説明

物体検出装置及び物体検出方法

【課題】計測対象物から放射される電磁波を利用して地平面上に存在する立体物や路面を検出することのできる物体検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の物体検出装置は、計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波を検知するアンテナ2と、水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて計測対象物の黒体温度を算出して計測対象物を検出する物体検知部3と、水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて計測対象物の平滑度を計測し、物体検知部3で検出された計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する平滑度計測部4と、垂直偏波の受信電磁波量に対する水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比Γpに基づいて、平滑度計測部4で検出された計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測する相対角度計測部5とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波を受信して計測対象物の物体を検出する物体検出装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
あらゆる物体は電磁波を自然に輻射及び反射する性質を有することが知られている。そこで、計測対象物から放射される電磁波を利用してイメージを生成する技術が開発されており、その一例として特許文献1が開示されている。
【0003】
この特許文献1では、対象物から輻射されるミリ波を検出してイメージを生成するミリ波画像システムを開示しており、S/N向上によるミリ波画像情報を高精細化するために時分割でノイズを補正する構成となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3428374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された従来の技術では、高いS/Nで検知するためにリアルタイムで計測することができないという問題点があり、そのために車両等に搭載することができなかった。
【0006】
現在では車両に搭載するための技術として、地平面上に存在する物体から放射される電磁波を受信して立体物や路面を検出する技術が要求されているが、上述した特許文献1で開示された技術では実現することはできなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、計測対象物から放射される電磁波を利用して地平面上に存在する立体物や路面を検出することのできる物体検出装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る物体検出装置は、計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波を検知するアンテナと、水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて計測対象物の黒体温度を算出して計測対象物を検出する物体検知部と、水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて計測対象物の平滑度を計測し、物体検知部で検出された計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する平滑度計測部と、垂直偏波の受信電磁波量に対する水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比に基づいて、平滑度計測部で検出された計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測する相対角度計測部とを備えていることにより、上述した課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る物体検出装置及びその方法によれば、垂直偏波の受信電磁波量と水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測するので、計測した相対角度から立体物や路面をリアルタイムで検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置におけるアンテナと入射する電磁波との間の角度を説明するための図である。
【図3】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置における平滑度を説明するための図である。
【図5】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置における相対角度を説明するための図である。
【図6】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置における検知角と振幅反射率との間の関係を示す図である。
【図7】本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置における第2観測領域を説明するための図である。
【図8】本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置において物体が観測領域に進入する様子を説明するための図である。
【図11】本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置において検出した受信偏波比の時間変化を示す図である。
【図12】本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置において検出した受信偏波比の時間変化を示す図である。
【図13】本発明を適用した第3実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明を適用した第3実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】本発明を適用した第3実施形態に係る物体検出装置における相対角度が連続的に変化する様子を説明するための図である。
【図16】本発明を適用した第3実施形態に係る物体検出装置における入射角と振幅反射率との間の関係を示す図である。
【図17】本発明を適用した第4実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図18】本発明を適用した第4実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図19】本発明を適用した第4実施形態に係る物体検出装置における検知角と受信振幅との間の関係を説明するための図である。
【図20】本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図21】本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図22】本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置を搭載した車両周辺の状況を説明するための図である。
【図23】本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置による路面検出処理を説明するための図である。
