cの各凹部には印刷用のインク100が充填される。インク100は図示しないインク供給装置から供給されてパターン5cの各凹部に充填され、不要なインク100はブレード6によって掻き取られる。
【0053】
尚、円筒部材4とパターン形成板5は同じ材料であることが望ましいが、熱膨張係数が略同じであれば異なる材料によって形成することも可能である。また、円筒部材4とパターン形成板5の熱膨張係数は同じであることが望ましく、円筒部材4とパターン形成板5をガラス材料以外の他の材料、例えば、金属材料やセラミック材料によって形成することも可能である。
【0054】
但し、円筒部材4とパターン形成板5は熱膨張係数が低い材料によって形成されることがより望ましく、低い熱膨張係数を確保すると共に破損や割れを生じ難い材料としてガラス材料を用いることが最適である。円筒部材4とパターン形成板5がガラス材料によって形成されることにより、温度変化による膨張及び収縮を抑制して加工精度の向上及びパターン5cの精密な精度を確保することができると共にパターン形成板5の破損や割れの抑制を図ることができる。
【0055】
また、円筒部材4とパターン形成板5が同じ材料によって形成されることにより、円筒部材4とパターン形成板5の熱膨張係数が同じにされ、円筒部材4とパターン形成板5において温度変化による膨張率及び収縮率の差異が生じなくなるため、加工精度の向上及び歩留まりの低下を図ることができる。
【0056】
ブランケットロール3は円筒状に形成され、外周部にゴム等の材料によって形成された転写部3aを有している。ブランケットロール3は版胴2の回転に伴って回転され、版胴2と同じ角速度で回転される。ブランケットロール3が回転されると、版胴2におけるパターン5cの各凹部に充填されたインク100が転写部3aに受理される。
【0057】
版胴2とブランケットロール3とブレード6は上下方向及び左右方向(印刷方向)へ一体になって移動可能とされている。
【0058】
被印刷物200は、例えば、液晶ディスプレイ等に用いられる透明なガラス板であり、被印刷物200に対して印刷装置1によって配線パターンが印刷される。尚、被印刷物200としては、例えば、樹脂や金属によって形成された平板状の部材を用いることも可能である。但し、被印刷物200としては版胴2及びブランケットロール3と同一材料又は熱膨張係数が略同じである材料を用いることが望ましく、特に、熱膨張係数が低いガラス材料を用いることがより望ましい。
【0059】
上記のように構成された印刷装置1において、パターン5cの各凹部にインク100が充填された版胴2が回転されると、ブランケットロール3が版胴2の回転に伴って回転されると共に一体になって印刷方向(左方)へ移動される。
【0060】
版胴2とブランケットロール3の回転に伴ってインク100がブランケットロール3に受理され、ブランケットロール3に受理されたインク100が被印刷物200に転写されて印刷パターンが形成される。
【0061】
尚、上記には、印刷装置1の構成としてブランケットロール3を有するオフセット印刷用の装置を例として示したが、印刷装置としては、ブランケットロール3を有しないオフセット印刷用以外の装置であってもよい。
【0062】
[版胴の成形方法]
以下に、版胴2の成形方法について説明する(図3乃至図17参照)。
【0063】
先ず、パターン形成板5を成形するための基板10を準備し(図3参照)、洗浄する。基板10の厚みは、例えば、2mmとされている。
【0064】
基板10としては、上記したように、熱膨張係数を考慮してガラス材料を用いることが望ましい。但し、ガラス材料の種類によっても熱膨張係数が異なるため、基板10の材料としては円筒部材4と同じ材料を用いることがより望ましい。また、特に、大型の被印刷物200に対して印刷する場合に印刷の精度に大きく影響しないようするために、円筒部材4とパターン形成板5の材料を被印刷物200の材料と同じにすることがより望ましい。
【0065】
また、上記したように、ガラス材料の種類によっても熱膨張係数が異なるため、温度変化による膨張及び収縮を抑制するためには、円筒部材4及びパターン形成板5のガラス材料として熱膨張係数が小さい材料を用いることが望ましい。例えば、ガラス材料において、石英ガラス(合成石英)の熱膨張係数は0.51μm/m・°Cと低いため、円筒部材4及びパターン形成板5のガラス材料として石英ガラスを用いることが好適である。
【0066】
次に、基板10上にクロム膜11の膜付け(成膜)を、例えば、スパッタリング法によって行う(図4参照)。スパッタリング法による膜付けは、真空中で不活性ガスを導入しながら基板10とクロム膜11間に直流の高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスをクロムに衝突させて飛散させ基板10にクロム膜11を成膜することにより行う。