【図24】本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置における平滑度を説明するための図である。
【図25】本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【図26】本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置による物体検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図27】本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置における検知角と受信振幅との間の関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した第1〜第6実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
[第1実施形態]
[物体検出装置の構成]
図1は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る物体検出装置1は、計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波を検知するアンテナ2と、アンテナ2で受信した水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて計測対象物の黒体温度を算出して計測対象物を検出する物体検知部3と、アンテナ2で受信した水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて計測対象物の平滑度を計測し、物体検知部3で検出された計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する平滑度計測部4と、垂直偏波の受信電磁波量と水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて、平滑度計測部4で検出された計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測する相対角度計測部5とを備えている。
【0014】
ここで、本実施形態に係る物体検出装置1は、計測対象物から放射される電磁波の水平偏波と垂直偏波を受信し、その受信電磁波量に基づいて輝度温度を算出してまず物体の有無を検出している。そして、次に平滑度を計測することによって検出した物体の中で平滑な物体を検出し、最終的に平滑な物体の相対角度を計測する。このとき相対角度の計測結果は0°または90°になるので、0°であれば地平面と判定し、90°であれば立体物と判定することによって、物体を検出している。
【0015】
アンテナ2は、水平偏波と垂直偏波、円偏波の少なくとも2種類以上の電磁波を受信することのできるアンテナであり、例えば水平偏波と垂直偏波とを選んだ場合、2つのテーパースロットアンテナを備えて100GHz±15GHz帯で受信する。このとき、アンテナ2は、直立する計測対象物に対してアンテナ観測面が垂直に交わるように設置されて電磁波を受信する。
【0016】
ここで、図2を参照して、アンテナ2と入射する電磁波との間の角度について説明する。図2に示すように、地平面に入射する電磁波Xが地平面の垂線との間になす角度が入射角φとなる。そして、地平面で反射した電磁波Xがアンテナ2で受信されると、電磁波Xとアンテナ観測面との間の角度が検知角βとなる。また、電磁波Xと地平面の垂線との間の角度が観測角θとなる。
【0017】
物体検知部3は、アンテナ2で受信した水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて輝度温度を算出し、輝度温度が所定値以上の場合に観測領域に計測対象物となる物体が存在していると判定する。ここでは、例えば輝度温度が150K以上の場合に物体を検知したものと判定し、150K未満の場合には物体が存在していないものと判定する。
【0018】
平滑度計測部4は、計測対象物が平坦であるか、それとも凹凸のあるものであるかを判定するために計測対象物の平滑度を計測している。後述する相対角度計測部5では水平偏波と垂直偏波の特性の差を利用して相対角度を計測するが、このような特性を利用できるのは物体が平滑な場合だけである。そこで、平滑度計測部4では平滑度を計測して、予め平滑な計測対象物のみを検出しておき、次の相対角度計測部5で相対角度が計測できるようにしている。
【0019】
相対角度計測部5は、垂直偏波の受信電磁波量に対する水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比に基づいて、平滑度計測部4で検出された平滑な計測対象物の相対角度を計測している。相対角度は計測対象物とアンテナ観測面との間の角度であり、0°または90°の相対角度が計測結果として検出され、0°であれば地平面と判定し、90°であれば立体物と判定する。
【0020】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置1による物体検出処理の手順を図3のフローチャートを参照して説明する。
【0021】
図3に示すように、ステップS101において、まず計測対象物からの水平偏波と垂直偏波を受信できるようにアンテナ2を制御し、ステップS102では制御されたアンテナ2で計測対象物から放射される電磁波を受信する。
【0022】
次に、ステップS103において、物体検知部3は、アンテナ2で受信した水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて輝度温度を算出し、観測領域にある計測対象物を検出する。例えば、地平面や建物のような物体では輝度温度が180K〜320Kとなり、天空のように物体が存在しない場合では輝度温度が150K以下となる。そこで、物体検知部3ではアンテナ2で受信した受信電磁波量から算出した黒体温度が、例えば150K以上の場合には物体を検知したものと判定し、150K未満の場合には物体が存在していないものと判定する。
【0023】
次に、ステップS104において、平滑度計測部4は、アンテナ2で受信した水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて平滑度を計測し、物体検知部3で検出した計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する。
【0024】
ここで、平滑度の計算方法を説明する。まず、レイリーの粗さの基準Cは、
C=4π・σ・sinφ/λ (1)
と定義される。ここで、σは凹凸高標準偏差であり、φは電磁波の地平面からの入出射角、λは電磁波の波長である。
【0025】
レイリーの粗さの基準Cは、0.1以下であれば凹凸なく平滑と判定され、10以上の場合には粗いと判定されるものである。ただし、本物体検出装置1で要求される凹凸高の小ささ、すなわち平滑さは地面や路面、建物を想定しているため、実用として基準Cが0.3未満であり、基準Cが0.3未満のときに平滑であると判定し、0.3以上のときに平滑でないと判定するように設定する。この際、C>0.3の場合においては水平偏波の受信電磁波量Php及び垂直偏波の受信電磁波量Pvpにおいて散乱の影響で、2つの受信電磁波量の差がレイリーの粗さの基準及びフレネルの式の条件より、ほぼ無くなる性質を有する。しかるに
Γp=Php/Pvp
と定義したとき、
0.9<Γp<1.1
の検知に基づき、計測対象はC>0.3以上の凹凸を有する物体と判定する。また、このときの凹凸高標準偏差σが平滑度Sbに相当し、波長λと電磁波の地平面からの入出射角φ、C=0.3を代入して式(1)を変形すると、
0.3>4π・Sb・sinφ/λ
Sb<0.3・λ/(4π・sinφ) (2)
となる。波長λは受信する電磁波の周波数から求めることができるので、平滑度Sbは入射角φによって決まることになる。
【0026】
ここで、平滑度Sbの計測結果の一例を、図4を参照して説明する。受信する垂直偏波及び水平偏波の周波数が100GHzの場合、平滑度Sbは入射角φが変化するにつれて変化し、図4では入射角φが2〜15°の範囲で平滑度Sbは約140mm〜約5mmの範囲を変化している。図4では記載していないが、入射角φを30°まで変化させても平滑度Sbは約5mmとなる。なお、本実施形態では100GHzの場合を示したが、計測したい平滑度に合わせた波長を選択してもよく、道路や建物の場合は30GHz〜10THzまでの帯域を必要精度に応じて選択してもよい。
【0027】
ここで、式(2)を満たす平滑度Sbの範囲は図4で示す曲線Yより下の部分となる。すなわち、図4の曲線Yより下の領域の計測結果となった場合には計測対象物を平滑であると判定し、逆に図4の曲線Yより上の領域の計測結果となった場合には計測対象物を平滑ではないと判定する。例えば、地面のうち地平面(例えば道路)のように平滑な計測対象物の平滑度Sbを計測すると、入射角φに応じて平滑度Sbの値は変化するが、常に曲線Yよりも下の領域の計測結果が得られることになる。逆に、地面のうち畑のような平滑ではない計測対象物の平滑度Sbを計測すると、平滑度Sbの値は常に曲線Yよりも上の領域の計測結果となる。
【0028】
このような平滑度Sbの計測結果に基づいて、平滑度計測部4では物体検知部3で検出された計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する。
【0029】
こうして平滑な計測対象物が検出されると、次にステップS105において垂直偏波の受信電磁波量と水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて、平滑度計測部4で検出された計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測する。
【0030】
まず、相対角度について図5を参照して説明すると、図5に示すように相対角度は計測対象物とアンテナ観測面との間の角度であり、計測対象物が地平面の場合にはアンテナ観測面と計測対象物との間の角度は0°となるので相対角度は0°となる。一方、計測対象物が立体物の場合には相対角度は90°となる。
【0031】
次に、このような相対角度の計測方法を説明する。
【0032】
前述と同様に、垂直偏波の受信電磁波量に対する水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比Γpについて式(3)を用いる。
【0033】
Γp=Php/Pvp (3)
ただし、Phpは水平偏波の受信電磁波量であり、Pvpは垂直偏波の受信電磁波量である。そして、受信偏波比Γpが
Γp>1.1 (4)
の条件を満たすときに、計測対象物はアンテナ観測面に対して垂直な物体であると判定して相対角度が90°であると判定する。
【0034】
一方、受信偏波比Γpが
Γp<0.9 (5)
の条件を満たすときには、計測対象物はアンテナ観測面に対して平行な物体であると判定して相対角度が0°であると判定する。
【0035】
次に、上述した判定方法によって相対角度が判定できる理由を説明する。
【0036】
まず、アンテナ観測面を地平面と平行になるように設けたうえで、計測対象物が地平面の場合、垂直偏波は反射による影響を受けにくく水平偏波は反射による影響を受けやすい。これは図6に示す振幅反射率の変化を示すグラフから分かるように、垂直偏波の振幅反射率は検知角0°から急激に下がってブリュースター角となる約30°で振幅反射率は0となる。これに対して水平偏波の振幅反射率のほうは検知角0°から徐々に低下していくので、垂直偏波の振幅反射率よりも常に高くなっている。
【0037】
したがって、垂直偏波よりも水平偏波のほうが反射による影響を受けやすい性質を有する。すなわち、図7に示すようにアンテナ2の観測領域が地平面の場合、垂直偏波は反射による影響が少ないので地平面からの輻射が受信電磁波量の大部分を占め、特にブリュースター角では地平面からの輻射のみが受信電磁波量となる。したがって、例えば輝度温度にすると地平面の黒体温度である300K程度の受信電磁波量となる。
【0038】
これに対して、水平偏波は反射による影響を受けやすいので、図7に示すように地平面が観測領域の場合、地平面の先にある第2観測領域の物体による影響を受けることになる。したがって、第2観測領域が天空の場合には水平偏波の受信電磁波量は空の黒体温度である150K以下となる。また、第2観測領域が建物である場合でも、観測領域である地平面で反射する際の反射率が90%以下なので、建物の輝度温度に換算して300Kであってもアンテナ2で受信する水平偏波の受信電磁波量は270K以下となる。
【0039】
したがって、上述したことを考慮すると、計測対象物が地平面の場合(アンテナ2の観測領域が地平面の場合)、すなわち相対角度が0°の場合には垂直偏波の受信電磁波量は水平偏波の受信電磁波量よりも少なくとも10%以上は大きくなる。したがって、受信偏波比Γpは
Γp<0.9 (5)
となる。
【0040】
一方、計測対象物が垂直な立体物の場合(アンテナ2の観測領域に立体物がある場合)、すなわち相対角度が90°の場合には垂直偏波と水平偏波の関係が逆になるため、水平偏波の受信電磁波量は垂直偏波の受信電磁波量よりも少なくとも10%以上は大きくなるので、受信偏波比Γpは
Γp>1.1 (4)
となる。
【0041】
したがって、上述した理由により受信偏波比Γpの値に基づいて相対角度を計測することができる。なお、円偏波は水平偏波と垂直偏波の両方の性質を併せ持つので、水平、垂直いずれかの偏波を代用できるため、アンテナの1つは円偏波を利用してもよい。
【0042】
このようにして計測対象物の相対角度が計測されると、ステップS106において計測した相対角度から地平面や立体物などの物体を検出して本実施形態に係る物体検出装置1による物体検出処理は終了する。
【0043】
[第1実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第1実施形態に係る物体検出装置によれば、垂直偏波の受信電磁波量と水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて計測対象物とアンテナ観測面との間の相対角度を計測するので、計測した相対角度から立体物や地平面(路面)をリアルタイムで検出することができる。また、計測対象物から放射された電磁波を受信して物体を検出するので、光源が必要になることもなく非接触で物体を検出することができる。
【0044】
また、本物体検出装置によれば、垂直偏波の受信電磁波量に対する水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比に基づいて相対角度を計測するので、広い視野角で物体を検出することができる。この点について説明すると、本物体検出装置では水平偏波と垂直偏波の特性の違いに着目して受信偏波比を定義して相対角度を求めている。したがって、水平偏波と垂直偏波の特性が相違していなければ相対角度を求めることはできないが、図6に示すように検知角が0°〜80°の範囲で水平偏波と垂直偏波の振幅反射率が相違している。これにより、検知角が0°〜80°の範囲で相対角度を求めて物体を検出することが可能である。このとき検知角は図2に示すようにアンテナ観測面からの角度なので、0°〜80°の範囲で物体を検出できれば、アンテナ観測面から下方向に向かってほとんどの範囲で物体を検出できることになり、視野角が非常に広くなることが分かる。