【0067】
次いで、クロム膜11上にスピンコーターを用いてレジスト12を塗布し(図5参照)、レジスト12の溶剤を蒸発させて硬化させるために加熱し乾燥させるプリベイクを行う。
【0068】
次に、レジスト12に紫外線を照射して露光を行い、続いて現像液によって現像を行ってレジスト12の一部を除去し後述する印刷用のパターンのベースとなるパターン12aを形成する(図6参照)。現像後にはリンスを行い洗浄する。パターン12aを形成した後には、水分等を蒸発させてレジスト12を焼成するための加熱乾燥工程であるポストベークを行う。
【0069】
次いで、レジスト12をマスクとして用い、クロム膜11のエッチングを行う(図7参照)。エッチングとしてはドライエッチングを用いてもよく、又は、クロム膜除去液等を使用してウエットエッチングを用いてもよい。
【0070】
続いて、レジスト12をプラズマアッシングにより剥離する(図8参照)。プラズマアッシングは、酸素ガスを可視光線やマイクロ波等の非電離放射線によってプラズマ化し、レジスト12をプラズマ中の酸素ラジカルと結合させて蒸発させることにより行う。
【0071】
次に、プラズマエッチング装置を用いて基板(石英ガラス)10をエッチング(ドライエッチング)する(図9参照)。尚、レジストをマスクとしてエッチングする方法も存在するが、基板10として石英ガラスを用いた場合には、レジストをマスクとしたときに選択比がとれないため、クロム膜11をマスクとしてエッチングを行うことが望ましい。
【0072】
次いで、クロム膜除去液等を使用してウエットエッチングを行い、クロム膜11を除去する(図10参照)。クロム膜11を除去することにより基板10のみが残存し、パターン形成板5′が形成される。パターン形成板5′は下方側に位置する平板状のベース部5a′とベース部5a′から上方へ突出された複数の突部5b、5b、・・・とによって構成され、突部5b、5b、・・・間の複数の凹部によって所定のパターン5cが形成される。
【0073】
次に、パターン形成板5′の面上にスピンコーターを用いてレジスト13を塗布し(図11参照)、レジスト13の溶剤を蒸発させて硬化させるために加熱し乾燥させるプリベイクを行う。レジスト13としては、リフトオフ加工用の有機溶剤による除去効果が大きいものを用いる。
【0074】
続いて、レジスト13の表面に保護シート14を接着剤15によって貼り着ける(図12参照)。保護シート14は、後述するように、パターン形成板5′を薄型化したときのハンドリング等の際のパターン形成板5の割れを防止する機能を有する。保護シート14としては、例えば、ポリエチレンナフタレートフィルムを用い、接着剤15としては、例えば、紫外線硬化型接着剤を用いる。
【0075】
次に、パターン形成板5′の下面(レジスト13が塗布された側と反対側の面)をバブリングの機能を有するフッ酸溶液に浸漬し、エッチバックを行ってパターン形成板5′のベース部5a′を薄型化する(図13参照)。パターン形成板5′のベース部5a′がエッチバックされて薄型化されることによりパターン形成板5が形成され、パターン形成板5が、例えば、30μmの厚さにされる。尚、基板10として石英ガラス等のフッ酸のエッチングレートが遅い材料が用いられている場合には、例えば、予め、研磨装置を用いてベース部5a′を研磨し、例えば、厚さを0.7mmにし、その後にフッ酸溶液を用いてエッチバックを行って薄型化してもよい。上記のようにエッチバックを行ってパターン形成板5′を薄型化してパターン形成板5を形成することにより、パターン形成板5にレジスト13や保護シート14が被着されて成る巻回体16が構成される。
【0076】
次いで、円筒部材4を準備する(図14参照)。円筒部材4は、例えば、直径が150mm、軸方向における長さが300mmとされている。準備した円筒部材4の外周面に接着剤17、例えば、紫外線硬化型接着剤を塗布する。
【0077】
続いて、巻回体16を屈曲させて円筒部材4に巻き付ける(図15参照)。このとき、円筒部材4に巻回体16を高い位置精度で巻き付けることが必要であり、例えば、巻回体16に予めレーザー光を照射して位置決め孔を形成し、円筒部材4にも予め位置決め孔を形成しておくことが望ましい。このように巻回体16と円筒部材4にそれぞれ位置決め孔を形成しておくことにより、ガラス製の位置決めピン(テーパーピン)を双方の位置決め孔に挿入し巻回体16の円筒部材4に対する正確な位置決めを行うことができる。
【0078】
次に、巻回体16の外周面側から紫外線を照射して接着剤17を硬化させて巻回体16を円筒部材4に接合する(図16参照)。巻回体16の円筒部材4に対する接合の後には、位置決めピンを位置決め孔から引き抜く。
【0079】