【0045】
さらに、本物体検出装置によれば、受信偏波比が1.1より大きいときに相対角度が90°であると判定するので、確実に垂直な立体物を検出することができる。
【0046】
また、本物体検出装置によれば、受信偏波比が0.9未満のときに相対角度が0°であると判定するので、確実に地平面を検出することができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、本発明を適用した第2実施形態について図面を参照して説明する。尚、上述した第1実施形態と同様の部分については同一の番号を付して詳細な説明は省略する。
【0048】
[物体検出装置の構成]
図8は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。図8に示すように、本実施形態に係る物体検出装置81は、アンテナ2の観測領域へ進入する物体を検出する進入物体検出部82をさらに備えている。
【0049】
進入物体検出部82は、受信偏波比Γpが1未満から1以上へ変化したときにアンテナ2の観測領域へ物体が進入したと判定する。
【0050】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置81による物体検出処理の手順を図9のフローチャートを参照して説明する。ただし、図9に示すステップS201〜S206までの処理は、図3に示すステップS101〜S106までの処理と同様なので、説明は省略する。
【0051】
図9に示すように、ステップS206において相対角度から物体を検出すると、ステップS207では受信偏波比Γpを計測してアンテナ2の観測領域へ侵入する物体を検出する。
【0052】
図10(a)に示すように、定常状態ではアンテナ2は地平面を観測領域として常時地平面及び立体物を検出している。このとき進入物体検出部82は受信偏波比Γpを常に計測して監視している。そして、図10(b)に示すように進入してくる物体が、アンテナ2の観測領域から反射した領域である第2観測領域に存在すると、受信偏波比Γpは図11に示すように変化する。
【0053】
図11では、物体が進入する前は地平面のみを検出しているので、受信偏波比Γpは1未満の値で一定に推移し、立体物が第2観測領域に入ってくると、水平偏波の受信電磁波量が変化するので、受信偏波比Γpは上昇する。このとき立体物が移動している間は、水平偏波の受信電磁波量が変化するので、受信偏波比Γpは変動し、立体物の移動が止まって静止すると、受信偏波比Γpも一定となる。
【0054】
次に、図10(c)に示すように進入物体がアンテナ2の観測領域へ進入してくると、受信偏波比Γpは図12に示すように変化する。
【0055】
図12では、物体が観測領域に進入する前は受信偏波比Γpが1未満の値で推移しているが、立体物が観測領域に入ると、相対角度が0°から90°へ変化するので、受信偏波比Γpは1以上へ大きく上昇する。このとき観測領域内で立体物が移動している間は、受信偏波比Γpは変動しているが、立体物の移動が止まって静止すると、受信偏波比Γpは一定となる。
【0056】
したがって、上述したように受信偏波比Γpの推移を監視することによって、物体の観測領域への進入を検出することができる。このようにして物体の進入が検出されると、本実施形態に係る物体検出装置81による物体検出処理は終了する。
【0057】
[第2実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第2実施形態に係る物体検出装置によれば、受信偏波比が1未満から1以上へ変化したときにアンテナの観測領域へ物体が進入したと判定するので、進入物体を速やかに検出することができる。
【0058】
[第3実施形態]
次に、本発明を適用した第3実施形態について図面を参照して説明する。尚、上述した第1及び第2実施形態と同様の部分については同一の番号を付して詳細な説明は省略する。
【0059】
[物体検出装置の構成]
図13は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。図13に示すように、本実施形態に係る物体検出装置131は、複数のアンテナを配列したアレイアンテナ132と、0°〜90°の間の相対角度を連続的に計測する第2相対角度計測部133とをさらに備えている。
【0060】
アレイアンテナ132は、複数のアンテナをアレイ化したものであり、水平偏波及び垂直偏波を同軸で受信可能なアンテナアレイを構成している。例えば1列×20行の素子数を備えている。
【0061】
第2相対角度計測部133は、受信偏波比Γpが0.9より大きく1.1未満のときに、垂直偏波または水平偏波の振幅反射率に基づいて0°〜90°の間の相対角度を計測する。第1実施形態で説明した相対角度計測部5では0°または90°の相対角度しか計測できなかったが、第2相対角度計測部133では0°〜90°までの相対角度を連続して計測することができる。
【0062】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置131による物体検出処理の手順を図14のフローチャートを参照して説明する。ただし、図14に示すステップS301〜S307までの処理は、図9に示すステップS201〜S207までの処理と同様なので、説明は省略する。
【0063】
図14に示すように、ステップS308において、受信偏波比Γpが
0.9<Γp<1.1
の条件を満たす場合に、第2相対角度計測部133は垂直偏波または水平偏波の振幅反射率に基づいて0°〜90°の間の相対角度αを計測する。例えば、図15に示すように相対角度αが0°〜90°までの間で連続的に変化するような地平面の場合に、その相対角度αを計測する。
【0064】
ここで、相対角度αの計測方法を説明する。
【0065】
まずは、スネルの法則により
sinφ/sinψ=n/n (6)
となる。ただし、φは図2に示す電磁波の地平面への入射角であり、ψは屈折角、nは入射元の物質の絶対屈折率、nは入射先の物質の絶対屈折率である。
【0066】
また、フレネルの式により、垂直偏波の振幅反射率rpは
rp=|tan(φ−ε)/tan(φ+ψ)| (7)
である。
【0067】
ここで入射角φは、路面が相対角度αだけ傾いていることを考慮して観測角θによって
φ=θ+α
と表されるが、ここでは相対角度αによる傾きは無視してよいので、
φ=θ (8)
となる。一方、屈折角ψはスネルの法則の式(6)に、乾燥した大地の屈折率n=2、空気の屈折率n=1を代入し、路面が相対角度αだけ傾いていることを考慮して、
ψ=sin−1(1/2sinθ)+α (9)
となる。
【0068】
そこで、式(7)に式(8)、(9)を代入すると、
rp=|tan{θ−sin−1(1/2sinθ)+α}/
tan{θ+sin−1(1/2sinθ)+α}| (10)
となる。この式を展開すると、
α=tan−1[rp・tan{θ+sin−1(1/2sinθ)+α}]
−(θ−sin−1(1/2sinθ)
となり、この式を近似して簡略化すると
α=tan−1[rp・tan{θ+sin−1(1/2sinθ)} (11)
となる。
【0069】
ここで、入射角φと振幅反射率rpとの間の関係は図16に示すような関係となる。そこで、屈折率がn=2、n=1となる場合において、入射角φと振幅反射率rpについてテーブルを作成して近似式を求める。ただし、式(10)でrp=0となるθ(ブリュースター角)で符号が変化するので、入射角0°からブリュースター角までの近似式と、ブリュースター角から入射角90°までの近似式の2つの近似式を求める。すると、入射角0°からブリュースター角までの近似式は
φ=25.881{rp}−52.528{rp}+152.382 (12)
となり、ブリュースター角から入射角90°までの近似式は
φ=863.81{rp}−165.24{rp}+59.195 (13)
となる。ここで、入射角φ=観測角θなので、式(12)、(13)はそれぞれ
θ=25.881{rp}−52.528{rp}+152.382 (14)
θ=863.81{rp}−165.24{rp}+59.195 (15)
となる。
【0070】
したがって、近似式(14)、(15)を用いて式(11)から相対角度αを計測することができる。
【0071】
このようにして0°〜90°の間の相対角度が計測されると、本実施形態に係る物体検出装置131による物体検出処理は終了する。
【0072】
尚、上述した説明では地平面に対する算出方法を説明したが、水平偏波と垂直偏波を読み替えることによって、垂直な立体物に対しても0°〜90°の間の相対角度を計測することができる。
【0073】
[第3実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第3実施形態に係る物体検出装置によれば、受信偏波比が0.9より大きく1.1未満のときに、垂直偏波または水平偏波の振幅反射率に基づいて0°〜90°の間の相対角度を計測するので、地面(路面など)が0°〜90°まで連続的に変化するような場合でも相対角度を計測することができる。
【0074】
[第4実施形態]
次に、本発明を適用した第4実施形態について図面を参照して説明する。尚、上述した第1〜第3実施形態と同様の部分については同一の番号を付して詳細な説明は省略する。
【0075】
[物体検出装置の構成]
図17は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。図17に示すように、本実施形態に係る物体検出装置171は、アンテナを2次元に配列した2次元アレイアンテナ172と、水平偏波及び垂直偏波の受信振幅と検知角との間の関係から立体物と地平面との境界を検出する境界検出部173とをさらに備えている。
【0076】
2次元アレイアンテナ172は、アンテナの配列を2次元にしたものであり、例えば40×40画素の配列として画像を取得することができる。
【0077】
境界検出部173は、水平偏波及び垂直偏波の受信振幅を検出して受信振幅とアンテナの検知角との間の関係を求め、受信振幅が予め設定された変動量を超える点を変極点として検出し、この変極点における検知角を立体物と地平面との境界として検出する。
【0078】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置171による物体検出処理の手順を図18のフローチャートを参照して説明する。ただし、図18に示すステップS401〜S408までの処理は、図14に示すステップS301〜S308までの処理と同様なので、説明は省略する。
【0079】
図18に示すように、ステップS409において、境界検出部173は、2次元アレイアンテナ172で受信した水平偏波及び垂直偏波の受信振幅を検出して受信振幅と検知角βとの間の関係を求める。
【0080】
ここで、受信振幅と検知角βとの間の関係を、図19を参照して具体的に説明する。図19では、受信振幅と検知角βとの間の関係に水平偏波及び垂直偏波の画像を対応させて示しており、右端に立体物が存在している画像を一例として示している。
【0081】
図19(a)に示すように、水平偏波の画像では立体物近傍の地平面に立体物による反射があるため(斜線部分)、立体物と地平面との間の境界が明確になっていない。しかしながら、水平偏波の受信振幅Phと検知角βとの間の関係を参照すると、予め設定した変動量、例えば5%を超えて受信振幅Phが変動する点を変極点とした場合に、立体物と地平面との境界で変極点h1が存在していることが分かる。さらに、立体物による反射がなくなるところで変極点h2が存在している。
【0082】
一方、図19(b)に示すように、垂直偏波の画像では立体物による反射がないため、立体物と地平面との境界は明確になっており、垂直偏波の受信振幅Pvと検知角βとの間の関係を参照すると、立体物と地平面との境界で変極点v1、v2が存在している。
【0083】
したがって、受信振幅Ph、Pvと検知角βとの間の関係から変極点の位置を求めると、計測対象物における立体物と地平面との境界を検出することができる。
【0084】
また、水平偏波における変極点h2の検知角β2と垂直偏波における変極点v2の検知角β1との間の範囲は、立体物による反射が影響している部分なので、地平面であると判定することができる。したがって、検知角β1と検知角β2の範囲を相対角度が0°であると判定するようにしてもよい。
【0085】
このようにして立体物と地平面との境界が検出されると、本実施形態に係る物体検出装置171による物体検出処理は終了する。
【0086】
尚、本実施形態では地平面を基準として説明したが、壁面等の垂直な面を基準としても水平偏波と垂直偏波を逆にして考えれば、同様の結果を得ることができる。また、本実施形態では2次元アレイアンテナを使用する場合について説明したが、1素子のアンテナあるいはアレイアンテナを空間的に走査することによって代用することも可能である。
【0087】
[第4実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第4実施形態に係る物体検出装置によれば、水平偏波及び垂直偏波の受信振幅と検知角との間の関係を求め、変極点における検知角を立体物と地平面との境界として検出するので、より高精度に立体物と地平面との境界を検出することができる。
【0088】
[第5実施形態]
次に、本発明を適用した第5実施形態について図面を参照して説明する。尚、上述した第1〜第4実施形態と同様の部分については同一の番号を付して詳細な説明は省略する。
【0089】
[物体検出装置の構成]
図20は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。図20に示すように、本実施形態に係る物体検出装置201は車両に搭載されており、車両の傾きに応じて地平線の位置を補正する地平線補正部202と、車両の走行路面を検出する走行路面検出部203とをさらに備えている。
【0090】
地平線補正部202は、自車両の加減速信号に基づいて車両の傾きを検出し、車両の傾きに基づいて地平線の位置を補正する。
【0091】
走行路面検出部203は、相対角度計測部5で計測された相対角度が0°で、尚且つ平滑度計測部4で平滑であると判定された計測対象物を車両の走行路面として検出する。
【0092】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置201による物体検出処理の手順を図21のフローチャートを参照して説明する。ただし、図21に示すステップS502〜S510までの処理は、図18に示すステップS401〜S409までの処理と同様なので、説明は省略する。
【0093】
図21に示すように、ステップS501において、地平線補正部202は、自車両の加減速信号に基づいて車両の傾きを検出し、車両の傾きに基づいて地平線の位置を補正する。本実施形態に係る物体検出装置201を車両に搭載すると、自車両が加速したときや減速したときに車両が前方や後方に傾いて地平線の位置に誤差が生じることが考えられる。
【0094】
そこで、地平線補正部202は、車載LANなどを介して取得した車両の加減速信号や3軸加速度センサの出力信号に基づいて、地平線、すなわち地平面と天空との境界線を補正する。