次いで、巻回体16及び円筒部材4をアセトン又はレジスト剥離剤を充填した超音波洗浄槽に浸漬させ、リフトオフ用のレジスト13を除去する(図17参照)。レジスト13の除去時には、同時に保護シート14も剥離される。このように巻回体16のレジスト13が除去され保護シート14が剥離されることにより、印刷用のパターン5cが形成されたパターン形成板5が残存し、円筒部材4にパターン形成板5が巻き付けられて接合された版胴2が成形される。
【0080】
版胴2が成形された状態において、版胴2の強度の向上や被印刷物200に対するインク100の転写性の向上を図るために、パターン形成板5の表面にダイヤモンドライクカーボン等のコーティングを施すようにしてもよい。
【0081】
尚、上記には、パターン形成板5をエッチバックして薄型化し版胴2を成形する例を示したが、例えば、始めから厚さ30μmの基板を準備し、エッチバックを行うことなく、上記と同様の方法により巻回体を形成し巻回体を円筒部材4に巻き付けて版胴2を成形することも可能である。
【0082】
また、上記した版胴2の成形方法においては、接着剤17を用いて巻回体16を円筒部材4に接合しているが、接着剤17として、例えば、剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却によって接着力が低下するタイプを用いてもよい。
【0083】
このように接着剤17として剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却によって接着力が低下するタイプを用いることにより、例えば、パターン形成板5に破損や損傷が生じたときに、接着剤17に対して剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却を行うことによりパターン形成板5を円筒部材4から剥離し、新たなパターン形成板5を円筒部材4に接合することが可能である。新たなパターン形成板5を円筒部材4に接合することにより、パターン形成板5に破損や損傷が生じたときに、版胴2の交換を行う必要がなく、パターン形成板5のみを交換すればよく、版胴2による印刷作業におけるコストの低減を図ることができる。
【0084】
また、上記には、基板10にパターン5cを形成する方法として、プラズマエッチング装置を用いてエッチング(ドライエッチング)する例を示したが、基板10にパターン5cを形成する方法はプラズマエッチング装置を用いたドライエッチングに限られることはない。例えば、パターン5cを形成する方法として、ミーリングマシーン等の6軸NC(Numerical Control)工作機械を用いて基板10を削る方法やフッ酸エッチングにより基板10をエッチングする方法を用いることも可能である。
【0085】
[版胴の成形方法の変形例]
以下に、版胴2の成形方法の変形例について説明する(図3乃至図12、図18乃至図23参照)。
【0086】
尚、以下に示す成形方法の変形例は、エッチバックを行う前の工程については上記した成形方法の各工程(図3乃至図12参照)と同様であるため、以下には、エッチバックを行う工程以降の工程についてのみ説明する。
【0087】
版胴2の成形方法の変形例については、円筒部材4と基板10が異なる材料によって形成され、円筒部材4と基板10の各材料としては、印刷に用いられるインク100に対する付着力に関して基板10が円筒部材4より小さくなるような材料が用いられている。
【0088】
レジスト13の表面に保護シート14を接着剤15によって貼り着け(図12参照)、その後、パターン形成板5′の下面(レジスト13が塗布された側と反対側の面)をバブリングの機能を有するフッ酸溶液に浸漬し、エッチバックを行ってパターン形成板5′のベース部5a′を除去する(図18参照)。パターン形成板5′のベース部5a′がエッチバックされ除去されることによりパターン形成板5Aが形成され、パターン形成板5Aが、例えば、5μmの厚さにされる。尚、基板10として石英ガラス等のフッ酸のエッチングレートが遅い材料が用いられている場合には、例えば、予め、研磨装置を用いてベース部5a′を研磨し、その後にフッ酸溶液を用いてエッチバックを行うようにしてもよい。上記のようにエッチバックを行ってパターン形成板5′を薄型化してパターン形成板5Aを形成することにより、パターン形成板5Aにレジスト13や保護シート14が被着されて成る巻回体16Aが構成される。
【0089】
次いで、円筒部材4を準備する(図19参照)。円筒部材4は、例えば、直径が150mm、軸方向における長さが300mmとされている。準備した円筒部材4の外周面に接着剤17、例えば、紫外線硬化型接着剤を塗布する。
【0090】