【0095】
具体的に補正方法を説明すると、車両の加減速信号に応じて車両がどの程度傾くかを予め測定しておき、加減速信号を受信したときに予め測定されている車両の傾きに応じてアンテナ観測面を傾けることによって地平線の位置を補正する。また、加減速信号を受信していないときの地平線の位置を予め記憶しておき、加減速信号を受信して地平線の位置が変化した場合には加減速信号を受信していないときの地平線の位置へ変更するように補正してもよい。より簡単な方法では車両の傾きを検出するセンサを設置しておき、そのセンサの検出値に応じて地平線の位置を補正するようにしてもよい。また、車両の傾きをセンサまたは地平線の位置から求めて、後述の相対角度を求めた後に補正してもよい。
【0096】
こうして地平線の位置が補正されると、その補正結果が物体検知部3、平滑度計測部4、相対角度計測部5に送信されてステップS502〜S510までの処理が実行される。これらの処理は図18に示すステップS401〜S409までの処理と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0097】
そして、ステップS511では、計測された相対角度及び平滑度から車両前方にある走行路面を検出する。具体的に説明すると、相対角度計測部5で計測された相対角度が0°で、尚且つ平滑度計測部4で平滑であると判定された計測対象物を車両の走行路面として検出する。
【0098】
例えば、本実施形態に係る物体検出装置201を搭載した車両が、図22に示すような状況を走行している場合について説明する。
【0099】
図22に示すように、車両21の右前方には人22と建物23が存在し、左前方には雪壁25が存在している。また左前方の路面上には積雪26が広がっている。
【0100】
このような状況において、車両21の前方に設置された2次元アレイアンテナで電磁波を受信して画像化すると、図23に示すような画像を取得することができる。
【0101】
図23(a)は水平偏波の受信振幅画像であり、図23(b)は垂直偏波の受信振幅画像である。このような画像に対してステップS504において物体の黒体温度を検出することによって天空と地平面を識別し、次にステップS505において平滑度を計測することによって平滑な計測対象物を検出する。
【0102】
このとき第1実施形態では入射角φに対して平滑度Sbを求めたが、本物体検出装置201を車両に搭載した場合には車両からの距離に対して平滑度Sbを求める必要がある。そこで、車両からの距離dに対して平滑度Sbを求める。まず、2次元アレイアンテナ172が車両に設置された高さをh、車両からの距離をd、観測角をθとすると、
tanθ=d/h (16)
となる。ここで
tanθ=sinθ/cosθ=d/h
sinθ=d・cosθ/h (17)
となり、観測角θと入射角φは
θ=φ
なので、式(17)を式(2)に代入すると
Sb<0.3・λ・h/(4π・d・cosφ) (18)
となる。この式(18)に基づいて、h=1mの場合の平滑度Sbを算出すると、図24に示すようなグラフとなる。したがって、式(18)を満たす平滑度Sbの範囲は図24に示す曲線より下の部分となるので、曲線より下の領域の計測結果となった場合には計測対象物を平滑であると判定し、曲線より上の領域の計測結果となった場合には計測対象物を平滑ではないと判定する。
【0103】
こうして平滑な計測対象物が検出されると、次にステップS506において平滑な計測対象物の相対角度を計測する。そして、上述した平滑度及び相対角度の計測結果に基づいて、図23(a)と図23(b)の画像を合成すると、図23(c)に示すような画像となる。
【0104】
ここで、走行路面検出部203は、相対角度が0°で、尚且つ平滑であると判定された計測対象物を車両の走行路面として検出する処理を行い、図23(c)では縦線で示した領域を走行路面として検出している。
【0105】
このようにして走行路面が検出されると、本実施形態に係る物体検出装置201による物体検出処理は終了する。
【0106】
[第5実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第5実施形態に係る物体検出装置によれば、車両の加減速信号に基づいて車両の傾きを検出し、車両の傾きに基づいて地平線の位置あるいは相対角度を補正するので、本物体検出装置を車両に搭載した場合でも正確に物体または走行路面を検出することができる。
【0107】
特に、本物体検出装置によれば、相対角度が0°で、尚且つ平滑であると判定された計測対象物を車両の走行路面として検出するので、立体的な障害物はもちろん畑のような走行不可能な領域を確実に除外して安全に走行できる路面を検出することができる。
【0108】
[第6実施形態]
次に、本発明を適用した第6実施形態について図面を参照して説明する。尚、上述した第1〜第5実施形態と同様の部分については同一の番号を付して詳細な説明は省略する。
【0109】
[物体検出装置の構成]
図25は本実施形態に係る物体検出装置の構成を示すブロック図である。図25に示すように、本実施形態に係る物体検出装置251は、立体物と地平面との間が鉛直に接続される鉛直境界を検出する鉛直境界検出部252と、鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正する相対角度補正部253とをさらに備えている。
【0110】
鉛直境界検出部252は、変極点を3つ以上検出した場合に境界検出部173で検出した境界を鉛直境界であると判定しており、特に3つ以上の変極点のうちで受信振幅が下降から上昇へ急激に変化する変極点における検知角を、鉛直境界であると判定している。また、このとき受信振幅が下降から上昇へ5%以上変動した場合に鉛直境界であると判定することが好ましい。
【0111】
相対角度補正部253は、受信振幅が鉛直境界を基準に対象性を有するとともに、鉛直境界より下方の計測対象物が平滑である場合に、鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正している。また、このとき水平偏波及び垂直偏波の画像において鉛直境界を所定幅以上検出した場合に相対角度を0°に補正することが好ましい。
【0112】
[物体検出処理の手順]
次に、本実施形態に係る物体検出装置251による物体検出処理の手順を図26のフローチャートを参照して説明する。ただし、図26に示すステップS601〜S609までの処理は、図18に示すステップS401〜S409までの処理と同様なので、説明は省略する。
【0113】
図26に示すように、ステップS610では、鉛直境界検出部252が、2次元アレイアンテナ172で受信した水平偏波及び垂直偏波の受信振幅を検出し、この受信振幅と検知角βとの間の関係を求めて、この関係から立体物と地平面との間が鉛直に接続される鉛直境界を検出している。
【0114】
ここで、受信振幅と検知角βとの間の関係を図27に示す。図27では、受信振幅と検知角βとの間の関係に水平偏波及び垂直偏波の画像を対応させて示しており、右端に立体物が存在している画像を一例として示している。上述した第4実施形態の境界検出部173では、検出する受信振幅の感度が低いために図19に示すように受信振幅の変化は穏やかなものになっているが、本実施形態の鉛直境界検出部252では、検出する受信振幅の感度が高いので図27に示すように受信振幅の変化は鋭いものとなっている。これにより、境界検出部173では立体物と地平面との境界であれば、鉛直なものも鉛直でないものもすべて同様に検出していたが、本実施形態の鉛直境界検出部252では地平面と立体物が垂直に接続されている鉛直境界を特に検出することができる。
【0115】
そこで、本実施形態の鉛直境界検出部252による鉛直境界の検出方法を説明する。図27(a)に示す水平偏波の画像では、立体物近傍の地平面に立体物による反射があるため(斜線部分)、立体物と地平面との間の境界が明確になっていない。しかしながら、実験による検証の結果、立体物と地平面とが鉛直に接続される鉛直境界では、変極点が3つ以上存在していることが分かった。
【0116】
そこで、本実施形態の鉛直境界検出部252では変極点を3つ以上検出した場合に、境界検出部173で検出した境界を鉛直境界であると判定する。例えば、図27(a)では変極点がh1〜h3の3つ存在しているので、境界検出部173で検出した境界を鉛直境界であると判定することができる。
【0117】
さらに、本実施形態の鉛直境界検出部252では、変極点が3つ以上あり、尚且つ3つの変極点のうちで受信振幅が急激に変化する変極点がある場合をグリントの条件と定め、このグリントの条件を満たす変極点における検知角を鉛直境界であると判定するようにしている。
【0118】
例えば、図27(a)では変極点h3において受信振幅が下降から上昇へ急激に変化しているので、この変極点h3における検知角を鉛直境界として検出する。ただし、このとき受信振幅が下降から上昇へ5%以上変動している場合に鉛直境界として検出する。さらに分解能1°のときに変極点h3の検知角から±3°以内に変極点h1、h2が存在している場合に鉛直境界として検出してもよい。尚、図27(a)では変極点h3において受信振幅が下降から上昇へ急激に変化している場合を示したが、受信振幅が上昇から下降へ急激に変化する場合も同様に鉛直境界として検出することができる。
【0119】
このようにして鉛直境界を検出することにより、鉛直境界をより正確に検出することができる。
【0120】
また、同様に図27(b)に示す垂直偏波の画像についても、変極点がv1〜v3の3つあり、3つの変極点のうちで受信振幅が下降から上昇へ急激に変化する変極点v3における検知角を鉛直境界であると判定する。
【0121】
このようにして本実施形態の鉛直境界検出部252は、立体物と地平面との間が鉛直に接続されている鉛直境界を検出することができる。
【0122】
こうして鉛直境界が検出されると、次にステップS611において相対角度補正部253によって鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正する。図27(a)に示すように、水平偏波では鉛直境界よりも下方に立体物による反射が影響している部分がある。そこで、相対角度補正部253では、受信振幅が鉛直境界を基準に対象性を有するとともに、鉛直境界より下方の計測対象物が平滑である場合に、鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正している。
【0123】
例えば、図27(a)に示すように立体物による反射(斜線部分)が映り込んでいる場合には、鉛直境界より下方の受信振幅は立体物による反射なので、鉛直境界の上下において受信振幅は対象な形状となる。また、立体物による反射が映り込むためには鉛直境界よりも下方が平滑でなければならない。
【0124】
そこで、相対角度補正部253は、図27(a)に示す鉛直境界を境に受信振幅を示す曲線L1とL2が上下でほぼ対象な形状をしており、さらに鉛直境界より下方の計測対象物である地平面が平滑度計測部4において平滑であると判定されている場合には、鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正する。
【0125】
また、このとき水平偏波及び垂直偏波の画像において鉛直境界を所定幅以上、例えば6画素以上検出した場合に相対角度を0°に補正することが好ましい。例えば、図27(a)の鉛直境界を示す線分sの長さが6画素以上ある場合には十分に大きな立体物が存在していることになるので、その立体物による反射が地平面に映り込んでいる可能性が高いことになる。
【0126】
したがって、水平偏波及び垂直偏波の画像において鉛直境界を所定幅以上検出した場合に相対角度を0°に補正すると、反射による誤検出を防止できる可能性を高めることができる。
【0127】
このようにして相対角度補正部253によって相対角度が0°に補正されると、本実施形態に係る物体検出装置251による物体検出処理は終了する。
【0128】
尚、本実施形態では地平面を基準として説明したが、壁面等の垂直な面を基準としても水平偏波と垂直偏波を逆にして考えれば、同様の結果を得ることができる。また、本実施形態では2次元アレイアンテナを使用する場合について説明したが、1素子のアンテナあるいはアレイアンテナを空間的に走査することによって代用することも可能である。
【0129】
[第6実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、変極点を3つ以上検出した場合に、境界検出部173で検出した境界を鉛直境界であると判定するので、地平面と立体物の境界の中で特に鉛直に接続される境界を検出することができ、これによってより高精度に立体物と地平面との境界を検出することができる。
【0130】
また、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、3つ以上の変極点のうちで受信振幅が急激に変化する変極点における検知角を、鉛直境界であると判定するので、受信振幅に基づいてより正確に鉛直境界を検出することができる。
【0131】
さらに、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、3つ以上の変極点のうちで受信振幅が下降から上昇へ急激に変化する変極点における検知角を、鉛直境界であると判定するので、受信振幅に基づいてより正確に鉛直境界を検出することができる。
【0132】
また、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、受信振幅が下降から上昇へ5%以上変動する変極点における検知角を鉛直境界であると判定するので、実際の環境において有効に適用して確実に鉛直境界を検出することができる。
【0133】
さらに、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、受信振幅が鉛直境界を基準に対象性を有するとともに、鉛直境界より下方の計測対象物が平滑である場合に、鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正するので、立体物の反射が地平面に映り込んでいる場合でも誤検知を防止して地平面を確実に識別することができる。
【0134】
また、本発明を適用した第6実施形態に係る物体検出装置によれば、水平偏波及び垂直偏波の画像において鉛直境界を所定幅以上検出した場合に相対角度を0°に補正するので、立体物による反射が起こる可能性の高い大きな立体物が存在する場合に反射による誤検出を確実に防止することができる。
【0135】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施の形態に限定されることはなく、この実施の形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0136】
1、81、131、171、201、251 物体検出装置
2 アンテナ
3 物体検知部
4 平滑度計測部
5 相対角度計測部
82 進入物体検出部
132 アレイアンテナ
133 第2相対角度計測部
172 2次元アレイアンテナ
173 境界検出部
202 地平線補正部
203 走行路面検出部
252 鉛直境界検出部