続いて、巻回体16Aを屈曲させて円筒部材4に巻き付ける(図20参照)。このとき、円筒部材4に巻回体16Aを高い位置精度で巻き付けることが必要であり、例えば、巻回体16Aに予めレーザー光を照射して位置決め孔を形成し、円筒部材4にも予め位置決め孔を形成しておくことが望ましい。このように巻回体16Aと円筒部材4にそれぞれ位置決め孔を形成しておくことにより、ガラス製の位置決めピン(テーパーピン)を双方の位置決め孔に挿入し巻回体16Aの円筒部材4に対する正確な位置決めを行うことができる。
【0091】
次に、巻回体16Aの外周面側から紫外線を照射して接着剤17を硬化させて巻回体16Aを円筒部材4に接合する(図19参照)。巻回体16Aの円筒部材4に対する接合の後には、位置決めピンを位置決め孔から引き抜く。
【0092】
次いで、巻回体16A及び円筒部材4をアセトン又はレジスト剥離剤を充填した超音波洗浄槽に浸漬させ、リフトオフ用のレジスト13を除去する(図22参照)。レジスト13の除去時には、同時に保護シート14も剥離され、パターン5cに位置する接着剤15も除去される。このように巻回体16Aのレジスト13が除去され保護シート14が剥離されることにより、印刷用のパターン5cが形成されたパターン形成板5Aが残存し、円筒部材4にパターン形成板5Aが巻き付けられて接合された版胴2Aが成形される。
【0093】
版胴2Aが成形された状態において、版胴2Aの強度の向上や被印刷物200に対するインク100の転写性の向上を図るために、パターン形成板5Aの表面にダイヤモンドライクカーボン等のコーティングを施すようにしてもよい。
【0094】
尚、上記した版胴2Aの成形方法においては、接着剤17を用いて巻回体16Aを円筒部材4に接合しているが、接着剤17として、例えば、剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却によって接着力が低下するタイプを用いてもよい。
【0095】
このように接着剤17として剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却によって接着力が低下するタイプを用いることにより、例えば、パターン形成板5Aに破損や損傷が生じたときに、接着剤17に対して剥離剤の添加、紫外線の照射、加熱又は冷却を行うことによりパターン形成板5Aを円筒部材4から剥離し、新たなパターン形成板5Aを円筒部材4に接合することが可能である。新たなパターン形成板5Aを円筒部材4に接合することにより、パターン形成板5Aに破損や損傷が生じたときに、版胴2Aの交換を行う必要がなく、パターン形成板5Aのみを交換すればよく、版胴2Aによる印刷作業におけるコストの低減を図ることができる。
【0096】
上記したように、版胴2Aはパターン形成板5Aが突部5b、5b、・・・のみによって構成されるため、図23に示すように、パターン5cの各凹部が突部5b、5b、・・・の各側面P、P、・・・と円筒部材4の外周面S、S、・・・とによって形成される。このとき、上記したように、円筒部材4と基板10の各材料として、印刷に用いられるインク100に対する付着力に関して基板10が円筒部材4より小さくなるような材料が用いられている。
【0097】
従って、パターン5cのインク100に対する付着力に関して側面P、P、・・・の方が外周面S、S、・・・より小さくされるため、ブランケットロール3に対するインク100の良好な受理性(転写性)が確保され、被印刷物200に対する良好な印刷精度を確保することができる。
【0098】
[まとめ]
以上に記載した通り、版胴2、2Aにあっては、パターン形成板5、5Aが屈曲され円筒部材4の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成されている。
【0099】
従って、平板状の基板10に印刷用のパターン5cを形成すればよく、円筒状の母材の外周面に印刷用のパターンを形成する必要がないため、製造コストの高騰を来たすことなく精密な印刷用のパターン5cを形成することができる。
【0100】
また、基板10をエッチング(エッチバック)することにより厚みを薄くしてパターン形成板5、5Aを成形しているため、パターン形成板5、5Aの成形及び薄型化を容易に行うことができる共にパターン形成板5、5Aの厚みに関し設計の自由度の向上を図ることができる。
【0101】
上記した最良の形態において示した各部の具体的な形状及び構造は、何れも本発明を実施する際の具体化のほんの一例を示したものにすぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならないものである。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図2乃至図23と共に本発明版胴、印刷装置及び版胴の成形方法の実施の形態を示すものであり、本図は、印刷装置の概略側面図である。
【図2】パターン形成板の一部を円筒部材から分離して示す版胴の斜視図である。