253 相対角度補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波を検知するアンテナと、
前記アンテナで受信した水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて前記計測対象物の黒体温度を算出して前記計測対象物を検出する物体検知手段と、
前記アンテナで受信した水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて前記計測対象物の平滑度を計測し、前記物体検知手段で検出された前記計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する平滑度計測手段と、
前記垂直偏波の受信電磁波量と前記水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて、前記平滑度計測手段で検出された前記計測対象物と前記アンテナのアンテナ観測面との間の相対角度を計測する相対角度計測手段と
を備えていることを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
前記相対角度計測手段における前記垂直偏波の受信電磁波量と前記水平偏波の受信電磁波量との間の差異とは、前記垂直偏波の受信電磁波量に対する前記水平偏波の受信電磁波量の比を示す受信偏波比であることを特徴とする請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
レイリーの基準とフレネルの式の適用条件に基づいて前記受信偏波比の上限閾値を定め、前記受信偏波比が前記上限閾値より大きいときに前記相対角度が90°であると判定することを特徴とする請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記受信偏波比の上限閾値は1.1であることを特徴とする請求項3に記載の物体検出装置。
【請求項5】
レイリーの基準とフレネルの式の適用条件に基づいて前記受信偏波比の下限閾値を定め、前記受信偏波比が前記下限閾値よりも小さいときに前記相対角度が0°であると判定することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記受信偏波比の下限閾値は0.9であることを特徴とする請求項5に記載の物体検出装置。
【請求項7】
前記受信偏波比が1未満から1以上へ変化したときに前記アンテナの観測領域へ物体が進入したと判定する進入物体検出手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項8】
前記受信偏波比が0.9より大きく1.1未満のときに、前記垂直偏波または前記水平偏波の振幅反射率に基づいて、0°〜90°の間の相対角度を計測する第2相対角度計測手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項9】
前記水平偏波及び前記垂直偏波の受信振幅を検出し、前記受信振幅と前記アンテナ観測面からの角度である検知角との間の関係を求め、予め設定された変動量を超えて前記受信振幅が変動する点を変極点として検出し、前記変極点における前記検知角を前記計測対象物における立体物と地平面との間の境界として検出する境界検出手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項10】
前記変極点を3つ以上検出した場合に、前記境界検出手段で検出された境界を、前記立体物と前記地平面との間が鉛直に接続される鉛直境界であると判定する鉛直境界検出手段をさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載の物体検出装置。
【請求項11】
前記鉛直境界検出手段は、前記3つ以上の変極点のうちで前記受信振幅が急激に変化する変極点における検知角を、前記鉛直境界であると判定することを特徴とする請求項10に記載の物体検出装置。
【請求項12】
前記鉛直境界検出手段は、前記3つ以上の変極点のうちで前記受信振幅が下降から上昇へ急激に変化する変極点における検知角を、前記鉛直境界であると判定することを特徴とする請求項10に記載の物体検出装置。
【請求項13】
前記鉛直境界検出手段は、前記受信振幅が下降から上昇へ5%以上変動する変極点における検知角を、前記鉛直境界であると判定することを特徴とする請求項12に記載の物体検出装置。
【請求項14】
前記受信振幅が前記鉛直境界を基準に対象性を有するとともに、前記鉛直境界より下方の計測対象物が平滑である場合には、前記鉛直境界より下方の相対角度を0°に補正する相対角度補正手段をさらに備えていることを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項15】
前記相対角度補正手段は、前記水平偏波及び前記垂直偏波の画像において前記鉛直境界を所定幅以上検出した場合に前記相対角度を0°に補正することを特徴とする請求項14に記載の物体検出装置。
【請求項16】
当該物体検出装置を車両に搭載して前記車両の加減速信号に基づいて前記車両の傾きを検出し、前記車両の傾きに基づいて地平線の位置を補正する地平線補正手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項17】
前記車両の傾きに基づいて前記相対角度を補正することを特徴とする請求項16に記載の物体検出装置。
【請求項18】
前記相対角度計測手段で計測された相対角度が0°で、尚且つ前記平滑度計測手段で平滑であると判定された計測対象物を、前記車両の走行路面として検出する走行路面検出手段をさらに備えていることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の物体検出装置。
【請求項19】
前記アンテナは、30GHz〜10THzの帯域の一部または全部を受信することを特徴とする請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項20】
前記アンテナは、30GHz〜10THzの帯域のいずれか一部分を受信することを特徴とする請求項1乃至請求項19のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項21】
計測対象物から放射される電磁波の水平偏波及び垂直偏波をアンテナで受信して前記計測対象物を検出する物体検出方法であって、
前記アンテナで受信した水平偏波及び垂直偏波の受信電磁波量に基づいて前記計測対象物の黒体温度を算出して前記計測対象物を検出する物体検知ステップと、
前記アンテナで受信した水平偏波及び垂直偏波の波長と入射角とに基づいて前記計測対象物の平滑度を計測し、前記物体検知ステップで検出された前記計測対象物の中から平滑な計測対象物を検出する平滑度計測ステップと、
前記垂直偏波の受信電磁波量と前記水平偏波の受信電磁波量との間の差異に基づいて、前記平滑度計測ステップで検出された前記計測対象物と前記アンテナのアンテナ観測面との間の相対角度を計測する相対角度計測ステップと
を含むことを特徴とする物体検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−73221(P2012−73221A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100581(P2011−100581)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノ構造テラヘルツデバイスによる透過型物体計測技術の研究開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】