【図3】図4乃至図17と共に版胴の成形方法を示すものであり、本図は、基板を示す拡大断面図である。
【図4】図3に引き続き、基板上にクロム膜が塗布された状態を示す概略断面図である。
【図5】図4に引き続き、クロム膜上にレジストが塗布された状態を示す概略断面図である。
【図6】図5に引き続き、レジストの一部が除去され印刷用のパターンのベースとなるパターンが形成された状態を示す拡大断面図である。
【図7】図6に引き続き、レジストをマスクとしてクロム膜がエッチングされた状態を示す拡大断面図である。
【図8】図7に引き続き、レジストがプラズマアッシングにより剥離された状態を示す拡大断面図である。
【図9】図8に引き続き、基板がエッチングされた状態を示す拡大断面図である。
【図10】図9に引き続き、クロム膜が除去されパターン形成板が成形された状態を示す拡大断面図である。
【図11】図10に引き続き、パターン形成板上にレジストが塗布された状態を示す拡大断面図である。
【図12】図11に引き続き、レジスト上に保護シートが貼り付けられた状態を示す拡大断面図である。
【図13】図12に引き続き、パターン形成板がエッチバックされて薄型化され巻回体が成形された状態を示す拡大断面図である。
【図14】図13に引き続き、円筒部材に接着剤が塗布された状態を示す拡大断面図である。
【図15】図14に引き続き、円筒部材に巻回体が巻き付けられる状態を示す拡大断面図である。
【図16】図15に引き続き、円筒部材に巻回体が巻き付けられ接合された状態を示す拡大断面図である。
【図17】図16に引き続き、版胴が成形された状態を示す拡大断面図である。
【図18】図19乃至図23と共に版胴の成形方法の変形例を示すものであり、本図は、パターン形成板がエッチバックされて薄型化され巻回体が成形された状態を示す拡大断面図である。
【図19】図18に引き続き、円筒部材に接着剤が塗布された状態を示す拡大断面図である。
【図20】図19に引き続き、円筒部材に巻回体が巻き付けられる状態を示す拡大断面図である。
【図21】図20に引き続き、円筒部材に巻回体が巻き付けられ接合された状態を示す拡大断面図である。
【図22】図21に引き続き、版胴が成形された状態を示す拡大断面図である。
【図23】印刷用のパターンを示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1…印刷装置、2…版胴、4…円筒部材、5…パターン形成板、5c…パターン、2A…版胴、5A…パターン形成板、10…基板、17…接着剤、200…被印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部材と、
平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを備え、
前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成された
版胴。
【請求項2】
前記円筒部材と前記パターン形成板がガラス材料によって形成された
請求項1に記載の版胴。
【請求項3】
前記円筒部材と前記パターン形成板が同じ材料によって形成された
請求項1に記載の版胴。
【請求項4】
前記基板をエッチングすることにより厚みを薄くして前記パターン形成板を成形した
請求項1に記載の版胴。
【請求項5】
前記パターン形成板を、剥離剤の添加、紫外線の照射又は加熱若しくは冷却により接着力が低下する接着剤によって前記円筒部材の外周面に接合した
請求項1に記載の版胴。
【請求項6】
前記所定のパターンが前記円筒部材の外周面に連通された複数の凹部によって形成され、
前記凹部に充填されるインクに対して前記パターン形成板の付着力が前記円筒部材の付着力より小さくされた
請求項1に記載の版胴。
【請求項7】
円筒部材と、平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンが形成されて成るパターン形成板とを有し、前記パターン形成板が屈曲され前記円筒部材の外周面に巻き付けられて接合されることにより構成された版胴を備え、
前記版胴が回転されることにより被印刷物に対して印刷を行う
印刷装置。
【請求項8】
平板状の基板に微細加工によって印刷用の所定のパターンを形成してパターン形成板を成形し、
円筒部材の外周面に前記パターン形成板を屈曲させ巻き付けて接合して成形した
版胴の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−24979(P2012−24979A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163993(P2010−163993)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】